(照会先) 厚生労働省医政局看護課
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近年の保健医療を取り巻く環境が大きく変化する中、看護職員(保健師、助産師、看護師及び准看護師をいう。以下同じ。)の業務にも様々な変化が生じている。例えば、目覚ましい医療技術の進歩への対応、医療安全の確保、インフォームド・コンセントへの国民の期待等、山積する多くの課題があり、これらに適切に対応していくためには、看護職員の臨床実践能力の向上を図ることが必須である。特に新人看護職員に対しては、学生時代と大きく異なる環境の中で安全に看護業務を遂行できるようにするために、臨床実践能力を向上させる組織的、体系的な取組が必要である。 これまでも、旧厚生省において「看護職員生涯教育検討会報告書」(平成4年)が取りまとめられ、卒業直後から概ね3年間の「看護実務研修」について言及されている。しかし、新人看護職員の研修についての明確な記述はなく、現実にも新人看護職員研修について国としての取組は十分ではなかった。 このような現況を踏まえ、当検討会は、厚生労働省医政局長の依頼を受けて設置され、医療安全の確保及び臨床看護実践の質の向上の観点から、新人看護職員の卒後1年間の看護実践の到達目標及び目標達成に向けた研修体制構築のための指針について、平成15年9月25日の第1回開催以後、全4回にわたって議論を重ねてきた。 新人看護職員研修到達目標(以下「到達目標」という。)及び新人看護職員研修指導指針(以下「指導指針」という。)の作成に当たっては、検討会の下に看護管理者及び教育・研究者から成るワーキンググループを設置して、たたき台を作成した。さらに、検討会において、医療安全、看護管理に関する専門家の意見、新人看護職員の指導者、新人看護職員等の関係者からのヒアリングを踏まえ、議論を深め、起草委員によって報告書の文言の整理等に取り組むなど、新人看護職員研修の在り方について精力的に検討してきたところである。 今般、当検討会としてこれまでの議論を整理し、本報告書を取りまとめたので、これを公表する。 なお、報告書は、第一部において新人看護職員をめぐる現状と課題について述べ、第二部において新人看護職員が卒後の1年間で備えるべき看護技術等を示した到達目標、新人看護職員の指導に必要な要件・指導方法等を示した指導指針を提示した。 |
第一部 新人看護職員をめぐる現状と課題 |
I | 臨床現場の現状と課題 |
医療技術の進歩、患者の高齢化・重症化、平均在院日数の短縮化等により、療養生活支援の専門家としての看護職員の役割は、複雑多様化し、その業務密度も高まっている。看護のあらゆる場面で、患者にわかりやすい丁寧な説明を行った上で納得してもらい、看護ケアを提供することが求められている。特に、高齢者に対しては、身体機能の低下を踏まえた緻密な観察と生活援助、ときには精神機能の低下を受容しつつ、人権を尊重し、抑制の回避など適切な看護を提供しなければならない。また、在院日数の短縮化に伴い、患者・家族への療養生活指導や退院調整に多くの時間を費やすとともに、頻繁な入退院に伴う看護業務も増加している。さらに、操作や用法を間違えれば患者の生命に多大な影響を与える医療機器や医薬品の種類は増加の一方にある。そのため、看護職員は、医療機器の確実な操作・管理をしながら、多様な作用を有する多種類の医薬品について、医師の指示に基づき、患者名・量・時間等を確認し誤りなく与薬し、経過を緻密に観察することが求められている。 個々の看護職員に目を向けると、複数の患者を同時に受け持ちながら、限られた時間の中で業務の優先度を考えつつ、多重の課題に対応しなければならない状況にある。また、ひとつの業務を遂行する間にも他の業務による中断がある等、複雑な状況に即応できる能力が求められている。 一方、看護職員は、患者に直接に療養上の世話及び診療の補助業務を行う最終実施者の役割を担うことが多い。近年の医療事故裁判の判決においては、医師以上の刑事責任を問われる事例もある。さらに、平成13年の保健師助産師看護師法の改正により、守秘義務が課され、医師と同等の罰則となるなど、看護職員に求められる社会的責任は非常に大きくなっている。 さらに、「厚生労働大臣医療事故対策緊急アピール」(厚生労働省 平成15年12月)が公表されたことでも分かるように、医療安全の確保は最重要課題となっているが、特に、医療機関におけるヒヤリ・ハット事例の報告においては、当事者として新人看護職員の占める割合が高いことが指摘されている。 以上のことから、看護の質を確保、向上させ、国民に安全な医療を提供するために、新人看護職員の卒後の研修を充実させる必要性は非常に高い。 |
II | 新人看護職員研修の現状と課題 |
