04/05/21 労災保険制度の在り方に関する研究会第7回議事録          第7回労災保険制度の在り方に関する研究会議事録           第7回労災保険制度の在り方に関する研究会                        日時 平成16年5月21日(金)                           15:00〜                        場所 厚生労働省専用第12会議室 ○島田座長  ただいまから「第7回労災保険制度の在り方に関する研究会」を開催いたします。今 回の研究会から、新たに京都大学大学院法学研究科の西村健一郎先生に議論に参加して いただくことになりましたのでご紹介いたします。西村先生には、すでにこの研究会の 中でも一度おいでいただき、ドイツに関して詳しくお話を聞いたところでございます。  なお、本日は加藤先生、土田先生、山川先生の欠席に加えて、保原先生も急遽欠席と いうことになりました。  また、中断をいたしましたので、事務局のメンバーも大きく入れ替わっているかと思 います。事務局からご紹介いただきます。 ○労災管理課長(杉浦)  平成14年2月から7月までの6回ほど研究会を開催いたしまして、主に通勤災害保護 制度についてご議論いただいてきましたが、今般、同じく厚生労働省の中の検討会で、 昨年から「仕事と生活の調和に関する検討会議」を行っているところであり、本研究会 からも山川先生にメンバーになっていただいております。その中の論点の1つとして、 二重就職者等複数の仕事を持つ者への対応ということが議論されております。特に、二 重就職者に対する通勤災害保護制度の見直しということもその1つに入ってきたもので すから、一度中断をしていたこの議論について、さらに検討を進めていただき、できれ ばそちらの状況も見つつ、報告書の取りまとめに持っていけたらと考えております。是 非ともよろしくお願いいたします。  それでは事務局の紹介をさせていただきます。労災保険業務室長の明治、労災保険財 政数理室長の南、労災管理課課長補佐の久知良、補償課長の菊入、補償課課長補佐の渡 辺でございます。労災補償部長は高橋に替わっておりますが、外部の会合に出ておりま して遅れて参りますのでよろしくお願いいたします。 ○島田座長  早速、本日の議題に入ります。本日の議題は「通勤災害保護制度の見直しについて」 ですが、すでにこの研究会で議論をしてきた問題であり、それをまとめる形で事務局か ら資料が提出されておりますので、説明をお願いいたします。 ○労災管理課長  通勤災害保護制度の見直しについては、これまでの議論で論点がかなり明確になって いると思われます。それらの論点をどう考えるかについて、これまでの議論を踏まえつ つ、事務局でたたき台を用意させていただきましたので、久知良補佐から説明いたしま す。 ○労災管理課課長補佐(久知良)  資料1は「通勤災害保護制度の見直しに当たっての論点とそれに対する考え方(たた き台)」です。この議論については、本研究会の場でかなり詰めた議論がなされており ますので、その議論を踏まえて、主要な論点と思われるものとそれについての考え方 を、議論のたたき台になるように取りまとめたものです。  資料2以降については、すでに配付したものを再び配付したものですが、簡単に説明 いたします。資料2は「通勤災害保護制度の創設の経緯」を改めてまとめたものです。 昭和22年創設当時には、労災保険法は事業主の災害補償責任について保険の方式で担保 するということで、「業務上の災害」に対する保護に限定されていたわけです。  その後、交通事情等の変化に伴い、労働者が通勤の途中で災害を被ることも多くなっ たこともあり、通勤災害について、保護の対象にすべきかどうかという議論が出てきた わけです。結果として、昭和48年から、通勤災害についても労災保険の保護の対象にし たということです。  通勤災害を労災保険の保護の対象としたときの考え方については、資料2の3に書か れているとおりですが、(1)は、社会の実態の問題として、企業の都市集中、住宅立地 の遠隔化等によって通勤難が深刻化し、通勤途上の災害が増加していたということがあ りました。(2)は、通勤については、労働者が労務を提供するために不可欠な行為であ り、単なる私的行為とは異なったものという評価ができるわけです。(3)は、通勤災害 を社会全体の立場から見たときにも、産業の発展や通勤の遠距離化等のために、ある程 度不可避的に生ずる社会的な危険となっており、労働者の私生活上の損失として放置さ れるべきものではなく、何らかの社会的な保護制度の創設によって対処すべきものであ る。このような考え方に基づき、通勤災害が労災保険制度の保護の対象とされたという 経緯があったわけです。  資料3は「通勤災害保護制度の内容」なので、いまさら改めて詳しく説明するまでも ないわけですが、2のように、保護の対象となる「通勤」の範囲については、現在、労 働者が「就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復す ること」となっておりますので、住居と就業の場所の往復に限定されていることから、 いわゆる二重就職者における事業場間の移動についてどうするか、あるいは単身赴任者 が帰省先の住居と赴任先の住居を移動するときに、保護の対象にすべきではないか、と いう議論が出てくるわけです。  資料4は、二重就職者がどれぐらいいるのかを数字で捉えたものです。ここで言う二 重就職者数とは、本業が雇用者で、かつ、副業も雇用者である者の数として捉えており ますが、昭和62年の段階では大体55万人、平成14年では81万5,000人であり、平成9年 と14年を比べると少し減っていますが、傾向としては、おそらく増加傾向にあると捉え ることができるのではないかと思われます。  資料5は「単身赴任者数の推移」です。ここで言う単身赴任者数とは、雇用者であ り、単身で、かつ、有配偶である者の数で捉えております。昭和62年の総務省の「就業 構造基本調査」では、女性の単身赴任者数をそもそも捉えていなかったこともあって、 昭和62年当時と男女計の比較はできないのですが、男性だけで見たときにも、41万9,000 人であったものが、平成14年では71万5,000人に増加している実態があるわけです。