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資料

2003年世界保健機関国際分類ファミリー協力センター分類改正委員会における保留14項目に対するWHOへの回答として寄せられた意見

番号 検討項目名 現状のコード 問題点 専門委員からの意見
1 病的な付着胎盤 (Morbidly adherent placenta) O72.0 (分娩後出血・第3期出血) または、O73.0 (遺残胎盤・出血を伴わないもの) 上記2つのコードは、分娩時または分娩後の状態を表すカテゴリにあり、分娩前の場合はこのコードをつけることができない。
臨床的には分娩前でもこの病態が起こり得るとされる。
 オーストラリアからの提案は、分娩前診断が可能な先進諸国においてのみ、実質的意味を持つという点出で、比較的優先度が低い課題と思われる。しかし、現在の分類は用語の点でも、基本構造の点でもわかりにくく、改訂を要すると考える。
 第1に、英語と日本語の対応を明瞭にする必要がある。morbidly adherent placentaは“病的な付着胎盤”でなく、“癒着胎盤”が相当する。癒着と付着は意味が異なる。癒着胎盤とは、絨毛が子宮筋層に異常に入り込んで癒着している状態をいい、癒着胎盤(狭義)はplacenta accretaに対応する。 癒着胎盤(広義)は、placenta accreta(狭義癒着胎盤)、placenta increta( かん入胎盤)、placenta percreta(穿孔胎盤)の3つのタイプの癒着胎盤を含む。retained placentaは“遺残胎盤“に対応する。retained placentaは、英語では、O72、with haemorrhageとO73、without haemorrhageに分類され、対応構造を示す。
 しかし、日本語版は、O72、”分娩後出血“、O73、”遺残胎盤および遺残卵膜、出血を伴わないもの“となっており、極めて分かりにくい。O72とO73は対応構造をとるべきである。
 以上の検討を行った上で、わが国の対応を決める。いいかえれば、現在の分類の矛盾より現在の分類の分かりにくさがより大きい問題と考える。
2 遺伝性クロイツフェルト・ヤコブ病 (Hereditary Creutzfeldt-Jacob disease) A81.0 (クロイツフェルト・ヤコブ病) 上記コードは、感染症のカテゴリにあり、「遺伝性」の場合の同疾患を分類するのには不適切である。  イギリスからの提案の趣旨は理解できるが、提案された対応策は、現在の分類の矛盾の一部にのみ対応するものと思われ、再考を要する。
1)クロイツフェルト・ヤコブ病は、現在、A81、slow virus infections of central nervous systemに位置付けられている。これをそのまま残すことでいいか。
2)クロイツフェルト・ヤコブ病の多数例は変異プリオン蛋白によると推測されるが、なお病態は不明な点が多い。もし、改正するなら、遺伝性クロイツフェルト・ヤコブ病を含めて、将来クロイツフェルト・ヤコブ病が統一的に分類できる余地を残したい。
 なお、イギリスから提案された2つの候補、G11.8、その他の遺伝性運動失調、G31.8、神経系のその他の明示された変性疾患では、後者がべターと考る。また、A81, slow virus infections of central nervous system をslow virus infections and related disorders of central nervous system として、病態解明が進むまで、全てのクロイツフェルト・ヤコブ病をA81の範疇に残すことを考えたい。
3 再発性心筋梗塞 (Subsequent myocardial infarction) I22.x (再発性心筋梗塞) 心筋梗塞における、急性(I21.x)と 再発性の定義が不明確であること。さらに、慢性(I25.8)と 陳旧性(I25.2)の定義も不明確である。  死因統計と疾病統計 それぞれの観点で臨床に即した 「再発性」 の定義を再検討する。死因と疾病とで異なる定義が必要な場合は、コードを分けることも考慮に入れる。