平成15年3月に看護師等学校養成所を卒業後、就業した新人看護職員数は54,041人(保健師1,134人、助産師1,263人、看護師41,017人、准看護師10,627人)であった。このうち、病院に就業した者は47,823人(88.5%)であり、新人看護職員の就業先は病院が圧倒的に多い(保健師218人(19.2%)、助産師1,205人(95.4%)、看護師39,199人(95.6%)、准看護師7,201人(67.8%))。 新人看護職員に対する研修についての法制度を見ると、「保健師助産師看護師法」においては「薬剤師法」と同様に、「医師法」及び「歯科医師法」と異なり、免許取得後の研修に関する規定は設けられていない。しかし、「看護師等の人材確保の促進に関する法律」では、国及び地方公共団体においては看護師等の資質の向上に必要な措置を講ずること、病院等の開設者等においては看護師等が専門知識と技能を向上させ、かつ、これを看護業務に十分発揮できるような措置を講ずること、看護師等においては自ら進んでその能力の開発及び向上を図ることが求められている。 このような状況の下で、国、地方公共団体においては、中堅看護職員実務研修、看護職員専門分野研修等が実施されている。しかし、新人看護職員についての取組は十分ではない。 一方、「看護職新規採用者の臨床能力の評価と能力開発に関する研究」(平成14年度厚生労働科学研究)でも明らかなように、多くの病院では、自施設の職員としての意識の向上、看護職員として求められる知識・技術の獲得、医療安全の確保等を目的に新人看護職員に対する研修を実施している。ただし、その方法、期間、内容等は施設によって様々であり、研修に関する標準的な考え方や指針の策定を期待する声が多い。 こうした状況の中、「新たな看護のあり方に関する検討会報告書」(厚生労働省平成15年3月)、さらには「医療提供体制の改革のビジョン」(厚生労働省 平成15年8月)において看護基礎教育を充実するとともに、看護職員の臨床研修の在り方について制度化を含めた検討を行うなど、新人看護職員教育の充実のための対策の必要性が指摘されている。 |
III | 看護基礎教育の現状と課題 |
1 | 看護基礎教育の課題とこれまでの取組 |
現在の看護職員養成課程には、看護師については高卒者を対象とした3年課程、准看護師免許を取得した者を対象とした2年課程があり、その教育機関は大学、短期大学(3年課程、2年課程)、養成所(3年課程、2年課程)、高等学校専攻科(2年課程)及び高等学校専攻科5年一貫教育校に分かれる。また、保健師及び助産師については大学、短期大学専攻科及び養成所で養成されている。さらには、保健師・看護師、助産師・看護師の国家試験受験資格を同時に取得できる、保健師・看護師、助産師・看護師の統合カリキュラムによる教育も行われている。准看護師については養成所及び高等学校衛生看護科において養成されている。 このように多様な養成課程がある中、厚生労働省では、「看護師等養成所の運営に関する指導要領について」(平成15年3月26日医政発第0326001号厚生労働省医政局長通知。以下「指導要領」という。)において、「人々の健康上の問題を解決するため、科学的根拠に基づいた看護を実践できる基礎的能力を養う」、「健康の保持増進、疾病予防と治療、リハビリテーション、ターミナルケア等、健康の状態に応じた看護を実践するための基礎的能力を養う」等、看護師養成の基本的考え方を示している。 しかし、指導要領においては細部まで規定しておらず、看護基礎教育卒業時の看護実践能力の具体的な到達目標は、各学校養成所が設定しているため、看護技術の到達度には差異が生じていると指摘されている。 また、看護基礎教育では医療機関における医療安全管理体制の強化や患者及び家族の意識の変化等により、従来、患者を対象として実施されてきた看護技術の訓練の範囲や機会が限定される傾向にある。こうした現状に鑑み、文部科学省は「看護学教育の在り方に関する検討会報告」(平成14年3月)を取りまとめ、さらに平成15年度の「看護学教育の在り方に関する検討会」においては、学士課程における看護学教育で育成する看護実践能力の到達目標とその評価に関する検討が行われている。 一方、厚生労働省では「看護基礎教育における技術教育のあり方に関する検討会報告書」(平成15年3月)において、看護学生が看護行為を行うための法的及び倫理的要件を示し、基礎教育における看護実践能力の育成のための体制整備に関する検討が行われたところである。 |
2 | 看護基礎教育における臨地実習の現状と課題 |
