04/05/14 第10回仕事と生活の調和に関する検討会議          第10回「仕事と生活の調和」に関する検討会議                   (議事録)             日時 平成16年5月14日(金)                10:00〜             場所 厚生労働省専用第13会議室 ○ 諏訪座長  「仕事と生活の調和」に関する検討会議を開催します。本日はお忙しい中をお集まり いただきまして、大変ありがとうございます。早速、本日の議題に入ります。本日は就 業場所の多様化、健康確保、退職金といった、これまで扱ってこなかったテーマについ て皆様と検討してみたいと思っています。事務局が議論の素材として資料を用意してく ださっています。最初に説明をお願いします。 ○ 勤労者生活部企画課長  前回までと同様に、この問題についての論点を私どもで整理させていただいておりま すので、まずそれをご説明させていただきたいと思います。資料1ですが、今回は幾つ かの項目があります。1項目は「在宅勤務への対応」についてです。「仕事と生活の調 和」を図る観点からは、これまで議論してきたような時間配分について多様な選択肢を 用意する必要があるわけですが、それにとどまらず場所についても選択肢を増やしてい くことが、こうした「仕事と生活の調和」の観点から求められています。  特に2つ目の○にありますように、最近、情報通信技術がかなり進歩しています。そ うした中で、こうした情報通信技術を利用して、労働者がどのような場合でも比較的自 由に場所を選択して働くことができる。こうした仕組みをテレワークと呼んでいます が、これが広がっています。そのうち労働形態として、自宅で働くものを在宅勤務と呼 んでいるわけですが、こうした在宅勤務については、仕事と生活をかなり柔軟に切り分 けて働くことができる。働く時間と生活の時間を自由に選べる裁量度の高い働き方です から、うまく使えば仕事と生活を非常にうまく調和できる。そうしたメリットがある働 き方であると思われます。こうしたメリットを生かしながら、この在宅勤務を推進して いくことが求められています。  そういう観点に立ち、○の3つ目ですが、改めて在宅勤務のメリットとデメリットを 整理してみようということです。いちばん大きなメリットは上の○にあったように非常 に裁量性が高く、働く時間や場所をかなり自由に労働者が選べる働き方である点です が、そうしたことに加えて、(1)から(3)のメリットがあるのではないかと思います。  (1)ですが、労働者の側から見ると特に育児をしている労働者、介護をしている労働 者、障害を持っていて通勤が困難な労働者にとっては、幾つかのメリットがあるのでは ないか。例えば育児や介護などで、こうした働き方ができないと長期の休業とか、場合 によっては離職ということが起こり得る労働者について、在宅勤務が導入されることに より、収入の低下が防げたり、労働能力の損耗が防げる。さらにそうした能力を拡大す ることもできるかもしれない。そうした意味で生活との調和を図りながら働き続けられ る仕組みではないか。そういうメリットがあることが1点目です。こうした働き方は通 勤がありませんので、通勤の負担をかなり軽減することができる。その時間を社会参 加、生活の時間、労働に振り向けられるのが2点目です。3点目は、私生活が確保され ている自宅において働くわけですから、同じ職場で働く人の目を気にしないで自由に働 ける面もあり、そうした面で精神的に集中できるメリットもあることです。  (2)が今度は事業主からのメリットですが、自宅で働くということで、より精神的に 集中して仕事ができるので、ジョブ効率面でのメリットがあるのが1つです。育児や介 護で、こういった在宅勤務がなければ辞めてしまうような人の離職を防止できますか ら、人材の確保にも資するのが2つ目のメリットです。  (3)は社会全体としてのメリットです。こうした在宅勤務により労働者が家庭や地域 で過ごす時間が増加することになりますから、家族の絆とか地域社会の再生が期待でき るのではないか。  こうしたメリットが考えられるわけですが、2頁で今度はデメリットのほうです。こ ういった在宅勤務のデメリットとして考えられるのは、事業主側から見ると、事業場外 の労働になりますので管理が比較的しにくいのではないか。特に勤務時間と生活時間が 混在している働き方ですので、労働時間管理をどうするのか。健康管理や災害補償をど うするのか。そういった課題が考えられます。また労働者が労働によって出してきたア ウトプットを、どう評価していくかも難しいのではないか。こういうこともあって後で 資料の説明はさせていただきますけれども、事業主側から見ると管理が難しいとか、こ ういった在宅勤務を導入できる業務がないことから、在宅勤務が進んでいない実情もあ るわけです。  他方、労働者側にあっては、仕事時間と生活時間が比較的意識しないと切り分けが難 しい働き方ですから、注意しないと長時間労働になる可能性がある。こういった働き方 をしている労働者の方へのアンケートの中では、そういう切り分けが非常に難しいとい うデメリットを挙げる人が多い実情があります。  以上を踏まえて2頁の2つ目の○ですが、そういったデメリットはあるけれども、他 方で、先ほど申し上げた「仕事と生活の調和」が図りやすいメリットもある働き方です から、その長所をできるだけ生かして、在宅勤務を普及定着していくことが必要だと思 いますが、そのために何が必要なのかを考える必要があります。例えば勤務時間と生活 時間が、かなり頻繁に入れ替わるような働き方ですから、こうした在宅勤務の特性に応 じた労働時間管理について、どうしていったらいいか。制度的に整備する必要がないか について検討する必要があります。  3つ目の○ですが、在宅勤務は障害者の方には非常に有利な働き方である面がありま す。通勤がない働き方ですから障害者の方でも比較的働きやすい働き方ではないか。そ ういった視点からも、この在宅勤務を考えていく必要があるのではないか。それが3点 目の論点です。  次は2の「複数就業への対応」についてです。「仕事と生活の調和」という観点から 複数の仕事を同時並行的に行う。複数の使用者の下で雇用契約を結んで働く働き方、い わゆるマルチジョブホルダーについてどう考えるかも、1つの大きな論点ではないかと 思われます。こうしたマルチジョブホルダーですが、働き方の選択肢を多様化する観点 からすれば、1人の使用者の下で専属して働く時間は短いけれども、複数の使用者の下 で働くタイプの働き方も、かなり需要が出てきていると思いますし、労使の間に需要が あれば、これを認知して必要な施策を講じていくことが必要なのではないか。その際、 政策的にこういった選択肢を選んでも、施策が中立的になるようにしていくべきだとい うのが1つの論点かと思います。  その際、これに関して考えられる論点として、労働時間、労災補償、社会保険などが あるわけですが、例えば資料の9頁をご覧ください。労災に関しては具体的な問題提起 も既になされているところです。すなわち1日の中で2つの異なる使用者の事業場で働 く場合に、A事業場からB事業場に行く場合に起こった移動の最中の災害について、現 行の通勤災害の仕組みでは、なかなか補償でカバーできない問題も指摘されているとこ ろです。こういったマルチジョブホルダーについて、特別の問題が生じてくる可能性も あります。そうしたことについて、災害補償についてはいま申し上げたような点です が、他の労働時間、社会保険などの点を含めて、どういったことを考えておくべきかも 論ずる必要があります。  次に3頁の3「健康の確保・増進」ですが、どのような働き方をした場合でも、働く 人の心身の健康が確保されることが重要です。労働者が希望する場合でも体を壊してし まうことがあっては、生活との調和が図られているとは言えない。これが非常に重要な 点ではないかということです。  近年の状況を見ると、過労死などの過重な労働による健康障害、職場における不安や 精神的ストレスによる精神障害を理由とする、労災認定の件数が増えているわけです。 これも資料に付けていますので後ほど説明します。そういったことを踏まえると、「仕 事と生活の調和」を図る大きな前提条件として、労働者の心と体の健康を確保すること が求められるのではないか。ことに「仕事と生活の調和」を図るための労働時間管理の 多様化を進めていく中では、どのような場合であっても過重労働がないようにしたり、 メンタルヘルス対策を進める。そういったことの充実が必要です。  健康については、もう1つの論点として3つ目の○ですが、労働者が現役のときだけ でなく引退後の問題も、重要な問題として考えておく必要があります。生活習慣病のこ ともあるわけですが、労働者が引退した後も健康で快適に暮らせるように、この健康の 問題には長期的視点を持って、計画的な取組みが行われる必要があります。そういった ことも論点の1つです。以上が健康の関係です。  次に4「退職金・企業年金等」の関係です。例えば働き盛り期の労働者が老後生活へ の不安を持たないようにして日々を送れるようにする。あるいはこれまで議論されてき ているように、長期の家族介護とか勉強するために職業生活を中断する場合であって も、安心してそういう選択肢が取れるためには、長期を見据えた所得の一定の確保が1 つの要件になります。退職後のことを考えてみても、定年退職後に安心して地域活動や 様々な活動ができるようにするために、この場合も所得の確保が重要な視点になりま す。いずれにしても「仕事と生活の調和」を実現する上で、将来的な意味を含めての所 得の確保が大きな課題です。その点を考えておく必要があります。  3頁のいちばん下の○ですが、特に人口の高齢化が進む中で現役引退後の生活が非常 に長期化し、こうした時期に収入が減少するわけです。ことに現役を引退してから公的 年金が支給されるまでの間の賃金による収入の大幅減があるわけですが、その間の所得 の確保は1つ大きな問題として考えておく必要があります。したがって公的年金に加え て、これを補完する退職金・企業年金についても、その役割や在り方について検討する 必要がありますから、以下、個別の問題を考えていきます。  4頁ですが、退職金や企業年金については企業間の競争が激化しており、個別の企業 が従業員に保障できる雇用期間は相対的に短くなってきていると考えられます。また最 近の企業の動きを見ると、福利厚生や長期的雇用を前提とした退職金の支払いを見直す 企業も出てきています。そういった現実の企業の動きを十分踏まえた上で、退職金や企 業年金をどうしていくかを考えていく必要があります。  2つ目の○ですが、そうした際に政府はどうするかです。退職金や企業年金は第一義 的には労使の主体的な取組みが前提になるかと思いますが、税制や関連する制度もあり ます。したがって見直すところは見直し、支援するところは支援する。