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科学運営委員会



食物経由によるウシ海綿状脳症(BSE)へのヒトの曝露リスク
(HER)に関する科学運営委員会の意見

1999年12月10日採択




本文は編集の都合上、変更することがあります。


食物経由によるウシ海綿状脳症(BSE)への
ヒトの曝露リスク(HER)に関する科学運営委員会(SSC)の意見


幹部要約

問題

SSCは、標準的な摂取形態によってヒトが感染可能な量のBSE病原体に曝されるリスクについて、意見を求められた。

回答

SSCは、BSE発生の地理的状況について正確に把握できていないが、発症リスク、拡大リスク、ヒトの曝露リスクの3要素について検討する必要があると考えている。先行するSSCの「意見」では、前2要素について分析を行った。本「意見」では3つ目の要素について検討を行う。ヒトの曝露リスク(HER)は、感染個体に由来するBSE病原体に接触する可能性のあるヒトの予想数で表される。そのウシがヒトの食物連鎖に入り込み、消費に適するとして加工された場合にこのリスクは生じる。

SSCは、BSEと変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の関連を示す疫学的・病理学的・分子生物学的な確たる証拠を得ている。

HERは、ウシの感染性の量と体内における分布および感染性を持つと考えられる様々な組織の用いられ方で定まる。他の国または地域で生産された食品が感染源となることも一国のHERに影響を及ぼす。

SSCは、1頭の典型的なBSE症例の感染性について、「特定危険部位に関する意見」(1997年12月9日)および「BSEリスクに関する意見」(1998年2月19日)において検討した。この中で、BSEを臨床的に発現した1頭のウシの総感染性量は約8,000 牛経口50%感染量(CoID50)であることが示されている。現在、ヒトに対する感染量については明らかではないので、SSCが1998年3月26日の「意見」で定めた牛経口感染量を、感染の可能性を表す指標として本「意見」においても用いている。

ヒトの曝露リスクについて量的研究を推進するために、SSCはEU加盟国にウシの様々な組織の利用について詳しい情報を求めた。3件の回答しかなく、しかもどちらかと言えばどこにでも共通する質的な観点からのものであった。SSCは、3つのシナリオを用いてHERをどのように評価するかを説明し、ヒトの曝露リスクについて現実的な数値を提供することにした。

第1のシナリオでは、低いレベルの感染性(0.023〜0.043 CoID50)に広い範囲の曝露(最大で50万人の摂食者)が起こる場合の最悪の状況を分析する。第3のシナリオは、BSEに感染してはいるが臨床的症状を発現していない1頭のウシが食物連鎖に入り込んだ結果高いレベルの感染量(1,000 CoID50)に狭い範囲の曝露(約5人の摂食者)が起こる場合の最悪の状況を分析する。第2のシナリオは、この2つの極端な場合の中間を想定した場合の分析である。

ヒトの食物連鎖から特定危険部位を除くことは、この暴露をできるだけ少なくすることに効果があると考える。発症しているのか潜伏期間にあるのかにかかわらず、明らかにBSEに感染しているウシの組織はいかなるものでもヒトの食物連鎖に入らない方がよいことは言うまでもない。しかし、特定危険部位以外の組織の感染性に関しては、1999年10月29日のSSC「意見」で述べたように、これまでのところ、感染個体の筋肉組織に感染性があるという証拠はなく、リンパ組織にも感染性は認められていない。

しかし、閾量に関する情報も、低量のBSE病原体を繰り返し摂取した場合のヒトの健康に対する影響に関する情報も得られていないことを考えると、変異型CJDについての現実的なヒトの感染リスクを評価することはできない。一般的な指針として、いかなる曝露も防ぐべきであるし、これが完全に実施できない場合、何としてでも曝露量を最小に止めることが必要である。

消費者をBSE感染のリスクから守るには、ヒトの食物連鎖に感染動物を入り込ませないことである。しかし、これは理想であり現実には保証できないので、次善の策として特定危険部位の排除が考えられる。とりわけ中枢神経系に係わる特定危険部位は、潜伏期が終わろうとする時期にBSE症例の感染負荷の95%を占めるので、排除が望ましい。特定感染部位の排除を実行しないと多数の消費者を不必要なリスクに曝すおそれがある1


──────────
1  EU加盟7ヵ国は特定危険部位を排除しつつある(ベルギー、フランス、アイルランド、ルクセンブルグ、オランダ、ポルトガル、英国)。オーストリア、ドイツ、デンマーク、ギリシャ、フィンランド、スウェーデンは特定危険部位禁止を実施していないが、イタリアとスペインはBSE発症国に、輸出する動物から特定危険部位を除去することを求めている。


意見全文


1.  委任事項

「特定地域のBSEリスク」に関する意見(1998年1月23日)で、SSCは「BSE病原体にヒトが曝されるリスク評価においては、発症リスク、拡大リスク、ヒトの曝露リスクという互いに関連する3つのリスクが重要であると思われる。」と述べた。

SSCは、地理的なBSEリスクを予想するために、発症リスクおよび拡大リスクの評価法を開発した。

「標準的な」摂食行動において、消費者が定量のBSE病原体に曝される可能性を評価する方法を開発するようにとの指示が出され、この指示に基づき、「ヒトの曝露リスク作業部会」が設立された。ヒトについての最小感染量と潜伏期間が明らかになり次第、この評価法を用い変異型CJDのリスク評価が可能になることが求められている。

本「意見」は、以下の質問に答えることによりヒトの曝露リスクという課題に取り組む。

ヒトの曝露リスク(HER)を決定する重要な因子は何か。
この要因に基づいてHERを評価するための論理的根拠は何か。
完全に感染した動物がヒトの食物連鎖に入り込む結果、予想される曝露度の等級はどのようなものか。


