1 プランの基本方向
(基本的な目標)
プランは、明るく活力ある高齢社会を実現するため、次のように4つの柱を基本的な目標として掲げ、その実現に向けて施策を展開する。
I活力ある高齢者像の構築
II 高齢者の尊厳の確保と自立支援
III 支え合う地域社会の形成
IV 利用者から信頼される介護サービスの確立
I | 活力ある高齢者像の構築 「高齢者の世紀」である21世紀を迎えるに当たり、明るく活力ある社会を築き上げていくことが大きな課題となっている。その鍵は、今後大きな割合を占める高齢者が、社会において積極的な役割を果たしていくことである。高齢者は身体面及び経済面で「社会的弱者」と見なされがちであるが、実際には高齢者の多くは元気で社会的にも十分活躍できる方であり、このような「老人=弱者イメージ」を打破し、できる限り多くの高齢者が健康で生きがいをもって社会参加できるよう総合的に支援し、「活力ある高齢者像」を社会全体で構築していくことを目指す。 |
II | 高齢者の尊厳の確保と自立支援 健康づくりや介護予防に努めても、高齢化の進行に伴い要援護の高齢者は毎年10万人ずつ増え続けることが予想されており、介護の問題は、老後生活の最大の不安要因となっている。高齢者や家族が安心して生活を送れるようにするためには、こうした不安を解消し、家族が長期にわたる介護のために疲れ果てて崩壊することがないようにしていく必要がある。 このため、在宅福祉を基本理念として、必要な介護サービス基盤の整備を進めるとともに、介護サービスの質の確保には特に配慮する。これにより、高齢者が自らの意思に基づき、自立した生活を尊厳を持って送ることができ、家族介護者への支援が図られるような環境づくりを推進する。また、特に重要性が増している痴呆性高齢者への取組みを重点的に進める。 |
III | 支え合う地域社会の形成 すべての高齢者及び家族が住み慣れた地域で生きがいをもって暮らせるためには、地域において介護にとどまらず、生活全般にわたる支援体制を整備していく必要がある。このためには、人と人のつながりが希薄化する現代にあって、高齢者を取り巻く地域社会が果たすべき「支え合い(共助)の役割」を評価し直すことが求められる。そのため、既に幾つかの市町村で取り組まれている、住民同士による支え合いのネットワーク(体制)づくりや地域活動の拠点づくり、市町村行政への住民参画など、支え合う地域社会の形成へ向けての取り組みを積極的に支援するとともに、高齢者の居住や移動といった生活環境の整備を進め、福祉基盤の強化を図る。 |
IV | 利用者から信頼される介護サービスの確立 介護保険法の実施に伴い、高齢者の介護サービス利用は従来の措置を中心とした仕組みから、契約による仕組みへと大きく変わる。この新たな仕組みが「利用者本位」の仕組みとして定着するためには、高齢者が介護サービスを適切に選択し、利用できるような環境づくりが重要となってくる。 このため、利用者保護の環境整備に万全を期す一方で、介護サービスを担う事業者の健全な発展を目指す。これにより、国民の介護サービスへの信頼性を確立するとともに、大きな可能性を秘めた成長分野として、雇用機会の創出にも資することに配慮しながら、介護関連事業の振興を図る。 |
(プランの期間)
介護保険事業計画及び保健事業第4次計画との整合性を踏まえ、プランの期間を平成12年度から平成16年度までの5か年とする。ただし、今後の老人保健福祉計画及び介護保険事業計画の見直し等、状況の変化に応じて適宜見直すこととする。
2 | 今後取り組むべき具体的施策 以上の基本的な目標を達成するため、国、都道府県、市町村等がそれぞれの役割を踏まえ、良質な介護サービス基盤の計画的な整備と健康・生きがいづくり、介護予防、生活支援対策の積極的な取組みを車の両輪として進めていくことが重要であり、このような観点から以下の事業の適切な実施に努める。 また、国は地方公共団体が地域の特性に応じて自主的に行う高齢者保健福祉施策を支援する。 |
(1) 介護サービス基盤の整備
〜「いつでもどこでも介護サービス」〜
(施策の方向)
地方公共団体における介護保険事業計画等の状況を踏まえ、要介護高齢者の需要に応じた良質な介護サービス基盤の計画的な整備を進める。特に多くの高齢者の希望に応え、可能な限り在宅で自立した日常生活が営めるよう、在宅サービスを重視するとともに、必要な施設整備に努める。 このため、訪問介護員(ホームヘルパー)などの在宅サービスを担う人材の養成確保を図るほか、特別養護老人ホームや老人保健施設などの介護関連施設の整備を進める。 また、今後、要介護度の改善を含めた介護サービスの質の確保が極めて重要であり、人材研修を強化するとともに、寝かせきりの防止、リハビリテーションの充実など施設処遇の改善を図る。 さらに、特別養護老人ホーム退所者やひとり暮らしに不安を感じている高齢者など、生活支援を要する高齢者が居住できる施設の整備を推進する。 |
