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痴呆の人の介護をしている家族から
介護保険給付(サービスメニュー)への意見
平成16年1月26日
社会保障審議会介護保険部会委員
(社)呆け老人をかかえる家族の会 永島 光枝

 痴呆の介護は、その症状と障害の性質上、痴呆の人の判断や記憶をサポートし、常に本人が「安心」の状態を保つための介護であり、身体介護のように、必要な時にスポット的に行う介護とは全く質の違う介護が必要です。
 又、家族の存在は、在宅か施設かにかかわらず本人の不安感を払拭するため、大きな意味があります。本人を支えることと、介護の大変さが相容れるには、ゆとりを持って本人と接することができるようなケアシステムが介護保険の中にもっと沢山作られ、本人の望む「なじみの場所で暮らし続けたい」気持に応えることが大切です。
 「呆け老人をかかえる家族の会」はそれらについて今まで数々の調査にもとづく制度改善への要望を行い、かつ、自らのニーズに応える痴呆専用デイサービス施設、介護保険に先行した24時間在宅介護実態調査、痴呆介護電話相談など、先進的事業を行ってきました。
 ここにおいて、高齢社会における要介護高齢者のケアについては、痴呆ケアを中心視点にするという変換へ模索を迫られている現状を踏まえ、あらゆる介護保険サービスについての見直しをすべきと考えています。


 以下の給付内容の改善について、要望・意見を述べます。
 ※は特に強調したい意見です

【在宅介護】
※(1) 痴呆の理解・啓蒙について介護予防も含む一般社会への働きかけ、早期に情報をとり、家族が適切な早期対応ができる支援方法として電話相談の実施、および電話相談事業への支援。

※(2) 数時間にわたる見守り支援のサービスメニュー「見守りの介護」が必要です。
 例えば、家人が職業で夜まで不在の時や、デイサービスが使えない事情の時、本人がデイサービスから帰宅後に長時間日中独居になってしまう時などに、見守りのホームヘルプがあればよい。現在、保険外の事業として行われている「やすらぎ支援」のような事業を介護保険のサービスに入れてほしい。

【ショートステイ・グループホーム】
※(3) 緊急時に対応できる介護保険サービスの確保
 現在のショートステイは1〜3ヶ月前にケアプランに組み込まれている現状です。
 家族介護者の急病や急用など、緊急時に対応できていません。
 緊急時利用枠を新たに作るなど、きめ細かい対応が必要です。このような緊急時の対応が出来ないことが原因で、往々にして在宅介護が限界となりがちです。
 これに関連して、グループホーム利用者が入院した場合の、空き部屋の活用を含め、グループホームでショートステイが利用できるよう、また、入院者は退院時に再入所できる期間を保障できるように制度を工夫する。

(4) 「家族介護でない在宅介護」を推進する。
 グループホームや小規模・多機能のケアなど、地域に密着した在宅の居場所を沢山作ることを積極的にすすめ、各中学校区に一つ程度を目安に、全国1万ヵ所を実現する。

※(5) グループホームに家族などが第二の我が家のように出入りでき、家族もグループホームで共通の顔なじみのメンバーとなれるような、(たとえば家族の泊まりや介護参加ができるような)制度と職員の理解と研修を進める。これによって、本人の気持ちの安定と家族の安心が共に得られ、「共に地域で暮らす」ことが出来る。

※(6) 終末介護を行う施設・グループホームなどへの加算を検討する。
 又、グループホーム利用者が、介護保険の訪問看護を利用できるようにする。

※(7) グループホームの家賃について、一定の基準(考え方)を示すことが必要ではないか。

※(8) 医療度の高い人や疥癬の患者へ「医療用ショートステイ」の整備
 痴呆の人が病気で入院する時の対応整備を緊急に行う。
 医療現場(療養型病床群などを含む)の医療、看護などの専門職種に対応する痴呆と疾病についての研修の必要性について検討を始める。

【施設介護】
 (9) 痴呆の人が入院した場合、対応が困難との理由で退院を余儀なくされている現状がある。必要な期間、入院を継続できるように、入院時の痴呆の人の付き添いを、介護保険利用によるヘルパーサービスとして利用できるように制度を検討すること。

 (10) 老人保健施設ショートステイ時の送迎を介護保険でつける。

 (11) 施設で使用されている食器・箸・スプーンなどの品質やデザインの見直し。

 (12) 施設利用時の施設備品のメニューの整備(エアーマット、車椅子クッション、高機能車椅子)

【追補】
   第6回11月社会保障審議会介護保険部会発言補(永島)再掲
  ・ 痴呆性高齢者について要支援または介護予防の段階において何らかの効果的支援が必要です。その段階には在宅での家族支援も啓蒙、教育、情報提供が必要。家族の会などの活用、組織作り及びその支援。
  ・ 前述に関連して、一般地域住民への痴呆理解の促進に取り組むため、市町村保健センターに積極的な役割を果たせる仕組みを考えるべき。(介護保険以後、保健センターとの距離が遠くなっているかに感じる。)

