戻る

資料3


 この資料は、第5回仕事と生活に関する検討会議(平成16年1月23日)に提出した「これまでの議論の整理(案)」について以下の修文を行ったものである(変更を加えた部分に下線を付してある。)。


(1) 「働き方の二極分化自体には一面の合理性があり、問題は他の働き方の選択肢がない点にあることを強調すべきではないか」、「企業が仕事と生活の調和について取り組む必要性として、働く者の変化に雇用管理を合わせなければ生産性の低下につながるおそれもあることを指摘すべきではないか」、「労働組合の交渉力が後退を余儀なくされている要因として、労働組合の在り方や交渉方法の変更といった内的要因と、厳しい雇用情勢等の外性要因とを区別すべきではないか」など第5回検討会議においていただいた御意見に基づく修文


(2) ひとつの企業の中での単線的なキャリア形成のみを念頭に置いた政策から個々人の社会との様々な関わりを視野に入れたキャリア形成支援策への展開、労働時間に関する多様な選択肢を整備した上での働く者による自律的選択の実現など、第6回から第9回までの検討会議において、委員の御意見の一致をみた基本的な方向性に基づく修文


(3) その他、用語等について各回の検討会議において御提言、御教示いただいた内容を踏まえた修文等



総論(たたき台)


1 「働き方」をめぐる現状認識

 ○ 我が国においては、戦後の荒廃からの復興、その後の高度成長時代を通じて、欧米諸国に追いつき、追い越すことを重点に置いた社会経済システムが構築され、「働き方」についても、このシステムと整合性のとれるような形で構築されていった。
 ○これまで我が国において典型的であった長期雇用や、そうした雇用形態を前提とする年功賃金に代表されるいわゆる日本型雇用慣行は、我が国経済の発展に寄与するとともに、労働者の雇用の安定にも大きな役割を果たしてきた。特に経済が右肩上がりで成長していく時代には、このような画一的な価値観、システムが非常に有効であったといえる。
 ○「会社人間」といった言葉に見られる「会社中心の生活」は、このような従来型の日本型雇用慣行の副産物とも考えられる。しかし、「ものの豊かさ」を求める国民の意識が支配的であった時点では、家族の幸福のためには、自らの収入水準の向上が第一に考えられ、「会社中心の生活」は、その見返りとして甘受すべきものととらえられてきた。
 ○一方、このような働き方が困難な者は、無業者となったり、いわゆる非正社員として補助的業務に従事するものと位置づけられ、賃金・処遇の面で通常の労働者よりも劣位に取り扱われてきた。その結果、我が国における働き方については、労働時間、勤務地、仕事の種類など様々な面で経営側に広汎な裁量が存すると同時に雇用保障の強い拘束度の高い働き方と、これとは対照的に様々な面で労働者側の意向が尊重される反面雇用保障の弱い自由度の高い働き方との二極分化が続いてきた。

 ○しかしながら、我が国の経済力は既に世界第2位の水準となり、賃金水準もかつての目標であった欧米諸国と比較してひけをとらないか、むしろ上回るほどの水準となっており、国民の意識も「ものの豊かさ」から「心の豊かさ」を求める方向にシフトしている。また、個々人の求めるライフスタイルも多様化している。
 ○バブル期以降の経済成長の鈍化、国際競争の激化など経済構造の変化が進む中で、企業としては生き残りをかけて、従来よりも短期的な収益重視の考えを強めざるを得ない状況にある。
 ○さらに少子化の進行は、労働力人口の数、労働者の年齢構成の変化を介し国民経済に対して緩やかであるが確実かつ重大な影響を及ぼしている。
 ○このような変化の中で、我が国における雇用管理について、経営側から相次いで改革が提示されているが、いずれも拘束度の高い正社員と自由度の高い非正社員の二極化を前提に短期的な利益追求及び即戦力志向の強化が基本となっていることから、働く側の受け止め方は様々であるものの、総じて「不安感」を持つに至っている。
 ○この「不安感」は、厳しい雇用情勢といった外性要因や労働組合の在り方や交渉方法の変更といった内的要因によって、労働組合の交渉力が後退を余儀なくされる中で、従来労使関係を考慮しつつ、中長期的な視点に立って行われてきたとされる雇用管理が急激かつ大幅に変化し、二極化の下での正社員の非正社員化や正社員に対する拘束の強化が進む一方で、働く者が求める多様化はなかなか進まないために、不適応をおこす者が多数生じるのではないかというおそれが基調となっている。
 ○人材を基盤とする我が国において、今後とも持続的成長が可能な経済社会を実現していくためには、働く者の「不安感」を解消し、人材としてその能力を十分に発揮できるような環境が不可欠である。そのために我が国における雇用管理の在るべき方向を示し、改善に向けた取組を急ぐ必要があるが、同時に、今後の「働き方」についての明確なビジョンを立てておく必要もある。
 ○以上のような認識に立ち、まず、人口構造の変化、企業競争の構造変化及び働く者の変化に伴い、「働くこと」をめぐってどのような問題が発生しているかを整理していくこととする。

