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中央最低賃金審議会目安制度のあり方に関する全員協議会報告
(平成7年4月28日)

 中央最低賃金審議会目安制度のあり方に関する全員協議会は、平成4年12月の中央最低賃金審議会総会において現行目安制度の見直しについて付託を受け、その後18回にわたって、主として
(1) 最低賃金と一般賃金との関係、
(2) ランク区分及び表示方法並びに
(3) 表示単位
の3つの課題について、鋭意審議を重ねてきた。
 なお、この間、目安制度のあり方に関し、地方最低賃金審議会(以下「地賃」という。)の公労使各側委員からの意見照会を行った(別紙1)ほか、実地視察及びブロック公益委員会議において地賃委員との意見交換を実施する(別紙2)など、地賃委員の意見を参考としながら検討を進めてきた。

 最低賃金と一般賃金との関係
(1)最低賃金と一般賃金との格差の拡大
 地域別最低賃金額と一般賃金額(日額、時間額)とを比較した場合、別紙3のとおり、最近格差が拡大している。これは、今日のように就労日数の減少を中心とする労働時間の短縮や就業構造の変化等経済社会の構造変化が進展しているなかで、一般賃金(日額、時間額)にはこれらの変化が織り込まれているのに対し、地域別最低賃金額改定の目安(以下「目安」という。)を審議する際の重要な参考資料である一般労働者の賃金上昇率には労働時間短縮等の変化が適切に反映されないことから生じているものである。すなわち、この一般労働者の賃金上昇率については、目安制度が発足した昭和53年度以来小零細規模の事業所を対象とする賃金改定状況調査により把握されてきたところであるが、当該賃金上昇率の算出に当たって、
(1) 就労日数の減少に伴う賃金の上昇が反映されない仕組みとされてきたこと、
(2) パート労働者も賃金改定状況調査の対象となっているが、一般労働者とは別途集計され、パート労働者の増加やパート労働者の賃金の変動が明確に反映されない仕組みとされてきたこと及び
(3) 男女構成の変化を除去した数値を主として活用してきたことがその要因である。
(2)賃金改定状況調査における賃金上昇率の算出方法の変更
 今日の経済社会の構造変化に対応し、(1)の問題を解決するため、平成6年5月16日の本協議会の検討状況の中間的なとりまとめにおいては、「今後の目安決定方式としては、パート労働者の賃金水準とそのウエイトの変化、男女構成の変化、及び就労日数の増減を反映した方式とすることが望ましいと考えられる」とされたところであり、今後、目安を審議する際の重要な参考資料である賃金改定状況調査の賃金上昇率については、これらが明確に反映されるように算出することが適当である。
 すなわち、
(1) 「パート労働者の賃金水準とそのウエイトの変化」が反映されるようにするため、一般労働者及びパート労働者の全労働者について賃金上昇率を求めることが適当である。
(2) 「男女構成の変化」については、従来この影響が反映された賃金上昇率と当該影響を除去した賃金上昇率とを算出していたが、前者のみを算出することが適当である。
(3) 「就労日数の増減」が反映されるように賃金上昇率を算出することが適当である。
 その際、各年の調査月の所定労働日数が日曜日の数等によって変動するイレギュラー要因を除去するため、賃金改定状況調査において年間の所定労働日数を調査することとし、これにより月間所定労働日数を調整することが適当である。
 ランク区分及び表示方法
(1)地域別最低賃金と各都道府県の経済実態との乖離
 各都道府県の地域別最低賃金額と賃金動向を始めとする諸指標との関連をみると、都道府県間の比較を行った場合、一般賃金額が相対的に高いにもかかわらず地域別最低賃金額が相対的に低い県があり、またこの逆の場合もあるなど、一部に整合性に欠ける状況がみられる。
 昭和53年度以来現在まで、全都道府県を4つのランクに分けて目安を示しているが、このような問題が生じるのは、この間各都道府県の経済実態には都道府県により相当の変化があったのに対し、各都道府県の地域別最低賃金額の相対的な水準に大きな影響を及ぼす目安制度のランクについては、各都道府県の各ランクヘの振分けを固定してきたことによるものと考えられる。
(2)各都道府県の各ランクヘの振分けの見直し
 地域別最低賃金は、各都道府県の賃金水準、生活水準等の動向を可能な限り反映したものとなることが公平性の観点からも望ましいと考えられる。そこで、上記の問題点を改善するため、各都道府県の経済実態に基づき各都道府県の各ランクヘの振分けを見直し、今後見直し後のランクで目安を示すこととする。
(1) まず、各都道府県の経済実態をどのように把握するかという問題が生じるが、その点についての考え方は次のとおりである。
 賃金動向を始めとする諸指標を総合化した指数(以下「総合指数」という。)を各都道府県の経済実態とみなすこととした。諸指標としては、別紙4のとおり、都道府県の経済実態を示す指標のうち特に最低賃金に関係が深いと考えられるものとして、