看護基礎教育における臨地実習は「保健師助産師看護師学校養成所指定規則」(昭和26年文部・厚生省令第1号。以下「指定規則」という。)及び指導要領において、保健師3単位(135時間)以上(実習以外の講義及び演習18単位(540時間)以上)、助産師8単位(360時間)以上(同、14単位(360時間)以上)、看護師23単位(1,035時間)以上(同、70単位(1,860時間)以上)、准看護師735時間以上(同、1,155時間以上)と定められている。 さらに看護師の場合、指導要領において臨地実習は「知識・技術を看護実践の場面に適用し、看護の理論と実践を結びつけて理解できる能力を養う内容」とし、助産師においては、指定規則において「分娩の取扱いについては、助産師又は医師の監督の下に学生1人につき10回程度行わせること」としている。 また、多くの学校養成所において臨地実習で採られている教育方法は、学生が一人の患者を受け持ち、その患者及び家族と関わりながら、看護ニーズを判断し、看護ケアを計画、実践し、評価するものである。そのため、チームメンバーの一員として、臨床現場の多重課題の優先度を考えながら時間内に業務を実施するなどの能力を、基礎教育の中で身につけることは極めて困難である。 したがって、複数の患者の受持ちや多重課題への対応等については、新人看護職員研修において修得できる体制を構築する必要がある。 |
IV | 新人看護職員に関する今後の取組の必要性 |
以上のことを踏まえると、新人看護職員研修を充実・普及させていくよう、行政、医療従事者、看護教育の専門家等、幅広い関係者による積極的な取組が必要である。そのための第一歩として、新人看護職員研修に関する内容(修得すべき知識・技術・態度、研修体制等)の標準化を進めることが有効であると考えられることから、第二部において、現場で広く活用できる標準的な到達目標と指導指針を示すこととした。 |
第二部 新人看護職員研修到達目標及び新人看護職員研修指導指針 |
I | 新人看護職員研修の考え方 |
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II | 新人看護職員研修到達目標及び新人看護職員研修指導指針の前提 |
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III | 新人看護職員研修到達目標 |
1 | 到達目標の基本事項 |
(1 | )新人看護職員には、臨床現場で複数の患者を受け持ちながら、優先度を考慮し看護を行うことが求められることから、必要な知識、技術、態度を以下の構成要素ごとに提示した。
しかしながら、例えば、看護技術の実施に際しては、患者への十分な説明等「看護職員として必要な基本姿勢と態度」に含まれる内容も同時に必要とされるように、これらの到達目標はそれぞれ独立したものではなく、患者への看護ケアを通して臨床実践の場で統合されるべきものであるとの認識が必要である。 (図1) |
(2 | )特に、看護技術の到達目標については、単に手順に従って実施するのではなく、以下の「看護技術を支える要素」を全て確認した上で実施する必要がある。
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(3 | )看護実践における管理的側面については、それぞれの科学的・法的根拠を理解し、チーム医療における自らの役割を認識した上で実施する必要がある。 |
(4 | )患者への看護技術の実施においては、高度なあるいは複雑な看護を必要とする場合は除き、比較的状態の安定した患者の看護を想定している。 しかし、日常生活援助に関する目標の中で、高度なあるいは複雑な看護技術であっても、新人看護職員が修得を目指す必要がある項目については、その代表的な患者の状況等を例として付記した。 なお、重症の患者等への特定の看護技術の実施を到達目標とすることが必要な施設、部署においては、想定される患者の状況等を適宜調整することとする。 |
領域 | 到達目標 | ||||||||||||
看護職員としての 自覚と責任ある行動 |
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患者の理解と患者・ 家族との良好な 人間関係の確立 |
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組織における役割・ 心構えの理解と 適切な行動 |
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生涯にわたる 主体的な自己学習 の継続 |
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領域 | 到達目標 | ||||||||||||||||||||
環境調整技術 |
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食事援助技術 |