2 「働くこと」をめぐって生じている問題

 (1) 主に人口構造の変化に伴う問題発生状況
少子高齢化に伴い、今後の我が国の労働力人口については、全体的な減少が進む中で、若年者の割合が低下し、高齢者の割合が増加することが見込まれる。また、高齢者は、全体的に自己実現意識が高く、働く機会を求めている者が増えているが、一方で若年者は、職業意識に目覚める年齢が30歳台に近づいているなど職業的自立が遅れる者が増えてきている。
現在の雇用失業情勢の下では、限られた雇用需要を高齢者と若年者でいかに分け合うかが重要となっているが、今後の「働き方」についてのビジョンを立てる上では、少子化に伴う将来の労働力不足や、若年者や高齢者の質的変化を踏まえることがより重要である。すなわち将来に向けて確実に労働力を確保していくために、今から重視しておくべきものは何かという観点に立つ必要があり、例えば、これまで労働力化が不十分であった高齢者は、今までとは異なる仕事であっても就けるようにして、その活用を図り、将来の我が国を担うべき若者は、仕事に就けない者のみならず就いていない者を対象に「働く」ということの意味を体験を通じて修得させるなどし、早急かつ着実な職業的自立を図っていくことなどが重要な課題となる。
また、高齢化に伴う社会コストは、できる限り働くことを通して所得を確保すべきであるという自助の考え方を原則としつつも、働く者を中心に社会全体で負担することが重要であり、そのために、まず現役世代が納得のゆく「働き方」を選択し、必要な所得を稼得しながら自ら計画的な資産形成に努めるとともに、社会保障制度をすすんで支えるという気持ちになることが必要であるが、その際、社会保障制度については、長期的安定が確保された信頼に足るものになっておくことが不可欠である。
なお、「働き方」の選択次第では、その者の収入・資産の確保に重大な影響を及ぼすことになるため、多様な選択の余地を広げておく観点から、働く者に対する十分な情報提供の下で、賃金の納得性の確保、自助努力による老後の資産形成手段の確保等が図られるようにしておく必要がある。

 (2) 主に企業の競争構造の変化に伴う問題発生状況
経済社会のグローバル化、規制緩和の進展等により、企業間競争が激化する中で、製造業においては「規格大量生産」から「独自の技術・製品の開発」、「少量多品種生産」に重点が移り、企業にとっては、消費者ニーズの多様化の中で、知的労働力の確保を抜きにして収益源を確保することはできないという状況にある。
これとあわせて、産業構造の第3次産業化が進行しており、今後の企業活動は、いかに多様な顧客のニーズに合致する対人サービスを提供し、満足してもらえるかというものが中心になってくると考えられる。
このような動きの中で、企業は働く者に対して、「決められたものを効率的に処理すること」よりも、「分からないことに知恵をしぼること」や「多様な他人(顧客など)の考えを思いやること」を求める傾向を強めつつある。加えて、我が国における賃金は既に世界最高の水準に達しており、従来にも増して賃金水準に見合う高い成果が期待されることとなる。
このように、付加価値競争が主流化し、賃金水準に見合う高い成果が期待される中で、労働時間に代わる適当な業務量の指標も必要となる労働分野においては、これまでの雇用管理が主に「決められたものを効率的に処理する」労働であって、成果が労働時間に直結する労働を前提としたものとなっているため、実態に十分に対応しきれていない状況にある。
また、サービス業や製造業であっても、「決められたものを効率的に処理すること」が欠かせない労働分野が存在するが、この分野では、企業は極力そのコストの削減を図るために、業務内容や求められる能力の見直し抜きに、そこで働く者の雇用区分をパートタイム労働者などの非正社員に切替え、人件費、法定福利費等を圧縮することも行っている。
さらに、市場中心主義の考え方の広がりにより、企業において、労働を単なる「経営資源の一つ」としてとらえる考え方が、「労働は商品にあらず」という理念を凌駕しつつある。また、株主による企業統治の考え方が従業員指向の考え方を縮小させつつあるが、環境保全問題への対応を契機とする「企業の社会的責任」論が活発化しており、この視点に立って労働問題を再考する余地も生じている。

