03/10/28 第2回事故報告範囲検討委員会議事録             第2回 事故報告範囲検討委員会                       日時 平成15年10月28日(火)                          10:30〜                       場所 経済産業省別館1111号室 ○事務局  ただいまから、第2回「事故報告範囲検討委員会」を開催いたします。傍聴の皆様に お知らせいたします。傍聴に当たっては、既にお配りしております注意事項をお守りく ださるようお願いいたします。 ○前田委員長  委員の皆様方におかれましては、お忙しい中を本当にありがとうございます。本日の 出席は8名で、辻本委員、宮崎委員が欠席です。参考人として、大阪大学医学部附属病 院助教授の中島先生。事務局から、国立病院医療指導課の柳課長補佐にご出席をいただ いております。最初に、事務局より資料の確認をお願いいたします。 ○事務局  「事故報告範囲検討委員会議事次第」「出席者名簿」「座席表」があります。資料1 は「国立病院・療養所、国立高度専門医療センターにおける医療事故の報告制度につい て」、資料2は「大阪大学医学部附属病院における医療安全に関する報告体制」。参考 資料として、第9回の医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討部会でも提出させ ていただきました「報告を求める事例の範囲についての(例示案)」と、「諸外国の医 療事故報告制度における報告対象事例」です。 ○前田委員長  本日の議事の進め方は、資料1、資料2の順でご説明をいただき、委員の先生方から ご質疑をいただきます。資料1について、柳課長補佐から、資料2について中島参考人 からご説明をいただいた後、質疑を行います。 ○柳課長補佐  国立病院部から、国立病院・療養所、国立高度専門医療センターにおける医療事故の 報告制度について、資料1に沿って説明させていただきます。医療事故の報告制度につ いては、「国立病院・療養所における医療安全管理のための指針」を国立病院部で定め ております。これにより、院内報告及び地方厚生局・本省への報告を行っております。  この指針は、当初平成12年9月に、国立病院等におけるリスクマネジメント・マニュ アル作成指針として策定したものを、その後、医療安全に関する医療法の施行規則の改 正などがありましたので、本年3月に改定し、先ほど申し上げました「国立病院・療養 所における医療安全管理のための指針」としております。マニュアルに基づく事故報告 は、平成13年4月から行われており、今年で3年目に入りました。  資料1の「院内報告制度」についてご説明いたします。医療事故の定義は「医療事故 とは、医療に関わる場所で、医療の全過程において発生する人身事故一切を包含し、医 療従事者が被害者である場合や、廊下で転倒した場合なども含む」としております。こ れは、医療安全対策検討会議の報告書が昨年出されていて、医療安全推進総合対策にお いて用いられている医療事故の定義と全く同じものを用いております。  「施設内における報告の手順」については図1「医療安全管理に関する組織体制」 で、各施設、各病院における院内の医療安全管理に対する組織体制をまとめました。図 のいちばん下から上に向かって報告がなされる、という形にまとめてあります。いちば ん右側のラインが、事故報告の手順です。真ん中の部分にヒヤリ・ハットの事例があり ます。あとは、昨年の医療安全推進総合対策で、患者の相談窓口を院内に設けておりま すので、その報告ラインがいちばん左側です。  本日問題となっております、医療事故報告のラインはいちばん右側になります。院内 において医療事故が発生した場合、その関係者がその上司、即ち医師であれば医長若し くは診療部長、看護師であれば看護師長や看護部長を通して、副院長に報告することと しております。詳しいラインは、資料1の1頁の(1)のアに、それぞれについて書い てありますが、基本的にその事故にかかわった従事者の上司を通して、副院長に報告す ることとしております。副院長は、この報告を受けた事故の事例につき、左上にある医 療安全管理委員会に報告し、ここにおいて事故原因の解明、再発防止策の策定を行うと ともに、適宜院長に報告するシステムをとっております。  別添1、別添2は、院内における医療事故報告書の書式です。「事故の区分、患者氏 名、発生場所、発生日時、事故の状況、主治医の指示、対応、結果の概要、患者の家族 の反応など、警察への届出、生命の危険度の評価」が1枚目です。2枚目は、その後の 事故の分析を別の紙で、分析を行った後に提出する形をとっています。緊急を要する場 合はこういった形にとらわれず、まずは口頭で報告し、その事故に対する対処を早急に 行った後、文書で報告することとしております。  厚生労働省本省への報告制度については、資料1の2頁に、「地方厚生(支)局及び 本省への報告」としてまとめてあります。イに書いてある事故の範囲の事故が発生した 場合は、施設から地方厚生(支)局を経由し、本省に事故報告をすることとしておりま す。ナショナルセンターについては、直接本省に報告しております。  この際に用いている書式は別添3です。「施設名、患者氏名、事故の日時・場所、診 療の経過、家族への報告・説明、苦情の内容、当事者の氏名、警察への届出の有無、当 該事故に関する検証の状況、種別(報告範囲の3つのうちのどれか)、今後の事故防止 対策」について報告を受けております。  この検討委員会で問題になっている、報告を受けている事故の範囲が2頁のイの最後 のところです。「当該行為によって患者を死に至らしめ、また死に至らしめる可能性が ある場合。当該行為によって、患者に重大若しくは不可逆的傷害を与え、若しくは与え る可能性があるとき。その他、患者等から抗議を受けたケースや、医事紛争に発展する 可能性があると認められる場合」の3点に該当する場合には、院内だけでなく、本省へ の報告を求めています。こういう体制で、事故の事例について、報告制度を作って運用 しております。以上、簡単ですがご説明とさせていただきます。 ○前田委員長  ありがとうございました。次に、中島参考人からご説明いただいた後、まとめてご質 疑をいただきます。 ○中島参考人  大阪大学の中島です。私は、当検討委員会への出席を依頼されたとき に、大阪大学の院内の報告体制、及び意見があればということで両方準備してきたので すが、いまは院内の報告体制だけ申し上げたほうがよろしいでしょうか、それとも併せ て発表したほうがよろしいでしょうか。 ○前田委員長  併せてお願いいたします。 ○中島参考人  資料2に沿って説明させていただきます。医療安全に関する用語として、我が国では インシデントや事故が現場で混乱を招いておりますので、大阪大学では基本的に米国、 英国、オーストラリア等国際的に用いられている定義に基づき、用語を使っておりま す。  インシデントは、患者の診療やケアにおいて本来のあるべき姿から外れた行為、これ は「プロセス」です。望ましくない事態の発生、これは「アウトカム」を意味します。 また、患者だけではなくて、訪問者や医療従事者に傷害が発生した事例や、そのような おそれがあったものも含み、この事例は、医療従事者のエラーや過失の有無を問わな い。そして、ここの中には患者に傷害が発生しなかったものも、発生したものも両方含 む、という定義で行っております。これが、いちばん大きな集合体になります。  さらに、その中に含まれる集合として、2番目の「医療事故の定義」です。これは、 患者の疾病そのものではなく、いわゆる医療行為を通じて患者に発生した傷害。ここに 英語で書いてあるのは、意図的に与えた傷害ではなくて、患者の病気以外の医療行為を 通じて傷害が発生したものを医療事故と言っております。  この中には、事前に患者にそのリスクをきちんと説明し、手技にも問題なくても起こ ったような合併症、偶発症、予見等が不可能である不可抗力、予見等ができても避ける ことができないような副作用が含まれると理解しております。この中にも、「過失によ るもの」と「過失によらないもの」が含まれています。過失によるものは、事故防止の 対象となると考えています。  さらに、いちばん小さな集合として、医療事故では患者に傷害があるわけですが、そ の医療行為に過失があり、その過失と患者の傷害との間に因果関係があるもの、この3 点セットが揃ったもの、すなわち過失によって発生した医療事故ということで、医療過 誤と同義に用いております。  いまの関係を図示したものが左の下にあります。基本的に医療事故は「結果」を表す 用語ですが、事故防止の観点からは、起こった結果だけではなく、その「プロセス」の 問題も把握することが大切だということで、基本的に事故防止の上では「インシデント 」にフォーカスを当てております。このインシデントの中には、医療行為そのものだけ ではなく、患者や家族とのコミュニケーションの問題、対人技術の問題、家族からの苦 情等も含めております。  「報告制度」として大きな図が次の頁にあります。基本的に院内では、現場のスタッ フが報告しますので、どんな事例を、何の目的で、どこに報告するのかを明らかにして おります。ここに書いてありますのは、すべてをインシデントと呼んでおりますが、上 半分はインシデントレポートと呼ばれる病院のコンピュータ・システムによって、事故 防止のために比較的傷害の程度の軽いものを報告するとしております。  下半分は、患者にある一定レベル以上の傷害が発生しているものであります。院内で 事故防止だけに使う、ということだけでは許されない、やはり法的責任やきちんとした 組織的な対応が必要ということで、事故防止及び事故対応のために用いる。したがっ て、これは「医療クオリティ審議依頼書」という報告書で、また担当委員会に報告して います。  ここで、あえて「医療事故報告書」という言葉を使っていないのは、この中には医療 行為として問題のないもの、問題のあるもの、グレーのものすべてが含まれております ので、医療の中身を審議するという意味で、そのような報告書の名前を使っておりま す。「インシデントレポート」にするのか、「医療クオリティ審議依頼書」にするのか は、基本的に患者に発生した傷害のレベル(0〜5)と、傷害以外のその他のものに分 けています。その分け方は、患者に与えた傷害の継続性、全くないなのか、一過性なの か、永続的なのか、死亡したのか。傷害の程度は、軽いのか、中等度なのか、高度なの かの組み合わせで分けています。  先ほど来申し上げておりますように、この中には不可抗力によるものもあれば、過失 によるものもあり、いろいろなものが含まれております。  「報告書等の種類」という大きな表が次の頁にあります。中身は、先ほど申し上げた とおりですが、「インシデントレポート」は比較的軽いものを、医療事故防止のため無 記名で、リスクマネジメント委員会に報告します。一方、患者の傷害のレベルが高いも のは、「医療クオリティ審議依頼書」で、事故の防止と事故の対応の目的で報告しま す。  ただし、真ん中の縦の列の上から2行目の「報告事項」を見ますと、「緊急または重 大事態」という項目が列挙されています。その中には、異型輸血、手術部位間違い、そ の他必要と判断されたものなどが含まれておりますが、この詳細については次の頁の真 ん中辺りにより細かく書いてあります。これらは、たとえ患者に傷害を与えなくても、 医療行為としては決して受け入れられないもの、非常にプロセスが重大な問題があるも のとして、これは結果如何にかかわらず、医療クオリティ審議依頼書で報告するように しています。  再発防止を考えるときに、大抵の場合は現場の人たちが知恵を出し合い、さまざまな ルールや運用を決めればいいわけですが、単なるルール作りだけではなくて、診療体制 や研修医の指導体制など、非常に重い課題に関して、病院としての意思決定が必要なも のについては、同じく患者の傷害の有無・程度にかかわらず医療クオリティ審議依頼書 を用い、医療クオリティ審議委員会に報告します。