そういった視点 を持つことが必要です。  こうした上で、現在の退職金や企業年金について考えてみると、第1点目が4頁の3 つ目の○の(1)ですが、退職金について税法上の退職所得控除の勤続年数要件の在り方 についてです。退職一時金は当然のことですが、同一企業での勤続年数をベースにして 通常は決定されるものですし、「賃金の後払い」の性格を有するものであるとの指摘も あります。あるいは通常の退職金の設計では、勤続年数の比例を上回る形で支給額が逓 増する設計になっていることが多いわけです。そういうことで企業の狙いとしては、従 業員の定着を図っていくことにあるとの指摘がなされています。  そういう趣旨があって企業が導入している退職一時金ですので、こうした退職一時金 の特性そのものを変更することは困難であるかもしれませんが、他方で「仕事と生活の 調和」の観点から、こうしたものについて現状に何か問題はないか。現行の所得税にお ける退職所得控除の仕組みについて示したのが4頁の表です。現在の所得税制では勤続 年数が20年までと、それを超える場合では控除の仕組みが変えられています。20年まで は勤続年数1年ごとに40万円の控除ですが、20年を超えると70万円ずつ控除される2段 階の仕組みになっています。こうした仕組みは、1つの企業での勤続年数が短い人にと っては中立的な制度でなく、改めるべきとの指摘も十分考えられるところです。  ただ、こうした所得税控除の仕組みを見直す場合には、4頁のいちばん下のところで すが、例えば20年のほうに制度を合わせて、20年を超える場合でも勤続年数1年当たり で統一的に40万円とする見直しも考えられますが、これでは長期勤続の方に対する課税 強化になりますし、全般的に言っても労働者に対する課税強化になると思います。そう 考えると、この問題についてだけ論ずるのでなく、他の税法上の問題と併せて検討して おく必要があると考えられます。  例えば、こういったものを見直す場合には、例示として挙げているように、労働者の 自発的なキャリア形成に対する、所得税の控除制度を設けるといった措置と一体とし て、プラスの面とマイナスの面をセットで議論する必要もあると思いますが、その点に ついてどう考えるかです。  また、こういった税制は現実の退職金の状況がどうなっているかを十分念頭に置いて おくことも必要です。現行の控除制度の仕組みの中では、例えば中小企業の従業員や大 企業の従業員のうちの高卒者に支給されるモデル退職金のケースですが、モデル的なも のであれば、この対象控除の枠内全額が収まるというのが、現行の所得税控除の仕組み の設計です。この制度を見直す場合は、こうした事情も十分念頭に置いて議論する必要 があります。以上が退職金税制です。  次の論点が5頁の(2)です。退職金・企業年金制度と所定労働時間や雇用期間の問題で す。現行の中退金といった公的な退職金制度、あるいは厚生年金基金などの公的年金制 度の仕組みを見ると、所定労働時間や雇用期間が短い人が加入することについて、制限 的な仕組みが設けられています。例えば厚生年金基金について見ると、所定労働時間に ついては、一般労働者の4分の3に満たない者は対象者とならないとされています。ま た雇用期間についても、2か月以内の期間を定めて使用される者は対象者とならないと 定められているわけです。  中小企業退職金共済についても、所定労働時間については週所定労働時間が30時間未 満の短時間労働者は、対象としないことができることになっています。ただ、この中退 金の場合は、こうした短時間の被共済者の加入促進の制度として、通常の労働者の場合 は最低掛金月額が5,000円ですが、パートの方が入りやすいようにということで、短時 間被共済者の場合は2,000円から入れる仕組みを設けていますが、いずれにしても30時 間未満の所定労働時間の方は、対象としないことができる仕組みが設けられているとこ ろです。雇用期間についても、有期の雇用者については対象としないことがてきる仕組 みが設けられています。  この結果、所定労働時間が短いあるいは有期の労働者については、こうした退職金制 度、年金制度についての加入が制約されています。それは企業において従業員の企業へ の貢献度をいろいろ測りながら、制度を設計する必要があるということで、こうした制 度が設けられていることもあるのかもしれませんが、他方で短時間労働者を「仕事と生 活の調和」を図る上での1つの有力な働き方、1つの選択肢として認める以上は、こう した人についても公的な制度の上では中立性を確保することが重要な視点です。  そこで5頁のいちばん下のポツのところですが、こうした短時間労働者あるいは有期 労働者が、公的な制度に加入できるように制約を取り払う考え方から、とりあえずの改 正の考え方として、例えば所定労働時間の要件を現在の30時間でなく、20時間以上の人 が入れるような見直しは考えられないか。こういったことが退職金や企業年金につい て、所定労働時間が短い者についての対応の論点です。  6頁で、(3)はポータビリティの問題です。先ほども触れたように経済変動が非常に 大きくなり、1つの企業での雇用期間が短くなる可能性がある中で、ポータビリティを 持たせることは非常に重要な視点です。ただ、2つ目のポツですが、中小企業退職金共 済制度について考えた場合に、この制度が強制加入制度でなく任意加入制度になってい る実情もあります。そうするとポータビリティと言っても、任意加入を前提としていま すので制度設計上の制約もあるわけです。それを踏まえる必要もあるかと思いますが、 いずれにしても雇用期間が短い労働者についても、制度的な中立をできるだけ確保する 観点から、こういった共済制度について、どういったポータビリティの制度を設けてい くかは1つの検討課題です。  次は(4)ですが、財産形成についての自助努力の問題です。この点については賃金カ ーブが今後、ますますフラット化していくことが予想され、事業主側からは今までの年 功賃金が期待できない実情もあるわけです。他方で労働者の側から見ると、ここにある ように育児・教育・介護等、ライフステージのいろいろな段階でお金が必要になり、そ ういう資産を確保していくことも「仕事と生活の調和」の観点からは重要です。  そこで若年期から資金を確保するために、できるだけ労働者が自助努力で資金を作っ ておく道を開いておくことが、1つ重要な問題です。その際に財形制度が勤労者の財産 形成を支援する制度として設けられていますが、資産形成ですのでだんだんに貯蓄が貯 まっていくわけです。他方で先ほど言ったように育児や勉強など、若い時代にもお金の 必要なことが想定されます。  現状では、こうした財形に関する融資としては、比較的ライフステージの後期に必要 となる住宅についての融資を中心に制度が設けられていますが、そういった事情だけで なく、いま言った育児や勉強も踏まえ、いろいろな人生の各段階で必要な資金を「還元 融資」の形で、財形制度の中で融資が受けられるようにすることも必要です。  (4)の4つ目ですが、労働者自らが自助努力として資産形成をしていく発想が重要です から、キャリア教育をしていく一環として若い時から将来に必要な資産を貯めていく。 そういうことを教育、啓発していく必要もあります。  7頁で退職金についての支給率の問題です。退職一時金が企業において定められてい ますが、多くの場合、離職理由によって退職一時金の給付額について差が設けられてい る実情があります。自己都合と会社都合では給付額が違うということですが、例えば 「仕事と生活の調和」を考えると、長期の家族介護、自己啓発、ボランティアといった ことで退職するケースも考えられるわけです。その場合に退職金の支給額が低いことに ついてどう考えるべきかです。  退職金は企業としての必要性で設けているものですから、その設計も基本的には任意 ということになりますが、「仕事と生活の調和」の観点から、いま言った事情で退職す る場合にできるだけ差がない仕組みを、場合によっては設ける必要があるのではない か。この点についてどう考えるかが1つの論点かと思います。論点の整理は以上です が、今回、先生方のご要望もあり幾つか資料を整理していますので、それについて補充 的に村山補佐から説明します。 ○ 勤労者生活部企画課長補佐  続いて資料2、関係資料という冊子のうち、前回ご指摘のあった点、あるいは今回、 事前にご示唆のあった点を中心に、若干補足して説明します。資料の2、関係資料の1 頁目です。在宅勤務等の在宅ワークの論点を出して、その中で先生方からテレワーカー の人口等について、どのようになっているか質問があったところです。この資料ではテ レワーカーとは最も広い意味として、情報通信機器を活用して時間と場所に制約される ことなく働く人のことで、これについての資料を出しているところです。  2つに分けていて、在宅就業者(テレワークのうち、請負契約等に基づく非雇用の就 業形態であって、企業形態でもなく他人を雇っていない者)の推計値が82万人です。本 日の論点で中心的に取り扱っている在宅勤務者(テレワークのうち、事業主と雇用関係 にある労働者が労働時間の全部又は一部について自宅で業務する者)が、214万人とい う推計値をご紹介しています。  家内労働をはじめ、在宅就業の部分については、かなりしっかりした数字もいろいろ あるわけですが、全体を見ている数字はこの資料に一緒に書いてあるこの調査しかない ものですから、これをご紹介申し上げます。この調査の推計方法等については先生方か ら事前にいろいろご示唆のあったところですが、他に代わるものもないものですから、 これをご紹介しています。なお、表が2つ付いていますが、上の「在宅就業者・在宅勤 務者人口推計値」と、下の「テレワーク人口推計値」のギャップは、基本的に例えば自 宅でなくサテライトオフィスで勤務する方とか、モバイルワークで携帯用パソコン、携 帯電話を使って臨機応変に選択した場所で働く方で、そこが下には入っていて上には入 っていないという整理です。  以下、論点の1番目を補強する資料が4頁まで付いていますが、3頁が「雇用型テレ ワーカーが感じている課題」です。先ほど課長からご説明したとおり、情報通信の話、 まちづくりの話を含めた選択肢からの複数回答の中でも、いちばん多いのは「仕事と仕 事以外の時間の切り分けが難しい」です。2番目が「長時間労働になりやすい」です。 少し飛ばして7番目に「健康管理が難しい」ということでテレワーク、特に在宅勤務を 考える上で、本検討会議の関心に響く部分が出ているのではないかと感じているところ です。  1枚飛ばして5頁ですが、障害のある方にとって、こうした在宅勤務、在宅就業はい ろいろな可能性を開くものではないかという論点を出しています。つい最近、厚生労働 省の職業安定局が事務局となって、有識者の先生方にご議論をいただいた研究会の報告 書の概要を付けています。