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「被保険者範囲」をめぐる制度創設時の主な経緯

 制度創設当初から、被保険者及び受給者の範囲は大きな論点の一つ。
 65歳以上とする意見や、20歳以上とする意見などがあったが、老人保健福祉審議会の最終報告においては、65歳以上の高齢者中心で制度設計することとなった。
 その後、与党内での議論を経て、現行の被保険者範囲(40歳以上)となった。
 さらに、法附則において、「被保険者及び保険給付を受ける者の範囲」については、障害者福祉施策等に配慮しつつ、施行後5年を目途として検討すべき課題の一つとされた。

〔主な経緯〕
主な経緯の図



審議会等における議論の経緯

1. 平成6年12月 高齢者介護・自立支援システム研究会報告
  ○  介護のリスクが高まる65歳以上の高齢者を被保険者かつ受給者とすることが基本と考えられるが、現役世代についても、世代間連帯や将来における受給者になるための資格取得要件として被保険者として位置付けることも考えられる。
  ○  なお、高齢者以外の障害者については、障害者基本法の趣旨に沿って、障害の態様に応じた、教育、授産、就労、更生援助、住宅などの総合的な障害者施策を計画的に推進し、適切に対応していくことが望まれるところであるが、その中で介護サービスを取り出して社会保険の対象にすることが適当かどうか、慎重な検討が必要

2. 平成7年6月 与党福祉PT・高齢者介護問題に関する中間まとめ
  ○  若年の障害者の取扱いについては、当プロジェクトとして同時並行的に検討を急いでいる総合的な障害者施策の在り方を念頭に置きながら、今後引き続き検討を進める。

3. 平成7年12月 老人保健福祉審議会〜三分科会からの報告〜
〔制度分科会報告〕
  ○  受給者は65歳以上の高齢者とすることを基本とし、高齢者を保険料を負担する被保険者として位置付けるべきである。
  ○  現役世代についても、世代間連帯や老親に対する扶養責任、更には家族介護の社会化により介護負担が軽減されるという受益があることを踏まえ、適切な負担を求めるべきである。
  ○  若年障害者に対する介護サービスについては、障害者福祉施策によって対応することを基本に、その充実を図るため、具体的な施策目標の設定と計画的推進を内容とする「障害者プラン」の策定について検討

4. 平成8年1月 老人保健福祉審議会(第2次報告)
  ○  新制度における介護サービスの対象者は、加齢に伴う障害等により自力で日常生活を送ることが困難で、介護が必要な状態(要介護状態)にある高齢者とする。
  ○  若年障害者に対するサービスについては、基本的には障害者福祉施策によって対応することが考えられ、平成7年末策定された「障害者プラン」に基づき、具体的整備目標に沿って計画的にその充実が図られることにより、若年障害者によりふさわしいサービス提供が実現されることが望ましい

5. 平成8年4月 老人保健福祉審議会(最終報告)
  ○  高齢者介護に対する社会的支援体制の確立が最大の課題となっていることから、65歳以上の高齢者を被保険者とし、保険料負担を求めるのが適当である。
 この場合、高齢者にのみ負担を求めるならば高齢者の保険料負担の水準が高くなり過ぎるほか、高齢者介護の社会化は家族にとっても大きな受益であることから、社会的扶養や世代間連帯の考え方に立って、若年者にも負担を求めることが考えられる
 ただし、これについては、若年者も要介護状態になり得ることを考えると、給付のない負担を求めることについて若年者の理解が得られないのではないかとの指摘もあった。
  ○  65歳未満の若年者を被保険者=受給者とすることについては、若年要介護者に対する介護保障のあり方について、基本論を含めた議論を専門審議会等で尽くす必要があると考えられるほか、
  (1)  就労援助、社会参加などを含む障害者施策の総合性がそこなわれるおそれがあるのではないかと考えられること
  (2)  現状では、障害者行政と高齢者行政とは異なった仕組みで行われており、実施体制の面での検討が必要となること
等から、今後の検討課題と位置付け、昨年末策定された障害者プランに基づくサービスの計画的整備の進展状況等も見極めた対応を行うべきではないかとの指摘があった。