所得・消費に関する指標(5指標)、
給与に関する指標(10指標)及び
企業経営に関する指標(5指標)
を用いた。
 具体的には、
 所得・消費に関する指標としては、
所得を示す代表的なものとして県民所得及び雇用者所得を、
消費を示す代表的なものとして世帯支出、消費者物価及び標準生計費
の合計5指標を選んだ。
 給与に関する指標としては、主として時間当たり給与(原則として所定内給与)をみることとし、
規模計の給与(資料出所の異なる2指標)、
小規模事業所の給与(資料出所の異なる2指標)、
女子パートタイム労働者の給与(1指標)、
小規模事業所の低賃金層の給与(第1・二十分位数)(資料出所の異なる3指標)、
新規高等学校卒業者の初任給(1指標)及び
中小・中堅企業の春季賃上げ妥結額(1指標)
の合計10指標を選んだ。
 企業経営に関する指標としては、
主要産業の生産性を示すものとして、製造業、建設業、卸・小売業、一般飲食店及びサービス業のそれぞれの1就業者当たりの出荷額、販売額等
の合計5指標を選んだ。
 さらに、都道府県の経済実態の中期的な変化の的確な把握の必要性、数値の安定性等にかんがみ、別紙5のとおり、各指標については原則として直近5年間の数値の平均値をとり、検討した。
 また、以上の20の指標を総合化した総合指数は、別紙6のとおりとなった。
(2) 次に、各都道府県の経済実態に基づいて各都道府県をどのように各ランクヘ振り分けるかという問題が生じるが、その点についての考え方は次のとおりである。ランク数及び各都道府県の各ランクヘの振分けについては、今後の目安制度の円滑な運用を図るためには、昭和53年度以来実施され定着している面もある現行のランクとの継続性に留意する必要があるとともに、目安が法定労働条件としての最低賃金額に関わるものであることにかんがみ、その法的な安定性という面も考慮しなければならないことを踏まえつつ検討した。
この結果、ランク数については、
 総合指数の上位数県と下位数県の格差には大きな変化はないこと(総合指数の上位5県の平均を100としたときの下位5県の平均は、昭和53年等が75.7であるが、平成5年等は73.5である。)
 都道府県の総合指数の分布の状況からみてランク数の変更を特に必要とする顕著な事情はみられないこと
等から、従来と同様4つとすることが適当である。
 また、各都道府県の各ランクへの振分けに当たっては、各都道府県の経済実態を示す総合指数を基本に、原則として総合指数に比較的大きな格差のある府県間に注目するとともに各ランクにおける総合指数の分散度合を全体的に小さくする方向でランクの境界を設定するという考え方に基づき、別紙7のとおり、7県について適用される目安のランクを変更することが適当である。
(3)表示方法
 目安の表示方法については、これまでの慣行(目安額は額で示すが、その算定上各ランク同率の引上げ率となるようにしてきたこと)を踏まえ、ランク制度の意義を損なわないようにするため、現行の各ランクごとの引上げ額による表示を引き続き用いることとする。なお、今回の審義の過程で各都道府県の地域別最低賃金額のランク間格差の拡大という現象が指摘されたが、前記のように各都道府県の各ランクヘの振分けを見直すことにより、当面、この点は緩和されることが期待できる。
(4)目安額の算定
 各ランクごとの目安額の算定の基準となる額については、現行の「各ランクの地域別最低賃金額の最高値と最低値の中間値方式」を改め、今後「新たに各ランクに振り分けられた都道府県の地域別最低賃金額の単純平均値方式」とすることが適当である。
(5)ランク区分の今後の見直し
 各都道府県の各ランクヘの振分け等ランク区分については、上記(2)に示した考え方を参考として、今後5年ごとに、今回用いた別紙3の20の指標を総合的に指数化した総合指数に基づいて見直しを行い、その間の各都道府県の経済実態の変化が反映されるようにすることが重要である。
 表示単位
 地域別最低賃金額の表示単位については、具体的に最低賃金の適用対象となる労働者層(いわゆる未満労働者)についてみると、就業形態ではパート労働者よりも一般労働者の方が多く、賃金支払形態別の割合では月給者が約6割弱、日給者及び時間給者が約2割であること、現在までの労働時間短縮は労働日数の減少が主であり、1日当たりの労働時間にはほとんど変化がないこと等からみて、現行の日額・時間額併用方式には現時点でそれほど大きな問題はないと考えられる。したがって、当面、現行通り日額・時間額併用方式を維持することとする。目安額の表示単位についても、当面、現行の日額表示を維持することが適当である。
 今後の見直し
 ランク区分以外の事項も含め、目安制度のあり方については、今後概ね5年ごとに見直しを行うことが適当である。


<別紙1、別紙2、別紙3、別紙4、別紙5、別紙6、別紙7略>


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