IIの「障害者の在宅就業支援の基本的考え方」として、最初 の○で「通勤等移動に制約を抱え、あるいは健康上の理由等から企業での勤務に耐えら れない障害者にとって、多様な働き方の選択肢が準備されることは、仕事を通じての自 己実現、職業的な自立を図る上で大きな意義を持つ」という基本的な考え方のもとに、 IIIで今後の施策としての方向性を打ち出しております。  次にII「複数就業関係」の二重就職者、さらにマルチジョブホルダーの問ありました ので、7頁に「就業構造基本調査」の関係の部分を付けています。二重就職者で、その うち上の表にしてあるのは今回の問題設定の関心に沿って、本業、副業とも雇用者であ る方の数ですが、これは趨勢的に増加している。ただ足元は平成9年、14年のところで は横ばい、ないし若干減少しています。  あと参考として、本検討会議の関心も含めて本業が雇用者で副業が自営業、あるいは 本業が自営業で副業が雇用者の方の数も掲げています。この3つを合計すると全体で約 182万人です。  8頁ですが、前回の議論の中でマルチジョブホルダーの問題がそもそも出てきたご指 摘の中で、「現行の労働時間規制でも確か一定の考え方が整理されていたと思うが」と のご指摘がありましたので、担当課において改めて資料として整理したものをお出しし ています。労働基準法38条1項において、「労働時間は、事業場を異にする場合におい ても、労働時間に関する規定の適用については通算する」という規定になっていて、コ ンメンタールを抄録していますけれども、四角の2のとおりで、前回、先生からご示唆 のあったとおり通算できるという前提に立った考え方で、すべてが成り立っているとい うことです。  9頁は先ほど課長からご紹介した、労災に関する審議会等での議論の経緯ですが、こ うした提起を踏まえ、少し飛んで12頁、13頁に書いてある研究会において、一定の議 論、整理をずっとやってきていただいたところです。その論点として11頁に資料をまと めています。労災保険制度の在り方に関する研究会における論点(二重就職者関係)で す。1の通勤の範囲の問題が先ほど指摘した問題です。  今回、事前にお寄せいただいたご指摘の中に、給付基礎日額の問題もあったとの指摘 がありましたが、それが2のところです。これもまた具体的には私立大学の先生の勤務 などを考えていただくと、何となくイメージしていただけるかと思います。基本的には A大学に勤めているけれども、B大学とも週のある日についての講義の雇用契約を結ん でいて、B大学のほうで労災に遭った場合には、B大学から払われている賃金を基にし て算定される平均賃金から給付基礎日額が算定される。そこが大きな論点として、こう した研究会においても議論されていることを紹介しているものです。  IIIの健康関係で15頁です。「仕事、職業生活に関する不安、悩み、ストレス」の状 況について、基本的な資料を整理して紹介してほしいとの要望があ りましたので、こ こに整理しています。定期的に調査している「労働者健康状況調査」で、見ていただく とおり、そうした強い不安、悩み、ストレスがあるとする働く方の数が61.5%となって います。3つ目の○にあるとおり、ストレス等の内容としては職場の人間関係の問題が 高く、次いで仕事の量の問題が32.3%、仕事の質の問題が30.4%、会社の将来性の問題 が29.1%などの順となっているところです。  16頁は「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の労災補償状況」、17頁は「精神障害等の労 災補償状況」です。18頁、19頁は、こうしたことについて現在、事業所においてどのよ うな取組みが行われているかを紹介した資料です。20頁、21頁に、こうした状況を踏ま えて現在、別途行われている検討会の開催要綱、ご参集いただいている先生方を紹介し ています。  IVの論点の最初の退職一時金の所得控除の関係ですが、22頁、23頁です。22頁は基本 的にどのように退職所得控除が行われた上で、実際のかかる税額が出されるかの算式で す。収入金額から、先ほど論点のほうでご紹介した控除額を引いて、その半分を退職所 得の金額とし、それに階段上の税率を掛けて所得税額としていることが基本的な考え方 です。  先ほども申し上げたように、退職所得控除額の勤続年数20年までが1年につき40万円 であるけれども、20年を超えると1年につき70万円であるところについて、さまざまな 規制改革等の場においては、長期勤続者を過度に優遇する制度になっているのではない かとの指摘もいただいているところです。  23頁に先ほどの論点のところと関係した図表を付けています。2つのことがあって、 これを是非出すようにという先生方からのご示唆もあったわけですが、「ここで40万 円、70万円と、ものすごくスパイクしているような印象を与えるけれども、実際の所得 控除がどうなっているかは、1回ビジュアルで見ていただいたほうがいい」との意見が ありましたので、それで23頁のものを作っています。申すまでもなく退職金にせよ、あ るいはそれに見合った控除にしても、金利がゼロではなくてプラスの世界であれば、一 定の金額をずっと積み立てていくわけですから、右肩上がりのカーブになるわけです が、それがちょうど20年のところから20年を超える部分について、その上がり方が急に なっているということで、この直線がガクンとなるところが論点となっているところで す。それが何となく見ていただいて分かっていただけるかなと思います。  それと先ほどの論点の中で、中小企業の労働者の方々のモデル退職金とか、大企業で も高卒のワーカーの方の退職金は、基本的に所得控除の範囲内にあるという実情で、そ うしたこともいろいろな角度から、こうした問題を検討していく上で留意していくべき 点があるので、このようなグラフを付けています。  24頁はポータビリティについて、現在、国会にかかっている年金法案における企業年 金について、制度を超えたポータビリティを確保しようとして、いま国会にお諮りして いる関係の資料ですので、また見ていただければと思います。  25頁ですが、論点のいちばん最後のところで、自己都合退職金と会社都合退職金の比 率の問題について、その差は縮小しており、比率で見れば増大している、そうした状況 になっております。平成7年と平成15年の中労委事務局の調査で見ると、すべての勤続 年数、年齢のところで、わずかずつですけれども、だんだん近づいている状況が見てい ただける中で、とりわけ勤続20年、42歳のところでは大きく上がっていて、こうしたと ころにおけるリテンションのあり方が、少し変わってきているのかもしれません。前回 でも40歳前後の働き方のところについていろいろ議論がありましたが、そんなことを窺 わせる資料になっているかと思います。26頁以下は基礎的な資料を整理したものです。 ○ 諏訪座長  ありがとうございました。いろいろな方面にわたった論点を今日は扱うわけですが、 主たる論点は在宅勤務、テレワークのような場所と時間の裁量度の高い働き方、あるい は複数就業、マルチジョブの問題、健康確保や退職金、年金等、こうした問題について ご意見をいただきたいと思います。最初に質問がありましたらお願いします。 ○ 清家委員  1つだけ確認したいのですが、3頁のいちばん下の4.の2つ目の○です。「人口の 高齢化に伴い老後生活の期間が長期化する中では、賃金収入の大幅な減少期である高齢 期、とりわけ、公的年金の支給開始年齢までの間の一定の所得の確保が欠かせないので はないか」と書かれています。これは年金の支給開始年齢の引上げに合わせて、雇用を それにマッチさせていくという考え方は放棄するということですか。 ○ 勤労者生活部企画課長  そういうことではございません。 ○ 清家委員  そうすると、そういうふうにもなりそうもないので、しようがないから考えましょう ということですか。放棄するわけではないと言っても難しいだろうから、そこが大切な のではないかという趣旨ですか。 ○ 勤労者生活部企画課長  そういった視点は、そこの作成のときに少し抜け落ちていた面もありましたが、賃金 の実際の支給額という意味で見た場合の収入額は、ずっと勤続されている場合でも実質 的に横ばい、あるいはかなり下がってくる場合のことも含めて書いたものです。正直言 って年金のところでの視点からの配慮が抜け落ちていたというのは大変申し訳なく思っ ています。 ○ 清家委員  こういうふうに書くと、さっき私が感じたように受け取られるかなと思います。一方 で、建前はともかく企業は定年延長に反対しているわけで、これも必要でしょうという 見方もあるかもしれません。わかりました。また後で議論します。 ○ 諏訪座長  ほかに、いまのような文章表現を含めて技術的な点で、ご質問をお願いします。 ○ 佐藤委員  6頁の(4)に賃金のフラット化とあります。これは賃金構造基本統計調査などで年齢 別のプロファイルを引くとフラット化するのですが、そのことと個々人の賃金が職業生 涯でフラット化するかどうかは別です。それを何か後ろのほうは、何となく一人ひとり がみんなフラット化してしまうような感じもしないでもない。たぶん定昇がなくなった りはあるけれども、就いている仕事でずっと同じ仕事をやっていればフラット化するか もしれない。あるいは同じ能力であればフラット化する。個人からするとカーブの上を 動いていくわけです。ですから個人のカーブはフラット化する人もいるし、上がってい く人もいるわけだから、何かみんなフラットになってしまう感じで、みんな同じように 蓄積していかなければいけない感じがあるのかと、ちょっと思いました。 ○ 勤労者生活部企画課長  ここのところも、佐藤委員が言われたように人によって様々なケースが考えられるわ けですが、そういったことを捨象して一部だけを取り出すと、こんなような書き方にな っています。ここはもう少し厳密に整理して考えたほうがいいかもしれません。そこは もう少し私どもで考えてみたいと思います。 ○ 諏訪座長  ほかに質問は、よろしいですか。 ○ 山川委員  細かい点ですが、2頁のマルチジョブホルダーに関する最後から2行目で、「労災保 険をはじめとする社会保険制度における」とあり、労災保険の話は出ていましたが、社 会保険制度と言うと例えば雇用保険等の検討課題があるかどうかが1点です。第2点目 は3頁の「健康確保・増進」に関する2番目の○のところですが、「過重労働の防止や メンタルヘルス対策への一層の配慮」とあり、そのとおりかと思いますが、現行の特に 企画業務裁量労働制の下では健康確保措置の決議が必要となっていて、もう施行されて 結構経ちますから、どういう制度がよく利用されていて、あるいはどういう課題がある のかについて何か把握されていたら、お知らせいただければと思います。 ○ 勤労者生活部企画課長補佐  まず前段のほうについてお答え申し上げます。