2.  問題の科学的背景

本「意見」がヒトの健康保護のために重要であることを認めるには、以下に述べる諸点を明確に認識し、「意見」の背景を十分に理解することが必要である。

BSEはおそらく1980年から1985年の間のある時期に、英国で初めて発症した新しい病気である。しかし、1986年11月になってようやく認定され、説明された。ウシにおけるBSEの潜伏期間は平均5年で、ほとんどの場合4〜6年である。

英国では1999年11月1日までに17万5,838頭の症例が確認された。この他に、ベルギー、フランス、アイルランド、リヒテンシュタイン、ルクセンブルグ、オランダ、ポルトガル、スイスで国産牛について、カナダ、デンマーク、フォークランド島、ドイツ、イタリア、オマーンで輸入牛についてBSEの報告があった。世界各国のBSEに関し、国際獣疫事務局(OIE)のサイトhttp://inet.uni-c.dk/〜iaotb/3bse.htm#OIEから最新の数値が入手できる。

1996年3月に、英国立CJD監視機関はヒトの体内で新しい変異型CJDが確認されたことを報告した(Will 他、1996年)。この変異型CJDは古典的な散発性CJDに似ているが、若年層(平均29歳、16〜53歳の範囲)に発症し2、CJDに典型的な脳波は現れない。病気の進行期間は平均13ヵ月で、CJDの進行期間である4〜6ヵ月より長い。

近年の証拠によれば、CJDと変異型CJDは、異なる病原体により引き起こされる可能性が高く、BSEと変異型CJDは同じ(BSE) 病原体により引き起こされる可能性が高いことが示されている。従って、おそらくヒトはBSEに汚染された物質を経口(食物経由)摂取した結果、感染したと言える34

4つの証拠を以下に述べる。

第1は、疫学的証拠である。ヒトがBSE病原体に曝されている度合いが高い国において、臨床病理学的に新しい疾病の表現型が、側頭空間における菌株群形成に明確に認められた。BSEの流行と変異型CJDの第1症例の時間的隔たりは、伝達性海綿状脳症(TSE)の潜伏期間に一致すると考えられる(Will他、1996年)。

第2は、実験的証拠である。BSEがヒト以外の霊長類に伝染したときに、同一ではないにしても同様の臨床病理学的特徴が認められた(Lasmezas 他、1996年)。

第3は、変異型CJD、ウシのBSE、他の種に伝染したBSEに、同一のプリオンタンパク質(PrP)糖型(glycotype)の特徴が認められた(Collinge 他、1996年、Hill 他、1997年)。

第4は、同一の潜伏期間および病理組織学的脳組織障害の特徴が、BSEと変異型CJDを接種した同系交配のマウスで認められた(Bruce 他、1997年)。

後の3つの証拠は、BSE病原体と変異型CJD病原体の共通する物理化学的、生物学的特徴を示しているものの、ヒトに感染する道筋を解明してはいない。

1999年10月31日までに、英国では明確に変異型CJDと診断された患者および疑わしい患者を合わせて48名の報告があり、フランスでは明らかな患者が1名、アイルランドではごく最近に1名(患者は以前に英国に住んだことがある)の報告があった。これまでのところ、変異型CJDの患者はすべて129M/MPrP (PRNP)遺伝子型を持っていた(Collinge、 1999年)。しかし、他の遺伝子型がこれまでに変異型CJDと診断された患者と同じ表現型を発現させるかどうか、PrP遺伝子型が異なれば、医原性CJDについて見られるように潜伏期間がもっと長いのではないか、感受性は異なるのではないかといったことについては未知である(Deslys 他、1998年)。

これまでのところ変異型CJDと確認された症例数は少ない。しかし、新たな感染を減らすまたは根絶するために適切な予防策を立てるには、明らかにしなければならない重要な項目が2つある。

1つは変異型CJDの潜伏期間である。数年から25年以上までの仮説が立てられている。従って、これまでの症例は流行の始まりを示しているに過ぎず、この拡大範囲と終わりは分かっていない。

2つ目は最低感染量および低量ながら繰り返し摂取する場合のヒトへの影響である。

この病気に感染しながら症状が現れる前に屠畜された動物の感染部位を摂食することにより、過去に何人がどのくらいの量の感染に曝されたか、または現在も曝されている可能性があるのかについては明らかでない。

以上述べた未知の項目を総合すると、仮説にもよるが、将来、十万から数十万の変異型CJD患者が現れる可能性があると考えられる。伝達性海綿状脳症(TSE)はすべて潜伏期間が長いことを考慮すると、将来どのくらいの流行の規模になるかは今後3〜5年間は明らかにならないであろう(Ghani 他、1998年)。

さらに、まだ多くの疑問について充分に満足のいく科学的な回答が出ていない。

感染因子の正確な性質が分かっていない(Chesebro、1999年)。ほとんどの証拠はプリオン論に傾いているのだか、対抗する仮説があり、このような仮説すべてに対して反論し尽くしたわけではない。1つの例を挙げると、「因子は極端に小さく、ウィルス(またはビリノ)を検出することは難しいのかも知れない。」といったものである。

処理により感染因子を不活性化・除去する正確なレベルが不確実である。最初の感染負荷が高い場合、例えば感染物質を133℃、3気圧で20分間という過酷な条件下に置いても、完全にその感染物質を除くことはできない。最近の実験では、汚染した外科用具を高温、高圧、長時間で殺菌しても、感染性が残留し得ることを示した。

感染した動物またはヒトの様々な組織に感染性が分散することについて充分に分かっていない。臨床徴候を発現したウシ(潜伏期間の終わりの段階で)のBSE感染負荷のほとんどは、主に中枢神経系組織(脳、脊髄など)にあることが認められる5。この感染が潜伏期間にどのように蓄積し、さまざまな身体組織にどのように分散していくのか充分には分かっていない。若い動物の総感染負荷は潜伏期間の終わりに達する動物の感染負荷よりはるかに低い。しかし、現在入手できる試験結果および研究室の分析には感受性の限界があり、あるレベルより低い感染性を検出することはできない。従って、ある組織について現在の検出方法では「感染性が検出されなく」ても、その組織は感染していないとも、最低感染量未満の感染レベルにあるとも考えられるという不確実性がある。

