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職業生活活性化のための年単位の長期休暇制度等に関する研究会
報告書


目次

 検討の趣旨
 我が国における長期休暇の現状
 ヨーロッパの長期休暇制度
 長期休暇の意義
 導入すべき長期休暇制度のあり方
 年単位の長期休暇制度の導入促進策
 まとめ


 検討の趣旨
 我が国は、戦後の高度成長期を経て、世界でも有数の経済大国になり、物質的に豊かな社会へと発展した。しかし、そのような中においては、就業は一社に定年まで勤めることが一般的であり、その場合、個人の生活より会社を中心とした生活設計とならざるを得ないケースが多くみられた。また、結婚・出産などで一度退職すると、その後正社員として職業生活に戻ることが困難であり、パートタイムでの就労などに限定されやすい状況にあった。
 しかし、現在の我が国は、国民一人ひとりが精神的にも満たされる豊かな社会を目指す段階に来ている。このような社会は、人々の価値観が多様化し、仕事を中心とした生活だけでなく、家庭生活や地域生活中心であったり、あるいは仕事と家庭や地域での生活のバランスをとった職業生活など、個人の選択により様々な働き方ができることや、また、個人においてもライフステージに応じて、働き方を変えられることなど、柔軟なライフスタイルを主体的に選択することが可能となることが求められている。
 このような生き方を実行するには、もちろん職業生活に入る前にある程度の人生設計をしておくことが大切であるが、一方において、一定期間経過後にそれまでの生活を踏まえ、今後の人生を再設計することも重要である。

 一方、我が国の将来のビジョンという観点からは、アジア諸国を中心に経済成長が進み、国際競争がますます激化する中、我が国が持続的成長が可能な経済社会を構築するためには、国民一人ひとりが生涯にわたって意欲を持ち、その能力を十二分に発揮して、創造的な仕事を行うことが今後の進むべき道であると考えられる。そして、そのためには、職業生活の中で、ある程度のまとまった期間就労から離れ、大学院で就学するなどの自己啓発を行ったり、社会体験、ボランティアや地域活動に参加するなど、今後の職業生活を活性化させるために、いわゆる充電期間を持つことが効果的であると考えられる。

 そこで、個人の全生涯を見据えた働き方と生活の在り方の見直しの機会の確保の観点から、現行の年次有給休暇や長期連続休暇とは別に、職業生活に入ってから一定期間経過後の区切りにおいて実施する、職業生活活性化のための機会としての「年を単位とする長期休暇を付与する制度」の導入について、その意義及び可能性について検討することとする。

 我が国における長期休暇の現状について
 我が国の長期休暇制度としては、まず、我が国の文化・風習から多くの労働者が一斉に休暇を取る年末・年始休暇、夏季休暇があげられるが、これらとは別に、個別に実施するものとしては、休職とされているものを含めると、次のようなものがあげられる。
 (1) 育児・介護休業
 子供の養育や家族の介護のための休業
 (2) 教育訓練休暇
 職業人としての資質の向上、その他職業に関する教育訓練を受ける労働者に対して付与される休暇
 (3) ボランティア休暇
 社会、地域貢献活動や、社会福祉機関等における社会奉仕活動への参加者に対して付与される休暇
 (4) リフレッシュ休暇
 一定の勤続年数を有する者に対して、その心身の休養等のために付与される休暇

 これらのうち、育児・介護休業、教育訓練休暇、ボランティア休暇は、各々固有の社会的意義に基づき設けられており、例えば育児・介護休業は、職業生活と家庭生活の両立のため、教育訓練休暇は従業員の能力開発のため、ボランティア休暇は個人の社会活動へ参加促進及び企業の社会的貢献のためのものと考えることができ、また、リフレッシュ休暇は、勤労者が就労のための英気を養う機会としてのものと位置づけることができる。
 したがって、法令において規定されている育児・介護休業、教育訓練休暇のみならず、そうでないボランティア休暇、リフレッシュ休暇などについても、企業規模などにより差異はあるものの導入している企業が少なからず見られるところである。

 一方、個人の全生涯を見据えた働き方と生活の在り方の見直しの機会として、使途を広く認める長期休暇制度については、自己啓発や社会貢献のためのものとして「自己実現休暇」を設けているケースなど若干見られるものの、一般的に普及しているとはいえない状況にある。

