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平成15年10月27日


社会保障審議会 介護保険部会
 部会長 貝塚 啓明 殿

介護保険部会委員
山崎 摩耶
((社)日本看護協会・常任理事)


介護保険制度の見直しに関する意見



I 見直しに当たっての5つの視点

 介護保険制度が開始されて3年半が経過しました。この間、国・都道府県・市町村や介護事業所をはじめ多くの関係者の努力によって、制度創設の趣旨、制度に対する国民の理解と周知が進みました。その結果、要介護認定者・サービス利用者は増加し、介護サービスの社会化が進みました。
 しかし一方で、保険料負担および利用料負担をめぐる問題や低所得者対策のあり方、さらに介護サービスの地域偏在と、在宅と施設の給付のアンバランス、ケアマネジメントの問題など、制度上の課題にとどまらず運用上の問題も少なくありません。
 平成17年度に予定されている制度見直しにおいては、介護保険制度創設時の原点に立ち戻り、その理念の実現と持続可能な制度にするための検討が必要です。十分な議論もなく制度体系の見直しを行なうことや安易な給付の抑制を行うことなく、国民・利用者にとって、よりよい介護保険制度に育てていくために、以下に掲げる5つの視点に立って、日本看護協会の意見を表明いたします。

(5つの視点)
 1. 社会保障制度改革の一環としての制度見直し
 2. 利用者本位の制度見直し
 3. 在宅重視の理念に沿った見直し
 4. 介護予防と医療ニーズに対応したサービス提供の充実
 5. 医療・介護従事者の雇用・労働環境の改善


II 見直しの具体的方向について

1. 社会保障制度改革の一環としての制度見直し


 介護保険制度の見直しにあたっては、中・長期的な視点を持ち、社会保障制度改革の取り組み全体との整合性を考慮した上で充分な検討を行うことが必要です。

1. 制度見直しの方向性について
 今後の年金制度の改革および新たな高齢者医療保険制度の創設の検討状況を見据えつつ、また平成15年度から実施された障害者の支援費事業の実施状況等を踏まえて、今後の介護保険制度の方向性について検討を深める必要がある。
 その上で、給付と負担のあり方、被保険者の対象範囲、1割の自己負担、高額介護サービス費、低所得者対策について、年金や医療等の制度改革との整合性および関連性、さらには連携も含めて介護保険制度のあり方を検討する必要がある。

2. 保険者の適正規模と機能強化
 医療保険制度における保険者の再編・統合、市町村合併の進捗状況、並びに今後の国、都道府県、市町村の役割・機能分担など、総合的に検討するなかで、財政の安定化や事務の効率化、良質なサービス提供等の観点から保険者の適正規模や機能など、保険者のあり方を引続き検討する必要がある。


2. 利用者本位の制度見直し

 介護保険制度創設の趣旨として、社会連帯で高齢者の自立支援をめざし、自己決定の理念や人間としての尊厳を尊重すること等がうたわれています。また住民参加による福祉自治体、地方分権の試金石など、地方自治のあり方をも問うものです。
 このような制度創設の趣旨を踏まえて、要介護者等の権利擁護と尊厳を守るための制度の見直しや施策の充実が重要です。

1. 要介護認定
 1)要介護認定の一次判定の精度向上や訪問調査の仕組みの改善、訪問調査員の質向上などで、一次判定に重きを置き二次判定は困難事例のみを検討するなど、要介護認定の迅速化、効率化、公平性を図り、迅速にサービス提供につなげるしくみを確立すること
 2)利用者の心身の状態に応じて、柔軟かつきめ細やかにサービス提供を行うために、給付限度額も含めて、認定区分の見直しを検討すること

2. 利用者の権利擁護
 1)サービスの第三者評価の仕組み、情報公開、成年後見サービスなど利用者の権利擁護の確立に向けて、住民参加、NPOの取り組みの支援も含めて施策を充実すること
 2)施設における身体拘束禁止の取り組みの徹底を図ること

3. 苦情処理・解決
 苦情処理・解決のための窓口を地域住民の身近に設置し、結果を公表することなど制度の改善に役立たせること

4.広報の充実
 適正、公正な制度利用のために、広報を強化すること


3. 在宅重視の理念に沿った見直し

 地域社会と断絶することなく、住み慣れた街、住み慣れた住まいでサービスを受けることは、痴呆の重症化予防にも効果があります。在宅を希望する者が安心して十分なサービスを受けることができるように、「ゴールドプラン21」を充実するとともに、関係省庁と連携して住宅政策を強化することも含めて、取り組みを進める必要があります。

