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中央最低賃金審議会目安制度のあり方に関する全員協議会の
検討状況の中間的なとりまとめについて(全員協議会報告)
平成6年5月16日


 本全員協議会は、平成4年12月の中央最低賃金審議会総会において現行目安制度の見直しについて付託を受け、その後10回にわたって、主として(1)最低賃金と一般賃金との関係、(2)ランク区分及び表示方法、(3)表示単位の3つの課題について、統計的データに基づく実証的な分析を中心に検討を行ってきた。
 目安制度のあり方に関するこれらの問題は、いずれも最低賃金制度の運用の基本に関わる問題であり、未だ十分議論を尽くしていないが、平成6年度の目安審議が開始される前にこれまでの検討結果と今後の対応について、中間的に一応の整理を行っておくことが必要と考え、下記のとおりとりまとめたので報告する。


1 最低賃金と一般賃金との関係
 最低賃金と一般賃金との関係について、労働時間短縮、パート労働者の増加等との関連について統計データに基づき実証的な検討を行い、別紙のとおり問題点の整理を行った。
 これを要約すれば、一般賃金(日額、時間額)と最低賃金の格差の変化の問題は、主として、賃金改定状況調査の第4表の賃金上昇率を中心とした現行の目安決定方式による最低賃金と、労働時間短縮やパート労働者の増加等の変化が織り込まれた一般賃金とを比較することから生じる問題であると考えられる。
 目安は、一般的にいって、最低賃金法第3条及び昭和52年9月の中央最低賃金審議会了解事項の趣旨を踏まえれば、地域別最低賃金の適用対象となる労働者が多いと思われる層の平均的な賃金水準、すなわち、その構成労働者のそれぞれの表示単位当たりの賃金水準やその構成割合を反映した平均的な賃金額を重要な判断材料として検討し決められるべきと考えられる。
 現行の目安は、性、学歴、年齢等にかかわらずパート労働者を含め最低賃金が適用となる労働者のすべてを対象に1日当たりの引上げ額として示してきた。また、その場合の重要な判断材料として、賃金改定状況調査の第4表に示された、最低賃金の適用対象が多いと思われる層のその構成状況を概ね反映した1日当たりの平均賃金額を用いてきた。
 しかしながら、現行の方式では、パート労働者の賃金水準とそのウェイトが明確には反映されず、また、男女の構成割合の変化が反映されない結果となっている。更に就労日数の増減が目安額に反映されない仕組みとなっている。このような方式であっても、パート労働者等その対象労働者の構成に大きな変化がなく、また、就労日数の動向に変化がないような場合は問題は少ないが、最近のようにパート労働者、また女子労働者が大幅に増加し、あるいは就労日数の減少が急速に進むようになると、目安が賃金水準の変動の実態を適切に反映しないという問題が生ずる。
 このため、今後の目安決定方式としては、パート労働者の賃金水準とそのウェイトの変化、男女構成の変化、及び就労日数の増減を反映した方式とすることが望ましいと考えられる。
 その際、就労日数の増減を反映させるに当たって、各年の6月の平均所定労働日数が日曜日の数等によって変動するイレギュラー要因をどのように扱うべきか、それとの関連において賃金改定状況調査をどのようにするのが適当か、等について引き続き検討を行う必要がある.
 なお、平成6年度の目安審議に当たっては、現行の方式を基本としつつも上記の考え方も踏まえてさしあたりどのように対処するのが適当か検討する必要があると考えられる。