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排泄援助技術 |
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活動・休息 援助技術 |
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清潔・衣生活 援助技術 |
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呼吸・循環を 整える技術 |
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創傷管理技術 |
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与薬の技術 |
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救命救急 処置技術 |
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症状・生体機能 管理技術 |
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苦痛の緩和・ 安楽確保の技術 |
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感染防止の技術 |
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安全確保の技術 |
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※ | スタンダードプリコーション:患者の血液・体液や患者から分泌排泄される全ての湿性生体物質(尿・痰・便・膿等)は感染症のおそれがあるとみなして対応する方法 |
領域 | 到達目標 | ||||||||||||||||||||||||
妊産婦 |
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新生児 |
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褥婦 |
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証明書等 |
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領域 | 到達目標 | ||||||||
安全管理 |
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情報管理 |
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業務管理 |
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薬剤等の管理 |
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災害・防災管理 |
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物品管理 |
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コスト管理 |
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(1 | )修得方法の適切な組合せ 現場教育、集合教育、自己学習を適切な形で組み合わせる。 なお、各施設、各部署の条件によって経験の機会が少ない看護技術については、集合教育を取り入れるなど、修得方法を工夫する必要がある。 |
(2 | )侵襲性の高い行為への配慮 侵襲性の高い行為については、事前に集合教育等により、新人看護職員の修得状況を十分に確認した上で段階的に実践させる必要がある。 |
(3 | )看護職員として必要な基本姿勢と態度 「看護職員として必要な基本姿勢と態度」については、早期に集合教育等において具体的に説明し、更に、患者の自己決定や患者の抑制等の医療の倫理的課題に関する事例検討等を通して、看護職員としての基本的な考え方を確認することが望ましい。 |
(4 | )五感を用いた観察と判断の重要性 バイタルサインの観察等、看護の基本となる能力については、医療機器の数値にのみ頼って患者の状態を判断するのではなく、実際に患者に触れるなど、五感を用いて患者の状態を判断することの重要性を認識させ、その能力を養う必要がある。 |