4 アイゼンメンゲル症候群 (Eisenmenger’s syndrome) Q21.8 (心(臓)中隔のその他の先天奇形) 海外の 小児心臓病の専門家からの意見:
(1)「Eisenmenger’s syndrome」は、先天性心疾患に関連する、後天性肺血管疾患である⇒ コードとしては I27.8 が妥当、という意見
(2)他に、「Eisenmenger’s defect」、「Eisenmenger’s complex」、「Eisenmenger’s disease」の用語もあるが、先天性/後天性 の識別の点と、各用語の使用頻度の点で問題がある。
 指摘された問題は、先天性心疾患が先天奇形の中で分類され、循環器系の疾患の中で分類されていないことに派生する問題である。しかし、包括的視点では、先天性心疾患は、先天奇形の中で分類されることが望ましい。
 アイゼンメンゲル症候群の原著例は、心室中隔欠損(VSD)に続発する症例であるが、その後、アイゼンメンゲル症候群は、VSDだけでなく、動脈管開存(PDA)、心房中隔欠損(ASD)、心内膜床欠損(ECD)の他、総動脈幹遺残(truncus arteriosus)、完全大血管転移(transposition of the great vessels)などの複雑心奇形、Waterston法やPotts法など、大動脈・肺動脈シャント手術例に続発することが知られている。共通する病態は、大きな左・右シャント、高肺血流、それに基く肺高血圧である。
 アイゼンメンゲル症候群を“先天性心疾患に続発する後天性の肺血管疾患”として位置付けるべきという海外の小児心臓病の専門家の指摘はまさにその通りであるが、コードとして、I27.8“その他の明示された肺性心疾患”が妥当という意見には賛成しない。
 もし、再分類するのであれば、アイゼンメンゲル症候群は、心性肺疾患であり、肺循環疾患の下で、I 28、その他の肺血管の疾患に分類することが妥当と考える。
 Eisenmenger’s defect、Eisenmenger’s complex、Eisenmenger’s diseaseなど、類似語、同意語については、Eisenmenger’s syndromeに統一することを提案する。
5 細菌性肝炎 (bacterial hepatitis) 起因菌が特定できれば、第1のコードとしてその細菌による感染 (例:A23.x)第2のコードとして、急性肝炎であれば K72.0 慢性肝炎であれば K73.X (1) K77.0* (他に分類される感染症および寄生虫症における肝障害) を用いた二重分類で、いくつかの特殊なウィルス性肝炎や梅毒性肝炎、結核性肝炎をコードすることは可能。しかし、「肝炎」の索引では、上記以外の細菌によるものについて定義がない。
(2) 海外からは、起因菌が特定できない場合に対応するコードを新設してはどうか、という意見がある。
(3) 日本で 「細菌性肝炎」の症例数はほとんどない。
候補:我が国では、細菌性肝炎の例は極めてまれで、肝内胆管炎、肝膿瘍との鑑別も必要である。
1. K77.0* を用いた二重分類の定義がないが、肝炎の起因菌となり得る細菌について、索引表への定義を追加し、二重分類を可能とする。
2. 起因菌が特定できなくとも、急性肝炎であれば K72.0、 慢性肝炎であれば K73.x とする。
3. 起因菌不明、かつ 急性/慢性も不明の場合、 K75.0 (肝膿瘍) や K75.3 (肉芽腫性肝炎、他に分類されないもの) 等に該当しなければ、 K75.8 (その他の明示された炎症性肝疾患) へ分類する。※症例数の観点から、コード新設は不要と考える。(参考:別紙1