 (3) 主に働く者の変化に伴う問題発生状況
「ものの豊かさ」を求めていた時代に比べ、「心の豊かさ」への志向が強まる今日、豊かさの基準は「水準」から「選択肢の多さ」に移ってきている。その中で「働くこと」に対しても、一定の所得水準を得ることに加え、生き方・働き方の選択肢が多く提供され、納得できる働き方を求める傾向が強まっている。
その中で、今から働こうとする者も既に働いている者も、ともに仕事か生活かどちらか一方のみを重視するのではなく、仕事と生活の調和を志向するという者の割合が増加しつつある。また、年齢が下がるのに応じてどちらかといえば生活を重視する傾向が顕著に表れている。「仕事と生活の調和」については働く者にとっての働き方の主要な選択基準の1つとなりつつある可能性がある。なお、意識というものは、一生涯を通じて不変ということはありえず、働く者の年齢や職業経験の積み重ね等に応じて、一生涯のうちに様々に変わりうるものである。
しかしながら、労働時間に着目すれば、常用労働者のうちの長時間労働者の割合が上昇する一方で、多くの失業者も発生しているなど、「忙しい人はますます忙しく、暇な人はますます暇に」という現象が生じている。また、高齢層と若年層は仕事時間が短く、働き盛り世代(30代)は長くなる等、働いている者同士の間でも世代間で格差が生じている。
以上のような状況を踏まえるならば、現在の我が国においては、意識の多様化に応じた働き方・生き方を選べるようになっているとは言い難い状況にある。その理由としては、企業の雇用管理が拘束度の高い正社員と自由度の高い非正社員に二極化していること、働く者もそれを前提に世帯の生活費を確保するための主要な稼ぎ手と家事など家庭活動を担うパートナーというように二極化せざるを得ないことがあって、主要な稼ぎ手にとっても、そのパートナーにとっても、自律的な働き方の選択が制約されていると感じずにはいられないということがあげられる。
こういった意識の変化等を踏まえつつ、働く者が生涯にわたって多様な働き方の中から主体的に選択していけるようにするためには、社会のあらゆる分野において労働時間、仕事の場所や内容等を異にする多様な働き方そのものが受容されるようにするとともに、多様な働き方相互間での円滑な移動を妨げる要因の解消を図るなど雇用をめぐる法制度をはじめとして、それを取り巻く諸環境を整備しておくことが求められる。
さらに、長期雇用・年功賃金制度が中心の我が国においては、現下の厳しい雇用情勢もあって、いったん失業すると再挑戦が厳しい状況にある。中高年層については、自らの意識に沿った働き方をつかみ取るリスクを避ける傾向にあり、現在の会社にとどまりつつも職場における見通しの悪さがあって、将来に対する不安感が高まっている可能性がある。また、若年層を中心に独立志向も育っているが、失敗のリスクを考慮して起業に踏み切れないことが、我が国の開業率がなかなか回復しない要因となっていると考えられる。

3 問題に対する解決の方向

 (1) 今後の働き方の基本認識
サービス産業化、付加価値競争化に伴い、今後働く者には、如何に「分からないことに知恵をしぼるか」、「他人の考えを思いやれるか」が求められることになると考えられる。このような「知恵・思いやり」は、多様な意識を持つ「働く者」がその意欲や能力を最大限に発揮することにより最大の成果を生むものであり、そのためには、「仕事以外」の領域も含めた「生活」全体について心身ともに充実していることが不可欠となる。逆に企業にとっては、働く人の変化に雇用管理を合わせなければ、生産性の低下につながるおそれもある。
さらに、我が国がこれまで世界有数の経済大国として確固たる地位を保ってこれたのも、高い技術力と勤勉性、忠誠心に富んだ優秀な労働者によるところが大きく、持続的成長が可能な経済社会を構築するためには、人材活用こそが重要であることに今後とも変わりはない。多様な個々人が生涯にわたって可能な限り意欲・能力を発揮できるようにするとともに、急速な人口構造の変化が進む中で、次代を支える意欲・能力を持った人材が早急かつ着実に育成されるよう、政労使が一体となって取り組むことが必要である。

