04/04/26 労働者の健康情報の保護に関する検討会第1回議事録           第1回労働者の健康情報の保護に関する検討会                    日時 平成16年4月26日(月)                       15:00〜                    場所 中央合同庁舎5号館専用第22会議室                 照会先 :厚生労働省労働基準局安全衛生部                         労働衛生課産業保健班                         TEL03−5253−1111                             (内線 5495)                             担当:武末、中野、松井 ○労働衛生課長(中林)  ただいまより、第1回労働者の健康情報の保護に関する検討会を開催します。今回は 第1回目ですので座長が決まりますまで、労働衛生課のほうで司会進行させていただき ます。本来でしたら労働基準局長が冒頭にご挨拶申し上げる予定でしたが、ただいま所 用のために欠席でございます。そのため恒川安全衛生部長より冒頭のご挨拶を、お願い します。 ○安全衛生部長(恒川)  本日は委員の皆様におかれましては大変お忙しいなか、本検討会にご出席いただきま して誠にありがとうございます。本検討会は平成12年7月に、労働者の健康情報に関わ るプライバシーの保護に関する検討会として、一度中間報告を取りまとめていただいた わけですが、その後、個人情報保護法が成立しまして施行に関する課題、とりわけ医療 に関する健康情報をどう扱うかを、早急に各省庁が検討しなければいけない事態になっ ているわけです。そこで労働者の健康情報の保護と運用のあるべき姿ということで、来 年の春の法律改正も踏まえ、先生方からご示唆をいただければということで、お願いを したわけでございます。  言うまでもなく労働者の健康情報というのは、個人のプライバシーを構成する重要な 情報でございます。本来、プライバシーを保護するという人権の問題があるわけです が、一方で事業者が雇用契約から発生する安全配慮義務がありまして、そのプライバシ ーと安全配慮義務を、どういう形で調整していくかというところが重大な課題になって いるわけです。事業者が労働者のプライバシーに関わる情報を得るからには、先ほど申 し上げた目的として、安全配慮義務を果たすという目的に限って許される行為であろう と思います。特定の目的以外の利用を明確に禁止すべきではないかという考えが、また あるわけでございます。  さらには、その健康情報を管理する方々をどうするか。とりわけ中小企業においては 社長の下に総務部長が管理し、総務部長の下に人事課長が管理し、人事課長の下で人事 係長が管理するということで、ほとんどの会社の職員が労働者の健康情報を知っている 状況もあるわけです。そういう面からすれば、管理する方々の範囲を考えていかなけれ ばならないと思っているわけです。  前回の検討会においては、各項目で労使が参加した形でルールを作ることが重要であ るという提言もいただいているわけですが、その場合にはどのような手続でルールを作 成し、そのルールの運用はどなたが行い、その履行状況をどなたが責任を持ち、その違 反に対してはどういう措置が必要かという現実的な問題も、施行に関しては考えなけれ ばならない問題ではないかと思っています。  さらには、ご案内のとおり安衛法において守秘義務が課せられているのは健診結果で すが、現在の企業内において労働者の健康情報は、健診結果だけにとどまるものではご ざいません。健康情報の範囲をどこまで広げて考えていくことが合理的なのかの点につ いても、先生方のご意見を是非とも伺いしたいということだと思います。  先ほど申し上げたように、健康情報は個人のプライバシーを構成する重要な情報です が、それならば事業者の安全配慮義務からする健診に対して、労働者は拒否することが できるかどうかという大変重要な問題についても、この問題の根幹にあるわけですか ら、先生方のご見識を伺えればと思っています。当然、その拒否をすることにより、そ れに応ずる労働者のリスク、要するに安全配慮義務の事業者のある程度の免責もあり得 るのかという議論もあるわけです。その辺のバランスの取り方が、この問題の重要な点 であろうかと思っています。  いずれにしても前回、検討委員会の中間報告を出していただきました。今回はそれを 踏まえて、それを具体的にどのように実践していったらいいかの時期に来ています。各 項目にわたって先生方のご見解を取りまとめていただければ、それに基づいて行政側と しては法律事項とすべきものは安衛法改正において、規則で対応すべきものは規則、指 針で対応すべきものは指針というふうに振り分けて、施行に移ってまいりたいと思って いる次第でございます。先生方のご協力をよろしくお願い申し上げます。 ○労働衛生課長  本日は第1回目でもございますので、私どものほうから各委員をご紹介申し上げま す。日本私立学校振興・共済事業団東京臨海病院精神科部長の荒井稔委員です。日本ビ クター株式会社人事総務部安全健康管理センター長の井上温委員です。東京工業大学原 子炉工学研究所の教授でいらっしゃいます鳥井弘之委員です。日本労働組合総連合会総 合労働局雇用法制対策局次長の中桐孝郎委員です。日本医師会常任理事の藤村伸委員で す。天使大学教授の保原喜志夫委員です。産業医科大学教授の堀江正知委員です。一橋 大学教授の松本恒雄委員です。医療法人崇孝会北摂クリニック理事長の柚木孝士委員で す。なお本日は業務の関係でご欠席ですが、あとお2人いらっしゃいます。トヨタ自動 車株式会社安全衛生推進部部長の加藤隆康委員、上知大学法学部教授の中嶋士元也委員 です。引き続き事務局側のご紹介をさせていただきます。先ほどご挨拶申し上げた恒川 安全衛生部長です。中沖計画課長です。山崎主任じん肺診査医です。高橋主任中央労働 衛生専門官です。私は労働衛生課長の中林です。  本日は初回です。正式な議事に入る前に本検討会の座長を置くことになっています。 本検討会の座長についてですが、どなたかご推薦いただければと考えていますが、いか がですか。 ○堀江委員  前回の検討会でも座長をされた保原委員が、よろしいのではないかと思います。 ○労働衛生課長  ただいま保原委員というご指名がありましたが、いかがですか。                  (異議なし) ○労働衛生課長  それでは保原委員に、本検討会の座長をお願いしたいと思います。保原委員、議事進 行をよろしくお願いします。 ○保原座長  座長を仰せ付かりました保原でございます。大変名誉に感じております。ここでご挨 拶をと思っていたのですが、先ほど恒川部長が立派なご挨拶をされました。私が考えて きたことにプラスアルファで、この研究会の役割をほとんど網羅するようなご挨拶をい ただきましたので、私は省略させていただきます。早速、議事に入りたいと思います。 まず本検討会を設置する目的等について、事務局から説明をお願いします。 ○労働衛生課長  私のほうから目的についてご説明申し上げます。本検討会の資料に、「労働者の健康 情報の保護に関する検討会開催要綱」という資料が付いていますが、そこに目的が書か れています。内容につきましては冒頭に部長から説明したところですが、改めてご説明 申し上げます。  ご案内のとおり労働安全衛生法では、労働者に対して健康診断を実施することを事業 者に対し義務付けているわけです。また、さまざまな健康に関する情報等が事業者に集 まっているわけです。こうした情報につきましては個人情報保護の観点から、適切な措 置を講ずることが必要という認識があり、このために平成11年3月、「労働者の健康情 報に係るプライバシーの保護に関する検討会」が設置されました。このときの座長を保 原委員にお願いしたわけですが、この検討会において平成12年7月に「中間取りまとめ 」が行われたところです。  その一方、昨年5月に個人情報の保護に関する法律が成立し、その8条において、 「国は、地方公共団体が策定し、又は実施する個人情報の保護に関する施策及び国民又 は事業者等が個人情報の適切正な取扱いの確保に関して行う活動を支援するため、情報 の提供、事業者等が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るための指針の策定その他 の必要な措置を講ずものとする」としています。各省では、こうしたことに従い指針等 の策定を進めているところです。  また個人情報保護法の第6条第3項ですが、政府は「特に適正な取扱いの厳格な実施 を確保する必要がある個人情報について、保護のための格別の措置が講じられるよう必 要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする」とされているわけです。