1.24時間365日ケア体制の整備
 現行の在宅サービスは家族介護力に依存している給付となっていることから、家族の負担が大きく、施設志向が加速していることなどに鑑み、在宅での24時間ケアの体制を整備すること

2.在宅と施設の給付の整合性
 同じ要介護度でも在宅と施設では異なっている支給限度額と実質的な利用料負担を、在宅と施設で整合性がとれるよう見直し、介護の社会化を進めること

3.居宅介護支援サービス
 1)介護支援専門員の資質向上を図るとともに、専門職として自立でき、かつ事業所として確立できるような条件整備をすること
 2)介護支援専門員の受験資格の見直しとあわせて、質の向上のために研修を充実すること


4. 介護予防と医療ニーズに対応したサービス提供の充実

 要支援や要介護高齢者は少なからず疾病を持っていることから、その病状管理や医療ニーズなどへのケアは日常的に必要になります。また平均在院日数の短縮化などで今後ますます、医療依存度の高い要介護者も介護保険利用者に増えることは確実です。在宅・施設ともに医療処置やターミナルケア等に対応できるような体制整備にすることで、要介護度改善や悪化予防などを図ることが望まれます。

1.介護と医療の一体的な提供による支援
 1)医療ニーズのある利用者へのケアプランの問題や看護と介護の連携、業務のあり方について早急に検討すること。また訪問看護師によるケアマネジャーやヘルパーなど他職種への指導ができる体制を進めること
 2)訪問調査から要介護認定、ケアプランにつながるようケアマネジメントシステムの見直しと、高齢者ケアに特徴的な「突発的な変化」や医療ニーズに対応できる給付限度額管理とケアプランのあり方を再検討すること

2. 訪問看護ステーションの整備と活用
 1)訪問看護サービスの量的整備が進まない要因を分析するとともに、迅速な促進策を講じること。同時に、訪問看護ステーションの地域偏在を解消すること
 2)基準該当サービスに訪問看護サービスも認めること
 3)グループホームへの訪問看護を在宅サービスとして適用し、ターミナルケアなどを担う仕組みとすること
 4)「小規模・多機能」型訪問看護ステーションの新設で、医療ニーズのある利用者のケアと家族支援を行うための看護デイケアやナイトケア・レスパイトができるような仕組みを強化すること
 5)入院・入所から在宅へ移行する利用者のソフトランディングのために、訪問看護サービスやリハビリテーションが短期集中投入できるような仕組み(例えば当月の支給限度基準額を引き上げる、又は支給限度基準額の枠外、もしくは診療報酬対応など)を新設すること
 6)介護老人福祉施設等において、入所者のターミナルケア時はスポットで訪問看護が算定できるようにすること

3.介護老人福祉施設の人員配置基準の見直し
 介護老人福祉施設において、入居者へのケアの充実と質向上のために看護職の人員配置基準の引き上げを検討すること

4. 痴呆ケアの充実、等
 1)高齢者介護研究会で指摘された痴呆ケアモデルの構築のための検討を進めると同時に、在宅・施設における痴呆ケアの指導者の育成や痴呆疾患およびケアに関する正しい理解を深めるための研修を進めること
 2)痴呆ケアにおいても人間の尊厳にかかわる排泄ケアは重要であり、高齢者の自立支援や社会参加の促進を積極的に進めるためにも、排泄ケアの質向上を進めること


5. 医療・介護従事者の雇用・労働環境の改善

 より質の高いサービスの提供のために、施設整備よりも大切で難しいのは人材の養成と確保です。サービスの担い手が生き生きと熱意を持続して、そして利用者の尊厳を尊重しながら働くためには、サービスに従事する者を大切にしなければなりません。人を育てることが、介護保険制度の成否を握っているのです。

 1)質の高いサービスの提供に必要な質の高い人材の確保と安定的な雇用のために、看護職・介護職・ホームヘルパー等のサービス提供者の給与水準をはじめ労働条件を改善するとともに、研修等の機会の十分な保証をすること
 2)感染防止対策の強化、労働安全衛生を充実すること

以上


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