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中央最低賃金審議会目安制度のあり方に関する全員協議会報告
平成元年11月1日

 本全員協議会は、中央最低賃金審議会から目安制度の見直しについて付託を受け、平成元年2月以降8回の会合を持ち、鋭意審議を重ねてきた。
 なお、審議の過程において、労働者側委員から別添1、使用者側委員から別添2の見解が提出され、それに基づき意見が表明された。
 その間、本全員協議会では、目安制度に関連する従前の審議経過、答申を踏まえ、目安制度の果たしてきた役割と評価、運用の実態、目安制度開始以降の地域別最低賃金額と賃金実態その他関係指標との比較等種々の角度から検討を行った。その際、目安制度の改正は公労使一致したものでなければ制度改正の実効を期し得ないとの観点から、可能な限り制度改善の方向を見出すべく努力を重ねた結果、下記の結論を得たので報告する。


 目安制度改善の方向については以下のとおりである。
(1)地域別最低賃金の性格と対象については、歴史的に形成されてきた認識を共有できること。
(2)目安制度が地域別最低賃金改定にあたって概ね有効に機能をし、その役割を果たしてきたとの共通認識に立ったうえで、現行制度の一部見直しが必要であること。
(3)目安制度の見直しにあたっては、地方最低賃金審議会の自主性拡大の方向を基本に改善を図ること。
(4)制度のあり方については概ね5年毎の見直しを行うこと。なお、制度の運用については、必要に応じその都度改善に努めること。
 中央最低賃金審議会の目安審議及び地方最低賃金審議会の地域別最低賃金改定審議における参考資料については、適正な水準と全国的整合性の確保を重視する観点に立って改善に努める。
 目安の表示方法については、全国的整合性及び地方最低賃金審議会の自主性を確保する観点から、今後検討を行い、平成2年度からその具体化が図れるよう努める。
 最低賃金額の表示単位期間、ランク区分については合意をみるにいたらず、今後協議する。



別添1

目安制度を中心とする地域別最低賃金のあり方を改善するための中賃労働側委員の見解
1989年7月4日
中賃労働側代表委員

 この課題を検討する場合には、大別して、(1)基本的な事項についての共通認識を確立するとともに、(2)問題点を改善するための具体策について全員協議会としての合意形成をはかることが必要であると考える。
 中賃労働側代表委員は以上のような立場から、下記の通り、その見解を明らかにする。

1 基本的な事項について
(1)地域別最低賃金の性格
 1981(昭和56)年の中賃答申にも明らかにされているように、地域別最低賃金はすべての労働者を適用対象とする賃金についてのナショナル・ミニマムであり、年齢、性、就業形態、業務・業種や企業規模などによって適用除外は行うべきでないと考える。
(2)決定方式改善の方向
 地域別最低賃金決定方式の今後の改善方向としては、
(1) 目安制度導入以前の地賃のみでの決定方式
(2) 地賃での審議決定方式を廃止してすべてを中賃で決定する方式
(3) 現行の中賃目安作成と地賃での決定方式
(4) その他
などが考えられるが、われわれとしては当面(3)の方式を選択する。
(3)目安制度の改善をすすめる基本的な視点
 過去11年間にわたる中賃目安方式の経験から問題点を整理するとともに、その改善に当たっては、ILO131号条約、135号勧告をふまえて対処する。

2 具件的な改善に関連して
(1)中賃目安の作成と参考資料
 中賃目安(公益見解)作成上の最大の問題点は、11年間の後半期において、賃金実態調査の「一般労働者の賃金上昇率」を唯一の根拠にその水準が決定されてきたことである。
 このような実態を改善するためには、
(1) 賃金の一般的水準の変化(賃上げ状況や毎勤の労働時間の変化を考慮した所定内賃金の上昇率など)
(2) 賃金実態調査結果(調査対象企業規模のあり方を検討することを前提に)
(3) 消費者物価や社会保障水準の動向
(4) 賃金の一般的水準(賃構など)と地域別最低賃金額との比較
などを総合的に検討し、決定するシステムとすることが必要である。
 なお、地域別最低賃金の影響率を参考資料として採用する場合には、(1)適用対象労働者のすべてと比較すると同時に、(2)最低賃金違反者を影響率から除くことを前提とする。
(2)全国的整合性の確保と目安の形態
 地賃の自主性を拡大し、地域別最低賃金の各県別順位を是正し、全国的整合性を確保するためには、目安の形態をランク別の引上げ額からゾーン表示(ランク間オーバーラップ方式)に帰るべきである。
(3)最低賃金の表示単位
(1) 地域別最低賃金の主な適用対象労働者は、パートを中心とする時間給労働者となっている。また、40年ぶりの労働基準法の改正によって、法定労働時間の短縮や変形労働時間制が採用されてきている。このような情勢変化をふまえ、地域別最低賃金については、その水準を引き上げると同時に、時間給労働者の賃金支払実態と最低賃金の周知徹底などの容易さなどを考慮して、0〜10ラウンド方式を採用することを前提に時間額表示とする。
(2) 新産業別最低賃金の適用対象である基幹的労働者の賃金支払形態は、月給または日給・月給が大部分で、時間給は殆ど定着していない。加えて、新産業別最低賃金は最低賃金協定を軸とする申請方式である点を考慮すれば、新産業別最低賃金については、それぞれの産業別の条件を考慮した上で決定し、画一的な表示単位を採用すべきではないと考える。

