戻る

2.臨床的脳死診断及び法的脳死判定に関する評価

(1)脳死判定を行うための前提条件について
 本症例は発症後約23分、平成13年1月4日12:18に当該病院に搬送された。到着時はJCS300で縮瞳(左右:2 mm)が認められ、対光反射は消失し、呼吸が不規則であった。直ちに気管内挿管が行われ、人工呼吸器が装着された。発症後約50分で行われたCTでは、び慢性の著明なくも膜下出血と急性水頭症が認められた。バイタルサインが不安定で、深昏睡、対光反射消失が認められることから、脳圧コントロールを目的として脳室ドレナージが施行された。
 その後、保存的治療による神経系の管理、血圧・血液酸素化の維持を始めとする循環・呼吸管理が行われたが、神経症状の改善は認められず、5日5:00に瞳孔が散大し、21:00には自発呼吸が消失した。
 本症例では、1月7日11:08に臨床的脳死と診断し、8時間32分後に第一回脳死判定を行い(終了:1月7日21:51)、6時間19分おいて第二回脳死判定を行った(終了:1月8日5:56)。
 本症例は前章で詳述したことから脳死判定対象例としての前提条件を満たしている。
 すなわち
 1)深昏睡で人工呼吸を行っている状態が継続している。
1月4日12:00頃に深昏睡となり、1月5日21:00に呼吸停止がおき、約36時間後に臨床的脳死の判断を開始している。
 2)原因、臨床経過、症状、CT所見から脳の一次性、器質的病変であることは確実である。
 3)診断、治療を含む全経過から、現在行いうる全ての適切な治療手段をもってしても、回復の可能性は全くないと判断される。

(2)臨床的脳死診断及び法的脳死判定
1)臨床的脳死診断
〈検査所見及び診断内容〉
検査所見(1月7日8:30から11:08まで)
 体温:36.4℃ 血圧:132/81 mmHg 心拍数:87/分
 JCS:300
 自発運動:なし  除脳硬直・除皮質硬直:なし  けいれん:なし
 瞳孔:固定し瞳孔径 右5.0mm   左5.0mm
 脳幹反射:対光、角膜、毛様体脊髄、眼球頭、前庭、咽頭、咳反射すべてなし
 脳波:平坦脳波(ECI)に該当する(感度 10μV/mm、感度 2μV/mm)
施設における診断内容
 以上の結果から臨床診断に脳死と診断して差し支えない。
脳波について
 平坦脳波に相当する。(感度10μV/mm、感度2μV/mm )
1月7日(9:40〜10:39)に行われた脳波の電極配置は、国際10-20法のFp1、Fp2、C3、C4、T3、T4、O1、O2、A1、A2で、記録は単極導出(Fp1-A1、Fp2-A2、C3-A1、C4-A2、O1-A1、O2-A2、T3-A2、T4-A1、A1-Cz、Cz-A2)、双極導出(T3-Cz、T4-Cz、Fp1-C3、Fp2-C4、C3-O1、C4-O2、Fp1-O1、Fp2-O2、Fp1-T3、Fp2-T4、T3-O1、T4-O2 、A1-A2)とで行われている。さらに、心電図と頭蓋外導出によるモニターも同時に行われている。刺激としては呼名・疼痛刺激が行われている。心電図と僅かな静電・電磁誘導が重畳しているが判別は容易である。30分以上の記録が行われているが脳由来の波形の出現はなく、平坦脳波と判定できる。

2)法的脳死判定
〈検査所見及び判定内容〉
検査所見(第1回)   (1月7日19:40から21:51まで)
 体温:36.3℃ 血圧:126/75 mmHg 心拍数:88/分
 JCS:300
 自発運動:なし  除脳硬直・除皮質硬直:なし  けいれん:なし
 瞳孔:固定し瞳孔径 右6.0mm   左6.0mm
 脳幹反射:対光、角膜、毛様体脊髄、眼球頭、前庭、咽頭、咳反射すべてなし
 脳波:平坦脳波(ECI)に該当する(感度 10μV/mm、感度 2μV/mm)
 無呼吸テスト:陽性
  (開始前) (8分後)
   PaCO2(mmHg) 43 63
   PaO2(mmHg) 391 396
   SpO2(%) 100 100
 聴性脳幹反応:I波を含むすべての波を識別できない
検査所見(第2回)   (1月8日4:10から5:56まで)
 体温:36.4℃ 血圧:106/68 mmHg 心拍数:89/分
 JCS:300
 自発運動:なし  除脳硬直・除皮質硬直:なし  けいれん:なし
 瞳孔:固定し瞳孔径 右6.0mm   左6.0mm
 脳幹反射:対光、角膜、毛様体脊髄、眼球頭、前庭、咽頭、咳反射すべてなし
 脳波:平坦脳波(ECI)に該当する(感度 10μV/mm、感度 2μV/mm)
 無呼吸テスト:陽性
  (開始前) (11分後)
   PaCO2(mmHg) 36 70
   PaO2(mmHg) 395 339
   SpO2(%) 100 100
 聴性脳幹反応:I波を含むすべての波を識別できない
施設における判定内容
 以上の結果より、第1回目の結果は脳死判定基準を満たすと判定
(1月7日21:51)
 以上の結果より、第2回目の結果は脳死判定基準を満たすと判定
(1月8日5:56)

1)電気生理学的検査について
(1)脳波について
第一回法的脳死判定
 平坦脳波に相当する。(感度10μV/mm、感度2μV/mm)
 7日19:40〜20:33に記録されており、臨床的脳死判定時の脳波記録と同条件である。心電図と僅かな静電・電磁誘導が重畳しているが判別は容易である。30分以上の記録が行われているが脳由来の波形の出現はなく、平坦脳波と判定できる。

第二回法的脳死判定
 平坦脳波に相当する。(感度10μV/mm、感度2μV//mm)
 8日午前4時10分〜午前5時1分に記録されており、臨床的脳死判定時の脳波記録と同条件である。心電図と僅かな静電・電磁誘導が重畳しているが判別は容易である。30分以上の記録が行われているが脳由来の波形の出現はなく、平坦脳波と判定できる。

(2)聴性脳幹反応
 臨床的脳死判定・法的脳死判定(1・2回目)のいずれにおいても、I波を含む全ての波を識別できない。

2)無呼吸テストについて
2回とも必要とされるPaCO2レベルを得て、テストを終了している。テスト前及び60mmHg以上のPaCO2を得た時点でのPaO2は十分に高く維持されており、テスト中SpO2も100%であり問題はない。

3)まとめ
 本症例の脳死判定は脳死判定承諾書を得た上で、指針に定める資格をもった専門医が行っている。法に基づく脳死判定の手順、方法、結果の解釈に問題はなく、結果の記載も適切である。以上から本症例を法的に脳死と判断したのは妥当である。


トップへ
戻る