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神経芽細胞腫検査事業に関する評価について(これまでの議論のまとめ)


マススクリーニング事業の評価においては、(1)死亡率減少効果があるか、(2)検診による不利益がないか、が最も重要である。

  わが国において実施している神経芽細胞腫検査事業の神経芽細胞腫に対する死亡率減少効果について

(海外で実施された比較対照研究の結果)
 ・ 2002年、ドイツとカナダにおいて実施された2つの比較対照研究において、死亡率減少効果について否定的な結果が発表されている。

(わが国における観察研究の結果)
 ・ わが国において、神経芽細胞腫検査事業の実施前と実施後の死亡率の比較を行った観察研究は7件であったが、必ずしも結果は一致していない。2件で統計的に有意な死亡率の低下が見られている。
 ・ 神経芽細胞腫検査事業の実施前と実施後の比較については、化学療法の改善など、治療の向上による死亡率の減少も含むと考えられるため、結果の解釈には慎重な態度が必要である。
 ・ また、わが国において、神経芽細胞腫マススクリーニングの受診者と未受診者の比較を行った観察研究は5件あり、このうち、統計的に有意な死亡率の低下を示したのは、25都道府県における後ろ向きコホート研究と、全国を対象とした前向きコホート研究の平成13年度報告の2件がある。この2件は、厚生労働科学研究事業として行われている。
 ・ マススクリーニングの受診者と未受診者の比較を行う観察研究の結果は、診療行動などが受診者と未受診者で異なる可能性があるなど、様々な要因の影響を受ける可能性が高いことから、一般に、研究デザインとしては、観察研究は、比較対照研究に比較して劣るとされており、すでに比較対照研究の結果が示された現在、その結果を死亡率減少効果の確定的な証拠とすることはできない。

(現在行われている全国を対象とする前向きコホート研究の重要性)
 ・ 現在、全国を対象とする前向きコホート研究が実施されており、平成13年度報告では、統計的に有意な神経芽細胞腫の死亡率の低下を示している。しかし、これまでにわが国で行われた観察研究と同様、その結果の解釈には慎重な態度が必要であり、今後、最終結果として死亡率の低下を示す結果が得られた場合であっても、死亡率減少効果を示す確定的な証拠とすることはできない。


  神経芽細胞腫検査事業による不利益について

(神経芽細胞腫検査事業による患者数の増加)
 ・ 一般的に、がんのスクリーニングは開始すると一時的に罹患率が上昇するが、その後継続すると、以前の水準に戻り、長期的に見て罹患率は一定する。これに対し、多くの研究結果は、神経芽細胞腫検査事業が開始された後、神経芽細胞腫の累積罹患率が2倍程度に増加することを示している。
 ・ また、神経芽細胞腫マススクリーニングによって発見された例では、積極的な治療を行わなくても、自然に腫瘍が退縮する場合があることが観察されている。2002年に日本小児がん学会が発表したデータによると、1998年に無治療で経過が観察されている82 例が登録され、このうち、2001年まで無治療のままの例は59例あった。残りの23例は、方針を変更して手術を受けており、その理由は、家族の希望や、腫瘍の増大や縮小しないことなどであった。手術を受けた例の病理組織を検討すると、良性腫瘍への変化傾向を示すものが多かった。

(治療による合併症)
 ・ 1999年に日本小児がん学会が発表したデータによると、1976年から1996年までに神経芽細胞腫マススクリーニングによって発見された1453例のうち、1226例に手術が行われ、このうち、132例に治療による合併症が認められた他、1025例に化学療法が行われ、このうち、49例に治療による合併症があったことが報告されている。治療による合併症による死亡は手術について8例、化学療法について10例あったことが報告されている。

(その他の不利益)
 ・ このほか、治療そのものによる子どもの身体的負担や、家族の、子どもが疾患を抱えることへの心理的負担、付き添いなどの負担があると考えられる。


  まとめ

(死亡率の減少効果の有無について)
 ・ 現行の神経芽細胞腫検査事業による死亡率減少効果の有無は、現在、明確でない。

(死亡率の減少効果の有無が今後、明確になる可能性について)
 ・ 現在、わが国で行われている全国を対象とした前向きコホート研究はすでに、平成13年度報告を出しており、死亡率の減少効果を示しているが、この解釈には慎重な態度が必要である。今後、最終報告において、死亡率の減少を示す結果が得られたとしても確定的な証拠とはならない。そのため、今後、わが国で神経芽細胞腫マススクリーニングによる死亡率減少効果の有無が明確になる見通しはない。

(不利益について)
 ・ 神経芽細胞腫マススクリーニングによって発見される例の中には、相当程度、積極的治療を必要としない例が含まれていると考えられている。また、治療によって合併症を生じる場合があるなど、神経芽細胞腫マススクリーニングによって不利益を受ける場合があることは否定できない。


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