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通勤災害保護制度の創設の経緯


 労働者災害補償保険法は、労働基準法の事業主の災害補償責任について保険の方式で担保することにより、事業主の一時的補償負担の緩和を図り、労働者に対する迅速かつ公正な保護を確保するため、昭和22年に創設されたものである。したがって、創設当初においては保護の対象となるのは、「業務上の災害」による負傷、死亡等に限られており、通勤災害については保護の対象とされていなかった。

 その後、交通事情等の変化に伴い、労働者が通勤の途中において災害を被ることが多くなり、通勤災害についても労災保険による保護を望む声が高まってきたことを踏まえ、労働大臣の私的諮問機関である通勤途上災害調査会が昭和45年2月に設置され、通勤災害に関する補償の諸問題について検討が開始され、2年余にわたる審議の後、昭和47年8月、通勤災害の発生状況及び通勤との密接な関係等に鑑み、通勤災害については業務災害に準じて保護することが必要であるという趣旨の報告が労働大臣あてに提出された。

 同報告において、通勤災害を労災保険制度において保護すべきものとする理由は以下のようなものであった。
(1) 企業の都市集中、住宅立地の遠隔化等により通勤難が深刻化しており、通勤途上の災害が増加していること。
(2) 通勤は、労働者が労務を提供するために不可欠な行為であり、単なる私的行為とは異なったものであること。
(3) 通勤災害は、社会全体の立場からみると、産業の発展、通勤の遠距離化等のためにある程度不可避的に生ずる社会的な危険となっており、労働者の私生活上の損失として放置されるべきものではなく、何らかの社会的な保護制度の創設によって対処すべき性格のものであること。

 この報告を受けて、当時の労働省において通勤災害保護制度の創設を内容とする労災保険法の改正案が作成され、昭和48年2月に国会に提出された。同法案は同年9月に成立し、同年12月1日より施行され、これにより、通勤災害についても業務災害と同様に労災保険において保護されることとなった。

 なお、昭和39年に採択され、昭和42年に発効したILO第121号条約(業務災害給付条約)においては、通勤災害についても業務災害と同等の保護を行うことが求められていたが、上記の改正により通勤災害も業務災害と同様の保護がなされることとなり、同条約の要求するところを満たすこととなったため、昭和49年に我が国は同条約を批准している。


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