03/11/20 第5回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会議事録          第5回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会 1 日時 平成15年11月20日(木)16:00〜18:00 2 場所 労働基準局会議室 3 出席者  [委員] 公益者代表 保原委員(会長)、石岡委員、岩村委員、松本委員       労働者代表 内藤委員、高松委員、寺田委員、中桐委員、佐藤委員       使用者代表 紀陸委員、杏委員、久保委員、下永吉委員、早川委員 4 議題   (1)労災病院再編の基本方針について(報告)   (2)平成14年度労働保険特別会計労災勘定決算概要等について   (3)労働基準法施行規則第35条専門検討会の検討結果について(報告)   (4)認定基準の改正について     (1) 神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準の改正について      (報告)     (2) 石綿による疾病の認定基準の改正について(報告)   (5)その他 5 議事 ○会長  ただいまから第5回労災保険部会を開催します。本年2月の開催以来、委員の交代が ありましたのでご紹介します。桜井征夫前全国建設業協会常務理事が退任され、新たに 下永吉優全国建設業協会常務理事に替わられました。 ○下永吉委員  よろしくお願いします。 ○会長  なお本日は岸委員、金城委員、真島委員、川合委員がご欠席です。初めに労災補償部 長から一言、ご挨拶をお願いします。 ○労災補償部長  労災補償部長の高橋です。本日は大変お忙しい中、お集まりいただきまして、ありが とうございます。本日の部会ですが、諮問案件は特にございません。ただ、前回、2月 に開催して以降、ご報告事項をはじめ、この時点でご説明させていただきたい案件が何 点かございます。そういうことで大変急なご案内でしたが、皆様にお集まりいただいた 次第です。  用意している議題はかなり多岐にわたっています。後ほど担当から説明させていただ きますが、特に今回、議題としている事項のうち、例えば労災病院再編の基本方針の問 題とか、障害等級認定に係わる神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基 準については、大変社会的にも関心を集めているところで、多くのメディアも取り上げ て報道されたところです。  さらに5点目に議題として用意している、総合規制改革会議で提起されている労災保 険の民営化の問題です。この問題は、総合規制改革会議では本年夏ごろから議論として 提起されてきたわけですが、正式に10月7日、総合規制改革会議の本会議において労災 保険の民間開放の促進というテーマが、従来、12の重点検討事項という形できたものに 加えて、5つの追加事項の1つとして、規制改革推進のためのアクションプランという 形で議論が提起されたわけです。  先般、11月10日に、このアクションプラン実行ワーキンググループが開催され、総合 規制改革会議の委員と、私ども厚生労働省との間で公開討論が行われたわけです。具体 的にはまた説明しますが、私どもとしては、この労災保険の民営化の提起に対しては、 労災保険の基本的な考え方に即して考えれば、民間で行うことは困難な問題ではない か。特に民営化により労働者保護が後退してしまうのではないか。さらには、そうした 問題をクリアーしていくためには民営化に伴って極めて非効率化、引いては事業主の負 担増に結び付くのではないか等々、あらゆる観点から見ましても、この労災保険の民営 化は適当ではないということを主張させていただいたところです。  今後、この年末に向けて、総合規制改革会議においては答申をまとめるスケジュール になっていると聞いています。労働者保護を預かる厚生労働省としては、ただいま申し 上げたような考え方から、労災保険の民営化には反対であるという立場から、さらに総 合規制改革会議側に対して、強く主張をしていきたいと考えているところですので、こ の点、委員の皆様方のご理解を賜りたいと考えている次第です。  なお、当部会ですが、前回、皆様方のご了承をいただき今回から公開とさせていただ きました。会議の公開と同時に、提出した資料、議事録等々もインターネット上で公開 することにしています。これらを通じてより透明性の高い、また的確な労災保険制度の 運営に務めてまいりたいと考えているところですので、ご協力をよろしくお願いしま す。  いずれにしても本日、限られた時間ですが、皆様方の忌憚のないご意見を賜りまし て、今後の労災保険制度の運営に活かしていきたいと考えている次第ですので、よろし くお願い申し上げまして、甚だ簡単ですが、冒頭に当たりましてのご挨拶に代えさせて いただきます。よろしくお願い申し上げます。 ○会長  早速、本日の議題に入ります。本日の議題はお手元の資料にあるとおりです。議第1 から4について、一括して事務局から説明をお願いします。 ○労災管理課長  労災管理課長の杉浦です。私から資料1、資料2について説明します。まず資料1の 「労災病院の再編に関する基本方針」」についてです。これについては1枚目の上のほ うにあるとおり、今年8月に厚生労働省が基本方針を発表していますので、それを基に 説明します。  経緯としては、労災病院は、これまでも勤労者医療ということで一貫した高度専門的 医療を行うことにより、こういった勤労者医療の中心的役割を担ってきたところです が、近年のいろいろな職場環境の変化等々により、新しい問題にも先進的に取り組んで いくことが求められているところです。  こうした中で、平成13年12月に、行政改革の一環として「特殊法人等整理合理化計画 」が閣議決定され、2の2行目にあるとおり、労災病院は「労災疾病について研究機能 を有する中核病院を中心に再編し、業務の効率化を図る。この再編の対象外となる労災 病院については廃止することとし、地域医療機関として必要なものは民営化又は民間・ 地方に移管する」としたところです。  労災病院を設置運営している特殊法人の労働福祉事業団は、来年4月1日から、独立 行政法人労働者健康福祉機構ということで、新たな形で設立することになっています。 こういった状況の中で厚生労働省として、労災病院が今後、労働政策として期待される 役割を一層的確に果たし得るよう、再編を進めていく必要があるということで、この8 月にその基本方針を策定しました。  今後のスケジュールとしては、今年度中にこの基本方針に基づき、具体的に再編計画 案を策定し、来年度から独立行政法人のもとで具体的にその再編を実施していきたいと 考えているところです。この基本方針の内容については、概要を2頁に付けています。 実際の本文は3頁以降ですが、この2頁の概要について簡単に説明します。  いま申し上げたように労災病院の今後の位置付けとして、被災労働者の早期の職場復 帰、勤労者の健康確保という労働政策推進の観点で、労災疾病に関する予防から治療、 リハビリテーションに至る一貫した高度・専門的な医療(勤労者医療)において、中核 的役割を担うことを求めています。  この労災病院が重点的に担う労災疾病の範囲として、別紙という形で後ろに付けてい ます。ここに1から12の分野を定め、こういった分野を重点的に行っていこうというこ とで考えているところです。  戻っていただいて、(3)にその強化すべき機能とありますが、こういった勤労者医 療に関する研究・開発を推進するための、労災病院群としての研究機能の強化、あるい は一般診療を基盤とした労災疾病に関する高度・専門的な医療の提供の重点化、労災指 定医療機関や産業医などに対する勤労者医療の地域支援機能を強化していきたいと考え ているところです。  そういったことを行いながら、具体的に病院の再編を行っていくわけですが、臨床研 究機能を集約的に担う病院を「中核病院」と位置付け、それ以外の病院との間で全国的 なネットワークを構築していきたいということです。同一の二次医療圏にある複数の労 災病院については統合して、機能の効率化、高度化を図っていきたい。これらを踏まえ て、現在、37ある病院の2割程度を削減して、本年度中に具体的な再編計画を策定して いきたいと思っています。再編の対象外となる病院については廃止、あるいは民間また は地方に移管するということです。  3番目として、労災病院は診療収入を基礎とした経営の健全性を図るということで、 これまでもそうでしたが、今後、独立行政法人化されればなお一層、この診療収入を基 礎とし自前で基本的に行っていく考え方です。ただ、労働政策として、この勤労者医療 に関する研究・開発を進めていくわけですので、その部分に関しては労働者健康福祉機 構に対して、必要な支援を行っていきたいと考えています。先ほど申し上げたように、 これはまだ基本方針ですので、これを基に具体的な再編計画を今後、今年度中に策定し ていきたいというのが、今回の内容です。これが資料1です。  次に、資料2の「労働保険特別会計労災勘定の平成14年度決算の概要」について、簡 単に説明します。1枚目に14年度の収入と支出を2つの柱で書いています。左側が収入 です。1兆3,892億円が全体の収入です。このうち保険料収入が1億2,185億円、雑収入 が1,694億円となっています。下のほうに前年度からの受入収入として2,244億円という 数字です。