BSE発症が多い(英国)か、肉骨粉を英国から輸入しているヨーロッパの数ヵ国においては、ヒツジにウシ由来の肉骨粉を与えてきた。ヒツジは実験でBSEに感染することが確かめられているので、BSEがヒツジに存在する可能性は排除できない。しかし、これまでのところ実験以外ではヒツジのBSEは見つかっていない6

TSEが、ある種から別の種に伝達するには(ウシからヒトへなど)、種の間にある障壁を越える必要がある。ウシとヒトの間にあるBSEにとっての障壁の程度は分かっていない。現時点では、この種間の障壁の程度はゼロから100,000ファクターに評価が分かれる7。100,000ファクターとは、ヒト1人がBSEに感染するのにウシ1頭が感染するのに要するウシBSE感染物の10万倍を要するということである。

以上の不確実性から、ヒトの感染リスクの量的評価はできない。量的リスク評価は保護対策に欠かせないのだが、少なくとも現時点では不可能である。

このようにTSEについてまだ分からないことが多く、科学的に解明しなければならない。しかし、どの国もヒトの食物連鎖にBSE感染動物が存在しないことを保証できない以上、特定危険部位の除去は8、ヒトの曝露リスクをできる限り少なくするための重要な手段となると言える。これについては、SSCはこれまでの「意見」で、明確にまたは間接的に述べてきた。TSEについて科学的に解明する必要のある未知のことが多く残っていることは認めなければならない。しかし、SSCはTSEに関する科学的理解の進展に常に関心を持ち、特定危険部位のリストが適正であるかを常に見直し、英国でのBSEの流行状況について、時を追って評価を行っている。この間、BSEについて既に科学的に分かっていることを論理的に正しく活用し、それに基づいてリスク管理対策を立て、適正に実行・管理すれば、安全な製品を消費者に提供できるとSSCは考える。SSCの「意見」では、製品の安全性を判断する際に、以下の一連の基準に従う。

動物の産地─TSEが確認された産地に(疫学的に)関連があり、感染の可能性があるかどうか(飼料、母ウシとウシの関係など)(例えば、付属書2のリストにある「意見」2、3、4、5、6、11、16、19、22、25、26、28、29を参照のこと)

材料として用いられる部位は、獣医がヒトの摂取に適すると証明した動物からのものであるかどうか─(例えば、付属書2のリストにある「意見」2、4、6、7、8、9、12、13、16、17、18、20、21、25、28を参照のこと)

特定危険部位の除去または特定危険部位ではない─(例えば、付属書2のリストにある「意見」1、2、4、6、7、8、9、11、12、13、14、17、18、21、25を参照のこと)

ウシの年齢─若い個体は、たとえ感染していても高齢の個体より感染負荷はずっと低いので、特に重要である。中枢神経系におけるBSE病原体の主な感染負荷に関しては、特にそうである。英国におけるBSE症例の98%は36ヵ月を超えたウシであり、BSEの感染性は臨床的発症発現の数ヵ月前になって初めて中枢神経系に見いだされる。(例えば、付属書2のリストにある「意見」1、2、4、16、22、25、29を参照のこと)

母ウシが出産後6ヵ月以上BSEに感染せずに生きているかどうか─(例えば、付属書2のリストにある「意見」2、4、29を参照のこと)

材料として用いられる部位の適切な加工および利用目的(専門的な利用、ヒトによる摂食、動物の飼料、医薬品、医療用具、化粧品など)─(例えば、付属書2のリストにある「意見」7、8、9、12、13、14、15、17、18、20、21、25、28を参照のこと)

交差汚染の回避─(例えば、付属書2のリストにある「意見」1、2、3、4、5、7、8、9、12、13、15、16、17、18、21、25、29を参照のこと)

リスクの高いウシを挙げることができる。科学運営委員会の1999年6月25日の「倒れた家畜」に関する「意見」、およびスイスにおける屋外観察によると、BSEの発症は予定通りに屠畜される健康そうなウシ(スイスで6,000頭検査し、3頭が陽性であった)よりも、倒れた家畜(スイスで6,000頭検査し、15頭が陽性であった)および緊急屠畜に提供されたウシ(スイスで2,900頭検査し、5頭が陽性であった)に多く見られる9


3. ヒトの曝露リスク評価

3.1  定義

理想的には、ヒトの曝露リスク(HER)は、感染個体由来のBSE病原体に接触する可能性のあるヒトの予想数で表される。そのウシがヒトの食物連鎖に入り込み、消費に適するとして加工された場合にこのリスクは生じる。

しかし、ヒトに対する感染量は現在分かっていないため、1998年3月26日のSSC「意見」で定義した家畜経口感染量(CoID)を感染量の指標として用いる。HERはBSE病原体に曝される消費者の人数と定義し、曝露の程度はCoID50で表す。

3.2  ヒトの曝露リスク評価の一般的な方法

ヒトの曝露リスク(HER)は、どの国においてもどの時点においても以下の4つの要因に左右される。

BSE感染個体がヒトの食物連鎖に入り込む可能性
感染個体の体内における感染の量と分布
感染している可能性のある組織の、ヒトの食物連鎖の中での用いられ方
他国で生産された感染食品の売買

BSE感染個体がヒトの食物連鎖に入り込む可能性という第1の要因は、加工リスクでありここでは検討しない。

本「意見」では、感染個体を屠畜しヒトの消費のために「標準的に」加工した場合の、ヒトに対する曝露について検討する。

感染個体が持っているヒトに対する感染量という第2の要因は、多くのことに左右される。ウシが感染してからの経過時間、BSEに感染した組織のヒトに対する総感染力などである。これらは不確実性が高く変動幅も広く、一般にすべての国に共通する。この第2の要因については以下に検討するが、国によるHERの相違を明らかにすることにはならない。

