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「外国人労働者の雇用管理のあり方に関する研究会報告書」(案)


序章 研究会としての問題認識
   近年、日本で働く外国人労働者が増加してきている。一言で外国人と言っても、専門的分野・技術的分野で働く外国人、日系人、日本人の配偶者、留学生アルバイトなど、多様な外国人が日本に住み、さまざまな形で働いている。そのような中、昨今では特に、日本での滞在の長期化、永住資格の取得者の増加といった傾向が見られるところである。
 このように、今後も一定数の外国人が日本に在住し、働くことが予想される中、日本人と日本で働く外国人が共に働きやすい社会を構築することは、我が国の社会経済の発展のためにも、また、日本で働く外国人の人権尊重のためにも重要である。日本人と外国人が協調して働くことにより、社会に活力を生み、また、外国人自身が日本で働いてよかったと思える社会を作ることがこれまで以上に求められている。
 日本人と外国人が共に働きやすい社会の構築のためには、まず、企業における外国人労働者に対する適正な雇用管理が行われていることが不可欠である。国内の関係法令の遵守はもちろんのことであるが、外国人労働者の適正な雇用管理を行うことが、優秀な人材の確保、企業の社会的信用の向上といった大きなメリットを企業にもたらすことを認識しておく必要がある。
 こうした考え方の下で、本研究会では、現在外国人労働者を巡って問題となっている点を踏まえ、外国人労働者の雇用管理上のポイントを整理し、その実効性を高めるための検討を行った。


第1章 外国人労働者の現状と対策
 第1節 外国人労働者の受入れ制度
   1 外国人労働者受入れの政府方針
 平成11年に閣議決定された「第9次雇用対策基本計画」において示されている我が国の外国人労働者受入れの基本方針は、専門的・技術的分野の外国人労働者については、我が国の経済社会の活性化や国際化を図る観点から受入れを積極的に推進することとする一方で、いわゆる単純労働者の受入れについては、国内の労働市場に関わる問題を始めとして日本の経済社会と国民生活に多大な影響を及ぼすことから、国民のコンセンサスを踏まえつつ十分慎重に対応することが不可欠としている。
 なお、単純労働者の受入れに慎重である理由は以下のような問題による。
雇用機会が不足している高齢者等の就業機会を減少させるおそれがあること。
労働市場の二重構造化を生じさせるとともに、雇用管理の改善や労働生産性の向上の取組みを阻害し、ひいては産業構造の転換等の遅れをもたらすおそれがあること。
景気変動に伴い失業問題が生じやすいこと。
新たな社会的費用の負担を生じさせること。
送出し国や外国人労働者本人にとっての影響も極めて大きいと予想されること。

   2 外国人労働者受入れ制度
   (1) 現行の外国人労働者受入れ制度に至るまでの経緯
 1980年代後半から90年代前半にかけ、経済、社会の国際化が進展するに従って、国際社会における我が国の役割が増大し、我が国に入国、在留し就労する外国人の数が著しく増加した。一方、バブル経済による好景気の下で企業の人手不足や円高による出稼ぎメリットの拡大などを背景として、単純労働分野に大量の不法就労外国人が就労していたことから、単純労働分野への外国人労働者の受入れの是非が国民的議論の対象となった。
 このような中、平成2年に出入国管理及び難民認定法(以下、「入管法」という。)が大きく改正され、在留資格が現在の27種類に大幅に増加したほか、不法就労対策の強化が行われた。
 在留資格については、我が国の経済社会の国際化の進展に伴い、我が国で就労する外国人の増加に対応するため、専門的な技術、知識、技能を活かして職業活動に従事する外国人等の在留資格の整備を行った。
 また、この改正において、日系人についての位置付けも明確化された。在留資格が整備、拡充され「定住者」という就労活動に制限のない在留資格が創設される中で、日系三世にも当該在留資格が付与されることが明示された。
 一方、不法就労外国人の増加を抑制するためには、不法就労外国人本人のみならず、その雇用主やブローカー等をも取り締まる必要があることから、新たに不法就労助長罪を設け、不法就労者を雇ったものには3年以下の懲役または200万円以下の罰金を科すこととされた。

