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カナダでのBSEの発生の確認を踏まえた医薬品等のBSEリスク評価の考え方についての事務局案

平成15年7月8日
伝達性海綿状脳症調査会

BSEリスク評価の基本的な考え方

(1) BSEのリスク評価においては、ウシ等由来原料の原産国の地理的なリスク及び原材料部位のTSE感染性に関するリスクを基本に、予防的な原則にたって、これまでもBSE対策を進めてきたところである。

(2) また、平成13年10月(日本でのBSE発生時)からは、EUの医薬品評価の指針を参考に、発生国(英国・ポルトガル等の高発生率の国を除く。)であってもいわゆる「Closed herd」(感染動物から隔絶された動物群)であることが証明できる場合においては、個別に評価し、発生国であっても当該動物群に由来する原材料の使用を認めているところである。

(3) さらに、平成12年12月に使用を禁止したリスクの高い部位及び欧州産等発生国の原材料を使用した医薬品等について平成13年10月に自主的な回収を指導した際に、効率的・効果的な回収作業を行わせるために、回収対象となった製品群に対して定量的なリスク評価を試みたところである。

(4) 世界中の様々な国を原産国とする原材料を使用するという医薬品等の特徴からみて原材料全般に関するリスク管理の水準を一定以上に保つためにも、原材料の部位及び原産国によるBSE対策を原則としながら、これまでのBSEに関するリスクに対する対応を踏まえて、BSEのリスクの評価をその製品の特徴に応じてより綿密に行い、製品に関する保健衛生上のリスクを回避することを検討するものである。

(5) 以下は、製品のBSEに関するリスク評価において、(1)「原材料原産国の地理的なリスク及び部位のリスク」を基本とし、(2)「製品の製造過程の処理、使用方法によるリスク」の評価を加え、また、(3) リスクの少ない原材料を入手するための管理に係る担保措置を講ずるかという考え方に立ったものである。


 医薬品等の原材料における地理的リスク及び部位のリスク

 これまでも、ウシ等の原産国及び使用部位に基づく、医薬品等の原材料等の使用規制を行ってきたところであり、その場合の原材料に係るリスクの評価については次に示すように定量的なモデルにより理論的に評価してきたものである。

表1 原産国、使用部位によるリスク
  リスク値について(単位Log)
(1) 臓器部位のリスク
リスクの高い部位 リスクの低い部位(危険部位混入リスクを勘案した値) 部位の希釈・処理等要因※1
+7 +3 −x
(2) BSEの発生リスク
発生国+リスク不明国(発生国等) 低リスク国 管理された動物群を使用※2
−4 −6 −6

(1) リスクの高い部位は、マウス脳内に投与した感染動物の脳1gあたりの感染単位(タイター)数である107のID50値を+7としている。また、リスクの低い部位は、採取過程でのリスクの高い部位の混入のリスクを0.01%(FDA報告書から引用)と見積もった場合の数値
(2) 発生国のリスクは、100/100万頭という高い発生率の国の発生率として最大限見積もったリスク、低リスク国は、1/100万頭という発生率の低い国の発生率として最大限見積もったリスクである。
 ※1 「2 製品の製造過程の処理、使用方法によるリスク」において述べる部分
 ※2 「4 リスクの評価の担保について」の(2)に述べる管理された動物群の場合としては低リスク国と同程度と仮定)

表2 原産国、部位からみたウシ等由来原材料の相対的なリスク

(平成13年10月29日開催伝達性海綿状脳症調査会での結論から)
  国及び部位の組合わせ Log ID50 相対リスク
リスクの起点 感染牛のリスクの高い部位  +7  1
感染牛のリスクの低い部位  +3  1/ 1万
 レベル1 発生国等 +リスクの高い部位  +3  1/ 1万
 レベル2 低リスク国+リスクの高い部位  +1  1/100万
 レベル3 発生国等 +リスクの低い部位  −1  1 /1億
 レベル4 低リスク国+リスクの低い部位  −3未満  1/ ∞
レベル4が、現在の使用部位・原産国規制に適合する原材料を使用した場合のリスクに相当。
1gの部位を使用した場合、医薬品等の製造に使用される原材料が1gとなる場合のリスク。


 製品の製造過程の処理、使用方法によるリスク

 原材料を使用して、医薬品等の原料を製造する工程、製品化をする工程での処理についても、BSEのリスク評価の点から定量的に検討がなされる必要があり、これまでの不活化処理におけるプリオンの感染単位の減少試験の成績等から評価を行うものである。

