小児がんの一種である神経芽細胞腫を早期に発見し、できるだけ早い段階で適切な措置を講じることを目的として、生後6〜7ヶ月の全ての乳児を対象に、尿によるマススクリーニング検査を行う事業(神経芽細胞腫検査事業)が昭和59年度以来実施されてきたところである。
近年、欧米において神経芽細胞腫マススクリーニングの有効性に関して疑問があるとの報告がなされ、日本においても本事業の実施が与える影響について検討する必要がある。このため、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長が参集する検討会が開催され、神経芽細胞腫マススクリーニング検査の今後のあり方について検討を行った。
1 | 神経芽細胞腫検査事業の経緯
神経芽細胞腫は、カテコラミン(ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン)を産生することが知られており、尿に含まれるカテコラミンの代謝産物である、VMA(バニールマンデル酸)、HVA(ホモバニリン酸)を測定することにより、神経芽細胞腫を早期に発見し、早期治療に結びつけようと考えられた。 |
2 | 神経芽細胞腫検査事業の有効性の評価について
一般にマススクリーニングの評価においては、(1)死亡率減少効果があるか、(2)マススクリーニングによる不利益がないか、が最も重要である。
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3 | 神経芽細胞腫検査事業の今後のあり方について
神経芽細胞腫検査事業は、死亡率減少効果の有無が明確でない一方、自然に退縮する例に対して手術などの治療を行うなどの負担をかけており、このまま継続することは難しいと判断される。
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4 | 神経芽細胞腫検査事業についての総評と今後新たなマススクリーニングを導入する際の留意点
神経芽細胞腫検査事業は、神経芽細胞腫が難治性の疾患であり、この予後の改善を目指して、多くの関係者の努力によって実施されたものである。この事業の実施により、神経芽細胞腫の自然史をはじめとする有益な知見が明らかとなり、治療にも大いに生かされることとなったことは評価すべきである。 |
5 | まとめ
これまでに発表された神経芽細胞腫スクリーニングに関するデータを検討した。この結果に基づき、神経芽細胞腫検査事業は、(1)神経芽細胞腫の罹患と死亡の正確な把握、(2)検査の実施時期変更の検討、(3)治療成績を改善するための研究の推進と治療体制の確立、を条件として、いったん休止し、引き続き神経芽細胞腫に関する状況を評価し、これに基づいた適切な対応をとることが適切であると考えた。 |