1 | 過去3年間の認定事例の検討 本検討会では、平成11年度から平成13年度までの過去3年間において、石綿による中皮腫として労災認定された93件について検討した。部位別件数は、胸膜70件、腹膜23件(胸腹膜、精巣鞘膜の各1件を含む)で、全例男性であった(表4)。
胸膜中皮腫についてみると、ばく露期間の平均は19.8年、中央値は17.4年、最大42.7年、最小2.3年であった。症状確認時の年齢は平均値、中央値ともに60歳、最大95歳、最小30歳であった。石綿ばく露開始から中皮腫発症の症状確認日までの潜伏期間は、平均36.9年、中央値は38.6年、最大54.2年、最小11.5年であった。 腹膜中皮腫についてみると、ばく露期間の平均は21.3年、中央値は20.3年、最大47.0年、最小4.3年であった。症状確認時の年齢は平均値、中央値ともに63歳、最大76歳、最小49歳であった。石綿ばく露開始から中皮腫発症の症状確認日までの潜伏期間は、平均41.1年、中央値は42.0年、最大52.2年、最小27.3年であった。 両部位を合わせてみると、ばく露期間の平均は20.2年、中央値は18.3年であり、このうち、5年未満は7例であった。症状確認時の年齢は平均値、中央値ともに61歳、石綿ばく露開始から中皮腫発症の症状確認日までの潜伏期間は、平均38.0年、中央値は39.5年であった。 労災保険加入業種別に調べた結果では、胸膜及び腹膜の93件のうち、「船舶製造及び修理業」が最も多く18件(19.4%)、次いで「その他の各種事業」が17件(18.3%)、「建築事業(既設建築物設備工事業を除く)」12件(12.9%)、「その他の窯業又は土石製品製造業」11件(11.8%)、「輸送用機械器具製造業(船舶製造又は修理業を除く)」7件(7.5%)、「金属製品製造業又は金属加工業(洋食器、刃物手工具又は一般金物製造業及びメッキ業を除く)」5件(5.4%)の順であった(表5)。 職種別にみると、最も多かったのは、「船舶の製造及び修理作業」27件、ついで「石綿パイプ製造作業」12件、「断熱・保温作業」9件、「鉄道、車両製造作業」8件、「石綿吹き付け作業」6件、「配管・板金作業」5件の順であった。また、吹付け石綿された空間で電気工事やエレベーター・変圧器の設置作業でのばく露が4件、倉庫内で石綿製品の保管や運搬2件、石綿含有建材の加工作業2件、溶接の際に養生のために石綿布を切断する作業2件、各種機器のメンテナンス時における石綿製品の取り扱い2件であった。 |
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2 | 職業性ばく露事例の検討 職業性石綿ばく露の機会は直接のばく露もあれば間接のばく露もある。直接の職業ばく露とは、石綿鉱山、石綿紡績・紡織工場、石綿セメント工場、石綿断熱材製造工場、断熱作業などで直接石綿や石綿を含有する製品を製造・取り扱うことによるばく露である。しかし、中皮腫を発症せしめる石綿のばく露形態は、過去3年間の中皮腫認定事例の検討結果から分かるように、多種多様である。 間接的な職業ばく露とは、直接石綿を取り扱うことはないが、石綿を取り扱う現場で作業をすることによって石綿ばく露を受けることをいう。造船業における各種作業がそれに該当する。 職業ばく露以外には、傍職業性家庭内ばく露として、石綿工場に働く夫の作業衣を洗濯することによりばく露を受ける妻や、空になった石綿袋を家に持ち帰り、子供がそれで遊んだりすることによるばく露がある。傍職業性ばく露とは家で石綿含有シートを切断したり、石綿入りのパウダーを壁に塗ったりする作業を自宅などで行うことによる、DIY(Do it yourself)によるばく露を言う。 胸部エックス線で石綿肺所見を有しない職業性ばく露でも中皮腫が発症することは、良く知られている。以下、主な業種別に、中皮腫が発症しうる職業性石綿ばく露の機会を、我が国での経験例も含めて記述する。