男 女計で見たときに、平成9年は79万1,000人ですが、平成14年は83万4,000人となって おります。  資料6は単身赴任者が帰省先の住居から赴任先の住居に移動しているときに、通勤災 害に遭った場合の判例で、平成12年の秋田地裁のものです。ある意味これが、単身赴任 者の帰省先住居と赴任先住居間の移動について、どのように取り扱うべきかを検討する きっかけとなった判例です。この判例自体は、判決の概要にあるように、個別のケース として、鳶職人が工事現場と一体となった付帯施設である赴任先住居に向かったケース でしたので、「就業の場所」に向かうことと質的には同じであることから、「就業の場 所」と同視できるということで、現行の労災保険法の通勤の住居と就業の場所の間の移 動に当たると判断して、救済をした事案です。このケースについてはそのような形で救 済はされていますが、一般的には、帰省先住居と赴任先住居の間の移動について保護す べきかどうかという論点は、この判決だけではクリアできないわけで、その点について はまさにこの場で検討しているわけです。  資料7は第6回研究会で配付したものです。資料8と9は実態の調査研究で、資料8 が「二重就職に係る通勤災害制度創設のための調査研究」、資料9は「単身赴任に関す る実態調査報告書」です。これらについても、後ほど資料1の論点とそれに対する考え 方を説明する際に、必要な部分を紹介したいと思います。  資料1に戻り、「見直しに当たっての論点とそれに対する考え方」について説明いた します。1−1は主要な論点で、1−2はそのような論点から派生する論点という位置 づけとご理解ください。主要な論点としては、1−1の二重就職者の事業場間の移動を 通勤災害保護制度の対象とするかどうか、2−1の単身赴任者の住居間の移動につい て、通勤災害保護制度の対象とするかどうか、3−1の二重就職者に係る給付基礎日額 について、現在の取扱いでいいのかどうか、4の逸脱・中断から戻ったときに、通勤と されるという特例的取扱いをする範囲について現在のままでいいのかどうか、といった ことがあるわけです。  1−1は、二重就職者の事業場間の移動を通勤災害保護制度の対象とするかどうか、 という論点です。現在、その実態を見たとき、二重就職者の数字としては、先ほど紹介 しましたように、昭和62年から平成14年の比較では、55万人から81万5,000人と増加し ている傾向にあります。ワークシェアリングの推進、企業における副業解禁の動きとい ったことから、今後も増加する可能性があるのではないかと考えられるわけです。  問題となる二重就職者が事業場間を移動するということが、どれぐらい本当に行われ ているかということについては、資料8の3頁に、勤務地から勤務先へ自宅に寄らずに 直行する比率が書かれております。大体「毎回直行する」が30.1%、「直行することの 方が多い」が16.1%、「直行することの方が少ない」が15.8%、「直行することは全く ない」という人も約3割ぐらいはいらっしゃるわけです。いずれにしても、「毎回直行 する」、あるいは「直行することの方が多い」という人を合わせると46.1%、「直行す ることの方が少ない」という人も合わせれば、6割以上の二重就職者が、何らかの形で 事業場間の移動を行っている実態があると思われます。  資料1に戻り、そのような移動を通勤災害保護制度の保護の対象にするかどうかにつ いてどう考えるか、2で少しまとめております。住居から事業場までの移動とは、本来 その事業場へ労務を提供するために不可欠な行為ということで、現在、通勤災害保護制 度の対象となっていると思われます。第1の事業場から第2の事業場への移動について も、第2の事業場に対する労務の提供に不可欠な行為という評価はできるのではないか と考えられます。通常、第1事業場から第2事業場へ直接向かう場合については、特に 私的行為は介在していないということがあるので、住居から事業場までの移動に準じて 保護する必要性が高いと考えられるのではないかと思います。  (2)は、その数は今後も増加することが見込まれ、二重就職者の事業場間の移動に ついては、ある程度不可避的に生ずる社会的な危険であると評価できるのではないか。 そうなると、労働者の私生活上の損失ということで放置すべきものではない、という考 え方ができるということです。  (3)は認定の問題ですが、二重就職者の事業場間の移動について、自宅と事業場間 の移動と同様、反復継続性があるので、認定も容易なのではないかと考えられます。  このようなことから、二重就職者の事業場間の移動についても、通勤災害保護制度の 対象とすることが適当であると考えられるということで、一応たたき台としてはまとめ ております。  論点1−2は、1−1について、そのようなものを保護することが適当であるという 前提に立つと、このような問題が出てくるというものです。第1事業場から第2事業場 への移動中の災害について、第1事業場の保険関係で処理するか、第2事業場の保険関 係で処理するかという問題です。このようなことを議論する実益として、労災保険の中 の問題としては、1の(注)のように、事業主が証明をしなければならない場合、どち らの事業主が証明をしなければいけないのかを決める際にも、第1事業場、第2事業場 のどちらの保険関係で処理されるのかを明らかにしておく必要があるということです。 同じように、もう1つの必要性としては、例えば国公災から労災保険適用事業場への移 動の際、どちらの制度が適用されるかについて考え方を整理する意味でも、同じことを 検討しなければいけないと思われます。  2は、第1事業場で就業を終えた労働者は、第2事業場を考えなければ、本来、自宅 に帰るとか買物に行くなど、さまざまな行動が選択できるはずですが、第2事業場で就 業しなければならないために、第1事業場から第2事働場への移動を余儀なくされると 捉えられるので、この移動とは第1事業場での就業を終えたことにより生ずる移動とい う性質よりは、第2事業場での就業のために生ずるという性質が強い、このような整理 がされるのではないか。そうした場合、第1事業場よりも第2事業場での保険関係で処 理することが適当であると、一応このたたき台ではまとめさせていただいております。  