正直言って具体的な論点としてお出し しているのは労災だけですけれども、ここのところではむしろ他に考えられるところが あるかということで、先生方からご示唆をいただければということで、こういう書き方 にしています。  いま具体的に委員から出ました雇用保険制度に関しては、要するに保険事故が失業と いうことですので、これは比較的明確に、いちばんたくさん収入を得ているところにつ いて、適用する取扱いで完結しているところです。むしろ今後の広い可能性としてある としたら、年金などについて今の加入の条件ですとやや考えにくいかもしれませんが、 今後、公的年金の議論も進む中で、週の加入の所定労働時間のところが下がっていけ ば、いろいろな議論の可能性もあるのではないか。あるいは現実問題として少し聞いて みたところでは、時としてそういう運用上の通算を、2つの事業所でどうするかの問題 もあると聞いていますので、そうしたことなども少し視野に入れつつ、特に名前を挙げ ない形で社会保険制度とさせていただいたところです。 ○ 諏訪座長  ほかに、いかがですか。何かご質問はありますか。いまの山川委員の健康確保の関係 をお願いします。 ○ 安全衛生部労働衛生課長  いま御指摘のあった件ですが、私ども、例えば過重労働対策は平成14年から総合対策 と銘打って、さまざまな施策をしているわけです。その中で基本となるのは当然ながら 日ごろの健康管理もありますが、具体的な健康確保のための措置を行うために、何がキ ーポイントになっているかというと、やはりそれは時間管理というところが基本になっ ています。  一方、裁量労働制においても総合対策の中では、やはり同じ視野で対策を講ずるよう にしているわけです。しかしながら、今回出てきている議論のコンテクストの中で、例 えば場所の多様化とか在宅勤務といったことに分けて、具体的、個別に何か対策を講じ ているかに関しては、現在まさに検討中の状況で、特にそれについてのデータは持ち合 わせていない状況です。 ○ 労働基準局賃金時間課長  企画業務型の裁量労働制は今年1月から要件を緩和したところであり、決議の届出は 出てきているのですが、その中で具体的にどういう健康確保措置を決議したかの内容ま では、まだ把握していません。申し訳ありません。 ○ 諏訪座長  よろしいですか。ほかにご質問はありますか。他の委員の方はよろしいですか。それ ではご意見をいただいていきたいと思います。事柄の性質上、これらは本来みんな別々 のテーマです。基本軸はワークライフバランスではありますけれども、問題のいろいろ な具体的諸相は個別ですので、最初に在宅勤務関係とマルチジョブは少し近いかもしれ ませんので、それを併せて議論し、その次に健康確保の問題を少し扱って、最後に退職 金・企業年金等、あるいは社会保険等を扱ってみたいと思います。最初に在宅勤務関係 で少しご意見をいただければと思います。 ○ 清家委員  先ほど課長補佐からも説明がありましたように、例えば参考資料の1頁を見るとテレ ワーカーの定義として、いわゆる自営業型の人と雇用型の人がいるわけです。例えば3 頁の上のあたりの記述を見ると、全部そうですけれども1つの例で言えば、労働者が希 望する働き方であっても心身の健康を損うような働き方では云々という、「労働者」と いう言葉が出てきていますので、いわゆる労働者性の問題というのですか。これは私は 素人なのでよくわかりませんが、在宅勤務の話の場合、大体法律家の間では決着が付い た問題なのでしょうか。  つまり自営業者の場合だったら、逆に言えば自営業でやっている人は勝手に働いてい るのだから健康はいいと考えるのか、同じようにやっている人でも雇用型だと雇い主の 責任があるので、こういう問題が出てくると考えるのか。その辺を伺いたいと思いま す。 ○ 諏訪座長  事務局から答えていただくというよりは、少し議論を我々の中でしたほうがいいと思 います。 ○ 森戸委員  労働者性の問題について決着が付いたかというと、別にテレワークが出る前も後も、 たぶん決着は付いていないと思います。ただ、この報告書の資料1で触れているのは雇 用型の話で、いわゆる自営型のことは今回、ここでは射程に入っていないということで はないでしょうか。ただ、そういう雇用型のテレワークが広がるということは、労働者 性の概念を曖昧にしてきているというか、問い直しているという問題意識は皆の間にあ って、もちろん政策サイドにもあるとは思いますが、ここは在宅勤務の話に限っている のだと思います。労働法的には、要するに指揮監督下で働いているかとか、使用従属労 働かみたいなことですけれども、一応、働き方がどういうものかによって線が引けると いう前提で話は進めていると思います。 ○ 清家委員  もし線が引ければ問題ないと思いますが、はっきり線が引けないような場合に、例え ば一方の働き方には規制があって一方には規制がないとなると、たぶん企業の側は規制 がないほうの契約にシフトしてしまうことは、当然合理的な行動として起きそうですよ ね。そういう心配はないのでしょうか。 ○ 森戸委員  それもあるとは思います。現にそういう動きは企業側にもあると思います。 ○ 諏訪座長  いまの問題点以外で、このテレワークに関していかがですか。ここにはテレワークを よく知っている方がたくさんおられます。 ○ 北浦委員  論点はよく整理されていると思うのですが、感想めいたことをいくつか申し上げま す。最初に、テレワークで、通勤そのものが要らないと定義されていますが、働き方の 自由性はそこに書かれたとおりですが、通勤そのものも論じておいたほうがいいのだろ うと思います。フレックスタイムの働き方と時差通勤、そういう通勤のスタイル自体を 変えていくことと一緒に論じていく形がいいのだろうと思います。企業においては、ど ちらかというと前者の選択を先に考えて、その中で「場合によってはこちら」という形 でやっているのが現状であって、考え方としては別物ですが現実の選択の中には、そこ はかなり連続的な世界になっている。この点が1点あろうかと思っています。  もう1点、メリットとして指摘されていることは、全部、裏返せばデメリットである ということで、メリットはかなりよく整理されていますが、デメリットをもう少し分析 していったほうがいいだろうと思います。相当にデメリットがあるのが在宅勤務の世界 ではないか。それが、これを普及させる意味での大きな問題点ではないかと思います。 例えば、1頁の3つ目の○の(1)の2つ目の黒ポツで、これは通勤の負担がないという ことですが、逆に言うと、通勤の負担がないことによって、オンとオフの切替えができ ない。そのことが能率の問題にかなり響いているという問題もあるわけです。そういう ように、これはよく言われることですが、精神的な自律性と同時に、働くことについて の気分転換ができるかということです。  もう一つは、そこには書かれていないのですが、環境の問題です。作業環境、オフィ ス環境の生産性の問題があって、なぜ会社で働くのかというのはオフィス環境自体に生 産性があるわけです。職場とは違う、家庭の中のかなり猥雑な環境の中で働くことの非 能率性、非効率性ということもあるわけです。そういうことも含めて考えていくことも あると思うのです。  それから、これはほかに出ていますが、集中できるということは、裏返せば、過密性 の問題が生ずることは全くそのとおりですし、業務の成果の問題について評価が難しい のもそのとおりです。ここに書かれていないことで一つ大きい点としては、OJTの問 題、能力開発の問題です。OJTで言われているところの、仕事が現場においてきちっ と評価される、必要なことのアドバイスや指導ができる、高い目標についてさらにステ ップアップさせる、こういうことを繰り返すことがいちばん大きな要素になると思うの です。そういうOJT的要素がなくなることは、単に、教育訓練を補完的にやるだけで はない、そこでは補いきれない難しさがある。こういうことも考えていかなければいけ ないのではないかと思います。何か、否定的なことを申し上げますが、よくするために そういう問題点をもっと詰めていかなければいけない。  プラスのことを申し上げると、3つ目の「社会全体のメリット」の所で「家庭の絆の 深まりや地域社会の再生」と書いてありますが、この地域社会の再生は、例えば日本の ベッドタウンを考えると、男性と女性の両方の就業が進むような状態になって、昼間の 状態は年寄りと子どもだけという現象になってくる。そのことが非常に災害に弱い町を つくっている、危機管理的な問題からいって問題である。そういう視点もあって、テレ ワークは、むしろ、そういう視点からも考えていく必要があるということもよく言われ ているわけです。確かに、今の日本の都市はどんどん歪んだ形になってきている。そう いう面から考えると、この(3)の部分は、あまり法律的な問題ではありませんが、もっ と社会的に強調されていいのではないか。  その他にもいくつかありますが、もう1点だけ申し上げると、2頁の2つ目の○の所 で、労働時間整備の問題。これについてはいろいろとご指摘がありますが、いちばん大 きい点としては、在宅勤務を単独の選択肢として考えることは大事なのですが、在宅勤 務と他のものとの組み合わせについてもう少し綿密な検討を行っていく必要があるので はないか。現実には、今、部分在宅勤務という形でやっているのですが、フレックスタ イムの延長のようだったりして、曖昧な点が多い。確かに、それを組み合わせることに よってどんどん進む面もありますし、企業においてはかなり活用できる面もありますの で、選択肢をばらばらにするのではなくて、組み合わせをしていくことについてやや問 題があれば、その規制などの面も含めて検討をしていくことが大事ではないかと思って います。 ○ 森戸委員  2、3点あります。1つ目は、私は、現在の労働時間規制関係の法制などが在宅勤務 を妨げているという気はしていない。つまり、現在の規制上、労働時間規制などに使い にくいものがあるとすれば、テレワークに限らず、ホワイトカラー全般について規制緩 和が必要なのだろうと思っております。ですから、テレワークを推進していくことには 異議がないのですが、基本的には、家にいようが会社にいようが、労働者であるという 前提を維持するのであれば、現行法の枠組みの中でできることだと思っています。  ただ、1つ思うのは、裁量労働制などは、テレワークにはいいと思いますが、今まで は仕事上の裁量ということで考えてきましたが、具体的な指示を受けないということの 裁量の中に、どこで働いてもいいという意味での裁量性みたいなものも入っているの か。それとも、それは会社の中にいる前提で裁量的に働く意味なのか。その辺は現在ど ういう解釈をしているのかということを考えるところです。  もう一つは、いちばん言いたかったところなのですが、今回のこの在宅勤務のまとめ を見ると、今の家のままで育児なりをしながら台所で働けるようなイメージで書いてあ るのです。