表3 製品の製造過程での処理によるリスク(製品1gあたり)
  リスクのクリアランス値について(単位Log)
(1) 製品の製造工程中での希釈等の効果(希釈係数) (1)細胞培養工程(血清) (2)原料プールからの製剤化 (3)アフィニティークロマトでの使用 (4)工程の最終プロセスでの安定剤 (5)細菌等の培養工程等での使用(血清) (6)マスターセルバンクでの使用 (7)マスターシードでの使用
+2 +1 −2 −3 −3 −4 −6
(2) 不活化除去処理によるリスク減少 処理の度合によるID50の低下
0 −1 −2 −3 −4 −5 −6

表4 製品の使用方法等によるリスク(製品1gあたり)
  リスクのリダクショクについて(単位Log)
(3) 投与経路によるリスク 注射血管内 注射 経口 外皮
−1 −2 −5 −6
(4) 使用期間及び使用量 長期使用(1ロットを3ヶ月以上) 短期使用(1ロットを1週間程度) 適時使用(数日程度)
+2 +1

(1) 製造プロセスでの原料の希釈係数(タイター数換算)についての概算値
(1) 遺伝子組換え細胞培養工程から、例えば、5000単位(本)製造するために、本培養において最大5,000,000gの血清が使用され、これらが製造工程中で消滅しないと仮定して、希釈割合(濃縮)は、102(Log 2)となる(仮想な遺伝子組換え工程であり、実際には理論的に濃縮されるものは少ない。)。通常は細胞培養の工程において異常プリオンタンパクは増殖しないと考えられている。
(2) 製剤100,000単位を製造するために、動物臓器抽出物等原料1,000,000gが使用されるとして、希釈係数は、最大10倍程度の濃縮となる(101)。
(3) 遺伝子組換え成分の精製等にイムノアフィニティーカラムを使用する場合、モノクローナル抗体を製造する際に100,000g相当の血清が使用され、これらが抗体作成工程で消滅しないと仮定して、それがすべて最終製品に含有されると仮定した場合の希釈(濃縮)割合は、10程度となる。途中にイオンクロマトによる精製を標準的に仮定すると、10-3程度のクリアランスとして、希釈係数は10-2と仮定。
(4) 注射剤等の安定剤で使用する場合の標準的な安定剤の量は、mg単位であることから、希釈係数は概ね10-3
(5) 細菌培養における希釈例(希釈係数10-3程度と試算。)
1) 肉エキスの場合は、ワクチン1,000,000単位製造するために、1000g使用されるとして、希釈係数は10-3(単位数、使用血清量・肉エキス量は等のデータはFDA公表資料より)
2) 抗生物質の製造においては、1,000,000単位製造するために、ペプトン培地等を約20g使用されるとして、希釈係数は10-5
3) ウイルス性のワクチンの細胞培養で使用される血清は、100,000単位製造するために、最大100,000g使用されるとして、希釈係数は10-2〜100となるが、そこから、最終製品での血清濃度として0.0001%(生物学的製剤基準)まで希釈されるため、希釈係数は10-6程度。
(6) 培養細胞のマスターセルバンクにおける血清の使用量は、おおよそ100mLとして、それが200本程度に分注されワーキングセルバンクを形成し、そこから製造される製品が5,000〜500,000単位程度とすると、製剤までに至る希釈係数は、10-4程度となる。
(7) ワクチンのマスターシードに血清を用いる場合は、標準的なワクチン製造プロセスにおいて、500,000単位製造するために、4g使用されるとして、希釈係数は、10-6。(データはFDA公表資料より)
(2) 熱処理・アルカリ処理により、減ずるID50のタイター値を原料・製品毎のケースに応じて数値化する。
(3) ドイツ医薬品庁のリスク推定係数を利用
(4) 使用期間が3ヶ月以上となる場合に、90日間の繰り返し使用を行うことにより、約2Log分の量的な蓄積となること、一週間程度であれば、約1Log分。


 発生国が拡大した際の実際の製品のリスクの評価について

 表3及び表4に具体的な製剤群の数値を当てはめて理論的なリスクを試算すると、次の表5−1、5−2のような評価となる。このリスク評価においては、最初に使用した原材料から混入するプリオンが、途中の処理を経ることなく、原則、最終製品まで残存する最悪のシナリオを想定したものである。つまり、個々の製品毎にバリデーション等により行われるべき製造工程中でのプリオン不活化除去等の工程を評価したものではない。