論点2−1は単身赴任者の住居間の移動について、通勤災害保護制度の対象とするか どうかについてです。単身赴任という形態を考えたときに、労働者を自宅から通勤困難 な場所で就労させなければならないという事業主側の事情、業務上の必要性というもの と、一方で、持ち家があったり、子どもの転校を避けるなどといった労働者側の家庭の 事情を両立させるために、やむを得ずこのような形態になる場合が多いのではないかと 考えられます。先ほども述べましたが、近年、増加傾向にあります。  次に、単身赴任者が、赴任先住居と帰省先住居との間の移動をどれくらい行っている かという実態ですが、資料9の2頁、「ほぼ毎週」帰省する人は29.9%、「月に2〜3 回」が31.2%、「月に1回」が28.6%、「その他・無回答」が1割おりますが、9割ぐ らいの人は月1回以上は帰省しているという実態があります。  資料9の4頁は労働者が帰省する際の経路で、一旦赴任先住居に戻ってから帰省する のか、あるいは直接仕事場から帰省をしているのかということですが、短期休暇の場 合、「ほぼ毎回自宅へ戻る」は24.6%、「自宅へ戻る方が多い」は14.8%。ここで言う 自宅とは赴任先住居のことですが、これを合わせると39.4%で、4割の人が一旦赴任先 住居に戻ってから帰省しています。長期休暇になると、一旦自宅に戻る人の比率はさら に上がり、「ほぼ毎回自宅へ戻る」と「自宅に戻る方が多い」を合わせると、48.5%と なっています。  5頁は、帰省先住居から勤務に戻る際の経路です。短期休暇のときは、「ほぼ毎回自 宅へ帰る」が57.7%、「自宅へ戻る方が多い」が10.2%で、大体7割近くの人は一旦自 宅へ戻ることになっております。長期休暇についても大体同じような傾向で、7割ぐら いの人は一旦自宅へ戻るということで、保護の対象とすべきかどうかが問題になってい る赴任先住居と帰省先住居の移動は、かなりの割合で行われているという実態がありま す。  資料1、5頁に戻りますが、そのような実態があることを踏まえて、考え方の整理を しています。単身赴任という形態は、事業主側の業務上の必要性と労働者側の家庭の事 情とを両立させるためにやむを得ず行っているわけですが、そのようなことからすれ ば、勤務先で労務を提供している労働者が、赴任先から家族のいる帰省先住居に移動す ることは、ある意味必然的に行わざるを得ない移動と考えられるわけです。さらに、前 記の事情を踏まえれば、単身赴任という就労形態を選択することは、ある程度不可避で ある場合が多いのではないかと考えられますから、赴任先住居と帰省先住居間の移動の 際に災害に遭う危険は、ある程度は不可避的に生ずる社会的な危険であるという評価が できるのではないか。単に労働者の私生活上の損失として放置すべきではないのではな いか。  (2)は、赴任先住居と帰省先住居との間の移動についても、反復継続性ということ で言えば、自宅と事業場間の移動ほどではないにしても、一定の反復継続性があると考 えられますので、認定についても容易なのではないかと考えられます。  (3)は、赴任先住居と帰省先住居間の移動について、保護の対象にすることが適当 だとしても、業務との関連性のない移動については通勤災害保護制度の趣旨からすれ ば、省かざるを得ないのではないかということです。  論点2−2は、単身赴任者の赴任先住居と帰省先住居の間の移動を一定程度保護すべ きという立場に立ったとき、どの範囲で保護することが適当かというものです。前提と して、単身赴任者の帰省先住居と赴任先住居の移動の実態を、「単身赴任に関する実態 調査報告」の中で見ると、帰省の頻度は先ほど説明したように、大体月1回以上帰省し ている人が9割ぐらいという状況になっています。  帰省に要する時間というのが、資料9の8頁にあります。短期休暇の場合、帰省の所 要時間は「2〜4時間」が50.8%、「4〜6時間」が25.1%、「2時間未満」が16.6% で、少なくとも2時間以上かかっている人が8割程度いるということです。さらに、4 時間以上かかっている場合で捉えても3割程度いることになります。  (2)の帰省する際の経路については先ほど紹介したとおりですが、赴任先住居に戻 ってから帰省の出発までに、通常どのようなことを労働者が行っているかという実態に ついては、資料9の6頁に出ています。「帰省の準備」をやっている人がいちばん多い のですが、「掃除・洗濯等の家事」をやっている人、「食事」「睡眠」などが大多数を 占めております。  赴任先住居に戻ってから帰省先に出発するまでの時間はどれぐらいかかっているかと いうのは資料9の9頁に出ております。短期休暇の場合ですが、赴任先の住居に職場か ら戻って、大体「2時間以内」に出発している人が71.3%、「2〜6時間」が16.2%。 おそらく、この辺は仕事から帰って当日出発しているイメージで捉えられるのではない かと思いますから、大体9割ぐらいの人が当日出発している感じになると思います。  一方、帰省先から赴任先住居に戻る場合ですが、出勤の当日に戻るかどの程度前に戻 るかというデータが資料9の10頁に出ております。大体「1日前」が7割以上を占めて います。「2時間前以内」が15%、「2時間前〜出勤同日」が9%で、7割以上が前 日、20数パーセントが当日となっています。  3番は、これらの実態を踏まえてまとめたもので、赴任先住居から帰省先住居の移動 については、大半は当日又は翌日に行っていること、赴任先住居については、帰省の準 備や家事等の日常生活に必要な最小限の行為のみを行って出発している場合が多い、と いう実態があります。(2)は、仮に当日の移動しか保護しないということになったとき、 業務の終了時間や交通事情等によって、当日の移動ができない場合もあるのではない か。先ほどあったように、帰省に要する時間は2時間以上かかる場合が8割であって、 4時間以上の場合も3割程度という実態もありますので、当日に移動したくてもできな いという状況もあるだろうと思われます。そのような意味では、当日の移動だけを保護 することになると、やや狭きに失することになるのではないかと思います。  (3)について、現行制度においても、直接事業場から帰省先住居に向かう場合につい ては、通勤災害保護制度の対象としているので、そのような意味では、直接事業場から 帰省先住居へ向かう場合との均衡も含めて、当日又は翌日に行われる赴任先住居から帰 省先住居への移動というのは、通勤災害保護制度の対象とすることが適当ではないか。 