書いてあると言ったら決めつけすぎかもしれませんが、おそらく、今の家で 持帰り仕事をやる感じで、家で子どもの面倒を見つつやれるのがいいのですよ、それを やりやすいように規制なり政策なりを考えていくのですよと。もう一つは、これはスペ ースの関係があるのですが、自宅できちんとしたオフィス環境を整備しろと。例えば、 離れをつくって、きちんとしたオフィス環境にしろと。また、テレワーク税制ではない ですが、そういうことをするのに税制上助けてあげますよと。  その両方があると思いますし、どちらかに重点を置くのかわかりませんが、テレワー クや在宅勤務のイメージがいろいろとあって、職場の一部みたいな事業所や駐在所と言 えるような感じの環境を整えよ、むしろ整えるべきなのだ、というように政策を持って いくのか。それとも、今の家で働けるようにすることがいいという方向なのか。そこ が、今の家のままで持帰り仕事がやりやすい感じにするのですよ、ということに何とな くなってしまっている気もするのですが、労働者という前提を維持する限りは何かもう ひとつ議論が必要な気がしております。 ○ 佐藤委員  在宅勤務イコール裁量性の高い人が在宅勤務をしていて時間管理がかなり自由にやれ る感じで書かれているのですが、在宅勤務の特徴は通勤そのものがないことですが、通 勤が通信で代替されるのが在宅勤務です。ですから、移動しなくても通信でやれること と、それがやれる仕事が皆裁量的かというのはまた別で、在宅勤務の時間管理をきちん とやっているものもある。  例えば、パソコンをやっていてわからないことを問い合わせますが、受けているのは コールセンターみたいな所がまとめてやっているのではなくて、個人の自宅につながる ようにしてやっている。そうすると、10時から4時までが勤務時間帯で、パソコンを立 ち上げておいて、電話が入ってきたものにそこで答える。どのように答えているのかも 会社で全部モニターしているのです。ですから、勤務時間がきちんと決まっていて、仕 事の管理もきちんとやられている在宅勤務もかなり増えているので、在宅勤務イコール 時間管理が自由という在宅もあるけれども、勤務する場所が自宅であって時間管理をき ちんとやる在宅も一方であることが落ちてしまっているような気がしました。 ○ 諏訪座長  今、手描きの絵を配付していただいていますが、佐藤委員がおっしゃるところは非常 に重要な点であって、在宅勤務イコール時間の裁量ではないです。結局、場所の裁量と 時間の裁量があって、その両方が重なる第一象限みたいな部分が最も典型的な在宅勤務 だろうけれども、そうではなくて、場所は家でやってもいいけれども時間帯は厳格に管 理されるタイプもある。場所の自由がない代わりに時間に関してはフレックスタイムと か現行の裁量労働制のように自由度がある。私は、どっちも自由度がなくて非常に制限 されている現在のものから、一挙に第3象限から第1象限に行こうという議論をずっと やってきたことが、在宅勤務をうまく根づかせることができなかった原因だと考えてい ます。  ですから、それぞれの企業、それぞれの職種ごとに状況をよくとらえて、第3象限か ら第4象限に、あるいは第2象限にと動いていきながら、次のステップとして(2)と書 いた最終的な形に持っていく必要があるだろう。ただし、最終的な第1象限型になる場 合には、いくつもの前提条件があるわけです。1つは、仕事環境が整っていないと難し いです。我々研究者は、とりわけ文科系の場合は自宅で仕事をする人が多いですが、大 体、仕事部屋を持っていて、コピー機を持っていたりパソコンを持っていたりするわけ です。人によってはガラガラと動くようなコンパックという書庫を持っていたりするわ けで、そういうように整えないとなかなかできない。だから、これによって完全在宅勤 務型でやる場合には相当程度整える必要がある。重度障害者の場合には、障害者特有の 配慮以外にこういう環境を整えなければいけないのです。  2つ目は、いろいろな形で外部から規制をしようとしても、指揮監督しようとしても 限界があるわけです。その結果、最終的には個々人が自律して働く、自分で自分を律す るというセルフディシプリンの対応ができていないと駄目なのです。したがって、昨日 まで学生をやっていた人を今日在宅勤務で雇ったら、ほとんど能率は上がらないでしょ う。ある一定期間、会社でプロになるのはどういうことか、ということをしっかりとた たき込んだ後でないと難しい。もう一つは、完全在宅勤務はかなり無理があるところが ありまして、仮に重度障害者の場合でも、時にはオフィスに出て行って皆で顔を合わせ たり打ち合わせをすることは意味がある。それから、個々人でやっていると疎外感や孤 立感があるだけではなくて、北浦委員がおっしゃったとおり、技術水準がだんだん落ち ていくのです。刺激も少ないですしルーティンの仕事ばかりやっていることになります ので、キャリアを発展させていくためにはいろいろな工夫が必要になってきます。  それから、完全在宅勤務というように考えないで、部分在宅勤務で考える場合でも、 ある特定期間だけそうするのか、一生涯を通じてそうするのかということがあります。 我々文科系の大学の先生は、一生涯を通じて部分在宅勤務をするのですが、通常の労働 者の場合でも、ある特定の事項があるとき、例えば介護や育児をフルにやるのではなく て分担してやったりする、あるいは足を折ってしまったとか、結婚をして配偶者と一緒 に一定期間を地方に出なければいけないとか、こういう場合に在宅勤務を行う。そうす ると、これは完全在宅勤務であって、かつ期間の定めがある。  そういうように、さまざまな種類がありまして、こうした多様な種類を十分に分けず して全部まとめてやると、1980年ごろ、私が在宅勤務の勉強を始めたころに、ある企業 の社長さんが在宅勤務というものがあることを聞いて「在宅勤務を命ずる」と課長さん にやったわけです。1年間かけて新しい企画を立ててやってこいと。そして、1年経っ てオフィス勤務になって、出したレポートの最初は「もう二度としたくない、こりごり だ」という有名な話があるわけです。この孤立感とか、赤ちょうちんに一杯やりに行け ない、気分転換ができないとか、そのころですから、オフィス環境も整っていなくて、 在宅勤務ではなくて自宅謹慎を命じられたような気になってしまう。そういうように考 えると、在宅勤務も、本人が希望しないのに強行的に課すとこういう問題も出てくると 思っています。 ○ 山川委員  今の移行的なというのは、非常に良いアイディアというか、妥当な方向性だと思いま す。特に、場所と時間に分けて段階的に移行する、部分的な在宅勤務でやっていく、と いう2通りのやり方があるかと思います。後者については、必要性が高ければやる方向 にどうしても動くであろう。どういう点で必要性が高いものが出てくるかというと、先 ほども転勤等のことについてのお話も出ましたが、ほかに一つ考えられるのは育児・介 護休業の件です。今度、年金保険料の関係で3年まで延ばし得るような形になるようで すが、女性の管理職経験者の方に聞くと、キャリアのロスなどのことを考えると3年も 育児・介護休業を取ることはなかなか難しいと。  そうなると、例えば、現行の育児・介護休業を取らない場合の事業主の取るべき措置 の中にいろいろありますが、その中に、時間的な部分的ということですが、在宅勤務等 を活用する。そういうやり方はどういうものがあるかということを労使で話し合ってい くと、必要性の高いところから導入できるルートがつけられるのではないかと思いま す。  もう1点は、清家委員が言われた非労働者である場合です。現行法でも、非労働者で あっても一定の保護が与えられ得るわけで、それが家内労働法です。ただ、あれは物の 加工で、今はどうなっているかわかりませんが、フロッピーを受け取って加工した場合 は該当する、ネットワーク等でファイルを送る場合はそれに該当しない扱いだったと思 いますので、その辺りを見直す必要があるかどうかということも検討に価するのではな いかと思います。 ○ 諏訪座長  それでは、次の課題です。関連してなのですが、マルチジョブ、二重・三重就業につ いて、今はパートタイマーの賃金が高くないことによって、所得を補う形でフルタイム の人がパートタイムをやったり、パートタイムを2つ3つ掛け持つ。先ほどの大学の非 常勤講師などはその典型で、このような就業形態がかなり広がってきている、将来的に はもっと広がる可能性があることを考えると、こうした問題にどう対応していくかが重 要だろうと思います。  ただし、このマルチジョブの場合には、一つは雇用型だけれども、もう一つは非雇用 型です。今、インターネットで、いろいろなアルバイトをやっている人がたくさん出て きていますが、あれは、一種、自営業型でやっているのです。したがって、マルチジョ ブといっても全部が雇用型ではないだろうという、このような複雑な状況があります。 これらについてどうしていったらいいか、どんな点をポイントとして考えるべきか、ご 意見をいただきたいと思います。 ○ 北浦委員  先ほど資料の7頁を見せていただきましたら、これは確かなのですが、女性が非常に 増えている。そうすると、ここは積極的な意味で書かれているのですが、二重就業とい うのは、もともと、古い議論では、例えば昭和30年代ぐらいになると、逆のイメージも 出てくるわけです。今がそういう状況かどうかはわかりませんが、低利多就業的な、い わば、所得が少ないからやむを得ずということだとすると、あまり良い話ではなくなっ てしまう。その辺のところは、両方の意味が入っているのだろうと思いますが、よく見 極めた上で対応していかないとミスリードしてしまう感じがします。ただ、こういう中 でいろいろな働き方を求めたいということで、1つの企業だけでは実現しないからいろ いろな形でやるのだという、そういう積極的な意味合いもあるのだろうと思いますが、 その辺が混じり合っているのか、あるいは分かれているのか、なかなか難しいところだ と思いますが、その辺を見極めていかなければいけないだろう。  もう1点は、会社側の立場で言えば、これは転職制限の問題に必ずかかってくるわけ です。労働法の先生がいらっしゃいますが、その辺の取扱いの難しさ、企業においても 兼業・兼職をどう見ていくのか。これは、思い切ってやった所もありますが、大多数の 所はまだまだ慎重ですので、その点の問題もあると思っております。  それから、マルチジョブになると、ここでは両方とも雇用であることを前提にしてい ますが、副業が雇用であるのがいいのか、あるいはもう少し柔軟な就業型か。今は、ど ちらかというと、土・日就業の形でやっているのはほとんど内職型みたいな形で、先ほ どの在宅勤務なのか在宅就業なのかわかりませんが、そういうものと組み合わせて柔軟 にやっている場合もある。ですから、その辺は、両方とも勤務の場合だけに限定して考 えないで、副業として考えるのであれば柔軟的に考えたほうがいい。そうすると、逆 に、制度間の難しさがたくさん発生するわけで、片方は労働者、片方はそうではない、 その場合はどうするのだという問題などがいろいろと出てこようと思います。 ○ 森戸委員  簡単に2、3点です。1つは、これは前にも出ていた話ですが、非雇用と雇用を含め て、マルチジョブではないのだけれども、夜は大学で勉強するとか、そういうことで す。私事ですが、今年から、夜、社会人を教えていて、10時ぐらいまで授業があって、 皆大変だなと思っていたのですが、「いや、残業をしている時間に勉強しているのです から、よほどいいですよ」と言われて、そういうものかと思ったのです。会社で「何か 習いごとを始めたの」と聞かれて、早く帰って内緒で来ているような人が多いのです。 この時間は本当は残業をしているのだと分かって、当たり前なのかもしれないですが、 すごいショックを受けたのです。だから、マルチジョブという話ではないのかもしれな いけれども、自由時間というか、会社にいない時間をどう使うかという話でいろいろ整 理できるのではないか。  もう一つは、このマルチジョブのときにどういう法的問題が起きるかというのは、労 災はどうするか、労働時間はどうするかとか、労働法学者にとってはいくらでもネタが 増えて面白いのですが、一方で技術的にこうしろと言ってしまえば終わる問題でもあっ て、最終的には、北浦委員がおっしゃったように、労働契約上の公務員なら職務専念義 務とか兼職禁止とか、そういうことが問題になると思うのです。そこで、立法論なのか 解釈論なのかわかりませんが、例えば、雇用保障からキャリア保障みたいな流れの中 で、使用者といえども労働者のキャリア形成を妨げるようなことは契約上、公序に反す ると言っていいかわからないけれども、そういうことをしてはいけないのだという政策 づくり、ルールづくりみたいなものができていくことが必要なような気がします。つま り、基本的に、労働契約の範囲で使用者は労働者についていろいろと拘束をかけられる のですが、労働者のキャリアアップやキャリアを形成していくものを疎外するようなも のは少し制限されるのだ、という考え方ができるような気がします。  もう一つは、ある意味ではそれと矛盾するのですが、うちでは5、6時間しか働いて いないので健康を害することはないと思ったら、ほかでたくさん働いていて倒れてしま ったというときに、使用者は、その責任を問われて、過労死でしたとか言われても困る という思いもある。このような観点から、労働時間規制あるいはマルチジョブでもいい けれども、何かあったら健康確保をきちんとしろという義務は他方で強く言ってくるく せに、ほかでも働らかせろと言うのはどうなのだという、その矛盾した調整というか、 それは、こちらとしても、こういうように考えています、ということを言わなければい けないのではないかと思います。 ○ 武石委員  マルチジョブホルダーはこの「仕事と生活の調和」という観点からどう考えるかとい うことが最初にありますが、例えばキャリアアップの機会や自分の能力を積極的に生か すチャンスととらえることもあると思うのです。しかし、前回、前々回のように、これ からは短時間とか、収入として生活できるほどの賃金がもらえない人たちも出てくるか もしれないことになると、積極的には望まないのだけれどもこういう働き方が出てく る。だから、この研究会としてマルチジョブを積極的に奨励するかどうかということに 関しては、少し中立的なような気がするのです。  そこで出てくる大きな問題としては、森戸委員がおっしゃった、労働時間を、トータ ルとして過重な労働にならないよう歯止めをどこかでする必要がある。それは、事業主 にチェックしろといっても、今の法律の中では、雇用者であれば通算してという形にな っていますが、ある意味で自己責任が問われてくる部分があるので、そこの歯止めが必 要な気がします。先ほどの社会保険制度のところで言えば、10時間ずつ3つ働いている 人がいるとすると、問題提起しかできないのですが、保険から抜け落ちてしまう問題が あるような気がしています。  それから、先ほどは在宅勤務の話だったので申し上げなかったのですが、1番の話の 中で、就業場所の多様化の視点から広く考えたときに、勤務地の選択が抜け落ちている のではないか。ここでは在宅勤務だけの話になっているのですが、転勤の問題、転居を 伴う異動、そういう問題は「仕事と生活の調和」という観点から非常に重要な問題だと 思うので、そこを問題提起させていただきたいと思います。 ○ 諏訪座長  それは非常に重要なポイントです。現実にそういうニーズが高いのが一方である。他 方では、しかしながら、それぞれの組織内の事情がありますから、勤務地の選択はそう 簡単にできない。そこからどうするかというのは大事なポイントだろうと思います。 ○ 北浦委員  消極的なことばかり申し上げたのでプラスの面で申し上げれば、これは結果論なのか もしれませんが、複数就業の形で、例えば転職をする場合には二重勤務をすることが円 滑に次へのステップを踏むのによいという指摘もあるわけです。ただ、現実には、会社 との関係ではわかってやっている場合とわかってやっていない場合がありますので、な かなか難しいのですが、今の所では得られないものを考えるチャンスを開くという、こ の意味の重要性は非常に大きいのだろうと思うのです。それが、結果論からいくと、円 滑な転職、あるいは自分の可能性を広げる意味があるという、先ほどのキャリアの問題 だろうと思いますが、そういうところの要素があることは事実だろうと思います。その 点を意義として補足しておきたいと思います。 ○ 佐藤委員  森戸委員が言われたことと重なるのですが、法定労働時間や残業についての基準法上 のルールがなぜあるのかということです。多分、事業主が強い権限を持っていて、長い 労働時間で契約をしたり残業をたくさんさせたりするようなことが起きないようにする ことにあるのだろうと思うのです。それはそうだと思うのですが、今度、労働者が主体 的に別の仕事を選ぶわけです。それが自営だったり雇用だったり、あるいは勉強するこ ともあるかもわかりませんが、勉強にしても、修士論文が大変で、徹夜をして本業のほ うで病気になってしまうかわからない。そうしたときに、ある事業主にその分まで責任 を持てというのは無理な気もしないでもない。そうすると、トータルの時間について、 事業主の範囲内については事業主がやるけれども、労働者個人の時間の使い方のところ を別な形で考えないと難しいのではないか。例えば、フルタイムで働いている人が自営 をやる。これは時間外ですからいいわけです。雇用だと引っかかるのだというのは論理 的におかしいような気がするので、今の基準法の枠内で全部トータルでというのは無理 なのではないか。個人の側は別の枠組みをつくるしかないような気もします。 ○ 諏訪座長  それでは、この後は全然違うテーマに移りますから、ここまでの範囲で事務局からご 意見があったらいただきます。 ○ 勤労者生活部長  第1点目の在宅につきましては、諏訪座長にご提示いただいた図表が非常に整理でき ていて、このメモでもう少し具体的な提言のようなものをしていただければという気持 を持っています。例えば、現在の状況において、在宅勤務は在宅ということで場所は限 定した概念になっていますから、時間の自由度が高いというコースを伝って、世の中に こういう勤務を認知していただくことをやりつつ、法制度として、もう少し使いやすい ものを考えたときに、例えば、現在、在宅勤務をやるときに、基準法の労働時間制をど のように工夫しているかというと、フレックスタイム制を使ってみたり、裁量労働制を 使ってみたりというのが実態のようなのです。実は、これは、いずれも自宅で勤務する ことを積極的に取り込んでいるのではなくて、仕事場での労働時間の反射的な効果で在 宅が可能になっていることが1つです。特に裁量制は企画型の仕事や専門型の仕事とい うことで、仕事が限定されているのです。ですから、何でも在宅ができるという構成で はないのです。さはさりながら、一定程度可能になっているとすると、そういう職種限 定を解いてでもやれるようにしておくほうが、いいのではないかという視点がある。  その際に、事業場外での勤務とその際のみなしという法制がありましたので、それに ついて、最近は、解釈をしっかりいたしまして、在宅勤務について事業場外のみなしで もできますよ、ということを明確にしたのです。ただ、これについても、法律上の要請 がありまして、その場合はそこでの時間管理が困難であることが要件になっています。 そうすると、可能な限り時間管理をして、それでも無理なときにということでやらない と、このみなしが働かないことになってきます。例えば、こちらは職種限定がありませ んから、今の事業場外のみなしを当面やっていくとすると、先ほど言われた女性、ある いは男性でもいいのですが、育児や介護を人生の過程で入れたときに、そういうことを やりながら在宅をという場面においては、時間管理が難しいことを除外して、自宅で勤 務する場合にみなしができるという法修正を提案してみる辺りかと思っていまして、そ んなことをここで少し言及させていただければもう少し良いと思っております。  マルチジョブに関しては、確かに、結論は出ないのですが、現行の基準法制が労使関 係で事業所を転々としたときにも、観念的には通算する。各々の事業主が、名寄せする がごとき規定を持っておきながら、その実行措置ができていないのです。これを実行あ らしめるものにしていくのか。あるいは、現状に合わせて、通算そのものをあきらめ て、佐藤委員が言われるように、そこの部分は個人であって、労働者であろうとそうで なかろうと、人はある局面で労働者になって、ある局面で自営業者になるわけですか ら、自分自身の健康管理に本当に留意するのであれば、あるいは国民にそういうことを 課した上で時間管理を個人ベースでやれということで置き換えるか。極端に言うと、そ んなことがあるのではないかと感じました。しかし、これはすぐに解決できるものでは ないということで、とりあえず問題提起させていただきます。  社会保障につきましては、雇用保険制度を改正したときに、これは諏訪座長からの問 題提起だったのですが、部分失業などをどうするかということが大きくなる。というの は、今は、所定労働時間、週のうちの4分の3は勤務していることが適用要件になって いますので、その方の主たる働く場がこの時間規制で自ずと限定できたわけです。とこ ろが、この適用要件を緩めていくことになると、週40時間の中で例えば20時間、あると きは10時間でも適用することにいたしますと、この10時間ごとの可能性が1週間の中に 複数回入ってくる。そうすると、当然、マルチジョブを前提とした雇用保険を考えなけ ればいけないのではないか。  こういうご指摘がありまして、そのときに、複数やっている中の一部を失業したとき に失業給付を行うのだろうかという問題になってくるわけです。ですから、それを避け るためにも、今回のメモでは、とりあえず20時間に止どめています。