03/02/05 第7回医療安全対策検討会議医療に係る事故事例情報の取扱いに関する 検討部会議事録                医療安全対策検討会議         医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討部会                    第7回                    日時 平成15年2月5日(水)                       17:00〜                    場所 5階共用第7会議室 ○堺部会長  ただいまから、第7回「医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討部会」を開催 いたします。委員の皆様方、お忙しいところをお集まりいただきましてありがとうござ います。本日は、15名の委員全員の出席をもちまして、検討部会を開催いたします。  本日の議事は、「報告書取りまとめに向けてさらに議論を要する事項について」の第 2回とし、起草委員会でおまとめいただいて前回に提出された資料のうち、前回時間の 関係で議論できなかったところを中心に議論を行います。  最初に資料の確認をお願いいたします。 ○新木室長  資料の確認をさせていただきます。前回第6回会議で使用した資料を再配付いたしま した。これを引き続き使用していただくとともに、新しく配付した資料を確認いたしま す。  「第7回議事次第」ということでまとめてある資料の中です。参考資料1は、前回ご 指摘のありました「日本医療機能評価機構 認定病院患者安全推進協議会の活動につい て」という3枚紙のもの。それに付随するものとして『患者安全推進ジャーナル』を委 員の手元にお配りしています。  参考資料2は、「ヒヤリ・ハット事例検討作業部会における医療安全対策ネットワー ク整備事業の改善に向けた検討状況について」です。前回、ヒヤリ・ハット事例の収集 ・分析システムについてご説明いたしましたが、その中で今後の改善方策についてご説 明が不足しておりましたので、本日用意しております。  ヒヤリ・ハットの収集・分析システムについては、参考資料2の4頁に、今後どのよ うに改善していくかをまとめております。この改善については、昨年4月に医療安全検 討会議でおまとめいただきました改善方向に沿い、ヒューマンエラー部会、及びその下 にあるヒヤリ・ハット作業部会で検討してきたものであります。  資料中の左欄にあるのは現在の体制であり、いちばん下にあるように特定機能病院、 及び国立病院・療養所、国立高度医療センターから収集しております。収集情報のう ち、記述情報については特に事故事例の分析と関係が深い部分だと考えておりますが、 一例一例についてどういう点に問題があったのか、それを予防するためにはどういうこ とをすべきなのか、この部分についてフォーマットの変更が必要、ということで現在見 直しております。  また、グラフで求める資料を、全般コード化情報と呼んでおりますが、これについて は定点報告方式にしたいと考えております。それの具体的な内容が6頁に載っていま す。これのひとつひとつの事例のどこに問題があって、どういう点を改善すべきであっ たのか、これについて集めるフォーマットであります。この集めるフォーマット、集め る情報を規定すると同時に、どのような分析を医療機関の現場で行っていただくのか、 これのインストラクションの意味も兼ねて、かなり詳しく注意書き、それから記載方法 が書いてあります。  1の基本的項目として、どの事例についても共通で必要な部分については、(1)か ら(7)までに記載していただくことになっております。いつ発生したのか、どんなカ テゴリーに入っているのか、時間帯等であります。(8)(9)(10)が具体的な内容 です。(8)は事例の具体的な内容、ここで記載する場合に5W1Hといいますか、何 が、いつ、どこでというようなことを記載していただきます。この記載につきまして は、記載そのものが分析の能力といいますか、方法とだいぶ密接に関連しておりますの で、そういうことでのインストラクティブな内容を含めて記載しております。  (9)は、事例が発生した背景・要因です。ここは、まさにヒヤリ・ハット発生の原 因を分析していくところであり、非常に重要な点だと考えております。したがって、少 し細かく注意書きを記載しております。  (10)に、これを改善していくためにどんなことが考えられるのか。既に医療機関で 実施している場合、また、これから実施しようということがあろうかと思いますが、そ れについて記載していただきます。したがって、個別のケースの分析、それを通じた改 善については、(8)(9)(10)に書いてあるような内容を充実して記載していただ きます。