2 | 事実関係
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○ | 平成15年9月12日の日本赤十字社から厚生労働省に対する追加報告によると、同一供血者に由来する新鮮凍結血漿から肺炎球菌が検出されたものの、エンドトキシン試験では陰性であった。また、白血球除去フィルターの残余血液からも、同一の菌種が検出された。さらに、日本赤十字社が医療機関から入手した情報によると、患者血液からは菌が検出されず、エンドトキシン試験も陰性であったが、患者の病理標本の一部から、新鮮凍結血漿から検出された菌とほぼ同一の遺伝子配列を持つ菌が検出された。このことから日本赤十字社は、当該製剤により細菌感染が生じた可能性は否定できないが、患者のショック状態の発生と輸血との因果関係は確認できなかったとしている。 |
○ | 今後、問診強化策や細菌を除去・不活化する方策の検討を進める。 |
平成15年10月1日、日本赤十字社から輸血(人赤血球濃厚液)による敗血症の疑いで死亡した症例の報告があった。 |
56歳の女性。解離性大動脈瘤(胸腹部)で、平成15年9月19日に人工血管置換術を施行。 22日8時30分、術後貧血のため輸血(人赤血球濃厚液1単位を4本)を実施。同日12時には頻脈、血圧低下、尿量減少、血液ガス値の悪化など生じ、16時に両側肺水腫を認めたため、血液透析を開始。 23日にはPCPS(経皮的心肺補助装置)装着も、敗血症のため15時に死亡。死因は敗血症によるARDS(急性呼吸促迫症候群)。 なお、22日輸血後に採取した患者の血液の培養で、緑膿菌を検出。 |
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平成15年10月2日、日本赤十字社から、輸血(人赤血球濃厚液)による敗血性ショックで死亡した症例の報告があり、日本赤十字社において調査を実施。 |
65歳の女性。左大腿骨転子部の骨折で、合併症に糖尿病、慢性腎不全、高血圧を有する患者。 平成15年の9月22日に慢性腎不全に対して午前9時26分から血液透析を開始、午前10時24分から貧血に対し、輸血(人赤血球濃厚液2単位)を実施。午前11時45分に輸血終了。直後に悪寒戦慄を感じ、午後0時に気分不良、午後0時50分には意識低下、ショック状態となり、午後3時にICUにて救命救急処置を開始。 24日午前8時50分、血液培養でグラム陰性桿菌(26日にエルシニアと同定)を検出、午後0時にエンドトキシンショックと診断、出血傾向(DIC)、多臓器不全状態となり、25日午前4時33分に死亡(死因は敗血症)。 |
1) | 輸血された輸血用製剤について
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2) | 検体検査の状況
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1) | 輸血用血液製剤とエルシニア菌感染の因果関係は、確認できなかった。 | |
2) | 今後、問診強化策や細菌を除去・不活化する方策の検討を進める。 |
・ | 汚染されたブタ肉などを介して感染する食中毒菌であるが、汚染された血液の輸血による敗血症もある。抗生剤による治療が一般的であるが、エンドトキシンショック(菌の毒素によって生じるショック)を起こすと数日で死亡することもある。 | |
・ | 5℃以下でも増殖する低温細菌(人赤血球濃厚液は4〜6℃で保存)。 |
平成15年10月22日、日本赤十字社から、個別NAT検査の結果、輸血(人血小板濃厚液)によるG型肝炎ウイルスの感染が疑われる症例について報告があった。現在、日本赤十字社において、調査を実施中。 |
33歳の男性。急性骨髄性白血病の治療のため、平成15年4月17日から8月15日まで、赤血球濃厚液を合計26単位、人血小板濃厚液を合計230単位を輸血。 この間、定期的に肝機能検査を実施していたが、5月8日以降、肝機能が徐々に増悪、7月11日には肝生検にて脂肪肝を確認。 8月16日、G型肝炎ウイルスを検出、輸血前の4月9日に採取した患者の検体からは同ウイルスを検出しなかったことから、輸血による感染が疑われている。 なお、患者の容態については、調査中。 |
輸血された輸血用製剤について
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平成15年9月5日、後天性免疫不全症候群発生届にて感染経路として輸血が考えられるHIV感染者が報告されたとの情報を入手。同日、当該報告医が、同事例について副作用感染症報告を日本赤十字社に提出、これを受けて同社による調査が開始され、その結果が、平成15年10月30日に開催された第95回エイズ動向委員会(委員長:吉倉廣国立感染症研究所長)に報告された。 |
50歳代の男性で平成15年の3月〜7月に赤血球製剤(MAP16単位)の輸血を受けた後、実施した血液検査においてHIV感染を確認(WB検査陽性)。報告医は感染経路として輸血を疑っている。 |
1) | 輸血された輸血用血液製剤について | |
・ | 当該感染者には、8人の供血者から採血された赤血球製剤(MAP)が8本(保管検体の個別NATはいずれも陰性)投与された。 | |
