戻る

【布川委員提出資料】
社会保障審議会−福祉部会
生活保護制度の在り方に関する専門委員会
第12回(平成16年6月8日) 資料4

「能力活用、権利と義務、不利益変更」に関する提案 2004-06-08 布川日佐史
現行の規定 問題点・改正提案
1 能力活用の定義
(1)能力活用とは
「生活保護の取扱の上で問題とされる能力の活用は、一口にいえば現在直ちに発揮できる勤労能力によって自らの経済生活の維持に役立たせることである。」
(『生活保護手帳(別冊問答集)』p.393)
 
「なお、能力の活用に関し、それを側面から補足するものとして・・・他制度の活用がある。・・・能力の活用による自立助長の途は残されているのである。授産施設の利用などによる技能修得がこれであり、生業扶助の適用をも配慮しつつ最良の活用がなされるよう指導する必要がある。」(p.396)
 能力開発・キャリア形成支援を確実に行うには、目先の能力活用を求めるのではなく、中長期的な視点に立たなければならない。
 短絡的に稼働能力活用を求める近視眼的対応ではなく、能力向上・能力形成支援が、能力活用に優先することを明確にすべきである。
(2)生活努力としての能力活用
「資産や能力の活用は、生活保護法があるから初めて生ずる特殊なことではないのであって、国民各個人が誰でも行う生活努力なのである。」(p.394)
 
2 能力活用に関わる判断基準
(1)勤労能力の有無の判断
「勤労能力の有無は、通常、要保護者の年齢、性、経歴、健康状態、家族の状況などいろいろな角度から総合的に検討されるが、・・最終的には事実に基づく判断でなければならない。・・あくまでも個々のケースの実態を把握した上で、個別に判断する必要がある。」(p.395)


   左のとおりとする
(2)「就労が期待できる職業」
 
申請者の身体的能力等により社会通念上客観的にその職業に就くことを期待できない場合は、そのような職業に就くような指導指示を行うべきではない。(問424)

「保護の実施機関は本人の学歴等に相応する職を保障しなければならない公的義務はどこにもない。」(問430)
 年齢や身体的精神的条件をもとにした勤労能力の有無の判断とは別に、その人の職業能力、職歴、学歴、資格などの条件や、育児・介護など家庭の条件などをもとに、いかなる労働条件の就労先ならそこへの就労を期待できるか(「期待可能性」)を判断すべき。
「家族の看護・介護に携わっている場合は、通常相当時間身体を拘束するような職場への斡旋は適当でない。」(問431)
「新しい職場への就労強制」 (同上)
例えわずかな収入しか得られなくとも本人及びその実情からして相当の努力を払って就労していると認められる以上は、新しい職場への就労を強制するような方法は指導として避けなければならない」(p.258)
 期待可能性や就労阻害要因を明らかにするのは、保護を出すか出さないかを決めるためでなく、自立支援のためである。場合によっては、時間をかけキャリアカウンセラーなどの専門家の力を借りる。
 これが就労支援・援助計画づくりの基礎となる。
3)「許容しうる就業運動(求職活動)の範囲は、その職業に就ける見込みの程度、求職活動にかかる期間、本人とその職業の関連性等の点でおのずから限界がある。」
(問432 被保護者が選挙に立候補、p.258)

 援助計画を作成、実施していく過程で、可能な求職活動の内容を確認していく。
3 保護申請と能力活用要件  
(1)基本原則
保護の開始前の問題を捉えて適用の有無を決定するのは、機会均等、無差別平等という生活保護制度の根本趣旨に反し、特に生活保障の立法として適当でない。
いわゆる「絶対的欠格者」であろうと、生活困窮の状況に在るならば、一応先ず保護の対象とし、そこに生じた法律関係を基としてケースワーク、生活支援、自立支援の措置を講ずるものである(『生活保護法の解釈と運用』を参照)。


   左のとおりとする
(2)問題事例とそれへの対応  
「実施機関が勤労の能力ありと判断し、これを活用するよう指導、助言したのに対し、何かと理由をつけてこれを活用しようとしない者、働く能力があるかないかの調査を故意に妨害する者などに対しては、保護の開始前であれば、保護の開始を見合せる」(p.395)
 問題事例に対しては、早期にカウンセリングなど、専門的な対応が取れるような体制をつくる。
「法の趣旨、制度の建前を説明し、保護を受ける要件を満たす努力をするよう、助言援助する」(問422)
 
「急迫状態にある場合は保護を開始する。ただし、保護費を分割支給するなど、生活状況、就労努力の状況を観察しながら保護を行う。」(問404「保護を廃止したばかりの者からの再申請」)
 急迫状態にあるということで、まずは保護を適用する。
 ただし、左のような保護費の支給方法等の対応もありうる。
(3)申請を拒否できるのは、どんな場合か?  