これは、20名の診療科・部長などか らなる委員会です。  いちばん右側の「医療事故報告書」というのは、医療クオリティ審議委員会に、白い もの、黒いもの、グレーのものと雑多なものが報告され、委員会で過失があるのか、因 果関係があるのか、医学的に受け入れられるのかどうなのかを、かなり厳しく20名のプ ロフェッショナルで迅速に判断し、過失による医療事故と判断されたものは、ここで別 途医療事故報告書を作成します。本院の基本的ポリシーとしては、医療事故報告書に関 しては、情報公開法で公開を求められますと、基本的に公開するという方針でやってお ります。  5頁は、先ほど来申し上げております比較的重大な事態、重大なプロセス上の問題を 含んでいるものに対応する、医療クオリティ審議委員会の流れです。基本的に、関係者 を会議の場に全員呼び、カルテもフィルムも持ってきて、その医療の中身を審議するこ とにしております。同じ病院内といえども、利用可能なリソースやシステムなど、いろ いろ詳細な情報を集めるのに、問合せだけでは十分できないこと、迅速性を確保すると いうところから、関係者をすべて呼んで、その内容を審議しています。  最後の頁ですが、ここに文字としては書いてありませんが、先ほど国立病院の方が、 厚生労働省への報告のことをおっしゃいましたが、大阪大学病院では、医療事故報告書 を作成した事例は、全例文部科学省に報告しております。それ以外に、院外のプレス等 への公表、警察への報告に関しては、ここにあるクライテリアに従って行っています。 これが院内の体制です。  この中で、国立大学病院42病院共通でやっているのは、冒頭に申し上げました用語に 関する定義、インシデントをレベルの0〜5とその他に分ける。報告書や委員会の名称 は病院によってさまざまですが、重大な事態は、その医療の中身について、透明性を 保った形として、医療クオリティ審議委員会で迅速に判断し、医療事故報告書を作成す る。ここまでは共通のルールとしてやっております。以上が、大阪大学病院及び国立大 学病院共通の部分の説明です。  院内でさまざまな取組みをやってきて、現場でも非常に難しい事例があり、ましてや それを国全体でやるときには、こういったことが考慮されなければならないのではない かということを列挙したスライドをお示しいたします。 ☆スライド  1つ目ですが、ここからは、国でやっていただくときに是非考慮していただきたいと いうことです。報告の目的は、予防とお聞きしております。予防が目的であるのであれ ば、予防可能な事例が対象となるべきである。医療事故は、予防可能なもの、これを言 い換えますと過失による医療事故、どこかに問題があるもの、問題を解決できる可能性 があるものと考えられます。その中には、個々の医療従事者の質、即ち知識や技術に問 題があるもの、医療機関のシステムやプロセスに問題があって、現場の人たちの失敗を 引き起こしているもの、厚生行政やメーカーの取組みなしでは解決不可能なものが含ま れています。  それ以外の残りの部分は、予防不可能な合併症、不可抗力、副作用があります。例え ば、放射線の治療だと、直腸炎や、ひどい場合には直腸瘻というものがあらかじめわか っていてもやらなければならないということもありますし、抗癌剤も副作用なくして効 果なしという部分もありますので、そういったものは予防不可能な中に入るかと思いま す。 ☆スライド  2つ目は、医療機関の中でやっても、こういうものは報告するのですか、しないので すか、インシデントレポートですか、医療クオリティ審議依頼書ですか、という質問が たくさんあります。同じようなことが、国でやったときに起こることが想定されますの で、各医療機関が、これは報告事例なのか否かを迷わないような事例であってほしいと いうこと。各病院が過失の判断をしなくてもいいような事例であるべきではないかと思 います。  例えば、このようなものを決められると現場が困るだろうという事例として、「予期 せぬ死亡」があります。予期したかしなかったかというのは、当事者や判断する人たち によって左右されます。  「○○による一過性の高度な傷害」ということになると、例えば血圧が高度に下がっ て、それが数分間続き、患者には迷惑をかけた。ICUに数日間入室し、人工呼吸器等 を装着したけれども、完全に回復して退院したような事例。「ICUに入室したような 高度な事例」と言われた場合に、患者を救命するためにICUに収容しているので、I CUに入室したということをネガティブに解釈するのか、ポジティブに解釈するのか、 という難しい解釈を現場が迫られることになります。  「内視鏡検査時のミスや不注意による穿孔」というのは、例えば大腸ファイバーで、 大腸のポリープを取るときに、腸に孔があいたという事例に関しては、ミスか不注意か どうかよくわからない。腸は非常に孔があきやすく、高齢でということで、いろいろな 判断がされる可能性があります。  参考として、厚生労働省が準備した資料の中にもありますが、米国のジョイントコミ ッションの「センティネル・イベント・リポーティング」という、比較的重大な事態を 集めているものがあります。これは、医療機関の自主的な報告ですので、比較的アバウ トな表現といいますか、幅広く事例を集めるような中身になっています。  オーストラリアのビクトリア州の例として、「州政府への医療事故の報告制度」があ ります。これは義務ですので、曖昧さを限りなく排除したもので、非常に明確な事例が リストアップされています。2000年時点では、内視鏡の操作の不注意による穿孔という ものもありましたが、現時点ではそういうものは削除されています。これは、現場から の報告で困ったのではないか、ということが推測されます。 ☆スライド  プロセスの問題と、結果の重大性のどちらを重視するのか。医療現場で事故防止をす るときには、結果の如何にかかわらず、そのプロセスの問題性を一つずつ抽出して、こ れを塗り潰していくことが非常に重要であります。事故防止の観点からは、結果が良か ったらそれでいいというわけではない、というのが基本的な考え方です。  しかしながら、これを国全体で集めることになると、例えば大阪大学病院のインシデ ントレポートは、1年間に1,000件以上あります。そういったことが、全国の特定機能 病院から上がってくると、担当機関の処理能力の点からは、結果の重大性を考慮する、 例えば、死亡や高度障害例に限定されるかもしれない。  ただ、我々が経験していることからわかっていることは、例えば結果の重大な事例 を、非常に詳しく十分に分析すれば、そのプロセスに関する問題は大体明らかになりま す。事例がたくさんなくても、数件あれば共通の問題点を抽出することは可能だと考え ています。 ☆スライド  報告件数は、担当機関が対応可能な範囲でなければならない。集めるだけでは何の意 味もありません。我々も自分たちの病院のことで精一杯というところを、国全体で安全 にするために報告するわけですので、そういうことをするのであれば有効に活用してい ただきたい。  集めるだけで放置した場合、最近では医療用具等の不具合報告でジャクソンリースの 問題等もありました。集めて知っていたけれども、情報を現場に返さなかったというこ とでは、担当の方も責任を問われかねないのではないかということで、事故防止領域の ターゲットを明確に限定すべきではないかと思います。 ☆スライド  それでは、どのように限定するのか。事例収集は、各医療機関でかなりやっておりま すので、病院内部での報告、分析、対策との違いを明確にするべきではないかと思いま す。即ち、病院を超えて行う以上、個々の病院ができる以上のアクションや利益が必要 ではないかと思います。逆に、そういったものを期待いたします。  それはどういうものかというと、それぞれの医療機関では稀にしか発生しないような 重大な問題、最近では塩酸リドカインの2%と10%を使い間違ったということが報道さ れました。こういった事故は、報道の件数では1年に1回ぐらいあります。それを経験 した病院は大変なことでありますが、その他の病院はそういったことを知らないことも あります。タキソール、タキソテールのように、名前が非常に類似していることによっ て処方を間違える、というのも1年に1回ぐらい報道されています。  それでは、問題の共有だけすればいいのか。これは新聞記事のスクラップではありま せんので、問題の共有だけでは十分ではないと思います。対策の共有、行政やメーカー レベルでのアクションを是非期待したいところです。  我々が実際にいろいろやっていて、原因もわかっている、対策もわかっている、だけ れどもどうしようもないというものがいくつかあります。1つは「ノット・アベイラブ ルな問題の解決」です。例えば、小児専用のものがあれば、こういうことは起こらない のにというものが、市場で儲からないからということで製品がないという問題。2つ目 の「ノット・アフォーダブルな問題」というのは、安全に人や物に投資ができないとい う問題や良い物があるが高くて買えないという問題。エラーを誘発するようなものの問 題、例えば医薬品の類似外観・名称、医療機器のデザインの標準化がなされていないこ と、アラームのメッセージが非常にわかりにくいといったことは、既に問題もわかって いる、解決方法もわかっているけれども、現場では解決できないというものです。 ☆スライド  担当機関は、原因究明できる情報収集と分析体制を備えていなければならない。医療 機関の中でも、重大な事態を分析しようと思うと、かなり詳細な事実が必要だというこ とと、その部署、病棟の業務のフローや運用方法に関して、これは病院の職員全員が 知っているわけではありませんので、これらの情報を正確にする必要がある。  医療安全対策に、どれぐらいのリソースがその病院で可能であったか、その部署で使 えていたかということを把握しないと、十分な分析ができません。これを、もし国に報 告することになると、多領域にわたる専門的知識の調達が可能なのか、その方々は時間 の確保が十分なのか。現在、医療機能評価機構や厚生労働省のインシデントの収集事業 で、多くの専門家に、ボランティアでさまざまな分析や対策を依頼していると思います が、ボランティアでお願いするのは非常に難しい現状があるのではないかと思います。  それから情熱ですが、自分の所で起こった重大な事故は二度と起こってほしくないと いうこともありますし、患者や家族にきちんと詳細な事実を時系列で原因も含め、対策 も含めて説明したいということもありますし、当事者が刑事責任を問われるような状況 に立たされていることもありますので、相当な情熱と時間をかけて、原因分析と対策を やっています。重大な事態を収集するということであれば、こういうことが求められる のではないかと思います。事実だけを報告して、逆に受ける側が分析や対策をゼロから 考えるというのは現実的ではないと思います。  ここで、オーストラリアの英語の1枚ものの資料を見てください。オーストラリアの 州政府はどうやっているか。事故が発生すると、14日以内に病院のID番号と発生日時 を書いて、どの事例が起こったかというチェックマークだけを付けて、州政府に報告す るようにしています。  それから約40日以内に、各医療機関がきちんと事実を把握し、分析し、対策まで考え て、最終的に報告する。それを全体で共有する、ということで使われているのだと思う のですが、そのようなやり方をされています。 ☆スライド  担当機関は、現場に役立つ形でフィードバックをしていただきたい。分類とリスト作 成、公表だけでは、再発防止は不可能です。これが可能であれば、既にこれまで新聞に 載ったような事例は、二度とどこかの病院で起こっていないはずでありますので、これ だけだとフィードバックとしては不十分です。  