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2004年3月24日

第11回介護保険部会提出資料

介護保険制度の改革について(意見)


社会保障審議会介護保険部会委員
日本経団連 専務理事 矢野 弘典

1.改革の基本的方向
 「基本方針2003」に示された「将来的にも潜在的国民負担率を50%程度にする」との考え方のもと、限られた財源を有効に活用していくには、公的な社会保障制度は、自助努力によっても賄いきれない生活上のリスクを分担する仕組みと位置付けて、基礎的な部分に対する給付に限るべきである。経済活力の維持・向上がない限り、社会保障制度の持続可能性は担保されないことから、現役及び将来の世代の負担を加重にしないという視点を重視する必要がある。
 介護保険制度の改革については、加齢に伴う要介護状態の改善という制度創設の趣旨を堅持しつつ、次のような基本的な考え方に基づき進めるべきである。
 (1)  真に必要な人へ適切な給付を重点化する
 (2)  負担の公平・公正及び納得性を確保する
 (3)  保険者・被保険者にとって効率化を促す制度にする

2.給付のあり方
 介護保険制度からの給付は、真に必要な人への適切なサービスに限定すべきであり、その他の部分については保険外のサービスを充実させる必要がある。また、介護サービスの内容については、実践経験・研究成果などに基づき、常に見直していくことが求められる。

<介護サービスの重点化と保険外サービスの充実について>
 軽度の要介護者の場合、介護サービスは、利用者の生活機能・能力の回復、心身の状態の改善に資するものに重点化する。人は「立たなければ立てなくなる、歩かなければ歩けなくなる」のであって、軽度の要介護者に対しては、介護サービスを利用して、自助努力による生活の質の向上をめざすことが求められる。
 利用者の自由な選択によるサービス提供を基本にして、保険外のサービスを充実させる必要がある。その際、保険給付対象サービスに合わせて付加的に提供した価値分については、利用者からの対価徴収が可能な制度とすべきである。

<新たなサービス体系について>
 介護予防については、より効果・効率を上げるため、本人の自助努力を支援する仕組みとする必要がある。その際には、検証を踏まえて、介護予防・地域支え合い事業など、地域の特性に合わせた各事業を総合的に活用していくことが重要である。
 要介護者全体のおよそ2人に1人は、何らかの介護・支援を必要とする痴呆性高齢者であるという推計があり、2025年には320万人を超えると予測されている。
 痴呆性高齢者のケアをどう確立していくかは重要な課題であり、環境の変化への適応力低下を考えれば、在宅で可能な限り生活ができるように、小規模・多機能サービスの拠点整備、ユニットケアの普及などの施策を進めるべきである。

<施設サービスについて>
 特別養護老人ホームへの新規の入所者については、特定施設やグループホームを含む在宅サービスの整備状況を踏まえ、現行の要介護1以上という基準を引き上げて対象者を重度の要介護者に限るべきである。
 いわゆる社会的入院・入所の是正については、高齢者医療制度との適切な連携が求められる。社会的入院については療養病床から介護施設への移行を進め、適正なケアや報酬の設計でサービスの質の向上と給付の効率化を図るべきである。
 多様な主体が介護サービスを提供して利用者が選択するという制度趣旨を踏まえれば、構造改革特区以外でも、施設介護サービスへの株式会社等の参入促進を図るべきである。

3.負担のあり方
 介護保険料の負担については、将来の給付と負担の見通しを踏まえて、年金、医療制度など社会保障制度全体として一体的に捉えて、制度の持続可能性を考える必要がある。

<利用者の負担について>
 施設入所者の食費、居住費については、在宅サービスの受給者とのバランスなどを考慮し、低所得者などへの一定の配慮をした上で、相当分を全額自己負担とすべきである。
 介護サービス利用に伴う自己負担割合は、受益者のコスト意識の涵養、若年者の医療保険の一部負担割合とのバランス、介護保険制度の持続可能性の観点から、引き上げる方向で中期的に検討すべきである。その際、高齢者医療制度との整合性を図る必要がある。
 介護サービスと年金支給については、趣旨が重複する面があり、年金給付との調整を図る必要がある。また、自己負担の方法については、社会保障の公的なサービスを一体的に捉えて、死亡時の残余財産からの充当なども検討に値する。

<保険料について>
 徴収漏れの防止と徴収費用の軽減などの観点から、遺族年金の受給者についても特別徴収の対象とすべきである。
 第2号被保険者の保険料は、毎年自動的に決定され、事業主や第2号被保険者などが財政運営に対して意見等をいう機会はほとんどない。現役世代の負担感を考えると、保険料負担の上限を設定し、法定化すべきである。
 なお、介護保険制度の被保険者の範囲を検討するにあたっては、制度の持続可能性の視点に加えて、受益と負担の関係、負担の公平性や納得性を十分に踏まえる必要がある。

<公費のあり方について>
 保険者の効率化努力を促すために、公費負担の配分方法を工夫する必要がある。例えば、年齢別の平均介護費用に被保険者数を乗じた額で配分することにすれば、保険者としてそれを超える高額給付費部分を適正化するよう、努力することになるのではないか。介護給付費交付金の配分についても同様な工夫が求められる。

4.制度運営のあり方
 保険者機能が十分に発揮されるには、(1)保険者の効率化努力が保険料に反映される仕組み、(2)良質の介護サービスが安定的に提供できる適正な規模、(3)被保険者によるガバナンスが働く体制・運営などの視点が求められる。

<保険者機能の強化と保険者の規模について>
 現在の市町村による運営は、保険者機能の発揮という観点から不十分な点がある。例えば、要介護認定の申請に伴い指定事業者等へ委託された訪問調査や提供された給付サービスなどの事後チェック、施設・事業所に対する指導・勧告など、本来実行すべき機能の強化がまず求められる。
 要介護者が介護サービスを適切に選択するには、施設・事業所に対する第三者評価の拡充と情報公開の促進が不可欠である。
 保険者の規模は、(1)保険者機能が発揮できる、(2)保険運営が効率的に行える、(3)財政責任と運営責任を一致させるという観点から見直すべきである。
 国民健康保険における保険者のあり方についての議論も踏まえつつ、例えば、スケールメリットが享受できるよう、中核的な都市を中心に周辺の市町村がまとまるという選択肢があってもよいと考える。

<認定率の地域格差について>
 認定率の地域格差については、介護予防・地域支え合い事業などを活用し、全国平均など数値目標を掲げてその是正に取り組む必要がある。

以上


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