これを通じて、前回お示ししました1年間の分析結果ができたということで す。  なお、これまでは医薬品に関することと、それ以外のことについて別々の記載のフォ ーマットで集めておりましたが、これを統一フォーマットで集めるべきだというご指摘 をいただきましたので、統一したフォーマットになっております。そのために2とし て、医薬品・医療用具等に関連した部分についてですが、特に医薬品等は具体的な名 前、どういうものであったかが非常に重要になっておりますので、その情報も併せて書 くようになっています。  9頁以降には、現在行っておりますフォーマットを載せております。先ほどご説明い たしました新しいフォーマットへの切り換えについては、現在、コンピューター・シス テムの改善を行っているところであり、それが済み次第平成15年度のできるだけ早い時 期に移行したいと考えております。  参考資料3の「調剤事故防止に向けた事例収集について」ですが、前回指摘のありま した、各団体で集めているヒヤリ・ハット分析が既にあるのではないか、その状況をと いうことで集めたところ、その一つとして、日本薬剤師会で行っているものがありまし たので、それをご提供いただき今回載せております。  そのほかに、先ほど申し上げましたように、第6回会議資料の再配付、及び第6回会 議資料の参考資料3「諸外国における医療事故の頻度調査」等につき、長谷川委員より ご提出いただきました資料の改編版「医療事故カルテレビュー調査に関して」が今回届 いておりますので配付いたしました。したがって、第6回資料の参考資料3について は、今後、この改編版をご覧いただければと思います。  以上が資料ですが、1月30日に、患者の権利法を作る会より要望書をいただいており ますので、委員の手元に参考までにお届けしております。以上です。 ○堺部会長  本日の議事の進め方ですが、前回と同様に、前田起草委員長から、前回議論できなか った部分についてご説明をお願いし、質疑を行いたいと思います。資料1の2頁(2) 「発生状況の把握」から本日は始めさせていただきます。前回と同じように、それぞれ のグループごとにご討論をいただきたいと思います。それでは、前田委員よろしくお願 いいたします。 ○前田起草委員長  前回は、1番のところで「再発防止」「発生予防」「医療事故の発生状況の把握」が 柱で、あとは具体的な問題解決にどうつなげるか、という議論をしていただきました。 本日の初めの部分は、柱の2番目の「発生状況をどう把握するか」ということになって まいります。大きく全国レベルと、個別医療機関レベルと問題を整理していただき、そ こに○でいくつかのポイントをお示しいただきました。  いちばん基本となる、いままでの議論のまとめとしては、医療安全対策を推進する上 で、基礎的な資料として、我が国全体でどの程度の事故が発生しているかを把握する必 要があるのではないか、というご指摘、そういうニーズがあるということは当然であっ たと思います。  ただ、それをどう具体化するかという段階になると、その下の段階の○につながって くるわけです。具体的にどうやって情報を集めるかというときに、まず報告すべき事 例、これは事故をどう決めるかという議論と密接につながるわけですが、限定列挙し て、これとこれとこれについて報告しなさいということで全国的に情報を集める。もう 一つは、抽象的な報告範囲を示して行うということが考えられますが、いずれも一長一 短あり難しい問題を含みます。  前者の、事故を網羅的に列挙するというのは、かなり困難な面があるのではないか、 というご指摘がいくつか出されております。後者では、医療行為は、そもそも侵襲的行 為であるわけで、事故か否かの判断が非常に微妙でありますので、どうしても正確な把 握が困難になるという問題が指摘されてきております。発生状況の統一的な把握のため には、個別の事例にあたって、一定の基準に従って、事故か否かを、新しくできる制度 の中で判定する必要があるのではないか、というご指摘も強く出されました。  もう一つは発想を転換して、各医療機関から情報を集めるのではなくて、諸外国で実 施されているように、診療記録を抽出し、それをチェック分析し、その統計的な処理に よって発生率を算出してはどうか。これは、諸外国で既に行われている例がありますの で、これも一つの考え方であるわけです。  最後に、具体的にどのような方法が考えられるかというのは、発生状況は全国レベル で把握したほうがいい、というところはほぼ一致しているわけですが、具体的な方法の レベルになると、どの案がいいという強い案が固まっているわけではない。まさにご議 論をしていただき、決定していただきたいと思うのです。  そのときには、専門の観点からリアリティのある、実現可能性のあるものを是非ご提 示いただきたい。もちろん、候補としてはここにいくつか示されているわけですが、そ れを踏まえてご議論いただければと思います。