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障害者福祉を確実・安定的に支えていくために
〜支援費制度と介護保険制度をめぐる論点の整理と対応の方向性〜


平成16年6月4日
社会保障審議会臨時委員 高橋 清久
社会保障審議会臨時委員 岡田 喜篤
社会保障審議会臨時委員 高橋 紘士
報告にあたって

 われわれは5月31日における障害者部会長からの委嘱を受け、短期間ではあったが、今後の障害者福祉制度の方向づけについて、鋭意検討を行い、意見をとりまとめたので、以下の通り報告する。
 何らかの障害によって社会的支援を必要とする状態がすべての国民に共通の可能性として起こりうるという事実に鑑みて、障害者福祉をすべての国民の理解と協力を得て、推進することが必要となっている。このような認識に基づいて、障害を有する状態におかれた場合にその尊厳が確保できるような支援のしくみを構築することが重要であると考える。
 重要なのは、障害を有する人々がその自己決定にもとづいて、必要な福祉サービスを活用して地域で生活を営むことができるような支援の制度を良質かつ適切なサービスが提供できる持続可能な安定した制度として確立することが緊急の課題であると考える。
 これは国・地方公共団体の責務であると同時に、このような制度の確立にあたって障害当事者はいうまでもなく、広く国民各層の理解と協力と参加によって、具体化することが望まれる。
 また、支援費制度は、身体障害者や知的障害者の生活を支援する仕組みとして高い期待をもって発足したものであり、その制度的成熟は今後に委ねられているので、本来ならば、数年の経過をみて現実的な評価と今後の展望を明らかにすべきところである。しかしながら、後に述べるような様々な状況の変化や制度的課題を勘案するとき、発足したばかりとはいえ、支援費制度の将来について、速やかにその見通しを立てる必要があり、確実・安定的な仕組みを模索することが重要である。
 そもそも障害者福祉は従来から障害種別の対策が縦割りに分立し、縦割りの制度のなかで、支援に格差が生じたり、縦割りの制度のために障害の状態にあっても適切なサービスが活用することができにくい状況におかれたりすることがあり、今も解消されているとはいえない。
 今後の障害者福祉制度の再構築にあたっては、このような事態を打開し、すべての障害を有する国民が利用できる普遍的な制度であると同時に、支援が必要な障害の状態と程度に応じて必要なサービスを活用して、地域での生活が可能となるような、個別的対応も可能となるような制度構築が重要である。
 以下に、障害者福祉制度の経緯を整理し、介護保険制度との関連も含め、その問題点と課題を明らかにしたうえで、今後の方向性について提案を行うこととした。


1.障害者福祉制度と介護保険制度の経緯

(1)介護保険制度における障害者の位置づけ

 ○ 介護保険制度創設当初から、若年の障害者を対象とするかどうかは、法律上も、今後の検討課題として、積み残されていたものである。

 ○ 介護を要する高齢の障害者は、介護保険を既に利用している。

(2)契約制度に転換した支援費制度の財政方式のあり方

 ○ 福祉サービスの利用については、大きな流れとして、自己決定の尊重や利用者本位の理念に立って、措置制度から契約制度に転換してきている。

 ○ 障害者福祉は、支援費制度によって措置制度から契約制度となり、高齢者福祉は、介護保険制度によって措置制度から契約制度となった。

 ○ 契約制度のもとで、その理念を活かし、維持していくためには、税方式による制度と、国民の共同連帯(支え合い)の考え方に基づく社会保険方式のいずれがより望ましいのかということが問題となる。

2.支援費制度をめぐる状況の変化

(1)サービスの利用の伸び

 ○ 平成15年4月からの支援費制度の導入により、ホームヘルプサービスやグループホーム等のサービス利用が急速に伸びてきている。

 ○ 今後、さらに利用者が増え、利用が急速に伸びることも予想されるが、これに確実に対応していく必要がある。

 ○ また、支援費制度のもとでは、サービスの利用状況に大きな地域差がみられ、この地域差を縮小していくことも課題である。

(2)三位一体改革による地方分権の推進

 ○ 政府として、地方分権を推進し、住民に身近な自治体が地域の実情にあった形で責任を持って行政を推進するため、平成16年度からの3年間で4兆円の国庫補助負担金を削減し、権限と財源を地方に移譲する方向が打ち出された。

 ○ 障害者福祉をはじめ福祉施策の国庫補助負担金について、全国市長会等から一般財源化が求められている。

3 制度的な課題

 ○ 精神障害者、障害児(施設サービス)は、支援費制度の対象に含まれておらず、別立ての制度になっている。

 ○ 税方式を基本としたままでは、障害者問題が国民的な議論の対象となりにくく、結果として、地域生活支援の展開が図りにくい。

 ○ 支給量等の決定についての詳細な基準がなく、これも地域差の原因となっていると考えられる。

 ○ 障害の程度や状況に応じて、適切なサービス利用を促進し利用者の自己決定を支援するためのケアマネジメントが制度化されていない。

 ○ 障害種別や年齢によって福祉制度が縦割りになっており、身近なところでサービス提供するための高齢者介護サービス資源等の有効活用が難しい。

 ○ 安定的な財源が確保されておらず、サービスの伸びに確実かつ計画的に対応することが難しい。

 ○ また、契約制度を支える上で必要な権利擁護の仕組みが十分とはいえない。

 ○ 措置制度時代からの課題である、地域生活の保障や就労支援、重度な障害者への対応などが進んでいない。

4.支援費制度改革の方向性

 ○ 以上のような諸課題を解決していくためには、今後、客観的な制度上の基準や手続きを定めるとともに、安定的な財源確保を図ることができるようにした上で、ケアマネジメント制度の導入、精神障害者や障害児等を対象とすること、計画的なサービス提供体制の整備、政策課題への対応などを進めていく必要がある。

