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資料5

「痴呆」という用語について


現在の辞典での定義

  「痴呆」 「ぼけ」
広辞苑
(岩波書店)
ち−ほう【痴呆】
 いったん個人が獲得した知的精神的能力が失われて、元に戻らない状態。ふつう感情面・意欲面の低下をも伴う。脳の腫瘍・炎症、中毒・血液循環障害などに由来。加齢によることもある。老人性痴呆・麻痺性痴呆の類。
ぼけ【惚け・呆け】
 (1) ぼけること。また、その人。「休み−」「−なす」
日本国語大辞典
(小学館)
ち−ほう【痴呆・癡呆】[名]
 (1) おろかなこと。*丸善と三越(1920)〈寺田寅彦〉「その贖罪の為に種々の痴呆を敢行して安心を求めんとする」
 (2) 精神病理学で、獲得した社会生活を営むために必要な精神的能力が、持続的・本質的に失われる状態をいう。*医語類聚(1872)〈奥山虎章〉「Paranoea 痴呆又譫語(せんご)」 *或る女(1919)〈有島武郎〉後・三四「如何かして倉地を痴呆(チハウ)のやうにしてしまひたい」
 補 注 (1)については「唐話纂要−一」(1719)に「癡呆 タハケ」とある。
ぼけ【惚・呆】[名]
(動詞「ぼける(惚)」の連用形の名詞化)
 (1) (「ほけ」とも)ぼけること。また、ぼけた人。阿呆(あほう)。ばか。*俚言集覧(1797頃)「ほけ ネボケトボケなと云」 *城のある町にて(1925)〈梶井基次郎〉病気「それがあってからお祖母さんが一寸ぼけみたいになりましてなあ」 *羽なければ(1975)〈小田実〉一六「茂一もニューギニアまで連れて行かれてボケになって帰って来よった」



「痴呆」の由来


○日本での古い用例

 (1) 1719年(享保4年)「唐話纂要」
「癡呆」−「タハケ」  ※「痴」は「癡」の略字

 (2) 1872年(明治5年)「医語類聚」
Paranoea  痴呆又譫語(せんご)
Dementia  狂ノ一種

 ※ 「Dementia(英語)」の語源はラテン語の「demens」
(「科学用語語源辞典」(1979年、大槻 真一郎著、同学社)

 (3) 1889年(明治22年)の「言海」(大槻 文彦編)では「痴呆」の語はない。

 (4) 1932年(昭和7年)「改修言泉」(落合 直文)  癡呆 【名】あはう(阿房)に同じ。




いつから、「Dementia」の訳語に「痴呆」があてられるように
なったかは明らかにできなかった。





行政用語・法律用語における「痴呆」の用例


○昭和38年老人福祉法及び施行通知では「痴呆」は使われていない。
 ・ 老人ホームへの収容等の措置の実施について(昭和38年7月31日厚生省社発521号)第4
 2  特別養護老人ホームへの収容の措置
法第11条第1項第3号の規定により老人を特別養護老人ホームに収容し、又は収容を委託する措置は、当該老人が次の(1)又は(2)のいずれかに該当する場合に行うものとすること。
(1) 身体上又は精神上の著しい障害のため、常時臥床しており、かつ、その状態が継続すると認められる場合
(2) 身体上又は精神上の著しい障害のため、常時臥床はしていないが、食事、排便、寝起き等日常生活の用の大半を他の介助によらなければならない状態にあり、かつ、その状態が継続すると認められる場合

○昭和55年の「老人精神病棟に関する意見について」、昭和57年の「老人精神保健対策に関する意見について」(ともに公衆衛生審議会による)では、医学的な用語として「痴呆」が使用されている。
 ・ 昭和57年「老人精神保健対策に関する意見」(抄)
本審議会で使用する用語の定義
 ・ 老人精神障害
老人精神障害とは、老年期にみられる精神障害を総称していう。すなわち、老年期に初発した精神障害と老年期以前に発病、経過し老年期に至った精神障害に大別される。