(1)表2のレベル3原材料のリスクを基本として、製品の処理過程、投与経路等によるリスクを推定する場合

表5−1 製剤群の理論的リスク(最終製剤1g単位におけるプリオンID50タイターのLog値)
  原材料の国、部位によるリスク(ID50)(表2) 製造プロセスでの原材料の希釈 不活化除去等によるリスク低減 小計
製品としてのリスク(ID50タイター)
投与経路によるリスクの減少 使用期間によるリスク 合計
総合的な評価指標
(リスクの参考)感染動物のリスクの高い部位そのもののリスク(1g単位)      
(1)一般注射剤 −1 +1 −2 +2
(2)一般経口剤 −1 +1 −5 +2 −3
(3)細菌等培養製剤注射(ウイルス・細菌ワクチン、抗生物質、遺伝子組換え)の培養工程 −1 −3 −4 −2 +2 −4
(4)細胞培養製剤注射(静注)(遺伝子組み換えを含む。) −1 +2 +1 −1 +2 +2
(5)アフィニティーカラムにより製する医薬品 −1 −2 −3 −1 +2 −2
(6)マスターセルバンクのみで牛血清等を使用した場合 −1 −4 −5 −1 +2 −4
(7)マスターシードのみで牛血清等を使用した場合 −1 −6 −7 −1 +2 −6

 ※ 表の数値は概算値であり、不活化除去処理工程(オートクレーブ処理、イオンクロマト、フィルター濾過等によるクリアランス)が組み込まれていないと仮定し、同一製品を長期使用する場合の最悪のケースにおける理論的な数値であり、実際の製造において、不活化除去処理工程が組み込まれている場合、短期使用の場合は、リスクの理論値は、これよりも低くなる。

 (1) 不活化処理等がなされない場合のリスクは、感染動物のリスクの高い部位の原材料の1,000万分の1程度であり、感染動物のリスクの高い部位の脳内投与により確実に感染が成立すると仮定すると、確率的には、毎日使用する製剤としては、30,000年分使用して1回感染が発生するリスク。
 (4) 不活化処理等がなされない場合のリスクは、感染動物のリスクの高い部位の原材料の10万分の1程度であり、感染動物のリスクの高い部位の脳内投与により確実に感染が成立すると仮定すると、確率的には、毎日使用する製剤としては、300年分使用して1回感染が発生するリスク。

(2) 表2のレベル1原材料を想定する特殊なケースとして、脊柱骨(三叉神経節等が除去できない最悪のケースを想定)の骨原料を使用する場合の製品の処理過程、投与経路等によるリスクを推定する場合

表5−2 製剤群の理論的リスク(最終製剤1g単位におけるプリオンID50タイターのLog値)
  原材料の国、部位によるリスク(ID50)(表2) 製造プロセスでの原材料の希釈 不活化除去等によるリスク低減 小計
製品としてのリスク(ID50タイター)
投与経路によるリスクの減少 使用期間によるリスク 合計
総合的な評価指標
(リスクの目安)感染動物のリスクの高い部位そのもののリスク(1g単位)      
(1)ゼラチンカプセル(アルカリ処理)を使用した製剤 +3 −4 −1 −5 +2 −4
(2)ゼラチンカプセル(酸処理)を使用した製剤 +3 −4 −1 −5 +2 −4
(3)ゼラチンを注射剤の安定剤として使用する場合 +3 −2 −4 −3 −2 +2 −3

 ※ 表の数値は、同一製品を長期使用する場合の最悪のケースにおける理論的な数値であり、実際の製造において、短期使用の場合は、リスクの理論値は、これよりも低くなる。

 (1) 製造プロセスでの不活化除去については、ゼラチン製造工程における石灰処理によるクリアランス値 104.8 (EU委員会科学運営委員会改正意見書2003年3月)を利用した数値。アルカリ処理の条件としては、標準的に塩酸中pH1.5未満で2日以上、炭酸カリウム溶液pH12.5以上で20から50日、138-140℃4秒以上。
 (2) 製造プロセスでの不活化除去については、ゼラチン製造工程における酸処理によるクリアランス値 104.8 (EU委員会科学運営委員会改正意見書2003年3月)を利用した数値。酸処理の条件としては、標準的に塩酸中pH1.5未満で2日以上。138-140℃4秒以上。

