戻る

欧州共同委員会白書 「今後の化学品政策のための戦略(抜粋)」
2001年2月27日


 ○EU 化学品政策は、域内市場の効率的な機能と化学産業の競争力を確保しながら、現世代および次世代のために、「高レベルでヒトの健康および環境の保護」を保証しなければならない。こうした目的に不可欠なものが「予防原則」である。ある物質がヒトの健康や環境に有害影響を及ぼすかも知れないという信頼できる科学的根拠が得られている場合には、その潜在的な被害の正確な性質や規模が科学的に不確実であっても、ヒトの健康および環境が被害を被らないように予防に基づいて意志決定を行わなくてはならない。もう1つ重要な目的は、適切な代替物が入手できる場合は、より危険の少ない物質によって危険の軽減を奨励することである。

 ○域内市場の効率的な機能と化学産業の競争力を確保することも重要である。

 ○持続可能という目標に到達するために、総合的なバランスのとれた手法で、新規物質開発の生態学的、経済的、および社会的側面について考察を行う必要がある。

 ○一般的に既存物質の特性および用途に関する情報が不足している。

 ○欧州委員会は、既存物質については 2012 年までに段階的に適用しながら、既存・新規物質に今後、単一制度の下で同一の手続きを適用することを提案する。ここで提案する制度は、化学品 (Chemicals) の登録 (Registration) 、評価 (Evaluation)、および認可 (Authorization) から REACH (Registration, Evaluation and Authorization of Chemicals) と称される。この REACH システムの要件は、試験項目も含めて、化学品の判明しているまたは疑われる危険有害性、用途、ばく露、および生産・輸入量によって異なる。1 トン以上のすべての化学品は中央データベースに登録されなければならない。トン数がさらに多い場合、長期的・慢性的影響に関して特別な注意が払わなければならない。

 ○化学品に関する情報を集める責任は産業界が負うべきである。

 ○製造業者および輸入業者ばかりでなく、化学品の川下ユーザーも、自らの製品の安全性に関わるすべての側面について責任を負うべきであり、化学品の評価のために、用途およびばく露に関する情報を提供するべきである。

 ○適切な代替品の利用が可能であれば、より危険性の少ない物質による「代替」を奨励することである。川下ユーザーの責任を強化し、情報公開をより改善することで、試験が十分に行われかつ意図した用途において安全な代替化学品への要請が強まることになる。

 ○公衆には、自分たちがばく露を受ける化学品に関する情報にアクセスする権利がある。この権利は公衆が、情報を得た上で有害な化学品を含む製品を選択し回避できるようにし、これが産業界にとって圧力となり、より安全な代替品を開発しなければならないようになる。しかし、業務上の秘密情報は適切に保護される。

 ○化学品のリスクアセスメントの主な目的は、これらを使用する際の適切な安全措置(リスクマネージメント)を決定するために確実な根拠を提供することである。リスクアセスメントは、化学品が特定の方法で使われたとき、有害な影響を及ぼす可能性があるかどうかを評価するものである。

 ○化学品のリスクアセスメントは、いずれも明確な 2 つの要素で構成されている、すなわち (1) ハザードアセスメントと呼ばれる化学品に固有の性質の評価、および (2) 化学品の用途によって決まるばく露の推定である。

 ○新規物質に関する現在の EU 法規は、化学品の試験・評価をうまく実施してきたとされている。試験要求項目は上市量によって段階的に異なる。試験が必要となる最低量は 10kg である。一般的に、少量製品(10kg 〜1 トン)の試験項目は、急性ハザード(短期間ばく露直後、または少し時間を置いてから出る影響)に焦点を置いており、それ以上の量では、(亜)慢性ばく露、生殖毒性、発がん性などの影響に関する、よりコストのかかる試験が要求される。

 ○今後の制度では、特定のばく露予測に基づき、適宜試験を免除または延期できるように柔軟でなければならない。例えば、厳しく管理され厳密に封入された中間体については、試験要件は軽減されるべきである。

 ○ばく露データの不足への対処が必要である。ばく露の推定、また適切であればばく露の分析的な判定は、その化学品の製造業者と川下ユーザー(配合業者および工業的ユーザー)に義務づけられるべきである。

 REACH システムと名付けられたこのシステムは、以下の 3 つの要素で構成される。
  (a)  登録 : 企業が中央データベースに提出した約 3 万物質(製造量1トンを超えるすべての既存および新規物質)に関する基本的な情報の登録。これらの物質の約 80% は登録のみでよいと推定される。
  (b)  評価 : 製造量 100 トンを超えるすべての物質(全体の約 15% にあたるおよそ 5,000 物質)に対して、また懸念がある場合は 100 トン以下の物質に対しても、登録情報の評価;評価は当局によって実施され、長期ばく露の影響に重点を置いた物質に応じた試験プログラム開発が含まれる。
  (c)  許可 : 極めて懸念の高いある種の危険有害物質の許可。認可には、物質が安全が証明された特別な目的で使用される前に、当局の特別許可を得ることが必要となる。当局の許可を必要とする物質はおよそ 1400 物質 (登録される物質の 5% にあたる) と予測されている。EACH システムは、新規物質および既存物質にも適用されるが、新規物質に比べ既存物質の場合は多数存在するため導入には 11 年の移行期間を要する。

 ○新規物質の系統的な評価では、その約 70% の物質が危険と分類されることが明らかとなっている (例えば、発がん性、毒性、感作性、刺激性、環境に対して毒性)。


トップへ
戻る