支出については当年度の支出は柱の外に書いていますが、1兆1,979億円で す。そのうちの保険給付費として9,185億円です。労働福祉事業費は社会復帰促進、被 災者援護事業、安全衛生確保対策、労働条件確保対策などで、1,512億円です。3つ目 の段にあるのが業務取扱費で人件費や庁舎管理維持費等ですが、731億円です。保険料 返還金が552億円、翌年度への繰越が2,195億円となっています。収入と支出の差額が 1,961億円で、これが積立金として積まれるということです。  2頁で、ここ5年間の推移を並べています。いちばん右側が14年度の数字です。いま 申し上げたように収入のほうですが、上から4つ目で収入の計が1兆3,890億円です。 収入面でも横にずっとご覧いただくとわかるように、少しずつ減少傾向にあります。支 出の面でも、支出の計のところをご覧いただきたいと思いますが、1億1,979億円で、 前年度に比べて0.971という数字です。これについてもやや減少傾向にあるという内容 になっています。  下から2段目の決算上の収支ですが、1頁で説明したように、1,961億円が収入から 支出を差し引いた額で、この分がいちばん下の積立金に回るわけですけれども、積立金 の累計が7兆5,860億円となっています。  次の頁で2−3が「労働福祉事業等に要する費用について」です。これについても下 半分のところに10〜14年度の実績を記載しています。労働福祉事業等の14年度のところ ですが、未払賃金立替払の関係のものも含めて、下から2番目で2,243億円ということ です。ご案内のとおり、現在、労働福祉事業に係る限度額が22/122で、その限度額の 値が、その上の2,540億円ですので、限度額に対する割合は14年度で88.29%です。  資料2−4ですが、ここに最近の労災保険の運営状況について主立った指標を載せて います。1番目の適用事業場ですが、最近は270万程度の数字でほぼ横ばいです。14年 度については265万程度で1.71%の減少です。2番目の適用労働者数についても約4,800 万人台で推移してきているところですが、14年度は4,819万人で若干の減少となってい ます。3番目の新規受給者数ですが、平成14年度で約58万人、対前年度で3.66%の減で す。4番目の新規年金受給者数については、平成14年度が6,399人と、対前年度比0.9% の増でした。近年の傾向としては全体では減少傾向にあります。5番目の年金受給者数 ですが、近年は微増傾向で、14年度については21万9,720人です。  いまの4頁は主立ったところだけピックアップしていますが、5頁以降に、それぞれ の項目の業種ごとの資料を付けていますので、参照いただければと思います。9頁以降 に、12年度から14年度までの業種ごとの保険料収納済額と、長期・短期別の特別支給金 を含んだ保険給付額を載せていますので、併せて参照いただければと思います。以上、 議題1と2について説明しました。 ○補償課長  補償課長の菊入です。私からは議題の3と4について説明します。資料3の「労働基 準法施行規則第35条専門検討会の結果について」ですが、当該専門検討会は、新しい業 務上疾病の発生等に対処するために設置されている、医学専門家による専門検討会で す。平成14年9月から、同年6月にILO総会で採択された、「職業病一覧表並びに業 務災害及び職業病の記録及び報告に関する勧告」に示されている疾病、並びに我が国で 平成12年から13年に労災認定された事案のうち、新たに労働基準法施行規則別表第1の 2等に例示列挙すべきものがあるか否かの検討が行われてきましたが、このたび検討結 果が取りまとめられました。  検討結果の内容ですが、これは添付の報告書のとおりです。概要は、(1)現時点にお いて、新たに例示列挙までする必要はない。(2)木材粉じんによるがんについては、国 内における木材粉じんにばく露するおそれのある作業の実地調査、疾病調査等の実施が 望まれる。このようなものです。  資料4−1ですが、神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準の改正 について報告します。当該認定基準は昭和50年以降、一部を除き改正をずっと行ってき ませんでしたが、近年の医学的知見を踏まえ、今回、大幅な見直しを行い全面的に改正 したところです。新しい認定基準は、本年8月8日付で各地方労働局長宛通知をしてい ます。  改正内容は多岐にわたっています。主な改正点ですが、1つは、脳の損傷を負った場 合や脊髄の損傷を負った場合の後遺障害の認定基準を明確にしたこと。特に脳の器質的 損傷に基づく精神障害については、高次脳機能障害と位置付けた上で認定基準を新たに 設けています。  2つ目としては、うつ病やPTSD等の脳の損傷によらない精神障害の後遺症についてで すが、これを新たなものとして認め認定基準を設けています。なお、今回の改正は全面 的なものですので別添のリーフレットを作成し、医療機関等の関係機関に対して積極的 な周知を図っているところです。  資料4−2ですが、石綿による疾病の認定基準の改正について報告します。石綿ばく 露作業に従事する労働者に発症する疾病については、昭和53年に策定した認定基準にお いて、石綿肺、肺がん、胸膜又は腹膜の中皮腫について認定要件を定めて、これに基づ いて認定を行ってきました。  しかしながら近年、中皮腫に係る医学的知見が進展したことや、労災請求件数が増加 していくことが見込まれるなどの理由から、医学専門家による検討会を設置し検討を 行ってきた結果、対象疾病の拡大、認定要件の明確化などを図る必要があるという結論 に達したところです。  これを受けて、心膜又は精巣鞘膜の中皮腫、良性石綿胸水などを、石綿との関連が明 らかな疾病として新たに加えた改正認定基準を定め、本年9月19日付で各地方労働局長 宛発出しているところです。なお改正した認定基準については、医療機関等の関係機関 あるいは医師への周知が大変重要と考えていて、添付されているリーフレットや、この 他に特に医療機関向けに、石綿ばく露歴のチェック表も作成し、配布しているところで す。 ○会長  ありがとうございました。以上の事務局からの説明につきまして、ご意見、ご質問等 がありましたら承ります。特にございませんか。 ○石岡委員  資料1について1点質問します。資料1の2に平成13年12月19日に「特殊法人等整理 合理化計画」が閣議決定されたとあります。私の経験によれば、この合理化計画におい てはまず労働福祉事業団の業務の見直しが行われ、それに基づいて組織の見直しが行わ れて、それらの検討の結果が合理化計画になっていると思います。  労災病院の云々については、よくわかるのですが、後での議論にも関係しますけれど も、労働福祉事業団は、その他の福祉事業もいろいろ行っているところです。業務の見 直しの際に、あるいはどちらでもいいのですが合理化計画が策定される際に、この労働 福祉事業団の福祉事業について、これはもうやめろとかいろいろな議論があって、その 結果がこの計画で決められたはずなのです。  例えば未払賃金の立替払など、事業団はいろいろやっていますけれども、それらにつ いてどういう議論があったのか。いまお答えいただいてもいいですし、後の問題にも関 係しますので、後でお答えいただいても結構です。 ○労災補償部長  いま、ご指摘の特殊法人等整理合理化計画に関わって、労働福祉事業団の現に所掌し ているさまざまな業務・事業については、労災病院のみならず、かなり多方面にわたっ てご指摘をされています。  詳細については、1回ご説明したことがあったと思いますが、いま手元に資料がなく て恐縮ですけれども簡単に申し上げると、具体的には休養施設とか労災保険会館などの 施設を建設して、それを運営している事業がありましたが、これは全面的に廃止しなさ いと指摘されています。また、年金担保資金貸付とか労働安全衛生融資業務について、 特に貸付金という金融関係業務についても廃止をしなさいと指摘されています。ただし 年金担保資金貸付については、いわゆる公的年金を担保とした貸付制度が別途、社会福 祉医療事業団でやっていますので、そちらのほうに移管しなさい。それ以外の金融関係 業務については廃止をしなさいということが指摘されています。  その他、看護師養成等業務で看護専門学校ですが、これについても労災病院の再編に 合わせて業務を縮小しなさいと指摘されています。それに加えて小規模事業場の産業保 険活動支援促進助成金ですが、これは産業医の選任義務のない小規模事業所が、共同で 産業医を選任する際に一定の助成措置を行っていますが、これについては政策の評価を 行った上で、適宜見直しをしなさいと指摘されています。産保センターが行う研修助成 業務についても、目標の設定とか事業評価の実施を徹底しなさいということが、労災病 院の再編に加えて指摘されているところです。それらの指摘については縷々、16年4月 に向けて、そのような方向で現在、取り進めているところです。 ○石岡委員  私の誤解だったかもしれませんが、事業団は立替払の事業をやっているのではないで すか。やっていませんか。 ○労災補償部長  やっています。 ○石岡委員  その立替払についてどうするのだという議論は、合理化計画のときには全く出なかっ たのですか。 ○労災補償部長  はい。 ○石岡委員  それを確認すれば、それで結構です。 ○会長  いまの石岡委員の質問は、後の議論にもつながると思いますので後ほど必要があれ ば、そこでまた議論したいと思います。