6 新生児の低酸素性虚血性脳症 (Hypoxic ischaemic encephalopathy) P91.0 (新生児脳虚血) 海外から、「Hypoxic ischaemic encephalopathy」 を 新生児脳虚血 と分けて分類したい、という意見が出ている。  海外からの提案、“hypoxic ischaemic encephalopathyを新生児脳虚血と分けて分類したい”に賛成する。
複数のわが国を代表する新生児医療専門家に確認したところ、新生児脳虚血(neonatal cerebral ischaemia)という病名を使用している人は1人もなく、全員が新生児の低酸素性虚血性脳症(hypoxic ischaemic encephalopathy of newborn)という病名を使用している。また、ハーバード大、Volpe教授の教科書、Neurology of the Newbornにも、neonatal cerebral ischaemia という病名は使われていない。更に、米国の標準的新生児学教科書についても同様である。全て、hypoxic ischaemic encephalopathyが使用されている。
 すなわち、低酸素性虚血性脳症(hypoxic ischaemic encephalopathy)という用語は国の内外で確立されたものであると考える。
7 受動喫煙 (Passive smoking) 現在は、対応するコード無し。
(疾患名ではなく、問題点を表す「Zコード」として付くべき内容に当たる。)
海外から、呼吸器疾患との重要な要因として、Passive smoking を識別したい、という意見が出ているが、次の問題がある。
(1) どういう条件の場合に Passive smoking の影響を受けたとするか、明確な定義が必要。
(2) コードを新設する場合、どのカテゴリが妥当であるか。
 受動喫煙については、肺がんや慢性呼吸器疾患をはじめとする種々の病院となることが疫学的に明らかにされてきている。その意味において受動喫煙を「問題点を表す」Zコードの体系に含むことは意味があると考える。
 一つの考え方としてはZ58「物理的環境に関連する問題」に「他者の喫煙による紫煙への曝露」を加えることもありうる。しかしながら、どのような場合にPassive Smokingがあったのかという明確な定義が必要であり、この議論を継続する必要がある。
8 くる病による、脊柱後弯症 (Kyphosis due to rickets) 索引表によれば、 E64.3† M49.8* E64.3 (くる病の続発・後遺症) は後遺症を表すコードであり、現在の ICD-10 のルールでは第1次コーディングとしては使用しないこととなっている。 候補:第1のコードとして M40.1 (その他の続発性(脊柱)後弯(症))
第2のコードとして E64.3 (くる病の続発・後遺症)  をつける。
9 性転換症/性同一性障害 (Transsexualism/gender identity disorder) 性転換症: F64.0  性同一性障害: F64.x (カテゴリ内のいずれか該当するコード) 海外から、先天奇形のカテゴリに分類できるようにしたい、という意見が出ている。  Proposalに添付された論文にあるように、一部の性転換症/性同一性障害については、それが遺伝的ないし成長の過程による障害と認められる。しかしながら、すべてがこのカテゴリーに分類されるという状況ではなく、従ってF64からあえて分離する必要はないと考える
10 アルコール性膵炎 (Alcoholic pancreatitis) 急性の場合、K85 (急性膵炎)  慢性の場合、K86.0 (アルコール性慢性膵炎) 海外から、急性膵炎についてもアルコール性の分類ができるようにしたい、という意見が出ている。  アルコール性だけでなく、薬剤性、術後といった細分類を K85 のカテゴリ内に作る。
(参考:別紙2