さらに 「医療、金融・信用、情報通信等、国民から高いレベルで個人情報の保護が求められて いる分野について、特に適正な取扱いの厳格な実施を確保する必要がある個人情報を保 護するための個別法を早急に検討すること」という附帯決議もあったわけです。  こうした状況にかんがみて、私どもは労働基準局長の下に有識者の参集を求め、この 夏ごろを目途として、労働者の健康情報保護制度のあり方について検討を行っていただ きたいという形で、この検討会を開催させていただきたいと考えているわけです。 ○保原座長  次に委員のお手元の資料について、事務局よりご説明をお願いします。 ○主任中央じん肺診査医(山崎)  資料の確認をします。資料1から6、参考資料1、2がありますので確認をお願いし ます。よろしいですか。順にご説明したいと思います。初めに資料1です。この「中間 取りまとめ」は平成12年に取りまとめられています。少し時間も経ちましたので、おさ らいの意味でご説明します。  報告はまず健康情報の範囲について示しています。11頁です。具体的には、これによ ると労働安全衛生法、じん肺法に基づく健康診断の結果、あるいは保健指導や健康相談 の記録、心と体の健康づくり、いわゆるTHPに関する情報、医療機関からの診療に関 する情報などが含まれるかと思います。  健康情報の帰属についてですが、報告書13頁の最下段をご覧いただくと、事業者も事 業場で処理している健康情報すべてが、労働者の個人情報であることを明らかにしてい ます。その一方で、事業者がこうした健康情報の処理を逡巡すれば、公法上あるいは私 法上負うとされる労働者に対する責任の履行が疎かになる恐れがあります。そこで13頁 の上から7行目辺りを見ていただくと、事業者は労働者の健康を守る義務と労働者のプ ライバシーの保護のバランス、つまり、こうした反対利益との調整をいかに図るのかを 基本的な考え方として示しています。  次に、そうした基本的考え方に立った具体的な対応が問題になりますが、14頁の(2) をご覧ください。各事業場において衛生委員会等で審議をして、産業医等や衛生管理者 などの参画のもとにあらかじめルールを策定しておく。その中では健康情報を使用する 際の使用目的を明確化すること。健康情報の事務的な管理等の責任者を明記すること。 産業医等や衛生管理者等の役割を明確化すること等が盛り込まれる必要があるとしてい ます。  またこうしたルールについて更に7行下辺りですが、事業者が必要とする健康情報は 検査値や病名そのものではないことを認識して、処理のルール化を行う必要があるとも 述べているわけです。  その上で報告書は、収集、利用などの各局面について論じていきます。収集について は例えば16頁です。基本的な考え方はルールに則った情報の収集と本人の同意です。こ こでは法定外の健診について述べていますが、法定健康診断についていかに考えるのか は明らかになっていません。  以下、報告書は保管、利用などと続くわけですが、基本は本人の同意と一定のルール の策定、それに則った処理ということになります。もっとも、ルールがルールたり得る 要件ないし条件として、制定等の手続面では格別、実体面での要件として例えば事業場 内のどういった権限を持った方が、いかなる目的で、どの程度の情報を把握すべきかと いったことについては、中間取りまとめの段階では必ずしも明らかにすることはできま せんでした。  このほか特に注意する点として、守秘義務の拡大について検討すべきとされていま す。14頁をご覧ください。例えばフランスでは事業者の生の健康情報を入手することは できず、適正配置に必要な情報のみを産業医から得ている事実があります。15頁の(2) をご覧いただきたいのですが、我が国でもこうした意味での一元的な管理の検討が必要 であるとしています。開示について、特殊健康診断結果の本人への通知義務を課すこと の検討を求めています。21頁の最下段です。  続いて小規模作業場における固有の問題について、これは22頁ですが、小規模作業場 については健康管理を行う医師や衛生管理者等がいない場合に、衛生推進者等がその職 務を果たすべきである。さらに下に行って、事業場外の機関に健康情報の保存について 委託することも検討する必要があるとしています。その他の事柄については後で資料5 で説明したいと思います。  資料2−1が個人情報保護法の概要、資料2−2が法律そのもので、資料2−3が施 行令です。概要で簡単に説明します。1条で目的について、個人情報の有用性と個人の 権利利益という、2つの対立利益の調整を図るものであることを明らかにしています。 この点、労働者の健康情報の場合には、事業者が負っている公法上あるいは私法上の責 務、安全配慮義務との調整も考えなければならないという特異性があります。また各言 葉についてこのように定義づけていて、3つ目の「個人情報取扱事業者」に、いわゆる 事業者が当たるかどうかについては、36条で「雇用管理に関するもの」という文言が条 文に見当たりますので、労務管理に供せられるデータベースもこのデータベースに当た り、したがってそれらを取り扱う事業者は、個人情報取扱者に当たると解釈されます。  次に法制上の措置等について、6条です。特に厳格な取扱いを確保する必要がある個 人情報について法制上の措置等を求めています。こうした点を行政部内で検討していく ためにも、その依拠すべき事柄について検討していただく必要があると考えています。  そこで個人情報取扱事業者に課せられる義務ですが、第4章に規定があります。次の 頁をご覧ください。第4章では事業者に課せられる義務が細かく列挙されています。利 用目的の特定とその制限、それに基づく制限、適正な取得、安全管理措置、従業者・委 託先の管理、第三者提供の制限、開示等の規律があります。  次に資料3ですが、個人情報の保護に関する基本方針です。これは保護法の7条をご 覧いただくと、政府がそうした基本となる事柄について指針を設けるとされており、そ れを受けて政府で決定したものです。資料3をご覧いただくと、個人情報の保護に関す る法律7条の規定に基づいて策定する。この中で事業者が講ずべき措置について、これ は8頁ですが、特に責任体制の明確化を謳っています。(2)ですが、特に責任体制の確 保として外部からの不正アクセスの防御対策のほか、個人情報保護管理者の設置、内部 関係者のアクセス管理や持ち出し防止等、事業者の内部における責任体制を確保する仕 組みを整備することを求めています。また外部に委託することになる際には契約の中 で、こうしたことについて明記して責任体制を明確にする。また再委託の際の監督体制 の確保が重要など、こうしたことが謳われています。  次に資料4ですが、この資料の趣旨は、安衛法などでは事業者に特定の情報について の取得を明示的に命じていますが、その際の守秘義務を特定の者に課しています。例え ば安衛法では健診の事務に従事した者に対して、秘密を漏らしてはならないという守秘 義務を課しています。もっとも、この守秘義務の目的については健康診断実施の事務だ けであり、行為主体は健康診断実施の事務に従事した者に限られていますので、例えば 人間ドックの情報を直接医療機関から事業者に持ち込む場合に、及ばないという点があ ります。じん肺法にも同様の規定があり、そのほか関係するものとして刑法や医療法に 一定の資格者や公務員等に、一定の身分犯として構成する規定があります。  資料4−2は、労働安全衛生法の66条の5の2項に基づくものです。健康診断の結果 に基づく就業の措置が適切に行われるようにという目的で、留意事項を定めたもので す。いわば現時点で存在する情報についての取扱いルールのモデルといってよいもので す。しかしプライバシーへの配慮については、わずかに最後の頁ですが、dとしてプラ イバシーの保護が謳われていて、この程度の記載があるのみです。  次は資料5です。これは収集、利用など各局面ごとに報告書の提言との関係で、個人 情報保護法はどのように規律を置いているかを整理したものです。例えば収集の段階を ご覧ください。法定外健康診断の結果の収集については、事前にルールを労働者と協議 の上に策定しておくこと。また特に任意の健診等を行う場合には、本人の事前の同意を 得る必要があると報告書は言っています。  この点、個人情報保護法では取得は適正になされるべきこと、これは17条です。その 場合、目的はできる限り特定されていることを明定しています。15条です。第三者から 取得した際の目的があらかじめ公表されていない場合には、本人に速やかに通知するこ とになる。これは18条1項ですが、このように規定があります。