そのほかにございませんか。特にないようでし たら次の議題が終わった後で、また戻ってご質問等をいただいても結構です。議題5の 総合規制改革会議について、事務局から説明をお願いします。 ○労災管理課長  議題5について説明します。資料5−1からです。総合規制改革会議は内閣総理大臣 の諮問に応じて、経済・社会の構造改革を推進するという観点から、必要な規制の在り 方に関する基本的事項を総合的に調査審議するために、内閣府に設置されているもので す。その下にさまざまなワーキンググループが置かれています。  資料5−1はそのメンバー表で、1枚目が全体会議のメンバー、2枚目がアクション プラン実行ワーキンググループのメンバー表、下のほうは構造改革特区・官製市場改革 ワーキンググループのメンバー表です。アクションプラン実行ワーキンググループは、 本会議のメンバー全員がその委員となっています。特に今回、私どもに関係のある労災 保険の関係は、当初、下のほうの構造改革特区のワーキンググループで議論されていた のが、10月7日に全体会議が開かれた際、このアクションプランのほうに移り、追加5 項目の中で重点検討課題ということで付け加えられた経緯があります。その付け加えら れた経緯のペーパーが資料5−2です。  資料5−2の4頁です。10月7日に開催された総合規制改革会議の中で、当面の課題 として、今次追加する「5つの重点検討事項」が定められました。(2)にあります が、ここで「労災保険及び雇用保険事業の民間開放の促進」がテーマに加えられたとい う経緯です。5頁に、これまで引き続きやってきた12の重点検討課題が列挙されていま す。この12プラス5について今後検討して、何らかの答申を出していく動きになってい ます。  労災保険の関係ですが、11月10日にアクションプランのワーキンググループが開か れ、この問題が厚生労働省の公開討論の形で意見交換がされました。資料5−3が、当 日、総合規制改革会議のほうから提出された、問題意識を含めた提言の内容となってい るペーパーです。  簡単に申し上げると、1頁に書いてあるのは、労災保険というのは業務上の災害補償 責任を担保する保険として出来ているにもかかわらず、保険収支が黒字になっていると いうことで、さまざまな事業を拡大してやってきているのではないか。社会保険の中で 唯一大幅な黒字で、本格的な制度の見直しが行われていないのではないか。同じ強制加 入の損害保険としての自賠責保険と多くの共通性があり、民営化あるいは業務委託の比 率が大きいのではないか、ということが書かれています。  2頁の(1)「労災保険適用事業所について」、ご案内のとおり労災保険は1人でも 雇用すれば強制適用になるわけですが、実際に未届になっている事業場がこの資料では 59.8万も存在して、監督署の職権が十分生かされていないのではないか。3つ目の段落 にあるように、使用者の故意または重過失により加入していない期間に事故が発生した 場合には、その一部を徴収することになっていますが、厳格に徴収が行われていないた めに、使用者のモラルハザードを助長しているのではないか、と記載しています。  (2)は「保険料率の設定について」です。保険料率の設定について、過去債務につ いて現在の保険料負担者が負っている。将来債務の計算根拠が不明確である。業種別の 保険料率について、業種ごとのリスクを正確に反映していないのではないか。特に事務 職のようなところについては、実際よりも過大な負担になっているのではないかという ことで、あるべき料率の設定になっていないから、災害防止へのインセンティブが損わ れているのではないかという指摘です。  3頁の(3)は、労働基準法上の災害補償との関係により、もともとは災害補償責任 を肩代わりする制度であるにもかかわらず、保険収支が黒字化することにより、さまざ まな広範囲の保険給付から成る総合保険として、類似の社会保障給付を上回る水準とな って本来の趣旨を逸脱しているのではないか。  (4)は「未払賃金の立替払事業の在り方について」です。労働福祉事業の一環とし てやっていますけれども、立替払とは言いつつ、実質的には回収できないので、事実上 の給付になっているのではないか。全業種一率の保険率、同一の保険料で適用するとい うことで、他の事業分野に負担を転嫁させることは妥当ではない。賃金債権は本来、一 般債権に比べて倒産の場合に優先順位が高いにもかかわらず、かえって立替払をするこ とによって、一般債権と同じになって順位が下がってしまうため、モラルハザードを引 き起こしやすいのではないかという指摘がされています。  4頁は「労災病院の在り方について」です。労災病院については、1つは労災患者数 の占める割合が、この数字ですと入院で6%、通院で3.4%まで低下しており、専門病 院としての役割が終了しているのではないか。赤字額が平成12年度で140億円、累積欠 損額も2,000億円を上回っており、経営効率が悪化している。独立行政法人化すること は決定していますけれども、統合民営化や労災保険からの出資金の削減の改革が進展し ていないのではないか、という指摘です。  これを受けて、6頁に「改革の方向性」ということで提言のように書かれています。 いま申し上げたことと共通しますが、(1)は「労災保険の民営化」ということで、自 動車損害賠償責任保険と多くの共通点を有していることから、使用者の強制加入原則、 保険者の引受義務を維持しつつ、運営を民間会社に委ねることができるのではないか。  基準法上の罰則と制度運営を切り離して、政府は監督や安全衛生について指導する役 割、保険のほうは民間保険会社がやるほうが効率的にできるのではないか。例えば加入 の面についても、民間保険会社の職員が未加入の事業所に保険加入を求めて拒否された ら、それから監督署が調査することで連携が可能なのではないか。その場合の配慮とし ては、保険会社の引受義務と引受会社間で、収支の平準化を図るための制度を構築する 必要があるとか、厳格な保険数理に基づいた保険料の算定を行う必要がある、というこ とが書かれています。  (2)は「未届事業所の一掃」です。これは監督署が職権による加入促進を一層積極 的に行使すべきであるということです。  (3)は業種リスクに応じた適正な労災保険料率の設定です。特に過大な保険料負担 となっていると指摘がある、事務職等のその他各種事業や建築事業などのサービス事業 と、それ以外との業種との公平性に配慮すべきである。料率の設定のプロセスで審議会 等の情報開示が不十分であって、その辺の計算方式等を具体的に明示すべきである。労 働福祉事業については、未払賃金立替払事業、労災病院事業などの労働福祉事業は原則 廃止すべきであるという指摘です。  当日、これに対して厚生労働省からも資料を提出しています。それが資料5−4です が、当日、厚生労働省が主張した内容です。I「労災保険の民営化について」です。労 災保険制度の基本的考え方として、労災保険制度は社会保障の一翼を担うものであり、 労働者保護の観点から国が行うべきであると主張しています。労災保険は、最低基準た る災害補償責任を履行確保する強制責任保険であると同時に、その補償内容は最低基準 を超える水準となっており、全事業主の集団的責任に基づく社会保険として、国の社会 保障の一翼を担っているということです。  例として、障害補償や遺族補償について年金化が図られていること。療養補償につい て治癒認定があってはじめて打切りをする。基準法上の場合は3年で打切りとなってい ますが、そこを延ばして制度化しています。通勤災害は基準法上の責任は書いていませ んが、労災保険の中で初めて導入しているものです。  (2)「迅速・適正な労災補償を行うため監督行政・安全衛生行政と一体であるべき 」であるという主張です。労働基準行政というのは労働者の生命や健康を守り、災害防 止をするということであり、現場に直接立ち入ることで、就業環境の変化に伴う安全衛 生上の問題を継続的に把握でき、労働者保護の観点からの行政を展開している。そうい ったことで、労災保険は被災労働者の保護を目的に行っていますので、監督行政や安全 衛生行政と一体となって、いろいろな変化に合わせた迅速・適切な補償が可能となって くるということです。そういった補償で得られたものを、災害防止対策に更にフィード バックすることが効果的にできるという主張です。  2「民営化した場合に労働者保護が後退」。その1つは、例えば自賠責保険の場合に は車検制度とセットになっていて、車を走らせるためには車検を通らなければいけない わけです。その車検を通るためには自賠責に入ることが前提になっていますが、労災保 険の場合にはこういった形で、その対象者を確実に捉える仕組みになっていません。こ のためにもし民営化されると、そういった未加入あるいは未納の事業者が増大して、そ ういったところで事故が起こった場合に、労働者保護に欠けることになるということで す。  (2)としては、保険事業と監督安全衛生のものを切り離した場合に、労災認定のほ うでも的確な認定ができなくなるという主張です。災害が業務上か業務外かの判断は、 刑事責任に連動する、事業主の災害補償責任ということで国が行うべきであり、また急 増している過労死など、外形的には見えない新しい労災事案などについて、その業務上 外を判断することになると、職場や働き方の変化の実態を幅広く把握する仕組みが、な かなか民間ではできないので、認定基準の設定などは難しい。  