(1 | )評価内容 評価は、到達目標の達成度について行う。 |
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(2 | )目標到達時期及び評価時期
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(3 | )評価者
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(4 | )評価方法
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(5 | )評価の留意点
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(1 | )新人看護職員の準備状態 新人看護職員は、それぞれの教育機関において看護基礎教育を修了し、新卒者が持つべき知識及び技能を問う資格試験に合格した者であり、成人の学習者である。 しかしながら、学校養成所における教育内容の違い、新人看護職員個人の特性等により、新人看護職員一人一人の準備状態は多様であることを、新人看護職員の指導に関わる者は理解しておく必要がある。 |
(2 | )新人看護職員指導の方向性 新人看護職員研修では、この準備状態を踏まえて、医療チームの中で多重課題を抱えながら複数の患者を受け持ち、決められた時間内で優先度を判断し、安全に看護を提供するために必要な姿勢、知識及び技術に焦点を当てて指導していく必要がある。 |
(3 | )新人看護職員研修を通しての看護実践能力の統合 新人看護職員の指導に当たって、到達目標で示した「看護職員として必要な基本姿勢と態度」、「看護実践における技術的側面」、「看護実践における管理的側面」はそれぞれ個々に達成するものではなく、3つの目標が互いに関連しあい、統合されて初めて臨床実践能力が向上するということを、指導に関わる者が理解している必要がある。 |
(4 | )指導の方法 新人看護職員研修は、現場教育においても集合教育においても、単に新しい知識・技術を提供するに留めず、新人看護職員が自らの看護実践に取り込み活用していけるよう、その内容及び方法を工夫する必要がある。 例えば、集合教育で学んだ知識を、受持ち患者の看護ケアと結びつけるような働きかけを指導に関わる者が意識的に行う等である。 また、新人看護職員が自ら受け持った患者に必要な看護を考え判断する能力を養うために、日々の看護実践において、常に到達目標で示した「看護技術実施時の確認項目」を新人看護職員と指導に関わる者とで確認しあうことが重要である。 |
(1 | )研修体制整備の意義 各施設は、新人看護職員研修の充実が、医療安全の確保、看護の質の向上、さらには、看護職員の人材確保及び離職防止に貢献することを認識する必要がある。 特に、新人看護職員研修に当たって、各施設、各職員は改めて日常の看護を振り返り、看護実践の根拠を確認する必要があることから、質の高い研修の実施は、組織全体としての医療の質の向上に繋がることを再認識する必要がある。 |
(2 | )職員の研修への参加 新人看護職員研修は、各施設の全ての職員が、それぞれの立場から関わるものであり、全ての職員に研修内容が周知される必要がある。 |
(3 | )施設における教育担当部門の設置 人材育成は医療の質に関わる重要な要素であり、新人看護職員を含めた職員の教育は、施設全体で考え構築すべきものである。このため、各施設は職員の教育についての理念を明確にするとともに、複数の職種で構成される教育担当部門(委員会等)を設置し、施設全体の継続教育を統括することが望ましい。 施設における教育体制の例を図2に示す。 |
(4 | )看護部門における教育理念の明確化及び研修体制の整備 施設の教育理念に基づき、看護部門の教育理念を明確にし、看護部門の長の責任において、研修体制を構築する必要がある。研修体制は、看護部門及び各部署に教育担当者を配置し、役割を明確化する必要がある。 また、臨床現場での研修体制の充実には、責任者が明確にその役割を果たす環境整備が不可欠であり、新人看護職員研修を含めた看護職員全員の研修の企画等を行う看護部門の教育責任者は専任での設置が望ましい。 なお、看護部門の教育責任者は、各部署の到達目標作成の指導や助言を行うとともに、到達目標の達成度の評価にも積極的に関わる必要がある。 |
(5 | )教育担当者及び新人看護職員に対する業務上の配慮 教育担当者及び新人看護職員双方にとって効果的、効率的な研修を行うためには、新人看護職員が研修を行う看護単位に、新人看護職員研修を中心となって企画・運営する看護職員を配置することが望ましい。 なお、新人看護職員の業務への適応の観点から、頻繁に勤務時間帯を変えることなく、同一の勤務時間帯を一定程度継続させるような配慮が必要である。 |