感染した可能性のある組織の用いられ方(以降「経路」とする)という第3の要因こそが国により異なるのであって、加工リスクが同一であったとしてもHERが国によって異なる原因となっているものである。したがって、HER評価の方法を考える際には、この要因に注目しなければならない。

3.3 ヒトの曝露リスク評価の前提

3.3.1  有害要因とは何か

この報告書では、有害要因はBSE病原体と考える。食物中に存在するBSE病原体の摂取により、変異型CJDを発症する可能性があると推定している。

3.3.2  曝露

ヒトがBSE病原体に接触するのは、BSE病原体の感染源と消費者に届くまでの経路によって決まる。

ヒトについての感染量と反応の関係は分かっていないので、曝露レベルを家畜経口感染量(CoID)で測定したBSE病原体の一定量の摂取で表すことを提案する。本「意見」では、指標としてCoID50を用いるのであって、ヒト経口感染量 (HoID50)ではないことを強調しておきたい。ヒト経口感染量については未だ分かっていない。

3.4 曝露評価

3.4.1  感染源

実験または実際に発生する感染から明らかなように、様々な種がBSE病原体を持っている。しかし、本「意見」では、ウシをBSE病原体の感染源に限定する。委任事項で「標準的な消費形態」と述べているので、特別なリスク集団についての検討は行わなかった。特別なリスク集団とは、ペットフードを食べたことにより特定危険部位に曝露した集団などである。更に、データの不足により、子供のような特に敏感な集団についても検討することはできなかった。

典型的なBSE症例における感染の分布については、1997年12月9日の特定危険部位に関する「意見」、および1998年2月19日のBSEリスクに関する「意見」で検討した。後者の中で、臨床的にBSEを発現しているウシ1頭の総感染量は約8,000 CoID50であり、感染の大部分(約95%)は脳、脊髄、三叉神経節(TRG)、背根神経節(DRG)由来であると述べた。末端の回腸も感染性を測定でき、脾臓および目もスクレイピー実験に基づき低レベルの感染性を持つことが推定される。以上述べた組織に、1頭の臨床的症例の感染性のほぼ99%がある(表1参照)。

感染性の分布の評価において、感染脳組織または感染脊髄の0.1 gが1 CoID50に当たると想定した。この想定は英国農漁業食糧省が実施している発病実験の暫定結果に基づく。TRGとDRGの感染性についても同レベルであると考えられるが、回腸、脾臓、目についてはやや低いと考えられる。この情報は、BSEとスクレイピーについてのマウスの生物検定結果からのデータに基づく。

他の組織の感染性については、SSCは1999年10月29日の「意見」で次のように述べている。「感染の後期段階にあるBSE個体でさえ筋肉組織に感染性を認めたことはない。末梢神経、リンパ組織、血液は筋肉と結びついているにもかかわらずである。」現在入手できる実験データは更に、「経口で感染したウシの場合、リンパ節と脾臓は感染に関係がないことを強く示唆している。」

感染性は感染個体の体内で時の経過と共に強まるので、あるウシの感染負荷はBSEに感染してからの時間の長さ、およびその年数が潜伏期間のどの時期に当たるかによって決まる。しかし、この進展過程についてはほとんど分かっていない。また、あるウシがいつ感染したのかについても分からず、誕生後まもなく感染したのではないかという従来からの推定に従うにしても、感染年数もおおよそのことしか分からない。最初の摂取量および感染経路も感染負荷に影響する。

表1  BSE 症例1頭の総感染力 (*あるデータによれば、スクレイピーからのBSEの推定は有効ではないので、脾臓は感染していない可能性もある。)

組織 感染密度
(CoID50/g)
ウシの体重
537 kg当たりの
重さ(kg)
BSE症例
1頭についての
ID50
ウシ1頭に
ついての総感染
負荷の割合
累積負荷
10 0.5 5,000 64.1% 64.1%
脊髄 10 0.2 2,000 25.6% 89.7%
TRG 10 0.02 200 2.6% 92.3%
DRG 10 0.03 300 3.8% 96.1%
回腸 3.20E-01 0.8 260 3.3% 99.4%
脾臓* 3.20E-02 0.8 26 0.3% 99.7%
3.20E-02 0.1 3 0.04% 99.74%

総感染負荷と同様に、ウシの体内でのBSE感染の分布状況も時の経過と共に変化する。農漁業食糧省の発病実験(Wells 他、1998年)によれば、潜伏期間の早期には腸の感染が認められ、後期には中枢神経系でかなり高い感染負荷を示す。感染がどのように体内を移動していくのかについてはほとんど分かっていない。BSE試験を行った他の組織については感染が認められなかった。すなわち、マウスを用いた生物検定では感染は検出レベル未満であった。

入手できる知識に基づき、感染の可能性のレベルを屠畜時の年齢に従い3つに区分することができる。食物連鎖に入り込む感染量は、どの区分に属すかで異なり、特定危険組織によっても異なる。

子牛(1歳未満)。中枢神経系組織の感染性レベルは無視し得ると考えられる。しかし、腸、特に回腸には感染性があるかも知れない。

若牛(1歳を超え30ヵ月未満)。出生時に感染したとすると、BSEに完全に冒された症例とは異なるにしても、ある程度の感染性を示す。出生時に感染したとしても、中枢神経系は必ずしも感染度が高いわけではない。

成牛(30ヵ月を超える)。生後初期の段階で感染した場合、臨床徴候が明らかではないにしても、現れているウシに近い感染レベルを示すことがある。スイスが実施した「倒れた家畜に関する調査」および英国の「30ヵ月を超える家畜の調査(すなわち、『30ヵ月を超える家畜計画』の下で食物連鎖から排除された家畜の調査)」からも、BSEが家畜に広がっている国では、見かけ上は健康だが感染しているウシがヒトの食物連鎖に入り込んでいることは明らかである。この区分に属するウシの感染性のレベルは高く、中枢神経系が高い感染レベルで冒されていることは確実である。