2 ランク区分及び表示の方法
 ランク区分及び表示方法について、地域別最低賃金のランク間、ランク内格差の状況、地域別最低賃金と各都道府県の賃金等との相関関係、率表示方式に拠った場合と現行方式との比較などについて統計データに基づき検討を行った。
 現行の方式は、目安を全国を4つに分けた各ランクの中間値の引上げ額で示し、各地方最低賃金審議会(以下「地賃」という。)では、この目安を重要な参考資料としつつ自主的に地域別最低賃金を決定するというものである。その結果、地域別最低賃金の最高値を100とした最低値は、現在の目安方式発足当初(昭和53年)84.4%であったものが平成5年では85.9%となっており、全体としてみれば地域別最低賃金の格差は徐々に縮小する結果となっている。
 一方、地域別最低賃金の各都道府県の賃金水準、生活水準等の動向を可能な限り反映したものとなることが公平性の観点からも望ましいと考えられるが、現行のような引上げ額方式を前提とした場合、最低賃金の引上げ率でみると、各ランクの上位県は相対的に低く、下位県は高くなることから、各都道府県別の賃金の動向にかかわらず、ランク間格差の拡大、ランク内格差の縮小という現象が生ずる傾向がある.そのほか、各都道府県の地域別最低賃金と賃金動向をはじめとする諸指標との関係をみると、全国的整合性に欠ける状況がみられる。今後これらの問題への具体的な対応方法を中心に検討を続ける必要がある。
 なお、当面は、各地賃における地域別最低賃金の審議に際し、中賃が示す目安を参考としつつ、各地賃が自主性を発揮して、賃金動向等の実態に応じた最低賃金の合理的決定を通じて上記のような問題点に対応していくことが期待される。

3 表示単位
 表示単位については、賃金支払形態の実態、パート労働者の動向、一般及びパート労働者の労働日数、1日当たり労働時間、時間額表示と現行表示との比較等について統計データに基づき、検討を行った。
 目安の表示単位の検討にあたっては、まず、最低賃金の表示単位をどう考えるかが問題となるが、地域別最低賃金の表示単位としては、大きく分けて、月額、日額、時間額で方式、時間額で表示する方式、日額、時間額で表示する現行の方式のような中間的方式の3つの方式がある。
 表示単位については、最低賃金法第4条の趣旨を踏まえれば、わが国における現実の賃金支払形態等の実態に即したものとすることが望ましいと考えられる。賃金の支払形態をみると、一般労働者においては月給者が多く、パート労働者においては時間給者が多い。また、具体的に最低賃金の適用対象となる労働者層(いわゆる未満労働者)についてみると、就業形態ではパート労働者よりも一般労働者の方が多く、賃金の支払形態別の割合では月給者が6割弱、時間給者が2割強、日給者が2割弱となっている。
 このような現在の賃金支払形態の実態からすれば、月額、日額、時間額で表示する方式も考えられるが、3本の最低賃金額の整合性をどのように考えるか、あるいは決定に当たっての審議が複雑になることなど、問題点も多い。
 また、時間額だけで表示する方式は、就業形態の多様化あるいは労働時間の短縮に対応したより妥当なものであり、大きな問題はないと考えられるが、わが国においてはなおなじみが薄いという問題がある。また、目安はどのような形で出すのかなど表示方法との関連で慎重に検討する必要がある。
 一方、現行の日額、時間額併用方式については、目安を現行のようにパート労働者を含めた日額1本でよいのかという問題は残るものの、生活実感からみてもわかりやすいこと、現在までの労働時間短縮は労働日数の減少が主であり、1日当たりの労働時間にほとんど変化がないこと等からみて、現時点でそれほど問題はないと考えられる。
 以上のことから、表示単位のあり方については、時間額表示方式を導入する場合のメリット、デメリットあるいは目安の表示方法との関連等を中心に引き続き慎重な検討を行うことが適当である。

4 今後の取扱い
 本協議会のこれまでの検討から得られた考え方を整理すれば以上のとおりであるが、今後は地賃の公労使委員等の意見も聴取しながら、より具体的な検討を行い、平成7年度の目安審議を目途にとりまとめを行っていくことが適当と考える。



(別紙)

現行の目安決定方式の課題

 最低賃金と一般賃金との関係について、第4回及び第5回の全員協議会において統計データに基づき実証的な検討を行ってきたが、この問題について一応の整理をすると次のとおりとなると考えられる。