   (2) 現行の外国人労働者受入れ制度
 我が国に入国、在留する外国人は、原則として入管法に定める在留資格のいずれかを有する必要がある。在留資格は多岐にわたる外国人の活動をあらかじめ類型化したものである。
 在留資格は、現在27種類設けられており、次のように区分されている。
各在留資格に定められた範囲での就労が可能なもの
 いわゆる専門的・技術的分野の労働者で、職種内容としては外交、公用、教授、芸術、宗教、報道、投資・経営、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術、人文知識・国際業務、企業内転勤、興行、技能の16種類がある。このうち外交、公用以外の14種類については受入れを積極的に推進する。
就労できないもの
 文化活動、短期滞在、留学、就学、研修、家族滞在の6種類がある。これらの在留資格では基本的に就労はできないが、資格外就労許可を取得した上で、一定の時間内であれば就労が可能である。
個々の外国人に与えられた許可の内容により就労の可否が決定されるもの
 特定活動の在留資格におけるワーキングホリデー及び技能実習の対象者等がこれにあたる。
活動に制限がないもの
 永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者の4種類がある。上述の在留資格が活動に基づく在留資格であったのに対し、このカテゴリーは身分または地位に基づく在留資格という違いがある。この在留資格は日本人と同様に就労が可能で、いかなる職業に就くこともできる。

 一方、許可を受けずに資格外の就労を行う不法就労は刑事罰の対象となり、退去強制の対象となることもある。また、在留期間を経過して我が国に残留している不法残留についても刑事罰及び退去強制の対象となる。



 第2節 外国人労働者の現状
   1 外国人労働者数
 平成14年に我が国で就労する外国人労働者は、約76万人と推計され、我が国で雇用される労働者全体の1%以上に相当する。このうち、専門的・技術的分野の外国人は23.5%、日系人・日本人の配偶者等は30.6%、留学生等のアルバイトは10.9%、技能実習生は6.1%、不法残留者は28.9%を占めている。

外国人労働者数(平成14年)


   2 在留資格別外国人労働者の動向
   (1)専門的、技術的分野の外国人労働者の動向
 平成14年現在で179,639人が在留しており、平成4年当時の85,517人と比較すると、この10年間で2倍以上に増加している。このうち「人文知識・国際業務」の分野では、平成14年現在44,496人が在留しており、平成4年当時の21,863人と比較して2倍、「技術」の分野では、平成14年現在20,717人が在留しており、平成4年当時の9,195人と比較して2.3倍に増加している。

図


   (2) 日系人労働者等の動向
 平成2年の入管法改正以前からブラジル、ペルー等の南米諸国から多く来日していた日系人についても、入管法改正により在留資格が整備、拡充され、日本への入国が容易になったことから、更に多くの日系人労働者が来日している。平成14年現在で233,897人(推計)が在留しており、平成4年当時の165,935人(推計)と比較すると、この10年間で1.4倍に増加している。

日系人等の労働者数の推移


   (3)技能実習生の動向
 平成5年に技能実習制度が創設されたが、平成14年における「研修」から技能実習へ移行した者の数は、19,225人であり、平成5年の160人、平成6年の1,861人から激増している。

技能実習への移行者数


   (4) 留学生・就学生アルバイトの動向
 留学、就学等の在留資格で在留する外国人がアルバイトをするために資格外活動許可を受けた件数は、平成14年現在で83,340件。平成4年当時の32,592件と比較すると、この10年間で約2.6倍に増加している。

図


   (5)不法就労者の動向
 平成14年現在で220,552人の不法残留者が存在する。入管法の規制、取締りの強化により、この数は平成5年の298,646人をピークとして徐々に減少しているものの、このうち相当数が就労していると考えられること、また、このほかにも不法入国者、資格外就労者が一定数存在すると考えられることから、依然として多くの不法就労者が存在すると考えられる。

国籍(出身地)別 不法残留者数の推移


 第3節 外国人労働者対策
   1 外国人労働者の雇用状況の把握
   (1) 外国人雇用状況報告制度
 厚生労働省では、平成5年度から、外国人労働者の雇用状況について事業所から年1回報告を求める「外国人雇用状況報告制度」を実施している。本制度は事業主の協力に基づき、個々の事業所における外国人労働者の雇用状況を把握し、外国人労働者に対する適切な雇用管理の促進を図ることを目的としている。

   (2) 外国人雇用状況報告制度による動向
 平成15年の外国人雇用状況報告によると、報告を行った事業所は23,142所、労働者は延べ274,145人で前年の報告結果と比較すると、事業所数は1,692所(対前年比7.9%増)、外国人労働者の延べ人数は46,161人(同20.2%増)増加した。