3.5  曝露経路

多くの経路からBSE病原体がヒトに接触する可能性がある。これについては図1に示す。しかし、この報告書は特定危険部位または特定危険部位を含む肉製品を直接摂食することによる曝露のみを扱う。

先に述べたように、臨床的なBSE症例の感染性の大部分は特定危険部位にある。BSE病原体が消費者に届く経路を明らかにするために、特定危険部位を摂食する可能性のあるすべての経路について検討することが必要である。

この報告書の目的に従い、特定危険部位が消費者に届くまでの3つの経路を取り上げる。

3.5.1  直接摂取

消費者は特定危険部位を直接摂食する。脳や脊髄を直接摂取し(フランス料理)、若い牛(6ヵ月齢未満)の回腸や小腸も直接摂取する(フランス料理)。脾臓や目も食べることがある。TRGおよびDRGは直接摂取することはない。ただし、骨付き肉および背柱部分を含んだ肉(Tボーンステーキやウシのリブロースなど)からDRG(おそらく脊髄と共に)を直接摂取することはある。

図1 感染したウシの組織について考えられる曝露経路

図1 感染したウシの組織について考えられる曝露経路
(本「意見」は2本の太線に挟まれた、太字斜体で書かれた要素間の経路のみを扱う。
*MRMとは機械でそぎ落とした屑肉である。1998年2月のSCVPHの「意見」を参照のこと)

3.5.2  間接的な摂取

特定危険部位は形を変え、消費者には分からないように食品に含まれる。一般に認められることとして特定危険部位が食品に含まれることもあれば、汚染によることもある。

3.5.2.1  特定危険部位の一般に認められる含有

パテやソーセージに特定危険部位である脳や脊髄を使うことは一般に認められている。他の特定危険部位も直接材料として食品に含まれる可能性がある。ドイツでは食品に特定危険部位を利用することを禁じていないので、ソーセージには(ウシの)脳組織が含まれている。ドイツでの最近の研究データによると、Lucker 他、(1999年a〜1999年d)は、ある種のソーセージ(Kochmettwurste) 69サンプル中、14.5%に中枢神経系を検出した。この検出には、ウシの中枢神経系の分析に効果的な免疫学的検定法を用いた。

3.5.2.2  特定危険部位による食品汚染

特定危険部位の含有が技術的に可能であり質的問題が生じない場合、汚染の可能性は常に存在する。特にDRGと脊髄の両方を含む脊柱からMRMを生産した場合に、そのMRMが汚染されている可能性がある。技術的な観点から、MRMは多くの肉製品に含まれていることに注意する必要がある。獣脂とゼラチンは特定危険部位を含まないと通常は考えてよいが、脳または脊髄を含む原料には汚染の可能性がある。

3.5.3  曝露レベルと曝露人数の予測

ある感染量に接触するヒトの数を予測するために、いくつかの重要な要素について検討する必要がある。感染源に関係する要素と感染経路に関係する要素である。

3.5.4  HERを決定する重要な要素

3.5.4.1  感染源に関する重要な要素

加工リスク。HERに最も密接な関連があるのは、感染個体を食用に屠畜する確率である。ただし、この評価は本報告書では扱わない。

屠畜し「標準的に」加工した感染個体の年齢。3.4.1項で述べた区分で示した通り、年齢は感染負荷および感染個体の体内組織における感染の散らばりに影響する。

食品加工ごとの感染個体群。BSEが地理的に分散して発症する限り、感染リスクに曝されている消費者の数はBSE感染個体群の加工数に比例し、平均曝露量はほぼ一定であると考えられる。

BSE密度が高く1回の食品加工に2頭以上の感染個体が入り込む場合、曝露人数は変わらず、感染リスクに曝される消費者1人当たりの感染量は加工時に入り込む感染個体の数に比例して増加する。

3.5.4.2  感染経路に関する重要な要素

加工条件。原則として、加工条件は製品の感染力のレベルに影響する。例えば、ゼラチンと獣脂についてのある生産工程は、感染負荷を少なくとも1,000分の1に減らすことが分かっている(ゼラチンと獣脂製品についてのSSCの「意見」を参照)。しかし、本「意見」は、標準的な調理および工業的食品加工を前提としているので、感染レベルに影響する可能性はない。

加工の規模。食品生産で1度に扱う量は、曝露人数に著しく影響する。肉製品、パテ、ソーセージなどには特定危険部位が直接入り込み、MRM経由では間接的に入り込む。1度に扱う規模が大きければより多くのヒトが少量のリスク物質に曝され、規模が小さければ少ないヒトがより多量のリスク物質に曝される可能性がある。

1人分の量。加工の規模と共に、1人分の量も曝露量および曝露人数に影響する。

汚染。特定危険部位が汚染する可能性(MRM由来など)が増せば、ヒトが感染に曝される可能性も増大する。汚染による曝露量は低いと考えられるが、曝される人数は上述の加工規模と1人分の量次第で多くなることもある。

特定危険部位の使用。故意に特定危険部位を使用すれば、感染負荷を増し、曝露量も増す。

(注) 特定危険部位の使用は主に次の2つの要素で決まる。

価格。脳や脊髄などの特定危険部位は、その相対価格によって、直接摂食(直接食べること)するのか、パテやソーセージなど高付加価値製品に用いるのか、MRMとしてペットフードなど低付加価値製品に利用するのか、レンダリングされるのかが決まる。一般に最も利益の多い利用が選択される。例えば、ヒトが摂食するための脳や脊髄の価格は1トン当たり3,000〜5,000仏フラン(460〜760ユーロ)であり、同じ脳や脊髄がMRM中に含まれペットフードになる場合、価格は5分の1(1,000〜1,700仏フランまたは150〜250ユーロ)である。

