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中央最低賃金審議会目安制度のあり方に関する
全員協議会報告の趣旨、内容等についての説明
中央最低賃金審議会会長西川俊作
於:全国最低賃金審議会会長会議
平成7年5月30日

 私は、中央最低賃金審議会目安制度のあり方に関する全員協議会報告の趣旨、内容及び取りまとめまでの経緯について御説明申し上げます。

I まず、検討を開始した経緯について御説明します。
 現行目安制度は、昭和53年以来17年間にわたって、地方最低賃金審議会の円滑な金額改定審議に資するべく機能してきたものでありますが、平成4年の目安審議の過程で、労働側より、最近一般賃金と最低賃金との格差が拡大してきていること、ランク間格差の拡大は地賃の自主性のみで克服することは困難であること等の問題意識が表明されました。
 このため、平成4年7月27日、第124回中賃総会において、地賃での地域別最低賃金の審議終了後、事務局が早急に公労使の意向を踏まえ目安制度のあり方に関する全員協議会の検討事項等を詰め、直近の中賃総会で議論することが了承されました。
 その後、同年12月8日、第125回中賃総会において、現行目安制度の仕組みのなかで、その改善を図るとの観点から、全員協議会に対し、主として
(1) 最低賃金と一般賃金との関係
(2) ランク区分及び表示方法
(3) 表示単位
の3つの課題を検討事項として、現行の目安制度の見直しについて付託がなされました。
 その後、全員協議会は、鋭意審議を重ね、平成7年4月までに18回の会合を持ち、報告が取りまとめられ、本年4月28日の総会において当該報告が了承されたものです。

II 報告の趣旨、内容等について
 次に、全員協議会の3つの課題ごとに、報告の趣旨、内容等について御説明します。
 最低賃金と一般賃金との関係
(1)第1点の最低賃金と一般賃金との関係は、先ほど申し上げましたように、最近一般賃金に対する最低賃金の比率は低下してきており、これを回復させるべきであるとの労働者側委員からの意見に基づいて検討を開始したものであります。報告書の(別紙3)の資料からも、近年、とくに労働時間の短縮が大きく促進された平成元年あたりから、最低賃金と一般賃金との格差が拡大していることが分かります。
(2)この点につきましては、データに基づき実証的に検討していくことで早くから合意されましたので、全員協議会におきましては3回ほど統計データに基づき実証的な検討を行いました。この過程で、最低賃金と一般賃金との格差については、就労日数の減少が格差拡大の要因となっているほか、使用者側委員の指摘に基づく分析により、パートタイム労働者の増加が格差縮小の要因となっていることも明らかとなりました。
(3)その後の平成5年12月の会合においては、地域別最低賃金額と一般賃金額(日額、時間額)との格差の変化は、今日のように就労日数の減少を中心とする労働時間の短縮や就業構造の変化等経済社会の構造変化が進展しているなかで、一般賃金にはこれらの変化が織り込まれているのに対し、目安を審議する際の重要な参考資料である賃金改定状況調査結果第4表の一般労働者の賃金上昇率の算出に当たって、
(1) 就労日数の減少に伴う賃金の上昇が反映されない仕組みとされてきたこと、
(2) パート労働者も賃金改定状況調査の対象となっているが、一般労働者とは別途集計され、パート労働者の増加や賃金の変動が明確に反映されない仕組みとされてきたこと及び
(3) 男女構成の変化を除去した数値を主として活用してきたこと
が原因であるという整理がなされました。
(4)これを受け、平成6年5月16日の目安制度のあり方に関する全員協議会の検討状況に関する中間的取りまとめにおいては、「今後の目安の決定方式としては、パート労働者の賃金水準とそのウェイトの変化、男女構成の変化、及び就労日数の増減を反映した方式とすることが望ましい」とされました。
