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介護保険部会への要望書

秦 洋一 (日本医学ジャーナリスト協会・副会長)


高齢者介護研究会の「2015年の高齢者介護〜高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて」は、実にすばらしい内容です。これを"作文"に終わらせないためには、介護保険部会の委員、老健局の方々の今後の取り組みが大切でしょう。
しかし、次の2つの点が欠けているように思います。提供者に比べ、数が少ない利用者側を代弁して、以下の2点を要望します。
つまりは
 事業者間、省庁間の"垣根を"取り払ってほしいのです。

★施設でのターミナル・ケアを進めよ

★高齢者・障害者の自立に介護移送は重要



要望書
   秦 洋一(日本医学ジャーナリスト協会・副会長)


★施設でのターミナル・ケアを進めよ

医師は"家庭医"として施設と連携し、看護・介護者とともに施設への応援派遣をすることを義務付ける



医師は"家庭医"として施設と連携し、看護・介護者とともに施設への応援派遣をすることを義務付ける。
高齢者の9割近くが病院ではなく自宅での終末を望んでいる。介護老人福祉施設、介護老人保健施設やケアハウス、有料老人ホームなどの特定施設で暮らしている高齢者は、そのような施設を"新たな自宅"と受け止めている人が多い。
もしも、救命救急が不可能と考えられる"不治の病"に罹ったとき、施設から病院に運ばれてそのまま生を終える人が少なくない。
このような現状を改め、施設での"在宅死"を可能にするためには、医師の施設常駐、もしくは"家庭医"として日ごろから患者をよく 知っている医師がターミナル・ケアのためにいつでも呼び出せること、そして日常業務で忙しい施設の看護者・介護者を助けるために、訪問看護ステーションから応援派遣体制を取っていただきたい。


★高齢者・障害者の自立に介護移送は重要

国交省とともに積極的な"交通弱者"対策を



介護移送は市中での買物、食事、親しい友人宅を訪問、病院の受診などに必要不可欠。
単なる移送よりも介護の問題、介護予防にも有力な手段である。
ヘルパーの"白タク"行為は危険で事故がおきている。NPOもボランティアに依拠しては危険(介護の訓練はされていても、移送の訓練は受けていない―せめて2種免許程度の資格は必要条件。あるいはケアドライバーとしての免許(例えば、雨があがり、虹が出て、さあお出かけという願いを込めて、様々な色合いの外出支援であって欲しいという願いを込めて「レインボー免許」などはいかが?)の検討を。自治体も"コミュニティ・バス"の網の目を張り巡らすなどきめ細かに移送に対応して欲しい。
現状では家庭内のバリアフリー、交通機関のバリアフリーは進められているが、そこまでの移動手段が無い。お年寄りに限らず障害者、幼児を含む"交通弱者"すべての問題である。厚生労働省は国土交通省などと協働して積極的に取り組んでいただきたい。