というのは、所定 労働時間は週40時間ですから、過半数を占めるところの労働まで適用しておいて、あと のところは、そういうものをよく検討した上で、さらにその適用基準を下げるかどうか というのは、もう少し慎重に考える必要があるのではないかという問題意識です。 ○ 諏訪座長  健康管理も議論をすれば切りがない、とりわけメンタルな側面が重要なのですが、既 に少し出ていますので、残った時間は退職金・企業年金等という重要な問題をご議論い ただきたいと思います。 ○ 清家委員  これは森戸委員のほうが専門だと思いますが、1つは、先ほど指摘させていただいた ところなのですが、私の意見としては、公的年金の支給開始年齢と退職年齢との間にギ ャップを認めて、その間のつなぎとして退職金や企業年金を位置づけるのはあまり賛成 ではありません。私の意見としてはそのように思います。  それから、基本的な考え方なのですが、この企業年金・退職金と賃金の関係なのです が、退職金や企業年金について、その退職金の性格について何々説とたくさんあるのは 承知していますが、最近においては、経済学者の間のコンセンサスは、賃金の後払いで あると解釈することになっていると思います。そのように考えると、ここで、老後生活 のため、あるいは老後の所得のために退職金・企業年金があることが書かれているので すが、退職金・企業年金という形で賃金の一部が支払われることは、企業が平均的な老 後生活設計をして、そのような生涯賃金の支払い方をしていることを意味していると考 えられます。  もし、この退職金・企業年金が事前に賃金の中に含まれて支払われれば、その際に は、この退職金・企業年金と同じような設計で、老後生活を設計する個人も出てくるだ ろうし、これとは別の老後設計、つまり、若いときにカツカツの生活をしてリッチな老 後を送るか、若いときに思い切って遊んで老後は貧乏でもいいと思うか。そういう面か ら言うと、個人が合理的な選択をすることを前提にした場合、ここで考えているような 「仕事と生活の調和」という観点からは、企業による一律的な、あるいは平均的な、労 働者を念頭に置いた老後設計よりは個人が自由に老後設計をできるほうが、望ましいの かもしれないと思います。  今言ったような理由とは別の理由ですが、企業は、事実上、長期的に時系列で見る と、生涯における賃金支払いに占める退職金や企業年金の比重を、徐々に減らしてきて いるのではないか。特に、退職一時金については、一時金の積立てそのものについての 引当金制度の改定等もありますから減少してきているのですが、ウェイトとしては、そ ういう面では退職金・企業年金という形で支払われるもののウェイトが低下しながら、 おそらく、その中で退職一時金がさらにウェイトを減らし、相対的に言うと、確定拠出 型も含めて、企業年金のウェイトが増えていると思います。基本的な考え方として、老 後の生活保障のためにこの退職金・企業年金が大切だと強調することは、逆に言えば、 企業お任せの老後設計をお勧めしていますということになる。おそらく、私も、現実的 に言えば、そんなことを言っても、個人に任されても困るというところもあると思いま すから、バランスの問題だと思いますけれども、そういう視点が一つあるかと思いま す。  もう一つは、これは、森戸委員と一緒にアメリカに調査に行ったときにも痛感したの ですが、退職管理の規制が緩和される。つまり、例えばアメリカのように、定年退職制 度が制度的に持ち得ないことになると、ここで書かれているように、従来というか、今 でもそうですが、退職金や企業年金は従業員の定着効果を高める趣旨の性格のものであ ったわけですが、同時に、最近のアメリカの傾向等を見ると、これは実態の観察だけで はなくて研究等も随分ありますが、円滑な従業員の自発的退職を促す大切な変数として の退職年金・企業年金である。例えば、定年が持てないことになると、企業が期待する 退職年齢で多くの人が退職してくれるような企業年金設計をするという意味になる。逆 に、退職金が持っている、あるいは企業年金が持っている、労務管理上の重要性が拡大 してきている部分もありますので、議論をするときにそういう視点も必要だと思いまし た。  最後の所ですが、これは、企業年金というよりは公的年金の話ですが、年金基金等の 所で出てきているわけです。ここは、今回、残念ながら、厚生年金法の改正で見送られ ましたが、最初に我々が議論をしている働き方の自由化の議論との整合性から言えば、 このパートタイマー等への公的年金の拡張適用を、この年金基金等の話とも絡めて、ぜ ひ言うべきだと思います。  ついでにもう一つだけ言うと、退職金税制の話ですけれども、確かに、ここに書かれ ているように、これを我々経済学者的に見たときの中立的な形にすると、新たに税負担 が増える人たちが増えるのです。その考え方は、おそらく最終的にはさまざまな妥協が 成立するのだと思いますが、大きな考え方として、高齢者は、高齢になると低賃金にな るから、それを埋め合わせるために退職金が必要だとか、あるいは、今の制度がこうな っているから控除枠はこのままにしないとかわいそうではないかという議論があるわけ です。そういう現状を前提にしてものを考えるのか。それとも、そうではない考え方を するのか。現実的には、現状も考慮しながら理想を追い求めるということなのだろうと 思いますが、その辺のバランスをどうとるのか。  例えば、私は前から言っているのですが、高年齢者雇用継続給付金みたいなものは、 ある面で言うと、高齢者の低賃金構造を固定化してしまったりする恐れもあるわけで す。同じようなことは、退職金も、高齢者が再雇用で賃金が低くなったときのサプリメ ントに使いましょう、という考え方があまり出てくると、今の高齢者は低い賃金で雇 う、というスキームをそのまま温存することにもなりかねない。そういう面から言う と、私は、諏訪座長が審議会等で話を進められるときには、現状を前提とした妥協もあ ると思いますが、こういう所で主張する場合には、理屈の上から言った中立性をもう少 し前面に出していただいたほうがいいと思います。ただ、これは意見の分かれるところ だと思います。 ○ 森戸委員  退職金・企業年金についてたくさん書いていただいていて、細かく言えばいろいろと あるのですが、「仕事と生活の調和」という観点に絞って言わせていただきます。いち ばん思うのは、ここに書かれている問題というのは、結局、企業年金・退職金をどう位 置づけるかという話に尽きていて、老後の所得保障の一部を担う制度なのだということ を強調すれば、アメリカみたいにいろいろな規制をかけていく。ただ、任意の制度です から、やるのならばいろいろと規制があるぞ、という方向を打ち出すと、それによっ て、かえって皆がやらなくなってしまうという問題は常に抱えていく。そこは皆さんも おわかりなのですが、全体としては、企業年金・退職金を、国としてどういう制度とし て位置づけるかということになると思います。  ただ、公的年金がこれから伸びないから企業年金によろしく、というのも筋が違う気 もするし、そもそも、それだったら、自助努力で個人でやるところをもう少し優遇して いけばいいのであって、企業が任意でやっている、ある意味で労働条件であるところ に、いろいろな規制をかけるのは良いかどうかという観点の検討は必要かと思います。  結局は全体の話をしてしまいましたが、ワークライフバランスの観点から言うと、例 えば、ポータビリティを確保することは良いことだという流れはあるのですが、これ も、ポータビリティが確保されるのは、逆に、ワークライフバランスの観点から言う と、途中で転職などをしたときに何も出ないということなのです。自己実現のために会 社を辞めて、その退職金を原資にして、自営をやってみるとか、学校に通ってみようと いうときに退職金なり企業年金の脱退一時金が使えたのが「ポータビリティですから、 60歳まで下ろせません」と言われることはワークライフバランスの観点からするとマイ ナスなのかもしれない。そういう観点も考える必要があるかと思います。  それとの関連で、公的年金はそうかもしれませんが、企業年金などにも時間の短い人 を入れるようにすべきではないかということですが、任意の制度なのにということは置 いといて、入れるようにすることは、公的年金でも同じかもしれませんが、逆に言え ば、清家委員がおっしゃったように、退職金・企業年金に入れてあげるよ、その代わり 時給は少し減るよ、ということが起きるわけです。その辺りも、どのような「仕事と生 活の調和」のとり方を前提とするかで考えなければいけないと思います。それでも、「 あなたがどんな転職をしても、最終的に老後にまとまったお金が企業年金・退職金とし て残るようにする方向なんだよ」と打ち出して「その代わり途中ではもらえません」と するのが本当に良いのかどうかというところです。  ポータビリティというのも、持ち歩けることが大事なのではなくて、引退したときに まとまった金があるかどうかが大事なわけです。逆に言うと、ポータビリティがなくて も毎回きちんともらえればいいのかもしれないということも、考えたほうがいいと思い ます。あとは、細かいことですが、ポータビリティの向上の話をして、その後に、調和 の実現の所で財形のことをわざわざ書いてある。財形はあまりポータビリティがないの だけどなと思って読んでいたのですが、この辺も、中退金や財形に話が偏っているよう な気がしないでもないので、いずれにしても、老後所得保障にかかる制度全体を見た検 討が必要かと思います。 ○ 山川委員  4頁目の所で、今の森戸委員の話に賛成ということで、この間、学会のシンポジウム の議論で非常に触発されたのですが、これの全体としてのトーンは高齢化社会を前提に して、定年後の所得保障というイメージなのです。転職も盛んになるというと、あると きに生活を重視して退職しておくとか、あるいは賃金が非常に低い状態になることがあ り得るとすると、むしろ、定年退職後は低所得になる保険事故の一つにすぎないのであ って、例えば失業したり低所得になったという意味での保険事故にも対応できるような 意味での年金があり得るのではないか。先ほど言った、転職をするために退職金が入れ ば非常に生活保障ができるという発想があり得るのではないかと思います。つまり、高 齢化時代の退職後の所得保障に限らない意味を持ってくるのではないか。  その場合も、いろいろと方法があると思いますが、例えば短時間労働における賃金の 保障のあり方が一つある。先ほど、部長からお話があったような部分失業的な考え方を 雇用保険制度の中に取り入れていくのも一つある。その中に、退職一時金、退職年金も ある、という整理ができるのではないかと思います。  もう一つは質問のようなことですが、財形の話です。キャリア形成のための融資が現 在どの程度あるのか。例えば、社会人大学院もそうですし、資格試験の予備校について も、教育訓練給付の中に入っていたと思いますが、専門職大学院、法科大学院等が教育 訓練給付の対象になっているかどうか。