(1) | ホームヘルパー等の人材確保と研修強化 ホームヘルパーについて離島等での養成確保を支援するほか、より上級に向けた研修(ステップアップ研修)を充実。訪問看護婦をはじめとする看護職員や介護支援専門員の資質向上を推進。福祉人材センターを活用した就労支援、福利厚生センターによる職場環境の整備を推進。 |
(2) | 介護関連施設の整備 都市部、過疎地等地域の実情に応じ、特別養護老人ホーム、老人保健施設、日帰り介護施設(デイサービスセンター)、訪問看護事業所(訪問看護ステーション)等の整備を推進。少子・高齢社会を迎え、学校の空き教室の利用促進、複合施設の整備など、世代間交流、効率的整備に配慮。 |
(3) | 施設処遇の質的改善 特別養護老人ホームについて、寝かせきり防止など、可能な限り要介護度の改善を図り、在宅への復帰を進めるとともに、生活の質を改善する観点から、小集団単位(グループケアユニット)※による処遇環境の整備を推進。また、同様に、老人保健施設のリハビリテーション機能の充実及び介護療養型医療施設の療養環境の改善を推進。 |
(4) | 生活支援のための施設の整備 一人暮らしに不安を感じている高齢者や特別養護老人ホームからの退所者など、生活支援を要する高齢者が居住できる施設として、介護利用型軽費老人ホーム(ケアハウス)や高齢者生活福祉センターの整備を推進。 |
*グループケアユニット 〜 いくつかの居室や共用スペースを一つの生活単位として整備し、家庭的な環境の中で、少人数ごとに処遇する形態。 |
今後我が国で急速に増加することが見込まれる痴呆性高齢者に対する取り組みは、これからの重点課題である。痴呆に関する医学的な研究を進める一方で、痴呆性高齢者が尊厳を保ちながら穏やかな生活を送ることができ、家族も安心して社会生活を営むことができるような状態を実現することが求められている。 このため、家庭的な環境で少人数で共同生活を送る痴呆対応型共同生活介護(グループホーム)の整備をはじめとして、痴呆性高齢者に対する介護サービスの充実を図るとともに、痴呆介護の質的な向上を目指す。 また、痴呆が早期の段階からの相談体制や権利擁護の仕組みを充実する。 |
(1) | 痴呆に関する医学的研究の推進 痴呆に関する非薬物療法等の研究や遺伝子情報の解明に基づく個々人の特性に応じた医療の実現、画期的な新薬の開発など、痴呆の医療及びリハビリテーション向上のための研究を推進。 |
(2) | グループホームの整備等介護サービスの充実 今後の痴呆介護に対する需要の高まりに応え、利用者保護の観点も踏まえ、市町村との連携や地域との交流等に配慮しながら、グループホームの整備を推進するとともに、その他の在宅・施設サービスを充実。 |
(3) | 痴呆介護の質的向上 痴呆介護研究・研修体制(ネットワーク)※の整備を通じて、痴呆介護の質的な向上を図り、痴呆介護の専門職を養成。介護現場において、身体拘束禁止の趣旨を踏まえた質の高い介護サービスを実現。 |
(4) | 早期相談・診断体制の充実 老人性痴呆疾患センターの設置及び関係機関との連携を進め、痴呆性高齢者や家族に対する早期相談・診断・支援体制を充実 |
(5) | 権利擁護体制の充実 痴呆性高齢者の権利擁護のため、成年後見制度や地域福祉権利擁護事業を活用 |
*痴呆介護研究・研修ネットワーク 〜 高齢者痴呆介護研究センターを中心に、介護技術の研究・研修のための全国ネットワークを整備。 |
高齢者が健康で生きがいを持って生活を送ることができるよう、健康づくりや介護予防事業を積極的に推進するとともに、地域における生きがいづくりや社会参加を支援する。 これにより、若々しく元気な高齢者(特に心身ともに健康な前期高齢者)が、介護分野をはじめとして地域活動に積極的に参加し、地域社会を支える役割を担うことを可能とする環境を作り出す。 ※寝たきりゼロを目指す「新寝たきり老人ゼロ作戦」を発展させ、元気高齢者づくりを推進する対策として、将来的に自立高齢者の割合を9割程度に引き上げることを目指す「ヤング・オールド作戦」※を新たに推進する。 |
(1) | 総合的な疾病管理施策の推進 保健事業第4次計画を推進。特に体系的な健康度評価(ヘルスアセスメント)に基づく個別健康教育を高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙について重点的に実施。 |