(参考意見―1)
介護と医療をつなぐには、訪問看護ステーションの応援が必要

 千葉県香取郡下の人口5300人の小さな町に、この3月に開設した特別養護老人ホームでのことです。
 I・Mさん、91歳、女性。80歳を過ぎたころから、暑気あたり、冬の風邪で入退院を繰り返すようになり、86歳ころより物盗られ妄想などの痴呆症状がで始めました。
 家族は4世代同居で、自宅で這っていけるところにトイレを作り、在宅介護を続けていました。昨年1月、肺炎のため隣町の総合病院に入院になり、その後同じ病院の療養棟と治療棟を行ったり来たりしていましたが、症状も落ち着き退院を促されていました。そこで地元に新設される特別養護老人ホームへの入所を申し込み、3月19日に入所になりました。
 入所判定の事前面接日、病院の療養棟のベッドに横たわるI・Mさんの脇で、彼女の主介護者である長男の妻に、家族の介護に対する思い、I・Mさんの生活歴をうかがいました。最後に、自分の意思を表現できるかと思いながら「これから何を望まれますか」と声をかけました。するとI・Mさんは、小さな声でためらいながら「トイレに座りたい。形のあるものを食べたい」と話しました。
 尿意、便意がありながら、病院の都合で昼夜オムツになっていることが、彼女の悲しみになっていることが、諦めたような輝きを失った眼から感じられました。治療中にはずされていた義歯は、歯肉の萎縮で合わなくなり、歯の無い状態での食事は、主食は五分粥、副食はペーストで提供されていました。
 当日は、ずっと臥床状態だったI・Mさんのために病院が配慮したストレッチャーでの入所でした。I・Mさんが亡くなるまでに特別養護老人ホームにいた期間は、わずか22日です。そのわずかのあいだに、彼岸の牡丹餅を食べ、家族が用意したポータブルトイレに座り、瞳に輝きを取り戻しました。
 生命活動が徐々に低下し、食物を受け付けなくなり、低体温状態になりました。「長い間苦しい思いをしてきたのだから、これ以上の医療は望まない。静かに逝かせて上げたい」と家族は希望しました。毎晩子どもたちが交代で泊まり、ゆったりとした時間を持ち、穏やかに逝くことができました。

 生活の場である特別養護老人ホームですが、ターミナル・ケアを行うためには、医師は町立病院にいて、週に一度、施設に来られるという状態です。また、経験の少ない施設の看護師だけでターミナル・ケアをするのは不安です。「現在は医師の往診と看護師の訪問を望むことさえできませんが、近くにいる訪問看護師さんたちは施設に応援に来てほしいと思うのです。

中川 真理子(千葉県香取郡町栗源町 特養・「杜の家」ケアマネジャー)



(参考意見―2)
特別養護老人ホームのターミナル・ケアについて

 「安らぎを得ることで安らかな死を迎えることができる」と日本尊厳死協会でも推奨しておりますとおり、在宅でも、特別養護老人ホームでも安らぎをもって生活できるように心がけております。
 そのためには、一つ目に各専門職がそれぞれに自分たちの役割を明確にし、話し合い、お互いに納得したうえで共通したケアの考え方をしませんと、これから死に逝く人にとっては安らぎどころではなくなってしまいます。
 二つ目に、各専門スタッフ間のコミュニケーションの共有、常に誰かがかかわっていることから、緊急時等すぐに解決しなければならないことが起きたときにすぐに連絡が取れる体制が必要。(特に医師が重要と思います)
 三つ目は、当人の代り、またはその思いを的確に把握しているキーパーソンの存在が必要かと思います。ケアをしていく中で一貫性がなくなってきたりしたときに、本人に代わって、思い等を伝えられる人がいると良いと思います。

介護移送サービスについて
 現在、市内にもいくつか移送サービスがありますが、利用者からの相談の多くは料金が年金生活者には高すぎる。または、社協の移送サービスでは車いすではないから利用できませんと言われたリウマチ患者さんだったりします。しかし、要介護1が付いております。
 そのような方から、市内のサービスはそんな感じなので介護保険のヘルパーさんにお願いできないかしらと言われます。内容は趣味や生涯学習に参加したいがタクシーは高く、民間の移送サービスも少し高い、社協には車椅子を使用していないから駄目と言われる。 ヘルパーの移送介助、乗車介助、降車介助は、主に通院とされている、その他日常生活に必要なこと、買い物は認められているが、趣味や生涯学習に利用するのは認めないと県の担当者も言っています。要支援予防、要介護予防、自立支援、閉じこもり予防等々一見よさそうなことを言っていますが、まだまだ、地域の人や高齢者のニーズには全く沿っていませんし、耳を傾けようともしてくれません。県の職員や市の職員はもっと現場を知るべきと考えます。

平田 剛(茨城県牛久市 特養・博慈園ケアマネジャー)