(3) 使用方法・製造中の処理等を考慮しない場合のリスクとしてのレベル4(低リスク国の低リスク部位使用の原材料)の「−3未満」を基準(感染牛の危険部位からみて、100億分の1未満として1/∞のリスクレベル)として考えた場合においては、このような製品としてのリスク評価値が−3を下回ることが一定の安全性を確保する目安と考えられる。

(4) 「−3未満」の意味するところとしては、仮にBSE感染牛のリスクの高い臓器1gを脳内に使用した場合に確実に感染が起こると仮定した場合、当該製品を100億回以上使用しないと感染が発生しない確率である。その仮定に基づけば、毎日使用する製剤として、約3,000万年分以上使用して1回感染が発生するリスクと推定される。
(5) 上記の表5−1及び表5−2のリスク評価は、理論的に存在する可能性があるリスクを数学的に評価したものであり、また、これまでにこれらの製品の使用に伴い、人にBSEが伝播した科学的知見が示されているものではないことに留意するべきである。

(6) 以上のリスク評価の理論的なシミュレーションは原料において不活化処理等を行っていない場合等のリスクが最も高い場合を想定したものであるため、「−3」を超えることが推測される製品群については、詳細なリスク評価(原料となる動物の管理、投与期間、製造中の個別の具体的な不活化処理の工程評価等)を製品毎に考慮する必要がある。(表6)

(1) 原料となる動物の管理においては、平成13年10月2日付け医薬発第1069号厚生労働省医薬局長通知による次の条件を満たしていることを確認する。(これによりリスク評価値に−2が加算される。)
ア. BSEに関係ない動物群であることを公的な証明書により証明すること、
イ. 原産国が感染動物に対するサーベイランスを実施していること、動物性飼料の使用を禁止している等の制度的な措置を講じていること、
ウ. 原材料の由来動物について動物性飼料の使用がされていないことが確認できること
(2) 原料作成過程又は製剤化においては、通常以下の処理がなされているが、これらのプリオンのクリアランス値については、条件により異なるため、原料、製品毎に評価を行う。
ア. オートクレーブ処理
イ. イオンクロマト処理(イオンクロマトは一般的に、スクレイピープリオンにおいて3log程度のクリアランス値)
ウ. フィルター処理

表6 長期使用されることを前提に、リスク評価を行った場合のリスク評価値からみて、詳細なリスク評価が必要な場合の目安(長期使用の場合を仮定)
  製品群 ウシ等原材料の使用工程 投与経路 評価 総合評価
  (リスクの目安)感染動物のリスクの高い部位そのもののリスク(1g単位)
一般注射剤 安定剤 注射 −4
臓器抽出液(成分) 注射
細菌等培養(ワクチン、抗生物質、遺伝子組換え)医薬品

細胞培養(遺伝子組換えを含む)医薬品
ワクチンのマスターシード 注射 −6
細胞培養のマスターセル 注射 −4
細菌等(ウイルスを含む。)培養 注射 −4
細胞培養 注射 +2
アフィニティーカラム 注射 −2
安定剤 注射 −4
一般経口製剤 臓器抽出液(成分) 経口 −3
抗生物質等の培養工程 経口 −7
10 カプセル等(アルカリ・酸処理) 経口 −4
11 外用医薬品、化粧品・医薬部外品 基材、成分、培養工程 経皮 −4未満
△については、当面の使用に大きな問題があるものではないが、継続的な原料の使用においてリスク・ベネフィット評価を要するもの


 リスクの評価の担保について

(1) 以上のリスク評価の結果をより確実にするためには、リスクを最小限にするための品質管理をより確実に行うことが前提となる。
(1) 原材料の採取について、BSEの疑いのある動物の混入を防ぐ
(2) 製造工程において、リスクの高い部位の混入を防ぐ。

(2) (1)については、平成13年10月2日付け医薬局長通知により、4(1)の3つの条件をすべて満たすことを求めている。

(3) (2)についても、平成15年4月14日付け医薬局長通知により、原料の採取過程等においてリスクの高い部位の混入を最小限にするよう製造管理を徹底することを指導している。

(4) BSEの発生時においては、特に4(1)の3つの条件の(ア)(感染動物と関係のない群)の確認は困難であるため、それまで当該国でBSEが発生していなかった実績の下、(イ)の制度的な担保及び(ウ)の動物性飼料に係る飼育管理がなされていることが確認できる又は原料の採取時期が当該国のBSE発生動物の誕生時期以前であること等をもって一定のリスクの管理はなされていると見なすことが適当であると考えられる。


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