以上です。 ○堺部会長  全国レベルの発生状況の把握に関し、いま問題点をご指摘いただきましたので、ご発 言、ご議論をお願いいたします。いま、前田起草委員長から、大きく分けて2つのやり 方があるだろうと。1つ目は、やり方はともかくとして、個々の報告を受けるというこ と。2つ目は、諸外国で行われているような、診療録等の抽出からデータを出す、とい う報告があろう。どちらが我が国に適しているか、ということもこれからご議論いただ くわけですが、長谷川委員から、諸外国の状況については以前にもお話を承りました が、特に欧米諸国では、診療録の抽出はどのように行っていますか。前回と重複すると ころもあろうかと思いますが、ご説明いただけますか。 ○長谷川委員  改編版の資料3です。麻酔とか内視鏡といったケース、あるいは医薬品の副作用とい うようにケースを決めてやる以外に、横断的に調査をするとなると、ランダムサンプル を取って調査する必要があります。  それに関連して、偶然去年12月にWHOで会議がありましたが、それは本研究のため に行ったような会議でした。全国から約20名の専門家が集められ、現在存在するすべて の調査方法についてレビューを出し、その決定点をチェックしました。その結果に基づ いてお話を申し上げております。  後半部分は資料で、いろいろな調査の詳しい方法、それから後ろ向きレビューに関す る詳しい分析。そして、実際に行った例に関するステップ等、後半部分に3つ付けてお ります。前半の4枚の表とまとめ、ということを後ろの3つの資料から抜き出して書き ましたので、それを説明してまいります。  WHOで議論になったのは、大体こういう調査は3ステップある。第1段階は、最初 に問題を明らかにして、国民ないしは医療従事者の意識を喚起するステップ。第2段階 は、現状をきちっと把握し、どういうことが起こっているかを知る。第3段階は、それ をどう改善していくかというステップがある。それぞれ、調査の得意・不得意がある。  2頁の表1は、それをマトリックスで示しております。縦軸は、考え得る限りのあら ゆる調査方法です。右側が何に適するかということです。例えば、認識の喚起だと、一 般的な報告書や、特異な事例のメディア報告だけでも、ある意味では十分ですが、現実 をよく理解するとなってまいりますと、カルテや記録のレビューになります。実際の改 善を目指すとなると、報告制度や既存データを上手に利用しながら分析をしていくステ ップになります。そういうことで、丸を付けてみました。  3頁の表2は、同じく縦軸にさまざまな調査方法が書かれておりまして、右側に決定 時点。調査ですから、正確度、対象、コスト、安全対策への寄与度が微妙に違いますの でそういうリストを作っていますので、参考にしてください。  4頁の表3は、先ほどご指摘のありました疫学調査です。実態を把握するとなると、 例えば専門家やある病院だけでなくて、ある地域ベースでランダムサンプルを取って、 何らかの調査をするという方法しかない。報告となると、どうしても報告する人の閾値 がありますので、サンプルを取ってやらざるを得ないです。  現在のところは、全部で5カ国の入院だけですから、外来の事故はわかっておりませ んが調査をしました。アメリカは2回やっているわけですが、そのリストがここにあり ます。アメリカは、ニューヨークで1回やり、ユタ・コロラドと2回やりました。オー ストラリアは、ニューサウスウエルズ州でパイロット調査と本調査をやっています。 ニュージーランドもパイロット調査と本調査をやっています。  イギリスとデンマークは、パイロット調査で1,000ぐらいのサンプルを取りましたが やめました。どうしてかというと、パイロット調査の結果が非常によく似ていたからで す。実は、この5カ国とも結果がよく似ているのですけれども、よく似ていたので、世 論としてはお金をかけて、手間をかけて本調査をする必要はないということでやめてい ます。  ユタ・コロラドとオーストラリアは、随分値が違います。有害事象の発生率が3%対 16%、これを再検して15%対10%と近付きましたが、これでも少し違います。この違い は、調査目的の違いです。ユタ・コロラドは、訴訟可能性、オーストラリアは予防可能 性を主眼に調査したからと言われています。現在、再度調査方法をすり合わせてやって いるようです。やっている本人が、この間の会議にも出ておりまして、彼の報告による とほとんど一緒だということです。方法論を一緒にすると、ほとんど一緒だったと言っ ていましたが、まだその結果は発表されておりません。  現在、カナダとシンガポールで、パイロット調査が進行中で、数年以内には本調査に 入ると聞いております。