帰省先住居から赴任先住居への移動についても、出勤当日又は前日に移動している人が 大半ですから、この場合も帰省に要する時間は2時間以上かかる場合が8割程度あるこ とを勘案すれば、出勤に備えて前日に移動している場合が多いのではないかと考えられ ます。現行制度において、帰省先住居から事業場へ向かう場合については対象としてい ることは、先ほどの場合と同じですから、当日又は前日に行われる帰省先住居から赴任 先住居への移動については対象とすることが適当ではないか。  4は、当日又は翌日、当日又は前日に行われる移動であっても、明らかに業務と関連 しない目的であるものについては、通勤災害保護制度の趣旨からすれば保護の対象とす ることは適当ではないと考えられます。  論点3は二重就職者の給付基礎日額の問題ですが、現在は被災事業場でもらっていた 平均賃金を基礎にして算定されます。通勤災害についても、現在保護されるのは、基本 的には住居と就業の場所の往復だけですから、その就業の場所、その事業場においても らっていた平均賃金を基礎に、給付基礎日額が算定されるわけです。仮に、二重就職者 の事業場間の移動を通勤災害として認める場合については、どちらの事業場の平均賃金 を基礎として算定するのかという問題が1つ出てくるわけですが、それ以前に、そもそ も労働者が被災したときに、そうした稼得能力を補填するという労災保険制度の目的か らすると、業務災害の場合も含めて、二重就職者の給付基礎日額の取扱いは今のままで いいかどうか、検討の必要があると考えられます。  2番は、基本的には労働者が2つの事業場で働き、両方から賃金をもらっているとき は、その両方を基に生計を立てているという状況があるわけです。その場合、労災で障 害を負って労働不能になったり、あるいは死亡した場合について、障害(補償)年金や 遺族(補償)年金の給付基礎日額は、被災した一方の事業場から支払われていた賃金だ けを基に算定されているという状況があります。結果として、失われる稼得能力は2つ の事業場から支払われる賃金の合算分であるにもかかわらず、実際に労災保険で補填さ れるものは片方の事業場で支払われていた賃金に限定されることになるわけです。この ような稼得能力と実際に補填される部分の乖離は、本業のほうが賃金が高く、副業のほ うが賃金が低いという労働者が、副業の事業場側で被災した場合に、より顕著に出てく るわけです。  なお書きで書いておりますが、厚生年金保険法の老齢厚生年金や健康保険法の傷病手 当金については、複数の事業所から報酬を受ける被保険者については、複数の事業所か らの報酬の合算額を基礎とした給付がなされるということで、社会保険の中でも、複数 の事業所の報酬の合算という考え方を取っているものもすでにあります。  3は、そのようなことからどう考えるかですが、労働者の稼得能力の填補という労災 保険の目的からすれば、できる限り稼得能力を給付に的確に反映させることが適当であ ると考えられますので、基本的には、複数の事業場で賃金を受けていた者については、 それらを合算したものを基礎にして、給付基礎日額を定めることが適当ではないかと考 えられます。  4は、労災保険の給付基礎日額をそのように扱うと、労働基準法の使用者の災害補償 は労働基準法上の平均賃金に基づいて行われることになっていますので、こちらをどう 扱うかが問題になるわけです。その点について、労働基準法の災害補償は個別の使用者 の無過失責任に基づいて行われ、さらにその違反には刑罰が科されてしまうということ が1つの考慮事項です。2つ目の考慮事項としては、平均賃金は、災害補償の算定の基 礎だけではなく、労働者の解雇予告手当、休業手当、年次有給休暇のときに支払われる 賃金の基礎といったものにも用いられることになっておりますので、これを両方の事業 場の使用者から支払われていた賃金の合算というように扱うと、やや不合理な結果にな ってしまうのではないかと考えられます。したがって、平均賃金については従来どお り、業務災害の発生した事業場の使用者が払った賃金というものを基礎として算定する ことが適当ではないかと考えます。  以上のことから、労災保険法の第8条第2項に、給付基礎日額については平均賃金に 相当する額を給付基礎日額にすることが適当でないと認められるときについては、厚生 労働省令で定めることができることになっていますので、このような考え方を踏まえ て、厚生労働省令で算定方法を規定することが適当であると考えられます。  論点3−2ですが、そのように給付基礎日額を合算するという考え方を取った場合、 メリット制の適用をどうするかが問題になってくるわけです。労災保険においては、事 業主の負担の公平性と災害防止努力の促進という考え方から、個々の事業場の労災保険 の保険給付の額に応じて、保険料の額を一定の範囲で増減させるメリット制が採用され ております。災害を起こして、事業場の保険で保険給付が支給されることになると、保 険料をその分上げるという考え方です。このときの判断の材料にしているメリット収支 率というのは、基本的には以下のような式で算定されます。分母に通勤災害など非業務 災害分を除く保険料を、分子には業務災害に係る保険給付を持ってくることになりま す。したがって、二重就職者の給付基礎日額について合算という考え方を取る場合、現 在よりも業務災害に係る保険給付の額が大きくなることから、被災事業場においてはメ リット収支率が悪化することで、結果としては、保険料の負担が従来より重くなること が生ずるわけです。  このことをどう考えるかですが、二重就職者に係る給付基礎日額の見直しについて は、社会保険たる労災保険が労働者の稼得能力の補填という目的を果たすためには必要 なものですが、先ほどの論点でもあったように、災害発生事業場以外の事業場において 支払われる賃金に見合う部分を、災害発生の事業主、個別の事業主の負担に帰せしむる ことは適当ではないので、そのようなことにならないような措置を講ずることが必要で はないかと考えられます。  論点4は逸脱・中断の特例的取扱いの範囲の拡大の問題です。