(5)その後に行われた昨年度の目安審議においては、第1回の目安小委員会において、「従来の目安決定方式を基本としつつ、中間的取りまとめの考え方に基づく試算資料を事務局において作成の上提出し、当該試算資料も含めて総合勘案の上、目安額を決定する」ことが了承されたため、事務局より同小委員会に対し当該試算資料が提出されました。しかしながら、この「試算」においては、賃金改定状況調査の各年の調査月の所定労働日数が日曜日の数等によって変動するイレギュラー要因を除去するため、毎勤による労働日数の調整が行われていたわけですが、使用者側委員から、
(1) 毎勤は、実労働日数を調査しており、欠勤・有給休暇等が除かれていることから、賃金改定状況調査の所定労働日数を調整するという点で問題があるのではないかとの指摘がありました。
(2) また、毎勤の調査対象は事業所規模5人以上であり、1〜4人の事業所を調査していないことから、1〜29人の事業所を調査している賃金改定状況調査の結果を調整するという点で問題があるのではないかとの指摘がありました。
(6)このため、昨年10月の会合において、事務局より、使用者側意見を踏まえ、賃金改定状況調査において年間の所定労働日数を調査し、これにより先ほど申し上げたイレギュラー要因を除去することが提案されたところ、了承されました。なお、その場合の期間のとり方も含め、調査の具体的な点については事務局で詰めることとされました。
(7)その後、今年1月の会合において、事務局より、賃金改定状況調査結果第4表の賃金上昇率の7年度以降の算出方法について、
(1) 一般労働者及びパート労働者の全労働者について賃金上昇率を求めること、
(2) 従来男女構成の変化が反映された賃金上昇率と当該影響を除去した賃金上昇率を算出していたが、今後前者のみを算出すること、
(3) 就労日数の増減が反映されるように賃金上昇率を算出すること、その際、イレギュラー要因を除去するため、年間所定労働日数を調査することとし、これにより月間所定労働日数を調整すること
が提案されたところ、2月の会合において了承されました。
(8)このような検討経緯を踏まえ、今回の報告にあるような表現で合意されたところであります。
 ランク区分及び表示方法
(1)第2点のランク区分及び表示方法の問題については、全員協議会の始めの段階での労働側委員の主張は、
(1) 最低賃金額と各都道府県の経済実態の整合性の確保が不十分であること、特に、ランク間格差の拡大等という傾向が強まるなかで、各ランク上位県において当該不整合が大きくなっていること、
(2) Aランク、特に東京の最低賃金額が経済実態との関係で非常に低くなっていること
などでした。
 一方、使用者側委員の主張は、
(1) ランク数の再検討を含めて議論する必要があること、
(2) 目安の「額」の表示を維持すべきであること
などでした。
(2)その後の会合において、統計データに基づく検討を行ったところ、全体として、都道府県の最低賃金額と経済実態との間に一部整合性に欠ける状況にあること及びランク間格差の拡大等の問題があることが認織され、中賃として現状を放置せずに何らかの方向性を示すことで合意されました。
(3)このため、昨年5月の中間的とりまとめにおいては、「各都道府県の地域別最低賃金と賃金動向をはじめとする諸指標との関係をみると、全国的整合性に欠ける状況がみられる」こと及び「ランク間格差の拡大という現象が生ずる傾向がある」ことを指摘した上で、「今後これらの問題への具体的な対処方法を中心に検討を続ける必要がある」とされました。
(4)昨年11月以降の会合の中心課題はランク区分の問題でしたが、結局は報告の内容で合意が得られました。以下、報告に沿って説明いたします。
 まず、報告においては、地域別最低賃金は、各都道府県の賃金水準、生活水準等の動向を可能な限り反映したものとなることが公平性の観点からも望ましいと考えられることから、各都道府県の経済実態に基づき各都道府県の各ランクへの振分けを見直し、今後見直し後のランクで目安を示すこととしました。
(1) このうち、各都道府県の経済実態をどのように把握するかという問題に関しては、賃金動向を始めとする主指標を総合化した指数を各都道府県の経済実態と見なすこととし、諸指標としては、都道府県の経済実態を示す指標のうち特に最低賃金に関係が深いと考えられるものとして、報告の3ページから4ページにあるように、