オーストラリアは、今後この調査を定期的に繰り返すことによ り、全国の発生頻度をフォローアップしていくことを決めており、近年中に第2回目の 調査に入ると言っていました。  フランスもパイロット調査を行いましたが、いろいろな手法でやってみて、それを比 べるというパイロット調査です。結果に関しては、いまのところ非公開ですが、それに 基づいて全国レベルの調査を開始すると言っていました。  4表は、実際にやるとどのぐらい負担がかかるかということです。どこの国でも、ま ずパイロット調査をやって、数カ所の病院で1,000ぐらいの調査をした後、1年ないし 数年後に本調査に入るというやり方をしております。ニューヨークでは3万やっていま すし、ユタ・コロラドは1万4,000、オーストラリアも1万4,000、ニュージーランドは 6,000で済ませていますが、大体それに見合った費用がかかっている。パイロット調査 だけでも4,000万円ぐらいかかり、本調査では1億円かかっているということです。  1万4,000のカルテが全部来るわけですから、大変な作業です。普通は、最初に看護 婦がスクリーニングした後、最終的に医師などのしかるべき人がレビューするという2 ステップでやっているということです。  まとめてみますと、全世界とも、この課題は大変な関心事です。対策をとるために は、まず実態把握からということで、どこの国でも実施した人に聞くと「是非やったほ うがいいのではないか」と言っています。方法論としては、実態把握という観点からい うと、後ろ向きのカルテレビュー法が国際的標準になっている。しかし、若干過小評価 となる。  フランスで前向きの調査等をやったところ、後ろ向きのほうが、実際にピックアップ されたものよりも少ないということがわかっております。しかも、この調査はすべて入 院ですので、外来の事故はわかっておりません。入院患者の10%、あるいは入院患者の 5〜1%の死亡率というのは、実際よりも低い可能性は大いにあります。後ろ向きレ ビューは、時間、手間、費用が大変かかります。やった人に聞くと、それだけの値打ち があると言うのですけれども、それは社会的判断かと思いますが、大変な手間だとみん なが言っていました。  それをするには、準備、協力、ご支援が必要となります。まず、社会的認知と支援が 必要です。全国の調査をしてみて、国民が関心を持っている、ということから始めたら どうか。オーストラリアの場合には法律的な整備として、カルテレビューアーが知った 事実について法廷から呼び出された場合に、証言せざるを得ないということが生ずる可 能性があります。したがって、証言しなくてもよい、という法律を制定してから始めま した。  当然お金はかかりますし、なんといっても病院の協力を得なければならない。テクニ カルに大変なことですので、カルテをレビューする看護師や医師をトレーニングする必 要があります。こういった準備が必要だということです。以上です。 ○星委員  調査をやった人たちは、「やってよかった」ということで基礎情報を得て、具体的な 施策に活かしたというお話がありました。その具体的なイメージとして、何に、どんな ふうにこの数字なり、この結果が活かされていたのかを具体的に教えてください。 ○長谷川委員  オーストラリアの場合は、半分が公的病院ですので、国が医療過誤の補償金を出す必 要があります。どのぐらいの頻度で発生しているのだろうか、予算の見積りを取るため に、委員会をつくって調査をさせたのですが、結論はデータがないということがわかっ たのです。  ウイルソン教授に発注して行いました。ウイルソン教授は一歩踏み込んで、予防可能 性ということで、どういう事故が、どういうセットアップで起こっていて、どれが予防 可能かを分析しました。その結果を具体的には聞いておりませんが、メイキング・シス テム・セーファーだと思いますが、日本でも去年の4月にできたような総合的な対策が できて、かなり詳しくかなり詳しく、これにはこういうことをしたい、これにはこうし たいということができております。これがこうだ、というリンクは知りませんが、おそ らく政策にも反映しているのだろうと思います。現場の方も読んで参考にしているとい うことを聞きました。 ○堺部会長  それでは、ご議論を頂戴いたします。前回の部会で、事故事例報告情報の活用目的と いうのは、事故の再発防止、発生予防を主目的にすべきということで、委員の方々のご 同意があったと思いますので、この考え方を踏まえて、日本においてどのような情報収 集を全国レベルで行うべきか。長谷川委員から報告のありました後ろ向き、あるいはカ ルテのサーベイという方法も当然あろうかと思います。  それから、これからご議論いただきます、個別の事例収集を行うか、行うとすればど のような方法が望ましいか、この辺についてご意見を頂戴したいと思います。 ○星委員  先ほどの質問と関連するのですが、イギリスとデンマークは結果が一緒だからやめ た、というお話がありましたし、大変な苦労をするということも聞きました。前田委員 のご報告では、この調査が基礎資料として必要だということに異論がないとおっしゃい ました。私は、これに反対する気はありませんけれども、その辺りをもう一回きちんと 議論をしておく必要があるのではないかと思います。  つまり、方法論を決定するに当たっても、あるいはどれだけの資源を投入するのかを 議論するに当たっても、そこから得られるであろうベネフィットがどんなもので、どん なことが期待できるのか。だからやるのだ、というときに比べるものが費用だったり、 手間だったり、これは簡単に言えば元が取れる、というような議論をするためにも、そ こを明確にしておく必要があると思います。これは、前田委員にお伺いするべきことな のかもしれません。 ○前田起草委員長  いまの点は、私の先ほどの報告の仕方が悪かったのだと思います。異論がないと申し 上げたのは、データとして日本全国で医療事故がどれだけ起こっているか、ということ をみんなが知ること自体は異論がないということなのです。それに対して、より精密な ものを知りたいということになると、コストがかかっていくわけです。どの程度のもの までここで決めてやっていくのがいいか、というのはやはりご判断だと思います。  ですから、どんなことがあっても、ともかくコストがかかっても精密な医療情報を集 めることがいいということではないのだと思います。やはり、バランスの問題であろう かと思います。情報を集めた問題を、大きくは切り分けているのですが、前回ご議論い ただきました有効活用、その中身としては再発防止、予防の問題と、ある意味ではどう してもここはつながってこざるを得ない。その大目標に合うような形の情報の集め方、 ということも考えなければいけない。そこも、ある程度視野に入れなければいけない し、もちろんリアリティのあるというのは、コストがかかりすぎるのはリアリティがな いということなのだと思います。  各病院から出していただきやすい、また真実が出てきやすいようにするにはどうなの か。我々法律家は、どうしても法的義務を課せば出てくるだろう、という意識が若干あ ります。特に、私は刑事法ですからそういう意識があるのですが、おそらくそれだけで はなくて、どういう形で集めるのがいいか。また、集めるのは難しいから、先ほど長谷 川委員のお話にありました、カルテなどから見るほうが現実的なのか、その辺は医療側 からの現実を踏まえて教えていただきたいと思います。ただデータを詳しく集めればい い、ということのみが善ではないと申し上げたつもりです。 ○三宅委員  星委員がお話したことと少し共通点があります。ただ数を集めて、何がいくつあった ということをやっても、あまり大きい成果はないのではないかと思います。あくまでも 再発防止と、再発の予防という観点から、いかに情報を集めるか。これは前回も申し上 げましたけれども、情報の集め方としては、医療機関側から集める方法と、患者側から 集める情報と2つあると思います。  医療機関側からは、こういう事故は非常に重要な問題を抱えていますから、こういう ものについては報告してください、という基準を決めたほうが集めやすいのではないか という気がします。一つはそういうものを抑制するといいますか、ドクターサイド、医 療機関に対しても十分注意しなさい、という警告にもなると思っていますが、そういう 集め方と、患者側からは制限しないで情報を集める。その2つが必要なのではないかと 思います。 ○堺部会長  個別医療機関レベルのことは、このすぐ後でかなり詳しくご議論を頂戴します。医療 機関レベルから集めるべきかどうかということをいまご議論いただいたわけですが、長 谷川委員どうぞ。 ○長谷川委員  三宅委員と星委員のご指摘に対して、諸外国の先生方とやり取りしたことがあります のでいくつか申し上げます。全く三宅委員がおっしゃったとおりのことを、オーストラ リアのウイルソン教授も言われてました。基本的ベースラインというのは世界中ほぼ一 緒なので、ある意味ではやってもしようがないかもしれない。しかし、何をしたらいい かということ、あるいはどうしたら予防できるか、ということに焦点を合わせて、質問 項目を少し工夫をしたらいかがか、ということをサジェスチョンいただきました。もし 日本でやるとすれば、デザインの仕方で、そのようなものを浮き彫りにすることは可能 なのか、あるいはそうすべきかということを感じました。  それからコストですけれども、日本は大国ですし、人口1億2,000万人で、世界2位 の経済GNPを持っています。高々人口300万人の、しかも近年非常にお金がないと困 っているニュージーランドさえ6,000万円出してやっている。オーストラリアは約1,800 万人の人口の所が1億円出してやっている。