資格系予備校が入っていて法科大学院が入らな いのは変な感じもします。金額的にとうてい足りないこともあるのですが、それはまた 別として、キャリアアップのための融資のようなものは現在あるのかどうかという点に ついて質問したいと思います。 ○ 諏訪座長  それでは、後半の部分に関してお願いします。 ○ 労働基準局企画官  財形の関係でお答えいたします。融資制度が住宅を中心にあるということでしたが、 教育融資というものもあります。これは、労働者本人だけでなく、子ども、親族が教育 施設に入学する、あるいは入学をして勉強するときの学費のために融資制度を利用でき ます。学校教育法に定める教育施設はすべて該当することになっています。それと、 今、その対象期間については広げておりまして、かなり柔軟性を持った制度です。 ○ 勤労者生活部長  還元融資の件なのですが、後のほうに財形で触れているのですが、実は、議論をして いただきたかったのは、公的年金制度でもそうなのですが、現状、実績が伸び悩んでお りまして、老後に備えて個々人が資産形成をしていくことが重要だということになれ ば、それぞれの時期にお金が必要になったとしても、それに直接手をつけるのではなく て、還元融資という形で利用をしていくのはどうかというのが基本コンセプトなので す。  そうすると、生活のそれぞれのステージで自らが将来に向けて貯めているお金は、表 面上は貯めていることになっていますが、今は、ほとんどが賦課方式ということで、そ の金は給付に回っていますから、ないわけです。それを取り崩すことは金の流れからし ても非常に困りますから、貸付というか、そういう形でし、最後のところで清算をする ことをいろいろな局面で対応できないかなということが基本にあります。その上で、そ れらについて、今は必ずしも十分に浸透していないところをどうするかということがあ るのですが、具体的な提案ができないのは、実は、そういう融資ということになると、 民業圧迫というまた別の議論が出てまいりまして、公的機関が蓄えた資金を個々人の生 活のための商売にするとすると、金融機関等が民間で預かっている金を運用する際の競 争相手として大きく立ちはだかるのではないかということが一方で言われていて、ここ は非常につらい部分です。  幸い、財形についてはそれがなくて、個々人が貯めたものを民間の金融機関に貯めて いて、そこが通常の業務で貸すことがありますので、これならば文句はないだろうとい うことで、比較的問題が少ないということで、還元融資を書かせていただきました。こ れは、全体に通じての話として整理させていただければ、もう少しすっきりすると思い ます。  それから、話が遡って恐縮なのですが、清家委員が言われた企業の老後設計につい て、労働者であろうと自営業者であろうと、フリーな労働設計をするのであれば、企業 がお世話をするシステムはなくていいのではないかという主張を、メインの論調とした としても、後で言われた定年管理等で、円滑な退職を促すためには退職金制度等もあっ てもいいというご指摘もありましたので、この2つをどう噛み合わせるかということで 主要な流れができるのではないかということは自分なりに納得できたのです。その際、 これをコントロールするのは、現行上、税法が有効に働いていると思うのです。その税 法は、1つは所得税ですし、個々人が積み立てていたときには資産から出てくる、貯金 で言えば利子課税です。所得は、一旦、所得課税されて、自らの所得にし積み立ててい くときに取られる税金と、企業が、内部留保なり、支払いに充てるために貯めておい て、一時所得課税を非常に優遇する趣旨で退職金課税が出てくるのですが、そのバラン スをどうするかということをもう少しサジェスチョンしていただければと思います。  そういうことを思いつきましたのは、今、企業が退職給与引当金をどんどんやるとい うことで、引当基準を落としています。その一方で、個人が貯めるための、例えば利子 非課税措置はどうかというと、この利子非課税措置もどんどんなくしております。一時 所得課税についても、退職金課税を見直そうということで、一律、ある意味では、税制 等は、基本基調が、円滑な退職を促す面があるのだけれども、退職金制度そのものをな くしてもいいかなという流れのようにも見えるのですが、その辺の調整具合いをどうし たらいいかということでアドバイスをいただければと思います。 ○ 清家委員  今の税制のところは大切だと思いますが、これは公的年金もそうですし企業年金もそ うなのですが、後で森戸委員からもご意見を伺いたいと思いますが、要するに、今の制 度は、税制上、拠出時、運用時、給付時、全部が税制優遇されているわけです。企業年 金も公的年金に準拠して、給付時は優遇されているわけです。このバランスから言え ば、給付時はもっとしっかり課税する。その代わりに、拠出時、運用時の税制の優遇措 置を拡充するのがあるべき方向ではないかと思っています。  また、確定拠出型年金といいますか、401k型の場合に、日本の場合にはマッチング はまだ認められていないわけです。これを、アメリカの制度のように、企業が拠出する 分と個人が拠出する分を合わせて税制優遇措置を講ずる形になれば、今、部長が言われ たような、特に個人が自ら備える際のインセンティブになるのではないか。というの は、先ほど言いましたように、給付は賃金の後払いですから、勤労所得並みの課税をし たほうが理屈として合っているわけで、給付時の課税はしっかりする。しかし、拠出 時、運用時の優遇のインセンティブをもっと強めることが必要ではないかと思います が、これは森戸委員の意見を伺ったほうがいいと思います。 ○ 森戸委員  いや、別に、意見ということはないのですが、清家委員がおっしゃった形をとること は、結局、企業に企業年金・退職金をやれという方向で誘導することになります。それ は、国として老後保障を一部企業年金にも担ってもらわなければいけないのですよとい う意思表示というか、それを明確に出すことになる。今、実際はほとんどそうなってい るわけですが、先ほどの企業年金・退職金というものに、実は、全体としてはそういう 役割を果たそうとする企業も減ってきているのではないかということの関係をどう見る かということです。  あとは、少なくとも、今までの企業は、企業年金・退職金を従業員の老後保障の制度 だと思っていたでしょうけれども、実際は、それよりも、日本の雇用慣行とセットにな って、ある意味で、退職時期をコントロールする制度であり、長く真面目に働いてもら う制度であり、かつ悪いことをしないようにモニタリングなどをする制度であり、いろ いろな機能を持たせていて、それでやってきたところもあると思うのです。それを、老 後所得保障の制度だと。だから、ある目的に特化しなさいという方向でいくことが、従 業員からすれば良いようですが、それによって、逆に、先ほどの話に戻るのですが、企 業が「そういうのはやらない」とならないのかどうか、どこでバランスをとるのか、と いうことが政策としては問題だと思います。 ○ 清家委員  その際、先ほど言ったのは、退職金・企業年金は、もともと、賃金で払う部分を退職 金・企業年金という形で企業が老後設計をしている。それが賃金として支払われれば個 人で老後設計をできるという話をしたと思うのですが、そういう観点から言えば、企業 が従業員の老後のために運用しようが、個人が自分の老後のために運用しようが、税制 上の扱いが変わらないようにする形にしていくことが、いちばん理想的だと思います。 企業に特にそれを勧めるわけではないです。 ○ 諏訪座長  議論をしなければいけないテーマはいろいろあるのですが、予定をした時 になって しまいました。そこで、今日のところで、特にほかにご発言がなければ、この辺りで締 めさせていただきます。例えば、今日のところで十分に出てこなかったものの1つに、 最近、ファイナンシャルプランナーが大変人気の資格になってきていますが、それは、 個々人がお金を結構持ち始めたこともあるのでしょうけれども、もっと大きいのは、将 来の不安などに対応するためには、ファイナンシャルプランニングが個々人にとって非 常に重要になってきたということなのだろうと思います。このように、ライフワークバ ランスを考えるときに、これまでは、ワークに対する支援のシステムはあったのです が、個々人が選択をしていく上で、アドバイスをしたり、カウンセリングをしたり、コ ンサルティングをするシステムを、今後、つくっていく必要がある。  例えば、ファイナンシャルプランニングは非常に重要です。個々人が自営業をやるの だったら、財務を抜きにして会社を成り立たせることはできない。そういう意味では、 これから労働市場で、個人が主体性を持ってキャリアを形成して動いていこうとするな らば、いわば、個人ブランドをつくって労働市場通用力をつくっていかなければいけな いわけですから、そのためにはファイナンシャルプランニングも重要になってくる。  というように、これ以外にもさまざまな部分があるのですが、その他としても議論し なければいけない問題が多々あったのだろうと思いますが、時間の関係もありますか ら、今日はこの辺りにとどめさせていただきまして、問題は報告書です。これまで、総 論から始まって各論まで、さまざまな問題を議論してまいりましたが、次回以降は報告 書の取りまとめの作業に入りたいと思っております。その点の段取り等のご説明を事務 局からお願いいたします。 ○ 企画課長  次回の開催についてですが、5月26日水曜日3時から5時まで、この建物の9階の省 議室を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。報告書の取りまとめの段取 りですが、次回以降にその議論をお願いしたいわけですが、とりあえず、本日、資料3 として総論部分についての報告書のたたき台を皆様にお配りしております。次回はこれ についてご議論いただきますが、事前に何かご意見があれば言っていただいて、可能な らばその意見について修正すべき点は、次回までに修正をしたいと思いますので、お目 通しをよろしくお願いいたします。次回は、この総論部分の報告書のまとめに加えまし て、今まで5回議論いただきました各個別のテーマについても、併せて資料でお出しし て、総論部分と各論部分を併せて議論をしていただきたいと思っております。そのため に、総論部分のたたき台についてご用意させていただきましたが、各論部分についても できるだけ早く事前にお手元にお届けさせていただきたいと思っておりますので、よろ しくお願いいたします。 ○ 諏訪座長  それでは、いよいよ大詰めになってまいりましたので、先生方には、お忙しい中を申 し訳ございませんが、最後までお付き合いのほどをお願いしたいと思います。今日は以 上で終了とさせていただきます。どうもありがとうございました。 照会先:厚生労働省 労働基準局 勤労者生活部企画課法規係(内線5349)