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【大川委員提出資料】
社会保障審議会−福祉部会
生活保護制度の在り方に関する専門委員会
第12回(平成16年6月8日) 資料5

保護の入り口と出口における、資産保有のあり方についての意見


資産保有(活用留保)の考え方
(1) 保護申請(相談)から決定まで
 保有を容認することのメリット
  所得はないが、小額の預貯金を持っている生活困窮者に対し、保護の調査や相談を実施することで、一定の介入ができることにより、生活困窮の過程で生じるさまざまな生活問題への早期対応が可能となる。
  保護申請から決定(標準処理機関:14日、最長1ヶ月)までの間の当面の生活費を確保できることから、法外援護費貸付における実務の簡素化が期待できる。
  保護開始後に生じた必要な支出に対し、本人の判断でその預貯金を充当することができることから、現行の一時扶助支給よりも、本人の預貯金を活用させることによる自立意欲の喚起が期待できる。
  将来の経済的自立にあたっての準備に必要な経費に充当することができる。

(2) 保護廃止から、安定した経済的自立へ至るまで
停止要件→ 収入増や最低生活費減などにより、一時的に保護を必要としなくなったものの、その状態の継続性が不確実なことから、経過観察を必要とするとき。
廃止要件→ 収入の恒常的な増加、最低生活費の恒常的な減少等により、以後特別な事由が生じない限り、保護再開の必要がないと見込まれるとき。

収入増による保護廃止後に生じる生活上の問題
  新規就労時は、「試用期間」として位置付けられることが多く、雇用関係が不安定になりがちである。
  就労開始に伴い、身体状況の不調や、疾病の再発を招くことがある。
  保護基準を大幅に上回る収入がない限り、医療扶助相当分、あるいは転居費用等一時扶助対象となる特別な需要への対応が困難である。

参考:現行基準で採用されている項目と月数(例)
月数で設定している項目
入院の場合の世帯分離(6ヶ月)/入院と同時に居所を失った場合の実施機関の取り扱い(3ヶ月)/世帯員が利用している事業用品の保有における保有容認期間(1年。事業用設備は3年)/加算計上停止における累積額の基準(6ヶ月)/加算計上再開における累積額の基準(1ヶ月)/産婦加算を行う期間(3ヶ月および6ヶ月)/結核患者以外の在宅患者加算認定における治療期間/入院入所時の住宅扶助認定期間(6ヶ月。退院見込みがある場合は9ヶ月)/技能修得費認定期間(1年及び2年)/常勤就労者における収入認定(前3ヶ月)/賞与及び特別控除の分割認定(6ヶ月)/新規就労控除認定期間(6ヶ月)/一時的な保護の停止期間(6ヶ月)
基準額の倍数で設定している項目
液化石油ガス設備費の特別基準(1.5倍)/住宅費特別基準(1.3倍)/敷金等認定額(3倍)/住宅維持費特別基準(1.5倍)/保護開始時手持ち金(5割)
他法と関連している項目
自立更生計画の遂行に要する経費
【生活福祉資金/寡婦福祉資金/公害健康被害の補償等に関する法律等】


保護申請(相談)から決定まで、および保護廃止から、安定した経済的自立へ至るまでの不安定な時期は、保護受給中とは違った需要が生じる場合があり、自立助長の観点から、一定の資産保有を認める必要があると考えられる。

方法
(1)  開始時における保有容認枠を拡大する
 生活扶助基準の何か月分を、保有容認額として設定する。
 保有容認額に、上限を設定する。
 あるいは、Aで容認額を算定し、Bを上限とする。
(2)  就労を開始し、保護が廃止となったケースについて、法17条(生業扶助)に規定する「そのおそれがあるもの」として、一定の期間に限り「新規就労扶助」を支給する。
(3)  基準を上回る収入や資産のあるものに対し、第11条2項に基づいて、住宅扶助・介護扶助・医療扶助等の単給を行う。


貸付制度の限界―公的扶助制度に貸付制度を前置する場合の問題点
   生活困窮時は、担保となる物件がない限り、返済計画が立てにくい。
   貸付後に、生活が落層して結局保護申請に至ったとき、返済の問題が生じる。収入の不安定なケースに貸付制度を利用させることは、過剰与信となる危険があることから、制度供給側の審査を厳格にせざるを得ず、結果として制度が有効に機能しないおそれがある。
   生活困窮者の場合、保証人が立てられない場合が多い。
   多重債務者、あるいは多重債務経験者の場合、貸付制度利用はむしろ自立助長の妨げとなる。
   年金担保融資の利用と保護受給を繰り返す事例の発生が、すでに問題となっていることから、公的扶助制度に貸付制度を前置する制度設計は、何らかのモラルハザードを生じるおそれがある。


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