11 先天性心疾患国際専門用語プロジェクト (International Nomenclature for Congenital Heart Disease Project)      まず、プロジェクトのおおまかな現状を把握することが、必要と考える。小児科医の立場から、先天奇形の分類はICD-10の病名分類全体の中で、最も未整備であり、また、病態解明がまだら状に進むため、統一的な改正が困難な分野である。先天性心疾患の病名改正は、他の先天奇形の分類・病名改正の中でなされることを期待する。
12 副反応及び合併症を起こした医療用具 (Medical devices and complications) Y70 − Y82 (治療および診断に用いて副反応を起こした医療用器具) のカテゴリ内 いずれかにコード
(疾患名ではなく、外因を表すコードとして付くべき内容に当たる。)
Y83 − Y84 (患者の異常反応または後発合併症を生じた外科的およぎその他の医学的処置で、処置時には事故の記載がないもの) のカテゴリとの分類条件があいまいである、という意見が海外からあった。  内容例示表の Y70−Y82 と Y83−Y84 の説明文内に、分類条件がわかるような記述(除外等)を追加。
 Y70−Y82: 使用器具の破損・故障によるもの(処置中、移植後、使用中)。 
 Y83−Y84: 器具の使用による後発合併症等で、処置時の使用器具の破損・故障以外のもの。
13 家族性非溶血性先天性黄疸 (Familial nonhaemolytic congenital jaundice) 索引表によれば、 E80.5 (クリグラー・ナジャー症候群) 海外から、E80.4 (ジルベール症候群) が正しい、という意見が出ている。
病態としてどういう差異があるのか。 上記2つの分類に分ける必要性があるのかどうか?
 分ける必要性に乏しいのであれば、E80.4 ひとつのコードに統合して分類名を「家族性非溶血性先天性黄疸 (Familial nonhaemolytic congenital jaundice)」とし、例示される疾患名として 「ジルベール症候群」「クリグラー・ナジャー症候群」2つを併記したら良い。
 必要性があるならば、両者の差異を明確にし、索引表にもその差異を反映させるべき。
14 弁膜疾患 (Valvular disorders) 非リウマチ性の場合: I34,I35,I36 のカテゴリ内 いずれかにコード
先天性の場合: Q22,Q23 のカテゴリ内 いずれかにコード
リウマチ性、またはリウマチ性かどうか不明の場合: I05,I06,I07,I08 のカテゴリ内 いずれかにコード
内容例示表の中で、上記各コードの包含・除外文に記載された表現がわかりにくく、リウマチ性/非リウマチ性/先天性 の分類が正しくなされない可能性が有る、との意見が海外からあった。  弁膜疾患は、大まかには、リウマチ性、非リウマチ性、先天性の3つのグループに分類され、そのいずれとも判断し難いとき、リウマチ性(広義)とされるというのが、現在の分類の基本構造と思われる。しかし、この基本構造は、先進諸国においてリウマチ熱が激減した現在、不適当と考える。原因不明の弁膜疾患が安易にリウマチ性(広義)に分類される可能性が少なくない。弁膜疾患は、先天性と後天性に大別し、後者については、リウマチ性、非リウマチ性、原因不明に大別し、原因不明の弁膜疾患をリウマチ性から切り離すことを提案する。小児科では、非リウマチ性弁膜疾患として、川崎病が重要であり、低年齢層においては、川崎病による弁膜疾患の頻度はリウマチ性弁膜疾患の頻度を上まわる。川崎病の位置付けを含めて、検討を要する。
 問題点として、関連コードの包含・除外文の記載が分かりにくいという指摘があり、日本語版も同様に分かりにくく、また論理的でもなく、分類、表現ともに修正が必要。要するに、現状では、リウマチ性かどうか分からなくとも、僧帽弁の病気は全てリウマチ性として分類するということになっている。しかし、小児科医の立場では、僧帽弁異常がリウマチ性でも、川崎病でもないとき、先天性に分類するのが、より合理的と考える。