もっとも、本人の同意 まではこの際に求めていません。この点、保護法では第三者に対して提供制限を課すこ とで、全体として情報の保護を図ろうとしていると考えられます。23条をご覧いただく と第三者提供の制限という法条があります。もっとも、保護法の規制対象では、過去6 カ月の間に個人の数が5,000を超えない事業者が除かれることになりますので、実際に 仮に保護法の運用で対応しようとしても、例えば医療機関から事業者に情報提供を、保 護法の運用で規律することは難しいのではないかとも考えられます。また本人から直接 取得しようとする場合には、本人に対して利用目的を明示することとしています。18条 2項です。  次は利用ですが、次の頁です。法は利用目的の特定と利用目的の達成に必要な範囲を 超えた取扱いを禁じています。この点、報告書は当該利用が目的に合致したものかどう かの判断基準、またその判断を行う者として産業医などが適当とするなど、結果的に法 の内容をより具体化した内容となっています。  続いて管理です。ここにありますように保護法の各法条は報告書を具体化した内容に なっています。次の頁は守秘義務及び一元的管理についてですが、この点については先 にご説明したとおりです。この頁の最下段のところで、開示については開示請求権と開 示義務とを、それぞれ本人と事業者に課していますが、報告書ではそうした方向が望ま しいというトーンだったわけですけれども、法律上は保護法でその辺が措置されたと言 えるわけです。しかしながら、さらに加えて、この最下段で法令上の通知義務がなくて も、事業者から労働者本人への通知に取り組むことが望ましい。これは特殊健康診断の 結果ですが、開示請求というよりは、むしろスポンティニアスに、この特殊健康診断の 結果については現行法上、一般健康診断の結果に通知義務があるのと同様な取扱いをす ることが望ましい旨記載があります。  次に第三者提供についてです。特に23条4項2号をご覧いただきたいのですが、合併 その他の承継は第三者提供に当たらないとしています。この点、報告書では本人を経由 することが望ましいこと。また特に特殊健康診断の結果については、新しい作業場で有 効に活用される情報かどうかによって、本人の同意を前提に、その提供の是非を判断す るべきとしていて、少しニュアンスが違います。  以上のことを踏まえて資料6ですが、検討していただきたいと思われる項目を挙げて います。本検討会の目的は、個人情報保護法の趣旨に沿って、労働安全衛生分野で法的 措置を含めて対応すべき点はどのようなことかを、ご検討いただくということで、そう した観点から中間取りまとめを是非、最終報告に持って行きたいということです。  もっとも、中間報告では既にかなり広範にわたって方向性が示されていますし、しか も保護法と多くの点で調和・均衡が取れた内容になっているところは、資料5でご説明 したところです。したがって特に第1に問題になるのは、中間報告で「将来的課題」と 題して未解決のまま残されている課題が幾つかありますので、可及的にそのあたりを検 討していただくことが1つです。  2つ目には、確かに個人情報が成立しましたけれども、必ずしもその運用だけで労働 衛生分野のすべてを網羅できないということもあります。したがって労働衛生法等に保 護法の反映した措置、あるいは報告書の趣旨を反映させた措置を講ずる必要があるとも 考えられるわけで、そのために詰めておかなければならない点について、ご検討いただ きたい。そうした観点で並べてみたものです。  1つ目の・は、中間取りまとめでの積み残し課題です。守秘義務の拡大については、 その目的及び行為主体を明らかにする必要があります。  ・の2つ目以降は保護法及び報告書の趣旨を、法律を含めて何らかの形で制度に持っ ていくために詰めておきたい事柄です。利用目的の特定や目的外利用の制限の点は、端 的に目的については労働者の健康の保持・増進というのは当然として、もう少し詳しく どのような目的のために、どのような形で加工された情報を用いるためにということま で吸収して、考えたほうがいいのではないかという見解もあると思います。  取扱いのルールの策定手続については、衛生委員会等で審議というのが報告書で求め ている内容です。  これをルールの手続面とすると、ルールについての実態面の要件については、もう少 し詰めていくことができないのかどうか。例えばこの括弧内にあるようなことについ て、一般ルール化として何か抽出することができないかどうかがあります。また、報告 書では衛生管理者や産業医等に一定の役割を求めています。さらに誰が、いわゆる生の 検査値を管理するのかの問題があります。これは報告書の一元管理の可能性と表裏の問 題です。  また、そもそも現在の法律で法定の健康診断を求めていますが、その際に検査値その ものの収集まで義務付けるべきかどうかの問題があります。少なくとも現在までは、そ うした解釈で一律に運用されてきているわけですが、この点をどう考えるかということ があります。  そのほか労働者の健康管理の自己責任の在り方について、プライバシー権、つまり広 くは自己情報のコントロール権となると、自己決定、自己責任と連なるわけです。そう すると、例えば労働者が健診等に同意しないで、いわばその法益を自ら処分した場合に は、それによる結果を自ら負うという局面が当然出てきます。こうした観点からの検討 は、是非ご意見をいただきたいということです。  あと参考資料を用意しています。法令等で義務付けられている健康診断と、参考資料 2は事業場における健康診断の状況についてまとめてみました。議論に供していただけ ればと思います。以上です。 ○保原座長  いま、盛りだくさんの資料のご説明をいただきましたが、資料6の検討項目はひとま ず置きまして、資料5までについて何かご質問等がありましたらお願いします。 ○藤村委員  私、この委員会は初めてで新人ですので、ごく基本的な質問からさせていただきたい と思います。個人情報をなぜ保護しなければいけないか。また健康情報をどうやって集 めなければいけないか。集まったものの利用目的等のことはよくわかりました。ただ、 文面で何かよくわからないのですが、そこら中に「産業医等」や「衛生管理者等が適当 」という文面が出ていますね。その「等」とは一体何ですか。例えば「産業医等」の 「等」とは何でしょう。 ○主任中央じん肺診査医  ここの「等」は、制度的に産業医が必ずしも必置でない所があります。あるいは衛生 管理者が必ずしも置かれていない場合もあります。そうした場合に例えば衛生推進者と か、あるいは産業医の場合でも専任でなく嘱託の産業医などもあります。そうしたこと を広く網羅する意味で等という文言が付けられています。 ○藤村委員  ということは、産業医と嘱託の産業医とは分けるわけですか。 ○主任中央じん肺診査医  いいえ、そういう意味で申し上げたのではないのです。特に厳密にこの等を、どこま で解釈して読み込むかという問題がありますが、一般的に私の答えとしては、産業医が 必ずしも置かれていない所もあるだろうし、あるいは衛生管理者が置かれていない場合 もあるありますので、そうしたことを広く表わす意味で等が付けられたと解釈していま す。 ○藤村委員  産業医の件はわかりました。管理の問題、開示の問題、そのほか第三者への提供など いろいろ問題があると思いますが、衛生管理者等も非常に曖昧ですね。ということは衛 生管理者等に、人事担当者とかいろいろな人がどんどん加わってくる可能性を十分残し ているわけです。それは、それでよろしいわけですか。 ○主任中央じん肺診査医  まさに、そこは議論だと思います。どの辺まで読み込んでいいのか、これはまさに議 論だと思います。 ○藤村委員  それからよくわからないのは、個人データの漏洩管理です。滅失又は毀損の防止とい うことですが、例えば、これもまた基本的な質問ですが労働者がその事業場を辞めたと き、残ったデータの破棄はどういう形で規定されているのですか。あるいは、それをい つまでも残しておく必要があるのですか。 ○主任中央じん肺診査医  この報告書によりますと影響あたりになろうかと思いますが、中間取りまとめの19頁 に健康情報の提供というのがあり、20頁に当面の対応とあり、退職後の健康情報のあた りです。先ほど労働契約が承継された場合について保護法との齟齬といいますか、若干 ニュアンスについてご説明申し上げましたが、(2)に離職時に健康情報を提供する場合、 本人の意思によって離職等で労働者が事業場から離れる場合は、事業者は労働者本人に 健康情報の写しの交付をして、新しい事業者や地域保健医療機関云々と、まさに本人の 同意なく勝手にその情報が流れていくことは、あってはならないという考え方で書かれ ています。  退職後の健康情報管理についても、本人に写しを交付して、本人を経由して第三者に 対して提供される場合は提供される。