現在、労働者の働き方 について、パート労働者、フリーターが増加するといったように、短時間で自分の都合 のよい時間に働き、より自らの自由な時間を求める者が増加しているという要因があり ます。変形労働時間制やフレックスタイム制、裁量労働制等の各種労働時間制度の導入 によって、多様な就業環境で働く労働者が増加していると考えられます。  このように、1つには1日における労働者の活動範囲が拡大しているということが考 えられます。もう1つは、社会の変化に伴って労働者の生活スタイルも、通勤災害保護 制度が創設された昭和48年当時とは大きく変化しているのではないかと考えられるわけ です。  現行の通勤災害保護制度では、住居と就業の場所との間の往復が保護されるわけです が、基本的にはその経路を逸脱・中断した場合は「通勤」とはならないことになってい るわけです。ただ、逸脱・中断が日常生活上必要な行為であり、厚生労働省令で定め る、やむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合、例えば日用品の購 入等の場合については、逸脱・中断から復して以降は、また通勤として保護されるとい う特例的な取扱いがなされています。  ただ、現在の社会の変化等を踏まえて、その範囲で本当にいいのかという問題点があ るわけですが、3にありますように、逸脱・中断の特例的な取扱いを拡大する場合の考 え方として、逸脱・中断の事由を問わず、元の経路に復して以降は保護するという考え 方、特例的な取扱いの対象を、現在は日常生活上必要な行為ということで限定していま すが、それ以外にも広げるという考え方、日常生活上必要な行為ということで書かれて いるものについて、省令にある程度追加して定めるという考え方があり得るわけです が、これについては、出勤前や退勤後に、現在、実際に労働者はどのような行動をして いるかという実態を踏まえ、逸脱・中断の特例的な扱いの考え方と範囲については検討 する必要があるのではないか。  必ずしもこれですべての論点が整理できているわけではないと思いますので、漏れて しまった論点も含めて議論いただければと思っております。 ○島田座長  本日は、いまの事務局からの説明を踏まえて自由に議論していただければと思いま す。また、出席の先生も少ないので、事務局のほうでも、進める上で感じている論点が あれば積極的にご発言願えればと存じます。 ○水町先生  よく分からなかったことや知らないことについて2点伺います。論点3−1の3と4 で結論が違っていますが、その違いが、社会保険と労働基準法の違いなのかということ がよくわからなかったので、私にわかるように説明してください。  論点4の2の最後に、「具体的に省令に定められているものは、日用品の購入その他 これに準ずる行為等」とありますが、日用品の購入以外に、具体的にどういうものが書 かれているか教えていただきたいと思います。 ○労災管理課課長補佐  まず、論点3−1についてお答えいたします。基本的に労災保険については、労働基 準法の平均賃金を給付基礎日額として使うことが原則になっています。法律の規定で言 うと、労災保険法第8条において、そのことが規定されているわけです。  そもそも労災保険については、平均賃金で算定した場合に著しく少ない場合等、平均 賃金で算定することが必ずしも適当でない場合は例外的に省令で定めるような形で、現 在でも、給付基礎日額を平均賃金以外のもので定め、必ずしも個別事業主の災害補償責 任における額と社会保険としての労災保険における給付基礎日額が一致しない場合もあ ります。これは結局、個別事業主の災害補償責任としての基準法、それから、社会保険 として稼得能力の喪失を填補するという目的に立った労災保険法の間で違いがある場合 があるということです。 ○水町先生  制度のことはわかるのですが、3は合算するけれど、4は「業務災害の発生した事業 場の使用者が支払った賃金を基礎とする」とあります。そこが違うという前提がよくわ からないのです。どういうときに合算して、どういうときに合算しないのかということ です。4は合算しないのですよね。 ○労災管理課課長補佐  平均賃金は合算しない形になります。 ○水町先生  平均賃金は合算しないけれども、社会保険給付額の算定については、給付基礎日額は 合算するということですか。 ○労災管理課課長補佐  給付基礎日額を算定するときは、要するに平均賃金を使わないという意味です。 ○水町先生  使わないというのは、例外的に5で書かれているようなことを使って、使わないとい うことをやるということになるわけですか。それとも、給付基礎日額の算定自体につい ては、平均賃金は今の制度上も気にしなくて算定することができる、ということになっ ているのですか。 ○労災管理課課長補佐  今の制度上では、基本的には平均賃金を給付基礎日額とするという原則があって、平 均賃金を給付基礎日額とすることが適当でないと認められる場合に、第8条第2項の 「適当でないと認められるとき」としては省令で定めておりませんので、そういう扱い は現在ではできない状況になっています。 ○水町先生  現在では4だが、3のような措置が望ましいので5を使いながら、そういう措置を設 けるという趣旨だと理解すればよろしいですか。 ○労災管理課課長補佐  そのような考え方で、たたき台としてはまとめております。  逸脱・中断の特例的な取扱いということで具体的に省令で定められているものは、施 行規則に、「日用品の購入その他これに準ずる行為」、あとは病院や診療所で治療を受 ける場合等、資料3にまとめております。その他「職業訓練等」というジャンルと「選 挙権の行使」です。 ○島田座長  1号から4号は、最初からあったものですか。それとも、後から付け加えられたもの ですか。 ○労災管理課課長補佐  当初あったのは「日用品の購入その他これに準ずる行為」があって、あとのものが後 から付け加えられたわけです。 ○西村先生  論点3−1の2のなお書きですが、「厚生年金保険法の老齢厚生年金等や健康保険法 の傷病手当金等については、複数の事業所から報酬を受ける被保険者については、複数 の事業所からの報酬の合算額を基礎として給付がなされる」とあります。  例えば、健康保険法の傷病手当金を考えると、ある事業所で働いていた人が業務外で 怪我をしたという場合に、Aの事業所にもBの事業所にも出勤できない。