別紙1

細菌性肝炎についての考え方について(文責:菅野健太郎)
 肝臓は外界に接しておらず、外部から肝に直達する外因性傷害あるいは医療行為によって直接細菌が肝内に侵入する場合を除いては細菌に起因する炎症がおきることは少ないと考えられる。しかし、肝臓には(1)胆嚢、胆管を介する経路、(2)門脈血を介する経路、(3)肝動脈系路、(4)肝に流入するリンパ流を介する経路などから細菌が肝内に侵入することが知られている。そのほか稀なものとして消化管や隣接臓器からの波及経路(異物の穿破、腫瘍の直接浸潤など、腹膜炎、あるいは横隔膜下膿瘍など)からも感染が成立しうる。このような経路を介して肝臓の組織内へ細菌が侵入すると、なんらかの組織学的な炎症が惹起され、その一部では黄疸、肝障害など臨床的に顕性感染(いわゆる細菌性肝炎)となると考えられよう。
 しかし、最も頻度が高いと考えられる(1)の経路からの感染の場合、肝内胆管炎、あるいは細胆管炎が病理組織学的には主体であり、その項(K83.0)に分類するほうが妥当であろう。また動脈血を介して細菌が肝に散布され、肝機能障害を呈する病態は敗血症等の重篤な感染症の場合にしばしば認められる(1)が、これも肝炎の病態が臨床病態の主体をなすわけではないので、動脈血から培養される起縁菌によって引き起こされる全身感染症(敗血症または菌血症)の一環として分類を処理するのが妥当と考えられる。一方、消化管内の細菌が腸管バリアーを突破し(Bacterial Translocation)、門脈系、あるいはリンパ流を介して肝臓に移行することは稀でないと考えられるが、肝に到達する細菌数は少なく、正常人では肝内のKupper細胞に代表される防御機構により処理され肝内感染として成立することはまずない。ただ肝硬変など肝組織の構造変化が起き肝網内系の機能が低下した場合、あるいは免疫不全状態では消化管由来の感染がしばしば成立しうる。この場合も、通常は細菌感染は肝全体がびまん性に炎症を起こすわけではなく、肝では程度限局した病巣(肝膿瘍(K75.0))となったり、あるいは特発性細菌性腹膜炎(Spontaneous Bacterial Peritonitis)や菌血症となることが多いと考えられる。このように肝に細菌が侵入しびまん性の肝臓の炎症を惹起し、肝炎の病態を呈することは極めて稀であると考えられる。
 実際に代表的な教科書の最新版(Harrisonの内科学教科書第15版 2001、Sherlockの肝臓病の教科書第11版、2002)にはBacterial Hepatitisに関する項目がない。ただ、特殊なケースとして梅毒性の肝炎(Syphilitic Hepatitis)や、肝結核、ブルセラ (Bruceella abortis感染)などがあり、肝に肉芽腫などを形成する(granulomatous hepatitis)と記載されているが、これらは原発としてよりは、むしろ各病原体による感染症の合併症として起きるので、それぞれの感染症の項に含まれるのが妥当であろう(現在のICD-10には「K75.3肉芽腫性肝炎、他に分類されないもの」という項があるが、起縁菌が同定されればそれぞれの項に分類すべきである。)
 Medlineによる文献検索(“Bacterial Hepatitis”)のヘッディングで検索するといくつかの文献がヒットするが、最近の欧米系の一流雑誌(core medical journal)では殆どとりあげられていない。 1978年のNew Engl. J. Med. にStreptococcus viridansによると考えられたBacterial hepatitis の症例が掲載されている(2)が、この症例の肝機能の数値の異常はAl-pの異常のみであり、通常肝細胞の破壊に伴うAST/ALT(GOT/GPT)の異常を伴わず、また病理組織所見も炎症の主体は門脈域にあって肝細胞破壊は軽微である。すなわち臨床的には肝炎というより胆管領域の炎症所見を示しており、これを肝炎と診断することに 読者より疑問の声が寄せられている。またたとえ肝炎であると考えても溶連菌感染に起因する肝内の炎症であり、細菌性肝炎の項を設けて分類する必要はない。
 以上から、いわゆる原因不明の細菌による「細菌性肝炎」は臨床実態として殆ど存在せず、むしろ細菌感染による肝内胆管炎、あるいは肝膿瘍などに由来する肝機能検査異常との混同をきたしやすい分類項を持ち込むことになると考えられる。従って少なくとも現在、日本を含む先進諸国でこれを独立した疾患のentityとする必要性は乏しいと思われる。
 なおマウスではHelicobacter hepaticusというヘリコバクター属の細菌が肝炎を起こし、慢性に経過して肝癌を起こす場合があることが報告されている(3)が、同様の細菌がヒトで発見されそれに起因する慢性肝炎という病態がヒトではまだ確立されていない。またたとえ確立されても、その場合にはその細菌感染症と位置づけて分類すべきである。

文献
1.Cook GC: Liver involvement in systemic infection. Eur. J. Gastroenterol. Hepatol. 9, 1239-47, 1997
2.Weinstein L: Bactereial hepatitis: a case report on an unrecognized cause of fever of unknown origin. N. Engl. J. Med. 299, 1052-54, 1978
3.Ward JM et al.: Chronic active hepatitis in mice caused by Helicobacter hepaticus. Am. J. Pathol. 145, 959-968, 1994


