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■意見書/知的障害者福祉の安定と発展のために
介護保険制度との統合は<必然>

2004年6月16日

社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会
(第202回理事会にて決議)


 自立と共生の社会をめざして、障害者福祉は2003年度より「支援費制度」に移行しました。しかし、その運用に関して行政と障害者団体との間に緊張が生じ、その年の5月より『検討会』が設置されました。そして、その討議の最中に居宅生活支援費の大幅な財源不足が浮上してきました。この危機は、関係者の奮闘により乗り切りましたが、根本的問題はそのまま残っています。
 そして、厚労省内に『介護制度改革本部』が設置され、介護保険サ−ビス対象の拡大、すなわち障害者福祉の統合の問題が浮上してきました。そのため、障害者団体は厚労省と意見交換(勉強会)を重ね、公開対話集会(4.30) 開催するに至りました。その間、3月5日、全日本育成会は『見解』1)をまとめ、この問題についての整理を行いました。
 しかし、4月26日の社会保障審議会(社保審)介護保険部会では、対象の拡大は「(社保審)障害者部会の議論を待つ」という結論になりました。そのため、統合の問題は「障害者部会」に下駄を預けられたのです。それを受けて「障害者部会」では、6月25日に方向性を出すため、4日に識者委員より『報告』が示され、18日に障害者団体から意見を求めることになりました。
 私たちは、わが国の知的障害のある人とその家族を代表する立場から、知的障害者福祉の安定と発展を願い、この『報告』を検討した結果、以下のとおり意見をまとめました。そして、その実現のために、関係各位のご理解とご支援を求めて、広く公表するものであります。

1.  介護保険制度の発足時に障害者は「積み残された」のである。
 介護保険制度は、当初は「障害者も対象とする」という方向で議論が進められていました。しかし、諸般の理由により高齢者のみを対象とすることになったのです。すなわち、障害者は「積み残された」のです。そのため、5年目の見直しにおいて、この課題が議論になるのは当然です。なぜ、対象からはずされたのでしょうか。諸問題は、まだ解決されていないのでしょうか。順調にサ−ビスの拡大を見せている介護保険制度から、今回もまた「積み残す」のでしょうか。被保険者を20歳以上にすれば、障害者を対象にすることは<可能>であります。

2.  地方分権の推進は障害者福祉に重大な影響を与えている。
 構造改革の一環として、地方分権が強力に進められています。それと平行して、知的障害者福祉の権限は市町村に移行しました。また、市町村の統廃合は、さまざまに影響を与えています。加えて、「三位一体の改革」での支援費制度の一般財源化が、現実味を帯びてきました。全国県知事会の要望等で、強く求められています。「骨太方針2004」では、今秋にも方向性が出るでしょう。一般財源化は時代の趨勢といえます。しかし、その前に制度が整備されなければなりません。この事態は、支援費制度の実施段階では、予測することができませんでした。

3.  支援費制度は予想外に評価され、それ故に財政危機を迎えた。
 社会福祉基礎構造改革により、「措置制度」は「契約制度」へ移行しました。その結果、高齢者は介護保険制度に、障害者は支援費制度になったのです。それゆえ、この二つの制度はどれも「契約制度」であり、それゆえ自己決定の尊重等の理念に相違はありません。しかし、支援費制度は、今までのサ−ビスの不十分さもあり、利用量の飛躍的な増大等により、居宅生活支援費の大幅な財源不足が表面化しました。そして、施設訓練等支援費と異なり、補正予算を組めない「裁量的経費」の方式のため、この制度は財政的には破綻状態に陥ったのです。

4.  支援費制度の改革だけでは将来の安定と発展には不安が残る。
 財源不足の一つは、知的障害者の地域生活支援事業の予想を越える利用といわれています。しかし、これは自立した地域生活を希望する本人のニ−ズの高さでもあります。それゆえ、これからも伸びは止まないでしょう。それに、40数万人という知的障害者の数は少な過ぎます。国際的には、その数が人口比1〜4%ということを考えると、爆発的な増加が予測できます。また、入所施設の10数万人が地域に移行することを考慮しなければなりません。このような膨大な数に基づく急激なニ−ズの増加に対応するには、支援費制度の改革のみでは不十分です。

