資料3−1 |
水道水の定期の水質検査を行う給水栓の箇所数について、現在は法令によって特に規制されていない。そのため、このことに関して今後は何らかの形で規制すべきではないかとの議論がある。
そこで、この点に関して様々な角度から検討し、最終的に下記のような考え方が妥当であるとの結論に至った。
以下、このような結論を得るに至るまでの検討内容につきその概要を述べる。
1.検査箇所数設定の現状
水道事業体による検査箇所数の設定においては、配水系統ごとに1箇所、その他行政区域の違い等を考慮して、さらにそれぞれ1箇所ずつ加えるなどといった考え方が採用されている。この結果、現状におけるいくつかの水道事業体の検査箇所数は、例えば給水人口と関係付けて示すと図−1のとおりであり、両者の間に必ずしも明確な関係が認められない。
2.諸外国等における検査箇所数の規制状況
WHOでは、飲料水水質ガイドラインにおいて、配水管網における微生物学的水質の検査箇所や箇所数に関して、全体にくまなく、人口に比例して、分岐数に比例して、水源系統ごとに、検査箇所を配置すべきであるとしており、特に試料数に関しては、表−1のような値を指針として示している。この場合、試料数とは、検査箇所数と1ヶ月当たりの検査回数と検査箇所数の積である。
給水人口 | 1ヶ月当たりの試料数 |
5,000人未満 | 1試料 |
5,000人〜100,000人 | 人口5,000人につき1試料 |
100,000人超 | 人口10,000人につき1試料、さらに10試料を加える |
また、アメリカ合衆国では、大腸菌群に関して第一種飲料水規則に基づき最小採水箇所数を給水人口に応じて下記のように定めている
給水人口 | 月当たり最小試料数 |
25〜1,000人 | 1試料 |
8,501〜12,900人 | 10試料 |
96,001〜130,000人 | 100試料 |
3,960,001人以上 | 480試料 |
このほか、EUにおいても、詳細は省略するが年間の試料数に関して規定を設けている。なお、以上のいずれの場合においても、試料数の設定に関する明確な根拠は示されていない。
3.最小検査箇所数設定において統計学的考え方を導入することの可否
定期の水質検査における最小検査箇所数を、統計学的な考え方に基づいて割り出すことができないか検討した。
ここで重要な前提として考慮に入れておかなければならないのは、わが国の水道水質基準の基本的な考え方である。わが国の水質基準は、一度たりとも超えてはならない値として定められているものであり、基準を超える確率がある一定の値以下であることとして定められているわけではない。そのため、給水区域における最小試料数や最小検査箇所数を設定する際に、その裏付けとして統計学的な考え方を導入することはもともとなじまない。
また、給水区域における最小試料数や最小検査箇所数を、統計学的な根拠に基づいて、給水人口等水道の規模を表す指標と関連付けることも不可能である。例えば、(平均値+2×標準偏差)の値の95%信頼区間を検査箇所数と関連付けることはできるが、このことと給水人口等を関係付けることはできない。
4.検査箇所数設定に関する上記以外の考え方
以上のように、最小検査箇所数を統計学的な考え方に基づいて設定することが不可能であることから、これとは別の考え方について検討してみた。
基本的な考え方として、水道利用者個々人の健康リスク等の面から見た水道水質の信頼度は、給水サービスを行う水道事業の規模と関係なく公平であるべきである。したがって、他の条件が全く同じであれば、水道事業の規模に関わらず、給水人口当たりの最小検査箇所数は同一であるべきである。しかしながら、現実には、例えば小規模水道の場合に比べて大規模水道の場合には施設の単位が大きくなり、しかも技術力や組織力が十分に確保されて、運転・維持管理や水質管理が行き届くので、単位供給水量当たりの信頼度はより高くなると考えられる。そのため、上記のような意味における公平性を確保するとすれば、給水区域における定期の水質検査箇所の密度は、水道事業の規模が小さくなるほど高くすべきであると考えられる。以上のような考え方は、WHO等による最小試料数の設定においても認められるところである。
また、わが国の現状における水道施設の整備やその運転・維持管理の水準が十分に高いことを考慮すると、WHOやUSEPAが定めているような程度にまで最小試料数を多く確保する必要は必ずしもないと判断される。
しかしながら、上記のような水道事業の規模と水道水質の信頼度との関連付けは、あくまでも定性的なものにとどまり、両者を定量的に結びつけることは非常に困難である。このような中で、検査箇所設定の一つの明確な根拠となり得るものは配水池(配水系統)である。一般に水道水は配水池(配水系統)を起点として各給水栓まで供給されるので、配水池(配水系統)ごとに少なくとも1ヶ所の給水栓を選んで定期の水質検査を行うことは、科学的に見て極めて妥当である。しかも、現在わが国においては、一般に配水施設の整備水準が高いだけでなく漏水率も低いレベルにとどまっているので、配水過程における水質の変化は最小限のレベルに抑えられていると考えてよい。
以上のことから、結論として、定期の水質検査における最小検査箇所数を給水人口等に応じて全国一律に決めるのではなく、むしろ配水池(配水系統)ごとに少なくとも1ヶ所の給水栓を選ぶことを基本とすべきであると考えられる。
5.今後における定期水質検査結果の整理と評価のあり方
定期水質検査の検査箇所数設定に関して、今回の検討では全国一律に基準とすべき考え方を提示するには至らなかったが、この点に関してはさらに検討を重ねることが重要である。そのためには、今後、各水道事業体ごとに、水質検査計画の作成や検査結果の取りまとめを通じて、給水区域における各回ごとの測定値の分布等につき、データの整理と評価を行って科学的な情報を蓄積することが望まれる。このことは、配水過程における水質管理上の問題点を明らかにする上でも有用であると考えられる。