単位: 所、人、%
  平成14年 平成15年 対前年差 対前年増加率
事業所数 21,450 23,142 1,692 7.9
外国人労働者数 227,984 274,145 46,161 20.2


   2 外国人求職者等の対する適切な対応
   (1) 外国人雇用サービスコーナー、外国人雇用サービスセンター
 外国人雇用サービスコーナーは、公共職業安定所に通訳を配置して、外国人求職者に対して職業相談、紹介を行う窓口であり、平成15年度現在全国74ヶ所に設置されている。外国人雇用サービスセンターは、留学生及び専門的、技術的分野の外国人に対し、専門的に職業相談・紹介、雇用管理指導・援助等を行う機関として、東京と大阪に設置されている。

外国人雇用サービスコーナーの業務の流れ


   (2) 日系人雇用サービスセンター、日系人職業生活相談室、日伯雇用サービスセンター
 日系人雇用サービスセンター、日系人職業生活相談室は日系人の雇用に関する総合的な情報拠点として全国7ヶ所の公共職業安定所内に設置され、日系人の雇用の安定と適正な雇用、労働条件の確保に努めている。
 日伯雇用サービスセンターは、平成2年の入管法改正を契機として多数の日系二世、三世が就労目的で来日するようになったため、ブラジル国サンパウロ市に設置され、我が国での個別求人情報の公開、求職希望の取次ぎ等、公的就労経路の整備を行っている。

   3 事業主への啓発指導、雇用管理援助等の推進
   (1) 事業主に対する雇用管理改善指導
 外国人労働者の雇用・労働条件に関する指針
 平成3年に当時の労働省が外国人労働者を雇用するにあたってのガイドラインを定めたもので、もともと我が国に生活基盤を有しておらず、日本語、生活習慣等に関して習熟していない外国人労働者について、雇用管理の改善、適正な労働条件及び安全衛生の確保等事業主が考慮すべき事項が定めてある。

 外国人雇用管理セミナー
 上記指針に基づき、外国人労働者の雇用管理の改善及び適正な労働条件や安全衛生の確保を目的として、主な都道府県労働局が事業主に対してセミナーを実施している。

 外国人雇用管理アドバイザー
 上記指針に基づき、事業主への指導・援助を積極的かつ効果的に行うため、各都道府県労働局に外国人雇用管理アドバイザーが設置された。外国人雇用管理アドバイザーは、外国人労働者の雇用管理に関する事業主からの相談に関し、その事業所の雇用管理の実態及び問題点を把握・分析し、的確で効果的な改善案を提示することにより、雇用管理改善の援助を行っている。

   (2) 外国人労働者問題啓発月間(6月)
 我が国において増加傾向にある外国人労働者について、その適正な雇用・労働条件を確保するとともに、不法就労の防止を図るため、毎年6月を外国人労働者問題啓発月間と定め、特に事業主団体等の協力を求めつつ、事業主をはじめ、広く国民一般を対象として、外国人労働者問題についての周知及び啓発を集中的に行っている。

   (3) 外国人を雇用する事業主向けパンフレットの作成
 厚生労働省では、事業主が外国人を雇い入れる際の確認事項や、適正な労働条件・雇用管理の確保に必要な事項、外国人関係の問い合わせ先、労働条件通知書の様式例などを示した、事業主向けパンフレットを作成し、様々な機会を通じて配布、周知を行っている。

   (4) 外国人労働者向け労働条件に関するパンフレットの作成
 外国人労働者に対して、就労可能な在留資格、仕事の探す際役に立つ情報、知っておくべき日本の労働関係法令等を説明するためのパンフレットを、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語、タガログ語の6ヶ国語で作成し、配布している。

   (5) 外国人労働者相談コーナー
 主な都道府県労働局及び労働基準監督署に労働条件に関する相談を受け付ける外国人労働者相談コーナーを設置している。

   4 適正就労の推進等
   (1) 適正就労促進セミナー
 厚生労働省では、外国人の不法就労の防止と専門的技術、技能、知識を有する者を適正に受け入れることを目的として、我が国の外国人労働者受入れ方針・制度、労働関係法令、労働市場の情勢等に関する情報を提供する「適正就労促進セミナー」を送出国で開催している。