6. 平成8年5月 与党福祉PT・介護保険制度の試案作成に当たっての基本的視点
 3.  高齢者、現役世代、事業主等が納得して費用を負担できるような方策を講じること。また、将来にわたって保険財政が安定するような措置を盛り込むこと

7. 平成8年6月6日 老人保健福祉審議会(介護保険制度案大綱・諮問)
3. 被保険者
 (1)  基本的な考え方(介護保険と障害者福祉施策の役割分担)
  ○  高齢者介護が大きな社会問題となっている状況を踏まえ、介護保険制度は、老化に伴う介護ニーズに適切に応えることを目的とする。障害者福祉(公費)による介護サービスについては、障害者プランに即して、引き続き充実を図るものとする。
 (2)  介護保険における被保険者の範囲
  ○  介護保険が対象とする老化に伴う介護ニーズは、高齢期のみならず中高年期においても生じ得ること、また、40歳以降になると一般に老親の介護が必要となり、介護という立場から介護保険による社会的支援という利益を受ける可能性が高まることから、40歳以上の者を被保険者とし、社会連帯に よって介護費用を支え合うものとする。

8. 平成8年6月10日 老人保健福祉審議会(介護保険制度案大綱・答申)
  ○   当審議会は、老化に伴い介護が必要な者が、自らの意思に基づきニーズに応じた介護サービスを利用できる、新たな介護制度を創設すべきであるという点で、意見の一致をみた・・・
 2.  なお、このほか、制度運営等に関する具体的な項目について、次のような意見があった。
 (8)  成人障害者の適用に関しては、障害者の保健福祉サービスのあり方全体の検討が行われているところであり、既存制度の活用を含め、今後さらに慎重に検討を続ける必要がある。

9. 平成8年6月10日 身体障害者福祉審議会(意見具申)
・・・言うまでもなく、介護に対するニーズは、年齢や障害の原因を問わず、すべての国民が豊かな暮らしを送っていく上で共通して必要なものであり、地域における要介護者の支援体制は、高齢者・若年者にかわるところなく整備していく必要がある。
・・・しかしながら、障害者施策のうち、介護ニーズへの対応について介護保険制度に移行することについては、(1)障害者施策が公の責任として公費で実施すべきとの関係者の認識が強い点、(2)身体障害者以外の障害者施策が一元的に市町村で行われていない点、(3)障害者の介護サービスの内容は高齢者に比べて多様であり、これに対応したサービス類型を確立するには十分な検討が必要であること、(4)保険移行に当たっては、障害者の介護サービスをはじめとして現行施策との調整が必要と思われる点、等なお検討すべき点も少なくなく、また、これらの点についての関係者の認識も必ずしも一致していない
・・・今後この問題については、当審議会としてさらに十分に議論を重ね、また、必要に応じて関係審議会とも連携をとりながら、障害者施策にふさわしい介護サービスとその財政方式のあり方を模索していくこととする。この検討の結果が、介護保険制度案大綱で予定されている将来の見直しにおいて、適切に反映されることを期待するものである。

10. 平成8年11月29日 介護保険法案・閣議決定
  附則
 第 二条 介護保険制度については、この法律の施行後における介護を要する者等に係る保健医療サービス及び福祉サービスを提供する体制の状況、保険給付に要する費用の状況、国民負担の推移、社会経済の情勢等を勘案し、並びに障害者の福祉に係る施策、医療保険制度等との整合性及び市町村が行う介護保険事業の円滑な実施に配慮し、被保険者及び保険給付を受けられる者の範囲、保険給付の内容及び水準並びに保険料及び納付金(その納付に充てるため医療保険各法の規定により徴収する保険料又は掛金を含む。)の負担の在り方を含め、その全般について検討が加えられ、その結果に基づき、必要な見直し等の措置が講ぜられるべきものとする。


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