03/06/26 不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会第20回議事録       不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会(第20回)議事録 1 日時   平成15年6月26日(木) 10:00〜12:00 2 場所   専用第13会議室(厚生労働省5階) 3 出席者 (1) 委員(五十音順、◎は座長)    (1)伊藤眞(東京大学大学院法学政治学研究科教授)    (2)岩村正彦(東京大学大学院法学政治学研究科教授)    (3)菊池信男(弁護士)   ◎(4)諏訪康雄(法政大学社会学部教授) (2)行政    青木審議官、熊谷労政担当参事官、中原調査官、    山嵜中労委事務局審査第一課長、松本参事官補佐 4 議事 ○ ただいまから「不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会」の第20回会合を開 催する。本日は都合により毛塚委員、村中委員、小幡委員、山川委員の4人の委員が欠 席である。  本日は、引き続き各論の具体的検討をお願いしたいと思う。前回までに議論した「審 査手続の改善」、「審査体制の改善」以外の各論点について、議論をお願いしたいと 思っている。 それでは、前回までと同様、議論の参考となる資料が事務局から提出されているので、 説明をお願いする。 (事務局より資料No.1-1からNo.4-2についての説明。) ○ それでは、いつものように順番にご検討いただければと思う。まず第1の「和解の 法律上の位置づけ」である。これと第2の「審査の迅速化と適正な和解の推進とを両立 させる工夫」というのは関連しているので、この2つを同時に議論していただきたいと 思う。 ○ 口火を切らせていただくと、現在の、少なくとも私がやっている労働委員会の実務 では、和解は大変重要な役割を果たしている。これは今日のペーパーに書いてあるとお りであるが。実際は、ほとんどは関与和解という形で和解をやっていて、今日の資料で も出てくる労働委員会規則38条に基づく和解、我々が俗に言う三八和解というものであ るが、これはまずやらない。私の知っている限り、都労委ではやらない。中労委ではど うか知らないが。なぜやらないかというと、結局のところ少なくとも今の労働委員会の 実務においては、三八和解をするのであれば、当事者が必ずそれに応じてもらえるとい う裏付けがないと出せない、和解勧告が出せないというのが実務上の認識であるからで ある。もちろん和解に関して条文を置くことは、労働委員会の機能を正面から受け止め 明確化する意味があるのだが、労委規則38条と同じような条文を置くと、条文を置いた だけになってしまう気がする。私は裁判所の実務は知らないが、民事訴訟法の89条、 265条などが和解を定めているが、民事訴訟法の265条だと当事者双方の申立てによる和 解条項の提示、265条はこれを見ると強力な規定と思われるが、実際上、これがどの程 度動いているのか。289条であれば今の労委規則38条よりももうちょっと弱いのかなと 思うが。そのあたりが、和解に関して条文を入れるときに、和解に何を狙うかというこ とと、今の労働委員会の実務のやり方との関係で、規定を入れたからといって実務が変 わるというわけではないのではないか。中労委は時々三八和解を見るが。 ○ 実際に当事者が望むか。それは中労委まで来るのは、よりこじれた事件であるの で、当事者としても旗を巻くにはそれなりの理由付けがいる。とりわけ組織に戻って関 係方面を説得するのに「三八が来た、勧告されたから仕方がない」と理由付けに使いた いと思っているところがある。現実は、もっぱら当事者の了解の下で、つまり関与和解 方式で進めた方が最終段階で和解はなったけれども、その形式はどうするかという問題 であろう。相手が望んでもいないのに勧告してというのはどうだろうか… ○ 私もそんなに考え方に違いはない。和解についての規定を置くと、何らかの意味で はっきりとした違いが出るというものではないと思う。私は、具体的な効果という面か ら行けば、規定を置かなければいけないという性質のものではないと思う。しかし、手 続の姿として見ると、今の法救済の申立てという形で判断を求めてきたことに対して対 応するという本来の手続の機能がひとつあって、和解はそれと違うことをするのだか ら、規定を置いておいた方が良いということには反対はしない。根拠条文をはっきりさ せた方が良いという提案そのものには賛成である。 和解のタイムリミットであるが、労働委員会の手続は、緊急的な救済をするかしないか の問題であるから、救済命令を出すか出さないかの最終的な判断があまり遅くても意味 がないはずである。