臨床的に、正確かつ詳細な情報。さらに、こうしなさいと言われてもできないことが たくさんありますので、実行可能なアクションを考える必要があります。  そして、現在いろいろな分析をしていただいていますが、キーワードを使ってコン ピュータ上で検索することは基本的にできません。そうすると、折角の貴重な情報はほ とんど使われることはありませんので、このような形をフィードバックで期待しており ます。 ☆スライド  誰にとってもフェアな報告制度であってほしいと思います。非常に重大な結果になっ たものは、最近では刑事責任まで問われる事例が増えてきております。事故の再発防止 のためには、当事者が本当に正直な、詳細な情報をくれないことには、全くその事実 も、原因も、対策もできません。  しかし、それが事故の公表を医療機関でもやった、ここにも報告をした、そしていろ いろな情報がホームページに出たら、おそらくあの情報とこの事故は一緒なのではない かと照合可能ですので、その情報のコンフィデンシャリティ、その中身の秘密や免責に ついても真正面から議論していただきたいと思います。  この報告制度には罰則規定があるのかどうかはわかりません。罰則規定があればいい とは思っておりませんが、報告した人、つまり正直者がどんどんペーパーワークが増え て馬鹿を見る、というシステムにならないようなものであってほしいと思います。これ が、各医療機関の中で真摯にやられている現状の中で、国としてやるのであれば是非検 討していただきたいと思う項目です。以上です。 ○前田委員長  ありがとうございました。非常に広範な内容で、事故の基準だけではなく、医療安全 に関する制度設計全体にかかわる部分もありました。併せて2つの報告はつながってお りますので、どちらの報告でも結構です。本日はご意見を頂戴し、次回につなげていく 場になりますので、まずご質問からお願いいたします。 ○山浦委員  国立病院の成果についてお聞きします。資料1の中頃に2行にわたって書いてある、 非常に抽象的な言い方なのですが、既にこれで始まっていて、1年にどのぐらいの量が 報告されるのでしょうか。報告させるのはいいけれども、それをどのようにフィードバ ックして、それが成功しているかどうかを教えてください。 ○柳課長補佐  事故の定義で、厚生労働省本省にはこの定義で報告をしているのではありません。事 故の全体については、まず院内で検討をするための定義です。これは、事故と先ほどの インシデントに相当するヒヤリ・ハットも含めて、院内ではすべて報告をして検討をし ております。  最後の頁に書きました、本省への報告で定義をしております3つの場合の、患者が死 亡若しくはその可能性があった場合、重大若しくは不可逆的な傷害を与え若しくはその 可能性があった場合、抗議を受けたケースが本省にまで報告をする事例としておりま す。我々の所に集まっている事例はこれに相当するものです。それを初めにお断りして おきます。  この条件で、平成13年度はトータルで93件、平成14年度は124件の報告がありました。 その事例のフィードバックという質問ですが、例えば人工呼吸器の事故のような例、そ れによって注意喚起ということで重要なものについては、全病院に通知を出して再発防 止に役立てる。  中島参考人から問題の共有という話がありましたが、そういった形で事例を集計した ものを研修会などで用い、こういう場面が危険である、ということの注意を喚起してお ります。インシデント報告、ヒヤリ・ハットの報告を拝見すると、手術のヒヤリ・ハッ ト報告は割合としては少ないように思います。しかし、実際に事故の報告になると、約 3分の1ぐらいが手術に関係するものだということも、全国的に収集してわかってきた のかと思います。いまのところ、そういった段階です。 ○山浦委員  年に100件前後が報告されているわけですが、病院の母集団はいくつぐらいあります か。 ○柳課長補佐  現在病院は183あります。 ○山浦委員  大体半数ぐらいの施設に年に1つぐらいの割合ですね。 ○柳課長補佐  はい。 ○山浦委員  クラテリアが6頁に書いてあり、(1)(2)(3)とありますが、(2)はなかなかわかりにく いのではないかと思うのです。報告すべきかどうかという点で、国立大学病院では、レ ベルをはっきり決めてあり、3b以上は報告する。国立病院は、(2)についてクラテリ アあるいはレベルを持っているのですか。 ○柳課長補佐  そういった具体的なものは決めておりません。基本的には施設の判断ということにな るわけですが、報告すべきか、報告する必要はないかと迷うような場合は、厚生支局が それぞれの地方にありますので、そこと相談してすり合わせをしているのが現状です。 ○川端委員  国立病院の、報告を要する医療事故の範囲、方向というようなことですけれども、そ れぞれ「当該行為によって患者を死に至らしめ、あるいは当該行為によって患者に重大 な不可逆的傷害を与え」となっていますが、この「よって」というのは、「因果関係が ある場合に」という意味だと思うのです。その因果関係の有無の判定というのは、それ ぞれの医療機関に任せることになるのですか。 ○柳課長補佐  そういうことです。 ○川端委員  それで、医療機関が因果関係の認定のレベルにおいて、厳しすぎたり、甘すぎたりと いう問題は生じないものなのでしょうか。 ○柳課長補佐  その判断の結果として、報告を受けたものを我々で持っていることになりますので、 判断に困るものがどのぐらいあるのかがわかる資料があるということではないのです が、そういうことで困っているという話は聞いておりません。 ○川端委員  因果関係が非常に明白なものしか報告されない、という危険はありませんか。 ○柳課長補佐  そういう解釈を施設がすれば、報告しない場合も出てくる可能性はあると思います。 ○川端委員  中島参考人にお伺いします。実際の事例として、医療クオリティ審議依頼書というの は、年間何例ぐらい出てくる状況ですか。 ○中島参考人  件数については、病院の許可が必要かと思うのですが、参考ということで、インシデ ントレポートは年間1,200件〜1,500件です。これは公表することが、病院で決まってい ます。医療クオリティ審議依頼書は2桁です。そのうち、組織的に過失による医療事故 と判断したものは1桁です。 ○川端委員  医療クオリティ審議委員会というのは、専ら院内の組織ですね。 ○中島参考人  はい。 ○川端委員  医療事故対策委員会も、やはり院内のメンバーだけの構成ですね。 ○中島参考人  医療クオリティ審議委員会に関しては、5頁にあるように事態の緊急性等を考慮し、 夜に開いたり、休みの日に開いたりもしています。基本的に内部の診療科・部長クラス でやっておりますが、ここでは透明性を保った議論をしております。  ここで、過失による医療事故と判断し、医療事故対策委員会を開いた場合は、事の軽 重により、例えば今年3月、空気塞栓という重大な公表をするような事例を経験しまし たが、この場合には外部の方にも入っていただいております。しかし、その場合は対策 というよりは、事故の原因の究明に力を置いております。それ以外のものは、内部の担 当者でやっています。 ○岸委員  関連してお伺いしますが、医療クオリティ審議委員会なるものの判断と、医療過誤の 法的な責任はリンクさせているのですか。 ○中島参考人  法律の専門家は入っておりませんので、医学的な見地からのみです。私の勝手な解釈 かもしれないのですが、もしその事例が裁判になったら、因果関係などで過失は問われ ないだろう、いわゆる医療過誤とは判断されないだろうという事例でも、院内のクオリ ティのカンファレンスでありますので、医療上は絶対に許されないとして、かなり厳し いクライテリアで過失による医療事故と判断しています。  したがって、集合体としては我々の過失による医療事故という集合と、それは裁判に なったときに、医療過誤と判断されるもの、我々が決めているほうが数としては多いの ではないかと思っております。 ○岸委員  3頁のいちばん最後に、情報公開のことが触れられています。この情報公開も、患者 名、執刀医の名前も併せて公表していますか。 ○中島参考人  これに関しては、患者の個人情報を守るということが基本ですので、事故報告書に書 く情報はきちんと決めています。患者の名前、ID番号は書いてありますが、公開する ときにはそこを墨塗りします。医療従事者に関してもプライバシーということがありま すし、別に犯罪者ではありませんので、そこでは「主治医が」とか、「病棟医長が」と か、「診療科長が」とか、「看護師は」という表現はしておりますが、固有名詞は出て きておりません。  そして、最終的に担当の診療科長や部長が報告者としてサインをすることにしており ます。 ○岸委員  その報告書をそのまま司法の場に使われるということも考えた上で、あるいはそれを 了解して公表しているわけですか。 ○中島参考人  我々としては、再発防止、いわゆる正直さ、真実の究明ということと、懲罰というの は相反する部分があると考えています。事故防止のためには、できるだけどんな情報で も出してほしいという面があります。その一方で、このことをタテにして、何も情報は 公開しませんということでは、現在の世の中は耐えられないだろう。そのため院内で過 失による事故と判断したものに関しては、事実、原因、再発防止は明らかなものであり まして、どこかに隠しだてするものでもありませんので基本的に情報公開する。そして 公開された情報がどう使われるかは、我々のコントロールを離れていると考えておりま す。しかし、それ以外の文書に関しては、基本的に非公開というポリシーをとっており ますが、情報公開法で請求された場合は、別の担当委員会で判断すると思います。 ○山浦委員  2人に対する質問ではないのですが、岸委員のご意見を聞きたいと思います。予防の ために我々はこういう報告書を作っているわけですが、これはまだ免責にされていない わけです。それが、どのように利用されるかわからないという不安を抱えながらやって いるわけです。メディアから見た場合に、かなりご理解は進んでおり、我々の努力と失 敗の辺りをよくご存じだと思うのです。その上で、メディアでは免責についてどうお考 えなのでしょうか。 ○岸委員  私が、メディアの代表として申し上げるのが正しいのか、そういう責にあるかどうか わかりませんが、私がいま注目しているのは、航空機事故調の調査結果が司法に使われ た、ということに対して機長が争っている事案があります。この間、こうした問題で、 事故再発防止の観点からだけ調べるのか、当然刑事責任も付随して問われるべきものな のかという議論があります。  いま議論しているのはまさにその部分だろうと思うのですが、これを黙認すると、社 会正義に反するという事例もあると思うのです。基本的に私たちがいまやっているの は、事故再発防止が最大の眼目です。そのために、私たちはいま、どういう形で収集す ればいいかと。まさに、いまご指摘のように、その中で刑事責任追及との調和をどうす るのかという話なのですが、これが大阪大学のようにランク付けがピシッとクリアにで きるかどうかわかりませんが、中にはこれを見逃すことが社会的に許されざる事例とい うのはあると思うのです。  反面、このケースでは、ある意味で刑事責任を追及するよりも、事故再発防止の観点 から、ある種免責をしてでも外に出したほうがいいという事例もあるのかと思うので す。これは、個別具体的にどういうケースが想定し得るのかわかりませんけれども、原 則としてはある一定程度の免責を保ちつつ、しかしこれをそのまま、全く刑事司法の場 に引き出さないで拭ってしまっていいのかという事例もあり得るのだろうと思うので す。その場合の比較考慮というのは非常に難しいのだろうと思うのです。これ以上は、 想像だけの観念上の話です。 ○山浦委員  ある程度の免責は認めたいということですか。 ○岸委員  私個人的にはそういうことです。 ○前田委員長  いまのところは、1つ大きなポイントになっていくと思うのです。刑事免責のシステ ムは、欧米と日本では基本的な発想が違います。オーストラリアやアメリカの議論を参 考にしつつも、やはり日本型のものを作らなければいけないと思うのです。大阪大学で も、過失がはっきりして、因果関係がはっきりしているものは、警察への報告をしてい る。6頁で、院外公表の基準の下に、警察への報告で、過失が明白で、死亡したり、重 大な傷害を与えた場合は報告すると言っています。これは、岸委員がおっしゃったこと と同じような悩みを抱えながら、この線をどう引いていくか判断しているのだと思うの です。  全部免責して、ここへ報告さえすれば、どんな重大な医療事故でも、刑事責任を問わ れることはあり得ないというシステムもちょっと無理がある。しかし、このシステム で、予防のため大量の情報といいますか、より多くの情報を、しかも真摯な形で、細か い経緯まで含めて出していただきたい。そのバランスをどうとっていくかの調整になっ ていくと思うのです。そのときには、現場で警察への報告を、どういう基準で、どうし ているかというようなところが、非常に大きな手がかりにはなっていくと思うのです。  それの関連で、国立病院に関しては、本省に集めた情報の中に重大なものがあるか ら、厚生労働省を通して警察庁なり検察庁に連絡するということは絶対に行っていない わけですか。 ○柳課長補佐  それは、いままでありません。あくまでも病院のレベルで判断し、必要があるものは 警察への報告をしております。厚生労働省でということはありません。 ○前田委員長  今度の新しい制度で、国レベルで情報を集めてやっていくときに、先ほどの悩ましい 問題は、現場の病院のレベルでどう区切っていくかのほうがシリアスかもしれないです ね。国のところまで上がってきたものについて、国の段階で、新たに現場の病院が出さ ないものまで警察に出すかというと、そういう可能性は非常に低いですね。  ただ、岸委員がおっしゃったような、ギリギリの判断というのはやらざるを得ない。 どこかでやらなければいけないし、制度的により情報を集めやすいようにするために は、免責みたいなシステムをどう考えていくかということに行き着かざるを得ないと思 うのです。当面は、この検討委員会では事故情報を、どういう形でどう集めるのかを、 かなり急ぐ形で求められておりますので、そういう議論を背景に持っていることを含み ながらご議論いただければと思います。 ○大井委員  いきなり本論に入っていったような気がするのですが、重要な社会正義の問題などの 事柄を議論するのは、もう少し基盤となる意見を調整してからだと思います。 ○前田委員長  それは、ご指摘のとおりです。 ○大井委員  本日は、2人に非常に参考になることをご報告いただきましたので、そのことにつき もう少し深く聞いておかなければいけないと思います。国立病院の報告のときに、最終 的に6頁の医療事故報告書が出るのですが、ここには報告者の名前が載っていません。 それまでの院内の報告書は、報告者があって、印を押すことになっています。これは、 院長などの管理責任者が出すため、というふうに理解してよろしいのでしょうか。 ○柳課長補佐  施設として報告いたしますので、作成者はそれぞれの施設により、院長が作成する場 合、リスクマネージャーが作成する場合、当事者が作成する場合があります。この「関 係者」というところに、基本的に当事者の名前を書いて報告を受けております。 ○大井委員  中島参考人からの報告では、大阪大学は非常に明確です。5頁の図で見ると、医療ク オリティ審議委員会メンバーとか、医療事故対策委員会などを通して、院内である程度 分析した上で持ってきている。国立病院の報告書では、誰が、どこでどういうふうに報 告するのかがわからなかったので質問させていただきました。  因果関係は、先ほどの話では「病院の判断に任せる」というところの、「病院の」と いうのがよくわからない。「病院の」といっているのは、どこを指しているのでしょう か。医療安全管理室でしょうか、それとも管理者会議でしょうか。 ○柳課長補佐  基本的に、院内でインシデントも含めた事故事例というのは、医療安全委員会に報告 されます。まず、ここですべてを議論する形になります。この医療安全委員会におい て、本省に報告すべきものに該当するという結論になった場合に、本省に報告が行われ る形になります。 ○大井委員  6頁の確認欄に、医療安全管理委員会委員長と、医療安全管理者がチェックすること になっていますが、それをチェックしないで上がってくることは絶対にあり得ないとい うことですか。 ○柳課長補佐  はい、ありません。 ○大井委員  この欄を設けた理由は何でしょうか。 ○柳課長補佐  組織ですので、そこでしっかりと議論がされています、という確認です。ただし、第 一報という形で、組織として対応が必要な場合には、詳しい議論を経ずに第一報として 事実だけ報告を受ける場合もあります。 ○大井委員  事故報告について、岸委員からお話がありましたが、そういうことでバイアスがかか るということはないですね。 ○柳課長補佐  もし組織で迷った場合は、厚生局さらに厚生協を通じて本省に相談していただいてお ります。国立病院の場合、組織によって大きなものも、小さいものも、人的なものも、 いろいろな条件がかなりありますので、全体の決まりという形で決めるには、あまり厳 密にするよりも、こういった形にして省と相談しながらやっていくという体制にしてい ます。 ○大井委員  中島参考人にお伺いします。私どもの経験でも、レベル判断というのはそうやさしい 話ではなくて、非常に悩ましい症例があります。インシデントレポートにするか、医療 クオリティ審議依頼書にするかというのは、その当事者が判断するのでしょうか、それ とも同僚の判断なのでしょうか、それとも上司の判断なのでしょうか。 ○中島参考人  基本的には、このクライテリアに従って、報告者が判断するわけです。当事者の気持 としては、少しでも軽いほうに、そして無記名で簡単に入力できるイントラネットのほ う、いわゆるインシデントレポートに報告したい、というのがあるわけです。  それをどうしているかというと、インシデントレポートのほうは、事故防止を担当し ている23名のリスクマネジメント委員会の委員が当番を決め、毎日ほぼリアルタイムで モニターしております。その中での事例は、レベルとして3bに入っているので、医療 クオリティ審議依頼書に出すほうだと判断することもあります。  結果は重大でなくても、そのプロセスに問題があるということを先ほど申し上げまし たが、そういったものに該当する事例は、インシデントレポートに入れてもらったけれ ども、医療クオリティ審議依頼書に出してくださいと言っています。  どちらに報告するのが、その後の組織としての予防や対応として適切かということ は、リアルタイムでモニターしているリスクマネジメント委員会の担当者や、私がおり ます中央クオリティマネジメント部で迅速に判断し、再度現場にお願いしております。 ○大井委員  報告書の流れで、インシデント(レベル3b以上)のものは、医療クオリティ審議依 頼書になるのですが、その場合にはインシデント(レベル3a以下)のものでも、リス クマネージャーが判断すると上がってくる症例もあり得る、というふうに理解してよろ しいですか。 ○中島参考人  そうです。3頁の、医療クオリティ審議依頼書の報告事項の(2)の「緊急または重大 事態」を見ますと、これは患者の結果如何にかかわらず、傷害の結果如何にかかわら ず、例えば異型輸血、手術部位を間違った。4頁の真ん中に四角で囲んである、転倒に よって骨を折った、手術の遺残物など、いくつか具体的なものがあります。  これは、患者がわずかな間に回復したとか、重大なことに至らなくても、これだけは 絶対にというものはある程度決めて現場に周知もしておりますし、そういうものは報告 していただくようにしています。 ○川端委員  中島参考人に資料のことを伺いたいのですが、「オーストラリアにおける州政府への 医療事故報告制度」の2002年、2003年に変わったところの出だしが空白になっているの で、これが一体何なのかが分からないのですが。 ○中島参考人  これは印刷上網を掛けていた所が薄くて消えてしまっているようですが、抜けている 所は網掛けの印があって、そこに該当する部分はどこかと言いますと、(1)の患者誤認 及び部位間違い、(5)の永続的障害または死亡に至るような空気塞栓、(6)のABO異型 輸血、(7)の病棟での患者の自殺、(8)の手術材料の遺残物は残っています。残りは全部 なくなっています。 ○川端委員  それに加えて、誤投薬とか母体死亡、出産や分娩にかかわる高度障害、新生児誤認 (誤った家族に渡したもの)が報告対象ですが、英文のほうを見ると、いま言われた8 項目に加えて9項目目に、アザー・カタストロフィック・イベントというのが付いてい ますから、重大結果が発生した。つまり、死亡事故が起こった場合は、やはり報告する という制度なのではありませんか。 ○中島参考人  9番目はどのように解釈するかは私も詳細は分かりません。 ○川端委員  先ほどどんな報告制度がいいのかというお話があって、私も非常に参考になりまし た。予防可能なものでなければ報告する意味がないというところで、合併症、不可抗 力、副作用は要らないというお話からスタートしているのですが、合併症、不可抗力、 副作用と言えるかどうかは、実はいちばん大きい問題になり得ると思います。それを病 院側がみんな合併症、副作用、不可抗力だ解釈してしまうと、それが裁判所なり一般社 会の考える基準と違うこともあり得ると思いますが、その辺はどう扱えばいいのかとい うのは、どうお考えですか。 ○中島参考人  先生のおっしゃるとおりです。ただし、正しく薬を使った副作用、正しく使ったが、 機器等に不具合というのは、すでに厚生労働省の中に、現場からちゃんと上げるように という医薬品の副作用報告制度、不具合報告制度がありますので、そちらを活用するべ きだと思います。  その一方で合併症というのは、非常に難しい問題で、医療クオリティ審議依頼書で出 すのかどうかを明確にしようとしています。例えば、阪大病院ですと、基本的に患者に きちんと説明して、同意書を取ってカルテに書いてあるもの、医療従事者のチームの中 で、プロセス・手技には問題がないと考えているようなもの、起こったあとでご家族に きちんと説明して納得を得られているものは報告しなくていいとしています。  しかし、ちょっとだけ後ろめたい部分があるとか、きちんとやっているが、家族に理 解していただけず、医療過誤と誤解されているもの、ちゃんとやったが説明が十分でな かったと反省すべき点があるようなものは報告してもらうようにしています。  いわゆる侵襲的手技や手術に関する合併症に関しては、例えば、ピンポイントで何か 問題があった、しかし、その部分は短時間で回復した。そのあとにいろいろなクリニカ ルなエピソードが起こって、最終的には患者が亡くなるとか、寝たきりになるなどとい うことは、医療現場の場合は少なくないわけです。  合併症の一言で片付けられない問題事例がたくさんあることは事実ですが、合併症が 報告義務の報告事例になった場合、病院は一体どの事例を出していくのか。そして出さ れたものを、「本当に中身が問題だった」「いやいやこれは本当に医学的に大丈夫でし た」ということを、どのように担当機関は検証するのかとなると、その病院まで行っ て、インタビューして、カルテもフィルムも全部出してという話になりますので、報告 を受けるほうのキャパシティの問題になるのかと思います。 ○稲垣委員  国立病院部の医療事故の報告書の記載の仕方が、かなり抽象的だと思います。