すべて本人の同意が前提であるということです。 この点は個人情報保護法も、第三者提供については基本的に本人の同意を前提としてい ますので、考え方は一致していると考えています。 ○藤村委員  ということは、労働者が死亡した場合は別問題ということですね。要するに写しを本 人に渡すというと原本は残っているわけです。これをいつまで事業場に残しておくの か。そういうことが規定されていないような気がするのです。 ○主任中央じん肺診査医  ここの20頁を見る限り、そうかもしれません。 ○保原座長  いまの点ですが、例えば健康診断の資料を企業で何年間保存しなければいけないかと いうのは法律に書いてあります。 ○藤村委員  何年以上持っていてはいけないというのもあるのですか。 ○保原座長  普通、法律の場合、最低何年間は保存しなければいけないとなっています。 ○藤村委員  カルテなどは最低5年とか、法制上ありますね。 ○保原座長  そうおっしゃられると、それ以上持っていたら悪いかというのは私どもも考えていま せんでしたね。 ○藤村委員  それ以上持っていれば、それだけ情報が漏れ出る可能性も出てくるわけです。 ○保原座長  まぁ、ないとは言えませんね。 ○松本委員  もう質問を越えて、本来論ずべき課題のほうに入っているかと思いますが、いまの点 に関してだけ個人的な意見を言わせていただきます。先ほどもご指摘がありましたけれ ども、安全配慮義務との関係で企業が責任を問われる場合があるのだということが前提 となって、健康情報をきちんと収集して適正に使いなさい、管理もしなさいということ なのでしょうから、そうすると退職した途端に安全配慮義務が消えてしまうわけはない ので、10年間ぐらいは安全配慮義務違反による責任の追及は残るわけです。  そうすると、責任を追及された場合に備えて、いわば企業防衛的な観点から10年間ぐ らいは残しておいたほうが、いいだろうということは言えると思います。では20年、30 年がいいのかというと、これはどこかで切って廃棄したほうがいい。あるいは本人に原 本を返しなさいということになるのかもしれないですから、そこはここで議論すべきか と思います。 ○主任中央じん肺診査医  ちなみに法律の規則によりますと、5年間保存しなければならないとなっています。 ○堀江委員  一旦保存したものの廃棄に関しては、私の記憶に間違いがなければ確か前回の委員会 で少し議論があって、その際は確か法律上の解釈として合法的に収集されたものが、特 段の法律もないのに途中で保存していることが違法になるということは、考えられない ということでしたので、その考え方に乗れば、一旦収集したものを特に廃棄のルールが なければ、いつまで保存していても現状では違法ではないとなっていると解釈していま した。  また、いまの松本委員のご発言ですが、確かに現状でも既に企業防衛的な発想で、企 業側が長期間保存しているという事例は幾つもあります。しかし、安全配慮義務は普 通、企業側が負わされているものであって、保存していたにもかかわらず、例えば実態 として不都合な情報があったので廃棄してしまって、保存していないと言った場合の責 任というのは、また別途検討しなければならないというか、そこに情報があるならある ということで、本人側にそれが知らされている状況でない限りは、保存していることの 意義は平等にならないのかなというふうにも感じました。 ○保原座長  差し当たり、この問題はよろしいですか。またこれは議論したいと思います。そのほ か資料についてのご質問等はございませんか。いま資料5までお願いしています。 ○堀江委員  衆参両院の附帯決議で、医療の個別法の検討がなされるべきという説明がありました が、本検討会においても医療に関する情報の保存や管理の話をするわけですので、そち らの動きと言いますか、現在、その辺との調整はどのようになされている段階か、お聞 かせいただければと思います。 ○主任中央じん肺診査医  省内の医療関係の部局においても、検討が始められようとしています。実際にはこの 検討会が最も早く開かれている格好ですが、同じような足並みで我々は進めていきたい と思っていて、各関係部局とも連絡調整しているところです。まだ動き出したところで すから出せませんけれども、そうした情報は必要に応じて適宜報告しながら、検討に供 していきたいと思っています。 ○堀江委員  よろしくお願いします。特に医療に関しては保管する段階の途中で開示という行為 が、患者の診療のためにならない場合もあるということが大きな議論だと思いますの で、例えば事業場でたまたま持っている医療情報を、主治医でない事業者が勝手に主治 医の患者である労働者に開示してしまっても、まずいと思いますので、その辺がいちば ん関連が出てくるところかなと存じますので、よろしくお願いします。 ○保原座長  その他ございませんか。 ○鳥井委員  各職場でルールを作ってくださいと言ったわけですが、ルールはずいぶんたくさんで きたのでしょうか。大まかに見ると、どういうルールができているのですか。 ○主任中央じん肺診査医  これは中間報告でいただいたわけでして、そのときになぜ中間かというのは、政府部 内での保護法の検討の推移をみる必要があったからにほかなりません。私どもとしては 本報告はいただいて、きちっとこれを施策に反映させていきたいということです。た だ、保護法の政府部内の検討が予想を超えて延びましたものですから、少し時間がかか っていますけれども、本報告をいただいたら私どももきちっとそれに対応していきたい と思っています。 ○保原座長  その他ございませんか。 ○藤村委員  冒頭で説明されているように、これは諸刃の刃みたいなもので非常に難しいですね。 例えば危険作業などがあった場合、労働者が安全に仕事をするために人事関係の人たち が、その健康情報を手に入れておくことが非常に大事な場合も出てくるわけです。それ は今までの議論の中では原則として禁じられているわけです。 ○保原座長  必ずしもそうではないです。 ○藤村委員  例えばフランスにおいては産業医がちゃんと独立していて、健康情報は事業者すら見 ることができない。日本はそういうことはないということですが、それは例えば労働環 境を考える上において、人事担当者とか労働者の配置を行うような人たちが、この情報 を利用しても構わないわけですね。 ○保原座長  フランスの場合は定期健康診断あるいは採用時の健康診断の情報を、産業医が全部握 りなさいということになっています。それで雇い主には、現在就かせている仕事との関 係で健康上の問題はないかだけを知らせる。そういう法律の規定になっています。です から血圧の数値がいくらとか血糖値がいくらというのは、雇い主のほうにも労働者側に も行かない制度になっています。これは日本とは別です。  日本で従来考えていたのは、平成12年の報告書でもそうですが、原則として雇い主は できるだけ多くの健康情報を持って、労働者の安全や健康に十分な配慮をしなさいとい う発想で、安全衛生法は作られてきたのだと思います。反面、最近はプライバシーのこ とが出てきて、労働者のプライバシーを守ることを重視するとすれば、雇い主が手に入 れる情報も制限されるかという議論になっている。もちろん結論は出ていませんが、学 者の中には、制限されてもやむを得ないのだという考え方もあります。しかし安全や健 康のほうをもっと重視したほうがいいという考え方もあります。平成12年の報告書で は、そこは割り切っていない。こういう問題がありますというのにとどめています。 ○藤村委員  ただいまのことはわかりました。具体的事例について伺います。我々は医師ですから 患者さんを診ます。守秘義務の拡大というのがありますが、例えば労働者が何かの病気 になって、どうしても休まなければならないので診断書を書いてくれと言われたとしま す。医師が診断書を書きますね。書いた内容を患者に全部見せて、これこれ、こういう ふうに書きましたよという説明をしないと、これは守秘義務の拡大に引っかかるわけで すか。 ○保原座長  それは議論のあるところで、むしろ医師にお聞きしたいということですが、報告書で はそこについてはあまり突っ込んでいません。 ○藤村委員  例えば患者を診たときに、非常に重篤で十分に話もできないような状態で、いままで の情報が知りたいと思って事業場に電話をかけ、健康情報が診断のために必要だから聞 かせてくれというのは、本人の同意がない場合は無理なわけですか。この文章をこのま ま読むと、そういうことになりますよね。 ○保原座長  ご質問のご趣旨が、よくわかりません。 ○藤村委員  患者が医師の所に来て、医師が診断をします。あるいは運び込まれて来た患者がいる とします。