デンマークでも何千万円かかけてやってい る。なんと、人口200万人のシンガポールでもやると言っています。1億円が高いか安 いかというのは、国際的に見るといかがなものでしょうか、というのが私の意見です。 ○川端委員  私は、諸外国でやっているような診療録等を抽出した上の分析、というのはいまの日 本では絶対に必要なのではないかという気がしています。諸外国の例を日本に当てはめ た数字と、日本で医療事故として紛争になり、処理されている例と比べると日本の場合 は非常に少ない。  医師の話を聞いても、大体医療過誤訴訟を起こすのは、日本の社会では相当権利意識 が強い人だけであって、ほとんどのミスは泣き寝入りで処理されているのだ、という話 も聞きます。それが実態なのかどうか、というのは一度確認する必要があると思いま す。  その場合に、全診療機関に報告義務を課して、何件あったということを集める必要が あるかというと、その必要はないのです。サンプル調査をして、これぐらいの事故が起 こっているはずだ。しかし、そのうち実際に紛争になっているのと比べれば、多くは表 沙汰にならないで済まされている。その要因は何なのかというようなこと。あるいは、 それについてこれからどう対応していくのかを考える上でも、そういう調査が要るので はないかと思います。  ただ、ちょっと心配なのは、長谷川委員の資料の7頁から8頁にかけて、後ろ向きカ ルテレビューと、前向きレビューのメリット、デメリットが書いてあります。特に、後 ろ向きカルテレビューを日本でやった場合に、(3)に「すべての情報はカルテから得る ため、カルテの質に左右される」というのが、日本の場合に調査の障害になるのではな いか、という気がどうしてもします。  そうすると、2)の前向きレビューのほうが、フランスでは精度が高かったというこ とが、パイロット調査の結果だったということですので、これをやる必要があるのでは ないか。これを見ると、看護師が毎週1、2回病棟を訪問し、15の基準でスクリーニン グし、というような調査ですから、やるとなると相当大変です。コストは、後ろ向きカ ルテレビューより2〜4割高で済むというのは本当なのかなという気がするのですが、 相当費用もかかるということが障害になるかと思います。  そのコストと、いま日本で本当の意味での医療事故がどれぐらい起こっていて、それ はどういうことをすれば防げるのか、あるいは、それが泣き寝入りで終わっている結果 として、国民全体の医療不信の気分が醸成されている部分があるのではないか。それ を、何らかの形で表につなげていく、というシステムを考えたほうがいいのではないか ということを、これから考える必要があるのではないかということを考え合わせると、 1〜2億円の費用をこの際使っても調査をする価値がある調査ではないかということに なるのではないかと思います。 ○岸委員  私ども素人は、カルテからの抽出というのはイメージとしてわかりづらい。私たちが いま求められているのは、学問的な研究であるとか、疫学的な調査のようなものを私た ちは求められているのではないのだろうと思います。いま、医療現場で何が起きている のか、あるいはどういう環境が事故を引き起こすのか。そういう極めて具体的で、実践 的な分析ができるデータ収集が、いま最も求められているのだろうと思うのです。  川端委員のご意見に反論するようですけれども、カルテから一体何が浮かび上がって くるのだろうか、という疑念があります。いまの日本のカルテに、プロセスを書いてい る先生もいるかもしれませんが、場合によっては結果だけを記しているものも非常に多 いのではないかと思います。カルテであるよりも、匿名性を担保することによって、い ま医療の現場で何が起きているかという真実を吐露していただくほうが、はるかに実効 性があるのではないかと考えます。  その場合にも、限定列挙と抽象的な報告というお話がありましたけれども、限定をか けるのも、これまでいろいろ議論してきましたように難しい問題があろうかと思いま す。抽象的な範囲の中で、これはどれだけ真実性を担保して、また協力してもらえるか にもよりますけれども、抽象的な大ざっぱな枠組みの中で、さまざまに起きている現象 そのものを正直に吐露していただいたほうが、これからの事故防止ということでは意味 があろうかと考えております。 ○樋口(正)委員  岸委員がおっしゃったように、現実に医療事故や医事紛争に携わり、医療者側からコ ピーを全部出していただくと、あまり書かれていないわけです。ですから、レトロスペ クティブにかなりエネルギーを注ぎ込んで調査をしても、それほどの実績といいます か、星委員がおっしゃったように、費用対効果がないような気がします。  かなりの機関では電子カルテが導入されている場合には、少なくともそこからプロス ペクティブにはかなり真実というか、そのプロセスも結果も出ていると思います。