私ども が報告を求める場合は、予防・医療の安全を図るということが主眼として行われるわけ ですから、できるだけたくさんの報告を求める必要があるわけです。そういった観点か ら、もっと具体的に、例えば、重大なこととは何か、あるいは具体的な例として、輸血 の血液型を間違えたとか、患者を取り違えた、手術部位を間違えた、あるいは薬品の誤 投与などの具体的な事実を示して、こういうものがあったら報告しなさいという形にし ないと、報告する立場の人も迷うのではないか。迷った場合は厚生労働省に聞くことに なっているということでしたが、そういった意味では私どもが作っていく場合は、さら により分かりやすい具体的なものにしなければいけないのではないか、という気がしま した。  大阪大学病院のほうは、非常に克明な形で細密に分析されてできているわけです。こ れらの医療の報告すべてについて、正直者が馬鹿を見ないということも、免責とは別 で、十分考えていかなければいけない事項ではないかと思っています。  役所ではなく、警察への報告にまで及んでいますが、警察にまで報告するのは、あく までも例外的で、そんなにないケースだと思います。私どもが報告を求めるのは、あく までも医療の安全・予防のためであるという観点で進めていくべきではないかと考えて おります。 ○星委員  本省でやられている話を聞きたいのですが、先ほど警察に届けを出せということは指 導をしたことがないとおっしゃいましたが、出された報告書のクオリティが十分ではな い。つまり、原因分析、あるいは再発防止にかかわる記述が十分ではない。それは活用 できないから直せ、あるいはもう1回調査しろということで差し戻したりする事例はあ りますか。 ○柳課長補佐  それはございます。警察に届けろと指示をしたことの有る無しという先ほどの委員長 のご質問は、厚生労働省から警察に届けたことがあるかないかということでしたので、 そういったことはないという答です。  クオリティについては、当然問題があるものについては差し戻しをして再提出を求め ております。 ○星委員  それで十分なクオリティのものが上がってくるのですか。 ○柳課長補佐  何をもって判断するかは大変難しい問題ですが、一応これでいいでしょうという判断 をしたところで受領する形になります。 ○星委員  もう1つ、それに関連してですが、先ほど中島参考人が、かなりの労力と時間とエネ ルギーと熱意が必要で、その分析のためにはキャパシティというかアビリティというか 能力も必要だとおっしゃっていました。いま国立病院は180いくつあると言われました が、それらの病院には、たぶん専従のリスクマネージャーがいるのだと思います。彼ら に対する働き掛けというか、クオリティ・コントロールみたいなことは、病院部として はやられているのですか。 ○柳課長補佐  リスクマネージャーの配置は2年前から始まったわけですが、全員がこの11月までに 3日間の研修を終えます。専任のリスクマネージャーのいない施設が数施設あって、そ ちらの施設については副院長が安全委員会の委員長を務めておりますので、それも含め ると、この11月で、一応2年間ですべての施設の担当者も、最低1度は研修を受けてい るという状況です。 ○星委員  ということは、少なくとも今まで93件と124件の本省報告があって、それはある程度 クオリティ・コントロールがなされていて、病院部内では再発防止に活かされていると いうお話でしたが、私どもはそれにアクセスすることはできますか。 ○柳課長補佐  この報告書自体については、情報公開法に基づいた公開をしております。基本的にこ れは行政文書という扱いをしておりますので、その条件での公表という形にさせていた だいております。 ○前田委員長  国立病院のものと、大阪大学のものが、報告をお願いした密度が違うので異なってい るように見えるわけですが、時系列で見ますと、厚労働省でこういう形で枠組みを作っ たということと、阪大病院でこういうシステムを作ったというのは、前後関係というか 因果関係がなくて、同時並行でやってきたということですか。 ○中島参考人  私たちのほうが1年ぐらい先だったと思います。 ○前田委員長  おそらく両者の延長線上に求めるべきシステムが無関係にできてくることはあり得な いわけです。両者のつながりがあって、お互いが高めていくことになると思います。阪 大では1桁の事故報告書があり、それに対して日本全体で国立病院が180あって、2病 院に1個の事故報告がきています。厚生労働省で求めた基準と阪大が医療事故報告書を 出す基準というのは微妙に違うでしょうが、そこでのギャップが若干あるような感じが するのです。阪大は大きな病院ですから、国立病院の中でも事故がたくさん集約しやす いという面はあろうかと思いますが、もう少し広がった形での報告書が上がっていけ ば、つまり、1つの方向性としては、阪大での事故報告書の基準、厳密には詰めなけれ ばいけないところがあります。北大のも前に伺ったのですが、このようなものが1つの 基準として年に1桁だと、これが200だとすると、国立以外にほかの病院もありますが、 1,000ぐらいの症例が年に上がってくれば、処理する可能性、能力の問題があって、か なり事故予防につながる情報が得られるという感じで受け取ってよろしいのでしょう か。これは非常に評価が難しいと思うのですが。  また逆に言うと、年に93とか124上がってきている事故報告の数は、少なすぎるとい う感じなのでしょうか。委員の先生方に教えていただきたいと思います。これから制度 設計をしていくときの、いま動いているものの数で、うんと足りないのか、どうなのか という感覚的なところですが。 ○大井委員  事故の捉え方です。この委員会のテーマである事故報告範囲に絡むことですが、先ほ どご質問してもよく分からなかったことなので、気になっている点をお話させていただ きます。  事故の報告事例を捉えるときに、結果だけから見る方法と、原因を踏まえて見る方法 があります。国立病院も明らかに原因と結果を結び付けた上で報告と規定されていま す。ですから、「当該行為によって」と必ず書いてあります。  ところが、実際の経験からいうと、当該行為が1つでなく、複合していることは決し て少なくないのです。原因が非常に複雑化、あるいは複合していることがあります。だ からこそ、その原因の分析が必要だと、私自身は理解しており、一般的にもそう言われ ていると思います。  そうすると、もし原因と結果を結び付けたものだけを拾い出せばこのぐらいの数かな と思うのです。本来、この委員会で取り上げている報告は、医療に関する安全文化の構 築が主眼であり、結果によっては原因がはっきりしない症例もあると思います。そうい う症例が、もしこの規定だけによると除外されてしまう可能性があるような気がするの です。前回でも私は申し上げたのですが、結果から見ての報告と規定しておけば、それ を探っていくうちに、非常に参考になる原因が見付かる場合があります。そのような症 例が、当該行為によって患者を云々と規定してしまうと、それが抜け落ちてしまう可能 性があるのではないだろうかというのが、いちばん気にかかっています。またそこがこ の委員会の最も中心的議題になるだろうと思っているのですが、いかがでしょうか。 ○前田委員長  前にも伺っていることかもしれませんが、阪大で医療事故報告書を出さなければいけ ないかどうかの基準のところでは、因果関係までは要らないのですか、要るのですか。 ○中島参考人  現場の方々に、これは本当に過失による医療事故だなどということを判断させると、 報告が上がってきませんので、過失があろうとなかろうとこれらに該当するものは、 「まずは医療クオリティ審議依頼書を報告してください、中身の審議は独立した20名の 委員がやります」としています。  したがって、国立病院と根本的にやり方が違うのは、インシデントレポートと医療事 故報告書の2つしかないのではなく、真ん中があるわけです。それについて病院として 受け入れられるのか、そうではないのかを判断する。そこに上がってくるものは、明白 なエラーで結果が重大というのは非常に少なく、いわゆる外科系の手術のプロセスでと いう、川端委員がおっしゃったような合併症関係のものや手技に伴うもので、かなりプ ロの人が頭を突き合わせて相当議論して判断しなければならないものがほとんどです。 ですから、インシデントと事故との真ん中にワンクッションあるというところが、基本 的に国立病院のやり方とは違うと思います。 ○前田委員長  真ん中のクオリティ審議委員会で医療事故報告書を出すとしたときには、結果が重大 なものは全部上げるというわけではなく、因果関係も見てですか。 ○中島参考人  医学的に見てエラーや過失、問題があって、因果関係もあって、結果レベル3b以上 のものは、過失による医療事故として医療事故報告書を提出します。そこで何のスクリ ーニングもありません。 ○前田委員長  その報告書が、即厚生労働省に上がっているわけではないわけですね。 ○中島参考人  厚生労働省には報告しておりませんが、本院は文部科学省には全例報告しています。 ただし、他の大学病院は、過失による医療事故のうちのどこまでを報告しているかは、 それぞれの病院しか分からないことです。公表するもの、警察関係といったものに関し ては、保健所、近畿厚生局にも報告しています。 ○前田委員長  先ほどの中島参考人の報告の中で、印象深く伺ったのは、結果の重大なものを何例か 集めて、それを深く探求していくと共通の問題としてかなり解明につながるというご指 摘がありましたが、それは大井委員のご発言とほぼ同趣旨のものと捉えてよろしいので しょうか。先ほど結果の側から絞り込んでいくことでやることが重要である、というご 指摘がありましたね。 ○中島参考人  これはキャパシティの問題がありまして、「例えば、1,000件集まれば役に立つ情報 ですか」という発言がありましたが、ある所に1,000件の事例が集まると、その機関の 分析、対策能力は完全にパンクします。例えば、1人しか担当の人がいないのなら、複 雑な事例の場合、年間3件だけで、その人の仕事はパンクしてしまうのではないかとい うぐらい大変なことになります。例えば、我々が公表した重大な事故の場合、外部の方 にも入っていただいた事故調査委員会は8回開き、1回につき5〜7時間開催していま す。その間、必要な情報を集めるために私は3〜4カ月ほかの仕事は全くできませんで した。それぐらい1つの事例の分析と対策を真面目に考えると時間がかかるわけです。  例えば、異型輸血を患者にしてしまったが、ちょっとだけ血圧が下がって回復したと いうこともあります。しかし、ある病院では患者が亡くなるわけです。亡くなった重大 な事例をよく分析すると、それはヒヤッとして終わった場合の問題も全部含んでいると いう意味です。ですから、理想的なことを言えば、プロセスの問題を含む事例はすべて 把握して分析すればいいわけですが、それは医療機関がやるミッションで、国全体とし てやるときには、ある程度の重大性という網が掛からないと、数がとんでもないことに なるのではないかと思います。 ○山浦委員  先ほど前田委員長が、年に1,000件あった場合どうかというご質問をされたかと思い ます。1,000件と言いますと、ワーキングデー1日当たり4件です。毎日違ったものが 出てくる、あるいは同じものかもしれませんが、それを分析するのは想像を絶するボ リュームだと思います。 ○前田委員長  そういうことを伺いたかったのです。逆に資料が少な過ぎても機能しないというか、 医療安全の観点でこの委員会を作って分析し、それをフィードバックしていくときに、 必要量が集まってこなければいけないし、必要な事故が集まってこなければいけないと 思うのです。先ほど伺っていて、任務分担の問題として、各病院がリスクマネージャー を採用しておられ、そこでの分析もあるわけです。その上に乗せて国では何をやるべき か、という問題も考えていかなければいけない重要なポイントになってくると思いま す。 ○山浦委員  分析能力が限られると、何が何件というデータで終わってしまうのです。患者は何人 亡くなりましたと、それだけフィードバックしていただいても何もならないのです。中 島参考人も言いましたように、1件についても何時間もかかるようなケースが、時々と 言えどもあると思います。それを深く分析しないと本当の目的は果たせないと思いま す。ですから、年に1,000件分析というのは想像を絶するような気がします。 ○前田委員長  要するに多すぎるということですね。 ○大井委員  先ほど発言したのはそういう意味だったのです。私は前回の委員会でもお話したので すが、重要事例というのは結果で判断していくと、非常に参考になる事例が見付かる。 その1例1例が非常に参考になります。ただ、そうかと言って、結果だけで見て拾い出 していくと、非常に参考になる事例ばかりがあるとは限りません。そう深く検討しなく てもいい事例もあると思います。そういう事例はこの委員会では撥ねていいのではない か、というのが私の意見です。ただ、そのようにしていくと、全体の傾向が分からな い。例えば、誤診の問題や部位誤認などが一体どのくらいあるかということが分からな い。そういう傾向を知ることも極めて大切です。  前回の委員会で私が主張したのは、各医療機関にはすでに医療安全対策委員会などが あるわけですから、そこでまとめた数だけをいただく。全体として、いくつの医療機関 でこれだけありましたということで、その中の判断はさまざまであっても構わないと思 うのです。それを集計したものが役に立つと思います。これは事故報告範囲の事例報告 とは異なる問題ですが、結果だけを見ていくと原因が落ちていく可能性があり、原因を あまり取り上げていくと、非常に重要な事例が落ちてしまいます。ですから、報告事例 としては結果で判断し、各医療機関で集計している原因別の統計をまた集めるという、 二面でいくのがいちばん参考になるのではなかろうか、と前回も主張したわけですが、 是非検討していただきたいと思います。 ○山浦委員  傾向を知るのだったら、この場でやっているインシデントレポートで足りないでしょ うか。それで傾向は分かると思いますが、問題は予防につなげる。何が何パーセントと 知ったところで、それは予防にならないわけですが、1例1例突っ込んで予防につなげ る何かを見出すのが、この会の目的ではないかと思います。 ○前田委員長  フラストレーションと言いますか、いろいろな段階があり得ると思います。非常にイ ンテンシブに、その経緯などを分析して、それをフィードバックすることが医療現場に 非常に役立つパターンと、インシデントレポートで全体の傾向をというのと、その中間 にある程度重大な結果が起こっているけれども、そんなに分析をしなくてもという骨組 は、もう一歩突っ込んだところで考えていただければと思うのですが、阪大のインシデ ントレポートみたいなものと、いま厚生労働省で把握しているインシデントレポートの 全国レベルのものとの内容的な差はないと考えてよろしいわけですか。  全国レベル3a以下はインシデントレポートでやっておられるという説明をいただい たわけですが、3aなどというのは、必ずしも日本共通の基準ではないと思うのです が、ほぼ同じようなもので、大体日本中のインシデントレポートが動いていると。これ は厚生労働省に伺ったほうがいいのかもしれませんが。 ○医療安全推進室長  私どもがいただいているマニュアルですと、このレポートはイメージとしては3a以 下のものをいただいています。残念ながら、全部の医療機関からはまだいただいていま せん。 ○前田委員長  もっと抽象化したほうがいいのでしょうが、その上の医療クオリティ審議依頼書レベ ルのものが厚生労働省に集計されていることはないわけですね。 ○医療安全推進室長  ないですね。 ○前田委員長  これは秘密情報というか、もっと重いものだけは情報公開の対象になると言われまし た。個人名、担当医師の名前はもちろん消すまでもなく、書かなくてもいいわけです が、こういう情報が集まることもそれなりに意味はあると思います。ただ、クライテリ アの共通化とか、非常に困難な作業を伴うのかもしれないのですが。  今回は国立病院ということですが、厚生労働省に伺いたいのは、当面考えている大き な病院というのは、全体でいくつぐらいあって、その中で国立病院の占めるパーセンテ ージはどのくらいですか。 ○医療安全推進室長  基本的にはすべての病院から事故報告をいただきたい、というのが究極的な目的で す。ただ、現時点では、いわゆる特定機能病院と言われている病院、それから国立病院 で、病院数では300弱になると思います。 ○前田委員長  このシステムは、厚生労働省から説明いただいた線では、ごく一部を除いてリスクマ ネージャーが入っているということですが、報告体制は国立病院に関しても完備してい るということですか。 ○柳課長補佐  はい、すべての施設がこの条件で運用しております。 ○前田委員長  それを前提で考えてよろしいわけですね。 ○柳課長補佐  はい、もちろんそうです。先ほど大井委員のご指摘の当該行為というのは、例えば、 過失のある医療行為とか、そういう意味ではなく、例えば、手術中や大腸の内視鏡の検 査中にといった、かなり広い意味とお考えいただいたほうがいいと思います。そういっ た当該行為という意味ですので、例えば、ある過失や因果関係のはっきりとした原因が あるものだけを報告ということではなく、手術中に原因が分からないが、心停止が起き たというような事例は、当然報告の対象になってくるとご理解いただきたいと思いま す。 ○大井委員  分かりました。 ○川端委員  もしそうだとしても、ここに書かれている「報告を要する医療事故の範囲」の表現 が、因果関係のある場合としか読み取れないということがありましたので、先程質問い たしました。 ○星委員  中島参考人の話で(5)の内部報告との違いで、それぞれの病院ができること以上の アクションや病院にとっての利益があるべきだというのは、まさにそのとおりだし、も う1点言われたのが、それぞれの病院では非常に稀だが、重大な問題で共有の価値のあ るものという、この2点はまさにそうだと思います。どういうものを出すのかというと きの切り口として、事の重大性や結果の何とかという話をしていますが、まず考えなけ ればいけないのは、内部報告というのが、どの程度までされているということを1つの 基本というか基盤として考えるということ。そして、たぶん内部報告の、あるいは内部 でのいろいろな調査のやり方を支援していくような仕組みを、もしかしたら今回のこの 制度の中にも包含できるのかもしれないと思うのです。ですから、最初からあまり出来 上がったものを想像して、こういうものと言って出させて、それでフィードバックをし て、みんながハッピーということになる前にやる必要があるものがかなりあると思いま す。  というのは、阪大の例のようなものには、たぶん医学的に、医療的に許せないという ものと、明らかに過誤であるというものを見極めようとする努力を少なくともされてい る。そして、その両方とも自分たちの問題として捉えている。しかし、いわゆる事故と 言って外に出していろいろなことをする場合には、例えば患者を取り違えた、あるいは 薬を間違えたという、あってはならない過誤と、医療水準で私たちの病院では許せない というものと一生懸命分けようとしている。そういう努力をしている病院が、世の中に どのくらいあるのかと考えたときに、残念なことですが、必ずしも十分ではないのかも しれません。  したがって、私は事故報告の仕組みは報告の範囲を限定すべきだ。つまり、報告させ る病院の範囲を限定すべきだと、これまでも申し上げましたが、その1つの理由は、あ るレベルまでそういう病院が育って、そういう見本が示されることも必要で、その仕組 みを私たちは考えるべきであって、発生がどうしたとか、そのために何を共有するかと いうのは、もしかすると、その先に期待できる効果なのかと考えました。  中島参考人に教えてもらいたいのですが、先生の立場から、このプロセスを開発し、 このグレーの所をどちらにしようかと何時間も何カ月にもわたって、いろいろなことを されてきたときに、阪大ならかなり資源も豊富でしょうし、いろいろなことができると 思うのですが、一般の病院やほかの病院を想像したときに、どんなものが資源として必 要だったのか、どういう援助が外部からあったら良かったのか。あるいは実際に受けた のかを是非とも聞いておきたいと思います。 ○中島参考人  確かに私たちもプロフェッショナルがたくさんいるから、非常に簡単に何でもかんで もできるというわけではなく、先ほど来、前田委員長がおっしゃっていることも少し関 係があります。例えば、阪大で医療事故報告書を作成したものに関しては、分析や原因 の究明が簡単だったかというと、どれもこれも全然簡単ではなく、それぞれ内部に調査 班を作り、1週間や2週間その部隊でいろいろ調査をしているわけです。したがって、 簡単に分析できるものはありません。  例えば、抗不整脈剤である塩酸リドカインの2%と10%を取り違える。取り違えるの は確認しないのが悪い、知識がないのが悪いのでしょうか。これは知識のある人たちが やっている失敗です。阪大では2%と10%、両方入っていましたが、院内から10%製剤 を削除しました。必要だから採用したわけで、患者が非常に重症な心不全で、水分を 絞って、濃い薬でなければ臨床上、不都合だという理由があってやってきたわけです。 削除のプロセスの中では循環器の専門家、心臓外科の専門家、ICUの医師たちが集ま って、本当に臨床的にそれを削除してもいいのかどうかを議論したわけです。ある病院 では、そういうことができない。それは人がいなくてできない、知恵がない、若しくは 外圧があれば動けるとか、いろいろな事情があるかと思います。我々のこういう対策の プロセスや対策の結果を、比較的有用な方法として使っていただけるようなシステムで あれば、この報告も喜んでやります。さらに、それは「塩酸リドカインの外観を似てい ないようにしなさい」と厚生労働省がメーカーに言っていただけるともっと話は進みま す。  タキソールとタキソテールというのは、両方とも抗がん剤ですが、名前がそっくりで す。類似名称のための事故は、いろいろな病院で起こっています。コンピュータのオー ダリング上、2文字で薬を検索することが通常でしたが、例えば、阪大病院ですと、シ ステムを40万円かけて変えて、3文字の検索にしました。ちょっとシステムを変えるの に、まずはお金が要るわけです。改変をした後でも「タキソ」と入れると、この薬は規 格違いを入れて4つ出てきます。ここで警告画面を出す工夫をしていますが、病名とリ ンクさせて、情報システムをブロックさせるなどということは、ものすごいお金が要 り、現実的には人が確認しているわけです。こんな状況では永遠に同じ事故がどこかで 起こるわけです。そういう事故をなくしましょうと言うのなら、そういうものを集めて いただきたいですし、アプローチを考えた上で情報を収集していただきたいと思いま す。  川端委員が発言された内容を、前回の議事録で読ませていただいたのですが、例え ば、ERCPという侵襲的な手技を名人がやっても、ある一定の確率で膵炎が起こった り、重症化することもあるわけですが、そのあとの対応が問題だっ事例を指摘されてい ました。そういったことも非常に重要な医療の質の問題です。それを報告義務の中で集 めるのがいいのか、例えば、そういうものが訴訟で判決が出たときに、我々は判例文を 読んでも最後まで読めません。クリニカルにどうすればいいのかという解釈や、先生方 にお知恵を出していただくようなフィードバックの媒体があれば、それでもいいのでは ないかと思わなくもありません。若しくは、そういうのは内視鏡の学会が、「これこれ に関しては全例を集めてアクションを考えましょう」ということでもいいと思うので す。