検討会、研究会等  審議会議事録  厚生労働省ホームページ

不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会中間整理

第1 はじめに
  本研究会は、平成13年10月から、不当労働行為審査制度に関して、審査手続の迅速化、司法審査や地方分権との関係について、関係者に対するヒアリングも実施しつつ、専門的見地から検討を行ってきたところであるが、検討の対象となっている論点は多岐に渡り、しかもそれらについて多様な観点から議論が行われている。
 このため、本研究会として検討結果の取りまとめに向けて、不当労働行為審査制度の現状、問題点及び見直しの方向について共通の認識を形成すべく、これまでの検討結果を踏まえた中間整理を行うものである。

第2 不当労働行為審査制度の現状
労働委員会における事件の処理状況
(1)係属状況
 初審である地方労働委員会(以下「地労委」という。)においては、新規申立件数は、昭和40年代後半をピークとして減少に転じ、平成初期には年300件を割り込むに至ったが、その後はやや増加し、最近はおおむね年350〜400件の間で推移している。
 また、初審については、地労委間での新規申立件数の格差が激しく、平成13年においては、東京都及び大阪府の地労委で全体の半数以上を占める一方、新規申立件数が2件以下の地労委も半分を超え、中にはここ数年に渡り新規申立てがない地労委も見られる。
 次に、再審査を担当する中央労働委員会(以下「中労委」という。)においても、新規申立件数は、昭和50年代から60年代をピークとして減少し、一時は年50件にまで減少したものの最近は年60件台で推移している。
(2)終結状況
 事件処理の終結状況を終結事由別に見ると、初審においては、おおむね7〜8割が取下げ・和解で終結しており、命令・決定で終結している事件は2〜3割となっている。また、再審査においては、おおむね5〜7割が取下げ・和解で、命令・決定は3〜5割となっており、地労委に申し立てられた不当労働行為事件のかなり多くが取下げ・和解で終結していることが窺える。
(3)事件処理期間
(1)全体
 不当労働行為審査事件の処理期間に関しては、昭和40年代後半以降長期化が大きく進み、平成初期には初審1,290日、再審査1,345日と共に1,000日を超えるに至った。その後、初審についてはやや改善したものの平成11年〜13年平均では797.0日と引き続き事件処理に長期間要している。また、再審査に要する期間は、近年改善傾向が見られるものの、なお長期に渡っており、同じ平成11〜13年平均では1,529.7日となっている。
 また、処理期間ごとの事件数の割合を見ると、平成11年〜13年では、初審の40.8%は300日未満で終結し、そのほとんどが取下げ・和解である一方、1,000日以上かかっている事件も20.5%となっている。再審査では、平成13年においては、300日未満で終結した事件は18.8%にすぎず、43.8%と半分近くの事件が終結まで1,000日以上要している。
(2)事件処理の段階別の状況
 命令・決定で終結した事件の処理期間を事件処理の段階別(「申立てから審問前」、「審問」、「結審後命令書交付まで」)に見ると、初審では、審問の期間が長く、全体の半分以上(平成11年〜13年平均55.7%)を占める。
 また、再審査では、結審後命令書交付までの期間が著しく長く、全体の7割以上を占めており(平成11年〜13年平均72.6%)、この傾向は最近ほとんど変わっていない。
(3)終結事由別の状況
 事件処理期間を終結事由別に見ると、平成11年〜13年平均で、初審においては取下げ・和解が703.7日と比較的早く終結している一方で、命令・決定は1,048.7日と終結までかなり時間を要している。他方、再審査においては取下げ・和解、命令・決定のいずれも終結まで1,500日を超えている。
(4)再審査の状況
 初審命令に対する不服率は、平成11年〜13年平均で78.1%となっており、このうち中労委への再審査申立ての割合は、66.7%と取消訴訟提起の14.5%に比較して格段に高くなっている。
 また、再審査命令は、平成11年〜13年においては72件となっており、初審命令を支持したものが26件(36.1%)、初審命令の一部を変更したものが36件(50.0%)、初審命令の全部を変更したものが4件(5.6%)となっている。
裁判所における労働委員会による命令取消訴訟の処理状況
(1)取消訴訟件数
 初審命令に対する取消訴訟は、平成11年〜13年平均で11件、再審査命令に対する取消訴訟は同じく14件で提起率は58.3%となっている。
(2)処理期間
 初審命令に対する取消訴訟の処理期間は、平成11年〜13年平均で565.6日、うち判決で終局したものは665.0日となっている。また、再審査命令に対する取消訴訟の処理期間は、それぞれ882.5日、1,036.3日となっている。
(3)終結状況
 初審命令に対する地方裁判所(以下「地裁」という。)の取消訴訟事件判決は、平成11年〜13年において計19件であり、このうち棄却・却下は17件、全部取消しは1件、一部取消しは1件で、取消率は10.5%となっている。
 再審査命令に対する地裁の取消訴訟事件判決は、同じく計29件であり、このうち棄却・却下は17件、全部取消しは1件、一部取消しは11件で、取消率は41.4%となっている。

