戻る

5.おわりに

1)研究成果に対する主な評価結果
 厚生労働科学研究費補助金の成果を評価した結果、成果は学術誌に掲載されているとともに、行政的課題の解決に役立っていることが明らかになった。厚生労働科学研究費補助金では、厚生労働行政への政策支援的要素の強い研究課題が少なくない。そのため、公募する研究課題を事前に公表して申請を受け付けており、行政からの要請に各研究が的確に貢献しているのは、このような採択プロセスも関係しているものと考えられる。

2)厚生労働科学研究費補助金の「必要性」について
 厚生労働科学研究費補助金において実施されている研究の多くは、厚生労働省の施策の根拠を形成する基盤であり、厚生労働省として実施する意義、行政的意義が極めて大きい。ただし、その行政的要請は、総合科学技術会議が指摘する通り、「科学技術的要素が強いもの」「政策支援的要素の強いもの」および「行政事業的要素が強いもの」など、いくつかの要素に分類できる。
 厚生労働科学研究費補助金制度は、この指摘に対応して、それぞれの要素を考慮し、平成15年度から「行政政策分野」「厚生科学基礎分野」「疾病・障害対策分野」、および「健康安全確保総合分野」の4分野に分類することになった。たとえば「行政政策分野」は行政施策への政策支援が要請されており、また「厚生科学基盤研究分野」では政策的に重要で臨床に直結する学術的成果が期待されている。4つの研究分野においてそれぞれ要請されている要素を明確に整理して、それぞれの領域で行政的に「必要な」研究課題の公募がなされていると考えられる。

3)厚生労働科学研究費補助金の「効率性」について
 厚生労働科学研究費補助金においては、1研究課題あたりの金額は23,214千円であり、他の研究制度に比べて金額的に多いものではない。しかし、研究班を構成する研究者らの協力により広範な症例が収集されるなど、研究は効率的に実施されている。厚生労働科学研究費補助金は、保健医療福祉の現場にある実践者らの関与により研究が実施され場合が多く、実践者の積極的な協力が、保健医療福祉分野の現状把握と課題の解決に大きな役割を果たしていると考えられる。
 限られた予算の中で、研究課題を公募のうち28.6%の新規課題を採択し、研究を実施することにより、必要性、緊急性が高く、予算的にも効率的な研究課題が採択され、研究が実施されていると評価できる。研究期間は原則最長3ヵ年であり、研究課題の見直しに反映されるため、効率性が高いと考えられる。
 また、評価方法についても適切に整備され、各評価委員会の評価委員がその分野の最新の知見に照らした評価を行い、その結果のもとに研究費が配分されていることから、効率性、妥当性が高いと考えられる。中間評価では、当初の計画通り研究が進行しているかの到達度評価を実施し、必要な場合は継続を変更・中止を決定することにより、効率的に研究費の補助がなされているのかについて評価している。

4)厚生労働科学研究費補助金の「有効性」について
 いずれの事業においても、研究課題の目標の達成度は高く、行政部局との連携のもとに研究が実施されており、政策の形成、推進の観点からも有効性の高い研究が数多く実施されていた。また、成果は国際的な学術誌へも多数報告されており、治療等の開発を通じて国民の福祉の向上に資する研究が国際的な水準でなされていると考えられる。
 なお、成果は4つの研究分野でそれぞれ特徴がある。学術的な成果が多く見られる研究分野がある一方で、原著論文や特許が少ない研究分野においては施策の形成への反映において効果が高い研究事業があることが見受けられるからである。
 このように、政策課題への支援、および治療等の開発を通じた学術研究の成果が、厚生労働科学研究は各研究分野ごとで適切になされていることは、この制度の「有効性」の一端を示している。

5)本評価の課題
 今回の調査は、施策の形成等への反映件数について主任研究者及び所管課において内容と件数を記述した資料より作成したものである。施策への反映は社会的な状況により大きく左右されること、また研究補助期間を終了してから成果が出るまでに時間が必要なことなど、より適切な評価方法の改善を引き続き検討していく必要である。
 また、厚生労働科学研究費補助金制度は、研究者がさらに高い研究目標を目指すことを勇気づけながら、研究開発の目標達成や成果の社会的還元の意義を研究者が一層自覚する仕組みを開発していく必要がある。研究規模を大きくするが同時に成果を問う研究事業をモデル的に検討するという方法も一案であろう。
 研究機関が競い合って社会的な課題の解決に取り組む競争的環境を育むために、研究評価の具体的基準及び評価体制をさらに整備していく必要がある。厚生労働科学研究費補助金は、公募課題の設定等において研究の必要性に留意しつつ、研究者の独創的な発想による研究成果を期待できる競争的資金を活用した研究の活性化と成果の還元が今後も求められる。

6)おわりに
 厚生労働科学研究費補助金は、「厚生労働科学研究の振興を促し、もって、国民の保健医療、福祉、生活衛生、労働安全衛生等に関し、行政施策の科学的な推進を確保し、技術水準の向上を図ること」を目的とする研究事業の総称であり、保健医療分野における国内および国際的な知的基盤の形成に関する研究、科学技術の成果を臨床に応用する研究など種々の研究を実施している。
 厚生労働科学研究においては、学術的に成果が高い研究事業、特許等の成果が上げられている事業と行政的な成果が上げられている事業がある。それぞれの領域において行政的な貢献および学術的成果という2つの観点から評価した結果、その力点が異なることが明らかになった。このことは、評価の重点を調整しながら研究分野ごとで柔軟に評価する必要性を示唆している。今後も適切な評価指標の開発を進める必要がある。


参考文献

1.厚生科学審議会科学技術部会.厚生労働科学研究費補助金の成果の評価.平成15年5月30日.
2.総合科学技術会議.競争的研究資金制度の評価.平成15年7月23日, p18-22.
3.厚生労働省の科学研究開発評価に関する指針.平成14年8月27日(厚生労働省大臣官房厚生科学課長決定.


トップへ
戻る