販路。ウシの様々な組織について様々な規模の販路があり、特定危険部位の利用に影響する。特に、販路の規模は慣習と食習慣に依存するが、法律も影響を及ぼす。

3.6  曝露レベルと曝露人数の予測

SSCはゼラチンや獣脂も含め、食品由来のヒトに対する曝露リスクをすべて評価しようとした。しかし、これは地理的なBSEリスク評価という課題よりはるかに複雑であり、非常に重要な変動要素のほとんどについて、入手できる量的データはごく限られている。

SSCはEU加盟国にウシの様々な組織の利用に関する詳しい情報の提供を求めた。3件のみ回答があったが、個別的というよりは一般的な情報で、しかも質的な観点からのものであった。この情報は以下に述べるシナリオを設定する際に役立てた。

長期的には、BSE病原体のみならずダイオキシンやオクラトキシンなどの食品由来の有害性を評価する、確率論的なモデルを構築することも可能となろう。ここでは本「意見」の目的に沿って考えられるシナリオを設定した。ただし、ここで設定するシナリオが実際に起こりうる可能性についてのデータはない。


4.  曝露についてのシナリオ

以下のシナリオは、1頭の感染したウシがヒトの食物連鎖に入り込み、消費に適すると判断されて加工された結果生ずる、ヒトの感染リスクの現実的な値を説明することを意図している。

4.1  シナリオ1―最大の分散、間接的な摂取

(注) このシナリオは1993年の家庭調査データ、食糧構造データベース、食品産業・政府関連部局とのインタビューに基づいている。ここでの想定はこの歴史的な状況にとっては現実的なものと感じられるであろうが、現在の実際の状況を描いているわけではない。SSCは、このシナリオによりBSE感染に曝される人数の現実的な上限を示している。計算の詳細については、付属書1を参照されたい。

4.1.1  想定

1頭のBSE症例の感染部位がすべてMRMに含まれるとする。MRMに入り込む感染量が少なくなれば、食品の平均感染負荷が低くなるだけであり、汚染される食品の量は一定であることを理解しておくことが重要である。

MRMは5〜7トン単位で生産される。この情報は、現在のペットフード用のMRM生産について業界から得たものである。業界の品質管理規定では、品質に問題がある場合(細菌汚染など)、少なくとも5トン(1単位)のMRMを廃棄することを求めていることから確認できる。

1頭のウシから約7 kgのMRMが得られる。従って、1単位のMRMには最大1,000頭分が含まれる。このうち1頭でも感染していれば、その単位のMRM全体が汚染され、どんな感染量であってもその単位のMRMに均一に分散する。

食品の平均MRM含有量は100%(安価な肉詰めパスタの「肉」は工業的にMRMのみから作られる)の場合もあれば、5〜10%(挽肉食品には技術的に問題なくこの割合のMRMが含まれる)の場合もある。

挽肉は平均家族人数2.7人の1家庭に対し、平均600 g入りのパックで販売される。

安価な肉詰めパスタ料理には約13%の詰め肉があり、平均家族人数2.7人の1家庭に対し1,000 g入りパックで販売される。



4.1.2  結論

MRMの生産単位が大きく、肉製品内のMRM含有割合が小さいとすると、1頭につき5トン(パスタの詰め物)から116トン(挽肉)の食品を汚染することになる。

このように1人分当たりの平均感染量は少ないものの、多人数分の食品が汚染される。

以上の想定に基づいて計算すると、1回の生産量5トンのMRMを通して約20万人(パスタ経由)から40万人(挽肉食品経由)がBSE感染性に曝されることになる(付属書1参照)。

1頭の持つ感染負荷がすべてMRMに含まれるとすると、同じ計算から消費者1人当たりの平均感染負荷は0.023〜0.043CoID50になる。中枢神経系特定危険部位(脳、脊髄、TRG、DRG10)をMRMの生産から取り除けば、曝露量は約95%減じるであろう。

4.2  シナリオ2―一般的な分散、間接的な摂取

以下のシナリオは想定にのみ基づく。BSE感染の中間レベルのばらつきを説明する。

4.2.1  想定

脳および脊髄(700 g)を5%の割合までパテやソーセージに混入する。

パテやソーセージの1人分が平均50 g〜100 gとすると、2.5 g〜5 gの脳または脊髄を含むことになる。

様々なヒトがそれぞれ1人分を摂取する。

残り12%の感染性は獣脂を取るか、直接、動物のエサにする。

4.2.2  結論

パテまたはソーセージを、14 kg単位で生産する。すなわち700 gの脳および脊髄をちょうど5%の割合で利用すると、感染したウシ1頭につきパテ280人分またはソーセージ140人分が汚染されることになる。

摂食者1人当たりの平均感染負荷は25〜50 CoID50になる。

生産単位がもっと大きく、含まれる脳および脊髄の割合が低ければ、汚染食品数は増加し、摂食者1人当たりの感染負荷はそれに応じて減少する。


4.3  シナリオ3―集中、直接的な摂取

このシナリオは、現実的な実際にあったデータに基づく。しかし、脳以外の感染部位が食物連鎖に入り込まないという想定は楽観的である。

4.3.1  想定

ウシの組織を使ってMRMを生産しない。

脳を1人分平均100 gとして直接摂取する。

他の感染組織は、獣脂を取るか、直接、動物の飼料にする。

4.3.2  結論

5人が感染したウシの脳を食べることになる。この5人はそれぞれ1,000 CoID50に曝される。

以上のシナリオを含む様々なシナリオから予想される曝露を図2に示す。CoID50を単位として測定した曝露量に対応する曝露人数として表す。この結果の相対的可能性については検討していない。

図2 シナリオによる曝露評価

図2 シナリオによる曝露評価

挽肉、4%、6% MRMとは、4%、6% のMRMを含む挽肉で、1人分が100 g。
肉詰めパスタ、詰め物50%、100% MRMとは、詰め物に50%、100%の MRMを使用した肉詰めパスタで、1人分が370 g。詰め物の割合は13%。
パテ、1人分100 g、脳5%とは、脳を5%含むパテで、1人分が100 g。
脳とは、直接摂取する脳で、1人分が100 g。