(6 | )新人看護職員の精神的支援 新人看護職員の多くがリアリティショック※を経験することから、精神的な支援の知識・技術を持つ専門家によって新人看護職員の相談に対応するなどの支援体制を整備することが望ましい。 また、看護部門の長をはじめ、各部署の看護管理者や教育担当者、各指導者は、新人看護職員の職場適応の状況を十分に把握すると同時に、必要な場合には専門的な支援に繋げなければならない。 ※リアリティショック:理想や期待と現実とがかけ離れていることによって生じる葛藤 |
(7 | )関係部署、他職種との連携 看護部門の教育責任者は、新人看護職員研修に当たって医療安全等の担当部署との連携をとり、医療安全管理や感染管理等の特定分野において専門的な知識・技術を有する職員の新人看護職員研修への参画を求める必要がある。 また、チーム医療を円滑に推進するために、新人看護職員研修に関して他職種との連携を密にとるとともに、新人看護職員が他職種の業務を理解するための機会を設けることが望ましい。 |
(8 | )看護基準及び看護手順等の整備 新人看護職員研修に活用するためにも、各施設の看護基準及び看護手順等を整備しておく必要がある。 |
(9 | )新人看護職員研修へのITの導入 医療機関におけるIT(情報技術)の導入が加速度的に進んでいる現在、新人看護職員研修においても、今後IT等を用いた効果的な学習方法を検討することも有益である。 |
(10 | )研修計画の評価、改善等 研修計画及び研修内容については、定期的に評価し改善することにより充実を図る必要がある。 また、新人看護職員研修は看護職員の生涯教育の一環であり、新人看護職員研修修了後の研修計画についても明示する必要がある。 |
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(11 | )施設間の支援体制 自施設内での新人看護職員研修の充実が望まれる一方で、施設内で実施できる研修に限界がある施設については、新人看護職員研修に実績のある施設と連携して必要な研修を受けさせたり、さらに教育機関、専門職能団体等において実施される研修を院内研修の計画に取り入れていくことが望ましい。また、新人看護職員研修に実績のある施設は、院内研修を公開する等、他施設への支援を積極的に行うことが求められる。 施設間の支援体制の例:
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(1 | )実地指導者の要件 新人看護職員研修に当たっては、屋根瓦方式の指導体制によって、全ての看護職員が新人看護職員の指導にあたることが基本であると考えられるが、中でも実地指導者は、指導を通して新人看護職員に与える影響が非常に大きいため、臨床実践経験2年以上であり、知識、技術の指導のみならず、情緒的に安定した教育的指導ができる者であることが望ましい。 |
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(2 | )実地指導者研修の場 新人看護職員が各施設で充実した研修を受けることができる環境を整備するためには、実地指導者に対する施設内外での教育が重要である。実地指導者育成の場としては以下のものが想定される。
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(3 | )実地指導者研修のプログラム 施設内外で実施される実地指導者育成のプログラムには、以下の内容を含めることが望ましい。 なお、実地指導者に対する教育においては、指導者としての不安・負担感を軽減することを目的として、看護部門の教育責任者あるいは各部署の長による面接や指導者の支援のための研修を定期的に実施する必要がある。
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到達目標及び指導指針は、各施設の新人看護職員研修の基本事項として位置付けるが、施設規模、看護職員の構成、教育に係る予算等の状況に合わせた調整も必要である。 また、既に研修体制が整備された施設においても、本報告書をもとに自施設の研修プログラムや指導方法の確認や見直しを行い、研修体制を一層充実させていくことが期待される。 |
(1 | )情報公開の意義 新人看護職員研修に関する情報は、看護学生の就職先の選定に当たって重要な情報である。また、施設間の協力・連携体制を構築する上でも、各施設の新人看護職員研修に関する情報の公開は有益である。 |