当然のことながら民間会社では、事業所への強制的な立入権限がないので、そこは実 態を踏まえて認定する作業が困難になるのではないか。認定が困難な事案については、 ともすれば労働者側と使用者側との判断をめぐっての対立も予想されます。そういった 場合に、保険者であると同時に、事業主としての立場も併せ持つ保険会社が認定するこ とになると、もし仮に公正に保険会社が認定したとしても、労働者側が業務外であった となると、どうしても公正さに疑念を抱かれる恐れが出てきてしまうということです。  (3)は「経営破綻のリスクの存在」です。これは当然のことながら民間ですので破 綻のリスクが避けられない。特に年金の給付が労災にはあるわけですので、長期間年金 を受け取っている人にとっては、もし破綻した場合に制度への不安は非常に大きなもの となる。  こうしたことを避けるために、何らかの手立てを講じなければならないとなると、3 頁ですが、例えば民間の保険会社が基本的な部分を運営するにしても、いま申し上げた ような未加入の事業場で起こった労災事故の補償を、放っておくわけにいきませんの で、国が何らかの形で補償事業をやらなければならないことになります。公正に認定す るという立場から、行政処分を国が行う必要があるため、その部分については国が何ら かの事務処理機関を置かなければらないことになる。  経営破綻に備えた仕組みとしては、例えば民間で共同責任として責任準備金のような プール制度を設けることも必要になってきますから、二重、三重の機関が必要になって きて、制度上も非効率になるのではないかと思われるし、事務コストがかかる分だけ保 険料の引上げにもつながることが考えられるわけです。  下のほうに日米の事務的コストの比較の数字を載せています。日本の場合は平成13年 度、保険料収入に対する業務取扱費(人件費を含む)は5.2%であるのに対し、アメリ カの民間労災保険の事務運営費は約4割という数字が出ています。下の四角にあります が、ここの査定費用と諸経費を合わせた数字が4割という数字で、単純な比較ではあり ますが、それにしてもいま以上にこういった制度を作るとすれば、この分の事務コスト を乗せなければならない可能性が非常に大きい、ということです。  4頁、「保険料率の考え方について」です。労災保険は社会保険ですので私保険とは 異なり、厳密に保険料について、危険に応じたものとして定める必要もないため、給付 と反対給付が必ずしも均衡する必要はないという考え方です。ただ、労災保険はもとも と業種ごとに職業病が類型化されていますので、それらの業種ごとの安全衛生対策とあ いまった災害防止対策の努力を促進する政策的意味とか、業種を異にする事業主間の過 大な保険料負担の不公平感を是正する観点から、業種ごとの料率を設定していますが、 先ほど申し上げた社会保険の原則にかんがみれば、必ずしも厳密に業種別に収支を均衡 させる必要はないのではないか。このことは産業や職業が相互に依存関係にあって、全 体の相互扶助あるいは集団的責任を考慮して、決めればいいということです。  (2)は、そうは言っても改定にあたって、現実には災害防止努力を保険料率に反映 させるため、過去3年間の実績を基に、もちろん努力があったところはそれなりに低く 改定していますし、個々の事業主のインセンティブという考え方からすれば、個別メリ ット制を設定していますので、そこの部分で災害防止努力に対する料率の変化も、それ に見合った形で制度化はされているということです。  3に「業種間調整の必要性について」とありますが、いま申し上げたように、厳密に それに見合った形で設定することは適切ではないということで、現行の給付内容が個別 の災害補償責任を超えて、集団的に災害補償責任を全事業主に負わせている。特に長期 間の療養とか、その後の後遺障害については、その時点の業種別の集団に責任を負わせ るのは難しい。単年度のような収支率で考えると、過大な保険料負担となる業種がどう しても出てきてしまうので、そういった業種については立ち行かなくなってしまう恐れ が出てくるわけです。そういったことも含めて、全体である程度の業種間調整というの は必要ですので、その部分については、もちろんこういった公労使で構成される審議会 の場で議論し、了承いただいて設定されているということです。  「労働福祉事業について」ですが、これは本体給付と合わせて、ご案内のとおり2で 書いてあるようなさまざまな社会復帰の促進とか、被災労働者や遺族の援護、あるいは 労働条件の確保という観点から事業を行っています。先ほども少し話題になりました が、行政改革等の一環により労災病院をはじめ、それぞれの事業について随時見直しを やってきていますし、また今後とも引き続きやっていこうと考えているところであり、 何もしていないという主張は当たらないと主張しているところです。  当日、このような意見交換を行いましたが、当日は意見をそれぞれ言い合うところで 終わっていて、何らかの合意点に達することには全くなっていません。今後、先ほど部 長の話にもありましたように、年内に総合規制改革会議側で第3次答申と言っています が、各省庁とある程度合意のついたものについて、答申を出そうという動きになってい るようです。  ただ、それに対してもこの民営化案については、私どもとしては困難であるという立 場で、取り組んでいきたいと考えているところです。皆様方におかれましても、どうか いろいろなご意見を頂戴したいと思いますが、何とぞご理解のほど、よろしくお願いし たいと思います。 ○会長  私もいろいろ申し上げたいのですが、時間の制約がある委員もおられますので、早 速、ご意見をお伺いしたいと思います。 ○岩村委員  業務の関係で、この後すぐ中座しなければいけないので、申し訳ありませんが最初に 意見を述べさせていただきます。今回の総合規制改革会議のアクションプランで出てき た、労災保険の民間開放ということですが、私がいまアクションプランのワーキンググ ループの資料を拝見すると、どうも承服し難いところが多々含まれているように思いま す。例えば1頁のいちばん最後のところで、同じ強制加入の損害保険としての自動車損 害賠償責任保険と多くの共通性を有しているというのは、おそらく認識としては妥当で はないと考えられます。自動車の場合は一般社会における交通事故のリスクというの を、どういうふうに分散するかという問題であって、そういう意味では開放された世界 での話です。  ところが、労災という問題は、あくまでも個々の事業所内の閉ざされた世界での話で ある。自動車事故であれば警察がやって来ますから社会的にわかるわけですが、労災の 場合は閉ざされた事業所の中ですから必ずしもそれが外に見えるわけではない。したが って、その辺の事故の発生状況などの性格の捉え方が、かなり違うのではないかと思い ます。  自動車の場合、誰かが加害者になって、誰かが被害者になるという相互性があるので すが、労災の場合はその相互性はないわけです。事業主側の責任と労働者側という、対 立関係の中でしか問題が生じないわけです。共通性があるというのは、認識としてはお かしいと思います。  2頁、いちばん最初の「未届」の部分がどうして発生するかというのは、当然、今後 検討すべき問題だろうと思います。これは多分、社会保険一般において生じ得る問題で あろう。労働者保護なり使用者保護の観点、それから強制徴収との関係との折り合いを どこで付けるかという、かなり微妙な問題だろうと思います。こういう形で未届受給者 が存在するというだけで、直ちに制度がうまく行っていないという評価もあまり妥当と は思えないと思います。  保険料徴収について、運用が厳格に行われていないということですが、一部使用者の モラルハザードを助長しているという面も確かに否定し得ないのかもしれません。他 方、逆に加入手続が行われないことによって労災事故が発生して、保険料を払わないと いうことになると、個々の労働者がそのリスクを負担するということになってしまう。 それが本当に適当なのかについてはかなり疑問を持ちました。  料率設定等についても、どうも業種別の保険料設定の問題とメリット制が取られてい るということについて、必ずしも正確に理解されていないのではないだろうかという気 がします。業種として、保険料というのは言わばデフォルトの保険料であって、そのあ と一定規模の事業者については、事故予防のインセンティブによって料率が動くという ことになっています。デフォルトの設定だけを見て、過大な負担だと言うのが本当に適 当かというのは疑問を持ちます。  3頁、「労働基準法上の災害補償との関係」、これも現在のおそらく労働法学、ある いは社会保障法学の議論を全く考慮していない。非常に時代遅れの議論と思います。本 来、労災保険というのは、基準法上の使用者の災害補償責任を肩代わりするという形で 出発したわけですが、それは非常に早い時期に脱却をしてしまった。実際上、労働基準 法上の災害補償責任というのは制度としては残っていますけれども、それが機能してい るというのはほとんどないわけです。むしろ、労災保険のほうが労災に合った労働者の 補償を行うという役割を果たしているわけです。要するに、肩代わりという議論から出 発して、本来の趣旨を逸脱した議論というのは非常におかしいのではないか。現在の理 論の水準から言ってもおかしいだろうと思います。  社会保障給付を上回る水準を保障するというのは、比較法的に見ると、労災保険の場 合はどこの国でも大体そうです。