いろいろな診察や検査をして、前の情報がほしいけれども本人は何もわかっ ていない。十分話をすることもできない。そんなような状況で医師が事業場に電話し て、数年前からの健康情報を知らせてほしい、人の命に関わることであると言った場合 でも、これは知らせられないということですよね。 ○主任中央じん肺診査医  個人情報保護法では除外規定があります。私もどんなシチュエーションか、委員の言 われることを厳密に把握できたかどうかわかりませんが、23条でしたか、第三者提供の 制限で除外規定があります。要はそういう公衆衛生とか人の命に関わるような場合は、 第三者提供の制限を外しています。その場合は構成要件に該当しないと思います。保護 法の運用のご質問であれば、そういう措置が取られているというお答えになります。 ○松本委員  いまの点ですが、23条1項の3号でなく2号のほうだと思います。3号は地域がん登 録などの場合です。 ○藤村委員  わかりました。 ○保原座長  私から質問しますが、23条は具体的な運用などについては、規則とか指針は出ている のですか。 ○主任中央じん肺診査医  まだそこまではいっていません。 ○保原座長  つまり、あらかじめ本人の同意を得ないでという場合とか。 ○主任中央じん肺診査医  まだこれは施行も来年の4月です。 ○保原座長  第三者というのは誰かとか。 ○主任中央じん肺診査医  そこまではありません。 ○保原座長  わかりました。その他ございませんか。特にないようでしたら、資料6の労働者の健 康情報の保護に関する検討項目について、これは下に「その他」と書いてあるように1 つの例示であり、これに限るわけではありませんが、今日は最初ですので、あと1時間 ほどフリー・トーキングをしたいと思います。どの問題でも結構ですから、ご意見をお 聞かせいただければと思います。 ○鳥井委員  最近、アルバイトと言うか派遣と言うのでしょうか、そういう人たちが増えてきてい るので、そういう人たちの安全管理義務はどうなっているのですか。この安全配慮義務 というのは何か規定があるのでしょうか。 ○主任中央じん肺診査医  要は安衛法の「労働者」に、そういうパートとか正社員でない人が含まれるかという ことですか。 ○鳥井委員  ええ。 ○主任中央じん肺診査医  それは含まれています。 ○鳥井委員  週に1回勤務とか、そんなのでもですか。 ○主任中央じん肺診査医  はい、「労働者」の中に入っています。 ○保原座長  派遣については安全衛生法に規定があります。細かいことは忘れましたが、そこで使 用者の義務を、どちらがどういうふうに履行すべきかについて規定があります。中身は 忘れてしまって恐縮です。 ○計画課長(中沖)  若干補足します。例えば健康診断ですと、雇入時、定期の健診については派遣元のほ うが責任を負いますが、特殊健診については当然派遣先のほうが責任を負うという形 で、派遣先、派遣元がそれぞれ責任を持つ形になっています。 ○鳥井委員  そうすると両方に情報がある。 ○保原座長  どの段階では、どちらの責任かということです。 ○鳥井委員  ですから、例えば3カ月派遣してグルグル変わると、両方に情報がある可能性がある わけですね。 ○計画課長  そうですね。1回やってしまうと今度は保存義務が生じますので、どうしてもそうい う形になるかと思います。 ○保原座長  先生、差し当たりよろしいですか。 ○鳥井委員  結構です。 ○堀江委員  いまのお話に関連した点なのですが、確かに派遣元と派遣先、例えば一般健診の派遣 元、特殊健診の派遣先が実施するという、派遣法の読換え規定があります。ただいまご 説明のように、情報がそれぞれ別の場所で保存されるという体系になっていて、実際に 健康管理や安全配慮を実施していこうとするときに、情報が完全でないことから問題が 生じる例もなくはないと思います。  そうすると、例えば労働者を新たに派遣で引き受けようとする事業者にとって見れ ば、一定レベルの健康が保証された人を雇おう。あるいは、言い方を変えればこのよう な業務だけれども、今回製造業の派遣もなされてくると思います。このような有害業務 があるが、この有害業務に対しても健康が保証されている人だけを派遣で受け入れよう という動きも当然出てくると思います。現在、この辺は健康情報のやり取りで、派遣元 と派遣先できちんと連携をしなさい。あるいは、派遣元がきちんと健康管理をしている ことを問い合わせて、十分でなければ指導をしなさいということまで踏み込んで指導さ れている状態なのでしょうか。 ○計画課長  今回、派遣法の製造業への解禁があったわけです。その際、安定局の関係の審議会で いろいろ指針を作ったり、議論があったのですが、その点については議論がなかったと 聞いています。 ○堀江委員  確認ですが、そうすると製造業としては、現在は少なくとも派遣先で特殊健診を実施 するわけです。もともと、有害業務に適した人が来ているか来ていないかというのは、 特殊健診を実施するまでわからないということになるのでしょうか。 ○計画課長  そういうことになろうかと思います。雇い時にある程度健診がありますので、その段 階でどこまでわかるかということになります。 ○堀江委員  そうすると、具体的には特殊健診の配置前健診というものがあります。例を挙げる と、既に聴力が悪い人に騒音職場に就いてもらうのは健康上良くないわけですから、こ の場合、聴力が良いかどうかは配置前健診できちんと把握しなければ、安全配慮義務を 果たしたとは言えないということになってくるかと思います。  聴力の検査であれば通常、安衛則の第43条、一定の年齢以上であれば1,000ヘルツ〜 4,000ヘルツの値は当然収集されているわけですから、情報だけが移動すればある程度 の推測も付くわけです。今後、そういった措置が少し検討されていかないと、派遣の問 題でなかなか、一元的に情報をうまく使っていこうというとしたときに難しい問題が生 じるかなと感じています。 ○保原座長  これも検討事項として取っておきたいと思います。そのほかにいかがでしょうか。 ○井上委員  現場の声として、意見を述べさせていただきます。最近、「過重労働による健康障害 防止対策」という指針が出ました。安全配慮義務の違反などに問われることがあり、事 業者は大変過敏になっています。職制といったところからも是非、健康情報については 上長や人事担当責任者は是非知りたいということがあります。知っていなければそれが 全うできないという意見もありました。  産業医というのは1,000人以上の場合だと専属で置いていますし、50人以上だと嘱託 産業医ということで月に1回程度しか来ないわけです。労働者に残業を命じたり、出張 を命じたりするのは上長ですので、ある程度そういった情報を流してほしいということ が意見として職制からあるいは人事担当から出ていることを知っておいていただきたい と思います。  もう1つ、先ほど産業医ということで出ましたが、あくまでも産業医というのは事業 場の規模によって選任されているものです。当社でも50人未満の事業場には支店などが かなりあるわけです。そういった所には産業医などは置いていません。そういう所は 「会社の指定する医師」ということで本社の産業医が、それは法的には産業医ではない のですが、会社の指定する医師ということで面倒を見ています。だから、「産業医等」 というのは専属の産業医、それからそのような医師も含むということでよろしいのでは ないでしょうか。 ○藤村委員  法律的にどうかわからないのですが、日本医師会では「認定産業医制度」を作ってい て、その認定産業医がそれなりの認識を得ています。産業医活動は原則として産業医が しなければならない。小規模事業場においても、何事業場かを集めて1人の産業医が管 理するという方向に持っていくほうがよろしいのではないかと思います。  厚生労働省の考え方も同じではないかと思うのです。一般の医師は「産業医等」の 「等」に入るとか、どうもあまりすっきりしないので、そこは少しはっきりさせていた だきたいと思います。「産業医等」、「衛生管理者等」が非常に問題が起こってくると 思います。 ○堀江委員  確か前回も、「等」をどうするかという議論があったように記憶しています。その際 はあくまでも労働衛生における役職になります。例えば、安衛法の第66条第3項に「歯 科医師の健康診断等」がありますので、「産業医等」の中には産業歯科医が入るという 説明だったような気がしています。それ以外の医師までは言及していなかったのではな かったかと記憶しています。  「衛生管理者等」のほうは先ほどご説明があったような衛生推進者、安全衛生推進者 といった方々かなと理解していました。したがって、この場合の「等」はご指摘のよう に、あまり広げてしまうと労働衛生上の役割が違ってくる可能性もあります。