その辺は一体どのレベルで介入するのかを想定した上で、是非検討していただけれ ばと思います。 ○前田委員長  先ほど星委員がご指摘になった点は、非常に重大なポイントで、阪大の報告の言葉を 使ってしまうのですが、医療クオリティ審議委員会メンバーとか、コアメンバーみたい なものができていれば、過失の認定や因果関係の認定などを含めても、そこがある程度 信頼できる形で出してきた、選んだものだから、信頼できるという関係があると思うの です。  それがないと、どうしても自分に有利なように隠してしまうことになってしまう。厚 生労働省が信頼の置ける制度をバンと作ってというだけではなく、トータルで国民が信 頼の置ける医療になることがいちばん大事で、最も合理的な道はどれかということだと 思うのです。その意味ではクオリティ審議委員会的なものが作れるのは、どの大きさま でなのか、それを援助するにはどういうものなのかを、片一方で絶対考えていかない と、信頼できないからともかく形式的にきちんと縛って、これだけは絶対出しなさいと トップダウンでギリギリやったところで、どれだけ有効な情報が集められるかというこ となのだと思います。医師の良心から見て、これは出さざるを得ないというのがスッと 上がってくる形に何とか持っていけるのがベストだと思います。  私などは医療の現場は分からないのですが、国立大の300の病院ではそれができるか もしれません。それを広げるのは非常に困難だということになると、またシステムが非 常に難しくなります。当面は現にこうやって動いている所があるとすれば、それを1つ のモデルとして考えていくということは、1つの方策、方向性だと思います。 ○岸委員  中島参考人に教えてほしいのですが、インシデントレポートと医療クオリティ審議依 頼書の落差ですが、いまインシデントレポートというのは、一定程度の範囲で求めてい るわけです。私の素人考えでは、インシデントとクオリティ審議依頼書に至るものとは 根っこは同じなのだろうという気がするのです。根っこはつながっていって、もう1つ 山を越えてしまうとクオリティ審議の段階に入るのかなという気がするのですが、イン シデントと医療クオリティ審議の対象は、対比してみると、別々に集める意味があるの ですか、異質なものですか。 ○中島参考人  それはとても素晴らしいご質問だと思います。根っこは同じです。しかしながら、現 状を申し上げますと、インシデントレポートで報告される事例は、どちらかというと医 療上受け入れられるリスクがとてもたくさんあります。報告書の大半はナースです。本 院では医師からの報告が全体の3割ぐらいと異例の報告の割合の高い医療機関です。多 くの医療機関ではドクターからのインシデントは1、2%しかないという発表もありま す。  その一方で医療クオリティ審議委員会に報告されるものは、医師からの報告が大半で す。そして、一言で白だ黒だと決められないものがほとんどです。手技だったり診断能 力であったり、医療機関内のリソースや診療体制、研修の指導体制など、さまざまな 根っこの深い問題を抱えて、それを解決しないと、なかなか解決が難しいという問題が 含まれています。 ○星委員  阪大の話を聞いていて、私たちは何のために集まって、何のための議論をしているの か、一瞬分からなくなってしまったのです。大切なことは、今おっしゃったこと、つま り、私が感じたのは、実はインシデントレポートでもない、そして事故のあったことを 外に出すことでもない、自分たちのやった医療行為が本当に受け入れられるのかどう か、そしてそれは回避可能なのかどうか、それはみんなにとって有用かどうかという議 論を熱心にやられている姿なのです。たぶん我々の医療界に欠けていた部分は、医療事 故を隠したり、ごまかしたりすることよりも、むしろそれをきちんと議論することを潔 しとしてこなかったところだと思います。ですから、外から手を突っ込んで、「こうい うものは出しなさい」ということによるインパクトと、内部から自分たちの医療の質を 上げていくために必要なプロセスを持ちましょう、ということのインパクトのどちらが 大きいかを考えたときに、もしかしたら後者ではないかと感じざるを得ないのです。で すから、外から頭ごなしに「これとこれは出しなさいよ」ということが、政策的に何か 重み付けを持って、そういうものを撲滅するのだという目標が明確で、かつ、出口があ る程度見えているものに対してやることには価値があるのかもしれませんが、ある範囲 を決めて、「さあ、出しておいで」ということだけでは解決しないし、むしろ問題を複 雑にするのかと思います。  今日のテーマではないのかもしれませんが、阪大ではどのようにそういうプロセスを 作っていったのか。最初から阪大の先生方が「そうしましょう」と言ったとはとうてい 思えませんので、中島先生がいろいろなことをされたのだと思いますが、組織的に何か の決定があって、それをみんなが受け入れるというプロセスがあり、そして今の仕組み ができている。国立病院部がやられたのは、どちらかというと、かなり現場に任せてい る。その陰に、実は私は不安な部分があります。ただ、阪大のボトムアップ型の考え方 というか、病院の中で自分たちでやろうというプロセスを、先生の奮闘記になってしま うかもしれませんが、どういうものがそれを変えたのかということを、重大報告をする しないとか、させるとか、範囲をどうこう決めるということとは違うのかもしれません が、私は是非とも聞いておきたいし、その話はすべての医療機関に聞いてほしいと思い ます。 ○中島参考人  私たちも内部ではこれをピアレビュー(内での厳しい審査)と呼んでいます。これは 外からやりなさいと言わても、なかなかできなかったと思います。ただ、ピアレビュー のプロセスが医療界にこれまでなかったかというと、そうではありません。例えば、第 一外科は第一外科のカンファレンスがある、最近では医局単位ではなく診療科(臓器) 別の消化外科は消化外科のカンファレンスがある。それに加えてそこの部署でしか情報 は共有できていなかったのを、病院全体で共有しましょうということではじめたのが医 療クオリティ審議委員会なのです。例えば川端委員が言われたようなことが阪大であれ ば、昔だと消化器内科だけで検討したかもしれませんが今は病院全体として共有します ので、外科系や支援の必要なICUの方やいろいろな人が入って、それを共有して、新 たな診療支援体制ができるというところまで考えます。それは今までなかったものの新 しいものではなく、各固有の部署でやっていたことを組織横断的に病院全体の機能を高 めるつもりでやっています。その代わりお互いに足を引っ張ったりではなく、より良い ものを、失敗のしっ放しでやめることはやめましょう。1つでも新しい良いものを作り ましょうということでやっています。 ○川端委員  それについて、もう少し聞きたいのですが、現在もそうですが、病院に対して社会が 非常に不信感を持っているというのは、病院内でいろいろな問題を隠しているのではな いかというところに非常に根本的なものがあるからです。診療科ごとだけの体制だと、 東京女子医大の例が典型ですが、診療科が病院内で自分の科を守るために隠してしまう ということが間違いなくあったわけです。それを外に開くことについて、どういうきっ かけで合意ができたのか。逆にいま医療が非常に専門化していますから、専門科以外の 科の方が、非常に難しい問題になると、どのくらい発言力を持てるのかという両面が気 になるのですが、その辺はどうだったのでしょうか。 ○中島参考人  私たちの病院は「よほど重大な事故があって、公表していないことがあって、びっく りしてこんなことを作ったのではないですか」と言われるのですが、そういったことは 一切ありません。何がきっかけだったかというと、なかなか分からないわけですが、医 療の知識や技術を研鑽していくシステムは、これまで縦割りの組織ではありましたが、 横ではなかったのです。それから知識や技術があっても、今のシステムの中ではみんな がピットフォールにはまって事故を起こす。病院としては「魔のカーブをなくしたい」 ということです。それは今までどおり専門家が専門のことをするだけでなく、これは大 学病院の機能として非常に重要で残していく部分ではありますが、横のことはみんなで 総力戦で頑張ろうと。  患者に説明するときにも、何か重大なことがあったときに、「これは診療科と独立し た病院の委員会でも中身を審議してもらっています」ということで納得をいただくこと もあります。医療界に向けられている社会の目の厳しさ、阪大病院では事故が起こって ほしくないという辺りがスタートだったかもしれません。 ○山浦委員  いま阪大が非常にクローズアップされています。国立大学病院は42ありますが、平成 11年1月11日、横浜市大の事件以来、42大学が非常に真摯に取り組んできたその一環で もあるわけです。大阪大学と程度の差はあるにしても、42大学の全部がこういったシス テムを持っています。会議の名前は違っているかもしれません。しかし全部持ってい て、リスクマネージャーもおりますし、報告システムも大体同じようなシステムをとっ ています。今は大阪大学を中心に42大学が集まってレベルなどを討議して行き渡ってい るわけです。  それを私立・公立病院にも働き掛けたことがあります。全国医学部長病院長会議が あって、その中に医療安全の委員会があり、それを通してやろうとしたのです。国立大 学は平成11年の事件を中心にして集まったことがありますが、私学、公立は個々に努力 されているわけです。ですから、全体で集まっても、病院によって全部違うレベルを 持っていると思います。国立大学は大体同じレベルを使っています。1つにまとまるの は大変らしくて、なかなか「うん」と言ってくださらないというのが現状でした。 ○前田委員長  これから制度に関して、国立大学で積み上げてこられたものの延長線上というか、も ちろんそれを活かしたものでなければ意味がないと思うわけです。いま伺っていて、私 立・公立病院になぜ広がらないかという問題は、もっと裾が広いわけです。国民全体か ら見たら、最終的には大きな病院だけの問題ではなくなっていくのだと思います。そこ をどう広げていくかという問題が、いずれ課題になると思いますが、核としての42大学 についての中身を今日伺ったことなどをきちんと確認しながら、どう有効に活かしてい くかを考えていきたいと思います。  私のほうから今後の進行との関係で伺っておきたいのは、内部的にそういう努力をす ることは本質的な問題で、いちばん重要で、自分たちの病院での中身を良くすることは ポイ ントですが、そういうものをトータルに制度化していく中には、外からこういうものに ついては報告しなさいということも、一定の意味を持ってくるのだと思います。  そのときに今日出された資料の中で、オーストラリアの州政府の報告制度が1〜10ま であって、予期せぬ説明のつかない損傷や、判断しにくいものは落ちていったという説 明がありますが、参考に出ているものなども見て、細かいところは別にして、ある程度 の方向性として、例えば、部位の間違い、輸血や死亡に至る高度の損傷など、国全体で その事例をどう分析するかは別として、基準とすること自体はいかがでしょうか。  そういう議論も踏まえた上で、やや唐突な質問の仕方になるのですが、オーストラリ アの報告制度はいちばんリジットというか、狭い範囲に絞ったものだと言われました。 抜け落ちた2、3、4とかいろいろありますが、この程度のものだったら、日本で共通 の認識として、今後の作業の関係で、決して今日の主たる議論の部分をネグるという意 味ではないのですが、今後の進め方として、どうしてもある程度のリストを詰めていく 関係がありますので、感触を伺いたいのですが、いかがでしょうか。 ○大井委員  その点に関して、私はこう思います。