(参考意見−3)
市民の移送サービスを社会福祉協議会に移管

 牛久市民福祉の会では、高齢者・障害者の移動を支援するために、1998年10月から2001年3月まで介護移送サービス「お出かけサポート・らくらく」を運営しました。利用者は、JRの駅・病院などのバリアフリー化や自宅のバリアフリー化が進んでも、移動する手段が無いために自宅に閉じ込められていた方々です。
 年会費5,000円(牛久市の補助金が出てからは、市民は無料、市外の人は3,000円)の登録制で、毎月の運営費は100円。市内は片道でチケット1枚(600円)、市外は10キロで1枚の割合でした。重度身体障害者地域活動参加支援事業(国、県、市が1/3づつ負担)の補助金を受け、牛久市からの委託事業として年間350万円の補助を受けました。2人のパート事務員を雇用し、初年度のみの補助金200万円でリフト付の移送車両を購入しました。高齢者・障害者のニーズが高いため、利用者はのように飛躍的な伸びがありました。

図

 運転者はボランティアで、年に1度は龍ヶ崎警察署の安全運転講習や車椅子利用者の介護講習を受けていました。利用会員には全国社会福祉協議会の「送迎サービス補償制度」に加入してもらいました。しかし、持ち込まれた協力会員(ドライバー)の車に掛けられた任意保険は低額で、万一事故がおきても牛久市民福祉の会の財政力では十分な保障ができないことが分かりました。また運転のボランティアは"運転"が好きでも"介護"が上手な人ばかりではありません。
 運営中は人身・物損事故ともありませんでしたが、事故寸前のケースがあり、ハラハラしました。実際に隣町のボランティア団体ではお客さんの障害者が重傷を負っています。
 そこで牛久市民福祉の会では介護移送の運営を約2年半で断念し、2001年4月から市長が会長を兼ねている牛久市の社会福祉協議会に移管しました。社会福祉協議会は移送を重症者にしぼり、運転手はボランティアですが、しっかり保険のかかっている社会福祉協議会の専用車両を使っています。こうした体験からも、自立を目指す人々の「介護予防」に、"ケア・ドライバー"による介護移送は非常に大切だと考えます。

秦 靖枝(牛久市民福祉の会事務局長)



(参考意見―4)
介護保険と医療保険の関係についての問題提起と要望

 医療には介護の視点がかかせません。介護保険制度が現状のままでは、医療保険制度をどんなに改正しても安心して暮らせる医療保障社会とならないこと、危惧しています。医療保険と介護保険を併用できるシステムづくりは可能でしょうか?
 医療に携わるものの視点から、介護保険を利用するにあたって不便を感じている点を中心に、意見を述べさせていただきます。

1) 介護施設入所中には、医療をうけるうえで多大な制限を受けている。老人保健施設では、医師が常勤しているが、介護保険での包括払いであり、経営がきびしいことから、なるべく薬剤、検査費用をおさえようとの思惑が強い。医療施設への外来受診も制約が大きい。医療の脆弱化によってかえって疾患が悪化し病院への再入院となり在宅復帰が妨げられるケースもでている。特別養護老人ホームが、安心してターミナル・ケアを受けられる本当の意味での終の棲家となるためには、緩和ケアに取り組む医療スタッフの支えが不可欠である。常勤しないしかも他に職場を持つ嘱託医1人でターミナル期に対応することは現実不可能であり、特別養護老人ホーム入所中にも他施設からの医師及び看護師の訪問を受けることができる制度となる必要がある。
2) 医療施設入院中には介護サービスを受けられない。
医療施設入院中に、退院後の在宅療養の準備や適応を検討するため、いわゆる自宅への外泊を試みる際、ベッド、車いすのレンタルや、訪問介護サービスを利用したくても、現在の制度では不可能である。また緩和医療の現場では、つかのま訪れた病状の小康期に、自宅にもう一度戻りたいという希望をかなえるべく、緩和ケアスタッフが、なかばボランティアで自宅復帰を支えるしかないのが実情である。また、退院にあたって、介護サービスへの移行がスムーズでない現状がある。時間の限られた高齢者や終末期の患者さんにとっては、入院から在宅への迅速な対応が必要であるにも関わらず、入院中の訪問調査や、入院中の住宅改修に難色を示す自治体が多く、すべて退院後に手続きするように指導しているところもある。
3) 介護保険下で訪問介護が推進されたことにより、訪問看護に期待されることは医療系のニーズである。褥瘡などの皮膚科処置、膀胱カテーテルや胃菅といった管の交換、吸引、各種点滴、注射の施行、疼痛コントロールのための持続皮下注射や中心静脈カテーテルなどの管理といった手技的なことの他、現在行なわれている医療についての、患者さんのおかれた状況を推しはかりながらの説明や助言、家族のケアもふくめた調整、患者のベッドサイド、身体状況を把握しているものの、他職種間の調整役など、いわゆるケアマネジメントも重要な看護師の役割と考える。こういったことは介護保険のサービスというより、医療そのものではないだろうか。現在訪問看護が主に介護保険下のサービスとして行なわれていることに矛盾を感じる。特定疾患や緊急時などは医療保険からも行なえるが、介護保険と医療保険の使い分けにはっきりとした境界が示されていない。訪問看護はすべて医療保険からに1本化されることを要望する。

