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資料7


検討事項についての意見

2003年3月20日 鈴木良子


1)  胚提供について
 荒木委員と同様、再度審議をお願いしたく思います。私を含め、少なからずの委員から、胚提供については疑問が呈されていると理解しています。私個人も胚提供には反対です。

理由(1) 妊娠・出産ができるという以外は実質的に養子と変わらず、特別養子制度との整合性から見ても問題がある。なぜこちらは家裁の審査なしにOKになるのか根拠が希薄。行うのであれば特別養子制度に準じるべきでは?

理由(2) けれど、何よりの問題は生まれた子の心に与える影響が大きいこと。「受精卵の段階で親から"人にあげる"とされた」という見捨てられ感、同じペアから生まれたきょうだいは実の親のもとで育っているのに、などの思い。その子が抱えるかもしれない葛藤は、深く重い。ですから反対。

2)  卵のシェアリング
そもそも卵のシェアリングを認めるか?
⇒卵提供を認めるのであれば、認めるのはやぶさかではない。

シェアリングは「提供者に子がいることを要さない」となっているが、それでいいか?
⇒提供した女性が妊娠せず、提供を受けた女性が妊娠した場合、予期せぬ混乱が生じる可能性も大。第1子のいる人が体外受精する場合に限ったほうが安全と思う。

提供の際の条件(卵の数、グレード等)
⇒考えれば考えるほど複雑。一律に定めるのは難しい。提供者本人が条件指定するしかないか…? 金銭負担は採卵までの医療費の半額が上限か?(培養〜胚移植まではもらう人本人が負担)。

3)  代理懐胎
そもそも、他者に妊娠・出産を依頼することじたいに問題があると私は考える。私は代理懐胎を依頼することが「不妊の人の生殖への自己決定権」の範疇に入るとは思えない。また「本人が納得のうえで出産してあげると言ってるのだからいいではないか。自己決定ではないか」という声にも、共感できない。

卵提供もリスクはあるが、代理懐胎は9カ月間の妊娠とそれに続く分娩という、長期の拘束である。同列には論じられない。仕事で分娩に立ち会ったわずかな経験からしても、妊娠・出産はたいへんな仕事で、人にお願いできるものではないと感じている。少なくとも私は「卵提供も賛成できない、まして代理母は賛成できない」という立場である。

代理懐胎は「それでしか子どもを得られない人の最後の手段」とよく言われるが、これは正確には「わが子」を得るためである。むろん子宮などと同時にわが子を失った親の悲しみははかりしれず、悲しみを癒すには長い時間がかかるが、「なぜ養子ではだめなのか」は考えてみるべき課題である。それは提供全般を通じ、当事者だけでなく国民全部に問われている課題である。養子・里親が普及しない現状、その背景をよくよく見直していきたい。

アメリカで子の奪い合いが少ないのはルール、つまり「ビジネスとしての代理懐胎」が定着してしまった側面はないのか?

蛇足だが、最近の報道(根津医師のケース)では、「兄嫁」が出産した。最初は姉妹間で「姉妹愛」といわれたが、今回は「一族愛」になるのか? 親友が申し出ても「愛」にされそうな気がする。「愛」の美名のもとに代理懐胎がすすめられる危惧を感じる。

4)  提供を受ける人、提供する人へのカウンセリングについて
 「カウンセリングの機会を保証する」のではなく、「義務付け」を主張します。むろん多くの人は熟慮の末の相談ですが、心理カウンセラーが対応することによって自分でも気づかなかった思いや家族背景が浮上していることはよくあります。不妊による心の傷つき、自尊感情が低下している場合も多く、そこをある程度回復してからでないと(あるいはそうした自分への気づきがないと)、「提供を受ける」判断には、危ういものがあります。心理カウンセラーの介入は、必須です。不妊の悩みの渦中にいるときは「子どもさえできればすべてが解決する」と思い込んでしまうこともあり、そこはほぐしておかねばなりません。