今日の参考人のご意見は、そういう意味でも非 常に参考になりましたが、国立病院でおやりになっている方法でいくと、病棟内の自殺 者の報告が出るのか出ないのか。たぶん出ないだろうと気になりました。  自分の経験でも、病院の中で一生懸命治療に取り組んでいた患者さんが、自ら生命を 絶つというのは、医療者にとってものすごく心の痛いことで、何とかして救えなかった だろうかという悔悟の念がいつもありました。それを重大な医療事故だと思っていま す。オーストラリアの中にも入っていますし、アメリカにももちろん入っています。そ のように考えていくと、どうしても結果からある範囲のものは全部拾い上げていったほ うがいいのではないかという気がします。  そういう意味で、中島参考人のこの表が、非常に参考になりました。とにかく何でも いいから、起こった事象は報告しなさい、その上で役に立つか立たないかは内部で検討 していきましょうというのが、基本的なスタンスです。もちろんインシデントとアクシ デントの事故報告とは範囲が違いますが、報告すべき範囲、阪大ではインシデン・アク シデントレポートは、何でも変わったことがあったら出しましょう、入れましょう。そ こから先どのように役立てるかはクオリティ審議委員会で考えていきます、というスタ ンスです。これを参考にしたほうがいいのではないかというのが私の意見です。ですか ら、まずは報告していくという文化を医療機関の中にいかにして育てていくかを、審議 してほしいというのが希望です。 ○川端委員  本当に阪大の取組みは参考になると思いました。院内でそれぞれが熱心に検討すると いうのは、分析のリソースという意味では非常に重要で、それを省略して全部集めて中 央で分析するのは不可能だと思います。ただ、それだけに任せると、逆に社会の今の目 から言うと、医師が医師の基準で勝手に医療事故、過失を決めている。それは社会の基 準とは違うのだという根本的な問題が残されてしまい、それぞれの病院が自分の都合で 報告する範囲を決めているのではないかとしか見られないと思います。  現実問題として、因果関係についても、裁判所は高度のがい然性と言っていて、これ は医学的な因果関係とは明らかに違いますし、過失についても医療慣行に則ってやって いれば過失がないとは言わないのです。そういう意味で外部の基準と医療者の基準と が、ややずれている状況の中で、院内の真摯な検討だけに頼ることはできない部分があ ると思います。  その意味でビクトリア州の報告で、9番目に、やはりアザー・カタストロフィック・ イベントが報告されるようになっていると見えるのですが、その考え方は落とすわけに はいかないのではないかという気がします。つまり、結果が重大なものは、やはり報告 してもらう必要があるのではないか。それについて、もちろん分析するまでもないとい う事例が多く集まってしまうだけの結果なのかもしれませんが、それはそれでやむを得 ません。でもそれがないと社会が求める客観性、透明性を確保できなくなりはしないか というのが、私がいま考えていることです。 ○星委員  川端先生によれば、医療機関や医師は相当程度信用がないということになるわけです が、いまの話で私がちょっと違和感があるのは、自分たちで自分たちに都合のいい判断 をしているではないかということを、今回のこの事故報告の話とどのように結び付ける のか、私には理解できないのです。言っているのはあくまで再発の防止だ、そのために 必要な重大な事故を集めて分析をして、みんなで協議しましょうというスタート地点に あったときに、その病院の中で行われている努力が外に開かれていないからといって信 用できない。したがって、その報告制度自体に意味がないのだという議論だとすれば、 私は反対で、そうは思いません。また別な議論だと思いますので、一緒にされるとこの 問題を複雑にすると思いますので、そのことだけは申し上げておきます。 ○前田委員長  そこのところは微妙で、星委員がおっしゃることもよく分かるのですが、再発予防だ けに特化して、国民の目から見てどう見えるかというのは、どうでもいいという感じに なり過ぎてもちょっと違うのだと私は思うのです。やはり何のために再発防止をするか というのは、患者側から見て、安心して医療を受けるかどうかに最後はつながる。もち ろん自主的に北風政策というか、無理矢理情報を出させて、上から叩けばいいというだ けではなく、内発的な検討などによって、今後こういうところを改めるということが重 要だというのは、そのとおりです。先ほど私がチラッと申し上げたのは、この制度が、 阪大のがうまくいきそうだと見える最大のポイントは、内部でもある程度は客観性を 持って、国民一般から見てきちんと審査をしている。先ほどのここでの議論でもいくつ か出ているように、医師個人に任せてしまえば、都合の悪いものは隠してしまうのでは ないかということを、阪大の中でも、いろいろな現場でも感じておられるわけです。ピ アレビューみたいなものが、ある程度信頼性が高いから、そこにある程度譲れる。た だ、そこのところが非常に玉虫色の言い方ですが、それに対してのチェックを全部除い て、医師は全面的に性善説で医療のためにだけやっている、ということだけで突っ走っ てしまうと制度としてもたない。実質は医師の内発的な努力をいかに引き出すかがポイ ントなのですが、外から見て公正にやっているように見える制度をどう導入するか。そ のために多くの大学病院で阪大のようなものがきちんと出来て、それが完全に揃えば外 からの制度というのはかなり薄くていいというか、ほとんどなくて良くなると思いま す。それはかなり大変なことですし、病院の規模によっても違ってきます。  そこで私が先ほど基準ということで、外からのものをある程度残さざるを得ないの で、ああいう質問をしたのですが、当面、年内にある程度の答えが求められている事故 報告をしなければいけないリストは、阪大のようなもの、理想的なものが病院の中に完 全に揃わなくても、ある程度いまの国民のニーズに合った報告制度になっていく、その 要請にも応えなければいけない、動いていくものだと思います。これでフィックスする ということではないと思うのです。できる限り医師に対しての信頼を国民が持つように して、内部的な努力で自己規律でやっていける制度に何とか持っていくという方向で動 いていくというのは、私も全く賛成ですが、ある程度外から見て信頼感を得られるよう な制度も残していくというのは、法律家は星委員から見ると、理論的ではなく妥協的で 政策的だとお感じになるのでしょうが、ある部分必要ではないかと思います。 ○星委員  私は透明性を確保するための努力は必要がない、と申し上げるつもりは毛頭ありませ ん。これはするべきです。それは病院の中で何が起こったのか、その特定の患者に何が 起こったのかについて言えば、私は一切の陰蔽をすることなく、患者に言うべきだと思 います。ですから、当然のことながら、患者にこういう報告をするということは100% 知らされている必要があるだろうし、そのことは条件だとさえ思っています。  したがって、私が申し上げたいのは、事故の範囲を決めるという議論をするときに、 透明性がどうのこうのという話とは違う次元で議論するべきで、透明性の確保は、その プロセスの中で、それぞれの病院が努力をするべきだろうし、そのことが何かの形で批 判されるのだとすれば、そちらで批判されることであって、この制度を導入したから透 明になって、みんな喜ぶという制度になり得ないという可能性があるからこそ、透明性 を確保するための別立ての考え方が必要だと申し上げているのであって、そこは理解を していただきたい。 ○前田委員長  よく分かりました、理解して進めたいと思います。 ○稲垣委員  患者の立場からお話しますが、目的は予防であり、安全を確保するためですが、報告 すべき事項としては、1つは重大な結果を招いたものです。重大とは、手術や検査や処 置をする前には全く予期しないような結果が起こった。死亡若しくは高度な障害が残っ たようなケースについては、全部報告をすることが大前提としてあるのではないかと思 います。  2つ目には、明らかに間違った医療行為である。例えば、患者の取り違えをしたと か、薬品の濃度を10倍も間違えたなどといった明らかに間違いである事故事例について は、結果や事故責任の有無などの如何にかかわらず、報告をしてもらうことが必要では ないかと思います。 ○前田委員長  次回につながると思います。それは厚生労働省の報告の医療事故の範囲の一部という か、それの書き換えではあると思います。 ○堺委員  前田先生は、この委員会がどういう経緯で開かれたかは、よくご存じでいらっしゃい ますので、いまさら繰り返す必要はないと思います。1つご報告ですが、医療事故の全 国的発生頻度に関する研究が進んでいます。これは厚生労働科学研究所で今年度からス タートしています。本来なら前田委員会の決定を待って、……思います。しかし、時間 的に何年も経ってから、まずは調査をして、対策を立ててということをやるかというこ ともあって、たまたま私が主任研究者を務めておりますので、現時点ではどういうもの をピックアップしているかをご参考までに報告します。  カルテをランダムにピックアップし、その中から3つの経緯で拾っております、1つ は、原因の如何を問わず、患者が死亡しているもの。2番目は、このごろは入院のとき に診療計画書を患者に渡しますが、予定の入院期間を著しく超えたもの(著しくという のはどの程度かということがあります)。3番目は、当初の計画にない重要な治療が行 われたもの。この3つで現在は一応拾っております。 ○前田委員長  重要なポイントになると思います。最後に阪大の中島参考人、何かご指摘いただくと か、ご発言いただくことがあればお願いいたします。 ○柳課長補佐  特にありませんが、再発防止に役立つ良い制度を作っていただければと思いますの で、よろしくお願いいたします。 ○中島参考人  本日は大阪大学の取組みは、私が詳細に存じでおりますので発表させていただきまし た。先ほど山浦委員が言われたように、大枠の部分では国立大学病院は同 じような取組みをしているということをご理解いただきたいということと、「予期せぬ 」とか「死亡」という言葉がここでたくさん用いられましたが、例えば、手術をしなけ れば絶対に助からない、しかし、手術をすれば少しでも助かる可能性があるが、リスク も非常に大きいというものに対して、現場では全力で医療を行っておりますので、そう いったものが全部不透明だ、事故だと言われ、逆に医療現場が積極的な医療をしないで おこうという方向に走らないように、是非ご検討いただきたいと思います。  すでにいろいろな医療機関で様々な取組みをやっており、原因も対策も分かっている が、現場では解決できないというのがたくさんあります。患者に事実を説明したり、 謝ったりする中で、「なぜ国はやってくれないのですか」「なぜメーカーは作ってくれ ないのですか」という声はたくさんあります。患者は安全な医療を受けたいわけです。 事故をなくすのであれば、この領域だけは絶対に事故をゼロにするというターゲットを 1つでも2つでも決めて、それに関する事例を集めてゼロにするように考えていただい たほうが実効性という点では意味があるのではないかと思います。今日はどうもありが とうございました。 ○前田委員長  長時間本当にありがとうございました。また次回よろしくお願いいたします。 ○事務局  まず今後の進め方ですが、一応今年度中になるべく早い時期にこちらの結論を出して いただきたいということで、来月、再来月にも会議を開かせていただきたいと思いま す。日程調整については後ほど事務局から報告があります。次回の日程については委員 長とご相談の上、後日改めてご連絡をいたします。 ○前田委員長  本当にありがとうございました。これで閉会したいと思います。  照会先:医政局総務課医療安全推進室  担当者:新野由子  連絡先:(代表)03-5253-1111