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資料2

「痴呆」に替わる用語の検討にあたって


長谷川 和夫


痴呆に関する誤解と偏見

1. 痴呆とはどんな状態か

成人期におこる認知障害(記憶低下を含む)
 認知障害: 失語  言葉のやりとりができない
失認  適切な認識ができない、失見当
失行  道具を使うことができない
実行機能障害 手順をふむ作業が困難
進行する、長期間の経過をもつ
行動の障害:妄想、徘徊、攻撃行動
高齢期の原因疾患: 脳血管性痴呆
アルツハイマー型痴呆:新しい適応薬 アリセプト


2. 痴呆性高齢者の心理

 ◇普通の物忘れと痴呆の違い

健常者は、体験の一部のみを忘れるので、体験の他の記憶から、物忘れした部分を思い出すことができる。

痴呆の物忘れは、体験全体を忘れているので思い出すことが困難である。
普通の物忘れと痴呆の違いの図

体験のつながりがない
いつも不安な気分
近接記憶の低下
過去体験の現在化
正しい状況が
つかめない
まちがい行動・混乱


3. 痴呆性高齢者への接し方

1. 不安感をとる工夫をする。   6. 指示はなるべく簡潔に。
2. 楽しい明るい気分で接する。 7. 近くで話すこと。面接の距離。
3. 相手のペースに合わせて。ゆっくり。 8. 理屈で討論はさける。
4. 目をみて話しかける。 9. 間違った言動を受け入れる。
5. 穏やかな口調ではっきりと。 10. 一人で抱え込まない


<痴呆の人の立場からみた望ましいケアのあり方について>
−2003年秋に訪れたクリスティーン ブライデン氏の言葉


「スピードをおとして、ちゃんと目を見て話しかけてほしい、表情をみて何を言おうとしているか考えて下さい。そしてその人の要望にそって環境をかえていって下さい。」
「痴呆のためすべてが失われても、愛は最後まで感じることができます。」

 クリスティーン・ブライデン(クリスティーン・ボーデン)氏
 1995年に46歳でアルツハイマー病の診断を受け、翌年、首相・内閣府第一次官補を最後にオーストラリア政府を退職。診断前後の自らの経験をまとめて、1998年に「Who will be when I die?(私は誰になっていくの?)」を出版する。1998年に再婚、クリスティーン・ブライデンとなる。
 現在、国際痴呆症支援ネットワーク、オーストラリアアルツハイマー病国家プログラム運営委員会のメンバーとして活躍。


4. 痴呆性高齢者ケアの基本

個人を中心におくケア   生活史の尊重
その人らしさを大切にする 内的体験を聴くこと
ケア環境を整備すること グループホーム ユニットケア
小規模多機能施設  
ケア専門職の育成 ケアパートナー


痴呆介護指導者養成事業の体系図

指導者養成研修
都道府県から推薦された痴呆介護の指導者クラスに対する研修
高齢者痴呆介護研究センター(東京、仙台、大府)

痴呆介護指導者養成事業の体系図
実務者研修
施設・在宅サービス従事者に対する研修
60都道府県等(都道府県、政令指定都市)



5. 痴呆症の予防
(1)  高血圧のコントロール
(2)  痴呆を予防する食事 塩分を控えめに、禁煙、節酒
(3)  適度な全身運動
(4)  身体のコンディションを良好に保つ
(5)  心の栄養をとること 読書、書く事、聴く事、話す事
(6)  人とのつながりを大切にすること
(7)  明るい気持でふけこまないこと


家族や地域、専門家が痴呆を正しく受け止める必要


重要なのは誤解や偏見そのものを無くしていくこと


その一環としての新用語の検討



アルツハイマー型痴呆の症状の程度とそのすすみ具合

アルツハイマー型痴呆の症状の程度とそのすすみ具合の図

MCI. Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害
 高齢者自身が記憶障害を訴えていること。客観的にも観察されているが生活に支障はきたしていない。痴呆ではないこと。最近は、軽症アルツハイマー病との関連について注目されている。境界状態にあたる。



(別紙)

痴呆とは何か

   痴呆とは、成人に起こる知能障害。記憶、判断、言語、感情などの種々の精神機能が減退、または消失し、さらにその減退や消失が一過性でなく慢性に持続することによって、日常生活に支障をきたした状態。

 ○ 医学上の定義
(1)  発育過程で獲得した知能、記憶、判断力、理解力、抽象能力、言語、行為能力、認識、見当識、感情、意欲、性格などの諸々の精神機能が、脳の器質的障害によって障害され、そのことによって独立した日常生活・社会生活や円滑な人間関係を営めなくなった状態をいう。多くの場合、非可逆性で改善が困難であるが、ときに治癒可能なこともある。
(南山堂 医学大事典による)

(2)  生後の発達の過程で獲得され、認知、記憶、判断、言語、感情、性格などの種々の精神機 能が減退、または消失し、さらにその減退または消失が一過性でなく慢性に持続することに よって日常生活や社会生活を営めなくなった状態をいう。痴呆は、脳損傷によって生じるこ とが多く、改善することはきわめて困難であるが、場合によっては治癒しうることもある。
(都立松沢病院 松下正明病院長による)

(3)  アメリカ精神医学会による分類
■DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)
 アメリカ精神医学会(The American Psychiatric Association, Washington D.C.)が発行する精神疾患の分類と診断の手引書。精神・神経疾患の定義及び診断基準として、多くの臨床家が利用している。