 ヨーロッパの長期休暇制度
 ヨーロッパでは、従来の育児休業に加え、個人の様々な目的を許容する長期休暇制度を導入する動きが見られ、イギリスでは法律ではなく、労使の話合いを通じて長期休暇制度の普及促進が図られているのに対して、ベルギーやフランスでは法律上の権利として導入されていることなど、各国ごとにその制度の位置づけや運用状況が様々なものとなっている。
 導入の背景としては、ヨーロッパでは、少子高齢化が進行する中で、職業人生を長くする方向に向かっており、長期化する生涯を通じて生産性を維持したまま職業生活を送るためには、生涯を通じた効果的な時間配分を行うために、必要に応じ職業生活における働き方の再設計を行う必要があるとの問題意識が高まっていることがある。

 また、豊かな社会の中で個人の価値観や、ライフスタイルが多様化する中で、家庭生活だけではなく、ボランティア活動なども含め、仕事と生活全般の調和を図ることの重要性が認識され、制度上も、ファミリーフレンドリー施策だけでなく、家族の有無を問わず、全ての個人が対象となるワークライフバランス施策への広がりが見られる。

 なお、各国ごとに長期休暇制度の位置づけや運用状況が異なることについては、制度を導入する際の意思決定過程のあり方など、各国ごとにその基盤にある社会制度や歴史の違いが反映されていることに留意する必要がある。このため、日本において長期休暇制度を導入するに当たっては、単純に外国の制度を導入するのではなく、こうした社会制度などの違いを踏まえ、我が国に適合する形での導入を検討していくことが必要である。

 長期休暇の意義について
(1)休暇制度の意義
 我が国でも、物の豊かさよりも心の豊かさを求める傾向が強まるなかで、個人を企業に依存した存在として捉えることや、家族との関係だけで個人の生活を捉えることが難しい社会になりつつある。
 このような中で、個人が自らの生き方を主体的に選択し、安心・納得した生涯を送るためには、企業との関係を保ちながらも、家庭や地域社会との連帯を深めながら社会参加することにより、仕事と生活のバランスを確保することが重要である。
 一般的には、休暇制度は、精神的肉体的消耗を回復させるとともに、人たるに値する社会的文化的生活を営むための時間的余裕を保障する機能がある。
 これに対し、長期間にわたる休暇は、仕事中心となりがちな日常生活とは異なる時間を一定の期間に渡り確保し、普段はできないことにトライすることを可能にする意義を持っている。
 したがって、長期休暇制度は、個人が仕事と生活のバランスを確保する上で、自らの人生を再設計し、今後のために仕事とは異なる何かに取り組む機会として、非常に重要なものであり、年を単位とするような、相当程度長期の休暇であればその効力はより大きなものとなると考えられる。

(2)現行の長期休暇制度と新たな長期休暇制度との関係
 我が国の長期休暇は、取得目的別に設けられている各種の休暇制度が、運用において結果として長期にわたったものであり、その効果も個別の休暇制度の目的との関係で認知されるにとどまり、長期休暇自体の効果としては認知されてはいない。
 しかしながら、これらの長期休暇を見ると、各々の制度の取得目的に沿った実践を通じ、仕事と生活の関係、あるいは仕事そのもののあり方の見直しが行われ、これが休暇を取得した個人のその後の生涯における仕事と生活のバランスの確保に寄与しているものと思われる。
 すなわち、長期休暇は、個人が自らの生き方・働き方を主体的に見直すために用いるのであれば、現行の休暇制度が想定する目的に限らず、個人がその生涯にわたり仕事と生活のバランスを確保することにつながり、このことは、個人、ひいては企業及び経済社会に大きな効用をもたらすことにつながると考えられる。
 したがって、以上のような観点から、この研究会においては、人生を再設計し、自らの生き方・働き方を見直すための「年単位の長期休暇制度」というものを提示することとする。これは、休暇の目的を人生再設計という視点から捉えるものであり、その使途については自由度が高いものとして位置づけ、休暇の使途が限定的に設定されている長期休暇とは異なる新たな長期休暇制度として考えるものである。