これが社会保障給付を上回る水準になっているから本 来の趣旨を逸脱しているというのも、比較法的に見たとき、あまりそのようには言えな いだろうと思います。  (4)の「賃金立替払事業」ですが、私自身、これについてはいろいろ考えるべき点 は確かに多くあると思います。ただ、4の(4)、2番目の「・」、未払い賃金の優先 順位が高いにもかかわらず、賃金立替払により優先順位が一般債権並みに低下する。そ の結果、使用者のモラルハザードを起こしやすいというわけです。  ならば未払賃金制度をなくするのか、立替払制度をなくすのかというと、結局労働者 に負担が行ってしまうことになるわけです。この議論はそれほど多額に及ばない、言わ ば未払い賃金の支払いの確保、取立てがどれだけ困難であるかを全然考慮していない。 このような議論というのは、ほとんど妥当性はないだろうと思います。現実とは非常に かけ離れている議論だと思います。ただ、未払賃金制度自体については改革の余地はあ ると思いますが、直ちに廃止せよという意見にはにわかには賛成し難いと思います。  6頁、「労災保険の民営化」のところですが、これも効率的になるのかどうか。一概 にはそうは言えないだろうと思います。確かに、保険会社に任せることによって競争が 起こるという面はあると思います。それでは、保険会社がどこで競争するのか。保険会 社がリスクの低い事業所ばかりを回って、そこで競争するということになれば、確かに そこは下がるかもしれない。その代わり、リスクの高いところに保険会社が手を伸ばす かという保証はどこにもないのです。最終的には労働基準法の世界に戻るのか、それと も、リスクの高いところだけを最後は政府が引き受けるのかという議論になるわけで す。  その結果として、本当に全体として効率的になるのかどうかというのは、私はどうか と思います。結局、そうなればリスクの低い、おいしいところを全部保険会社が持って いって、リスクの高い、おいしくないところは全部国が引き受けるということになる と、最終的には保険料が上がると、競争上不利におかれることにもなってくるでしょ う。そのようなリスクの高い事業は日本でやらなくてもいい、という議論もあるかと思 います。それはそこで働いている人たちの職場をどうするのか、ということを考えなく てはいけない。本当にこのようなラフな議論でいいのか、私は大変疑問に思います。  「未届事業所の一掃」というのは、行政のほうでしっかり考えていただくことになり ます。7頁のリスクに応じた行政の保険率の設定、これもさまざまな考え方があろうか と思います。いまのような保険料設定がいいのかどうか、というのも確かに議論がある ところですが、ある程度大きな集団のところでリスクプールをして、リスク分散をしな いと保険を作る意味というのはあまりない。いまよりも細かく業種分類をするのかどう か、といった議論はあるかとは思いますが、一定のリスクプールというのはどうしても 考えなければいけないと思います。サービス業といっても、いまのサービス業の分類が 本当にいまのままでいいのか。こういうようになったときに本当にいいのか。  労働福祉事業については先ほどお話したとおりです。実態としてはいろいろな事業が あるにしても、その中で特に保険で面倒が見られない重度障害の方、あるいは残された 家族の援護といった点については、これはやはり民間ベースでは行えないものという点 が多々あります。労働福祉事業全般が直ちに全部を見直すべきだ、という議論にはなら ないと思っています。  言いっ放しで恐縮ですが、このあと別の用事で行かなければいけません。これで失礼 させていただきたいと思います。 ○会長  お忙しいところをありがとうございました。                 (岩村委員退席) ○会長  そのほかの方のご意見を伺いたいと思います。 ○佐藤委員  冒頭に部長がおっしゃられたとおり、お話を聞いて唖然としました。5−4の1頁に 書いてあるように、基本的には社会保障制度の一翼である。労働者側から言わせていた だくと、労災保険制度はいろいろ改革が進められて、例えば通災についても認められる ようになった。あるいは、職業病についても認定の範囲が拡大してきた。労働組合員の 運動という観点から見ると、使用者側の理解や公益の皆さんのご理解もあっての上の話 ですが、長い間の労働者の権利の1つとして一定に定着しているものだという理解に立 っています。  いま岩村委員がおっしゃられたとおり、これを民間化すれば本当にいいとこ取りして しまうと思います。いま、民間が参入しているのは、休業補償に上乗せをする部分で す。その場合であっても、労災保険制度で休業が認定されている期間についてお金を 払っていくらか上乗せをする。基本は労災保険に置いているわけです。そういうことも 根こそぎ破壊してしまうということになれば、認定そのものが非常に厳しくなる。それ が社会的公平性を保てる問題なのかどうかとなると、民営化という議論が出てくる点は ちょっと理解できません。  あまり政府の批判ばかりをするのもよくないかもしれませんが、最近はトップダウン 方式で、上が決めたものはみんなやれという感じで押しつける。これは厚生労働省の権 威にかけても、阻止をしていただきたい。具体的にはもっとたくさん申し上げたいので すが、総論的にはそのように言いたいと思います。 ○久保委員  使用者側としての考え方を述べたいと思います。我々は、改革会議の議論を十分に把 握しているわけではありませんので、感想めいたコメントしかできません。昨日、使用 者側委員で集まって、一応の共通的な認識について整理いたしました。2点ほどお話し たいと思います。  まず1点目は改革会議で提言がある、いわゆる労働福祉事業の関連です。その一層の 効率化が必要であると思っています。改革会議が指定している労災保険の問題というの は、例えば労災病院や未払い賃金立替払事業など、労働福祉事業のあり方ということで す。この件については、これまでもいろいろな場で使用者側委員として主張してきてい る内容と一致しているわけです。その意味で、行政当局におかれては労働福祉事業の一 層の効率化に取り組んでいただく必要があるのかなと思っています。  ただ、労災保険の民営化という問題については慎重にならざるを得ないのではないか というのが1点です。各業種、企業においては我々の諸先輩を含めて、長年にわたり労 使で協力しながら労働災害防止努力を地道に積み重ねてきた結果として、今日の安全衛 生水準、あるいは労災保険制度が構築されてきたわけです。  そのような公的制度を改革・変更しようとする場合には、やはり被災労働者の、ある いは受給者の方をはじめ、労使関係者に多大な影響、実務上の混乱を及ぼさないよう に、具体的なスキームを提示して議論することが大事ではないかと思っています。そう いう観点から、今回の労災保険の民営化議論を見た場合には、民営化ということだけが 先行して、具体的な全体の仕組み、スキームが明確に提示されているとは言えないとい うことです。  出てきた議論の中では、これは普通になると思いますが、例えば民間保険会社に移し た場合、年金部分を含めてどのようなやり方になるのか。あるいは、運営がどのように なるのかといった点も定かではない。当然、営利的になる場合が出てくるわけです。あ るいは、そういった保険会社の破綻といった場合の懸念等がある中で、安心できるよう なスキームとなるのかどうか確信が持てない。  労災認定など、中立的・効率的なことができるのか。民間でやった場合は、どのよう な点で効率化することができるのか。この点についても全く確認できない。したがっ て、私ども使用者側委員としては、労災保険の民営化については現時点ではなかなかコ メントし難い。慎重にならざるを得ないというのが率直なところです。 ○中桐委員  ここの議論での結論というのは、今後、この問題でどのような影響があるのかをお聞 きしたいと思います。何のために議論しているのですか。 ○労災管理課長  これまでも、2回ほど答申が総合規制改革会議へ出されています。今度、先ほど申し 上げた第3次答申ということになります。その第3次答申を受けて、内容に盛り込まれ たものを閣議決定する。基本的にその答申を尊重する、という閣議決定をすることにな るのではないか。閣議決定をするということは政府に拘束義務がかかってくる。規制改 革会議が言うには2年以内ぐらいには、具体的にその方向に沿って制度改正をし、実施 をしなさいということになってくるわけです。もし万が一、ここに提案されたことが答 申にそのまま盛り込まれて、それを尊重するという閣議決定になれば、政府の義務とし て2年以内に何らかの制度改正をしなければいけないということになるわけです。  ただ、閣議決定に持ち込む前に、答申の内容を各省庁との間ですり合わせをし、話し 合いの結果、どこまで答申に盛り込めるかという作業が当然入ってきます。そこはその まま、答申の中に入ってくるということには必ずしもならないだろうと思います。た だ、どこまで入ってくるかはまだ向こうから案が来ていないので、いまの段階では何と も言えません。今後、流れとして予想される動きとしてはそういうことになります。 ○会長  いま伺ってもちょっとはっきりしないところがあります。今度、両方の意見が出た。 その次、具体的な作業としてはどうなるのですか。 ○労災管理課長  規制改革会議から、答申の案文が近日中に流れてくるのではないかという情報はあり ます。それを受けて、厚生労働省を含め、各省庁からそれに対する意見を出していく。 そこでの折衝が過程としては入ってくると思います。 ○会長  規制改革会議でもう1回議論する余地はあるのですか。 ○労災管理課長  そこのところはまだ詳細には決まっていないというか、こちらもはっきりわかりませ ん。 ○中桐委員  それを踏まえて、意見を申し上げてよろしいですか。私ども連合としても、実は一昨 日に専門委員会を開きました。労働保険ということで、雇用保険を含め、民間開放、民 営化は反対であるということを決議しています。これはこのあと、中央執行委員会なり 機関決議なりありますが、内容については厚生労働省で反論されている内容とほぼ同じ です。  ただ、実態として、例えばいまの制度だと外国人労働者が労災事故に遭った場合に、 事業主が払っていなくても安心して労災保険を下ろしてくれるので安心な制度である。 それが民営化してなくなるということになると大変なことだ、という実態も報告してい ただきながらそのような結論を出しました。  ここから先は今後の問題にかかわります。前回のこの審議会で、もともとのきっかけ は労災保険の積立金7兆円をめぐり、その意味を誤解された形で始まった議論でした。 そういった意味で、労災保険制度自体の基本的な理解についてできていないのではない か。これまでそのような努力をしてきたのかも含めて、そういう問題があるのではない かということだと思います。  こういった問題は、実は今年、ILO総会で「安全衛生委員会」という委員会を設け て、政労使で決議をしています。その中で、やはりどの国でもこういった労災保険、安 全衛生の問題がなかなか理解されていない。ILOの記念日を制定するなどの形で、も う少し世界的なキャンペーンをしたらどうかという提言が出てきました。タイ政府の代 表からは、先進国のトップが集まって安全衛生でサミットをやってはどうかという話も あったようです。やはり、世界共通の問題ではありますが、この問題をきちんと整理し ていかないと、またこのような問題が出てくるのではないかと思います。そのことを今 後検討していくことが必要ではないかと思います。  今回、例えば民営化反対が通ったとしても、このグループが指摘しているいくつかの 疑問点、誤解といったものはまた続くような気がするわけです。その辺、我々は労災勘 定の金庫番かもわかりませんが、適切に運営されているのか、時代にマッチしているの かも含めて使側からもご意見がありました。いくつかの問題点は3年ごとに「基本問題 委員会」のような形で議論していました。それをなかなか実行してこなかったところを 今回指摘されている気がしますので、この部会しかないわけですが、是非、そういうも のに積極的に取り組むということを併せて今回確認いただければと思います。我々とし ても現行制度が全部いいということで賛成しているわけではなくて、無茶苦茶な民営化 は駄目ということです。  実際、先ほども紹介がありましたが、米国各州の保険会社も実際には破産をしていま す。ニュージーランドは1回民営化をして、また国営に戻しているという実態もありま す。民営化がうまくいっている例というのはあまりない。  いまのお話、民営化というのは少し論外だと思います。ただ、先ほど言ったように、 いまの制度も改善は必要だということをご指摘申し上げたいと思います。以上です。 ○会長  ありがとうございました。このほか、ご意見を承りたいと思います。 ○石岡委員  総合規制改革会議のペーパーを拝見して、この制度を社会保障制度でやるべきなの か、おっしゃるような民営化でやるべきなのか。そのような重大な問題を投げかけられ た気持がいたします。  しかし、この問題については国際的なものの考え方が従来からあったのではないかと 思います。具体的に言えば、ILOの労働分野でどうすべきか、労働災害補償について はどうすべきかという議論がありました。ご承知のようにILOの第102号条約は社会 保障の最低基準に関係する条約です。その中に業務上の災害補償の条項も入っており、 日本は確か昭和51年に批准しました。  昭和49年に第121号条約にも批准しております。これはまさに業務上災害の補償の条 約です。我が国は国際的にもILO条約を批准して、ずっと今日まで努力をしてきてい るわけです。民営化という場合は条約の批准を取り消すという、国際的に重大なアク ションを起こすことになりかねないのではないかと思います。  確かに労働福祉事業、未届事業所の対策、よりオープンな形の料率の設定、現行労災 補償制度で改善すべきものは多々あって、それらは改善すべきだと思います。特に社会 保障なのか、民営化なのかという問題を突きつけられたときに、やはりILOの考え方 が判断基準の1つになってくるのではないでしょうか。私はILOの基準を知りません が、かなりの国が批准して、我が国と同じように努力しているのではないかと思いま す。  そこで質問なのですが、ILOとの関係で、諸外国ではこういう分野ではどういう批 准の状況にあるのか。その他、ILOとの条約との関係で、皆様方はこういう問題につ いてどう考えていらっしゃるか。何かお考えがあったら、お聞かせいただきたいと思い ます。 ○労災管理課長  いま、批准の状況を取り寄せていますので、のちほどご説明したいと思います。もち ろん、特に日本の場合などは国内法制を整備して、それができるという実行性のもとに 批准をしてきている。そこはご案内のとおりです。もし、そのようなことが欠けるよう になったら国の責任にもなってきますので、もちろん石岡委員がおっしゃるように、も し仮に民営化をして、そういったことが起こり得るというのはあってはならないのが大 前提だと思っています。果たして、批准を取り消せというほどは考えられないのではな いかと思っています。他国の状況はいますぐには申し上げられないと思いますが、基本 的考え方としてはそのように思っています。 ○労災補償部長  あまり正確ではないかもしれませんが、少なくともいまご指摘のあったILOの「業 務災害の場合における給付に関する条約」、第121号条約には、23カ国が批准していま す。諸外国、特に先進国の中で、労災保険制度について民間が参入している例というの は、私どもが承知している限りではアメリカだけです。アメリカはこの第121号条約を 批准しておりません。  この第121号条約の解釈上、災害補償にかかわる制度は、国が自ら直接運営しなけれ ばならないものかどうか。おそらく、なかなか解釈が難しいところでしょう。解釈の状 況を簡単に見ていくと、実は国によって非常に異なる。日本のように、国が直接運営を している例というのはあまりないだろうと思います。ただ、例えばドイツでは産業別の 保険組合、これは当然国が監督をする主体としての公法人です。そのような、産業別の 労災保険組合というものが運営されています。  フランスは先生のほうがよくご存じだろうと思います。これも国が直接というより は、確か国が関与をする公法人となって運営をしているのではないかと思います。それ ぞれの国によって、運営形態は非常にバラバラの部分があります。ただ、少なくともア メリカを除くと、直営、もしくは国の関与が極めて深く入った形で運営をされているの が実態だと思います。 ○会長  ついでに申し上げます。ご案内のとおり、アメリカはILO条約をほとんど全部、ど の条約も批准していない国です。これは連邦の権限と州の権限との関係、アメリカの憲 法との関係もあります。労災関係の条約を全く批准していませんので、極論すれば国際 的な一般のルールに反して何でもできるという状態です。  ドイツ、フランスについてはいま部長がお話になったとおりです。日本と違うのは、 ドイツでもフランスでも労使の代表が運営に関与しているというところが違います。た だ、政府が常に後ろ立てして、事柄の性質上、職業病の研究などは何かと難しいので、 結局政府がイニシアチブを取ってやっていると理解しています。民営化している、とい う国はアメリカ以外にはあまり聞いたことがありませんね。先ほど石岡委員が発言され たように、条約でどこまで決めているのかということは、いずれご検討いただこうと思 います。そのほかご意見はありますか。 ○松本委員  皆さんがおっしゃっているとおり、確かに難しい問題だと思います。アメリカ方式と いうか、グローバリズムの1つの流れの中で、規制改革委員会がこういう方向を出して きたとも思います。あるいは、規制改革委員会の中の一部委員の議論が突出した形でこ うなったのか、いろいろ見方はあると思います。  いずれにしろ、そういうことが上から降ってきたことは間違いないわけです。厚生労 働省としてどう対応するのかを見ていると、こういう言い方は何ですがてんやわんやと いうか、あたふたとしている感じがないでもありません。  当面、この部会などがどう対応しているかというと、いまおっしゃっているように時 間的余裕を考えれば、ここで一から制度の改革などを論議し始めても間に合わないわけ です。そうだとすれば、大まかなところで意見の一致が見出せた点を審議会の意見とし て、厚生労働省を通じて規制改革委員会に反映してもらうことしかないと思います。厚 生労働省の対応というのはあらゆる問題について言えるのですが、いつも後手に回って いるというか、常に相手方に先手を取られている気がしないでもありません。特に労働 市場の開拓、規制緩和の問題では、厚生労働省の対応は常に遅れていると思います。今 日お伺いしたところ、あるいはこれまで聞いていた範囲でどちらに軍配を上げるという ことは、私自身も非常に難しいと思っています。