もし そういう方法でやるならば、果実が上がる、費用対効果もあるし、かなり真実が出てく るかと思います。  それから、これは次の問題かもしれないのですけれども、実際の事故の実態は、消費 者側からのデータの方が件数に関しては実態を現すのかと思いますので、そのルートも 入れたらどうかと思います。 ○堺部会長  だいぶご議論が煮詰まってきたかと思います。拝聴しておりますと、前向きスタディ は確かに望ましい、ただ、我が国で実際に行うために、どのような体制で行うか。その 費用対効果というようなことも考えなければいけない。それから、個別の医療機関、そ こには当然患者、あるいは家族からの情報も入ろうかと思いますが、そういうものを元 に事故の発生防止に努めよう、ということが大事だというご意見が大勢であったかと思 います。  先に進ませていただきまして、次の「個別医療機関レベル」について、前田委員から ご説明をよろしくお願いいたします。 ○前田起草委員長  3点にまとめて書いてありますが、ポイントは1つ目のところです。この議論が始ま ったところでも強くありました、「国民の側から見た医療機関選択のための情報を提供 する」という問題です。集められたデータをそのまま出すと、医療機関の診療特性、患 者特性の問題がありますので、数だけ出るということは指標として不適切ではないか。  細かいのでここでは落ちておりますけれども、出し方によっては、医療の内容にかか わってくるといいますか、委縮的なことになるとかいろいろなご指摘もあったかと思い ます。「何らかの情報を国民に提供していくべき方向性」というのは、ここも私の申し 上げ様がちょっと悪いのかもしれませんが、異論はないのだと思うのですが出し方、出 す内容に関しては、慎重な検討が要るのではないか、というのがいままでの議論の大勢 ではなかったかと思います。  具体的にその下に2つ挙げられている、「厚生労働研究の中で、医療機関選択に関す る指標を検討したらどうか」というのも、慎重に検討しろという趣旨の一つです。それ から、「国民の医療機関選択に資するためには、日本医療機関評価機構における評価と 情報提供の充実も有用ではないか」というのも、具体的な一つの方法論を示しているの だと思うのです。どういう問題があって、どういう形で情報を出していくのがいいか、 そこのところをご議論いただければと思います。 ○堺部会長  骨子となります最初のところですが、「医療機関の特性なども考えた上で収集すべき であろう」というご意見が出ております。解説は不要と思いますが、もしよろしければ 三宅委員、これはどういう意味なのかご解説をいただければと思います。医療機関にさ まざまな特性があるので、件数だけを単純に比べるのはいかがなものかということで す。 ○三宅委員  それは、おそらくこういう意味だと思います。私どもの病院も、第三次救命救急セン ターをやっていまして、非常に重症の患者も引き受けています。もし、死亡率というこ とを出されると、私どもの病院では亡くなる患者は非常に多いです。そういう1つの指 標で評価するのは非常に難しいということだろうと思います。その医療機関が持ってい るいろいろな特性により、データは変わってくるという意味ではないでしょうか。 ○堺部会長  1番目のところが、個別医療機関レベルの情報収集のいちばんの根幹になるところで すが、どなたかご意見はございますか。 ○樋口(正)委員  医事紛争の場合に、常に個別の数はすぐに出てきます。常に、母数としての診療行為 延数といいますか、その総数を常に考えて、こういうデータを出していただきたいとい う希望を申し上げておきます。 ○岡谷委員  これは、直接的な事故と関係するかどうかわかりませんが、アメリカでは1人の看護 師の担当患者数が、5人になると一般的な手術で受け持っていたのが、6人に増えるこ とによって、術後30日以内に1人の患者が死亡する率が7%上がり8人になると31 %の生命リスクの増加になるというデータがあります。看護師の配置基準は、患者の状 態の指標との兼ね合いで安全な病院かどうかという一つの指標になるのではないかと 思っています。日本には、そういうデータがほとんどないのが残念なところです。 ○梅田委員  件数というものだけにこだわるのではなくて、私ども歯科の場合は診療所がほとんど ないので、病院としては、大学の附属病院のみが存在します。厚生労働省になる前の厚 生省の時代に係官がお見えになり、とにかくインシデントについての報告をしてほし い、という要望がありました。そこで、私どもはすぐに都道府県の会長宛に、その文書 を出しましたところ、ほとんど出ていないという状況です。  これではいけないということで、現在、医療安全対策委員会をつくり、そこでどうい う事例が多いのかを調査しましたが、歯科の場合は非常に少ないようです。