所得・消費に関する指標(5指標)、
給与に関する指標(10指標)及び
企業経営に関する指標(5指標)
を用いることとしました。
 具体的には、何回か指標を入れ替えましたが、最終的には、
 所得・消費に関する指標としては、
所得を示す代表的なものとして県民所得及び雇用者所得を、
消費を示す代表的なものとして世帯支出、消費者物価及び標準生計費
の合計5指標を選びました。
 次に、給与に関する指標としては、主として時間当たり給与(しかも原則として所定内給与)をみることとし、
規模計の給与として資料出所の異なる2指標、
小規模事業所の給与として資料出所の異なる2指標、
女子パートタイム労働者の給与、
小規模事業所の低賃金層の給与として第1・二十分位数の資料出所の異なる3指標、
新規高等学校卒業者の初任給及び
中小・中堅企業の春季賃上げ妥結額
の合計10指標を選びました。
 また、企業経営に関する指標としては、
主要定業の生産性を示すものとして、製造業、建設業、卸・小売業、一般飲食店及びサービス業のそれぞれの1就業者当たりの出荷額、販売額等
の合計5指標を選びました。
 さらに、全員協議会の検討の過程で、都道府県の経済実態の中期的な変化の的確な把握の必要性、数値の安定性等にかんがみ、各指標については原則として直近5年間の数値の平均値に基づいて検討することとなりました。
 また、以上の20の指標を総合化した総合指数は、20の指標についてそれぞれ東京を100とした指数を求め、そうやって出された指数を単純平均することによって算出しました。その結果は、報告の別紙6のとおりとなりました。
(2) 次に、各都道府県の経済実態に基づいてランク数をどうするか、また、各都道府県をどのように各ランクに振り分けるかという問題に関しては、報告にありますように、今後の目安制度の円滑な運用を図るためには、昭和53年度以来実施され定着している面もある現行のランクとの継続性に留意する必要があるとともに、目安が法定労働条件としての最低賃金額に関わるものであることにかんがみ、その法的な安定性という面も考慮しなければならないことを踏まえつつ検討しました。
 まず、ランク数については、労働者側委員は東京を別ランクにするためにランク数を増やしたいという考えは根底にあったでしょうが、4ランクでやむを得ないという意見でした。また、使用者側の一部委員は、下位ランクを中心にランクを増やすべきであるとする意見でしたが、
 ランク制度が発足した53年当時と最近とで総合指数の上位数県と下位数県の格差に大きな変化はないこと
 都道府県の総合指数の分布の状況がほぼ同一であり、ランク数の変更を特に必要とする顕著な事情はみられないこと
等から、従来と同様4つとすることで合意いたしました。
 また、各都道府県の各ランクへの振分けに当たっては、各都道府県の経済実態を示す総合指数を基本に、原則として総合指数に比較的大きな格差のある府県間に注目するとともに各ランクにおける総合指数の分散度合を全体的に小さくする方向でランクの境界を設定するという考え方に基づき、報告の別紙7のとおり、茨城、栃木、滋賀、宮城、岐阜、三重、香川の7県について適用される目安のランクを変更することといたしました。
(5)ところで、この総合指数は、中賃においてランク区分の見直しのための基礎データとして用いたものであり、それ以上のものではなく、したがって、地賃において総合指数の順位を踏まえて最低賃金額の順位を是正すべく措置されることを予定するものではないので、誤解のないようにお願いします。
(6)なお、地賃の会長の皆様には、今回のランク区分の見直しに伴い、今後の地賃の自主性についてどのようなこととなるのか関心をお持ちのことと存じますが、今回のランク区分の見直しは、各都道府県の地域別最低賃金額と賃金動向を始めとする経済実態との間に一部に整合性に欠ける状況がみられるため、これを改善しようとするものであって、いわば現行目安制度の枠内において改善を図ろうとするものであり、過去中賃において合意されてきた目安の性格、地賃の自主性発揮のあり方等について一切の変更を加えるものではないという整理をしておりますので、今後の地賃の審議に当たってよろしくお願いいたします。