 今の介護保険制度は「施設介護」と「在宅介護」に二分されているが、これからの方向として、施設も在宅も行き来しながら、本人の状態に合わせた一番良い条件のところで「暮らす」という考え方になるべきだと思います。
 家族の立場からも、「脱施設」「家族介護でない在宅介護」「住んでいた地域で暮らす老後」という方向に進んでいくことを希望しています。
以上



(参考)第7回介護保険部会資料より抜粋

痴呆の中核症状と周辺症状 〜増悪をまねく多様な要因の関与〜


痴呆の中核症状と周辺症状 〜増悪をまねく多様な要因の関与〜の図
「痴呆バリア・フリー百科」より一部改編


痴呆の人の状態の移ろいやすさ

痴呆の人の状態の移ろいやすさの図
「高齢者の尊厳を支える介護」より一部改編



アルツハイマー病の段階別にみた痴呆の特徴と痴呆の人自身が語る説明


 下表は、正常な人の視点から記述された段階別アルツハイマー病の特徴と、それらの特徴について、アルツハイマー病患者自らの視点からみると、実際どのように感じているのかを説明した記述の要約である。
 <第一段階 − 軽度>
正常な人の視点からみた
アルツハイマー病者の特徴
(豪ニューサウスウェールズ州アルツハイマー病協会の『手引き』より)
痴呆の人自身の視点からみた説明
(クリスティーン・ボーデンさん他)
 無関心、生気がなくなる
 これは、私たちがまわりのすべてのことについて行けなくなるからで、何が起こっているのかを理解できず、何かばかなことを言ったり、したりするのではないかと心配しているためなのだ。
 趣味や活動に興味がなくなる
 これは、すぐに疲れてしまうようになるからで、今までなら簡単にやっていたことをするのにも、これまでより一所懸命に脳を働かさねばならなくなるからだ。
 新しいことをしたがらない
 何か新しいことを学ぶのはとても難しく、やり方を教えてくれる人に何回も繰り返してもらわなければならないので、その人を煩わせてしまうだろうと思うからだ。
 変化についていけない
 物事の古いやり方は、残存する脳の中で記憶にしっかり定着しているのに、新しく学んだものは次々と忘れられてしまうために、とても混乱しやすくなっている。
 決断したり、計画することができなくなる
 一つの決断をするためには、心の中にたくさんの考えを同時に保ち、それらを検索し、決定するということがなされねばならない。ところが、私たちには考えを記憶しておく場所が少なくなっているので、これが簡単にはできないのだ。
 複雑な考えを理解するには時間がかかる
 決断する時と同じように、私たちは記憶する能力がなくなってしまっているので、複雑な考えを取り入れ、正しく理解することができない。
 よく知っているものを求め、見知らぬものを避ける
 新しい仕事はどんなものであれ多くの努力を要するので、精神的にすぐに疲れてしまう。そして何か新しいことを試みるように頼まれると、わからなくなったり、失敗するのではないかと心配する。

 <第二段階 − 中度>
正常な人の視点からみた
アルツハイマー病者の特徴
(豪ニューサウスウェールズ州アルツハイマー病協会の『手引き』より)
痴呆の人自身の視点からみた説明
(クリスティーン・ボーデンさん他)
 仕事には援助と監督が必要
 私たちはすぐに混乱してしまい、今までよく知っていたものでも、思い出せないことがしばしばある。
 最近の出来事をとても忘れやすい・・・・・遠い過去の記憶は概してよいが、細かい点は忘れられたり、混乱したりするかもしれない
 新しい記憶を覚えておくことは難しいが、古い記憶はまだかなり残っており、自分のまわりのさまざまなことをきっかけにして、過去の記憶を生活に呼び起こすことができる。こういう過去のことを話す方が、現在のことを話すよりずっと楽で、現在、起こっていることを理解するのはとても難しい。
 時と場所、一日のうちの時間について混乱する・・・・夜に買い物に出かけるかもしれない
 私は、今日が何年、何月、何曜日かを思い出すために、一日に何回も日記を見る。以前は、自分の考えの背景となっているようなことはすぐに理解できたものだった。しかも、すべて自動的にわかっていたことだった。今では、日常の記憶を保っておく場所がなくなっていて、これらを心に留めておくにはとても努力がいる。
 よく知らない環境では、すぐに途方にくれてしまう
 よく知らない場所では私はうろたえてしまって、うまく対処できない。自分がどの道から来たのかというような、自分のいる場所についての見当識をもつためには、一連の出来事を覚えていなければならないからだ。それに、どうしたものか前に進んでいる時と、振り返って見る時とでは、すべてがひどく違って見える。
クリスティーン・ボーデン著
「私は誰になっていくの? −アルツハイマー病者からみた世界−」より引用

 ※ クリスティーン・ボーデン(クリスティーン・ブライデン)氏
 1995年に46歳でアルツハイマー病の診断を受け、翌年、首相・内閣府第一次官補を最後にオーストラリア政府を退職。診断前後の自らの経験をまとめて、1998年に「Who will be when I die?(私は誰になっていくの?)」を出版する。1998年に再婚、クリスティーン・ブライデンとなる。
 現在、国際痴呆症支援ネットワーク、オーストラリアアルツハイマー病国家プログラム運営委員会のメンバーとして活躍。


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