不当労働行為審査制度は、日本国憲法により労働者の生存権的基本権として認められている団結権、団体交渉権及び団体行動権の侵害から速やかに救済するという考え方から、労働委員会が原状回復に必要な命令を出すことにより、労働組合法が目的とする対等な労使関係の回復を実現することとしたものである。 この制度は、昭和24年の労働組合法の改正により創設された後、制度の見直しはほとんど行われていないが、近年、審査期間の長期化が著しく、また、労働委員会の救済命令に対する不服率・取消率が高くなっており、このため、不当労働行為事件の救済が「速やかに」、かつ、「適切に」なされているとは言い難い状況にある。 他方、裁判所における労働関係事件の処理については、訴訟の審理期間が短縮傾向にある上、司法制度改革により適正化、迅速化に向けた取組が更に進められており、今後、労働委員会における不当労働行為事件の処理についても、審査の長期化等の問題への対応が一層強く求められると見込まれる。 さらに、司法制度改革審議会からは、労働関係事件への総合的な対応強化の観点から、労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方について、労働委員会の在り方とあわせて検討すべきとの指摘もなされている。 以上のような状況にかんがみれば、不当労働行為審査制度についてはその在り方を見直すことが喫緊の課題となっているものと考えられる。本研究会は、このような中で、平成13年10月から、同制度に関して、審査の迅速化、司法審査や地方分権との関係について、関係者に対するヒアリングも実施しつつ、専門的見地から検討を行ってきたところである。今般、その検討結果を取りまとめたので報告する。 |
1 | 労働委員会における審査状況
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2 | 裁判所における労働委員会による命令取消訴訟の処理状況
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1 | 審査手続・審査体制に係る問題
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2 | 救済命令の実効性に係る問題 地労委の救済命令は、再審査が申し立てられた場合にあってもその効力は停止しないが、その履行を強制する仕組みがないため、救済命令が再審査されている段階ではその実効性は確保されない。 また、取消訴訟に関しては、裁判所が判決確定までの間救済命令の全部又は一部を使用者に履行させる緊急命令が、最近では、中労委により申立てられたものを中心として、一審判決と同日に発せられる場合が多い。さらに、一審判決前であっても、申立てから相当期間の経過後に緊急命令が発せられた場合も少なくなく、制度本来の趣旨に沿った運用がなされているとは言い難い状況にある。 さらに、確定判決により支持された救済命令に違反した場合の罰金の上限額は10万円、判決によらず確定した救済命令や裁判所による緊急命令に違反した場合の過料の上限額は10万円(作為義務の不履行については1日につき10万円)となっているが、これらの上限額は救済命令制度が設けられた昭和24年以来変わっていない。しかし、この間における貨幣価値の変動に照らせば、それらによる制裁的効果が大幅に低下しており、救済命令の実効性を確保するためには十分でないと考えられる。 |
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3 | 和解に係る問題 和解については、不当労働行為審査制度が設けられた当初から労働組合法上何ら位置づけられておらず、むしろ不当労働行為事件については労働者の団結権侵害であるという性質から和解による解決は認められないとの見解もあったところである。しかしながら、不当労働行為審査制度は、労働組合活動に対する使用者からの侵害を防止し、もって労働組合又は労働者の利益を保護する制度であることを考慮すれば、申立人である労働組合又は労働者の納得による自主的解決は許容されるべきものであるだけでなく、場合によっては解決方法として望ましいことが少なくない。 実際に、不当労働行為事件の大多数が和解(取下げを含む。)により解決しており、和解は、公労使それぞれの利益を代表する3種類の委員から構成されるという特徴をいかして労働委員会が果たしている重要な機能となっている。この点についてはヒアリングを通じて、ほぼ共通して長期的な労使関係の安定への寄与の点から評価されている。 しかしながら、現行の不当労働行為審査制度は、法律上は救済命令により団結権が侵害された状態を迅速かつ直接是正することを目的とした制度として設けられており、現実の機能が法律に反映されていない。 また、和解については、争点や証拠の整理を十分行わないまま期日を積み重ねるケースが多く、そのことが和解が不調に終わった場合に迅速に審問を終結し、的確な命令書を作成する上で困難を来していることも否定できないし、また、結果的に審査の遅延につながることにもなっている。 |