 老人精神障害











老人期に初発した
精神障害





老年期以前に初発
した精神障害








1) 器質性精神障害
初老期痴呆、老年痴呆、脳血管性痴呆(多発硬塞性
痴呆)など脳の器質的病変が原因で起こる精神障害
をいう。
2) 機能性精神障害
精神分裂病様状態、操うつ状態、神経症など脳の
器質病変以外の諸原因(心理的原因など)でおこる
精神障害をいう。




精神分裂病、躁うつ病、てんかん、アルコール精神病
などの精神障害で、老年期以前に発病し老年に至った
精神障害をいう。

 ・ 痴呆
痴呆とは精神医学的にはいったん獲得された知能が、脳の器質的障害により持続的に低下することをいう。
 ・ 老人の痴呆疾患
老人の痴呆疾患とは老人であって脳の器質的障害により痴呆を示す疾患をいう。すなわち、初老期痴呆、老年痴呆、脳血管性痴呆の他、脳の外傷、腫瘍、感染、中毒、代謝障害など種々の要因によって痴呆を呈する精神障害をいう。
 ・ 痴呆老人
痴呆老人とは老人の精神障害のうち、脳の器質的障害により痴呆を示している老人をいう。

○法令での使用
 平成3年の老人保健法改正(平成3年10月4日法律第89号)により「痴呆」という語が法令で使用された。
 ・  老人保健法附則第1条の2
 (老人保健施設に係る対象者の特例)
 第1条の2 当分の間、第6条第4項中「又はこれに準ずる状態にある老人(その」とあるのは「若しくはこれに準ずる状態にある老人又は老人以外の者であって初老期痴呆により痴呆の状態にあるもの(これらの者の」と、第46条の8第4項中「老人の」とあるのは「老人又は老人以外の者であって初老期痴呆により痴呆の状態にあるものの」とする。

○現行法での主な用例
  介護保険法(平成九年十二月十七日法律第百二十三号)
(定義)
  第七条
15  この法律において「痴呆対応型共同生活介護」とは、要介護者であって痴呆の状態にあるもの(当該痴呆に伴って著しい精神症状を呈する者及び当該痴呆に伴って著しい行動異常がある者並びにその者の痴呆の原因となる疾患が急性の状態にある者を除く。)について、その共同生活を営むべき住居において、入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話及び機能訓練を行うことをいう。

23  この法律において「介護療養型医療施設」とは、療養病床等(医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第七条第二項第四号に規定する療養病床のうち要介護者の心身の特性に応じた適切な看護が行われるものとして政令で定めるもの又は療養病床以外の病院の病床のうち痴呆の状態にある要介護者の心身の特性に応じた適切な看護が行われるものとして政令で定めるものをいう。以下同じ。)を有する病院又は診療所であって、当該療養病床等に入院する要介護者(その治療の必要の程度につき厚生労働省令で定めるものに限る。以下この項において同じ。)に対し、施設サービス計画に基づいて、療養上の管理、看護、医学的管理の下における介護その他の世話及び機能訓練その他必要な医療を行うことを目的とする施設をいい、「介護療養施設サービス」とは、介護療養型医療施設の療養病床等に入院する要介護者に対し、施設サービス計画に基づいて行われる療養上の管理、看護、医学的管理の下における介護その他の世話及び機能訓練その他必要な医療をいう。

  道路交通法(昭和三十五年六月二十五日法律第百五号)
(免許の取消し、停止等)
  第百三条
 免許(仮免許を除く。以下第百六条までにおいて同じ。)を受けた者が次の各号のいずれかに該当することとなつたときは、その者が当該各号のいずれかに該当することとなつた時におけるその者の住所地を管轄する公安委員会は、政令で定める基準に従い、その者の免許を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて免許の効力を停止することができる。ただし、第五号に該当する者が前条の規定の適用を受ける者であるときは、当該処分は、その者が同条に規定する講習を受けないで同条の期間を経過した後でなければ、することができない。
一  次に掲げる病気にかかつている者であることが判明したとき。
 イ  幻覚の症状を伴う精神病であつて政令で定めるもの
 ロ  発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気であつて政令で定めるもの
 ハ  痴呆
 ニ  イからハまでに掲げるもののほか、自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの


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