   (2) 不法就労への実効ある対処
 警察・法務・厚生労働の三省庁で「不法就労外国人対策等関係局長連絡会議」を開催している。不法就労外国人の定着化傾向が強まりつつある中で、これら不法就労外国人による労働市場,治安など様々な分野における我が国社会への影響が憂慮されていることにかんがみ、これらの諸問題に対処するため、不法就労外国人等の積極的な摘発等を盛り込んだ「不法就労等外国人対策」を策定するとともに、三省庁が一層協力して不法就労問題に取り組むこととしている。
 また、地方においてもブロックごとに上記の三省庁の地方機関の実務担当者を構成員とする協議会を設け、地方の実情に応じて不法就労等外国人労働者問題について情報交換等を行っている。


第2章 外国人労働者の雇用管理等に係る課題
 第1節 外国人労働者の雇用管理を巡る状況の変化と課題
   1 直接雇用から間接雇用へのシフトに伴う課題
   (1)間接雇用の形態で就労する外国人労働者の増加
 厚生労働省職業安定局外国人雇用対策課において、外国人労働者の雇用状況について事業所から年1回報告を求める「外国人雇用状況報告」の結果によると、外国人労働者延べ人数に占める間接雇用(労働者派遣、請負などにより、雇用主以外の事業主の事業所で就労する形での雇用)されている者の構成比が、平成6年に30%弱であったものが平成15年には42.6%と10ポイント以上上昇しており、外国人労働者の就労形態が直接雇用から間接雇用へシフトしていることがうかがえる。このため、外国人労働者の雇用管理のあり方を考えるに当たっては、間接雇用の形態で就労する外国人への対策が、今まで以上に重要となっている。

外国人労働者数の直接・間接雇用の推移および間接雇用の構成比の推移


   (2)間接雇用の形態で就労する外国人労働者の特徴
 「外国人雇用状況報告」によると、「主として労働者派遣・請負事業を行っている事業所」で直接雇用されている外国人労働者数は、46,830人であり、このうち中南米出身の日系人は75.7%を占め、また、生産工程作業員は86.6%を占めている。生産工程作業については留学生アルバイト、技能実習生以外では、基本的に就労の制限がない者しか就くことはできないことから、間接雇用の形態で就労している外国人労働者の大半が、製造現場で働く中南米出身の日系人と考えられる。
 また、間接雇用のほとんどは労働者派遣と請負の形態であると考えられるが、物の製造の業務への労働者派遣は本年3月に解禁されたばかりであり、現時点では、間接雇用の外国人労働者の大半が請負業者に雇用されていると考えられる。

出身地域別外国人労働者数
単位: 人、%
  主として労働者派遣・請負
事業を行っている事業所
左記以外の事業所
  外国人労働者数 構成比 外国人労働者数 構成比
合計 46,830 100 110,417 100
出身地域別 a 東アジア 4,070 8.7 52,483 47.5
b 東南アジア 3,060 6.5 17,672 16.0
c その他アジア・中近東 478 1.0 2,719 2.5
d 北米 353 0.8 7,022 6.4
e 中南米 38,542 82.3 22,630 20.5
  うち日系人 (35,469) (75.7) (19,724) (17.9)
f ヨーロッパ 192 0.4 5,122 4.6
g その他 135 0.3 2,769 2.5


   (3)間接雇用の外国人労働者を就労させる際の雇用管理上の課題
 労働者派遣とは、派遣元事業主が自己の雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて、この派遣先のために労働に従事させることであり(労働者を他人に雇用させることを約してするものは含まない)、労働関係法令については、原則として派遣元事業主が雇用主として責任を負うが、労働者派遣法により一部の規定について派遣先事業主が責任を負うこととされている。先に述べたように、物の製造の業務への労働者派遣が本年3月に解禁されたところであり、今後、これに関する外国人労働者の労働者派遣も増加すると考えられ、これらの者についても適正な雇用管理がなされるよう留意する必要がある。
 一方、請負とは、労働の結果としての仕事の完成を目的とするものであるが、注文主と労働者との間に指揮命令関係を生じないという点で、労働者派遣とは異なる。請負業者については、直接雇用における事業主と全く同じ雇用主としての労働関係法令上の責任を負うが、この点を十分認識していなかったり、また、外国人労働者であっても日本人労働者と同じく労働関係法令が適用されることになるが、この点についても理解不足であったり、さらには、請負といいながらも実態としては労働者派遣と判断される形で外国人労働者を就労させているようなケースも指摘されているところである。
 外国人労働者の就業形態が直接雇用から間接雇用へシフトする中で、このような点が外国人の雇用管理上の課題となると考えられる。