 現行の目安決定方式は、賃金改定状況調査の第4表の賃金上昇率を重要な参考資料としている。その賃金上昇率の算出方法としては、パート労働者を除いた一般労働者について、
 まず、前年の1日当たり平均賃金を男女別に求める。具体的には、月給者、日給者、時間給者毎に次の方法によりそれぞれ日額を求めて、それらを平均する。
 月給者:(前年の基本給 ÷ 調査年の月間労働日数)+ 諸手当
 日給者:(前年の基本給)+ 諸手当
 時間給者:(前年の基本給 × 調査年の1日の労働時間)+ 諸手当
 次に、拠1日当たり平均賃金を男女別に求める。具体的には、月給者、日給者、時間給者毎に次の方法によりそれぞれ日額を求めて、それらを平均する。
 月給者:(調査年の基本給 ÷ 調査年の月間労働日数)+ 諸手当
 日給者:(調査年の基本給)+ 諸手当
 時間給者:(調査年の基本給 × 調査年の1日の労働時間)+ 諸手当
 さらに、調査年について男女構成の変化を除去するため前年の男女横成比で加重平均した男女計の賃金を求め、これを前年の男女計の賃金(前年の男女構成比で加重平均したもの)で除して賃金上昇率を算出している。

 上記の第4表を中心とした現行方式については、以下の点が検討課題として考えられる。
(1) 労働時間短縮に伴う1日当たり又は時間当たり賃金の上昇が反映されない仕組みとなっていること
(2) パート労働者も賃金改定状況調査の対象となっているが、第5表にわけて集計されており、パート労働者の増加やパート労働者の賃金の変動が、明確には反映されない仕組みとなっていること
(3) パートを除く一般労働者について男女構成の変化が反映されない仕組みとなっていること
 即ち、現行の目安決定方式は、労働時間の短縮に伴う賃金上昇が反映されない、また、パート労働者の増加等労働者構成の変化も明確には反映されない賃金上昇率を基準としたものとなっているといえよう。
このため、次のような現象が生じている.
(1) まず、労働時間の短縮についてみると、最低賃金については1日当たりの賃金上昇率を用いているが、この場合、時短に伴う1日当たり又は時間当たり賃金の上昇が反映されないのに対し、一般賃金についてはその分単価が上昇することから、1日当たり又は時間当たり単価でみれば、格差は当然のことながら拡大すると考えられる。実際に賃構でパート労働者を除く一般労働者の賃金との格差をみると、月額ベースではほぼ横ばいで推移しているが、労働時間の短縮に伴って時間額ベースでは拡大している。
 毎勤でもパート労働者を除いた一般労働者(推計値)についてみると、日額ベースでは格差は拡大している。
(2) 次に、パート労働者に関しては、最低賃金については賃金改定状況調査第5表を含めた総合判断の中で考慮されているものの、同調査の第4表ではパート労働者が除かれており、その賃金上昇率とウェイトが明確には反映されない仕組みになっているのに対し、一般賃金についてはパート労働者が増加すれば、パート労働者の賃金が一般労働者の賃金に比べて低いため、その分水準が低下することとなるので、格差は縮小すると考えられる。実際に毎勤でパート労働者を含む全労働者の賃金との格差をみると、パート労働者の増加が縮小要因となっている。
 また、パート労働者の賃金の変動についても最低賃金には明確に反映されない仕組みになっているので、パート労働者の上昇率が一般労働者の賃金上昇率より高い場合には、パート労働者の賃金との格差は拡大する。
(3) 実際には、上記(1)と(2)が複合して問題が起こってきている。要は、日額ベースでみた場合、労働時間の短縮は格差拡大、パート労働者の増加は格差縮小の要因となって、それらが複合して一般賃金との格差の問題となってあらわれているといえよう。

 一般賃金(日額、時間額)と最低賃金の格差の変化の問題は、第4表の賃金上昇率を中心とした現行の目安決定方式による最低賃金と、労働時間短縮やパート労働者の増加等の変化が織り込まれた一般賃金とを比較することから生じる問題であると考えられる。今後の目安決定方式のあり方を考えるに当たっては、第4表の賃金上昇率を中心とした現行の決定方式とするのか、労働時間短縮や労働者の構成変化をも考慮した方式とするのかということが重要な論点になると考えられる。


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