(3)新たな長期休暇制度の個人にとっての意義
 変化の激しい経済社会の中で、個人にとっては、自らの職業生活を企業に委ねることのリスクが高まり、自らの生き方・働き方を将来にわたって主体的に形成していくことが求められている。
 また、現在、心の豊かさを重視する傾向が強まる中で、個人にとっては、自ら生き方、働き方を選択できることの重要性はこれまで以上に大きくなっていると考えられる。
 長期休暇制度は、個人が自らの生き方・働き方を見直すという明確な目的のもとに取得した場合には、取得期間中の経験そのものが個人の充実感を高めるとともに、将来的にも自らの仕事と生活のバランスの確立につながり、ひいては安心・納得した職業生活の実現に寄与することとなる。
 さらに、ヨーロッパと同様に少子高齢化が進行している我が国において、長期化する職業生活の中で、個人がその能力を最大限に発揮することが今後ますます重要になると予想される。その観点からも、生涯を通じて効果的に時間配分を行うための仕組みとして、長期休暇制度は意義のあるものである。

(4)新たな長期休暇制度の企業にとっての意義
 企業にとっても、個人が、長期休暇を通じて生き方・働き方の見直しを行うことにより、業務に取り組む意欲が高まる結果、生産性の向上が期待できる。また、個人が長期休暇を通じて、業務では得られない知識、経験等を得て、企業に多様性をもたらし、当該企業に新たな付加価値を生み出す素地を作り出す効果も期待できる。
 さらには、優秀な人材を引き留める、あるいは獲得するという面でも、企業にメリットが生じる。
 もちろん、企業にとっての長期休暇制度は、人材への投資と考えられ、一定のコストやリスクを伴うものと考えられるが、以上の効果が一般的なものとして検証・認知され、適切な枠組みのもとに実施できる環境が整えば、将来的に企業による人材投資の一環として定着することもありうるものである。
 さらに、近年、社会が発展する中で、企業は経済的利益の追求だけでなく、社会の多様な価値との調和が求められるようになってきている。個人が自らの幸福や豊かさを実現することへの支援も企業の社会的責任として求められており、そのための手段の一つとしても、長期休暇制度は位置づけられるものと考えられる。

(5)新たな長期休暇制度の経済社会にとっての意義
 現在の我が国においては、働く人一人ひとりが高い付加価値を生むことが強く求められている。長期休暇制度の導入により、個人が安心・納得して働き、それぞれが意欲を持ってその能力を最大限発揮することができれば、それを通じて、持続的で国際的にも競争力のある企業活動が行われ、我が国経済社会の活性化に資するものである。
 また、個人の働き方・生き方の充実は、家庭生活の充実や様々な地域活動、社会貢献活動の活性化につながり、その効果は、経済活動のみならず、社会全体の活力ある発展につながるものと考えられる。

 以上(3)から(5)に述べたように、長期休暇制度は、個人の生き方・働き方の再構築の機会を提供することを通じて、個人の生活を充実させ、企業・経済社会の活性化をもたらすものであり、我が国にも、このような点を目的とする長期休暇制度を導入する必要があるものと考えられる。

(6)これから目指すべき社会における新たな長期休暇制度の位置づけ
 これからの我が国の将来のビジョンにおいては、国民一人ひとりが主体的に働き方、生き方を選択し、「仕事と生活の調和」ひいては「安心・納得できる生き方、働き方」が実現できる社会を目指すべきと考えられる。
 その実現のためには、まず、それを可能とする労働に関わる法制度等の見直しなど社会環境の整備が不可欠であるが、それとともに、勤労者が自らの生き方、働き方を主体的に設計するなど、国民一人ひとりが自立した生き方を実践していくことも重要なことである。具体的には、なるべく早い段階から自らの人生についての自覚を持ち、人生設計を考え、また、主体的な取組として生涯を通して継続的に自己研鑽に励み、さらには人生の節目節目において、将来を再設計し、それとともにさらなる自己啓発に努めることなどである。
 このためには、学校教育段階での啓発・指導カリキュラムの充実、ライフプランに関する情報提供の実施や様々な生涯学習を可能とする社会基盤の整備が重要であるが、それらとともに、生き方、働き方を見直し、今後を再設計し、そのために有効となる活動に参加する機会としての長期休暇制度が重要なものと考えられる。
 もちろん、個人の選択により様々な生き方、働き方を選択できる社会においては、人生の再設計の機会は必ずしも企業に属した状態での休暇に求める必要はなく、一旦企業を離職し、自らの時間を確保して、人生を再設計することを選択することも可能になると考えられる。
 しかし、離職をした場合には、それからの一定期間を再設計の機会とするとしても、個人の立場では、その後の就労の場を得られないのではないかなどの一定のリスクに不安を感じ、そのような機会を持つことに躊躇する場合があるという問題がある。したがって、雇用を継続し、休暇後の就労を心配することなく、人生を再設計し、自らの生き方・働き方を活性化する機会を得られることに、この長期休暇制度の意義がある。
 また、今後の社会においても、一つの企業で継続的に働くということは、個人にとっては、キャリアアップを図り、自己実現を行うための重要な選択肢の一つであり、企業にとっても、技術・技能の蓄積・活用をすすめるための重要な企業戦略の一つとして存在し続けるものと考えられる。その場合、このような働き方を選択した人々は、ともすれば仕事に追われる生活になってしまうことから、特に意識して人生の再設計の機会を確保するように努めることが必要であり、企業としても、ある程度以上の期間継続的に働く人に、生き方・働き方の再構築を図れるような機会を用意しておくことは、企業の活力を維持するために重要であることから、長期休暇制度はそれに応えるための有用な手段と位置づけることができる。