5.介護保険制度との関係

 ○ 前述したような支援費制度の改革の方向性を考えた場合、
  (1)支援費制度をこのまま継続する方向
  (2)介護のサービスを介護保険制度に組み入れる方向
がありえるが、自己決定の尊重などの理念を堅持しつつ、制度的な諸課題を着実に解決していくためには、支援費施行後の状況の変化も勘案すると、(2)が有力な選択肢である。

 ○ この場合、介護保険制度の枠組みを活用する障害者施策の範囲をどのように考えるかについて介護保険制度で対応する「介護」の範囲を整理するとともに、この「介護」の範囲に収まらない施策については介護保険制度とは別建ての施策体系を構築し、両者があいまって、障害特性を踏まえた障害者福祉の制度体系を構成する必要がある。

障害者施策の図

 ○ 制度設計に際しては、例えば、
  ・現行の要介護認定基準で、知的障害者や精神障害者等についての介護の必要度が適切に反映されるのか。
  ・支給限度額内では必要なサービス給付をまかなえない場合の対応をどうするか。例えば、施設から地域に移行する人の生活を保障する方策をどのように構築するのか。
  ・介護保険制度ではサービス利用時に応益負担が原則になるが、低所得者についての対応をどうするか。扶養義務者の負担をどう考えるか。
  ・介護と介護以外の分野を通じた障害者の生活全般にわたり、かつ、適切な内容のケアマネジメントをどのように利用者に保証するか。
  ・契約制度が実効あるものとして機能するための権利擁護の仕組みや成年後見制度の活用の在り方、および契約制度が機能しない場合の制度の在り方
といった点を検証・議論し、適切な結論を得る必要がある。

 ○ この改革は、介護保険制度を、年齢、障害の種別、疾病の種類等を問わず、介護を必要とする人を国民全体で支え合うユニバーサルな(普遍的な)仕組みとすることができる。

 ○ このような仕組みのもとでは、サービスを必要とする人が確実に利用できるようになるだけではなく、「障害」を国民にとってより身近な存在とし、共生社会へ近づけることにつながるものである。

 ○ こうした制度改革の過程において、自己決定の尊重と自立した日常生活の支援という、介護保険制度が元来有する理念の確認と一層の徹底が求められる。

 ○ なお、上記の障害者福祉制度のあり方とともに、保健医療、住宅や所得保障、就労支援、バリアフリーの推進等の総合的施策の推進が必要なのはいうまでもない。この点については、今後、そのあり方について本部会で論議を深めるとともに、それぞれの場での検討が深められ、総合的な障害者施策体系の再構築が進むことを期待したい。



(参考)  審議会等における議論の経緯

平成8年6月10日 老人保健福祉審議会(介護保険制度案大綱・答申)
 ○ 当審議会は、老化に伴い介護が必要な者が、自らの意思に基づきニーズに応じた介護サービスを利用できる、新たな介護制度を創設すべきであるという点で、意見の一致をみた・・・
.なお、このほか、制度運営等に関する具体的な項目について、次のような意見があった。
(8) 成人障害者の適用に関しては、障害者の保健福祉サービスのあり方全体の検討が行われているところであり、既存制度の活用を含め、今後さらに慎重に検討を続ける必要がある。

平成8年6月10日 身体障害者福祉審議会(意見具申)
・・・言うまでもなく、介護に対するニーズは、年齢や障害の原因を問わず、すべての国民が豊かな暮らしを送っていく上で共通して必要なものであり、地域における要介護者の支援体制は、高齢者・若年者にかわるところなく整備していく必要がある。
・・・しかしながら、障害者施策のうち、介護ニーズへの対応について介護保険制度に移行することについては、(1)障害者施策が公の責任として公費で実施すべきとの関係者の認識が強い点、(2)身体障害者以外の障害者施策が一元的に市町村で行われていない点、(3)障害者の介護サービスの内容は高齢者に比べて多様であり、これに対応したサービス類型を確立するには十分な検討が必要であること、(4)保険移行に当たっては、障害者の介護サービスをはじめとして現行施策との調整が必要と思われる点、等なお検討すべき点も少なくなく、また、これらの点についての関係者の認識も必ずしも一致していない
・・・今後この問題については、当審議会としてさらに十分に議論を重ね、また、必要に応じて関係審議会とも連携をとりながら、障害者施策にふさわしい介護サービスとその財政方式のあり方を模索していくこととする。この検討の結果が、介護保険制度案大綱で予定されている将来の見直しにおいて、適切に反映されることを期待するものである。

平成8年11月29日 介護保険法案・閣議決定
   附則
 第二条 介護保険制度については、この法律の施行後における介護を要する者等に係る保健医療サービス及び福祉サービスを提供する体制の状況、保険給付に要する費用の状況、国民負担の推移、社会経済の情勢等を勘案し、並びに障害者の福祉に係る施策、医療保険制度等との整合性及び市町村が行う介護保険事業の円滑な実施に配慮し、被保険者及び保険給付を受けられる者の範囲、保険給付の内容及び水準並びに保険料及び納付金(その納付に充てるため医療保険各法の規定により徴収する保険料又は掛金を含む。)の負担の在り方を含め、その全般について検討が加えられ、その結果に基づき、必要な見直し等の措置が講ぜられるべきものとする。


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