ケアマネジャー制度に関する問題提起と要望
 現在のケアマネジャーの役割は、大きく給付管理業務とケアマネジメント業務にわけられる。給付管理業務は介護保険推進する重要な業務であるが、現行の複雑な給付管理業務を、利用者にとってはもっと直接的で重要であるケアマネジメント業務をこなしながら、一人の人間が行なうのは不可能な仕事内容である。
 実際、居宅介護支援事業所では、給付管理業務がケアマネジャーでない事務職が代行しているところが多い。(その事務職の給与保障も重要な問題である。現在のケアプラン作成報酬ではケアマネジャー1人の給与を保障することもままならないのであるから、居宅介護支援事業所が独立できす、各種の施設、機関に併設されている制度であるため維持できている)。
 訪問看護が制度化される以前から、訪問看護を推進し、日本の訪問看護制度の先駆的存在であり、現在もリーダー的存在である訪問看護センターが、居宅介護支援事業を行なわない方針であることは、介護保険のケアマネジャー制度に一石を投じている。本来、看護とは、上記3)で示したような様々なケアマネジメント業務であると言っても過言ではない。つまり、訪問看護師としての仕事は現行のケアマネジャー制度の給付管理業務を除いたケアマネジメント業務を含んだものといえる。もうすでに行なっているケアマネジメント業務を行なうためにケアマネジャーとなることで、給付管理業務といった業務まで担なうことになっては、本来のケアマネジメント業務がおろそかになるというのもひとつの見識である。ちなみに、当院では訪問看護業務はケアマネジャー業務を当然含むものと考え、訪問看護師全員にケアマネジャーの資格をとる事を義務づける方針できたが、給付管理業務は事務職に代行させている。
 介護保険制度のかなめといわれるケアマネジャーの位置づけについては、単にケアマネジャーが所属する施設の介護サービスの営業マンとならないよう居宅介護支援事業所を独立させるといった論議ばかりでなく、上記の観点からの制度の根本的見直しが必要と提起したい。(ましてや、4種類以上のケアプランを作成した場合の100点加算というなんら論理がとおらない今回の改正(改悪)は早急に廃止すべきである)。
 ケアマネジメント能力を問うケアマネジャーの資格・認定試験方法・資格取得後の研修システムについて、介護保険の理念を明確にした見直しを要望する。

伊藤 真美・「花の谷クリニック」医師・ケアマネジャー)



(参考意見―5)
村松静子さんの見解―伊藤真美さんへの返信から抜粋  
(文責:秦 洋一)

 「中途半端な医療は、患者の心身を救うのではなく、無駄な動き・辛い思い・意欲の低下・身体機能の低下を引き起こしているのです。医療は必要なときに必要なだけ適切に受けられるようでなければ逆効果にさえなると 思われます」。