 導入すべき長期休暇制度のあり方
 4において述べた「新たな長期休暇制度」の意義を踏まえ、導入すべき長期休暇制度のあり方は、次のようなものが想定される。

(1) 休暇中の活動内容(休暇の使途)
 職業生活を活性化させることにより、勤労者が充実した人生を送り、そのことを通じて、豊かな社会が実現することを目的としての「年単位の長期休暇」であることから、その期間において、勤労者は、自らの人生の生き方、働き方を再設計するとともに、今後の職業生活を活性化させるために有効である活動を行うことを基本とする。ただし、その活動内容(使途)は、今後の職業生活に必ずしも直接的に関わることのみに限定はせず、幅広い社会活動への参加など、社会人としての経験を深めるなど、個人の主体的な判断の基に行う様々な活動を対象とするのが適当と考える。
 ただし、企業での制度導入に当たっては、生き方、働き方の再設計のための活動内容であることをどのように認定するかについて一定の客観的基準を明確化することが、制度が持続的に実施されるためにも必要である。この点については、企業が自発的に実施するものであることを踏まえると、基本的には、労使の話し合いなどを通じ企業内で決められるものであり、企業活動にとっての効果という観点から設定することがまずあげられるが、他方、長期休暇制度の趣旨から鑑みると、休暇時の活動が社会にとっても価値あるものであるという判断基準も重要であると考える。

(2) 休暇の対象者
 職業生活の区切りとして、それまでのキャリアを振り返りつつ、今後の人生を再設計するものであることから、対象者は、一定期間(例えば10年程度)以上の継続した勤続のある者とすることが考えられる。ただし、社会人になってからのある程度の期間のうちに人生を再設計することの有効性や、若い時期での自己研鑽の必要性という観点からは、やや短い勤続期間の者も対象にすることも考えられる。
 なお、一般的には一つの企業において同時に多数の休暇取得は困難であることから、その対象者についても、優先順位を定める一定の客観的基準が必要と思われるが、これについても、(1)で述べたと同様に、この長期休暇がより有効に活用されることが期待できる者を優先することなどが考えられるが、その場合においても企業活動としての期待度の基準とともに、社会的な有用性という基準も重要と思われる。

(3) 休暇の期間
 大学院に通ったり、何らかの社会活動を行うという点から考えて、一定以上のまとまった期間、少なくとも1年以上の期間を対象とするのが適当である。

(4) 休暇時の処遇
 あくまでも休暇であることから、雇用関係を継続した形で仕事から離れることを原則とする。また、その期間の給与やその他の処遇(例えば退職金の算定期間)等については、個別企業の制度設計によることになるが、「労働」から解放されるものであることから、基本的には無給となることが一般的と考える。
 もちろん、休暇中の成果が個人のみならず、会社にとっても一定のメリットがあり、会社としてこれを奨励するという観点に立って、給与を一部支払うなど一定の経済的支援を行うこともあり得る。

(5) 休暇後の処遇
 基本的には、休暇を取得したことにより、休暇終了後の処遇に不利益が生じないことが必要となるが、さらには、本休暇制度の目的から、休暇時に行った活動は、その後のキャリアプランに活かすように配慮されることが望ましい。