5.  介護保険制度との統合には多くの課題が解決されるべきである。
 しかし、介護保険制度との統合に際し整理すべき課題が多いことも事実です。「介護」の範囲や支援の必要度を、ガイドヘルプサ−ビスや生活支援事業、コ−ディネ−タ−や相談支援ワ−カ−等の位置付けを明確にすべきです。応益負担に耐えられない「低所得者」の範囲と具体的な救済策はどうするのか。ケアマネジメントの制度化や要介護認定基準の見直しは不可欠です。支給限度額を越えた利用への対応は、確実に保証する必要があります。また、「日常生活支援」に強度行動障害やてんかん発作頻発等、知的障害に関連する障害も対象化すべきです。

6.  安定と発展のためには介護保険制度との統合は<必然>である。
 急速に増大するサ−ビスの需要に対応し、安定した財源を保障するためには、介護保険制度との統合は<必然>であると考えます。その意味で、「障害者部会」での『報告』には基本的に賛同いたします。それは、現行のサ−ビス水準の確保が前提です。介護保険制度との統合により、財源不足の解消という点と同時に、障害者の問題がさらに社会化され、共生社会の実現への一歩にもなります。また、保険方式への移行でサ−ビスの自主性が高まり、小規模作業所問題の解決やグル−プホ−ム等の地域生活支援システムの充実が一段と期待できます。

7.  自立と共生の社会を実現するために真の「構造改革」を求める。
 地域に包まれて、安心・安全で豊かに暮らすには、上記5.の「課題や疑問」の解決に加えて、本質的な構造改革の推進が不可欠です。差別禁止法の制定等の権利擁護システムの確立、障害福祉法の総合化による障害種別間の格差の是正と狭間にある「障害」の救済、扶養義務制度の見直し、所得保障制度の確立、等々があります。また、社保審「障害者部会」の方向性が、「介護部会」で正当に受け止められなければなりません。そして重要なことは、現行の介護保険制度そのものが、「介護」の範囲を含めて、発展・充実されて行かなければなりません。

以上

 注/ 添付書類
1) 社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会:見解/障害者福祉制度の発展のために
−介護保険制度との統合をめぐって(2004.3.5)



見解/障害者福祉制度の発展のために−介護保険制度との統合をめぐって

2004年3月5日

社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会
(第199回理事会にて決議)


 歴史的な構造改革の一環として、障害者福祉制度は大きな変革期を迎えています。それは、行政処分による<措置制度>から自己決定に基づく<契約制度>への転換であり、2003年度(平成 15年度)より「支援費制度」としてスタ−トしました。
 しかしながら、新しい制度は私たちにとって、必ずしも満足の行くものではありません。大きな改善と発展が求められます。その面での十分な検証と検討が不可欠です。そしてそれは、障害のある人の願いと期待に基づくべきであり、福祉制度の拡充として考えられるべきでしょう。
 ところが一方で、財源の不安定さが表面化し、関係者に大きな不安と混乱を生じさせました。当面の危機は脱したようですが、根本的な問題は何ら解決していません。そのため、新たな転換を図る動き、すなわち介護保険制度との統合が、現実的な課題として論じられています。
 この論議は、基本的な方向性に関して、3月中の結論を求められています。それは、信じられないくらいの少ない時間であり、じつに無謀な企てといえます。しかしながら、事態が急速に動く中で私たちは、何らの意思表明をしないまま、時代の流れに身を委ねることは許されません。
 私たちは、わが国の知的障害のある人とその家族を代表する立場から、今後の福祉制度の発展を願い、この間の動きについて基本的見解を、以下のとおりまとめました。そして、拙速とのそしりを恐れずに、ここに広く公表するものであります。

1.  「支援費制度」の現状には評価と不満が同時にあります。
 大幅な財源不足は、この制度が評価された結果でもあります。従来の著しいサ−ビスの不足も加わり、知的障害者の利用は飛躍的に伸びました。しかしながら、これで満足というわけではありません。まだまだ、サ−ビスは不足しています。とくに、居宅生活支援事業は、多くの市町村で実施されていません。選択というには、余りにも貧困な現状があります。何より問題なのは、施設(特に入所)訓練の支援に比べて、居宅(地域)生活の支援が著しく少なく、新しい障害者基本計画の理念に反して、相変わらず軽視されていることです。