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4 | 地労委に対する規制に係る問題 地労委は都道府県の組織であるが、委員定数や事務局組織については国が法律や政令で具体的に規定していることから、不当労働行為事件数の多寡や増減といった地域の実情に応じて弾力的、機動的な体制整備ができない等の問題が生じている。 なお、この点に関しては、ヒアリング等において、地労委等から、その規制を緩和する方向の意見が多数出されたところである。 |
1 | 今後の不当労働行為審査制度の役割 現行の不当労働行為審査制度は、労働者の労働組合活動の自由を保障するための制度として昭和24年に設けられて以来、長期的な労使関係の安定に大きく寄与してきた。 その後、昭和40年代に入ると労使協議制度を中心として自主的に問題を協議し解決する労使自治が進み、労使関係が成熟してきたこともあって、不当労働行為事件の新規申立件数は近年増加しつつあるものの、水準としてはピーク時に比べかなり低下している。また、最近の経済構造の変化や企業間競争の激化、就業意識や働き方の多様化、労働組合の組織率の低下等を背景として、個別的労使紛争が増加するとともに、本来集団的な労使関係において生ずる不当労働行為の申立てについて、駆け込み訴えなど実質上個別的労使紛争とも考えられるものも1割程度見受けられるようになってきている。 しかしながら、大多数の労働者については、引き続き使用者との間に労働条件に関する交渉力の格差が存在することは否定できないので、それに対応するための集団的労使関係の役割はなお重要性を持ち続けている。また、近年においては経済情勢が厳しいことから、前述のように不当労働行為事件は増加しつつあることに加え、活発化する企業組織再編の際に、基本的な労働条件の枠組みが変更されるケースが目立つようになってきており、紛争解決システムとしての不当労働行為審査制度が適切に機能することが期待されている。 その一方で、審査が大幅に遅延したために、やむなく取下げ・和解に応じたり、そのような状況を目にして不当労働行為審査の申立てをすること自体をあきらめてしまう傾向も見られたりするなど、現行制度は十分に機能しているとは言い難い。 これらのことを考慮すると、今後とも、労働者がその労働条件の維持・改善を図るため、団結して集団的に労働条件を決定するシステムを保障する不当労働行為審査制度がその本来の機能を十分発揮し得るようにしていくことが求められる。 |
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2 | 現状の問題点解決のための基本的考え方 1で述べたように、不当労働行為審査制度の意義が今後とも重要であり続ける以上、審査の遅延や命令に対する不服率・取消率の高さといった問題を放置することは、今後ますます裁判の迅速化が図られる中においては、制度に対する労使を始めとする国民の信頼を損ね、ひいては制度そのものの存在意義を失わせしめかねない。 特に、審査の遅延の問題については、昭和57年に労使関係法研究会による「労働委員会における不当労働行為事件の審査の迅速化等に関する報告」で、詳細な分析に基づき様々な迅速化のための改善策が運用面を中心に提言されたところであるが、結果として、今日に至るまで審査の迅速化は実現されなかった。 したがって、審査の遅延を始めとする制度の問題点を解消し、審査の迅速化、的確化を実現するためには、もはや運用の改善にとどまらず、労働組合法の改正を含む制度の抜本的な見直しを行い、「平均審査期間を半減すること」を目標として、総合的な取組を強力に進めていく必要があると考える。また、その際には労働委員会関係者はもとより、当事者の理解と協力を得つつ実施していくことが不可欠である。 |
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3 | 制度の見直し 不当労働行為審査制度について、迅速かつ的確な審査を実現するためには、次のような抜本的な見直しを行うことが不可欠であり、労働組合法の改正その他所要の措置を講ずる必要がある。
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(○印 座長) |