(7)次に、表示方法についてでありますが、目安を示す場合の中賃のこれまでの慣行、すなわち、目安額は額で示すが、その算定上各ランク同率の引上率となるようにしてきた慣行を踏まえた場合、「率」表示なら全国で1つだけ○%という目安を示せばよく、ランク別に目安を示す意味がなくなり、また、地賃で大幅に自主性を発揮しない限り現在の各都道府県の地域別最低賃金額の格差が固定され、今回のランク区分の見直しの趣旨にそぐわないことから、現行の各ランクごとの引上額による表示を引き続き用いることとしました。なお、今回の審議の過程で各都道府県の地域別最低賃金額のランク間格差の拡大という現象が指摘されましたが、各都道府県の各ランクへの振分けを見直すことにより、適用される目安のランクが変更される県が出てくることから、当面、この点は緩和されることが期待できます。
(8)次に、報告に、「(4)目安額の算定」として、「各ランクごとの目安額の算定の基準となる額については、現行の「各ランクの地域別最低賃金額の最高値と最低値の中間値方式」を改め、今後「新たに各ランクに振り分けられた都道府県の地域別最低賃金額の単純平均値方式」とすることが適当である。」とされています。
(9)さらに、報告の(5)にあるように、各都道府県の各ランクヘの振分け等ランク区分については、今まで一度も見直さなかったことから問題が生じたという認識に立ち、今まで御説明した考え方を参考として、今後5年ごとに、今回用いた20の指標を総合的に指数化した総合指数に基づいて見直しを行い、その間の各都道府県の経済実態の変化が反映されるようにすることとしています。
 表示単位
(1)次に、第3点の表示単位につきましては、報告書にありますように、具体的に最低賃金の適用対象となる労働者層、いわゆる未満労働者の賃金支払い形態について特別に調査した結果をみると、月給者が約6割弱、日給者及び時間給者が約2割であること、また、労働者の賃金支払形態をみると、一般労働者の8割弱が月給者であるものの、日給月給制も含めた日給的な制度は6割程度と考えられること、さらに、現在までの労働時間短縮は労働日数の現象が主であり、1日当たりの労働時間にはほとんど変化がないこと等から、昨年の中間的とりまとめにおいても、現行の日額・時間額併用方式は、生活実感からみて判り易く、それほど問題はないのではないかと考えられ、表示単位のあり方については、引き続き慎重な検討を行うことが適当であるとされたところであります。
(2)表示単位については、今回の報告では、地域別最低賃金額の表示単位については、現行の日額・時間額併用方式には現時点でそれほど大きな問題はないと考えられることから、当面、現行通り日額・時間額併用方式を維持することとし、目安額の表示単位についても、当面、現行の日額表示を維持することといたしました。
 今後の見直し
 最後に、今後の見直しについてですが、先ほど申し上げたように、各都道府県の各ランクへの振分け等ランク区分については、今後必ず5年ごとに見直しを行うこととしています。一方、ランク区分以外の点については5年ごとに必ず見直しを行うというほどではなくても、5年ごとに見直しを行うのが望ましいという趣旨で、報告書の6ページから7ページにあるように、ランク区分以外の事項も含め、目安制度のあり方については、今後概ね5年ごとに見直しを行うことが適当であるといたしました。

III さいごに
 以上で、目安制度のあり方に関する全員協議会報告の趣旨、内容等についての説明を終わります。中賃においては、今年度からこの報告の内容に沿って目安をお示しすることとしていますが、皆様方におかれましても、今回の目安制度の見直しの趣旨を十分に理解され、今後の地域別最低賃金の適切、円滑な改定が行われますようよろしくお願いいたしまして、私の説明とさせていただきます。


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