(2) | 地域リハビリテーション体制の整備 地域リハビリテーション協議会及び広域支援センターを整備し、身近な医療機関においてリハビリテーションや介護予防に資する医療サービスが受けられるよう支援。 |
(3) | 介護予防事業の推進 市町村が介護予防の観点から実施する介護予防教室や地域住民のボランティアグループに対する支援事業などを支援。 |
(4) | 生きがい活動の支援 高齢者の引きこもり予防のために、生きがい活動支援通所事業(生きがい対応型デイサービス事業)などの生きがい活動を支援 |
(5) | 社会参加・就業の支援 老人クラブ活動やシルバー人材センター事業の支援などを通じ、高齢者の地域における社会参加、教養文化活動や就業を推進。 |
*ヤング・オールド作戦 〜 高齢者が、できる限り「若々しい高齢者(ヤング・オールド)」として、健康で生き生きとした生活を送れるようにするための一連の施策を名付けたもの。特に「前期高齢者(65歳〜74歳、ヤング・オールド)」に関して、積極的な社会参画を進めるねらいも込めている。 |
高齢者に対しては介護にとどまらず、生活全般にわたる支援が必要となってくる。このため、生活圏域での住民相互の支え合い(共助)を基本に置いた、地域生活支援体制の構築を支援する。 また、可能な限り、在宅で暮らし続けられるよう、高齢者に配慮した住宅整備や改修を進めるとともに、福祉施策と住宅施策の一層の連携を図る。 さらに、ボランティアや特定非営利活動法人(NPO法人)をはじめとする民間非営利団体が活動しやすい環境の整備や地方公共団体への住民参画の推進を図る。 |
(1) | 高齢化を踏まえた地域社会づくりの支援 今後の高齢化を踏まえた地域社会づくりを推進するため、地域に根差した情報支援や研究、企画づくりを支援。さらに、生活圏域における住民の支え合いのための連携体制や拠点の整備を支援。また、在宅介護支援センターによる支援・調整機能を充実。 |
(2) | 生活支援サービスの充実 高齢者に対する生活支援として、配食や外出支援、軽度生活援助などの各種サービスを行う市町村への支援を充実。 |
(3) | 居住環境等の整備 高齢者や障害者に配慮した住宅の整備を促進するとともに、高齢者世話付き住宅(シルバーハウジング)※及び高齢者向け優良賃貸住宅への生活援助員の派遣や公共賃貸住宅におけるデイサービスセンターの一体的整備など、住宅整備と在宅福祉サービスの連携による生活支援を充実。 さらに、福祉用具などを活用しながら在宅で生活できるよう住宅改修に関する研修・相談を実施。 |
(4) | ボランティア活動等の推進 ボランティアセンターやNPOサポートセンターにおける活動の場所の提供等を通じて、ボランティア活動や民間非営利活動の振興を図るとともに、特定非営利活動法人(NPO法人)の介護事業への参入を促進。 |
(5) | 住民参画の推進 高齢者保健福祉施策の企画・実施に当たっては、住民への情報公開を進め、行政の透明性を高めるとともに、住民参画を推進。 |
(6) | 広域的な実施体制 高齢者保健福祉施策を効率的・安定的に推進するため、市町村の規模のあり方や地域の状況等に配慮しつつ、広域連合等の活用など広域的な実施体制を支援。 |
*シルバーハウジング 〜 福祉施策と住宅施策の緊密な連携の下、高齢者の生活特性に配慮した設備・設計を行うとともに、生活援助員(ライフサポートアドバイザー)による福祉サービス(生活相談や緊急時対応など)を受けられるよう配慮された公共賃貸住宅をいう。 |
利用者が介護サービスを適切に選択し、利用できるような環境づくりを進めるため、介護サービスに関する情報整備や質の評価の普及、適正な契約指導などの利用者保護施策に取り組む。 また、介護サービスの質的な向上と効率化を目指す観点から、介護関連事業の健全な振興とともに、福祉用具の開発・普及を進める。 |
(1) | 利用者に対する適切な情報提供 介護サービス事業者に関する情報を電子情報網(ネットワーク)を介して提供するなどの情報整備、事業者による情報開示、介護サービスの質の評価を促進。 |
(2) | 利用者保護の推進 介護サービスに関する苦情に的確に対応し、悪質な事業者には厳正に対処するとともに、適正な介護サービス利用契約が締結されるよう、事業者指導や適切な情報提供に努力。また、個人情報保護を徹底。 |
(3) | 多様な事業者の参入促進 情報提供及び政策融資の活用などにより、多様な事業者の参入を促進。その際、事業者の健全性の確保にも十分配慮。 |
(4) | 効率的な事業運営のための情報化の推進 施設・事業者からの請求と審査事務を効率化するため、電子媒体の利用促進を図るとともに、一層の情報化を推進。 |
(5) | 介護分野における良好な雇用機会の創出等 介護分野の特性に配慮しつつ、能力開発、労働者の福祉の増進と一体となった良好な雇用機会の創出等のための施策を推進。 |