あくまで も、本人の就業適性を判断する医師、または安衛法第66条第3項の「健診等」を実施し た産業歯科医がよろしいのではないかと思います。いかがでしょうか。 ○保原座長  いずれにしても、法律や政令、省令を作る段階では定義をはっきりさせないといけま せん。必要に応じて、定義を具体化するということかなと思います。報告書がいいかげ んでいいということではありません。むしろ、報告書は内容的な流れを重視して、いよ いよ立法作業に入るという場合にはしっかり定義をする。特に罰則を伴っている場合に は、罪刑法定主義との関係で厳密にしなければいけないということかと思います。釈迦 に説法で恐縮ですが、私はそのように考えます。 ○松本委員  法律の政令で5,000人という、ずいぶん大きな数字が出た点なのですが、過去6カ月 間で5,000人の労働者をパート等も入れて雇っている企業というのは相当な大企業で、 ごく限られてくると思います。退職者を入れても5,000人というのはかなりの数だと思 います。  個人情報保護法が適用されて、それが適用される利用者について、労働者の健康情報 についてどう具体化するかという点だけを詰めていくと、大部分は関係ないということ になりかねません。むしろ、健康情報という観点から主として考えていって、その場合 に個人情報保護法の理念、ポリシーといったものをどんどん制度的に取り入れるという 形にすべきかなと思います。そうすると、同じようなルールを安衛法のほうに入れてい くという感じにしないと、一般的なガイドラインという、強制力のないガイドラインだ けだと、通常の個人情報は法律できちんとしているのに健康情報が弱いというのは少し アンバランスかと思います。その辺、ご考慮いただきたいと思います。 ○保原座長  ありがとうございました。5,000人についてお願いします。 ○主任中央じん肺診査医  はい、政令の第2条にそうした規定があります。5,000のカウントの仕方ですが、私 もどうだろうと思い、総務省に問い合わせてみました。労働者と顧客情報、併せて 5,000人ということのようで、私もちょっとびっくりしました。とはいえ、顧客情報を 5,000抱えている事業者もそうあるわけではないでしょう。いずれにしても、抜け落ち る事業者がかなり出るというのは間違いありません。そこを公平に扱っていくために は、労働衛生分野で何がしかの手当が必要だという先生のお考えは妥当なものではない かと思います。 ○中桐委員  私も前回の検討会に参加いたしました。この間の変化の中でいちばん大きいのは、プ ライバシー保護の問題について、中間報告を議論しているときには座長からも「そのよ うな実態はありませんか」という質問がありました。また、厚生労働省でもいろいろな 判例等を調べていただきましたがあまりなかった。しかし、この間の変化というのは報 告書にも少し出てきますが、メンタルヘルスという問題がプライバシー保護について、 労働者もよく理解できるものになったと思います。  10人に1人いるとか、いろいろな情報がありますが、そのような方々は結局自分の雇 用につながる。会社を辞めさせられるのではないかという心配をしますし、また移った としてもそういう情報が伝わっていって、新しい事業場でまたすぐ辞めなければいけな いことにもつながる点もあろうかと思います。そういった意味で、以前の議論に比べれ ば、労働者のプライバシー保護に対する意識というのは格別高くなっているだろうと思 います。データで裏づける実態調査は私どももまだ持ち合わせていません。  これから先は所属する団体、労働者の意見というわけではなくて、個人的な意見に近 くなります。一種、結論的なことになりますが、やはりこの中間報告の中でかなりのも のを消化をして、原則的なものを出してきています。その内容、例えばILOやICO Hといった国際的な動向の中で、「産業医等」とありましたが、産業医を中心とした体 制で図ろう。これについて、実態はいろいろありますが、やはりこの方向で追求してい くべきではないかと思います。それとの矛盾で考えると、逆に日本的なものになるかも わかりませんが、国際的な潮流とずれたものができてくるのではないかという気がしま す。  もう1点、そうは言っても、いちばん気をつけていただきたいのは、先ほども少しあ りましたがダブル・スタンダードを作っていただきたくないということです。産業医の 選任にしろ、安全衛生委員会の設置にしろ、50人未満というところで大きく差がありま す。健康診断1つにしても、その実施状況、有所見者の率はやはり50人未満、30人未満 のほうがはるかに高いわけです。このような人たちを産業医の方が周りにいない方々に ついて、どうやってその制度で産業医がカバーできるか。ずっと進めてきた「地域産業 保健推進センター」などを活用したやり方など、枠を作っているわけですが、まだまだ 利用率が低くて役立っておりません。  そのような矛盾はあるのですが、産業医を中心にしたプライバシー保護のあり方とい うものを基本的に追求しながら、例えば来年から30人未満の事業場の人たちが、産業医 の先生方に健康データを保管していただいて出来るかどうかと言えばかなり問題はある わけです。それについては、いまある中小企業保護のためのいくつかの施策などを強化 しながら議論していただいたほうが、ダブル・スタンダードを作らないことも含めて、 産業医とは別のものを考える議論をするよりもいいのではないかと思っています。以上 です。 ○保原座長  私もそこは大変重要な問題だと思っています。ただ、前の報告書のときも具体的にな かなか突っ込めない。センターの設置とか、少しは前進はありましたが、何か良い方法 はないか、その問題も是非検討したいと思います。 ○中桐委員  言い忘れましたが、もう1点、安全配慮義務の問題です。これは民事上の責任を問う 問題ですし、安衛法上の問題で言った場合にこれまでと変わらないということではない かと思います。そうあるべきだと思います。事業者の責任というのはたとえ、生の健康 データが手に入るからといって軽減されるものであってはなりませんし、そのような範 疇のものではないのではないかと思います。 ○保原座長  メンタルヘルスの問題ですが、荒井委員、例の精神障害者の雇用の問題など、差し支 えない範囲でお願いしたいと思います。 ○荒井委員  メンタルヘルスと言っても、いわゆる健常人の精神健康の問題、これまであまり議論 されませんでしたが在職精神障害者の問題、そこには当然新規雇用も含めていま議論さ れているところだと思います。方向としては身体障害、知的障害、あるいは精神障害、 それぞれが平等に扱われるのが妥当だというのが現在の一般的な見解だろうと思ってい ます。  そのとき、情報の扱い方については難しい問題が当然ございます。ある1つの基準を 設けて、3障害についてそれぞれ平等に評価していくという流れになろうかと考えてい ます。障害を持っている方については、国が認める制度の中で本人が申請すれば把握す るということになるかと思います。 ○保原座長  まだ国が認めていない段階のメンタルヘルスに異常があるというか、そのような問題 についてはどうなのでしょうか。 ○荒井委員  在職精神障害者の多くは、国が認めた制度上の障害者として定義されることは少ない ものですから、それぞれの事業者、あるいは産業医、産業精神科医等がその守秘を持つ ということになると思います。  事業者について言えば、安全配慮義務を遂行する上で必要な情報として持つ。その範 囲が限られている。いまフランスの例が出ましたが、産業医が個人の情報のうち、事業 者が安全配慮義務を果たす上で必要な情報を事業者に提供して、それを事業者が適正に 運用する。そう考えるのが基本的にはいいだろうと思っています。いまお話があったよ うに、産業医が情報のコントロールをしていく監督者というか、責任者になるのが適正 だろうと考えています。そのような流れになっていくのだろうと思っています。 ○保原座長  ありがとうございました。また、よろしくお願いします。 ○柚木委員  私どもは「全国労働衛生団体連合会」と言って、企業外健康診断機関の集まりで、会 員組織でやっています。前回、平成12年の検討委員会の中間報告を参考にして、昨年か ら個人情報の保護に関する検討委員会を設けて独自で、会員機関の参考になればという ことでとりまとめています。  その中で特に注目すべきなのは、企業から個人情報保護の徹底について健診機関と契 約を結びたい。要するに、どのように漏れないようにしているのか。また、漏れた場合 にはどのようにしているのか。会員がいま110機関あるわけですが、全衛連の関係機関 はほとんど、対事業所と契約に基づいての健康診断になっていくのではないかと考えて います。もちろん、まだ検討中でもあります。