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運用利回りの範囲について(検討結果の報告)

平成15年8月27日

年金資金運用分科会
1 報告の趣旨

 次期財政再計算は平成16年に予定されているが、財政再計算の際には予定利率の見直しが行われることとされている。予定利率は、年金積立金の運用において、実際に確保できると見込まれる運用利回りに基づいて設定することが必要である。
 このため、年金積立金の運用の基本方針の制定等に関し意見を述べる立場にある当分科会では、年金積立金の側から確保できると見込まれる運用利回りの範囲について検討を行うため、本年6月末に作業班を設け、8月末まで集中的に検討を重ねてきた。本日、分科会として、検討結果をとりまとめたので、報告するものである。

2 推計の考え方

(1) 公的年金の積立金は、急速な少子高齢化が予想される中で、将来世代の保険料負担を軽減することを目的として運用されている。公的年金の給付総額は、名目賃金上昇率に連動して増減することから、積立金の運用利回りの見込みを設定するにあたっては、名目賃金上昇率を上回る実質的な運用利回りの水準を適切に見込むことが重要である。

(2) また、年金積立金の運用は、数十年にわたる長期の運用であり、その間様々な経済変動が予想されるが、そうした中で長期的にみて安定した収益を上げることが求められている。このような観点から、今後確保できる実質的な運用利回りの水準を見込むにあたっては、過去の実績を基礎としつつ、今後少なくとも20〜30年程度を視野に入れて、日本経済の潜在成長率の見通しや労働力人口の見通し等とマクロ経済的に整合性のとれた推計を行う必要がある。

3 推計の方法

(1) 足元(2003〜2007年度)の推計
 内閣府の「改革と展望−2002年度改定 参考資料」の推計期間である2003年度から2007年度までの期間については、同推計における実質経済成長率や長期金利の見通し及び厚生労働省職業安定局による労働力率の見通し等を基礎として、5年間の平均として、これらと整合的な実質賃金上昇率及び実質長期金利(10年国債応募者利回り−消費者物価上昇率)の推計を行った。

(2) 長期(2008年度以降)の推計
(1)  経済成長の原動力となる全要素生産性(TFP)上昇率に関して、ケース1(1.0%)、ケース2(0.7%)、ケース3(0.4%)の3とおりの前提を置き、マクロ経済に関する基本的な関係式を用いて、各ケースごとに2008〜2032年度の25年間平均の労働力人口一人当たり実質GDP成長率及び日本経済全体の利潤率を推計した。
 なお、TFP上昇率については、平成13年度年次経済財政報告における中長期的な潜在成長率の推計において、構造改革の実行を前提として中長期的には年0.5〜1%程度に高まることは十分可能とされていることに準拠して設定したものである。
(2)  過去において長期的にみると、日本経済全体の利潤率と実質長期金利とは概ね比例関係にあることから、過去15〜25年間程度の平均の実質長期金利(10年国債応募者利回り−消費者物価上昇率)の水準(2.8〜3.4%程度)に、この推計から得られる将来(2008〜2032年度)の利潤率の過去の利潤率に対する比率(0.55〜0.7程度)を乗じることにより、将来の実質長期金利の水準の推計を行った。
 また、実質賃金上昇率は、労働力人口一人当たり実質GDP成長率と同程度とみた。

(3) 運用利回りの上限の考え方
 一定のリスクをとり、国内外の株式等を組み入れた分散投資を行う場合には、運用利回りの見込み値は長期金利よりも高くなると考えられる。現行の基本ポートフォリオは、国内株式、外国債券、外国株式というリスク・リターンの異なる資産を組み入れることにより、運用収入が年金財政上の予定を下回るリスクを最小にするという考え方に基づいて設定されており、結果として全額国内債券で運用する場合と同程度の利回り変動リスクをとりつつ、国内債券の期待収益率を0.5%上回る期待収益率が見込まれている。このことから、分散投資により追加的に確保することのできる運用利回りの上限を0.5%と見込んで、実質運用利回り(積立金運用利回り−消費者物価上昇率)の上限は、上記により推計された実質長期金利の上限に0.5%を加えたものと見込んだ。

4 推計結果

(1) 一人当たり実質賃金上昇率(対物価上昇率)
(1) 足元(2003〜2007年度)
 0.9〜1.0%程度
(2) 長期(2008年度以降)
 ケース1では1.5〜1.6%程度、ケース2では1.1〜1.2%程度、ケース3では0.8%程度。

(2) 実質運用利回り(対物価上昇率)
(1) 足元(2003〜2007年度)
 実質運用利回りの範囲は、物価上昇率を上回る実質長期金利1.6%程度から、これに上限として0.5%を加えた、1.6〜2.1%程度。
(2) 長期(2008年度以降)
 物価上昇率を上回る実質長期金利はケース1では1.9〜2.2%程度と推計されるので、実質運用利回りの範囲は、上限に0.5%を加えた、1.9〜2.7%程度。
 ケース2、ケース3で同様の推計を行った結果、実質運用利回りの範囲は、ケース2では1.8〜2.6%程度、ケース3では1.7〜2.5%程度。

(3) 実質的な運用利回り(対賃金上昇率)
 実質運用利回りから一人当たり実質賃金上昇率を差し引いた、一人当たり賃金上昇率を上回る実質的な運用利回りの範囲は、足元(2003〜2007年度)は、0.7〜1.1%程度、長期(2008年度以降)については、ケース1では0.4〜1.1%程度、ケース2では0.7〜1.4%程度、ケース3では0.9〜1.7%程度。


〔実質的な運用利回りの範囲〕
  実質賃金上昇率
(対物価上昇率)
実質運用利回り
(対物価上昇率)
実質的な運用利回り
(対賃金上昇率)
足元(2003〜2007年度)
  0.9〜1.0%程度 1.6〜2.1%程度 0.7〜1.1%程度
長期(2008年度以降)
ケース1
(TFP上昇率 1.0%)
1.5〜1.6%程度 1.9〜2.7%程度 0.4〜1.1%程度
ケース2
(TFP上昇率 0.7%)
1.1〜1.2%程度 1.8〜2.6%程度 0.7〜1.4%程度)
ケース3
(TFP上昇率 0.4%
0.8%程度 1.7〜2.5%程度 0.9〜1.7%程度

 なお、この推計結果は、直近の市場金利のイールドカーブ等からみても、概ね違和感のない水準にあるものと考えられる。

照会先
年金局運用指導課 企画係
代表:03-5253-1111(内3350)
夜間:03-3595-2868


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