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今後の最低賃金制のあり方について
昭和52年12月15日中央最低賃金審議会答申

 本審議会は、昭和50年5月30日労働大臣から今後の最低賃金制のあり方について諮問を受け、じ来、総会を12回、小委員会を15回開催して慎重に審議を重ねてきたが、別紙のとおりの結論に達したので答申する。

(別紙)
 わが国の最低賃金制は、これまでわが国の社会経済情勢に即しつつ推進が図られてきた。とくに昭和46年度以降は、昭和45年9月8日の本審議会の答申に基づいて「最低賃金の年次推進計画」が策定され、全ての労働者に最低賃金の適用を及ぼすことを目標とし、都道府県ごとに地域内の全労働者に包括的に適用される地域別最低賃金の決定がすすめられた結果、最低賃金の適用は飛躍的に拡大した。昭和50年度には、この地域別最低賃金が全都道府県において決定をみることとなったことにより、同計画の所期の目標は達成され、全国全産業の労働者に対しあまねく最低賃金の適用が及ぶこととなった。また、それとともに、賃金、物価等の動向を考慮し、最低賃金の迅速な改定が行われるようになり、いまや、最低賃金制はわが国経済社会に定着し、労使をはじめ社会一般の最低賃金制に対する関心と理解も従来に比し著しく高まった。
 近年、わが国経済は安定成長へと大きく基調転換を遂げつつあり、最低賃金制をとりまく労働諸事情も変化してきている。過去の高度成長下においては、労働力需給の緊張を反映し、賃金水準も大幅に上昇し、なかでも若年労働者や中小企業労働者等従来賃金の低かった層における賃金上昇には著しいものがあった。しかしながら、今後は、労働力需給が緩和気味に推移することが予想され、立ち遅れた分野の労働条件の維持、向上が需給関係を通じ自律的に行われることを期待することは従来に比し困難となりつつあり、このような情勢のもとで、最低賃金制が低賃金労働者の労働条件の改善に果す役割はさらに重要性を増してくるものと考えられる。
 このような段階において、わが国の今後の最低賃金制のあり方についての検討が本審議会に付託されたところである。