 年単位の長期休暇制度の導入促進策
(1)制度導入の課題と政策的支援の必要性
 前述のように、「年単位の長期休暇制度」は、勤労者が生き方、働き方の再設計を行う機会を持ち、一人ひとりが仕事と家庭あるいは地域生活の調和などを進めることにより、それぞれの生活を活性化させ、ひいては企業や経済社会の発展につながるものであり、個人や個別企業のメリットにととまらず、経済社会全体にとって意義のあることであることから、その普及を進めるべきと考える。
 しかし、その導入には、いくつかの課題があると考えられる。
 その主要なものとしては、制度導入の主体となる企業におけるコストの問題である。長期休暇制度を導入した場合、休暇期間中、その人材を活用できないことや、その代替人材を確保する場合においてコストが発生する。また、新たな制度導入に伴う社内制度の整備にも一定の費用がかかる。
 そのため、これらのコストに見合うベネフィットを企業は求めることとなる。一般的には、休暇後、人材が復帰し、活躍することにより、企業にとって中長期的にはメリットがあると考えられるが、しかし、個別に見た場合、必ずしも明確なリターンを期待できるとは限らず、また、休暇を取得した勤労者がその後離転職し休暇の成果が企業内で反映されないなどのリスクもある。
 したがって、企業は総論としては、長期休暇制度の意義を理解した場合であっても、各論段階では、以上の理由からその導入を躊躇することもあると思われる。
 また、長期休暇制度を利用することになる勤労者の側においても、そもそも今までに長期休暇というものをとったことがないことから、仮に「年単位の長期休暇制度」が導入されたとしても、その期間をどのように過ごせばいいのかとか、生活費をいかに工面するかといった問題があるといった声や、人生の再設計が自分の人生にどのように有効であるかのイメージがわきにくいといった指摘がある中で、是非とも制度を導入しなければならないといった状況にはなっていないと思われる。
 以上のように、現時点では、個人、企業いずれのレベルにおいても長期休暇制度そのものを実感しにくい状況にあることから、その普及の推進に当たっては、具体的な事例を用いて長期休暇制度の意義や効用を説明し、関係者が制度への理解を深めるような広報活動を積極的に展開するとともに、制度の導入を促すための、様々な角度からの政策支援を検討していくことが必要である。

(2)具体的な政策
 (1)で述べたように、長期休暇制度について、当面はその周知を図ることが重要であり、それを進める中で、今後実施すべき支援策について検討を続けるべきと考えるが、今の時点において考えられる政策としては、以下のものがあげられる。

(ア)ベスト・プラクティスの提供等普及啓発活動の展開
 「年単位の長期休暇制度」は、その有効性を概念的には理解できるものの、その効果が期待できるのはある程度の期間が経過した後と思われるため、企業にとって、その導入のメリットが感じられない面がある。
 そこで、「年単位の長期休暇制度」の導入により、企業活動がより活性化するなど成功を収めている事例(ベスト・プラクティス)を収集し、これを広く提供し、その有効性を具体的に提示していくことが、普及に当たって有効と考えられる。
 これは、先進的な取組として企業に対し周知していくことももちろんであるが、個人の主体的な取組という観点から、勤労者にも啓発を行うことも重要であると思われる。
 さらに、本制度の導入に当たっては、企業だけでなく、職場の同僚や顧客、さらには社会全体の理解が不可欠であることから、そういう観点からも、広く国民全体に対する啓発活動が求められる。

(イ)制度活用に有効な情報提供の実施
 一方、「年単位の長期休暇制度」は、勤労者に長期間の休暇を付与することから、仮に休暇中は無給であったとしても、その期間の代替要員の確保や、担当業務の引継など継続的な業務の実施のための社内整備など、企業側に一定の負担を求めるものであることから、企業がその導入に躊躇することが想定される。
 そこで、既にこのような長期休暇制度を導入している企業における先進的な実施事例を整理し、効率的な制度の実施手法について具体的な事例を示すことにより、スムーズで負担の少ない制度の導入のサポートを実施すべきである。
 とりわけ、使途については自由度の高い休暇であることを踏まえ、どういう手順で「生き方、働き方の再設計のための休暇」であると認定するかについては、具体的な情報が不可欠である。
 また、休暇を取得する勤労者の側への情報提供も必要である。将来の人生設計のための様々な情報や、社会人大学への進学、ボランティア等の活動への参加等の休暇期間中の活動に関する情報、さらには、休暇取得者の業務復帰、生き方、働き方に関する情報について、勤労者がアクセスしやすい環境の整備なども重要である。