 「たとえ施設であろうとも、最期までいられる体制作りなくして語れません。医師の訪問、看護師の付き添い看護も受けることができる制度をつくるべきでしょう。今の状況では1〜2名の訪問看護師を施設に増やしたとしてもまったく機能しません。必要なときに、外部から訪問することを組み入れた制度が必要と思います。ちなみにデンマークでは、地域でも、ターミナル期には訪問看護師が24時間体制で滞在してくれる制度が20年以上前からあります」。

 「外泊時やガン末期で治療が終わり、地方へ帰るときの付添看護はすべて有料になりますので、受けられない人が大勢いるのです。状態が悪い人が、「せめて最期は一晩でも家で」と思っても言い出せない進められない現状もあるのです。外泊できるとは言っても不安、その中では看護・介護サービスは不可欠でしょう」。

 「退院時期を逸してしまうガン末期の方は多いのです。本人・家族が希望しても病院の医師が許可せず、"亡くなる寸前にやることがないから"と言って、返そうとするケースも目立ちます。渡す側、受ける側の双方の考えや動きに問題があるように思います。本来のケアに加え、家族のケア、さらには説明・連携・調整、疼痛コントロール等々と看護サービスとして行うことがますます増えている中で、さらに静脈注射等も加えられていく現状があります。もちろん、もともとケアマネジメントは看護師の重要な役割なのです。だからこそ、私は医療保険の一本化にすべきと思うのです。しかし、あくまでその利用の仕方は長時間付添看護にも使える等、様々な形で利用できるようにすることが条件です。そして、技術料は医師であれ、看護師であれ加算されるべきと思います。介護保険はやはり本来誰にも必要となる介護のサービスに有効に使うべきでしょう」。

 「実際にケアマネジャーが存在しているにもかかわらず、当センターへ、次のように言ってこられた方がおります。"ケアマネジメントに関わる費用は、資格云々の問題ではなく、受け手が本当にやってもらったと思われたところに支払われるべきでしょう"。義母を介護していた嫁の言葉です」。

  「もっとサテライト的に渋谷区にも是非つくっていただきたい。そのための後援をぜひさせてください。介護保険などのややこしい制度もあり、ただ単に自分たちの生活のペースを保ちつつ介護をしたい、という希望なのですが、どこに相談して良いかもわからないというのが現状です。こうしたいという希望を持って1ヵ所に相談すれば、手配してくださるようなシステムがほしいですね」。

 「私はケアマネジャーが誕生する以前から、ケアマネジメント機構が必要ではないかと訴えています。それは、受け手が自分で、あるいは家族が、あるいは友人が インターネットを介して、自宅の周辺に介護保険で利用できる組織を引き出すことができ、発注すると、発注されたものがきちんと整備されて出てくる。そしてその窓口が中心となって、かかわる人が直接受け手に連絡をして、サービスが始まるというものです。つまり、マネジメントしたどの職種であれ、加算されるというものにすべきだと思っています。いずれにしろ、今の制度は書類が多い、質的に揃っていないなど、問題がありすぎますよね」。

