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IV 石綿肺、肺がん、中皮腫以外の石綿による疾病等についての検討

 石綿を吸入することによって生じる疾患としては、石綿肺、肺がん、中皮腫以外に良性石綿胸水(石綿胸膜炎)、びまん性胸膜肥厚と、疾患ではないが過去の石綿ばく露の良い指標となる胸膜プラークが重要である。
 1  胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)
 胸膜プラークとは、主として壁側胸膜の中皮下に生じる両側性の不規則な白板状の肥厚である。組織学的には中皮で覆われた膠原線維束がバスケットの網目状に配列されたもので細胞成分をほとんど含まない。すなわち、石綿ばく露によって壁側胸膜に発生した胸膜の線維性の盛り上がり状態を意味し、胸膜プラークそれ自身では肺機能障害を伴わず、胸膜の疾患を意味するものではない。

(1)  石綿ばく露との関係
 我が国では、胸膜プラークは石綿ばく露によってのみ発生すると考えて良い。石綿ばく露開始からの経過年数と関連しており、ばく露開始から10年未満では発生しないが、15〜30年を経て出現する。そして、20年を経過すると一部が石灰化する場合がある。そのため、過去の石綿ばく露の指標として重要である。例えば、石綿ばく露によって発生する中皮腫の18~86%に胸膜プラークが合併していると報告されている。また、石綿ばく露者に合併した原発性肺がん症例のうち、胸膜プラークを有する症例は所見のない場合の2.4倍であったと報告されている。Hillerdalら(1980)は原発性肺がん症例のうち、石綿ばく露のある症例では60〜70%に胸膜プラークが見られるが、ない例では1〜2%のみであり、胸膜プラークが石綿ばく露の良い指標となることを明らかにしている。
 石綿ばく露量が多いほど胸膜プラークの発生率が高いことが報告されている。また、胸部エックス線で石綿肺所見を有しない石綿ばく露によっても胸膜プラークが発生することも報告されている。例えば、エレベーター据付け作業者においては、石綿肺所見を呈した症例は91例中皆無であったが、91例中20例(22%)に胸膜プラークが認められたとBresnitzら(1993)は報告している。
 平岡ら(1996, 1998)によれば、熊本の旧アンソフィライト鉱山及び工場付近の住民9,832名中、938名(9.5%)に胸膜プラークが認められ、多くの場合が石綿近隣ばく露か環境ばく露であったと報告している。胸膜プラークの所見を認めた場合、職業性石綿ばく露によることはもちろんのこと、副次的職業性、近隣性、家族性等何らかの石綿ばく露を想定すべきであり、詳細な問診が必要である。胸膜プラークは、石綿ばく露によって発生する胸膜病変の中で最も頻度が高い。
 喫煙との関係については、石綿ばく露者で喫煙者の方が非喫煙者に比べて胸膜プラークの有所見率が高かったとするWeissら(1981)の報告もあれば、断熱材を取扱う労働者でそのような関係はなかったとするLilisら(1986)の報告もある。

(2)  自覚症状、肺機能障害と予後
 胸膜プラークは、最近胸痛と相関するとする報告があるものの、一般的には自覚症状等はない。胸部エックス線で認められる胸膜プラーク陰影は経過とともに徐々に石灰化し、その濃度を増すとともに、拡がってくるが、肺機能に及ぼす影響はほとんどないか、あっても著しい肺機能障害をもたらすことはない。胸膜プラーク自体が他の良性石綿胸膜疾患(胸膜炎、びまん性胸膜肥厚、円形無気肺)を引き起こすことはなく、また、中皮腫に転化することもない。しかし、胸膜プラーク有所見者は無所見者に比べて石綿の累積ばく露量が多いと考えられており、したがって、中皮腫のリスクは無所見者よりも高い、と推測されている。Hillerdal(1994)は1596人の胸膜プラーク有所見者(全員男性)を平均10.2年観察した結果、9人の中皮腫患者の発生を認め、リスクは11倍であったと報告している。肺がんのリスクは、喫煙の影響、対象集団の石綿ばく露濃度や観察期間等の相違もある様々な結果が得られており、評価は現時点では困難である。胸膜プラーク有所見者に他の良性石綿胸膜疾患(胸膜炎、びまん性胸膜肥厚、円形無気肺)が将来発生する可能性を否定できない。McMillanら(1982)は海軍造船労働者175人のうち143人に胸膜プラークを認め、うち33人(23.1%)に10年間の観察でびまん性胸膜肥厚所見を認めたと報告している。