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3 | ドイツにおける職業性石綿ばく露による中皮腫事例 旧西ドイツでは石綿による中皮腫(BK4105)は1977年1月1日から、労災補償の対象疾患になっている。全職業がんにおける石綿関連中皮腫の占める割合は26〜57%である。1978年から1994年までの17年間の認定件数は 3,138件で、平均従事期間は18.3年、平均潜伏期間は35.2年、発症時平均年齢は63.2歳、発症から死亡までの期間は平均 1.8年である。認定件数は増加の一途を辿っている。観察期間を1997年までの20年間とした成績では、認定件数は4,972件(胸膜 4,772、腹膜 198、心膜 2)で、平均従事期間は18.3年、平均潜伏期間は35.6年、発症時平均年齢は63.3歳、発症から死亡までの期間は平均 1.7年である。2000年までの観察では、認定件数は6,860件で、平均従事期間は18.6年、平均潜伏期間は36.4年、発症時平均年齢は65.0歳、発症から死亡までの期間は平均 1.8年である。 産業分類別に認定件数を見ると、どの年代でも鉄鋼・金属産業が最も多く、約1/3を上回っている(表6)。次いで化学産業、建設業でこの3業種で全体の80%近くを占める。繊維・皮革、土石に含まれる石綿製品製造業での認定件数は全体の約7%前後である。 表6 ドイツにおける石綿による中皮腫の産業分類別件数(1978〜2000) 主な職種別に認定件数を見ると、機械修理が最も多く、全件数の約15%を占める(表7)。次いで化学労働者が7〜8%を占めている。煉瓦積工・コンクリート工事工、板金工・据付工、大工・屋根職人・足場組工、家具師・型職人、建築材料組立工、塗装工などの建築関係者は、1978から1994年までは18.7%、1978から1997年までは22.5%、1978から2000年までは24.3%と多く、しかも増加傾向にある。また、金属接合(溶接)工や、金属製造・圧延工などの断熱が必要な工程での従事者、倉庫管理者・運輸労働者、電気工にも石綿ばく露による中皮腫の発症があることが分かる。機械係や機械製造工にも見られる(別添参考資料2)。
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4 | 北欧諸国における中皮腫の職業病登録状況 国レベルでのがん登録制度が整備されている北欧諸国では、中皮腫の罹患状況が把握されているが、職業病登録される中皮腫件数とのギャップが指摘されている。
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5 | 小括 我が国における中皮腫の3年間の労災認定事例では、石綿ばく露開始から発症までの潜伏期間は平均38年(最短11.5年)、発症年齢は平均61歳であった。石綿ばく露を受ける職種の従事期間は平均20.2年(最短2.3年)であったが、石綿ばく露の形態は、石綿製品製造業などの定常的なばく露を受ける形態のみならず、保温・断熱材の補修・メンテナンスなどの非定常的なばく露によるものも多く、直接石綿ばく露作業以外の作業に従事していた者にも発症していた。また、ドイツでも同様の報告があった。 石綿は、耐熱性・抗張性・化学的安定性に富むうえ、断熱性・電気絶縁性が高く、その優れた特性が広く工業製品の原料として活用されてきたことから、石綿ばく露を受ける機会は様々な業種・業界で働く労働者に及んでいることが分かる。 Bianchiら(2001)は造船業を主とする石綿ばく露歴を有する胸膜中皮腫例で、石綿ばく露従事年数が明らかな男性325例のうち323例(99.4%)は1年以上のばく露期間が認められた、と述べている。 これらのことから、概ね1年以上の職業による石綿ばく露期間は、中皮腫発症の重要な要因の一つといえる。 なお、我が国では全国規模の中皮腫登録もないことから、真に労災補償の対象とすべき中皮腫の件数が把握できない状況にある。昭和53年度の検討会報告書でイギリスの中皮腫登録が紹介されているが、石綿ばく露によって発症する中皮腫をはじめとする石綿関連疾患に実際に遭遇する臨床医に対して周知徹底を図るとともに、今後は、全国規模での中皮腫登録の必要性も検討されるべきである。 |
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