労働者側、あるいは経営者側の方で は、市場開放の民営化というのは慎重にあるべき、反対ということをおっしゃっていま す。私自身、果たしてどちらがいいのかということはわかりません。よってこの場で、 あるいはこの短期間のうちに結論を出してくれと言われても出せませんので、どちらか が中立でいくしかないと思っています。  ただし、一言厚生労働省に申し上げれば、審議会などを味方につけようと思うならば もっと事前の勉強というか、イニシアチブを厚生労働省が取るという形で対応しない と、いつまでたっても後手に回ることになるという感じがしています。やや第三者的意 見ですが、そのような感じがします。一致できる点で意見をなるべく早くまとめて物申 す、ということしかないのではないかという気がします。以上です。 ○会長  ただいま、松本委員から具体的な提案がありました。いかがでしょうか。私も事務当 局と事前に相談していませんけれども、できればこの労災保険部会で何らかの意見を表 明するようにしたいと思います。ただ、これには公労使の方の意見の一致が必要です。 文章はあとから考えるとして、意見が一致できるところで、民営化反対の方向で意思表 示をするということも考えていいのではないかと思います。事務当局は困るでしょう か、打ち合わせしていないので申し訳ありません。 ○松本委員  事程左様に重要な問題であるにもかかわらず、場当たり的というか、全く先を見るこ とのできない戦略のなさがこういう場面に現れていると思います。いま、ここで会長が おっしゃったように、まとめようかといっても事務当局はどうしたらいいのかわからな いという感じになってしまう。ここですぐさままとめることは出来ないでしょうから、 もう少し意見を聞いたほうがいいのではないかという気がします。もしまとめろと言っ たら、私は中立にまとめます。 ○久保委員  先ほど申し上げたように、判断するには材料というか、改革会議の考え方なり整理の 仕方が全然十分ではないものですから、ここで民営化にどういうメリットがあるか、ど ういうことなのかを出さないことには判断しようがない。これは「反対」などという性 格のものではないのだろうと思います。おっしゃるように、確かに急がれているテーマ なのはわかります。 ○会長  私の承知している限りでは、改革会議から今回初めて具体的提案が出ました。その前 は事務当局に対し、このような点はどうかという質問の形で、若干意見が推察されるな という感じでした。しかし、改革会議全体として、このようなスキームでいくという提 案はありません。今回、それらしい意見を言ってきています。今日、事務当局からご説 明申し上げたように、スキームについてもかなり部分的です。改革会議全体として、 「これでやっていこう」というものはいまのところありません。 ○久保委員  そのようなことだと慎重にならざるを得ないですね。 ○会長  何について反対するのかという問題はあるわけです。基本的な方向としては改革会議 としては決まっている。しかし、自分のほうからこのようにやろうというものは出てい ない。 ○松本委員  厚生労働省は、この審議会からの意見などを求めているのですか。それとも、説明し て終わりという感じでいいのですか。 ○労災補償部長  今回、こういう形でご説明の機会を持たせていただいた本意は、これだけ大きな問題 を突きつけられている。それだけに、当然、労災保険部会としても決して等閑視できな い課題だろう。その意味では、この部会の各委員からまず十分ご意見を伺う必要がある だろう。その上で、総合規制改革会議との関係で言うと、これは政府の中での議論です ので、政府の一員として私ども厚生労働省が委員の皆様方のご意見を十分踏まえなが ら、政府の一員としての責任を持って対応していくべきものだろうという考え方です。  もちろん、部会として何らかの一致したアピールをするべきだということであるなら ば、やはり部会としての行動としてはあり得る話だろうと思います。私どもとしてはこ れから答申を受け、それに対する閣議決定という、政府部内での処理ということですの で、そこは政府の一員たる厚生労働省として責任を持って対応するのが現時点での考え 方になります。 ○佐藤委員  いまの部長の発言というのは非常に公式的な発言で、これだけ大きな問題を基本的に は総合規制改革会議が決めて、閣議が決定すれば政府の一員として認めざるを得ない。 それはそうだろうと思います。でも、これは本当に大きな問題です。会長もおっしゃっ たように、私はこの部会で意思統一できるなら、基本的には民営化反対を基軸とした意 見書などをまとめるべきだと思います。厚生労働省がもしそのように思っているなら、 そのようにはっきり言うべきだと思います。皆さんのご意見をお聞きしてというなら、 お聞きしてどうなるのですか。部会が絶対反対しているので、「我々は受けられませ ん」とおっしゃっていただけるなら、最初の挨拶について評価もできる。いまの発言は 非常に後退した発言だと思います。 ○労災補償部長  いまのご指摘についてですが、私どもの基本的な考え方なりスタンスなりは縷々申し 上げたとおりです。したがって、政府部内でそういうスタンスで、これから総合規制改 革会議に対しては対処していくということです。 ○会長  事務当局として言えることには限界がありますから、この部会で何をやるかというの は一応別問題として考えていいと思います。事務当局で、「厚生労働省はこの原案に反 対です」と閣議決定の前に言うことはできない。閣議の場では大臣にしっかり発言して もらわなければいけないですが、その段階ではもう遅い感じがあります。私個人として は、ここにおられる委員の方のご意見が一致すれば、文章は非常に短いものにする。長 いと「ここは駄目」とか始まりますから、労災保険部会として意見を出す、新聞にも載 せる、というぐらいをやりたいと思っています。特に経営者側の方、そこまで難しいで しょうか。 ○紀陸委員  久保委員が言われたように、私どもとしては、内容がわからないものについて評価を 慎重にならざるを得ない立場なのです。メリット、デメリットがわからないものについ ては、「イエス」も「ノー」も言えない。しかも、内容についていっぱい問題があると いうことは我々も感じています。それをクリアするようなものとして、どういうものが あるのか。その論議が会議の中でもまだ全然ないわけです。だから、我々としては、バ サッと民営化反対という立場を表明するのではなく、内容のわからないものについて は、「ちょっと待ってください」ということなのです。それを使側の意見として伝えて いただければいいと思っています。私どもも折を見て、できるだけ早く使側の委員と意 見を1つにしたいと思っています。同じ反対をするにも、労側の立場と使側の立場で ニュアンスの違う面がなきにしもあらずという感じがします。 ○会長  今日出された資料より前の資料は、内閣府からホームページで全部出ています。そこ では先ほど申し上げたように、改革会議から積極的に「こういう原案で行くのだ」とい うものはありません。部分的な質問があり、それに対して当局が答えている。そして、 当局が作った資料がある。今日出されていない資料もあります。ただ、それは全部公表 されています。しかし、それを見ても一体どうなるのかというのはわかりません。た だ、わからないと言っていると事が決まってしまうという、非常に差し迫った状況にあ ることは確かなのです。 ○紀陸委員  そのような運びはそもそもおかしいと思います。 ○会長  おかしいのです。ただ、改革会議のほうでそのようにやってきているのです。 ○久保委員  特に我々使用者側でいけば、スキームのわからない中で、民営化という重要な問題に ついて推進するという判断は慎重にやるべきではないかということでしょう。これだけ 大事な、労働者の保護などがベースになるわけです。それを最後の基本的なスキームと した。わからない中で、なぜ民営化の方針を出すのかということです。それに対して、 反対と言っていいのではないでしょうか。 ○会長  諮問会議や部会を開いて、内容はこうでしたというものをきちんとお伝えいただくと いうことは重要な部会の経過ではないのでしょうか。一言で言えば「民営化は慎重に」 と。 ○松本委員  「慎重に」と言う前に、何がどうなっているか、おそらくまだ共通の認識などをそれ ほど勉強している時間もなかったと思います。今日1日の論議だけでは論議が尽くされ ていないと思います。  結局、もし本当にまとめようとするなら、もう少し慎重にやってほしい。もう少し時 間を置いて、内容検討をもう少し続けてほしいということしかないのではないかという 気がします。 ○会長  今年のうちに決まってしまうのですか。 ○久保委員  時間がなければ決めるなということです。 ○紀陸委員  追加事項に勝手に5項目入れて、そのうちの1つがなぜ来年なのですか。私は納得し ていません。 ○松本委員  はっきり言ってこの内容について、これだけで民営化賛成、反対というのを、判断で きないのです。また、その中ですぐさま、民営化賛成か反対、民営化に慎重であるべき という意見をここで言えと言われても言えません。もっと時間がほしい。この問題は重 要であるがゆえに時間をかけて、もう少し慎重に検討をしてほしいという具合の内容な らば賛成です。 ○中桐委員  本当に時間がないというところはあります。ただ、いま出ている以上の資料が出てく るわけでもありません。慎重な対応と言っている間に決まってしまうかもしれません。  いままで聞いていると、やはり難しい問題がある。