5. 解説

1. 以前に、SSCは感染個体の脳・脊髄・神経節・回腸に最も高いBSEの感染性があると強調した。これらの組織はヒトの変異型CJDを引き起こす可能性の観点から重大な関心を寄せるに値する。ただし、感染を引き起こす量については不明である。

2. 若いウシの腸は、BSE潜伏期の早期に感染するので、特に関心が寄せられる。

3. SSCはEU諸国内で多くの人々が腸と脳を直接摂取していることを知っているし、パテやソーセージのような肉製品に脳や脊髄を用いている証拠を持っている。

4. 腸や中枢神経組織は高い感染負荷を持つので、直接摂食が未だに法律で認められている国では、摂食により感染量を多く取り込む可能性がある。従って、ヒトの感染の可能性は高い。

5. 3つのシナリオに示された悲観的だが現実的な分析は、不確実な想定に基づくことを認める。感染個体の特定危険部位、とりわけ脳と脊髄が食品の生産工程の1回分に入り込む割合、その1回分内での特定危険部位のばらつき、肉を材料として用いる食品の生産工程1回分の量、販売形態におけるその食品の占める程度によって、想定は変わる。

6. SSCはEU加盟国に情報を求め、この不確実性を少しでも取り除こうとした。しかし、信頼に足るデータおよび新たなリスク分析を得られず、確実性を増すことはできなかった。

7. SSCは新しい証拠や別の分析方法に基づく新たな見解を歓迎する。それにより政策担当者や一般消費者は一層安心を得るであろう。

8. しかし、潜伏期の終了近くにあるウシがたとえ1頭でもヒトの食物連鎖に入り込んだ場合、食品に含まれる特定危険部位の分散を最大に見積もると40万人が感染部位に接触することになる。

9. 低い発生率ながらBSEの報告があった国では、感染動物がヒトの食物連鎖に入り込む確率はゼロではないことを示す証拠が最近得られた。このような状況下で、食物連鎖への混入を防ぐ方法は、現時点では満足できないものであることを認識する必要がある。BSEの潜伏期にあるかを判定する検死時BSE試験について、集団審査で用いることを考える前に、このBSE試験の能力自体を判定しなくてはならない。

10. したがって、SSCは特定危険部位をヒトの食物連鎖に入れないことにより、変異型CJDのリスクを大幅に減少させるという最初の分析結果を再度主張する。

11. EU加盟国間の動物の移動、動物の臓器の国境を越えた取引、加盟国以外の国との屑肉・食品材料・加工食品の売買がある以上、家畜の感染度は加盟国によって異なるものの、ヒトのBSE感染リスクは必ずしも異なるわけではない。

12. 消費者をBSEの感染リスクから守るには、ヒトの食物連鎖に感染動物を入り込ませないことである。しかし、これは理想であり現実には保証できないので、次善の策として特定危険部位の排除が考えられる。とりわけ中枢神経系に係わる特定危険部位は、潜伏期が終わろうとする時期にBSE牛の感染負荷の95%を占めるので、排除が望ましい。特定感染部位の排除を実行しないと多数の消費者を不必要なリスクに曝すおそれがある。


6. 参考文献

──────────
2  本「意見」の採択時に、13歳の子供に変異型CJDの疑いがあるという報告を得た。
3  英国における変異型CJDの報告例調査は、食物経由以外の医原性の感染源を示してはいない(ウシから抽出したホルモンの注射など)。
4  別の仮説によれば、ウシのBSEとヒトの変異型CJDは共に、殺虫剤など有機リン酸塩の使用と関係があると言われているが、欧州委員会の科学運営委員会はこの仮説について、科学的根拠が不十分であるとみている。
5  組織内の感染性のばらつきおよび感染のレベルは、動物の種により異なる。
6  臨床医学上、ヒツジのBSEとスクレイピーを区別することは難しい。スクレイピーはヒツジに発生するTSEで、ヒトには無害である。判別する診断テストはまだない。
7  特に種間の障壁の問題については、SSCの「ヒトの曝露限界」作業部会の報告書草案で詳細に扱われている。この草案はSSCの2000年初会合で検討する予定である。この項は1999年12月21日にScott 他(1999年)が発表したことを考慮に入れていない。
8  EU加盟7ヵ国は特定危険部位を除去しつつある(ベルギー、フランス、アイルランド、ルクセンブルグ、オランダ、ポルトガル、英国)。オーストリア、ドイツ、デンマーク、ギリシャ、フィンランド、スウェーデンは特定危険部位禁止を実施していないが、イタリアとスペインはBSE発症国に、輸出する動物から特定危険部位を除去することを求めている。
9  この大規模検査はプリオニクス試験に基づいている。陽性は病理組織学および(または)免疫組織化学により証明されている。
10  中枢神経系による汚染リスクを避けるため、MRMの生産に脊柱および頭蓋骨を利用するべきではない。


付属書1 シナリオにおける計算の詳細


全般的な想定

1頭の完全に感染した動物の感染性: 8,000 CoID50 (家畜経口50%感染量を単位とする)
1家庭当たりの家族数: 2.7

シナリオ1

バーガー用の肉
MRMは5〜7トン単位で生産される。1生産単位を5トンとし、20 kgずつパック詰めすると想定する(250×20kg)。
1頭の感染動物からの感染性(8,000 CoID50)がすべてMRM 1単位の中に入るとする(実際には起こり得ない)。
バーガー用の肉は1トン単位で生産され、5〜10%のMRMを含む可能性がある。
バーガー用の肉(挽肉)は通常家庭用に600 gのパックで販売される(平均2.7人分)。