 2  良性石綿胸水
 良性石綿胸水とは、以下の4項目を満たす疾患をいう。すなわち、(1)石綿ばく露歴があること、(2)胸部レントゲン写真あるいは胸水穿刺で胸水の存在が確認されること、(3)石綿ばく露以外に胸水の原因がないこと、(4)胸水確認後3年以内に悪性腫瘍を認めないこと、を満す場合である。本疾患の良性とは、悪性腫瘍ではないということで臨床経過が必ずしも良性であるということではない。また、胸膜中皮腫の前段階病変ではない。
 本疾患の診断は原因として悪性腫瘍や結核を除外することが必要である。3年間の経過観察が必要であることから確定診断を下すことは難しい。

(1)  石綿ばく露との関係
 Martenssonら(1987)は、3年間の観察でもなおかつ原因不明の胸水貯留所見を認めた男性64人と年齢を合わせた地域住民103人の症例対照研究を行った結果、原因不明の胸水貯留所見者の職業石綿ばく露歴は42人(65.6%)に認めたのに対し、対照群では45人(43.7%)で有意の差を認めたと報告している。原因不明の胸水貯留所見者で職業性石綿ばく露歴がなかった27人のうち、1人は胸部エックス線で、4人に胸腔鏡で胸膜プラークを認めている。
 Eplerら(1982)は、2つの造船所及び4つの石綿製品製造工場で職業性石綿ばく露を受けた1135人のうち35人(3.1%)に良性石綿胸水を認めている。石綿ばく露濃度別では高濃度ばく露群で7.0%、間接ばく露群で3.7%、低濃度ばく露群で0.3%の発症率であったと報告している。
 一般的に発症率は石綿ばく露量が多いほど高く、特に、中・高濃度者では10年以内に良性石綿胸水が発症すると言われている。田村ら(1994)は、良性石綿胸水7例の石綿ばく露期間は3〜33年(平均20.6年)であり、全例が高濃度ばく露者であったとしている。岸本ら(1998)は胸水貯留が認められる者17例中石綿ばく露期間21年以上が14例あり、石綿ばく露期間は平均27年であったが、石綿肺を伴う症例の頻度は少なく、むしろ胸膜プラークを認める症例の方が多かったと報告している。
 石綿ばく露開始時期から発症までの間(潜伏期間)は他の石綿関連疾患より短く、ばく露から20年までに出現することが多いと言われていたが、Hillerdalら(1987)は平均30年(1-58年)、田村ら(1994)は平均28.7年(22-34年)、岸本ら(1998)は、21年以上の症例が17例中16例(94.1%)で平均34.5年と長い潜伏期間を持って発症する場合があると報告しており、職業歴の詳細な聴取が必要である。