   2 企業側の外国人労働者に係る労働関係法令等に関する認識不足
 日本で働く外国人労働者については、入管法により、それぞれの在留資格により就労に制限がある場合があり、また、日本国内で雇用される以上は、請負の形態で就労する日系人等、技能実習生、留学生アルバイト等も国内の労働関係法令が適用される。
 しかしながら、不法就労者を雇用している事業主や賃金、労働時間といった労働条件等を定めた国内の労働関係法令が外国人に適用されることを理解していない事業主も未だ存在しているため、外国人を雇用する、または、雇用しようとしている事業主に対して、外国人の雇用管理に関係する入管法や労働関係法令の周知の徹底を図る必要がある。

   3 外国人労働者側の問題
 外国人労働者は、特に日系人など、専門的・技術的分野以外の在留資格で入国する外国人の場合、多くの場合手取りの収入を少しでも増やしたいという意識から、社会保険への加入を拒否したり、雇用条件等の不満から短期間で入離職を繰り返したりする者も多い。このため知識・技能の修得、蓄積が難しく単純労働にとどまってしまうという問題もある。

   4 行政側の問題
 1から3で挙げた問題点は、事業主及び外国人労働者に対して、行政が外国人労働者の適正な雇用管理に関する情報を十分に周知できていないことを示している。


 第2節 外国人が日本で就労することに伴い付随して生じている現象と課題
   1 家族と共に長期間我が国に集住する外国人の増加
 平成2年の入管法の改正に伴い、積極的に受入れを図ってきた専門的・技術的分野の労働者のみならず、日系人労働者等多くの外国人労働者が入国し、多様化が進むとともに、その定住化傾向も強まっている。そのような中、家族とともに入国する外国人も増え、また、同国人で同一地域に集住するといった傾向が、主に日系人の間で見られるようになっている。

日系人の滞在期間 [日系人就労者を対象としたアンケート調査(14年度)]


[平成12年度との比較]


   2 社会保険未加入の外国人労働者の存在
 社会保険については、保険料を支払うことへの抵抗感が強いため、未加入の外国人労働者が多く存在する。このため、外国人労働者やその家族が病気やけがにより病院に通院した際、無保険であることから、高額な治療費が未払いとなるなどの問題が発生し、医療機関の経営負担や、さらには外国人診療拒否の問題を生じかねないことから、自治体では独自に医療機関に対し、未払い治療費の補助制度を行うなどの対策を行うことにより負担が発生しているといった問題が発生している。

   3 不就学、不就労の外国人子弟の存在
 外国人労働者は、将来的に本国で生活をすることを前提に日本に来ている者が多いこともあり、家族を連れてきた場合であっても、子どもを学校に行かせないなど、教育に無関心な傾向が見られる。また、子どもが学校に行った場合であっても、言葉の壁や生活習慣の違いなどから不登校になるケースもあり、結果的に進学も就職もできない、という問題が生じている。

   4 地域社会での摩擦
 主に日系人等の外国人労働者の在留期間が長期化するとともに集住化の傾向が進むにつれ、日本語があまり話せない者が増え、地域社会との接触が希薄となる状況も見られ、日本の生活習慣、文化等がわからず、地域コミュニティとの間で、ゴミ出し、夜間の騒音などのトラブル、相互不信、治安の悪化といった摩擦が発生している。


第3章 外国人労働者の適正な雇用管理等に係る支援の実施
 第1節 外国人労働者の適正な雇用管理等に係る周知・啓発の強化
   1 周知対象
 従来より、事業主に対する周知は行ってきたところであるが、実際に外国人を雇っている可能性が高いと考えられる中小企業及び請負業者や注文主に対し、これまで以上に幅広く周知を行っていく必要がある。また、今後、外国人労働者が増加することが予想される労働者派遣の派遣元事業主及び派遣先事業主に対しても、同様に周知に努める必要がある。

   2 周知方法
 ハローワーク、都道府県労働局等の厚生労働省の関係機関においてのみならず、実際外国人を雇用する企業が多く訪れる地方入国管理局の窓口や外国人が集住している自治体などにおいて、外国人労働者の雇用管理に係る情報がパンフレットなどの形で簡単に入手できるようにするなど、関係機関と連携した周知を行っていく必要がある。
 さらに、外国人の雇用に関する情報をHP等に掲載する等、インターネットの活用により、パンフレット等の配布が困難な事業主や労働者本人に対しても雇用管理に係る情報を提供する。