第3 問題点
事件処理
(1)審査の遅延
 不当労働行為審査制度の現状における最大の問題点は、審査の遅延であり、この点はヒアリングにおいても共通して主張されたところである。これは、初審及び再審査を通じた共通の課題であるが、近年は特に再審査における審査の遅延が一段と際立っている。
 この背景として、労働委員会においては、長期的な労使関係の安定を図るために、和解に向けた取組に多くの時間をとられることや、差別事案等複雑な事件が増加していることも考慮する必要があるが、次の点も審査の遅延の原因となっているものと考えられる。
(1)争点や尋問事項の明確化等審問の準備が十分に行われない上に、当事者から提出された多数の書証の整理に時間を要することがあること、また、当事者の求めに従って多数の証人尋問が行われるなど審問が当事者主導のような形で行われていること。
(2)地労委においては、審査委員、労使の参与委員及び当事者の代理人の日程調整が困難で、調査や審問の期日の間隔が長くなっているものがあること。
(3)審問が終結したときは、公益委員会議により命令の内容を決定しているが、公益委員全体の合議によるため、係属件数の多い地労委や中労委においては、合議の日程を多数回確保することが困難となる場合があること。
(4)命令書に、争点に係る判断に必ずしも必要と言えないような事件に至るまでの労使関係の経緯が詳細かつ幅広く記載されがちであること。
(5)公益委員は非常勤であるために自ら行い得る業務量に限界があることに加え、事務局職員の多くは、ローテーション人事のため3年程度で異動するため、専門的な知識・経験が蓄積され難いこと。
 このように労働委員会における審査の遅延が進む一方で、地裁における労働関係訴訟事件の審理期間が平成に入る頃から短縮し、平成13年には13.5月、うち判決は17.3月となっている。不当労働行為審査制度が設けられている主たる理由の1つが事件の迅速な処理の実現にあること、不当労働行為事件については裁判も含めると救済の実現までに最大5審制と長期に渡る手続を余儀なくされることにかんがみれば、審査の遅延をこれ以上看過することはできず、緊急に解決すべき課題であると言わざるを得ない。
 さらに、裁判に関しては、昨年3月に閣議決定された司法制度改革推進計画において「労働関係訴訟事件の審理期間をおおむね半減すること」が目標として掲げられるとともに、すべての訴訟手続において2年以内に第一審における手続を終結させることを目指した迅速化の取組が行われている中で、不当労働行為審査制度についても、遅延の状況を早急に改善する必要がある。
(2)  命令・決定に対する再審査、取消訴訟
初審命令に対する再審査又は取消訴訟の提起率は8割近く、再審査命令に対する取消訴訟の提起率は6割近くといずれも高くなっている。その背景としては、再審査において初審命令が、地裁において再審査命令が取り消されるケースが多いことがあるものと考えられる。
 また、これらの取消率(初審命令又は再審査命令の取消しを求めて再審査の申立て又は訴訟が提起され、それが認容された率)は、行政事件訴訟全体の認容率(平成13年21.5%)に比較して相当高い水準にあり、しかも特に再審査命令に対する取消率は平成に入ってから高まってきているが、労働委員会側における原因としては、次のようなことが考えられよう。
(1)争点・証拠の整理や事実の認定が必ずしも的確に実行されているとは言い難いこと。
(2)初審や再審査において審査委員から要請があったにもかかわらず、提出されなかった証拠が取消訴訟の場で初めて提出される場合があること。
(3)命令書において、争点に係る判断に必ずしも必要とは言えないような事件に至るまでの労使関係の経緯が詳細かつ幅広く記載されたり、理由の記載として明確性を欠く面が見られたりすること。
(4)公益委員は非常勤であることに加え、事務局職員の多くは、ローテーション人事によって配置されることもあり、審査、命令書の作成や取消訴訟への対応に必要とされる高度な法的知識や専門的な経験が必ずしも十分とは言い難いこと。
和解による解決
 和解については、不当労働行為審査制度が設けられた当初から労働組合法上何ら位置づけられておらず、むしろ不当労働行為審査事件については労働者の団結権侵害であるという性質から和解による解決は認められないとの見解もあったところである。しかしながら、不当労働行為審査制度は、労働組合活動に対する使用者からの侵害を防止し、もって労働組合又は労働者の利益を保護する制度であることを考慮すれば、申立人である労働組合又は労働者の納得による自主的解決は許容されるべきものと考えられる。
 実際には、不当労働行為審査事件の大多数が和解(取下げを含む。)により解決しており、和解は、公労使それぞれの利益を代表する3種類の委員から構成されるという特徴をいかして労働委員会が果たしている重要な機能となっている。また、この点についてはヒアリングを通じて、ほぼ共通して長期的な労使関係の安定への寄与の点から評価されている。
 しかしながら、現行の不当労働行為審査制度は、法律上は救済命令により団結権が侵害された状態を迅速かつ直接是正を行うことを目的とした制度として設けられており、現実の機能が法律に反映されていない。
 また、和解については、争点や証拠の整理を十分行わないまま期日を積み重ねるケースが多く、そのことが和解が不調に終わった場合に迅速に審問を終結し、的確な命令書を作成する上で困難を来していることも否定できないし、また、結果的に審査の遅延につながることにもなっている。
地労委に対する規制
 地労委は都道府県の組織であるが、委員定数や事務局組織については国が法律や政令で具体的に規定していることから、不当労働行為審査事件数の多寡や増減といった地域の実情に応じて弾力的、機動的な体制整備ができない等の問題が生じている。
 なお、この点に関しては、ヒアリング等において、地労委等から、その規制を緩和する方向の意見が多数出されたところである。