私は事件処理の遅延で悪いのは、だらだら審理であって、和解は、 見込みがありそうでやっていて遅くなるなら、非難すべきものとは思っていないのだ が、だからといって緊急性の意識が念頭にない形で和解がだらだら行われているとすれ ば、良いこととは言えない。全体として急いで解決しなければいけないというのは念頭 に置いておいてやる必要があるが、その中で和解をやる場合、見込みがあればある程度 深追いして、時間が掛かってもした方が良いと思う。迅速性と事案の妥当な処理の2つ で言えば、和解は後の方に奉仕する。だから、和解の見込みが出てきて、和解が適して いるという事案なら和解をやった方が良い。見込みがないのにとりあえずということ で、だらだらと続けるのは良くない。和解でも、一般的には、何回かやって見込みがな かったら、それ以上繰り返さない方が良いとかという、目途というのはあると思う。そ ういうものを何かの形で明確にしておくということはあった方が良い気がする。 ○ 戻ってしまうが、法律に条文を置くこと自体にマイナスがあるかというと、ないで あろう。今の労組法の条文だと27条しかなくて、あまり何も書いていない。特に、不当 労働行為で申立てを受けて初めて労働委員会から通知をもらって、という使用者の場 合、びっくりするだろう。そういうときに、手続の説明をするときに、法律上も、途中 での和解もあるというような効果と、実務的な効果はある程度期待できるのではないか という気がする。 ○ 救済命令という行政処分を出してくれという申立てがあって、それを出すか出さな いかということを審査する手続だという法規上の位置づけがあるだけである。民訴のよ うな紛争解決のための手続ということでなら、本来的に、和解というのは書いてあろう がなかろうが本来やっておかしくないが、行政処分を急いで出してくれ、という申立て だから、そのための審査を直接する以外にも、紛争解決のため和解をすることができる という規定が、手続の形としては分かりやすいし、その方が良いかなと思う。 ○ 一昔前には、労働法学会の中では、一部の労働法学者達の間では和解を厳しく非難 する人もいた。これは、手続の本来の構図からするとおかしい。 ○ そうであった。 ○ 本来やるべきことをやっていないじゃないかという非難があった。これに対しては 労働委員会関係者、それを経験した学者からの反論があって、今は落ち着いているが、 そういう意味ではやはり誤解を避けるためには、それなりに根拠条文が書いてあるだけ で随分違うという感じがする。ただ、それによって何が変わるかというと、実態で労働 委員会関係者がうまく行っていると自負している部分であるから、よりうまく行くよう 実態を踏まえての条文を設けるということになれば、実態がそれによって変わるという ことはないのではないかと私も思うが、どうであろうか。 ○ そうである。根拠を明らかにするという意味ではよろしいのではないか。その後手 続が大幅に改善されるということではないと思うが、それはそれとして、現在行ってい るものに相当の根拠を与えるという点は良いことだと考える。審理の迅速化の関係から 言うと、これまでも話に出てきたように、現在も実際上行われているが、和解の試み を、続けていくことが遅延につながっている、そういう事例があることは否定できない ので、どのように書くかどうかは検討しなければいけないが、和解を勧めるに当たって の権限については明らかに書いて、それに付随して和解を勧めることについての、言わ ば、委員会の審理に対するガイドライン的なものとして、両当事者が積極的に望む場合 は別として、原則としては事件の内容を解明した上で進めるというようなことを、ガイ ドラインでも何でも結構だが示した方が、先程言ったように、何も事件の内容について 明らかにならないのに和解の期日のみが積み重なっていくという弊害を防ぐ意味では相 当の意味があるのではないかと考える。 ○ 今の点いかがだろうか。都労委の実情としてはどうか。やはり調査あるいは審問を して、方向が見えてからの和解の方が多いだろうか。 ○ 事件による。個別紛争が団交拒否事件に転化した場合は、最初から和解ということ であるので、審問をやる必要はほとんどないが。事件によるが、様々な理由から審問は 避けたいということで、調査という形で事情聴取しつつ和解をやる。審問をやるとかえ ってこじれて、余計なところに話が飛んでいってしまうという可能性があるような場合 にはそういう配慮をせざるを得ない。事件によっては、今まで私がやった中でも、とり あえず審問をやりましょう、それから和解するかどうか考えましょうと踏切りをつけて 整理するというケースもあるという意味では、まさに生き物みたいなものであるので。 法律のレベルで一定の規範を設定するという性質のものではないだろう。例えば、全労 委あたりで和解に関する基本的な考え方をガイドラインで定めると良いと思う。うまく 行くコツというのを少し整理してみるということは考えられるのではないか。 ○ ガイドラインはどのレベルで、どこで作ったら良いと考えているか。 ○ ガイドラインという言葉がおかしいが、例えば、和解の試みをすることができると いう規定をなんらかの形で設けるとすれば、要件として、言葉は熟していないが、事件 の解決に適切と判断する場合、とか入れておいた方がいいと思う。これは担当する委員 のリーダーシップや何かによるところであるが、ややもすると参与委員の意見や当事者 の意向に引きずられる形で和解の試みがなされることもないとは言えないので、事件が こういう事件であってそれに和解という形が適切だからと判断した上で試みる、という ことをはっきりさせていた方が良いように思うが。 ○ 今話にも出たように、申立書を見た段階で、これは両方とも割り切れないところが あると思えば、事件の筋からして和解の試みは、ある段階で、かなり早い段階であって もした方が良いことがある。しかし、その事件で当事者が本当にこだわっている事柄は 何かということとも関わってくるので、直接当事者の話を聞いてみないと分からないこ ともある。一般に、事件の中身から適切・妥当な解決のために和解が良いという事件の 筋からの判断と、和解についての当事者の意向がどうかということを確かめることが大 事である。和解を双方が望んでいる場合でなく、一方だけが望んでいる場合には、一方 が望む理由を良く聞いてみて、相手方も打診してみて、ある程度相手方も引き込むよう な形で和解に入ることもある。結局、事件の筋からして適正な解決のために必要だとい うことと、和解をするについて和解に入る段階で双方の意向の合致がないと和解をする ことはあまり意味がないのが普通である。そうすると何かマニュアルを書くとすると、 事案の適切な解決のために必要と認めるときというような書き方が考えられるのかもし れない。結局は、判断をすることが必要なのに、だらだらとまず和解ばかりやってい て、それで無駄に続いていくということがあるのであれば、そういうことを書いておけ ば一方が強く和解を主張しても、審問をまず先行させた方が良いのではないかというこ とで当事者を説得するのにも役に立つかも知れない。 ○ そうすると、根拠規定をしかるべく置いて、それに付随して一定の、付随した条件 の整備をするということであるが、もう一点、和解をめぐってはその効力をどんなふう に考えたら良いか。やっかいな問題である。例えば、ご存じのように仲裁裁定は、労働 協約と同じような効力であると、日本では考えている。調停の時も当事者がのんで書面 をやりとりすれば協約と見れば良いと思うが、さて和解の場合というのはどうか。 ○ 労働委員会の和解は特殊な部分がかなりあるから、一般の民事紛争のように債務名 義になるような内容ではない。かなりのものは紳士協定のようなもので。往々にして債 務名義になりうる部分は和解協定には書かないということもある。どうであろうか。 ○ 調停調書や和解調書は確定判決と同一の効力を持置、債務名義となる。しかし、調 停や和解では非法律的和解条項とか調停条項というものがかなりある。そういうものは 法律的な執行力というのは持たないが、それを入れないと合意ができないし、やはり将 来に向かって相互の関係を安定させる上で意味がある。結局、法律的な意味を持つか は、条項の性質によって違ってきて、そういう法律的和解条項があった場合にそれに執 行力を認めるかどうかということだけが法律問題だと思う。 ○ いかがだろうか。 ○ 仮に執行力的なものを考えるとすれば、金銭の支払いであろう。ほとんど問題にな るのは、それだけであろう。 ○ ただ一般には、労働委員会で和解をしても、何もなければ民事上の和解契約であろ う。 ○ 何もなければ、そうであろう。 ○ 不履行があるとすると、改めて債務名義を取らなければいけない。 ○ しかし、話が付いているのであれば、それを裁判上の和解と切り替えるのは簡単に できる。 ○ だから、労働委員会でやったら、そういう心がけのようなものに関してはうまく行 くけれども、例えば解決金や、金銭の部分に関しては債務名義にも何にもならないとな ると、金銭のようなものに関わったものは、むしろこれから労働調停が裁判所で進め ば、そちらの方へ行った方が良いということにもなりかねない。 ○ 公正証書も、金銭債務で執行受諾約款というのがあれば執行力を持つ。公正証書で 持つのであるから、労働委員会のような手続でやったものに付与するというのはどうで あろうか。 ○ よりしっかりやったものであろうから… ○ 意味を持つものがどれだけあるかというと、やたらと多いものではないとしても、 それがあった方が良い場合もあるのではないか。 ○ ただ金銭はほとんど表に出ない。正面から和解条項に書くということはあまりない からである。 ○ しかし意外とある。 ○ 金額も含めてか。書くであろうか。 ○ 別扱いにして。 ○ それは… ○ 労働委員会で、目の前で金銭の授受というのは見たことがない。後で振り込んでく れという。 ○ ただ、もう一つの問題は、和解協定を締結して金銭の支払いを約したのに不履行が あってトラブルになったという例がどれだけあるか。ないなら今慌てて作る必要もあま りないのではないか。寝た子を起こすことにもなる。不当労働行為で和解はけしから ん、とりわけ金銭和解はけしからんという議論が昔はあった。あまり和解でもって金銭 授受を約したがやらなかったという例は、短い経験だが私は聞いたことはない。中労委 はあるか。 ○ 中労委でも聞いたことがない。この条文を考える上で、そこが難しいところであ る。今までなかった、だからといって、手続の経済性のことを考えると、同じ事を二度 三度するというのはどうか。労働委員会が二度三度やるわけではないにしても、社会制 度全体として無駄がある。 ○ 実務上は、結局、解決金の支払いの約束をした場合には、口頭で例えば「月末まで に振り込む」「振込みを確認したら取り下げます」ということでやっているので、振り 込まれなければ取り下げられないので、手続がもう一度復活して、ということになる が。ただそういう話は聞いたことがない。 ○ むしろ和解条項のうちの別のタイプのもの、掲示板を利用するとか、組合事務所を どうするかとか、その他、誰かを昇級させる、昇格させる。これが、本来の和解のまま ではなされないのではないか。 ○ それは随分ある。 ○ それでは時間の関係もあるので、和解に関しては一通り重要な意見を聞いたので。 ○ 一点だけ。もし和解に関して条項を入れるのであれば、先ほど言ったことをどのよ うに生かすかということもあるけれども、今の三八和解の条項をそのまま持ってくると いうのはまずいと思う。勧告するという。せいぜい勧めるとかその程度、そのぐらいと 思う。 ○ 労働委員会の規則は非常に職権主義的な書き方をしていて、その実、中身は全くの 当事者主導という。すごく建前と本音という、規定の条文上と実態が乖離しすぎている ので、今度法改正するときは、これをもっと実態の方を踏まえたものにするのが良いか と思う。 それでは一応一通りご意見いただいたということで、次に第3番目の論点である「再審 査が担うべき機能の在り方」という一枚紙の資料3についてご意見を伺いたい。これは 関係団体からの意見特になしということである。 ○ 皆さんのご議論では、ここに画期的な案も出ているが。 ○ これは結局、中労委の組織体制というか、これをどう持っていくかと裏腹の問題で ある。これまでも議論してきたような、事務局にロイヤーを入れたらどうかとか、常勤 委員を入れるとか、この間議論していたが。後はちょっとサービスを強化して、地方に 出ていったらどうかとか、そういう議論もあったところである。それと裏腹かなと思 う。 ○ その視点から行くと、次の「労働委員会命令に対する司法審査の在り方」も重なる 部分もあるが、そちらはまたご議論いただくとして、中労委に限った再審査機能であ る。一部には、非常に強い、中労委はいらないという意見、地労委だけで良いという意 見がある。他方では、中労委を再審査機関として位置づけた上で、次の論点である司法 審査との間での整理をした方が良いという意見がある。残ったその真ん中に様々な意見 が分布しているのであるから。 ○ ただ、私が若干思うのは、法律判断と書面審理が最初に出ているが、法律判断と書 面審理を規定するということになると、初審で審問をやって再審査では法律判断と書面 審理ということになって、取消訴訟にいくとまた口頭弁論になって、ということになる ので、法律判断と書面審理というふうに限定すると、そこの実質的な意味は何なのか。 ○ 迅速性であろう。 ○ でも迅速性にするのだったら、中労委のやり方と体制を変えて、それで審問が入っ てもいいけれども、とにかく迅速にやるというふうにすればいい話のような気がする。 ○ 迅速性が一点と、もうひとつは不当労働行為制度を準司法な判断のメカニズムに置 く限りは、やはりあるところで一貫した判断の基準を調節するという、これが法律判断 であろう。 ○ ただそれは、法律判断と書面審理に限定しないとそういうふうにならないというわ けではない。 ○ もちろん。しかし、やりとりの中で行くから、ただその場合には、繰り返す必要は ないが、中労委の場合には、現実に延びているのは審問が終結した後であるので、その 意味では、審問終結後に延びている現状を考えると、書面審理にしないから長引いてい るわけではないし、おっしゃるとおり書面審理と法律判断の部分をちゃんとやるという のは必ずしも同じ問題ではない。 ○ 直接審理と書面審理とでは、当事者の側からすると、直接出頭しなくて良いという ところが違う。中労委の場合、全国一か所しかなくて、日本中からそこに来ないと手続 を受けられないというものが、手続として合理性を持つのは、書面審理だからというの が一番簡単な説明の在り方であろう。