2) | 他の血液製剤への影響について | |
・ | 投与された赤血球製剤の原料血液からは、他に新鮮凍結血漿と血漿分画製剤用の原料血漿が製造されていた。 | |
・ | 原料血漿については流通を停止。 | |
・ | 新鮮凍結血漿については3本が製造されており、既に他の医療機関で3名の患者に投与されていた。(他に行方不明の製剤はない。) | |
3) | 新鮮凍結血漿の投与を受けた3名について | |
・ | 1名は既に原疾患により死亡 | |
・ | 残り2名については輸血後(約6ヵ月後)の抗体検査で陰性。 |
記者会見では、「HIVの感染が輸血用血液製剤によるか追求すれば、患者のプライバシーに関わりうるケースである。」との発言があった。 |
1 | )健康状態の確認を行っていた2名の受血者は、いずれも感染していなかったことが確認された。 | |
2 | )供血者の次回献血での検査については、平成15年12月8日現在、8名中1名が来訪し、感染していなかったことが確認された。 |
当該感染者のプライバシーの最大限尊重を徹底しつつ、引き続き調査を継続するよう指導してまいりたい。 |
平成15年11月6日、輸血用血液製剤によりパルボウイルスB19の感染が疑われる症例に関する新聞報道があった。 |
平成14年度に輸血用血液製剤によるパルボウイルスB19の感染の疑いとして、医療機関から日本赤十字社に報告された症例は3症例。そのうち、厚生労働省に報告があった症例は2症例(1症例は軽微な事例であるため、報告対象にならなかったとのこと。) なお、3症例については、日本赤十字社が同社中央血液センターのホームページで、既に情報提供済み(2003年10月発行「輸血情報0310−77」)。 【3症例の内訳】
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1) | 日本赤十字社において、献血時の問診の強化、血清学的検査を実施し、混入するウイルス量の低減化を図っているが、完全に除去、不活化することは困難。 | |
2) | そのため、輸血用血液製剤の添付文書において、重大な副作用及び感染症として、ヒトパルボウイルスB19の感染のおそれについて、既に記載済み。 |
飛沫、接触による経気道感染を起こすウイルスで、輸血でも感染することが知られている。伝染性紅斑(4類感染症)の原因ウイルスであり、顔面、手掌、体幹等への紅斑や発疹、発熱、一過性の貧血などを起こす。免疫不全の患者に感染すると重度の貧血等を起こすが、その一方、感染しても自覚症状がないまますごす場合もある。また、妊婦が感染すると、胎児に影響が及びこともある。 |
平成15年11月13日、医療機関から日本赤十字社に対し、平成11年に貧血の治療のため輸血を受けた50歳代の女性患者にパルボウイルスB19の感染があったとの報告があった。なお、当該患者の感染症状(汎血球減少症、伝染性紅斑)は発症約1ヶ月後に消失し、回復している。 |
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1) | 血漿分画製剤の製造業者及び輸入販売業者に対し、ヒトパルボウイルスB19が混入した原血漿から製造された製品の安全性評価について報告を求めた。 | |
2) | 報告結果については、血液事業部会安全技術調査会において評価予定。 |
平成15年12月12日、日本赤十字社から、供血者からの遡及調査に伴い、C型肝炎ウイルス(HCV)について個別NATの対象となった1,981検体のうち、1検体からHCVが検出されたとの報告があった。 |
56歳の男性。平成13年1月17日に供血された血液にHCV抗体検査をしたところ、陽性が判明。当該血液は廃棄された。 この男性の供血歴を遡及調査したところ、平成12年11月17日に200ml全血採血により供血していた。当該血液は、HCV抗体検査及び50プールNAT検査を実施したところ、いずれも陰性であったたため、出荷されていた。 なお、この男性は、平成12年9月25日にも供血している。その際は、HCV抗体検査では陰性だったが、肝機能(ALT)検査で高い値を示したため、当該血液は廃棄されていた。 |
1) | 供血された血液の状況
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2) | 患者の状況
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1) | このすり抜け事例と感染との因果関係は、もはや確認できない。 | |
2) | 原料血漿が投入された製造工程について、「血漿分画製剤のウイルス安全対策について」(平成15年11月7日付け医薬食品局四課長通知)に基づき、ウイルス不活化の状況を確認する。なお、ウイルスクリアランス指数が9未満の4製剤には用いられていないことは既に判明している。 | |
3) | 日本赤十字社は、輸血用血液製剤について7項目の安全対策(NAT検査の精度向上、輸血用血液製剤の不活化等)を実施することを表明しており、引き続き、これらの対策が円滑に行われるよう指導する。 |