第4 見直しの方向
今後の不当労働行為審査制度の役割
 現行の不当労働行為審査制度は、労働者の労働組合活動の自由を保障するための制度として昭和24年に設けられて以来、長期的な労使関係の安定に大きく寄与してきた。その後、昭和40年代に入ると労使協議制度を中心として自主的に問題を協議し解決する労使自治が進み、労使関係が成熟してきたこともあって、不当労働行為審査事件の新規申立件数は近年増加しつつあるものの水準としてはピーク時に比べかなり低下している。
 また、最近の経済構造の変化や企業間競争の激化、就業意識や働き方の多様化、労働組合の組織率の低下等を背景として、個別的労使紛争が増加するとともに、本来集団的な労使関係において生ずる不当労働行為の申立てについて、駆け込み訴えなど実質上個別的労使紛争とも考えられるものも1割程度見受けられるようになってきている。
 しかしながら、大多数の労働者については、引き続き使用者との間に労働条件に関する交渉力の格差が存在することは否定できないので、それに対応するための集団的労使関係の役割はなお重要性を持ち続けている。また、近年においては経済情勢が厳しいことから、前述のように不当労働行為審査事件は増加しつつあることに加え、活発化する企業組織再編の際に、基本的な労働条件の枠組みが変更されるケースが目立つようになってきており、紛争解決システムとしての不当労働行為審査制度が適切に機能することが期待されている。
 その一方で、審査が大幅に遅延したために、やむなく取下げ・和解に応じたり、そのような状況を目にして不当労働行為の申立てをすること自体をあきらめてしまう傾向も見られたりするなど、現行制度は十分に機能しているとは言い難い。
 これらのことを考慮すると、今後とも、労働者がその労働条件の維持・改善を図るため、団結して集団的に労働条件を決定するシステムを保障する不当労働行為審査制度がその本来の機能を十分発揮し得るようにしていくことが求められる。
現状の問題点解決のための基本的考え方
 1で述べたように、不当労働行為審査制度の意義が今後とも重要であり続ける以上、審査の遅延や命令に対する不服率・取消率の高さといった問題を放置することは、今後ますます裁判の迅速化が図られる中においては、制度に対する労使を始めとする国民の信頼を損ね、ひいては制度そのものの存在意義を失わせしめかねない。
 特に、審査の遅延の問題については、昭和57年に労使関係法研究会による「労働委員会における不当労働行為事件の審査の迅速化等に関する報告」で、詳細な分析に基づき様々な迅速化のための改善策が運用面を中心に提言されたところであるが、結果として、今日に至るまで審査の迅速化は実現されなかった。
 したがって、審査の遅延問題等を解消するためには、もはや運用面にとどまらず、制度の在り方について法的整備を含む抜本的な見直しを行い、「平均審理期間を半減すること」を目標とした、迅速化のための総合的な取組を強力に進めていく必要があると考える。また、その際には労働委員会関係者はもとより、当事者の理解と協力を得つつ施策を進めていくことが不可欠である。