だから、3日 の待機期間があって、4日目ぐらいからは、当然のことながら傷病手当金が支給され る。届けてあって、保険料もちゃんと払っているということですね。そうすると、現在 の取扱いは、例えばAの事業所とBの事業所で働いている人が、AからBに行くときに 怪我をしたら、それを通勤災害と見るとして、現在は、Aの事業所については傷病手当 金が出るのでしたか。Aの事業所からBの事業所に行くときの怪我が通勤災害にも何に も当たらないということになれば、要するに両方から傷病手当金を。 ○労災管理課課長補佐  そうですね、業務外となったときは、基本的に傷病手当金は両方のものの合算された ものが給付されます。健康保険のほうは、今はそうなっています。 ○西村先生  社会保険の保護は、健康保険法では、今は傷病手当金として保護されているという考 え方ですね。 ○労災管理課課長補佐  そういう取扱いです。 ○西村先生  Bの事業所から自宅へ帰るときは、Bの事業所の通勤災害として見なされるのです か。 ○労災管理課課長補佐  それについては、現在でも通勤災害として見なされます。 ○西村先生  Aの事業所は出勤できませんから、3日間の待機期間があって、そして傷病手当金が 付くわけですか。 ○島田座長  そうです。通勤災害の場合は、保険給付も労災保険でやるわけですね。それにもかか わらず、Aのほうの健康保険の傷病手当金だけ支給されるのですか。通災になってしま えば、医療給付などは全部健康保険を使わないわけですが。要するに、Bの事業所から 自宅に帰るときは通勤災害だとすると、保険給付は全部労災から出ます。そういう場合 でも、こちらは、医療給付はないのだけれど、Aの健康保険から傷病手当金が出るので すか。 ○西村先生  たぶん、出るという考え方ですね。 ○労災管理課課長補佐  ここの記述は、必ずしもそこまでのことを書いてあるわけではなく、単に合算してい る例があるというものでしかありません。 ○島田座長  この考え方から言ったら、私が言ったような感じになるような感じがしますが、いか がでしょうか。 ○労災管理課課長補佐  そこのところの事実関係を詰めさせていただいて、次回にでも説明します。 ○島田座長  おそらく、その場合というのは、どこでもいいのですが、通災にならないと、医療給 付が健康保険の基本になるので、それで傷病手当金が発生してくるのか。その場合の計 算の仕方が両方の合算である。だから、通災になると、こちらは出なくなるのではない かという感じがしたのですが、そこは調べていただくということにしましょう。 ○水町先生  ダイバーシティーとの関係から言うと、いまここで扱われているのは、職場と職場の 関係と、単身赴任で間に家と家が入るという関係です。そのときそれを保護するかどう かというときに、社会的危険があって、社会通念上それを業務するために不可避な行為 であって、それが保護に値するかという観点から、そもそも通勤災害の趣旨から行くわ けですが、ダイバーシティーという考えからすると、雇用や単身赴任だけではなくて、 保育園に迎えに行く行為、学生が学校に行って、家に帰ってから職場に行くこともある し、大学生がそのままアルバイト先に行って、途中で通勤災害で怪我をするという場合 があります。  社会的に有益だと思われ、社会的に保護されるべき活動というのは、いま非常に多様 化しているし、たくさんあるわけですが、それを通勤災害の、今やっていることでフォ ローするのか、それとも、施行規則第8条の1〜4で挙げられている所で保護していく のか、それとも、それはやはり保護されないのかというのを少し整理して考えるほうが いいのかと私は思っています。学校や保育園に迎えに行くことぐらいは保護してあげた ほうがいいと思うのです。ボランティアやNPOぐらいになると、非常にプライベート な行為なのか、それともソーシャルな行為なのかというのが分からなくなってきます が、そこら辺の線引きも意識しながらカバーすると、制度全体の設計として、ダイバー シティーとか、ほかの要請から出てきているところとの関係が分かりやすくなるかと思 って先ほど質問しました。 ○島田座長  保育園などに迎えに行く行為というのは、中断のほうでどうしようかという話だと思 います。 ○水町先生  保育園のことは、現行では入らないのですか。 ○労災管理課課長補佐  子どもを迎えに行くという場合は、合理的な経路ということで保護の対象にしていま す。 ○水町先生  家からすごく遠くても、違う方向でも、子どもを迎えに行く場合は全部入るというこ とですか。 ○西村先生  そうです。 ○水町先生  普通の大学生が職場に行く場合は、どうですか。 ○島田座長  それは、ここではまだ検討していませんが、大きい問題ですね。確かに学生アルバイ トで、自宅から行く場合は当然通災が適用になります。しかし、大学に行って、そこか ら勤務地に行く間というのは、従来でいくと、通勤にはならないですよね。 ○水町先生  これを二重就職や単身赴任の中に入れ始めると、大変な議論をしなくてはいけなく て、いちいち大変だと思いますが、論点4の「命令で定められるところ」で入れるとす れば、そこでいろいろなソフトのものを社会的な行為として入れられるような気がする のです。どちらでやっていくかというのは政策的判断であり得ると思います。 ○島田座長  自宅から大学に行くとか、その辺は全部ある種の逸脱と見るというような発想でしょ うか。 ○水町先生  これに「教育・訓練」は入っているのですが、普通の大学から行くというのは教育・ 訓練ではなくて、ただの教育だけなのです。 ○島田座長  働いていて、ブラッシュアップで行くというので、後から入ったのです。だから「日 常行為に準ずる行為」だけではなくなったのです。大学に行くなどという場合、ドイツ などはどうですか。 ○西村先生  ドイツの場合は「住居と就業の場所との間」という限定がないので、住居でなくても いいわけです。ともかく、第3の場所から行けばいいのです。 ○島田座長  さっきの学生の場合であれば、大学からアルバイト先に行く、それが通勤になるわけ ですね。 ○西村先生  そうです。帰るときも、家に帰れば、それが通勤になる。 ○水町先生  飲み屋に帰ったらいけないのですよね。 ○西村先生  それは駄目でしょう。 ○島田座長  ドイツの場合、自宅から行って、帰りに大学に行くというのは入らないのですか。 ○西村先生  少し複雑になるのですが、ドイツの場合は、学生の就学行為もベゲウンファールとし て保護されているのです。だから、非常に広い範囲で対象になっているのです。労働者 だけではないのです。 ○島田座長  それはどういう保険から出るのですか。 ○西村先生  それは全部労災保険です。労災保険のシステムを使っているのです。 ○島田座長  これは大きな検討課題ですね。 ○西村先生  4頁の論点1−2などを読みますと、どちらの保険関係として処理すべきかとありま す。第2事業場での就業のために生じる性質が強いから、第2の事業場での保険関係と して処理するという話です。ドイツの場合は、労災保険組合が業種ごとにありますか ら、Aという労災保険組合に管轄権がある事業所からBの労災保険組合の管轄する事業 所へ通うような場合は、やはり、これと同じ考え方なのです。それは第2の事業場、要 するにBの保険関係だと。そして、そこから戻る場合は第1の事業場、Aの事業場とな っており、保険組合だから、管轄権の争いは、ある意味でシビアです。しかし我が国 は、ある意味で手続き的な問題だけなのでしょうから、考え方としてはこのとおりだろ うと思います、向かうということで。 ○水町先生  論点2−2、単身赴任の所で、「当日又は前日」「当日又は翌日」とありますが、翌 日とか前日というのを暦日で計るのか、それとも24時間などとするのか。あまり機械的 にしないで、合理的に近接した時間内でするのかというのが、極端なケースだと問題に なるような気がするのです。どこで切るかで、すごく大変に働かされていて、寝てしま ったら夕方になっていて、飛行機が既になくなっていた。それで、次の日に帰ろうとし たら、もう翌々日になっていたとか。そこをどうするかですが、合理的に近接的な時間 とするのが普通だと私は思います。「日」と書く場合には、24時間で見るのか、暦日で 見るのか、何かしておかないといけませんね。 ○労災管理課課長補佐  現に施行されて認定されるレベルになると、一定の枠が必要になるだろうということ で、一応のたたき台としてこういう形で出していますので、そこまで詰めておりませ ん。 ○島田座長  仮にそのことを考えるとすれば、その辺ははっきりさせておいたほうがいいだろうと 思います。 ○西村先生  7頁に「赴任先住居に戻るのは、出勤当日が2割程度であり、前日が7割程度」とあ ります。私は授業で通勤災害の説明をするときに、例えば単身赴任の住居から直接東京 の事務所に行くのであれば、その場合は通勤災害の保護があるのだという話をときどき します。しかし、それは2割程度で、大抵の人は前の日に帰っています、新幹線でも遅 れるかもしれないし、そんな不安定なことで通勤しているわけではなくて、前日に7割 程度が、自分の職場に明くる日に行くために、前の日に住居に戻っている。モラルから 言えば、当然こうあるべきなのでしょうし、これはやはり保護すべきだというのがある のです。こういう統計から見ると、それは強い要請かという気がしないでもありませ ん。 ○島田座長  直行直帰も出勤に入れようということで出てきたのだけれど、その間が実は非常に大 きかったのだということなのですね。 ○水町先生  間に何が入ると切るかという具体的な基準が8頁にありますね。例えば、月曜日から 仕事なのに土曜日の夜帰ってしまったら、1日あいているから駄目になるのか、家族と 一緒に帰ったら駄目になるのか、そこを具体的にどう考えるかは難しいですね。それ も、限定列挙で書くのか、それとも例示列挙にして、その他何とかかんとかという表現 をどうするのかとか。いま例として挙がっているのは、家族とレジャーに行くというこ とです。 ○労災管理課課長補佐  ここは何を言いたかったかというと、目的によっては、その移動が、同じ経路を移動 していたとしても、通勤として見られない場合もあり得るのではないかということで、 例が正しかったか、適切だったかどうかはわかりませんけれども。 ○島田座長  通常では、この調査からいくと、月曜日出勤であれば日曜日に戻っているというのを ベースに考える。土曜に戻るというのは、ないことはないのだけれど、難しいですね。 ○西村先生  それも言い出したら切りがなくて、例えば、日曜日に戻ると言っても、日曜日の夜に 戻って、そこで寝るだけで明くる日に出勤する場合と、日曜日の朝戻って、1日ゆっく りいて、東京だったら、美術館に行くとかということになると、それは私的な行為では ないかということになるのかどうか、そういったことがあります。 ○水町先生  帰省ラッシュで、日曜日だと券が取れないから1日前に帰る。別に日曜日にぼんやり しているわけではないと言って、家で仕事をしている人もいるかもしれないのです。 ○西村先生  一定の理由を挙げて排除するというのは難しいのです。 ○島田座長  期間でやるのかどうか、その辺の考え方をはっきりさせたほうがいいということです ね。 ○西村先生  1日とか、せいぜい前の日という形で限定するほうが、実は賢明なのかという感じが します。2日も3日も前に戻るのは、これは何かあるだろうということで、それは排除 したほうがいいかもしれません。前の日に戻るのは健全な労働者としての常識ではない か。ゆっくりするかどうか、余った時間を利用してどこかに行くかどうかはまた別の問 題だと思います。暦日かどうかはともかくとして、日で限るほうが何か賢明なような気 がします。 ○島田座長  簡明ですよ。 ○水町先生  労災のデータで定型的に処理しなければいけないという要請からするとそうなのでし ょうが、制度の趣旨からすると、ある程度合理的な範囲内で労働者の事情を考えてあげ れば、ここは保護すべきだというのがあると、「合理的な範囲内」とか「合理的な時間 内」というのを入れたほうがいいのかという気もします。 ○島田座長  前の日だったらあれだけれども、そうでない場合は、事業場が証明するとか、別に加 重要件を付けるという制度はあるのですか。難しいかもしれませんが、そこは1つ論点 として出しておきましょう。 ○西村先生  二重就職者の場合に、Aの事業場からBの事業場に行くときに、Aの事業場で終わっ てすぐに行けば非常に簡明で、はっきりするのです。ところが、夜の仕事がある。