(2 | )各施設の研修内容等の公開 各施設で実施されている新人看護職員研修の教育内容や方法には、看護学生から大きな関心が寄せられており、各施設はホームページ等を活用し、新人看護職員研修に関する情報を幅広く公開することが望ましい。 公開が期待される情報としては、新人看護職員研修についての施設の理念、施設が求める看護職員像、施設及び各部署の具体的な研修計画、研修内容、指導体制等である。 |
(3 | )就職前の学生への情報提供等 各医療機関は、採用を決定した学生等に対して、就職前に、臨床現場に必要な知識・技術等を主体的に学習するための情報を提供したり、先輩看護職員との交流の場を設ける等、新人看護職員のリアリティショックを軽減するための対応を行うことが望ましい。 |
検討会・ワーキンググループでは、看護系大学や学校養成所の教育者、様々な規模の医療施設の看護管理者、研究者、医療関係者、医療関係団体、マスコミ関係者等の幅広い分野の関係者の参画の下に、国民の期待に応える看護の提供のために必要となる新人看護職員の研修のあり方について議論を重ねてきた。 今後、本報告書が関係者に周知され、報告書に盛り込まれた内容の新人看護職員研修が広く実施され、看護の質の確保、向上が図られることは、医療関係者の願いであり、また、国民の医療に対する期待に応える途であると考える。 その実現に向け、国は、研修体制についての情報公開や模範となるような研修を行っている施設についての情報提供を推進する等、新人看護職員研修に関する支援の充実を図ることが必要である。 専門職能団体において、現在実施されている新人看護職員及び指導者等を対象とした研修が今後も継続して実施されることが望まれる。 学術団体には、新人看護職員研修に関わる研究を推進し、研修方法等について科学的根拠に基づいた情報を提供することが期待される。 看護師等学校養成所においては、臨床現場で求められる看護実践能力に関する情報を常に収集し、臨地実習の方法の工夫など、教育内容の改善に活かすことが必要である。このため、専任教員は実習施設等の新人看護職員研修に積極的に関わる必要がある。また、臨床現場で現実に看護業務に従事している看護職員が看護基礎教育に一層参画することも求められる。 なお、新人看護職員研修においては、指導者、看護管理者が果たす役割が重要であり、その資質向上に向けた取組も必要である。 さらに、今後、在宅医療・訪問看護の充実を図るために、将来、訪問看護師として活躍することを希望する新人看護職員については、様々な疾病、状態の患者の看護に対応できるよう、訪問看護師としての看護実践能力を開発するための研修プログラムを検討する必要がある。 以上、新人看護職員研修の現行の仕組みの下での充実策を述べたが、新人看護職員であろうとも、医療の最前線で24時間医療提供に責任を持つことに変わりはなく、臨床現場からは研修の実施を単に医療機関の自主性に任せるだけではなく、新人看護職員全員に必要な研修が提供されるような制度を望む声が多く寄せられている。しかしながら、全ての医療機関において、望ましい形で新人看護職員研修を実施するためには解決すべき課題も多い。例えば、十分な現場教育を行うための看護職員の配置や労働条件等の確保、医療機関間の連携の問題などであり、これらは一医療機関の努力だけでは限界がある。また、これらの課題の検討に当たっては、看護業務に影響を与える医療機関の機能分化と連携等を図る医療提供体制の改革の動向なども十分に踏まえる必要がある。さらに、関連して、看護基礎教育における臨床実践能力の向上に向けた教育の強化と教育期間の延長などの課題もある。 このように、新人看護職員研修のあり方についての検討は、新人の一時期における研修をどうすべきかの課題に止まらず、看護職員の養成・教育の基本に立ち返って検討を行うべき問題を含んでいる。「医療提供体制の改革のビジョン」においては、看護職員の臨床研修のあり方について制度化を含めた検討を行うこととされており、その目標は、新人看護職員に求められる一定の資質の確保を図ることであると考えられる。したがって、国は、看護基礎教育における臨床実践能力の向上の取組や、新人看護職員研修の効果的な実施のための研究等を通じ、また、今後の新人看護職員研修の実施状況及び医療提供体制改革の推移等を踏まえて、全ての新人看護職員が求められる資質を確保できるような仕組みの構築に向けて今後も継続して検討を行う必要がある。 |
石垣 靖子 | 東札幌病院副院長・看護部長 | ||
○ | 井部 俊子 | * | 聖路加看護大学教授 |
川村 治子 | 杏林大学保健学部教授 | ||
瀬戸山 元一 | 高知県・高知市病院組合理事 | ||
高田 早苗 | * | 神戸市看護大学教授 | |
高橋 真理子 | 朝日新聞論説委員 | ||
竹内 美惠子 | 徳島大学医学部保健学科教授 | ||
西澤 寛俊 | (社)全日本病院協会副会長 | ||
野地 金子 | 北里大学病院教育看護科長 | ||