(6) | 福祉用具の研究開発、普及の促進 福祉用具※の適切な利用によって、介護サービスの効率化や要介護高齢者の自立支援が図られることに鑑み、民間における福祉用具の研究開発支援を行うとともに、国においても介護機器等研究事業を推進。 また、介護実習・普及センターの機能強化などにより、高齢者が福祉用具を適切に選択できる環境を整備するほか、施設における福祉用具の積極的導入を推進。 |
*福祉用具 〜 車いす、移動用リフトのように、心身の機能が低下し日常生活を営むのに支障のある高齢者などの日常生活の自立を助けるための用具をいう。 |
高齢者保健福祉の質的向上を図るため、その基礎を支える科学技術の研究を推進する。 また、福祉専門職の養成を進めるとともに、国民皆が介護にふれ、参画できる機会を提供する。 そのような環境づくりの中で、広く高齢者や障害者にやさしいまちづくりを進めるとともに、広く国際交流に努め、福祉文化を高める。 |
(1) | 長寿科学推進総合対策 長寿科学に関する基礎医学的研究や社会科学的研究を実施。特に、痴呆の臨床的研究、骨・関節疾患の予防治療の研究、循環器疾患等の長期縦断疫学的研究、看護・介護方法の開発を重点的に推進。長寿医療に関する診療・研究体制等の充実のため、国立高度専門医療センターを整備 |
(2) | 福祉教育の推進 介護福祉士等の福祉専門職の養成を推進。あわせて、学童、生徒のボランティア活動を推進 |
(3) | 介護に対する理解の推進 国民誰もが、助け合いの心をもって介護に参画できるよう、介護に関する実践的な知識・技術を身につけていくための施策を充実。 |
(4) | 高齢者・障害者に配慮されたまちづくりの推進 公共空間のバリアフリー化を推進するなど、高齢者や障害者にやさしいまちづくりを推進。 |
(5) | 国際交流の推進 1999年の国際高齢者年※の取組みなども踏まえ、高齢者介護等に関する国際交流を推進し、知識、技術の相互交流により、福祉文化を向上。 |
*国際高齢者年 〜 「高齢者のための国連原則」(高齢者の「自立」、「参加」、「ケア」、「自己実現」、「尊厳」)の具体化を目的として、1992年の国連総会において1999年を「国際高齢者年」とすることが決定された。 |
3 | 平成16年度における介護サービス提供量 各地方公共団体が作成する介護保険事業計画における介護サービス見込量の集計等を踏まえ、平成16年度における介護サービス提供の見込量は下記のとおりである。 |
(訪問系サービス) | ||||||||||
区分 | (新GP目標) 平成11年度 |
平成16年度 | ||||||||
訪問介護(ホームヘルプサービス) | − 17万人 |
225百万時間 (35万人)注1 |
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訪問看護訪問看護ステーション | − 5,000か所 |
44百万時間 (9,900か所)注2 |
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(通所系サービス) | ||||||||||
通所介護(デイサービス) /通所リハビリテーション (デイ・ケア) |
− 1.7万か所 |
105百万回 (2.6万か所) |
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(短期入所(ショートステイ)系サービス) | ||||||||||
短期入所生活介護/ 短期入所療養介護 |
− 6万人分 (ショートステイ専用床) |
4,785千週 9.6万人分 (短期入所生活介護専用床) |
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(施設系サービス) | ||||||||||
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム) | 29万人分 | 36万人分 | ||||||||
介護老人保健施設 | 28万人分 | 29.7万人分 | ||||||||
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(生活支援系サービス) | ||||||||||
痴呆対応型共同生活介護 (痴呆性老人グループホーム) |
− | 3,200か所 | ||||||||
介護利用型軽費老人ホーム (ケアハウス) |
10万人分 | 10.5万人分 | ||||||||
高齢者生活福祉センター | 400か所 | 1,800か所 |