実際、現場で大混乱が起きるだろ うということはすぐわかるわけです。これから何が起こるか、現場もわからないと思い ます。そういうことを踏まえて、やはりもう少し慎重にというのはあるかもしれません が、我々が現場の責任を負えるかどうか。勉強が足らないならもっと勉強しなければい けないかもしれない。もっと資料があるなら出していただきたいのですが、先ほど説明 された資料しかありません。これはない物ねだりになってしまいます。そうやって12月 を迎える、年度末を迎えるということでどうしようもなくなってしまう。ならば、この 審議会は何だったのかという話になってしまう点を大変心配をしています。 ○佐藤委員  私は「労災保険審議会」の当時から委員をやっています。基本的に言えば、労災保険 の保険者は政府だという前提で、この間いろいろな論議をしてきたわけです。根底から そのような論理を破壊する、言葉が悪ければやめてしまう。これは非常に重要な問題だ と思います。十分な議論は必要だと思います。いま緊急性の問題の中では、基本的には 反対を基調にしながら、会長がおっしゃったとおり短い文章で結構ですからまとめてい ただく。それがいちばんいいと思います。 ○会長  意見がばらついているようです。私からの提案ですが、この問題は重要な問題で、し かもあまり時間がないということです。もう1回部会を開くというのは大変ですから、 公益の委員も含めて労使の代表を選んでいただいて、そこで詰める。そこで、何らかの 意思表示をするということでいかがでしょうか。 ○紀陸委員  今日ですか。 ○会長  いいえ、改めて開きます。それまでに、労使の方で大体意見はまとまってはいるので しょうけれども、もうこちらもできるだけ早い機会に文案を示したいと思っています。 ただ、反対まで行くのかどうか。「反対まではいけない」という方、「反対までいけ」 という意見、いろいろありますので難しい。 ○紀陸委員  いま申し上げた労としての意見を伝えていただければ、それでいいのではないです か。別に三者合一の文章を作る必要はあるのですか。 ○会長  できれば、この部会としてまとまったほうが強いと思います。 ○久保委員  煮詰まってしまって迫力を欠くようなことはありませんか。 ○紀陸委員  労は労、使は使で別にかまわないのではないですか、それぞれのコンセンサスがある わけですから。それぞれのコンセンサスをぶつけるということでかまわないと思いま す。 ○会長  できれば全会一致のほうがいいですね。しかし、それができないということになれ ば、「公労使でこういう意見がありました」というものをこの部会の名前で改革会議に 伝える。 ○内藤委員  いまのお話は、こういうことではないかと思いました。基本的に、いまの労災保険制 度は国の運営で、一応労働者の保護になるシステムとして機能しているわけです。民営 化という1つのアイデアが出て、いますぐどちらにするか決めろ、いま決めろと言われ たら、民営化の先にあるものはわからないのですから「反対だ」と言うしかないのでは ないかと思います。いま決めろという前提条件であれば、私は反対でそろえられるので はないかと思います。いま決めろと言われても「私はわかりません」と言うのではなく て、いま決めなければいけないのだと言われれば、いまの時点の判断は「反対」と言う 以外に結論が出ないような気がして聞いていました。 ○会長  例えば、直ちに民営化の決定をするということですか。 ○内藤委員  この程度の情報提供、論議の時間経過の中で、いますぐ決めるのだと言われれば、現 行制度が機能している以上は反対という答を出さなければ、少なくとも賛成という答は 出ないと思います。もう少し論議をすべきだという意見はもちろんありますが、論議が できるのであれば、その時間を取って十分に勉強して、最後に判断をすればいい。しか し、いまのお話を聞いていると、いますぐ決めなければいけないという雰囲気なので す。いますぐ決めなければいけないと言われたら、労働者を保護するためにも反対する しか方法はないのではないかと思います。賛成するとしたら無責任です。 ○久保委員  会長からお話があったように、改革会議で、いま我々が持っている情報以上に具体的 なスキームなり何なりがないとすれば、使側としてもこのように少ない情報、民営化に なった場合の多大な懸念がある中では、いま決められることについては絶対反対という ことだと思います。 ○会長  それでいいですか。 ○内藤委員  そのことについてはいいと思います。 ○紀陸委員  現実問題、規制改革会議で方針を決めて、民営化のスキームを作るのは規制改革会議 の役割ではないわけでしょう。それならどこが作るのですか。仮決定云々という話もあ りましたが、厚生労働省ですか。 ○会長  また、厚生労働省に返ってくるのだと思います。規制改革会議にはそのような能力は ないと思います。僅か10人程度で、労災保険に詳しい人というのは一人もいない。  時間がたちました。こういうことでいかがでしょうか。いま内藤委員からご発言があ りましたが、その線でごく簡単な文章を作ってみます。今日、あれこれ文章をいじると また大変ですから、2〜3日のうちに各委員に回します。大筋で異論がなければ、文言 などはこちらに任せていただいて、労災保険部会の意見として改革会議に出すというこ とでいかがでしょうか。                  (異議なし) ○会長  よろしゅうございますか。事務局の方、大変ですがよろしくお願いします。できるだ け急ぎますので、いま内藤委員からお話があったような筋で意見を出したいと思いま す。 ○松本委員  いま会長がおっしゃったことについて、別におかしいということではないのですが、 その前にこの部会は審議会の下部機関としてあるわけです。審議会の役目は、大臣から 何々について意見を聞きたいという諮問を受けて、意見を言ったり答申を出したりする ことだと思います。 ○会長  いいえ、それだけではなくて、部会独自で建議というものができますから。何も聞か れていないけれども、こういうことをやれという建議ができます。 ○松本委員  今度の場合も建議の形になるのですか。法律的にはどういう形の物言いになるのです か。 ○会長  結局、諮問と建議しかありませんから、建議ということになるのだと思います。そう すると、名宛人は大臣ということになって、大臣から「認めました」と言ってもらう形 になるのだと思います。私もよく検討していませんが、とっさの思いつきではそのよう になるのだと思います。それでは、そのような方向でまとめさせていただきたいと思い ます。  今日、実はもう1件、報告案件があります。ごく簡単にお願いします。 ○労災管理課長  当初の議題には入っていなかったのですが、監督課で発表した、「労災かくし」の事 案の送検状況について、資料6で簡単にご説明させていただきたいと思います。11月20 日、本日付の発表です。  「労災かくし」というのは、1の(1)、(2)に書いていますように、安全衛生法に基づ く死傷病報告を故意に監督署に提出しない。あるいは、虚偽の内容のものを提出すると いったことで、安全衛生法上の条文に具体的に違反してくるというものです。その背景 には、法律上の義務違反に係る追求の責任を免れようという意図があり、被災者に犠牲 を強いるものとなっています。  こういうことに対し、監督機関は従来から、いろいろな機会を捉え指導を徹底してき たところです。現在、それに対して従わないような場合には、厳正な送検という措置を 取っています。  今回、送検件数については2枚目にあるとおり、最近の状況をまとめたところです。 2枚目にありますが、いちばん上の表をご覧ください。大体、毎年、1年に80〜90件程 度でしたが、今年は10月までの時点で既に100件を超えて送検をしています。  業種別には次の表、建設業がいちばん多く、次に製造業、運輸交通業といったところ が多くなっています。なお、参考として、これは全部が「労災かくし」に当たるわけで はないのですが、死傷病報告の報告義務違反ということでの件数をそれぞれ挙げていま す。  3枚目には最近の送検事例として、3つほど事例を挙げたものを付けています。のち ほどご参照いただければと思います。以上です。 ○会長  ありがとうございました。ただいまの説明について何かございますか。 ○佐藤委員  いまの報告でいいと思います。日本を代表するゼネコン、具体的に言うと、日経新聞 に名前も出ているから言いますが鹿島です。ここが書類送検された。先ほど議論された 総合規制改革会議の中で、その他の事業と建築・建設の事業が、発生率に比較して保険 料が高いという指摘がありました。このことは、あまり実態を示していない1つの証拠 だと思います。そのことだけ発言します。 ○会長  ありがとうございました。そのほかはございませんでしょうか。時間が過ぎています ので、本日はこれで終わりとさせていただきます。  最後に議事録の署名委員をお願いします。労働者側委員は中桐委員にお願いします。 使用者側委員は早川委員にお願いしたいと思います。本日はどうもありがとうございま した。                  ┌────────────────────┐                  │照会先                 │                  │厚生労働省労働基準局労災補償部労災管理課│                  │企画調整係 (内線5436)      │                  └────────────────────┘