3 その他の課題
(1)現行最低賃金法やその運用についての見直し
 わが国の最低賃金法は1959年に制定され、30年が経過しようとしている。その間、1968年に一度だけ法改正が行われたが、変化する最低賃金問題に対して、法の柔軟な運用で対処してきているのが実態である。
 中賃目安制度についても1983(昭和58)年度に一度だけ検討した経験があるが、結論を得るに至らなかった。
 最低賃金制をめぐる諸情勢が大きく変化する中で、法の適切な運用を確保するためには、中期的(5年毎)に法やその運用について見直すことが必要であると考える。
(2)最低賃金行政体制の拡充
 最低賃金行政を円滑に推進するためには、
(1) 賃金課のスタッフの増員と予算増額
(2) 監督官の増員と最低賃金の周知徹底、違反の解消
などにつとめなければならない。



別添2

地域別最低賃金の目安制度見直しに関する見解
平成元年9月4日
中賃使用者側代表委員

 地域別最低賃金の目安制度の見直しについて、中賃使用者代表委員の見解は下記のとおりである。
 下記見解は、第1に、最低賃金制度の目的は、最低賃金法第1条に明記のとおり、「賃金の低廉な労働者について、事業若しくは職業の種類又は地域に応じ、賃金の最低額を保障する」ことにあること、第2に、地域別最低賃金は、各地域の賃金実態、経済実態を勘案したものでなければならないこと、を基本的な考えとするものである。


 中賃目安制度の意義について
 中賃目安制度は、目安の提示が合理化になされ、かつ、地賃審審議の自主性を確保し、地賃審審議の円滑化に資することを最大の目的とするものである。中賃目安制度は、この目的を満たす限り、その存続の意義があると考える。

 中賃目安の表示等について
(1) 中賃目安の表示は、各ランクごとの引き上げ率による表示を行うこと。
(2) 中賃目安審議および各地賃審の金額改定審議は、賃金実態・経済実態に関する各種データによって合理的に目安の設定、金額の改定を行うべきこと。
(3) 各地域の賃金・経済実態と最低賃金水準の整合性を少なくとも5年に1度チェックし、調整を行うこと。

 目安のランク区分の設定について
 現行のランク区分の設定および各県のランク付け、さらに各県における都市部と郡部の地域格差を無視した一律の最低賃金適用等については種々の問題点がある。
 したがって、目安のランク区分については、各県および各県内の地域格差の実態に則して合理的な設定をめざすべきである。

 日額・時間額表示について
 当面は、現行の表示方式を維持することを妥当と考える。

 賃金改定状況調査について
(1) 調査対象事業所規模は30人未満でよい。
(2) 調査対象地域については、都市部偏重を改め、できるだけ地方小都市、郡部を対象とし、各県において賃金水準の異なる地域の実態を十分反映されるよう調査を行うこと。

 今後の中賃目安審議等について
(1) 中賃目安は、地賃審審議に及ぼす影響が大きい。地賃の自主性が確保されるよう、地方の賃金・経済実態を十分反映させると共に、労使の意見を尊重すべきである。中賃目安の提示時期についての再検討も考慮すべきである。
(2) 超高齢化時代を迎え、高齢者の雇用機会に確保・拡大が今後とも一層の重要課題となる。中賃目安の提示および地域別最低賃金の決定に当たっては、高齢者の雇用を阻害しないよう慎重な配慮を行うべきである。

以上


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