(2)  症状と診断
 半数近くが自覚症状が無く、健康診断で発見されることもある。症状がある場合には、胸痛、発熱、咳嗽、呼吸困難の頻度が高い。岸本ら(1998)は、17例中15例で胸痛あるいは呼吸困難の自覚症状で発症し、無症状であったのは2例のみであったと報告している。田村ら(1994)も7例中発熱、胸痛、呼吸困難など自覚症状のある症例が6例で、自覚症状がなかった症例は1例のみであると報告している。田村ら(1993)は、国内外の128例中45例(35.2%)に胸痛、32例(25.0%)に呼吸困難、7例に発熱(5.5%)が見られ、無症状が60例(46.9%)であったと報告している。Eplerら(1982)は、良性石綿胸水35例中23例(65.7%)が無症状であったと報告しており、これらは、検診で発見された。
 良性石綿胸水の場合の胸水の性状は滲出液で、半数が血性である。約4分の1に好酸球性胸水が見られる。胸水の持続期間は平均3ヶ月(1〜10ヶ月)であり、無治療で軽快する場合が多いが、胸水が被包化されて残存することもある。特別な治療方法は無いが、副腎皮質ステロイド剤が奏効することもある。一方、再発率も25〜40%あり、4年間で3回胸水を発症した症例報告もある。通常、胸水消失後に片側あるいは両側に肋骨横隔膜角の鈍化あるいは円形無気肺を残す。また、胸水が完全に消失せず遷延する場合もあり、注意深い臨床経過の観察が必要な症例も存在する。
 本疾患の診断は、原因として悪性腫瘍、結核、ウィルス起因性等を除外することが必要である。特に胸水確認後3年以内に悪性腫瘍を認めないという除外診断のためと、石綿ばく露に関する知識が不十分なためか確定診断に至る例は、我が国ではさほど多くは報告されていない。
 石綿ばく露歴が明白で、原因不明の胸水が存在し、臨床的に良性石綿胸水あるいは中皮腫が疑われる症例には、胸腔鏡下胸膜生検による鑑別を行うことが勧められる。Wilsherら(1998)は、原因不明の胸水を呈した51例中胸腔鏡下生検を行い、19例が胸膜中皮腫、7例が良性石綿胸水であったと報告している。

(3)  肺機能障害と予後
 良性石綿胸水は、胸水が消失した後に約半数の症例でびまん性胸膜肥厚を残す。田村ら(1994)は、7例中6例がびまん性胸膜肥厚を来し、1例がびまん性胸膜線維症から慢性呼吸不全で死亡したと報告している。さらに症例を追加して12例を経過観察したところ、5例が死亡し、死亡までの平均は5.0±3.1年と短く、死因は2例が肺炎、2例がびまん性胸膜肥厚で、1例が肺がんであったと報告している。
 Eplerら(1982)も良性石綿胸水34例を追跡調査し、19例(55.9%)にびまん性胸膜肥厚を来したと報告している。McLoudら(1985)は、石綿ばく露者1373例仲185例(13.5%)にびまん性胸膜肥厚を認め、そのうち58例(31.4%)に良性石綿胸水を認めたことを報告している。岸本ら(1998)も良性石綿胸水17例中6例にびまん性胸膜肥厚を来し、1例では慢性呼吸不全を来したと報告している。
 良性石綿胸水の予後不良の要因はびまん性胸膜肥厚と胸膜中皮腫の併発である。岸本ら(1998)は17例中1例では胸膜中皮腫を併発したと報告している。最近では胸水貯留後、原発性肺がんと中皮腫を併発した症例報告もある。また、胸水消失後、胸膜中皮腫を発症した症例が70例中10例(14.3%)見られたとする報告もある。しかし、良性石綿胸水における胸膜中皮腫の発症リスクに関する疫学的知見はこれまでのところ得られていない。

 3  びまん性胸膜肥厚
 胸膜プラークが壁側胸膜の病変で、臓側胸膜(肺側胸膜)との癒着を伴わないのに対して、びまん性胸膜肥厚は、臓側胸膜の病変で、壁側胸膜との癒着を伴う。