廣瀬 千也子 | * | (社)日本看護協会常任理事 | |
星 北斗 | (社)日本医師会常任理事 | ||
正木 治恵 | * | 千葉大学看護学部教授 | |
宮城 征四郎 | 臨床研修病院群プロジェクト群星沖縄臨床研修センター プロジェクトリーダー兼臨床研修センター長 |
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村上 睦子 | * | 日本赤十字社医療センター看護副部長 | |
山田 百合子 | * | 国立病院東京災害医療センター附属昭和の森 看護学校教育主事 |
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山本 浩子 | 東京都立駒込病院看護部長 | ||
○印は座長、*印は起草委員会委員を示す。(50音順、敬称略) |
新人看護職員研修到達目標作成ワーキンググループ | |||
市川 幾恵 | 昭和大学病院看護副部長 | ||
小澤 三枝子 | 国立看護大学校助教授 | ||
坂田 三允 | 群馬県立精神医療センター看護部長 | ||
佐藤 八重子 | 国家公務員共済組合連合会虎の門病院看護部次長 | ||
島田 三惠子 | 浜松医科大学医学部看護学科教授 | ||
辻 順子 | 社会福祉法人恩賜財団母子愛育会総合母子保健センター 愛育病院看護部総務・教育担当師長 |
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野地 金子 | 北里大学病院教育看護科長 | ||
萩原 綾子 | 神奈川県立こども医療センター小児看護専門看護師 | ||
山口 祐子 | 恩賜財団社会福祉法人済生会東京都済生会向島病院管理看護師長 | ||
山下 美智子 | 筑波メディカルセンター病院看護部長 | ||
山田 百合子 | 国立病院東京災害医療センター附属昭和の森看護学校教育主事 | ||
横井 郁子 | 東京都立保健科学大学講師 | ||
新人看護職員研修指導指針作成ワーキンググループ | |||
石垣 靖子 | 東札幌病院副院長・看護部長 | ||
黒田 久美子 | 国家公務員共済組合連合会平塚共済病院教育担当師長 | ||
坂本 すが | NTT東日本関東病院看護部長 | ||
佐藤 エキ子 | 聖路加国際病院副院長・看護部長 | ||
中西 貴美子 | 三重大学医学部看護学科講師 | ||
正木 治恵 | 千葉大学看護学部教授 | ||
村上 睦子 | 日本赤十字社医療センター看護副部長 | ||
(50音順、敬称略) |
回数 | 開催日時 | 議事内容 | ||||||||||
第1回 | 平成15年 9月25日(木) 10:00〜12:00 |
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第2回 | 平成15年 10月29日(水) 10:00〜12:00 |
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第3回 | 平成15年 12月24日(水) 10:00〜12:00 |
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第4回 | 平成16年 2月26日(木) 10:00〜12:00 |
「新人看護職員の臨床実践能力の向上に関する検討会報告書」(案)について |
回数 | 開催日時 | 議事内容 | ||||||||||||
第1回 | 平成15年 9月25日(木) 13:00〜16:00 |
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第2回 | 平成15年 10月20日(月) 10:00〜16:00 |
「新人看護職員研修到達目標」、「新人看護職員研修指導指針」検討 | ||||||||||||
第3回 | 平成15年 11月10日(月) 10:00〜16:00 |
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第4回 | 平成15年 12月12日(金) 10:00〜16:00 |
「新人看護職員研修到達目標」、「新人看護職員研修指導指針」(案)とりまとめ |
回数 | 開催日時 | 議事内容 |
第1回 | 平成16年 1月21日(水) 9:30〜12:00 |
(1)趣旨説明 (2)「新人看護職員の臨床実践能力の向上に関する検討会報告書」(案)の構成について |
第2回 | 平成16年 2月2日(月) 14:00〜17:00 |
(1)「新人看護職員の臨床実践能力の向上に関する検討会報告書」(案)について |