例え ば、Aの事業場で仕事が3時に終わって、夜の仕事が始まる7時までぶらぶらしてい た。そういったときに、まさに直行という感じではなくて、途中でいろいろな所に寄っ たりする。あるいは、Aの事業場で2時間とか3時間以上待機することになった場合は どうなのでしょう。 ○島田座長  その場合は、中断というのをどう考えるかですね。 ○水町先生  例えば、厚生労働省で2時までの研究会があって、次の研究会が6時だと、間にラク ーアに行って、ゆっくりお風呂に入ってくるのですが、その間の丸ノ内線の往復は駄目 でしょうか。 ○島田座長  それは逸脱でしょう。 ○水町先生  ご飯ぐらいだったら、いいかもしれないですけど。 ○島田座長  要するに、第1の事業場から第2の事業場に向かうときでも中断問題が発生するの で、それをどういうふうに考えるかですね。 ○水町先生  一方では、あまり杓子定規にやってしまうと問題なのですが、しかし杓子定規を決め ておかないと、実際上、現場で認定が難しいですね。しかし、いままで、明らかに業務 と関連しないとか、合理的な経路というので、そんなに細かいマニュアルを決めずに、 結構現場で認定してきたということも、労災の場合、ないことはないですが。 ○島田座長  会社の事業場内にいるというのは、大体2時間ぐらいを目処にするというのがありま したね。要するに、会社のサークルに参加するとか何とかというのは、2時間ぐらいで 帰る場合にはまだ通勤と見るということですが、あれは特に根拠があるわけではなく て、実務で考えられてきた基準です。 ○水町先生  法律で定めるか、命令で定めるか、通達のようなもので定めるかというのはレベルが あるかもしれませんが、どこら辺かまでは、ある程度「合理的な」というので含みを持 たせておいて、あとは細かい通達を別に定める。でも通達も、ギリギリこれに従わない と出せないというものではない、という処理はできるのですか。通達をつくってしまっ たら、みんなそれに従いますか。 ○島田座長  いや、それは駄目だと思います。従うために出すのだろうから。 ○水町先生  でも、杓子定規の通達でやって裁判で負ける、ということは結構ありますから。 ○補償課長(菊入)  通達も、突拍子もないことを出すわけにいかないので出すのです。省令で書いてある もの、それから、ここまでなら社会でほとんどが容認できる、そのぐらいのところでな いと、なかなか出せないのです。 ○島田座長  そうすると第1から第2への逸脱・中断ということになる。そうなると、最後の論点 の中での「一般的な逸脱・中断」をどういう範囲で考えるかというのは、いろいろなと ころに掛かってくるのですね。  前にここで議論になったことで記憶をたどると、介護や看護を自宅でやっていない、 つまり、親の所に寄って、それから向かう、あるいは帰りに寄るというのをどうするの か検討したほうがよいのではないかということが出ていました。親孝行のほうが損をす るようなものでいいのか、ということが1つの論点で出ていたのです。 ○水町先生  それは保育園と同じように「合理的な経路」ということでやっていける範囲内でしょ うか。 ○島田座長  それも難しくて、親の家だったら常にそうなのかということがあります。保育園とい うのは目的がはっきりしているからいいのだけれど、親の家ということになると、1つ の目的とは限らないだろうからと、そういう議論もあったのです。だから、1つの論点 にはなるだろうと思います。  逸脱・中断の範囲も、例の札幌地裁のように、日常生活の用を足していて、合理的経 路に戻る間に起きた事故が救済されないというのも、その途中に店があればそういうこ とがないのに、たまたまこちら側にあったために、というのはどうかというのも、1つ ここでの議論になると思います。さっき言った第1から第2への移動問題、それから、 単身赴任者が前日戻った場合、あるいは、その前も含めて、その間に何らかの中断はあ るわけですから、そこをどう考えるかというのが併せて論点になると思います。  事務局の皆さんも含めて、第一線のほうで問題となっているようなこと、あるいは、 こうしたことを考える上で論点になるようなことはほかに何かありませんか。もちろ ん、すでに検討されて、これに尽きているということかもしれませんが。 ○労災管理課課長補佐  前の議論の中で、たしか、副業を禁止している事業場において、事業場間の移動があ った場合にどう考えるかという議論もあったようにも思うのですが、基本的には、社会 保険たる労災保険は、民事上の関係は別にして、実態としてあれば保護するという考え 方でよろしいのでしょうか。 ○島田座長  ええ、そういう考え方だと思うのです。 ○水町先生  副業の禁止自体が違法かどうかは、裁判になってみないとわからないですから。 ○西村先生  自動車通勤を禁止している事業所があって、しかし、その自動車通勤の経路が合理的 な経路であれば通勤災害が成立するということです。禁止が適法かどうかもまた、裁判 所で問題になるでしょうけれど。  9頁の平均賃金の算定で、給付基礎日額の合算というのは、要するにAの事業所とB の事業所、それぞれの平均賃金を合算する。休業補償について、例えば3カ月ですか、 基本的に平均賃金のものの考えを変えるとか、そういうことではないわけですね。 ○労災管理課課長補佐  はい。 ○水町先生  具体的に規定化する上では、細かい所でいろいろ出てくると思いますが、私がいろい ろな所で見聞きしたことなどを含めて考えても、各論点について、非常に合理的な結論 が考えられていると私は思いました。 ○島田座長 まだ時間もあるようですが、参加されている先生も少ないということもあ って、もしほかにご質問がないようでしたら、これで一応議論を終了させていただくこ とにいたします。今後の予定について、何かございましたらお話しください。 ○労災管理課課長補佐  次回については、本日いただいた論点も含めて整理し、引き続き議論を詰めていただ くような形にしていただきたいと考えております。具体的な日程は別途調整をして、後 日連絡を差し上げます。 ○島田座長  本日の研究会はこれで終了いたします。皆さん、お忙しいところ、どうもありがとう ございました。         照会先:労働基準局労災補償部労災管理課企画調整係             電話03-5253-1111(内線5436)