(1)  石綿ばく露との関係
 高濃度石綿ばく露者におけるびまん性胸膜肥厚の頻度は、決して低くないと考えられている。20年以上の石綿ばく露期間を有するボイラー製造・据付・修理作業者の胸部エックス線写真に胸膜プラークが8%、びまん性胸膜肥厚が9%見られたと、Hesselら(1998)は報告している。Finklelsteinら(1984)は、石綿セメント労働者で石綿肺有所見ほどではないが、石綿ばく露量が多いほどびまん性胸膜肥厚の発症率は高いことを報告している。別の石綿セメント労働者を対象とした調査では、びまん性胸膜肥厚の有所見率は石綿ばく露期間が長くなるにつれて高くなったが、推定累積ばく露量とは相関しなかった、とJonesら(1987)は報告している。Shepherdら(1997)は、アモサイトばく露労働者では、びまん性胸膜肥厚の有所見率は、ばく露濃度とばく露開始からの経過年数に相関していた、と報告している。一般的に石綿長期ばく露者、最初のばく露から長年経た者の有所見率は高くなる。家族ばく露によるものもありSiderら(1987)は、絶縁材を取扱う労働者の妻(40歳以上)の5.5%にびまん性胸膜肥厚が見られたと報告している。
 石綿ばく露によるびまん性胸膜肥厚の成因は単一ではない。肺実質病変である石綿肺が進行し、臓側胸膜及び壁側胸膜に波及したと考えられるものは、約10%と少ない。一方、明らかに良性石綿胸水が関与したと考えられるものが1/3〜2/3以上を占める。そして、石綿肺所見のないびまん性胸膜肥厚症例も少なくない。
 びまん性胸膜肥厚と石綿ばく露の関係は、胸膜プラークとの関係に比べて、特異度が低く、びまん性胸膜肥厚は必ずしも石綿によるとは限らない。結核性胸膜炎の後遺症や、リウマチ性疾患、全身性エリテマトーデス(SLE)、強直性脊椎炎(AS)などの筋骨格・結合組織疾患、薬剤起因性胸膜疾患との鑑別が必要なこともある。しかし、これらの疾患との鑑別は、経過を詳細に検討すること等により可能なことが多い。
 喫煙の影響については胸膜プラークの場合と同様、喫煙者に頻度が高いとMcMillanら(1980)、Schwartzら(1990)は報告しているのに対し、Rosenstockら(1991)はそうではなかったと報告している。

(2)  症状と診断
 初期の頃は、無症状か軽度の労作時呼吸困難にとどまることが多い。しかし進行すると、とくに両側に病変が及ぶ例では、Hugh-Jonesの分類のIV〜V度の呼吸困難を呈することもある。肺機能検査では拘束性障害を呈する。性、年齢、喫煙、石綿肺の程度等が同じ集団では、びまん性胸膜肥厚群で有意に%肺活量、%努力肺活量、%1秒量の低下が見られる。また同時にDLco(拡散能)も低下する。なお、石綿肺所見の乏しい場合には、%DLcoの低下よりも%TVG(%TLC)の低下の方が大きいため、%DLco/VAは大きくなることがある。これらの肺機能低下は進行例ほど強く、著しい肺機能の低下を来す症例も見られる。特に両側のびまん性胸膜肥厚例で、自覚症状と同様にその傾向が強い。
 びまん性胸膜肥厚は、胸部エックス線写真上、側胸壁内側の比較的滑らかな厚みのある濃度上昇としてとらえられる。通常、胸膜肥厚を記載するには「厚さ」と「広がり」の2つの指標が用いられる。厚さはmmで表され、最大の厚みが5mm以上かどうかで分けられることが多い。広がりはcmで表されることもあるが、側胸壁の長さの1/2とか、1/4等と表現されることのほうが多い。
 びまん性胸膜肥厚は胸膜癒着を伴うので、大多数において肋横角の鈍化が見られる。画像上、鑑別すべきものとしては、胸膜外脂肪、融合した胸膜プラーク、胸膜中皮腫等があげられる。これらを通常の胸部エックス線写真で見分けることは難しい。特に、肋横角の鈍化が見られない場合には、胸部CTが有用である。なお、びまん性胸膜肥厚の陰影の中に石灰化した胸膜プラークが取り込まれていることも多い。
 胸部CTでは、側胸壁のみならず後胸壁から傍脊柱に至る肥厚像がとらえられることも多い。HRCTは通常のCTに比べて、局所における構造解析にすぐれた能力を発揮する。前述の胸膜外脂肪層や裂間脂肪の鑑別には欠かせない。また、胸膜から肺内側に向かう肺実質内帯状像や、小さな円形無気肺に伴うcrow's feet等、臓側胸膜病変を反映した肺実質病変の描出にも優れており、癒着を伴わない融合した胸膜プラークとの鑑別にも有用である。胸膜下の浮腫との鑑別は難しいとされるが、浮腫に伴う他の所見と総合することにより、ある程度鑑別が可能である。