 (1) 「労働運動のみに従事している」(問423)
 (2) 「実施機関が、申請者に職業を紹介したのに、就労稼働しない」(問424)
その者の能力の範囲内で紹介された職業に就くことをあえて拒否するものについては、生活保護法による最低生活の保障が及ばないとしても憲法上問題はない。(p.253)
 稼働能力の活用についていえば、資産の活用と異なり、活用後の収入額を見込むことは困難であり、たとえすぐに能力を活用したとしても、申請審査期間内に収入を得られるとは限らない。
 申請を拒否できるのは、最低生活を維持しうることが明確な場合に限られる。
 (28条4項の申請却下規定については、意味づけを明確にする必要がある。)
 保護受給中の権利と義務(第60条 生活上の義務)
「被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、支出の節約を図り、その生活の維持、向上に努めなければならない。」
(生活維持向上義務)
「被保護者は、生活再建に向けて、必要な助言と有効なケースワークを請求しながら、自己決定により、自らの生活の維持向上に努めねばならない。」
(1)基本原則  
生活保護法は自立助長の理念を有する社会福祉法でもあるから、単に惰民防止という見地からでなく、自立助長という見地から、受給者に対して、権利の享有に対応する義務の履行を求める必要がある(『解釈と運用』を参照)。
 (左の規定を原則としつつも、「権利への反対給付としての義務」ということでよいのかは、検討が必要。)
(2) 本条に違反してもこれに対する直接の制裁規定はない。
   左のとおりとする
3)ただし、程度をこして怠る者に対しては法第27条第1項の指導、指示を行い、それに従わない場合は、法第62条第3項の規定により保護の変更、停止または廃止をすることができる。
「程度をこして怠る者」とは、
(1) 「実施機関が勤労の応力ありと判断し、これを活用するよう指導、助言したのに対し、何かと理由をつけてこれを活用しようとしない者、働く能力があるかないかの調査を故意に妨害する者などに対しては、保護受給中であれば、法の規定に基づいて所要の指示を行い、必要なら保護の停止、廃止をすべきである。」(p.395)
(2) 「実施機関が、職業を紹介したのに、その職業を好まないとの理由で就労稼働しない」(問424)
(3) 「被保護者が裁判闘争の連絡や宣伝に日々を費やしている」(問428)
(4) 「被保護者が宗教活動にこり、宗派の宣伝に専念している」(問429)
(5) 「学歴にふさわしい手ごろな職業が見当たらないとして就労しない」(問430)
(6) 「被保護者が選挙に立候補した場合」(問432)

 給付を受ける見返りとしての就労義務と、それを果さない者への制裁という論理構成ではなく、
 就労支援を継続的に行ったにもかかわらず一向に求職活動しない、就労努力をしないなどの場合で、保護の継続が本人の自立助長を妨げる場合は、保護の不利益変更をすることもできる、とすべき。

 ただし、保護の削減や停・廃止は、最低生活以下の生活をもたらすことになるのであるから、不利益変更後の本人の生活状況を充分考慮したうえで、決定する。
 また、不利益変更後も実施機関は、ケースワークを継続するなど、継続して見守る義務を負う。
(7) 「病弱であるから適当な職がないと申し立てて、毎日遊んでいる」(問443)
検診を拒否した場合は、保護の停廃止処分を行う。
検診の結果就労可能な場合には、就労の指導を行い、必要な場合には民生委員、公共職業安定所等の協力を得て適当な職場をあっせんする。適当と認められる職場があるにもかかわらず保護の実施期間の指導に従おうとしないときは、これが就労に就き文書を持って指示し、なおかつこれに従わないときは法第62条3項の規定により保護の停止又は廃止を行うことになる。
 なお、実施機関が就労拒否と判断するに際しては、実施機関は義務として、具体的な指示として就労内容を提示すること。
5 保護受給者への指導指示、保護の停廃止  
(指示等に従う義務)
62条 被保護者は、保護の実施機関が、第30条第1項ただし書の規定により、被保護者を救護施設、更生施設若しくはその他の適当な施設に入所させ、若しくはこれらの施設に入所を委託し、若しくは私人の家庭に養獲を委託して保護を行うことを決定したとき、又は第27条の規定により、被保護者に対し、必要な指導又は指示をしたときは、これに従わなければならない。
(指示等に従う義務)
62条 被保護者は、保護の実施機関が、第30条第1項ただし書の規定により、被保護者を救護施設、更生施設若しくはその他の適当な施設に入所させ、若しくはこれらの施設に入所を委託し、若しくは私人の家庭に養獲を委託して保護を行うことを決定したとき、又は第27条の規定により、被保護者に対し、必要な指導又は指示をしたときは、従うよう努めるものとする。ただし、これによって被保護者の自由を不当に妨げることはできない。
2 略 2 略
 保護の実施機関は、被保護者が前2項の規定による義務に違反したときは、保護の変更、停止又は廃止をすることができる。


 保護の実施機関は、前項の規定により保護の変更、停止又は廃止の処分をする場合には、当該被保護者に対して弁明の機会を与えなければならない。この場合においては、あらかじめ、当該処分をしようとする理由、弁明をすべき日時及び場所を通知しなければならない。
 保護実施機関が被保護者の自立を助長する助言その他働きかけを継続して行ったにもかかわらず、当該被保護者がその働きかけに応じず自立に努めないという状況が改善されないなど、保護実施の継続が保護の目的達成に明らかに反すると認められるときは、被保護者の意見を聴取しそれを十分に斟酌したうえで、保護の不利益変更を行うことができる。
 保護の停・廃止のまえに、第1段階として、25%の給付削減を行う。

4 以下略
 第3項の規定による処分については、行政手続法第3章(第12条及び第14条を除く。)の規定は、適用しない。
 

以上、( )内のページ数、また(問 )は、『生活保護手帳(別冊問答集)』のもの。


トップへ
戻る