計算
MRM 20 kg入りパック3個が、1,000 kgで1単位のバーガー用肉に用いられるとすると(6%)、5トン(250パック)の汚染MRMはバーガー用肉84単位を汚染する可能性がある。
84トンのバーガー用肉は600 gパック11万4,000個(84,000/0.6)になり、37万8,000人(114,000×2.7)が曝される可能性がある。
平均曝露量は8,000/378,000=0.02 CoID50/人となる。
(注) MRM含有率が減少すれば、もっと多くの消費者がより低い量に曝される。

挽肉1トン当たりの
MRM20kg入り
パック数
MRM含有率 汚染挽肉のトン数 曝露人数 1人当たりの平均
曝露量(CoID50)
5 10% 50 225,000 0.04
4 8% 63 280,000 0.03
3 6% 84 378,000 0.02
2 4% 125 560,000 0.01
1 2% 250 1,125,000 0.007

肉詰めパスタ
安価な肉詰めパスタに占める詰め物の割合は約13%であり、詰め物はMRMが100%の場合まである。
肉詰めパスタは家族数平均2.7人の家庭用に、1 kgパックで販売されている。

計算
詰め物にMRMを100%使用した場合、1生産単位のMRMは1 kgパックの肉詰めパスタ3万8,500個を汚染し、10万4,000人が平均0.08 CoID50の感染量に曝される。
詰め物にMRMを50%使用した場合、1生産単位のMRMは1 kgパックの肉詰めパスタ7万7,000個を汚染し、20万8,000人が平均0.04 CoID50の感染量に曝される。



付属書2  1997年11月以降、伝達性海綿状脳症(TSE)関連の質問についてSSCが採択した「意見」(1999年12月8日現在)

番号 採択年月日 「意見」の題
1 1997年12月9日 特定危険部位のリスト―ヒトに対する相対リスク評価計画
2 英国の日付に基づく輸出計画の報告およびBSEを発症したウシから産まれたウシの強制殺処分に関する英国案
3 1998年1月22・23日 特定地域のBSEリスクの決定に関するSSCの意見
4 1998年2月19・20日 1998年1月27日に英国政府か゛欧州委員会に提出した、英国の日付に基づく輸出計画の報告およびBSEを発症したウシから産まれたウシの強制殺処分に関する英国案の改訂案に関する意見
5 「TSEに関する疫学的状況についての全書類」の内容に関する最終意見
6 1998年3月26・27日 BSEリスクに関する意見
7 獣脂の安全性に関する意見
8 肉骨粉の安全性に関する意見
9 1998年6月25・26日 反芻動物の骨から取り、飼料として使用するリン酸二石灰の安全性
10 家畜の外部寄生虫・体内寄生虫の殺虫剤として使用する有機リン酸塩とBSEの関連
11 1998年9月24・25日 ヒツジとヤギがBSE病原体を感染させるリスクについての意見
12 哺乳類の肉骨粉による飼料の交差汚染に関する報告と意見
13 哺乳動物を原材料にした有機肥料の安全性に関する科学的意見
14 反芻動物以外の食糧生産用家畜に飼料として与える哺乳動物由来の肉骨粉の安全性に関する最新の科学的報告、1998年9月24・25日にSSCに提出
15 1998年10月22・23日 ウシの皮から生産したタンパク質加水分解物の安全性に関する報告と科学的意見
16 「日付に基づく輸出計画」の副産物として生じる骨の安全性に関する意見
17 1998年12月10・11日 哺乳動物の組織から取り出す獣脂の安全性に関する最新の報告と科学的意見
18 ゼラチンの安全性に関する最新の報告と科学的意見
19 国と地域の地理的BSEリスクの評価方法に関する暫定意見
20 1999年1月21・22日 ゼラチン製造のための「133度3気圧で20分という熱・気圧条件」、その等価についての評価に関する報告と科学的意見(一般的なゼラチンの工業生産工程において、原料に存在する可能性のあるTSE感染性を不活性化・除去する能力という観点から)
21 1999年2月18・19日 ゼラチンの安全性に関する報告と科学的意見(1999年1月21・22日に採択された「意見」の最新版)
22 国および地域の地理的BSEリスクの評価方法に関する意見(地理的リスクの評価マニュアルを含む)
23 1999年5月27・28日 英国におけるBSE流行の進展に関する重要な諸点の監視に関する意見(1999年4月の状況)
24 (1) ヒツジとヤギがBSE病原体を感染させるリスクについての意見(SSC1998年9月)と(2)ヒツジのTSEについての研究調査に関する報告(SEAC小委員会1999年4月)に基づく措置に関する意見
25 1999年6月24・25日 倒れた家畜および死んだ動物の部位を経由して、または廃棄処分された部位を経由してヒトまたは動物の食物連鎖に入り込む、これまでにない伝達性因子、従来からある感染因子、その他の有害物(有毒物質など)に関する意見(倒れた家畜および死んだ動物には、反芻動物、ブタ、家禽、魚、野生・外国産・動物園の動物、毛皮獣、ネコ、実験用動物・魚などを含む)
26 1999年7月22・23日 「無視できるBSEリスクとみなされる(閉じた)ウシの群」についての条件に関する意見
27 ヒツジの繁殖および遺伝子型分類についての政策に関する意見(すなわち、耐スクレイピー性のヒツジが繁殖できるかという課題)
28 1999年9月16・17日 動物性副産物をリサイクルし飼料にすることにより、非反芻家畜動物にTSEが蔓延するリスク
29 1999年10月28・29日 フランス食品安全局(AFSSA)がフランス政府に対して提出した、「英国から輸出されるウシを使用した製品に適用する特別対策を定めた1998年10月28日制令」の改定政令案に関する助言(1999年9月30日)の科学的根拠に関する意見
30 フランス食品安全局(AFSSA)がフランス政府に対して提出した、「英国から輸出されるウシを使用した製品に適用する特別対策を定めた1998年10月28日制令」の改定政令案に関する助言(1999年9月30日)の科学的根拠に関するSSCのTSE/BSE特別部会の1999年10月14日・25日の会合に基づく概要報告


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