1 審議の経過
(1) 本審議会における最低賃金制のあり方についての今回の審議においては、労働大臣から諮問のあった際重要参考資料として提出された労働4団体(日本労働組合総評議会、全日本労働総同盟、中立労働組合連絡会議、全国産業別労働組合連合)の全国一律最低賃金制についての統一要求および4政党(日本社会党、日本共産党、公明党、民社党)共同提案の最低賃金法案に留意しつつ、最低賃金の中央決定方式を中心として審議をすすめた。
(2) 今後の最低賃金制のあり方について、中央決定方式を根幹とする制度を確立すべきであるとする考え方は、次のような基本的な見解と展望とに立つものである。
(@) 本来、最低賃金は、労働条件に関するナショナル・ミニマムの重要な一環をなすものとして、中央で決定すべきものである。
(A) 今後のわが国においては、労働力の需給緩和にともない労働条件の自律的な平準化の動きにはあまり多くを期待しえない事情にあるので、最低賃金の全国的基準の必要性はますます高まる。
(3) このような見解をめぐっては、次のような論議が行われた。
(@) わが国の最低賃金制の実績は、地方最低賃金審議会の調査審議に基づく決定を原則としつつ発展をとげてきたものであるので、一挙に中央決定へ転換をはかっても円滑な運用が可能かどうか疑問である。
(A) ナショナル・ミニマムの設定は、中央決定に限定されるものではなく、全国的な整合性を確保することが重要である。
(B) わが国の現実の状況の下では、すくなくとも賃金実態に即した地域別決定を考慮する必要がある。
(4) 他方、地方最低賃金審議会を中心とするこれまでの制度運用の実績については、次のような論議が行われた。
(@) 都道府県ごとに、最低賃金を独自に決定するものであるため、
(1) 最低賃金の決定における全国的な整合性を常に確保する保障に欠ける。
(2) 各都道府県においては、それぞれ相互間の比較を重視するなどの事情により、改定作業が遅延するおそれがある。
(A) 地域別最低賃金と産業別最低賃金のそれぞれの性格と機能分担、高齢者の扱い、その他適用労働者の範囲などの点について、都道府県ごとにその理解と取扱いが区々になるおそれがあり、このことは地域別最低賃金が全国的に定着した現段階においては、とくに問題である。
(B) これらの現状から、地域別最低賃金の決定方式について何らかの改善の必要がある。
(5) 以上の論議の結果、本審議会は、当面、最低賃金の決定において中央最低賃金審議会の積極的機能を発揮する方向について検討することを適当と認めた。
(6) 本審議会は、前述のような検討の方向に沿って論議をすすめ、次のような案について検討を行った。
(@) 全国的な最低賃金を中央最低賃金審議会で決定し、これをもとに上積みが必要な地域については、中央最低賃金審議会が上積みの基準を提案するか、あるいは各ランクごとの上積みの最低額を決定するものとすること。
(A) 最低賃金の調査、審議は、地方最低賃金審議会を主体とし、その自主性を尊重する方式が最善であり、中央最低賃金審議会の積極的機能の発揮は、地方最低賃金審議会のより一層の機能発揮に資する方向を基本とすること。
 上記の案をめぐる論議においては、(A)の案をとる立場においても、最低賃金の決定にあたって全国的に統一的な処理を行う必要がある事項については、中央最低賃金審議会が地方最低賃金審議会に対して援助、助言を行うことの必要性を否定するものではないとの見解が明らかにされ、また、(@)の案をとる立場からも、地域的特殊性をもって存在する低賃金の改善にあたっては、地域の実態を配慮しうる地方最低賃金審議会の機能を評価する見解が示された。
 また、地域別最低賃金の決定実績については、最近の状況が従来に比し円滑であったことは評価されたが、今後とも同様な状況が期待できるかについては、問題があるという見解も表明された。
 なお、全国最低賃金審議会会長会議で表明された種々の意見も参考とした。
 以上の審議の結果、労働者側委員の一部の反対はあったが、次の結論が得られた。

2 得られた結論
 都道府県ごとの地方最低賃金審議会において、最低賃金を審議決定することを原則とする現行の最低賃金の決定方式は、今日なお地域間、産業間等の賃金格差がかなり大きく存在し、したがって依然として地域特殊性を濃厚に持つ低賃金の改善に有効である。
 しかしながら、現行方式は、最低賃金の決定について全国的な整合性を常に確保する保障に欠けるうらみがあることも否定しえない。したがって、当面の最低賃金制のあり方としては、地方最低賃金審議会が審議決定する方式によることを基本としつつ、その一層適切な機能発揮を図るため、全国的な整合性の確保に資する見地から、中央最低賃金審議会の指導性を強化する次のような措置を講ずる必要がある。
(1) 最低賃金額の決定の前提となる基本的事項((1)地域別最低賃金と産業別最低賃金のそれぞれの性格と機能分担、(2)高齢者の扱いその他適用労働者の範囲、(3)最低賃金額の表示単位期間のとり方など)について、できるだけ全国的に統一的な処理が行われるよう、中央最低賃金審議会がその考え方を整理し、これを地方最低賃金審議会に提示する。
(2) 最低賃金額の改定については、できるだけ全国的に整合性ある決定が行われるよう、中央最低賃金審議会は、次により目安を作成し、これを地方最低賃金審議会に提示するものとする。
(@) 地域別最低賃金について、中央最低賃金審議会は、毎年、47都道府県を数等のランクに分け、最低賃金額の改定についての目安を提示するものとする。
(A) 目安は、一定時期までに示すものとする。
(B) 目安提示については、昭和53年度より行うものとする。


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