在宅看護研究センター       村松 静子



(参考意見―6)
介護移送に関する地域での現状について

 地域には介護タクシー事業者がまったく存在しておらず、現時点では今後の開設予定もないので、介護保険にかかるサービスとしての移送サービスを受けることがまったくできないことになる。これではごく限られた地域だけのサービスに当該区分が特化してしまう結果となる。
 従来のタクシーを利用するのは非常に料金が高い。透析患者等の週に2〜3回の通院をしなければ生命を維持できない要介護者にとっては非現実的な費用負担であり、また、重度の患者を移送するのは技術的にも困難と思われる。
 人間が生活を維持するためには移動は必要不可欠である。人間は誰でも買い物に出かけ、病気があれば病院に通い、文化的生活を生きるために図書館、役所に出かけることが必要である。
 要介護状態になるということは、バスや電車などの利用が非常に困難になるということであり、保険対象サービスを公共的移送サービスに限定することは、被保険者にとって非常に不利益をもたらす。
 また、都会と違い、地方では電車、バスは本数も少なく、駅等も広い範囲にほんの少ししかない無いので、更に状況を厳しくしている。
 タクシーは言うに及ばず、電車、バスを利用した上に、介護保険サービスを利用して付き添い介助すると、非常に費用負担が大きい。介護タクシーも利用不可能である。
 地方では公共移送サービスが量、質ともに薄く、生命を維持するためにどうしても必要な病院への通院の手段さえ、なかなか見つけることができない要介護者がたくさんいます。お金をいくらでも払えるような方は非常に少なく、大抵の方は僅かな年金等を頼りに暮らしていて、移動のためにたくさんのお金を払えません。重度の透析患者さんの中には「金の切れ目が命の切れ目」せっかく医療費が負担できずに死んでいく人がいなくなったと思ったら、今度は通院に金を払えなくて死ななくてはならないのか。という方もいます。これが必死に闘病している人の実感なのです。
 また、そこまで深刻でなくても、「どこかに買い物に行こうと思っても、うちの周りにはバスも電車もないし、家族も遠く離れた所に住んでいるので、タクシーを使って更に介助してもらうためにヘルパーさんを頼むと、介護保険を使っても、タクシー料金と介護保険の自己負担金をとても高くて払えない」という方がたくさんいます。介護が必要な状態とは、歩行等自力での移動が困難になることを伴うのが一般的です。
 それは公共的交通手段を利用することが困難になるということです。
 私が所属する訪問介護事業所では、重度の透析患者さんに対しては、当面の間、完全無償で片道45分かかる病院まで車椅子車での送迎を利用者に約束しました。通わなくては死んでしまうのです。
 また、他の事業所でも同じような動きがあると聞いています。けっして営利目的ではないのです。
 営利のために移送サービスを行うのは、道路運送法にかかる、しかるべき登録を受けることが当然と思いますが、公共移送サービスが極端に不足し、介護タクシーも皆無で、高齢者率がほとんどの市町村で30パーセントをゆうに超える地域においては、都会のような公共移送サービス利用を前提とした考え方は、被保険者にとって非常に厳しい状況を作り出しています。
 非営利を前提とした移送サービスガイドライン(団体の種類を問わず、移送にかかる会計情報開示を義務付けする等を条件とした、地方でも質、量の確保が現実的な)の設定など、特段の配慮を被保険者、関係事業者が切実に必要としています。早急なる手立てを切にお願いいたします。

南総ホームヘルプサービスサービス提供責任者      高橋 清和



(参考意見―7)
障害者・高齢者を差別しない社会を

 私は、北海道旭川市で介護タクシーを平成13年3月から創めさせていただきました、旭タクシー(株)代表取締役また、全国介護移送協会副会長を今年から仰せつかりました、西野俊典と申します。
 介護タクシー利用者皆様の支援に支えられ、今日まで従業員一同、歯を食い縛り頑張ってまいりました。
 私が介護タクシーを創めたきっかけは、平成10年にシート回転型のタクキャブを導入してからでした。しかし車を購入しても、これを扱うドライバーが未熟だと指摘されてしまい悩みました。その年、JC主催欧州福祉タクシー視察に応募して福祉先進国の福祉タクシーを学んできました。また昨年は、アメリカ・カナダの福祉タクシーも視察してきました。
 欧米の福祉移送を学んで感じたことは、「決して我々の介護タクシーは劣ってはいない、ただ制度がしっかりとしていないから駄目なんだ」という事でした。欧米の福祉タクシーはしっかりとした制度によって運行され、高齢者・障害者は移動の自由を保障されていす。私たちは、日本でも高齢者・身障者が差別されない移動の自由を保障される社会を目指したいのです。
 今後も私達は、行政が「介護移送」を介護保険でしっかりと認めるまで働きかけていくつもりです。これからもご支援、ご鞭撻の程宜しくお願い申し上げます。

旭タクシー(株)代表取締役     全国介護移送協会副会長 西野 俊典


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