不当労働行為審査制度は、本来救済命令を出すか 出さないかという判断をする手続で、それに付随して和解的解決があり得るという制度 だとすると、基本的には当事者に一番近いところにある各県の県庁所在地の労働委員会 でやる第一審の手続をできるだけ充実させて行って、その上に乗る上級審はどうしても 必要な機能を果たさせるという形にするということが考えられるのではないかと思う。 手続の経済性からも、特に当事者の出頭の便宜からも、当事者からの視点が無視できな い。そうすると、中労委の在り方について分かりやすい一つの手続として考えられるの は、審理としては書面審理が原則になっていて、和解的な解決も行うが、直接審理は、 初審を全部なぞるようなものではなくて、初審以後に生じた事情の主張だとか、証拠の 提出などを中心に補充的にやるという形ではなかろうか。直接審理の道を閉ざさない で、例外的に残して、和解もやろうと思えばできる、しかし、中労委の手続の性格との 関係で、和解の必要性の判断は厳しく考えるというような手続の姿である。中労委を存 続させる場合、判断の統一、不当労働行為に関する先例の統一ということが基本的な役 割なのではないかと思う。 ○ 東京にいる人にはぴんと来ないことであるが、地方にいる人がわざわざ東京まで出 てこない、この負担に対してはもう少し配慮すべきだという主張がある。本当に小さな 組合、あるいは小さな企業の人が調査のために出てくるのは、私も心苦しい。このぐら いなら、テレビカメラを設けてパソコンテレビでやり合うもので済まないのか、場合に よっては書面でもできるのではないかということを、少なくとも調査に関しては随分感 じる。 ○ 確かに今の時代だったら、オンラインでできるかも知れない。 ○ 調査は片側ずつである。あれこそわざわざ来てもらう必要はないのであって、場合 によっては書面でも十分できるだろうと思う。 ○ そのあたりは、実務の改革によってできることもかなりあって、書面の提出も、も う今やFAXでやってしまっても良いのであって。中労委についても、資料に労委規則56 条が出ているが、労委規則56条をひっくり返す。原則と例外をひっくり返すことでも随 分違ってくる。今まで審問を経ないで命令を出すというのはほとんどないであろう。 ○ ほんの数例。ごく最近である。 ○ 例外的なケースでやっとという。 ○ 相当、スムーズに行ったわけではない。 ○ それはうちも一緒である。 ○ あの規定があるのであるから、積極的に生かしたいと思うのだが、ずっとその下で 固まってきたという実態があるのだから。変えようと思うのであれば規定を変えない と。 ○ 無理であろう。 ○ 今のままで解釈できないかというとできるのだろうが。 ○ そこを、ある程度当事者に、本当に一応直接会って、審問で証人尋問を、再度この 部分については聞きたいというのであれば審問を開くけれども、審査委員が判断して、 これは書面で十分であるということであれば、審問しないで命令を出す。それで、実務 として改良できるという時は、規則の規定を変えることで後押しできるということであ れば意味はあるかなと。 ○ そうすると、法律判断、書面審理に限定というのは、どうもやはり行き過ぎだと。 でも逆に何でも呼び出さないといけないかというと、逆にちょっと時代に合わないであ ろう。問題はどっちを原則として例外とするか。書面審理を原則とするのかと審問を原 則とするのか。 ○ もともと、民訴のように弁論主義とか、直接主義とかの要請があるわけではない。 行政処分をするための判断資料を両方から出させるには、何も必ず直接主義、口頭主義 の下で出させなくてはいけないわけではなくて、ちょうど民訴法の任意的口頭弁論のよ うに審問で調べたことも証拠になるけれども、それ以外に書面で出たものも全部判断資 料になるという手続であると思う。そして、一度直接審理をやっている場合の二度目の 手続でやるのは、補充的追加的な資料の収集だけというのは二段階手続ではごく普通に 見られる構造であろう。 ○ だから、現行で補充的追加的なものについては、中労委の審問の回数の少なさや審 問期間の短さにはきれいに反映されているが、そこまでの調査については必ずしもそう なっていなかったり、和解についてはそうなっていない。そして、55条2項規則はあま り活用されていない。もう少し当事者の対応のしやすさへの配慮、それから行政処分で あるという我々のメカニズムの基本に返った改革を何らかの形ですべきではないか。 ○ 和解へは中労委から出かけていったらどうだろうか。 ○ あるいは現地の事務所に。地方事務所にあるので。ただ、そこもまた先ほどの体制 の裏腹であろう。非常勤で参与も非常勤であろう。事務職員だけならそうでもないが… ○ そうである。 ○ 私は、事務職職員の権限拡充と事務局職員の研修が一番重要だと思う。 ○ 都労委は、職員が和解ではかなり… ○ 都労委はむしろあっせん。あれが全部職員である。委員が関与するのは当事者が特 に申し出た場合だけで、調整事件は全部、基本的には職員がやっている。 ○ 労働委員会はパネルであるので。 ○ そうするとNLRBに近い。パネルがあって地方があって。 ○ そうである。 ○ 労働紛争についての専門家がどこにいるかというと、公益委員の中のごく少数の専 門家以外は、労使は別にして、本当は事務局にいるはずである。 ○ 理屈から言うと、地方公共団体よりは中労委の事務局にいるはずである。地方公共 団体の場合は職員の専門性を確保するのにはいろいろと困難が伴う。 ○ それでは、ここはあまりはっきり限定するのではないけれど、しかしながら本来の 趣旨を考えて、かつ、機能性、利用者側の便益性を、そうしたものを生かせるような工 夫を、事務局の方でもさらに考えてもらうことにしたいと思う。 ○ ただ中労委の側でも、もし本当にそういうふうに持っていくとするなら、公益委員 の中で意思統一を図って、バチっとやらないと、想像であるが、審問をやらないでとい うことをやるのであれば、腹を据えてやらないと難しいと思う。 ○ では、残った時間で、難問中の難問「労働委員会命令に対する司法審査の在り方」 ということを検討していただきたい。これはネバーエンディングの議論のテーマだが。 皆さんの意見をいただきたいと思う。 ○ 一つ考えられるのは、新証拠の提出の問題である。 ○ 例外を全然認めないのは駄目であろうが、原則として、最初に札を並べて事件の全 容ができるだけ早く分かるようになるべきであろう。 ○ かなり難しいけれども、従来のこの場面での議論を踏まえたときには、証拠提出命 令の改革ということとセットで、文書開示命令でも良いが、そういったものとセットで 新証拠の提出制限というのを是非何とかしてほしい。新証拠の提出制限だけを持ってい くと、労働委員会で議論があるように、権限を持っているではないかと言われると思う ので、何とかこれはワンセットで、少なくともこれだけは何とかできないだろうかとい うのが私の強い希望である。 ○ どうであろうか。 ○ 気持ちは同じであるが、仮に提言するとすると、具体的にはどういう制度として実 現されるのか。 ○ そうである。そこが難問である。 ○ もちろん労働委員会制度の話ではないわけである。 ○ そうである。司法制度改革の方に行ってしまう。 ○ 労働委員会であるなら、中労委に行ったときは制限される。その後に取消訴訟があ るので、何の意味もない。かえって判断がおかしくなってしまう。むしろ問題は取消訴 訟における制限、ということになる。 ○ ただそうなると、難しいのは、行政事件訴訟法の一般の枠組みの中との整合性の問 題になってしまって。いろいろと難点があるのは確かである。 ○ おそらく行訴法の枠組みというよりも訴訟制度の枠組みであって、なぜ制限した方 が良いのかという理由付けが果たしてできるのかと思う。仮に、そういう方向で実現し ようとするときに予想される議論というのは、証拠提出の制限というのは、憲法上保障 されている裁判を受ける権利が実質的に損なわれるのではないか、現在よりもその保障 を後退させる理由は何なのかということであろう。現在認められている証拠の提出の権 利を制限する方向に改正すべきであるという主張をどういう理由付けでしていくのだろ うか。 ○ ただ、いろいろな事情で、例えばその当時はなかったとかなら出せるということに なると思う。初審段階で、あるいは地裁段階で入手できなかった、あるいは存在しなか ったということであって、その後出てきたものであるということであれば、それは当然 訴訟に出せるし、それを出せないとなると、裁判を受ける権利の話になる。初審段階で 出しておいて、初審段階で出したものを出してはいけないという話ではなくて、初審段 階で出したものは裁判所でも出せる。 ○ 後になって出てきた場合は別である。例えば職員管理調書だとか、既に存在してい て、それをずっと出さないでいる。 ○ そうである。 ○ 資料の4-2というのを前にまとめていただいて、以前に出していただいたものの 再提出だと思うのであるが、これによると実質的証拠法則と新証拠の提出制限がセット になってあるのが、公正取引委員会と公害等調整委員会である。電波監理審議会は実質 的証拠法則だけがあって、そして新証拠の提出制限等は規定はないという、こういうよ うな、言葉を換えて言うならば、実質的証拠法則がないところで新証拠の提出制限はで きるのかというのが一つの問題である。 ○ 電波監理審議会は法律に実質的証拠法則の規定があって、判例はそういうときには 提出制限の方は解釈で出てくるとしていると思う。基本的には前の手続が充実してやら れているし、そこでやったことを尊重するという規定になっているということが提出制 限の理由とされている。 ○ そうすると戻ってくるのは、結局は労働委員会体制の充実、そして以前の一つの案 であったように、中労委を抜本的に変えたら、中労委の再審査を経たもののみが、実質 的証拠法則や新証拠の提出制限を課しうるのではないかという、以前からある議論の方 へ行くのだろう。 ○ 筋はそうである。 ○ しかし、これは初審の地労委からするとフラストレーションがあるだろう。 ○ そのフラストレーションを、こういう形で制度をいじっていく理由付けとして主張 していけるかということである。 ○ あれはとにかく一番アンフェアである。とにかく出せといっても、これは人事に渡 るものだから会社の中でも出していないとか。いろいろと言っておいて初審では絶対出 さない。裁判所に行くと出してくる。 ○ 出せないと言ったものは出せないように、禁反言のように自らに返ってくるように しないと。 ○ そういうふうにしないと、極めてアンフェアである。他の従業員というのは出さな い。本人のものを、査定の部分を出せといっても出さない。それはおよそ従業員にオー プンにしていない。と言っておいて、訴訟になると本人の部分を出してくる。 ○ 本当にここは悩ましい。一個だけ出すというものではなくて、全てがくっついて相 関的にある。それだけに全部できるかというと、有り体に言えば、元気が良くて社会か らものすごくこの組織が大事だと、これがないと世も末だと思われているなら、いろい ろな予算も付くだろうし、人も集まるだろうが、だんだん何となく世間から前ほど温か い目で見られていないときに、悩ましい。そういう各種の措置を採らないとこういうこ とはなかなか実現できない。実現が困難な状況のままに何か措置を採れというのは辛 い。だから、必ずしも司法審査の在り方とは直結しないとは思うが、資料4-2の2枚 目に関してはやれるところがある。宣誓義務を証人に課さないでいる今のやり方は非常 に問題だと思う。こちらが読んで、良いですねと言うと、はい、と言って、嘘をつかれ る。目をきょときょとさせてしゃべっていたりする。手続に関して、随分労働委員会制 度はプリミティブでやってきたので、この際、司法審査との関係はひとまず置いて、手 続制度としてはっきりと整備した方が良いものはある。その上で、司法審査との関係を どうするかというのが、本来の筋なのであろう。 ○ あと、これはちょっと横道にそれるが、今の宣誓との問題で言うと、地方労働委員 会の場合は当事者も証人で出てきてしまう。民事訴訟法上の当事者尋問はどうだったで あろうか。 ○ 覚えていない。 ○ 当事者尋問の在り方は、民事訴訟法上、証人の証拠能力よりも下だということには ならないのか。 ○ 民事裁判の件であるが、当事者本人については宣誓をさせることができるという規 定があって、罰則はない。 ○ この表で見ると、公正取引委員会は刑事訴訟法の準用で、公害、特許は民事訴訟法 の準用である。我々も準用で良いと思うが、刑訴というのはすごい。アメリカなども ひょっとすればそのような考え方かも知れない。これだったら、私たちは民訴の準用と いう形で方法もある。それから労働委員会は、手続き時の秩序の維持という根拠規定も 欲しい。最近は前ほど荒れることもなくなったが、ゼッケンをどうするかとか、腕章を どうするかとかでもめる例もあった。やはり、きちんとしたこういう部分が何にもない ところから来る、要らざるエネルギーや対応の時間の無駄が多すぎた気もする。労働委 員会の場合は、中労委の経験では、例の腕章問題は休廷に相当する審問を開かないとい う方式で対応していたが、あまりにもそれが続いてしまったので、その後対応方式を柔 軟化した。地労委のところはどうか。都労委の経験では。あまり必要性は感じないか。 ○ あまりない。どうしても傍聴人は仕方がないので。どうしても当事者が付けるとい う例もあった。 ○ あれは使用者側も腕章を気にしないという例だったと思うが。 ○ それ以外にもいかがであろうか。 ○ 結局いろいろなことが絡むが、審級省略の議論というのは裁量上告になって、裁判 所も相当スピードアップしているので、あまり大きな問題ではなくなりつつあるのでは ないか。そこについては、今回それほど執着する必要はないかと。さらに労働検討会の 方で議論が進んで、労働裁判については、不当労働行為も含めて行政の対応も新しく決 まって行くであろうから、審級省略等についてはこちら側でこだわる必要はなくなって いると思う。そういう点で、実質的五審制と言われた状況が、少なくとも裁判所の側の 要因はかなり解消されてしまっている。むしろ問題はこちら側がどうするか。賽はこち らに投げられている。こちらの側を真剣に考えるということだと思う。 ○ それは他方で、有力論である部分で、そうすると労働委員会手続内部における審級 省略となると、中労委を飛ばせということになろうか。 ○ 審級省略というか、従来議論してきたように、審査のスピードアップを考えたため にどういうことをするか。今まで議論してきたので繰り返さないが、そういうことであ る。 ○ そうするとこういうことにもなる。訴訟の促進に関する法律では、2年という目標 が立てられたが、我々も仮に労働委員会について、こういうものに目標を立てたとする と、地労委の目標があって、中労委がそれと同じだけ掛けて良いというわけではない。 再審査というだけに少なくともその半分とか、少なくとも区別をしないと妥当でない。 いたずらに延びてしまう。また審査体制の強化の問題になる。 ○ そこにひとえに関わってくる。 ○ 審級省略は、全然意味がないわけではないが、省略することに意味があるのではな くて、全体の審理促進、遅れた正義を生まないようにする。そういう意味では、早くな ればなるほど、これを議論する実益がなくなる。 ○ その通りである。最近では、不当労働行為関係では、行政訴訟だと高裁レベルでは 半年くらいでやっている。相当早くなっている。 ○ 審級省略というのは、全体が五審制だからスピードアップしようというのは実質的 な中身がない議論である。審級省略しようと議論するなら、どこを短くするか、それぞ れの段階の審理等の実態を一つ一つ吟味しなければいけない。 ○ 地労委の方でもっと早くするなら、これはほとんど、体制の問題は別として、運用 上の改善で済むのではないか。例えば、主尋問と反対尋問の日をできるだけ同一期日に するとか、間隔を短くする日程調整によって工夫するとか。 ○ ほとんどそういうことだと思う。 ○ 繰り返しになるが、地労委だと審問終結までが長い。この後の命令を短くする余地 があったとしても、ほどほどで出る。中労委の場合は逆で、審問終結まではそれなりに 結構早い。その後非常に時間が掛かっている。同じ労働委員会制度の中でもターゲット とすべきところは違ってくる。 ○ 命令書の書き方を工夫した。あれは労使の当事者、代理人からは評判が良い。ずっ と分かりやすくなったと聞く。ただそれも、中労委内部でもまだ徹底していないし、地 労委になると千差万別である。 ○ ただ都労委などは、だいぶ、一番最初に争点を書いてという形にしていて、少しず つスタイルは変えてきている。私などは20頁以内くらいにしてほしいとか言っている。 量を先に制限するのは良くないが、そうしないと、どうしても遅延する。あれもこれも 書こうとするので。ある程度量を制限すると、必要な事実だけを拾わないととなるの で、職員も変わる。今は、都労委の命令も長大なものはなくなって、20頁くらい前後に 収まるようになった。そうしないと、取捨選択しないで全部書いてしまう。その辺はト レーニングとかの問題であって、それは法令レベルとは別の問題であるが、今、中労委 でも試みられているが、公益委員も含めてやる必要があるだろう。 ○ これは収まりの良いところで書く。我々の報告書のどこかで、こういう小さな努力 の積み重ねによって随分運営が改善できるのではないか、ある地労委、中労委だけがや るのではなくて、全体がきちんとやっていくことにするためには、基本的ルールにして おかないと、とりわけ自治事務化の中で、自分勝手にやって良いという雰囲気が出てい たりすると、あるいは、うちは事情が違うと言われるとなかなかうまく行かないので、 統一的な方向性を報告書の中で打ち出して行きたい。 ○ 是非やっていただきたい。 ○ 迅速化ということから言えば集中審理である。ただ、現実にはその基盤がないとこ ろでそんなことを言っても仕方がない。 ○ そうである。 ○ 委員も常勤でなければ、労使の代理人もそんな体制になっていないと なれば… ただ、やはり労使の代理人からも聞いたことがあるが、集中審理でやると分かると言 う。自分の依頼人がここをごまかしているというのが良く見えるものだと。これはやは り多くの人が認めていることだけに、今回は一度にできないにしても、しかるべき将 来、これは裁判所も同じだと思うが、重要な課題だろうと思う。真実発見と審理の迅速 化と。そのためにはインフラストラクチャーを整えないといけない。 ○ そうだと思う。 ○ それでは本日の議論はこれで終了する。次回は最終取りまとめに向けての議論を始 めるということになる。そのタイムリミットは7月25日と設定しているので、その関係 で大変差し迫っていて大変恐縮だが、7月8日(火)、時間は30分早くなって9:30か ら11:30までである。場所は本日と同じ専用第13会議室になる。では本日は以上を持っ て終了させていただく。ありがとうございました。                                      以上          照会先 政策統括官付労政担当参事官室 法規第二係 岩崎、先崎            TEL 03(5253)1111(内線7752,7753)、03(3502)6734(直通)