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III マグロ類からの水銀及びメチル水銀一日摂取量の推定

 前章で測定した,マグロ類47試料中の水銀及びメチル水銀濃度の実態調査結果(前章表2参照)と,国民栄養調査に基づくマグロ類一日摂取量から,マグロ類からの水銀及びメチル水銀の一日摂取量の推定を行った.

マグロ中の水銀・メチル水銀濃度
 表1には前章表1と2の内容をまとめて示す.また,図1にはマグロの種類毎の水銀及びメチル水銀濃度を図示した.マグロの種類により水銀濃度はかなりの変動を示し,キハダマグロでは全ての試料において水銀及びメチル水銀濃度は1mg/kg以下であり,平均値は水銀0.30mg/kg,メチル水銀0.24mg/kgであった.インドマグロ,メバチマグロ,クロマグロでは,一部の試料で1mg/kgを越える濃度となり,平均濃度も水銀1.3mg/kg前後,メチル水銀 1mg/kg前後であった.
 天然のクロマグロで水銀濃度が6以上の試料がみられた.これは重量が183kgと非常に大きかった.また,水銀濃度の低いキハダマグロ試料は全て重量が70kg以下で,比較的小さかった.このような事実から,魚体重量と水銀濃度に何らかの関係があることが考えられたため,両者の関係を図2にプロットした.□及び■で示したクロマグロを除くと,重量と水銀濃度には弱い相関が見られるが,クロマグロでは重量と水銀濃度の相関は見られなかった.
 試料全体の水銀濃度の平均値は0.97mg/kg,メチル水銀濃度の平均値は0.74mg/kgであった.
 総水銀に対するメチル水銀の割合は,50%〜100%の範囲で,平均は78.6%であり,水銀のかなりの部分がメチル水銀として存在していた.

マグロ類摂取量
 マグロ類の摂取量は,平成10〜12年の国民栄養調査結果を,年齢層別に集計した結果を用いた.また,これとは別に妊婦の集計も行った.調査対象者数は38,850人である.
 マグロ類として,マグロ赤身,マグロ脂身,マグロフレーク水煮缶詰,マグロフレーク味付け缶詰,マグロ油漬けを集計した.マグロ赤身と脂身については,男女別の集計も行った.集計結果を表2に示す.平均摂取量は非摂食者を含めた全体平均,95%tileは摂食者中の値である.
 マグロ類中,最も多く摂取されているのは,赤身であり,男性の摂食者の割合は女性よりも高く,平均摂取量も高い傾向がある.脂身は赤身よりも摂取者割合が低かった.
 7-14才のグループは男女ともに,赤身の摂食率が高い.国民栄養調査では,「学校給食」を食べた子供については、学校給食基準に基づく食品構成の食品の組み合わせを当てはめている.この基準にマグロ(赤身)が2g入っており、実際の摂取実態にかかわらず、一律2gのマグロを食べたと計算しているからである.
 マグロ赤身を除いては,妊婦のグループは対応する20才以上のグループに比べ,摂取率が高く,フレーク水煮缶詰,フレーク味付け缶詰,油漬けの平均摂取量の合計は,赤身よりも高い.特に摂食率の高いマグロ油漬けは,1-6才の子供も高率で摂食している.このことから,小さい子供のいる若い世帯では,マグロ赤身とともにマグロ油漬け等の缶詰を摂食する割合が高く,これが妊婦の群にも反映していると考えられる.

水銀及びメチル水銀一日摂取量
 表1のマグロ中の水銀及びメチル水銀の平均濃度と,表2のマグロ類摂取量の結果から,水銀及びメチル水銀一日摂取量を計算した.
 表1では赤身のみが測定されており,脂身及び缶詰類についてはデータがないため,赤身と同じ濃度として計算した.
 計算結果を表3に示す.摂取量平均は各グループのマグロ類の平均摂取量から計算した.摂食量の95%タイルは,摂食者の中での値であるので,全員の中での95%タイルとは異なっている.このため,摂食者の95%タイルに全体での摂食割合をかけたものを,全体の中での95%タイルであると仮定し,計算を行った.結果を表3に示す.
 95%タイル値は平均値の数倍以上の場合が多く,20代以上の男性の場合,メチル水銀の平均摂取量は1日当たり5.7μgであるが,95%タイルは19.2μgである.
 マグロ類摂食の状況を反映して,20才以下のグループ及び妊婦のグループでマグロ缶詰類からの推定摂取量がかなり高い.計算ではマグロ赤身中の水銀等の濃度を用いているが,缶詰中には調味液,油が含まれており実際の濃度はやや低いと考えられる.英国の調査でも,缶詰の濃度は生のマグロの半分程度である.従って,これらのグループでの水銀摂取量を推定するためには,マグロ缶詰類の水銀及びメチル水銀濃度調査が必要である.
 FAO/WHOは,メチル水銀の暫定的週間摂取量(PTWI)として,3.3μg/kg/weekを設定している.また,EPAは妊娠中の女性に対して0.1μg/kg/day(=0.7μg/kg/week)を採用し,2003年2月に英国食料基準局が発した勧告にも,同様の値が採用されている.
 今回のメチル水銀一日摂取量結果を,体重当たりに変換して表3の右側に示した.どの年齢グループも,平均値・95%タイルともにFAO/WHOのPTWI 3.3μg/kg/weekを越えていないが,妊娠中女性のグループ及び6歳以下の子供の95%タイル値はEPAの勧告値を越えていた.



表1 マグロ水銀分析結果
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図1 マグロ類中の総水銀及びメチル水銀濃度(種類別)
インドマグロ

キハダマグロ

メバチマグロ

本マグロ

図2 魚重量と水銀濃度の関係
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表2 マグロ類一日摂取量
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表3 マグロからの総水銀及びメチル水銀一日摂取量及び週当たり摂取量
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