このような点を踏まえれば、今後の我が国においては、働き方、働かせ方についての基本として、誰もが自分の生涯を見通し、その選択により「仕事活動」と家庭活動、地域活動、学習活動など「仕事以外の活動」との調和を図り、安心・納得できるようにしておくことの重要性が増しており、それに向けた労使の主体的な取組が求められる。
その際、「仕事と生活の調和」の内容として最も重要となるのは、時間の調和である。生活時間の確保という観点からは強い拘束の下での著しい長時間労働そのものを抑制すること、代償措置として集中して働いた後はまとまった休暇を取得できるようにすること、一定以上の時間外労働を行ったときは必ず一定の生活時間が確保されるようにすることなどが考えられる。また、生活との折合いをつけつつ、高い成果を発揮しやすくするという観点からは、健康確保措置を前提に自主的な時間管理を可能とする働き方も考えられる。さらに、働く時間の多様化に伴う公正な処遇が確保されなければ、働く者の納得は得られず、意欲の減退につながることとなる。様々な長さや形態による労働時間の選択肢を整備した上で、自律的な選択を実現していくことが、働く者の意欲と能力の発揮のためにも、また企業にとっての有為な人材の確保や生産性の向上のためにも重要であると考えられる。したがって、今後の労働時間の短縮を考える場合には、従来のように全労働者の年間総実労働時間について一律に目標を掲げるのではなく、個々の労働者がライフステージに応じて希望する働き方を実現することにより結果として社会全体で見た場合の労働時間短縮の達成が図られることを基本とした取組が求められる。
加えて「仕事と生活の調和」については、個々人が職業キャリアを含めた人生キャリアを形成・展開していく中で連続的に考えられるべきである。人生において、ある時期では仕事を優先し、別の時期は家族を優先し、さらに別の時期には自分を優先するなど、状況に応じて重心を移しながら全生涯を見渡したときは充実感を感じられるようにするといった長期的視点からの調和も重要と考えられる。仕事に集中したい時期はうんと働き、子育て期には労働時間を減らすといった労働時間の柔軟化は、最近顕著化している世代間の労働時間格差の平準化にもつながるものである。
従来、ひとつの企業の中での単線的なキャリア形成を念頭に置いてキャリアの形成や展開に関する施策を推進してきたため、ともすれば育児・介護、ボランティア活動、学習などを理由に職場を離れることを「職業キャリアの中断」として消極的にとらえがちであった。しかし、個々人の意識や行動が多様化するとともに、企業や社会において多様な価値観を持った人材ひとりひとりの能力発揮が求められる中で、こうした「職業キャリアの中断」についても、人生キャリアを形づくる上での貴重な過程として前向きにとらえ直していくことが必要である。そうした観点から、労働力の質・量の充実、就業率の向上を主に念頭に置いて展開されてきた従来の労働政策について、働く者の生涯にわたる「仕事と生活の調和」を実現するため、地域での活動、家庭での活動、起業等、個々人の社会との様々な関わり方について広く支援することを視野に入れたものとしていくことが求められる。
「仕事と生活の調和」という考え方は、企業にとってはより独創性と工夫に富んだ従業員の貢献に不可欠であるとともに、優秀な人材の確保にも資する。働く人々の人間力の向上を阻害しない企業活動を行うという社会の一員としての要請にもかなうものとなる。また、働く者にとっては、仕事と生活のメリハリがある、より充実した生涯につながるものとなる。社会全体としても、持続的成長、次世代育成支援につながるものとなる。
ただし、働く者にとっては、自助努力による意欲・能力の維持・向上、会社任せの職業キャリアの形成からの脱却など、これまで以上に会社からの自立を図り、確固とした個人として自らの選択や決定に責任を持ち、積極的に社会参加していくことが求められることになる。仕事と生活の調和を図る上では、学校教育段階も含めた若年期から個人の自立・自己責任意識をどう高め、そうした意識を各人の職業キャリアの展開にどうつなげていくかが非常に重要となる。
また、「仕事と生活の調和」を図る上で、世帯としての生計確保について留意が必要である。個人が仕事のウエイトを下げれば収入の減少は避けられなくなるが、その対応として夫婦がともに家計の支え手となることが考えられる。また、ダブルジョブ、マルチジョブなど自由度の高い働き方を組み合わせることにより収入水準を確保するといった対応も考えられる。収入確保に係る役割分担について様々なパターンが可能となるような環境整備も必要となってこよう。
同時に、こうした働く者の収入を取り巻く環境変化の中にあって、労働市場における賃金の下支え機能を有する最低賃金制度について、そのセーフティーネットとしての機能が十分に発揮されるようにしていくことも必要である。

 (2) 各問題に対するこれまでの対応
2に掲げた問題については、これまでも、それぞれの政策課題ごとに状況に応じて様々な対策が講じられてきたところであり、それらについては、引き続き継続して実施していくべきもの、新たな問題に対応するために拡充・強化の上実施していくべきものとが存在する。さらに、これまで政策課題と位置づけられなかったものであって、今後新たに対応が求められているものも存在する。発生している問題に関する政策課題とこれまでの施策の展開状況等については、別紙のとおり整理されるところである。(注参照)
このような政策課題のうち、「仕事と生活の調和」の実現のための中核となるべき事項については、早急に政策的対応の必要性及びその具体的内容を検討していくことが重要と考えられる。
こうした政策的支援を適切に行うことにより、個々の働く者が、職業生活における各々の段階において、仕事と生活を様々に組み合わせ、調和のとれた人間的な働き方を安心・納得して選択できる環境を整備していくことが、人材を基盤とする我が国の持続的成長の確固たる礎となるものと考えられる。


(注) 施策の展開状況等について整理した別紙は省略。


トップへ
戻る