(3)  予後
 石綿肺の所見がないびまん性胸膜肥厚有所見者の場合、肺拡散能は正常であるが、肺活量、全肺気量と静肺コンプライアンスが低下する。そのため、程度の差はあるものの少なからぬ肺機能障害(拘束性肺機能障害)を来すことが明らかにされている。びまん性胸膜肥厚が進展し、肺機能障害が著しく慢性呼吸不全状態になれば、在宅酸素療法の適応になり、継続的治療が必要になる。
 石綿肺の所見がないびまん性胸膜肥厚有所見者は、石綿肺有所見者ほどではないが、中皮腫のリスクが高い。Karjalainenら(1999)は石綿肺1,287人、良性石綿胸膜疾患 4,708人を対象に追跡した結果、石綿肺では肺がんのリスクは6.7倍(95%CI:5.6-7.9)、中皮腫のリスクは31.6倍(95%CI:14.4-60.0)で、良性石綿胸膜疾患では肺がんのリスクは1.3倍(95%CI:1.0-1.8)、中皮腫のリスクは5.5倍(95%CI:1.5-14.1)であったと報告している。

(4)  事例検討の結果
 本検討会においては、胸部エックス線写真上、少なくとも一か所で厚さが5mm以上、広がりが一側の場合1/2以上、両側の場合各1/4以上を有する15のびまん性胸膜肥厚症例について検討した。
 対象者は56〜81歳の男性で、職種は造船業が8名、建設業が3名、断熱・保温業が2名、その他2名であった。石綿のばく露期間は3〜45年、%肺活量(%VC)は20.0%〜96.7%、平均57.7%であった。いわゆる「著しい肺機能障害」に該当する症例が複数例存在し、両側又は肺尖部に病変を有する症例に肺機能低下の傾向が見られた。なお、15例中14例に胸部エックス線で、1例に胸部CTで胸膜プラークを認めた。

表12 石綿によるびまん性胸膜肥厚15例のばく露年数、肺機能検査成績]
調査項目 平均値 中央値 最小値 最大値
調査対象年齢(歳) 68.8 69.0 56.0 81.0
ばく露年数(年) 25.2 28.0 3.0 45.0
FEV1.0 1.33 1.25 0.60 2.00
FEV1.0% 76.8 74.6 58.3 100.0
VC 1.83 1.91 0.73 3.01
%VC 57.7 61.5 20.0 96.7
V25/Ht 0.38 0.26 0.06 1.06
 4  小括
 胸膜プラークは、主として、壁側胸膜の中皮下に発生する臓側(肺側)胸膜との癒着を伴わない限局性の肥厚である。経年的に進行するが、肺機能の低下はほとんど無いか、あっても極めて軽微である。胸膜プラークは、疾患としての意味合いはないが、我が国では石綿ばく露によってのみ発生すると考えられ、石綿ばく露量が多いほど発生率が高いが、胸部エックス線で石綿肺所見を有しないばく露量によっても発生し、石綿ばく露の指標として重要である。
 良性石綿胸水の約半数は胸痛、呼吸困難等の自覚症状がある。一方、自覚症状がなく健康診断等による胸水で発見される場合においても、胸膜中皮腫を鑑別するため精密検査が必要となる。胸水が消失せず遷延する場合、また胸水が自然消退した後でも、びまん性胸膜肥厚を残し、種々の程度の肺機能障害をもたらす。
 また、石綿によるびまん性胸膜肥厚は、臓側胸膜の病変で、壁側胸膜との癒着を伴う。なかには、著しい肺機能障害を呈するものが存在する。本検討会で検討した石綿肺所見を伴わないびまん性胸膜肥厚症例のうちで著しい肺機能障害を呈する症例が複数例あった。
 したがって、石綿への職業ばく露により生じた良性石綿胸水及びびまん性胸膜肥厚で、著しい肺機能障害等に対して適切な療養が必要な事例については、労災補償の対象として考慮すべきである。

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