見直しの基本的な方向
 不当労働行為審査制度の在り方については、上記2の基本的な考え方に沿って、次のような方向で法的整備も含めた制度の具体的な見直し策について更に検討を深めるべきである。
 この場合、初審命令に対する不服申立ての状況や労働委員会として不当労働行為に関する法解釈の統一を図る必要性を考慮すると、再審査制度は維持することを前提に検討すべきであると考えられる。
(1)事件処理の迅速化等
(1)審査手続の改善
 審査の遅延を解消するためには、事件処理を計画的に進めるための枠組みを作ることが効果的である。
 また、審査について、当事者主導のような形で行われている運用を改善し、公益委員がより主体的かつ的確に争点・証拠の整理や事実の認定を行うことを可能とし、迅速な事件処理を実現するため、公益委員の権限や審査の実施方法に関する条件整備を検討すべきである。
 さらに、審査が長期化した場合等に不当労働行為審査制度による早期救済の実現を可能とするための工夫や、審査の迅速化と適正な和解の推進とを両立させる工夫も必要である。
(2)審査体制の改善
 事件の迅速かつ適正な処理を進めるためには、争点・証拠の整理、事実の認定や命令書の作成及び取消訴訟への対応を的確に実行できるようにすることが必要である。このため、労働問題に関する準司法的機関として必要とされる高度の専門性を確保するという観点から、公益委員や事務局といった審査体制について、第3の問題点を踏まえて、その効率化も図りつつ充実強化するほか、公益委員や事務局職員の審査事件処理能力の習熟・向上にも努める必要がある。
(2)  その他の検討課題
 不当労働行為審査制度が十分にその機能を発揮できるようにするため、和解を法律上位置づけることや、地域の実情に応じた弾力的かつ機動的な対応を行うことを可能とするよう地労委に対する国による規制を緩和することについても検討すべきものと考えられる。
 以上のような見直しの方向に沿った措置を講ずることと併せて、再審査が担うべき機能の在り方や、審級省略、新証拠提出の制限等労働委員会命令に対する司法審査の在り方について、更に検討を進めることが必要であろう。

照会先 厚生労働省政策統括官付労政担当参事官室 法規第二係
荒牧補佐、村瀬 TEL 03(5253)1111(内7751、7752)

不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会委員名簿

(五十音順)

参集者氏名 役職名
伊藤 眞 東京大学大学院法学政治学研究科教授
岩村正彦 東京大学大学院法学政治学研究科教授
小幡純子 上智大学法学部教授
菊池信男 帝京大学法学部教授
毛塚勝利 専修大学法学部教授
諏訪康雄 法政大学社会学部教授
村中孝史 京都大学大学院法学研究科教授
山川隆一 筑波大学社会科学系教授

(○印 座長)


トップへ
検討会、研究会等  審議会議事録  厚生労働省ホームページ