2.  財源の問題は制度の堅持と発展には欠かせないものです。
 居宅生活支援費の大幅な不足は、実態とニ−ズに対する見通しの甘さにその原因が求められます。と同時に、「義務的経費」である施設訓練等支援費に対し、「裁量的経費」である制度的な位置付けの問題があります。この見直しは不可欠です。しかし、施設から地域への予算全体の傾斜を行っても、今後の新規利用者や個々の利用量の増大等を考えれば、総額としての不足は避けられません。また、「三位一体の財政改革」が進行する中で、補助金制度としての将来は安泰でしょうか。確固たる財源抜きには、如何なる理念も実現できません。

3.  真の意味での「構造改革」が不可欠ではないでしょうか。
 今回の改革は、きわめて中途半端でした。扶養義務制度の見直し、所得保障制度の確立、権利擁護制度の充実(差別禁止法の制定)、医療モデルから社会モデルへの転換、障害種別によるサ−ビスの見直し(総合福祉法の制定)、分離(隔離)から共生への転換、等々、旧来の構造はほとんど見直されていません。また、知的障害の分野については、福祉法に定義が存在せず、それゆえ手帳制度も法に基づくものでなく、認定や程度の判定にも不備があります。それで、障害程度区分や介護認定等が適切に行われるでしょうか。

4.  「介護保険制度」への不安と疑問は改善されるでしょうか。
 財源問題を主な理由として、介護保険制度との統合の問題が現実的課題として急浮上してきました。保険制度の長所や避難策として意味は理解できますが、現行の制度には不安や疑問が多くあります。すなわち、応益(現行1割)負担、ケアマネジメントの不在、サ−ビス利用の制限、障害認定の正当性、等々、挙げればきりがありません。また、「介護」という名称にも違和感があります。それは、高齢者を前提にした制度だからであり、発達期の障害者への適用にはかなり無理があります。<統合>に際して、このような問題は改善されるのでしょうか。

5.  <現状維持>でなく<発展>を保証する制度はどれですか。
 現在の議論は、現行制度の<現状>を前提とし、その<後退>を阻止するという視点が大きいと思います。厳しい時代にあって、それはきわめて重要な視点ですが、今後の<発展>を視野に入れなければ、現状維持さえ厳しくなります。ましてや、知的障害の分野は、維持すべき<現状>がじつに貧困です。そうであれば、今後の発展を考えた場合、どのような制度が将来性があるか、という中長期的な分析も必要です。また、「インクル−ジョン」という理念から、社会への適切な統合を展望する場合、制度の上での発展も同時に論じられるべきです。

6.  <基本型>としての「介護保険制度」は否定できません。
 現時点での結論として、「介護保険制度」との統合を全面的に否定することはできません。現在の障害福祉制度自体が支援費制度のみでなく、措置制度や補助金制度等の多様な制度の併存と組み合わせで成り立っています。<基本型>が支援費制度であり、その点を考慮すれば、他の制度との併存を含め、総合的に考える必要があります。その意味で大きな一つの可能性を自ら封じる必要はないと考えるのです。すなわち、あらゆる制度には長所と短所が必ず存在し、それゆえ絶対的といえるものはなく、すべては改善と発展の中で論じられるべきであります。

7.  地域の中での確実で適切な「支え」を整備してください。
 私たちが求めるものは、地域の中で人間としての尊厳が守られ、安心安全で豊かに生活できるために、小規模作業所の発展をも含めた、<支援>のシステムであります。そのためには、どのような制度が最も適切か。時代と社会により、検討し判断される必要があります。そのため、大きな変更の場合には、その提案をするの者は、可能な限り具体的な<像(内容)>を示し、説明する義務があると考えます。それが、現時点ではまだ不十分です。政府は、確かな国家戦略の下に、制度の将来についての安心と夢を、国民に対し提示していただきたいのです。

以上


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