   3 周知内容
(1) 入管法上の在留資格
 在留資格の種類とそれぞれの在留資格に応じて認められる就労の範囲及び留学生がアルバイトする際必要な「資格外活動許可」と許可される就労の範囲等、外国人を適切に採用するために必要な情報。
(2) 外国人労働者の雇用・労働条件に関する指針
 指針においては、日本人・外国人を問わず、原則、労働関係法令等の適用を受けることを示すとともに、内国人外国人平等原則があるものの、言葉の問題や文化、生活習慣の違い等から生じる特別な問題を踏まえ、事業主が考慮すべき事項を示してある。
(3) 請負と労働者派遣におけるそれぞれの企業の責任
 第2章第1節1で示したとおり、間接雇用の形態で就労する日系人を中心とした外国人労働者が増加する中、請負業者、派遣元事業主及びこれらを利用する企業に対し、請負と労働者派遣の違いや、それぞれの形態の中で請負業者、派遣元事業主、派遣先事業主の責任について周知を行う。
(4)技能実習制度推進事業運営基本方針に沿った制度の運営
 技能実習生については、労働関係法令での保護対象としては一般の外国人労働者と同様ではあるものの、技能実習制度の趣旨を理解せず、不適正な実習を行っている事業所もあることから、国際研修協力機構(JITCO)を含む関係機関と連携して適切に技能実習制度事業が運営されるよう周知を行う。
(5) 行政が行う外国人雇用に係るサービス内容
 各行政機関において、外国人労働者とその家族が掲げる様々な問題に対して対応可能な事項は、それぞれ限定されることから、どの行政機関においてどのようなサービスがなされているのかという情報を周知していく必要がある。


 第2節 外国人労働者の雇用・労働条件に関する指針の改正
   1 請負における注文主、請負業者が考慮すべき事項の追加
 請負については、労働者派遣における派遣先事業主とは異なり、注文主側に労働関係法令上の責任はないものの、昨今日系人を中心として外国人労働者がこのような形態で製造現場で就労している実態等を踏まえ、外国人労働者を注文主の事業所内で就労させる場合には、注文主側においても外国人労働者の雇用管理に係る一定の配慮をすることが望ましい。
 また、このような場合であっても、請負業者が直接の雇用主であることから、指針で示されているとおり、当該請負業者の外国人労働者の雇用労務責任者に、注文主の事業所内での就労についてもその職務を行わせることが望ましい。 これらの点を指針に追加することが適当である。
   2 事業主が遵守すべき法令として社会保険関係法令の追加
 労働関係法令においては日本人と外国人を区別していないが、労働者の雇用に当たり関連してくる社会保険関係法令においても同様に両者を区別していないため、これらの法令の遵守についても指針において示すのが適当である。


 第3節 事業主に対する雇用管理手法等の提供
   1 外国人労働者雇用管理アドバイザー制度の活用
 労働関係法令が外国人にも同様に適用されるものの、外国人であるがゆえに特に考慮しなければならないことも生じうることから、各事業所の実態や就労している外国人の国籍等に応じた相談や指導を行うため、主なハローワークに設置している外国人労働者雇用管理アドバイザーの制度の周知と活用を行う。

   2 事業主に対する雇用管理ノウハウの提供
 雇用管理に関するノウハウを幅広く提供するため、適切な雇用管理を行っている事業所のベストプラクティス(好事例)を集めた事例集を個別事業所に配布して、実際に雇用するに当たっての雇用管理のノウハウを事業主に提供していく。


 第4節 外国人労働者等に対する支援等の実施
   1 外国人労働者に対する情報提供の充実 これまで、雇用管理ということから主として事業主に対して情報提供を行ってきたが、実際雇用される外国人労働者に対しても、指針等の情報を提供することで自らの雇用管理の適切性を判断してもらい、不当な雇用管理を受けないよう、自らの労働者としての権利を守るよう促す必要がある。

   2 若年日系人に対する不就労対策
 日系人労働者の日本在留の長期化、定住化に伴い、その子どもの 就学が問題になっているが、この問題は不就労にもつながっている。このため日系人が多く集住している地域において、地方自治体、経済団体、教育委員会及び地域コミュニティと連携しながら職業ガイダンスを実施する。


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