いまから平成17年に向けてやらなくては ならないことがたくさんあるのですが、一応、全衛連としてはそのような取組みをして いるというのが実情です。 ○保原座長  平成17年に報告書が出るというものですか。 ○柚木委員  平成17年に施行される民間の個人情報取扱事業者の義務に係る部分ということです。 それまでに、どのように体制を持っていくかということについての検討を行っていま す。企業も個人情報保護法ができましたので、個人情報が漏れることを非常に危惧され ています。 ○保原座長  それは個人情報保護法がカバーする範囲だけの問題ではなくてですか。 ○柚木委員  もちろん個人情報が漏れないことが前提で会員機関の中で資格者の教育などを含めて 取り組んでおります。 ○保原座長  またまとまりましたら、資料として教えていただければ大変ありがたいと思います。 よろしくお願いします。そのほかにありませんでしょうか。 ○荒井委員  いまの守秘義務の点、産業医については倫理の問題があります。非医師、あるいは非 看護職の場合には、職務に関連した守秘義務というように考えられるわけです。「産業 精神保健学会」で倫理綱領を作り、産業衛生学会には産業専門職制度があって、資料に も添付されていますが倫理綱領がある。産業精神保健学会では産業精神保健専門職とし て、やはり倫理綱領を作って、産業精神保健専門職としてその倫理綱領を執行されると いう制度が始まったところです。まだ人数は少ないので、実効性があるかどうかはこれ からの問題かと思います。その学会、現時点では任意団体が作ったものです。そのよう なことがメンタルヘルス上の動きとしてあることはご報告しておこうと思います。 ○保原座長  いま、会員というのはどのぐらいいらっしゃるのですか。 ○荒井委員  いま医師、看護職、心理職、衛生管理者、人事担当者とあります。職種は産業精神保 健学会では問いませんので、評議員の推薦が必要ですが、こういった精神健康にかかわ ることに関心のある方が入会可能です。700名ぐらいいます。そのうち、いま、資格認 定を比較的厳しくしておりまして、120名程度専門職をお取りになっています。 ○保原座長  ありがとうございました。 ○鳥井委員  先ほど、安全配慮義務とプライバシーのバランスポイントというお話がありました。 私が見ている限り、例えば「自己責任」という言葉が多くの社会で使われるようになっ たのは、平成12年よりあとの話ではないかという気がします。それから、インフォーム ド・コンセントがこれだけ厳しく言われるようになったのも平成12年以降なのかなとい う気がします。その意味で見ると、誰かに守ってもらうという話よりも、自分で自分を 守るという話に日本の社会は少し移りつつあるような気がします。  もう一方で、確かに井上委員がおっしゃったように企業の事業者に対して訴訟が行わ れて、大変な責任を問われるということもあります。この辺の認識というのは、皆さ ん、ある温度で一定にしておいたほうが議論はしやすいのかもしれないという気がしま す。そう見ているのは間違いかもしれません、よくわかりません。ただ、前の議論のと きに比べると少しプライバシーを大事にするというか、自己責任を大事にするという方 向へ社会が動いているかなという感じがします。いかがでしょうか。 ○保原座長  いかがでしょうか。 ○井上委員  これも事例なのですが、いま法定の健康診断というものがあります。当社では35歳以 上になると、人間ドックを任意で受けられるようになっています。ほとんどの方が、35 歳以上になると法定の健診だけでは足りないということで、本人から「是非、人間ドッ クを受けたい」という言葉が出てきます。一応本人が選択するわけですが、そのときに 同意を取って、人間ドックも法定の健診として見なすということで行っています。つい 最近、安全衛生委員会を開いて委員会で審議し承認を得ました。そうしたら、「なぜい まさら」ぐらいのことを言われました。この辺、過重労働対策や安全配慮の関係がある のではないかと思っています。この辺が最近の非常に大きな動きと思います。  事業者も企業防衛的見地から、なまはんかな管理ではもう駄目という姿勢で対応して くれるようになりました。私はこういった部門の責任者ですが、大変やりやすい風土に なってきていることは確かだと思います。 ○松本委員  最後のほうに挙がっている「第三者提供」、事業承継の点なのですが、労働契約が承 継された場合であっても健康情報については原則、移転しないほうがいいというように 中間報告はまとめているわけです。労働契約の承継ということは、言ってみれば雇い主 の地位をそのまま丸ごと引き継ぐわけですから、その前の段階における労働契約から生 じた安全配慮義務等の責任も引き継ぐと考えると、そのような健診情報なども持ってい たほうがいいということになるのではないか。  さらに健康情報よりもっと広い、労働者の雇用にまつわるさまざまな情報について は、これはおそらく当然引き継がれるものであろうとすると、そこから健康情報だけ、 健診情報だけが入ってこないというのは積極的な説明は難しいかなという感じがしま す。職種がガラッと変わるのだから、従来の情報はもう有効に活用されないという点は 確かにそうなのでしょう。そうであれば、同じ企業内でも職場が変わってしまっても、 その危険な職場に戻る可能性はないということであれば、もう廃棄してもいいのではな いかという議論が出てきそうな感じがします。ここは確かに、もう1度再検討をする必 要があるのではないかと思います。 ○保原座長  個人情報保護法でも「労働契約の承継の場合」という規定があります。原則、承継の 場合には当事者の同意を必要とせず、健康情報も保護ということになっています。い ま、松本委員がご指摘になったのは個人情報保護法の適用がない企業も含めて、そのよ うな問題をもう1回考え直したほうがいいということだと思います。その点も検討項目 に加えたいと思います。そのほかにいかがでしょうか。今日は最初ですから、どこから でもお願いします。 ○堀江委員  先ほど来の話に関係しますが、健康情報をもとに労働条件の低下、あるいは雇用が危 ぶまれるような状況になるような事例、当然目的外の使用ですが、それが起こるケース がいちばん問題になるかと思います。したがって、実態面でどのように監視していくか というのは大きな課題です。  昨今、解雇のルールが労働基準法で一部明確になってきたということで、解雇の理由 については明確に示すようになったと理解しています。例えば解雇をしてしまった場合 に、本当に健康情報を目的外で使用したためではないということを何か保証できるよう な、実態的な仕組みというのはあるのでしょうか。あるいは、それをこの委員会で考え るのかどうかということになってくると思います。実態面ではそこが非常に難しいと思 います。 ○保原座長  雇い主がある健康情報に基づいて、労働者をクビにしたという場合ですか。 ○堀江委員  例えば、おそらく事業者は解雇の理由を別の理由を立てて言う場合もあると思いま す。実は、健康情報が漏れたためにこうなったと言われかねないケースもあると思うの ですが、その辺を監視しておくような仕組みというのは現在はないのでしょうか。 ○保原座長  現在、労働契約一般の問題というか、解雇一般の問題として、最終的には裁判所の自 由心証の問題かと思います。当事者はいろいろなことを言うと思いますが、それについ て特別のルールを設定しているということはありません。 ○堀江委員  そうすると、この委員会では健康情報の目的外利用がなされないように監視するとい う、実態的な仕組みを作ることも重要だと思うのですが、そういった事案も想定しなが ら考えるということになりますか。 ○保原座長  可能であれば。これは結構難しいと思います。ただ、考えてみるかということはあっ ていいと思います。何が解雇の原因かを探究する場合に、基準を設定するというのは大 変難しい。一般論としてはそう思います。これは個人的な意見ですが、法律家の方はい かがでしょうか。 ○松本委員  ちょうど同じような問題が、いま国会で審議中の「公益通報者保護制度」のところで も出てくると思います。公益通報を理由にして不利益なことをしてはいけないという法 律です。ほかの理由で配置転換をするなどという場合、公益通報をしたことが理由だと いうことが言えないと、結局その法律の保護を受けられないということになります。ど ういう場合にそうだということを認定するかという問題があり、ここでも同じように健 康情報を理由にして配置転換や解雇など、不利益なことをしてはいけないのか、いいの かという議論をまず行う。その上で、してはいけないという場合に、別の理由に仮託さ れている場合に、本来の理由はこうということを言いやすくするような制度を作るかど うかというのが次のステップになると思います。 ○保原座長  「公益通報者保護制度」ではもう一歩踏み込んだことができそうですか。 ○松本委員  いや、法律の条文上は特にありません。裁判になれば裁判官の自由心証の範囲でとい うことになると思います。 ○堀江委員  実は、いまのような質問をした理由が1つあります。私どもで連合と協力して、労働 組合の意見を調査した研究があります。現在の安衛法では当然、使用者が健康情報を見 ながら職場の配置転換、あるいは就業上の措置をすることは可能です。しかし、それに 伴って労働条件が低下することについては何も言っていないと思いますので、結果的に 労働条件が低下するという事態はあると思います。  現行法上は問題はないはずなのですが、このことが現場で問題なのかどうかという意 見を聞くと、353の労働組合が回答されて、そのうち75組合、21%が「問題がある」と 答えています。そのほかの質問もいろいろあるのですが、基本的には現状に問題がある かという質問なので「問題がない」という答えが多い。ただ、この労働条件の変更につ いては、2割ぐらいの組合が「現状も問題」と答えていますので、ここがいちばん意識 が高い部分かなと感じ、先ほどの質問をさせていただきました。  もう1点付け加えると、現在、例えば一般定期健康診断というのは最も多く行われて いる健診で、この情報は事業者には開示されているわけです。しかし、その中にはいろ いろな項目が入っていて、各項目それぞれについて事業者に開示されていることに問題 があるかどうかを聞いたところ、項目別に聞いて最も「開示することに問題がある」と 言われた項目は体重でした。自分でもわかるところかなと思います。先ほどの話もあり ますが、退職後何年もたって、体重がある事業者のところに保存されているというのが 現在の法律では合法なのですが、このことについては問題意識が高いかなと思いまし た。 ○保原座長  ありがとうございました。 ○柚木委員  この特殊健康診断で悪いものがあれば、配置換えというのは産業医の責務において当 然されています。解雇をする・しないは企業の側に立てばわかるでしょうが、悪いとこ ろがわかっていてその職場に就くことができないというのは、産業医の責任として配置 転換がありますので。 ○保原座長  問題は配置転換したあとに、結局軽い仕事になったために賃金が下がるのはどうかと いうことがあります。 ○柚木委員  例えば、貨物の運転手が視力障害などで運転できなくなった。配置換えで事務所のほ うに行くとか、乗務員の誘導になるというときに給料が下がったので、産業医がもう一 遍見て、運転できるように認めてほしいという話もときどき来ます。我々産業医として は眼科であれば眼科、耳鼻科であれば耳鼻科の専門医の診断も参考にして、また会社の ほうで検討していただきたいとしています。労働者は給料が下がるのが非常につらいで しょうが、健康を害してまで、配置してはいけないところまで置いているということ は、やはり産業としてはいかがなことかと思います。毅然とした態度で臨まなければい けないのではないかと思っています。 ○中桐委員  先ほどの堀江委員の調査にご協力したのですが、最終的に教えていただいていないも のですからよくわかりません。別の問題を少し申し上げたいと思います。最後にある 「労働者の健康管理の自己責任のあり方」、これをここで言わなければいけないのかと いう気がします。というのは、いま問題になっているイラクの誘拐事件の皆さんについ て自己責任論がありますが、こういうことでわざわざ言わなければいけないのかどう か。かえって、余計な議論にならないかという思いがあります。  もう1つ、働く側で健康診断をやっている人たちがいらっしゃいます。我々もよくわ かりますが、診断の前1週間ぐらいはお酒もやめて、煙草もやめて、元気いっぱいにな って診断を受ける。診察が出て、OKだと言われたらその日からいっぱいお酒を飲んで いるという使い方をしています。確かに笑い話のような制度の利用の仕方なのですが、 このような問題で自己責任というのはあまり言っても仕方がない。労働者教育などの問 題ではないか。自己責任というのは今的な問題なのですが、例えば国や事業者に対する 責任を回避するような議論になってもつまらないと。もちろん、自分の健康は自分で守 りなさいということは前提ですが、あえてここでこういう議論が必要か気になっていま す。 ○保原座長  私も責任があるものですから、これも検討項目に加えておきましょうか。中桐委員が ご心配のような方向に行かないように、ここで議論をしたいと思います。 ○堀江委員  検討項目の中で、教育や啓発活動に関することが文字としては入っていないと思いま す。前回の報告書でも、「認識の向上を図るべきだ」ということが確か最初に掲げられ ていた報告でした。世の中全体の動きで、当然認識は高まってきていますが、やはり産 業保健特有の問題もありますので、どのように労働者、あるいは事業者に対する教育を 行っていくのかという点も多少議論いただきたいと思っています。 ○保原座長  具体的には、どの段階がいちばん効果的だと思われますか。 ○堀江委員  いまご質問を受けて頭に浮かんだのは、例えば労働者の健康情報を管理する立場にな る可能性のある、すなわち職長の教育、第59条でしたか60条でしたか。部下の健康管理 について仕事が増える瞬間ですので、そこで、そこで健康情報についても改めて認識し ていただくようなことがいいのかなと思いました。ほかにもあるかもしれません。 ○保原座長  ありがとうございました。 ○荒井委員  いまの点、管理者教育が当然必要で、いまも多くの事業場で行われているわけです。 しかし、それ以上に経営者に対する、経営者と言っても取締役、あるいはそれに準じた 方たちに、健康問題の重要性を理解していただく機会を産業医が持てることが非常に重 要な課題だろうと思っています。この前も「産業衛生学会」でそのようなチャンスが担 保できないだろうか、ということが質問に出ていました。いくつかの会社では、産業医 からその事業場の健康状態についてヒアリングを行うという取締役会議が開かれる場合 があると聞いています。そういったものもこれからやっていかないと、健康問題だけで はもちろんないわけですが、生な情報というか、雰囲気が経営陣に届かないと思ってい ます。これは言い方が変ですが、経営者に対する啓発ということだと思います。 ○保原座長  実際にそのような機会というのは、産業医の先生方にはあまりないのでしょうか。 ○荒井委員  ある所とない所があります。それぞれの事業場の歴史がありますし、それによって違 っていると思いますが、法文上ではもちろんないわけです。指導をすることは可能です が、直接会って全体の話をするということはできません。 ○保原座長  法律だと勧告などがありますが、そうではなくて、もう少し日常的なということです か。 ○荒井委員  はい。穏やかな形、要するに状況把握をして、経営陣がそこにも投資する価値がある と判断するということだと思います。 ○保原座長  ありがとうございました。そのほか、何でも結構ですが、いかがでしょうか。 ○荒井委員  もう1つ、いま問題になっている中に、4つのケアのうち、セルフ・ケアが自己責任 の問題になると思います。ラインによるケアが場長教育ですし、産業医療におけるケア がいま話に出ている医療情報を含んだ情報だろうと思います。外部の資源についても、 いまお話がありましたが倫理綱領、あるいは守秘義務等、ある種のクオリフィケーショ ンがこれからは必要だろうと思います。  というのは、いろいろな外部の機関が人事その他、健康情報を含む問題をアウトソー スしてマネージメントする機関が出てきています。その機関の守秘義務については、現 時点では各機関の善意に任されています。是非、それについても指針は必要なのではな いかと思います。 ○保原座長  ありがとうございました。大体、よろしいでしょうか。今日は第1回目、フリー・ト ーキングということでした。今日の検討の結果を踏まえ、次回、どのような進め方をす るか、何をやるかを考えたいと思います。いずれにしても、本日の議論をもとに論点整 理をしていただきたいと思います。事務局、次回までに整理をよろしくお願いいたしま す。検討は以上とします。事務局、何かありますか。 ○主任中央じん肺診査医  どうも、お疲れ様でした。次回の日程ですが、各委員の日程を調整すると、皆様お忙 しくて時間が取れなかったので、少し飛びますが5月27日(木)、3時から開催した いと考えています。開催場所については追ってご連絡します。また、厚生労働省のホー ムページ上においても後日ご案内をさせていただきます。以上です。 ○保原座長  委員の先生方は何か、連絡事項等はありませんでしょうか。ないようでしたら、以上 で今日の会議を終わらせていただきます。ありがとうございました。