5)  子の出自開示の"ストッパー"機能について
 相良委員が指摘していましたが、出自の開示がいまの段階では危ぶまれると心理カウンセラー等、相談にあたった複数の人が判断した場合、延期をかける機能があってもよいかもしれません。開示の動機が「自分が病気で、遺伝的な親をドナー候補にする必要性」(それじたいは否定できるものではありませんが)だったり、本人が大きな怒りなどを感じていて、開示が育ての親や遺伝的な親へ身体的苦痛を与える恐れがある場合など。公的管理運営機関の名で家裁に「開示延期」を申請、家裁の判断を仰ぐなどの方法も考えられると思います。

6)  公的管理運営機関の役目について
  検討が不十分と思われます。提供による家族の形成をサポートし、システムを円滑に運ぶには、やはり管理運営機関の責任と役割を明確にしておくことが必要と考えます。以下は私の意見です。

(1) 同意書の保存等

(2) 相談機能
公的管理運営機関の中(またはその委託)に、「第3者の提供」について相談を受ける総合窓口の開設。
【ステップ1】 匿名で電話できる相談窓口(ホットライン)←必須
 第3者からの提供についての情報提供・相談(ドナーになってもいいが、提供を受けたいがどうすればいいのか、どこで受けられるのか、提供によって子を産んだが子育ての上で気持ちが揺れることがある、自分は提供で生まれた子だろうか、自分が提供で生まれたきたと知って混乱している、など情報提供だけでなくメンタルな面も話すことができる総合的な相談窓口。
 
ここから各地の実施機関、相談先を水先案内する。もちろん電話だけで最初は引いてしまう人、「またかけます」と言う人もいるだろう。
電話相談のデータ集積と公表。提供を受けたいという人の声、ドナーの声、子どもたちの声、データ化して今後のサポートのための資料とする。
【ステップ2】 面接相談
 
プライバシーを損ねない形でデータ化する。内容ではなく、カウンセリングの継続率や回数、受けた人の中からどのくらいの割合でその先に進んだかなど。これも今後のためである。クライアントの了承を得てケース報告するのは可能。

(3) 関連機関との調整機能
必要なケースにおいては、クライアント地元の心理カウンセラー、児童相談所との連絡・調整をはかる。

(4) 提供コーディネート
実施機関からの報告受けとそのチェック

(5) 監督・監査機能
実施機関の監督と監査、その権限(の範囲について要検討)

(6) 啓発・広報活動
ドナー募集、第3者の提供についての解説書、パンフレット(一般向け)の作成など、各種の広報活動

(7) カウンセラーの育成/講座等の開催


(8) 倫理委員会の設置
個別のケースの実施の可否を検討するための委員会

(9) 運営委員会の設置
上記のような仕事を円滑に運ぶため、助言をするための専門家(弁護士、児童福祉の専門家、心理カウンセラーを含む)による委員会

7)  その他の疑問
いまのところ営利目的の斡旋等は禁止されているし、実施機関は「指定の医療機関(病院)」になると思いますが、「非営利」なら斡旋・コーディネートはOKなのでしょうか?「NPO法人」で指定病院とタイアップ、しかも「管理運営機関と連携します」という条件だったら? ガイドラインや法律に従って運営するのであればNPOが行っても問題はないのでしょうか?

指定医療機関以外が行った場合の罰則……なにやら「刑法・堕胎罪」のように刑事罰、懲役刑になるようなイメージですが、病院に関しては「営業停止」など行政処分(と言うのでしょうか?)的な罰則もあるかと思います。でもこれは通っている患者さんが迷惑……だとすると施術した医師本人のみ、「医師免許剥奪」とか?(これはけっこう厳しい処分と思いますが)。

外国に行く人の件は、止める術がない。その場合、子の出自を知る権利は適用外になってしまいますが、提供者データがないわけですから対応のしようもないと思います。一方、外国でこの技術を用いた人にも、その技術を用いて生まれた子という何らかの証明(同意書等)がなされるなら、今後整備されるであろう民法等での「親子関係」保全が適用されるようにしておく必要があるのではないでしょうか。裁判などになったとき「外国で受けたのだから適用外です」というわけにはいきません。子を守る必要があると思います。

以上です



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