別紙2

K85のなかにアルコール性膵炎についての亜分類を設けるという提案について
自治医科大学消化器内科・菅野健太郎

 現在のICD-10の膵炎の分類は医学的な進歩から大きく遅れている。この点はすでに消化器病学会総会において指摘されている点でもある(1)。
 膵炎はアルコールのほかにも、胆石、遺伝的原因、感染、薬剤、自己免疫的機序など多彩な原因によって引き起こされることが知られている(2、3)。(表1)
 早期に家族性に発症する遺伝性膵炎(家族性膵炎)の遺伝的原因としては、cationic trypsinogen遺伝子、分泌型trypsinogen inhibitor (SPINK 1)遺伝子, 嚢胞性線維症の原因遺伝子であるCFTR遺伝子の異常などが知られているほか、家族性高脂血症の一部も膵炎を起こすことが知られている。しかし、たとえばSPINK1の遺伝子異常は膵炎を起こしていない一般集団にもかなり認められることがわかっており、この遺伝子異常は膵炎を起こしやすくする疾患修飾因子であると考えられている。一方、従来原因不明(idiopathic)と考えられてきた膵炎のなかには、これらの遺伝子異常をハプロタイプとして有する例が相当の割合で認められること、これらの遺伝子異常を有する例では膵炎発症リスクが有意に高いことが知られている(4-7)。このように、これまで不明であった膵炎の発症機構が、遺伝性膵炎の遺伝子異常の解明などにより、遺伝子的な基盤によって理解されつつあるのが現状である。
 以上のような現在の医学上の進歩を考えると、アルコール性膵炎を亜分類として設けることは有意義であるが、しかしICD-11では、単にアルコールの亜分類を設けるのみでなく、現在明らかにされてきている種々の原因に基づいて分類を大幅に見直すべきであるといえよう。
 もうひとつの問題点は、膵炎の遺伝的機序(遺伝子異常に伴う膵炎)の発症機構が明らかにされてきたことにより、従来急性膵炎と慢性膵炎の2つのカテゴリーが区別できる別個の疾患であるという概念からこの2つは連続性を持つという考え方に変換しつつある点である。つまり、慢性膵炎は臨床的には顕性とならない軽微な炎症や傷害(非顕性膵炎)の積み重ねの結果として進行した状態にある場合にすぎないという考え方が有力になりつつあることである。ただし、臨床的には必ずしもこれらを同一疾患として認識することはまだ一般的ではないので、この問題のあつかいは今後の検討課題といえよう。(表1を急性と慢性に区分していないのはその理由による)。

表1.Pancreatitisの主要な原因
  Alcoholic pancreatitis
 Autoimmune-related pancreatitis
  Primary
  Secondary (associated with other autoimmune diseases)
 Congenital anomaly
  Annular pancreas
  Pancreas divisum
 Drug-induced pancreatitis
 Gallstone pancreatitis
 Hereditary pancreatitis
 Iatrogenic pancreatitis (pancreatitis due to medical or surgical intervention)
 Infectious Causes of pancreatitis
  Mumps, Cytomegalovirus
  Bacteria
  Ascaris lumbricoides
 Metabolic Causes
  Hyperparathyroidism
  Hyperlipidemia
 Neoplastic Trauma
 Idiopathic

文献
1.白鳥敬子:膵疾患のICD-10分類における問題点 p.81-83 (「新しい医療を拓く」 医学書院2003
2.Mitchell RMS, Byrne MF & Baillie J : Pancreatitis. Lancet 361: 1447-55, 2003
3.Okazaki K & Chiba T: Autoimmune related pancreatitis. Gut 51: 1-4, 2002
4.Cohn JA et al.: Relation between mutations of the cystic fibrosis gene and idiopathic pancreatitis. N. Engl. J. Med. 339: 653-658, 1998
5.Sharer N et al. : Mutations of the cystic fibrosis gene in patients with chronic pancreatitis. N. Engl. J. Med. 339: 645-652,1998
6.Pfutzer RH et al.: SPINK1/PSTI polymorphisms act as disease modifiers in familial and idiopathic chronic pancreatitis. Gastroenterology 119: 615-623, 2000
7.Noone PG et al.: Cystic fibrosis gene mutations and pancreatic risk: relation to epithelial ion transport and trypsisn inhibitor gene mutations. Gastroenterology 121: 1310-1319, 2001


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