(@) DSM−III−R
 A  記憶(短期、長期)の障害
 B  次のうち1つ
(1) 抽象的思考の障害
(2) 判断の障害
(3) 高次皮質機能の障害(失語、失行、失認、構成障害)
(4) 性格変化
 C  A、Bの障害により、仕事、社会活動、人間関係が損なわれる
 D  意識障害の時には診断しない。
 E  病歴や検査から脳器質性因子の存在が推測できる

(A)DSM−IV(1995年から採用、DSM−IVでは、痴呆そのものの定義ではなく、個々の疾患別定義に変わっている。)
 アルツハイマー型痴呆の定義
 A  以下の2つによって明らかとなるさまざまな認知障害
(1) 記憶障害(新しいことの学習障害と以前に学んだ情報の想起障害)
(2) 以下の認知障害のうち少なくとも1つ
(a) 失語(言語障害)
(b) 失行(運動機能が正常にもかかわらず運動活動を遂行することができない)
(c) 失認(感覚機能が正常にもかかわらず物体を認知同定することができない)
(d) 実行機能の障害(計画、組織化、筋道をたてること、抽象化の障害)
 B  緩徐な発症と持続的進行
 C  認知障害による社会・職業上の働きの障害、また以前の社会・職業上の機能水準からの有意な低下
 D  Aにみる認知障害は以下のものにはよらない
(1) 進行性の記憶や認知障害をきたす中枢神経系の状態(脳血管障害、パーキンソン病、ハンチントン病、硬膜下血腫、正常圧水頭症)
(2) 痴呆をきたす身体状態(甲状腺機能低下症、ビタミンB12や葉酸の欠乏症、ナイアシン欠乏症、高カルシウム血症、神経梅毒、HIV感染症)
(3) 物質惹起状態
 E  この障害は、せん妄の間にのみ生じるということはない
 F  他のT軸障害によっては説明されない

 脳血管性痴呆の定義
 A  以下の2つによって明らかとなるさまざまな認知障害
(1) 記憶障害(新しいことの学習障害と以前に学んだ情報の想起障害)
(2) 以下の認知障害のうち少なくとも1つ
(a) 失語(言語障害)
(b) 失行(運動機能が正常にもかかわらず運動活動を遂行することができない)
(c) 失認(感覚機能が正常にもかかわらず物体を認知同定することができない)
(d) 実行機能の障害(計画、組織化、筋道をたてること、抽象化の障害)
 B  局所性の神経徴候と症状(深部腱反射の亢進、伸展性足底反応、仮性球麻痺、歩行障害、四肢の筋力低下)、脳血管障害を示唆する検査所見で、それが病因的にその障害と関連があると判断されるもの(皮質や白質を含んだ梗塞巣)
 C  認知障害による社会・職業上の働きの障害、また以前の社会・職業上の機能水準からの有意な低下
 D  この障害は、せん妄の間にのみ生じることはない



 厚生労働大臣
  坂口 力様

「痴呆」の呼称の見直しに関する要望書


高齢者痴呆介護研究・研修東京センター長  長谷川 和夫
高齢者痴呆介護研究・研修大府センター長  柴山 漠人
高齢者痴呆介護研究・研修仙台センター長  長嶋 紀一

 今日、我が国は超高齢社会を迎えて、いわゆる「痴呆性」高齢者の人口は、現在約一六〇万人と推定されております。このことは、我が国にとって、重大、かつ、深刻な問題であります。
 二〇一五年には、団塊の世代が高齢期に達して、いわゆる「痴呆性」高齢者の人口は、二五〇万人に及ぶと推計されております。
 老健局長の私的研究会である高齢者介護研究会が二〇〇三年六月にとりまとめた「二〇一五年の高齢者介護」においても、こうした事態を重視されており、高齢者介護は、尊厳を支えるケアの確立への方策が必要であり、痴呆性高齢者を標準ケア・モデルとすると位置付けられています。
 このように、痴呆性高齢者対策が推進されようとしているなかで、従来から一般的に使用されてきた「痴呆」という呼称ないし表現を見直すことが、必要な時期にきているのではないでしょうか。
 「痴呆」という言葉は「広辞苑」によると、「いったん個人が獲得した知的精神的能力が失われて、元に戻らない状態。ふつう感情面・意欲面の低下をも伴う。脳の腫瘍・炎症、中毒・血液循環障害などに由来。加齢によることもある。老人性痴呆・麻痺性痴呆の類。」とされておりますが、元来、「痴」は、「おろかなこと、ばか」といった意味であり、痴愚、白痴、痴情、痴漢、愚痴などの、言葉があります。また、「呆」は、「おろかなこと、ぼんやりしていること」、「あきれる、あっけにとられる」といった意味であり、阿呆、呆然、呆れる、呆気ないなどの言葉があります。(以上【岩波書店 広辞苑第五版】より)
「痴」と「呆」の個々の言葉のいずれも、蔑視的な意味合いが含まれており、「痴呆」についてもこうしたニュアンスが感じ取られます。
 したがって、この際、できれば呼称の見直しを希望するところであります。
 このことは「痴呆」に関連する行政の主務官庁である厚生労働省から、その口火を切って頂くのが一番妥当ではないかと考えます。
 痴呆の代わりの呼称ないし表現としては、医学的見地からの検討も必要ですが、国民の日常生活に広く影響を及ぼすものであることから、専門家だけでなく、ご本人やご家族等を含めた、広く国民の意見を参考にして決定するのがよいのではないかと思料致します。
 以上のような主旨をお汲み取り頂き、厚生労働省として是非ご検討頂きますよう要望申し上げます。
二〇〇四年四月吉日
高齢者痴呆介護研究・研修東京センター長  長谷川 和夫
高齢者痴呆介護研究・研修大府センター長  柴山 漠人
高齢者痴呆介護研究・研修仙台センター長  長嶋 紀一


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