(ウ)長期休暇取得者への生活費の支援
 本制度は、広く勤労者を対象とすることができるものであることから、休暇期間中の生活、活動にかかる費用等は、あくまで自助努力により確保することが原則と考える。
 しかし、この点が制度実施のための勤労者側にとっての大きな課題の一つであると考えられることから、例えば、長期休暇取得に向けて、勤労者が計画的に資金を積み立てていくことのできる制度、あるいは勤労者に長期休暇時の生活費を融資する制度を創設するなどの環境整備について、財形制度等の活用を含め今後政策的に検討することも必要と考える。
 他方、この点については、企業においては、本制度の実施に当たり、社員の入社時点で、本人のキャリアプランの中での「年単位の長期休暇」の位置づけを明確にし、勤労者本人が計画的に準備ができるようにサポートすることも重要であり、また、定期的なキャリアカウンセリングの機会の提供など、自らの生き方・働き方について継続的なカウンセリングが行われることも、長期休暇が効果的に実施されるために必要なものと考えられる。

(エ)制度を導入する企業への支援
 本制度は、現時点においては、あくまでも企業の自由意志によって導入されるものと考えられるが、企業にとってのメリットが得られるまで一定の期間を要するのに対し、制度導入時には一定の負担が必要となる。
 そこで、本制度の導入を推進するに当たっては、企業が導入のための環境整備を行うことを、政策的に支援することが考えられる。また、勤労者の休暇取得時における代替要員の確保も大きな課題であることから、これをスムーズにすすめられるようなサポートについても検討すべきである。
 また、制度の導入を企業の社会的貢献につながるものと捉え、その情報を広く提供することにより企業の社会的評価を高めることなども、企業の制度導入のインセンティブとなるものと考えられる。

 まとめ
 経済的に豊かになった我が国は、まさにこれから、国民一人ひとりが、充実した人生を満喫する社会へと進む段階にある。
 これは、具体的には、自立した個人が、それぞれのライフステージにおいて、主体的に自らの生き方・働き方を選択し、生涯を通じた仕事と生活の調和を実現していける社会であると考える。
 このような社会の実現のためには、個人が多様な生き方・働き方を選択することが可能であること、社会の諸制度がそのような選択に対して中立なものであることが求められるが、その前提として、国民一人ひとりが、人生を主体的かつ計画的に設計し、その実行にむけて積極的に努力していくということが不可欠である。
 そのためには、例えば学校教育段階において自らの人生についての自覚を促すことや、社会人となる段階での様々な情報提供などが重要であり、また、生涯を通して継続的に自己研鑽に励むなど個人の取組も欠かせないものである。
 そして、これらとともに、社会人となった後も、一定の区切りにおいて、自らの人生、働き方の再設計を行う期間としての「年単位の長期休暇」が有効であると考える。
 また、このような機会を確保することにより、今後も勤労者一人ひとりが生涯にわたって意欲と能力を発揮し、確信を持って働くことが出来ることとなり、ひいては、持続的に成長を続けていくことが可能な社会を構築することにつながるものである。

 しかし一方で、年単位の長期休暇制度というものが、これまでの我が国の職業生活においては、一般的には到底想定し難いものであったという現実を直視するならば、この制度が普及し、意義あるものとして社会に根付くためには、社会全体の意識の変革が必要であり、例えば、国民一人ひとりはしっかりとした展望を持って、自立した職業生活を送るという覚悟を持ち、また、企業は社会的責任を自覚し、長期的な視野に立った経済活動を実践すべきものである、ということがいわば社会の常識になるといったようなことが不可欠である。
 したがって、今後は、我が国において「年単位の長期休暇制度」についての意識が醸成されるよう、周知啓発の取組を積極的に展開していくことが重要であり、さらには、その実施に取り組む企業、あるいは活用する勤労者に対する有効な情報提供などの支援策を実施することが必要である。また、長期休暇制度のための政策的支援策についてさらに具体的に検討するとともに、中長期的には、その普及に資する社会システムの構築などの環境整備についての検討がなされることが求められる。


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