しかし、ど んなに些細なことでも報告してもらいたいということで、私どもは、毎月広報と月刊誌 を出しておりますので、その中に一つの事例として、是非報告してほしいということを 記事として掲載しております。  いつも申し上げるとおり、なかなか出していただけないというのが現状です。自分の 恥になるということ。出したことによって紛争になるのではないか、という懸念があり ますので、最初は匿名でもいい、というようなことから始めていきたいと思っておりま す。大きな事例になると新聞報道になりますけれども、我々としては、例えばデンタル 麻酔をして、その後痺れが取れない、というようなことでもいいから報告しろというよ うに、統一した事例集を作り、それから事例を分析するコード化を図りたい、というこ とで現在検討しております。早速それをやって、とにかく集めてみよう。それで、どの ようなものがいちばん多いのかを調べたいと思っております。 ○星委員  国民に情報を提供するということに関して、それは必要ないというつもりはありませ んけれども、それ以前の問題として、例えば死亡率についてのきちんとしたデータがも し出されたとして、その理解を十分にした上で、本当に選択に資するためには、プロ フェッショナルといいますか、こういうものをよく知った人の助言というものが、どっ ちにしても多分必要であろうと思うのです。  我々がいつも主張しているように、かかりつけ医の機能の一つには、それぞれ出され た病院のいろいろなデータを我々が解釈し、その患者の特性に合った医療機関を紹介す る、というのは一般的にいまもされていることです。それを、客観的に数として出すこ とが必要なのだ、それを国民に提示すれば、国民はすべて理解をした上で、自分に適切 な医療機関を自分自らすべて選べるようになるのだというためには、それこそここに書 いてあるような合理的な指標を可能にするとすれば、相当の苦労が必要だと思います。  いきなりここに行くことを目指していくのか、あるいは医療従事者間、これは医師同 士だといろいろなことを言われますが、しかしながらプロとして理解できるような言葉 で、お互いにお互いの状況を知り得るような、そんな情報の提供が前段にないと、どう も違和感がある。その数字を見ると、Aという病院がいいのだ。自分がどんな病気で も、どんな状態でも、Aという病院のほうが良い病院だからといって、Aという病院に 集まるような指標がもしあるのだとすれば、それは相当のものでしょうし、多分そんな ものは存在しないのではないかと思っています。 ○井上委員  星委員と似たような意見なのですけれども、先ほど長谷川委員が言われた、パイロッ トスタディとかカルテレビユーのところで、「社会的認知と支援」ということがありま した。そういうものが患者側だけではなく、医療関係者側にも醸成されていないと、本 質論で次の事故防止のために有効活用し、再発防止をするのだ、というインセンティブ がどちら側にもきれいに醸成されていないと、困る訳です。  不明確な指標が出てきて、社会的な背景、患者側も医療関係者も、それを防止するの だ、その指標を用いて防止していくのだといううわついた話ではなく、公平性が保たれ た指標が醸成されていない限り、非常に危険なことが起こってしまうような気がいたし ます。  私どもも、いままでにいくつか医療事故を経験していますが、そういうことがあるの ではないかと思います。まず、社会的な認知と理解を、患者側にも、当然医療関係者に も得る必要があるのではないかという気がしてしようがないのです。 ○黒田委員  安全だとか危険というものをディスカッションしていくときに、いちばん大切なもの は相互に比較のできるような定量化だと思うのです。ほかの産業と比べて、医療関係で は安全ということを言っているのだけれども、数値的な発想がすごく少ないのです。そ れは先ほどお話がありましたヒヤリ・ハットなりを含めて、「安全というのは許容限度 を超えていないと考えられる危険性である」という定義がありまして、どこに許容限度 を持つのですか、ということが非常に大事だと思います。  それには病気の種類もあるでしょうし、医療過誤の問題もあるでしょうし、なかなか 複雑に絡み合っていると思うのです。どのぐらい安全なら安全と言えるのですかという 質問に対して、いま医療関係は答えられないのだと思うのです。そのためには、決して 正確に、航空機事故は100万回に1件いくら、というような数値はおそらく出てこないの だろうと思うのです。何か半定量的でもいいので定量化の努力が必要と思います。  そういう方向性を持って、データを集めていくということです。それは、一つのイベ ント・ベースド・メディスンになるのだろうと思うのです。そういうことの狙いを持ち ながら、少し定量化をしていく方法の努力をいまの段階ではしていくべきではないかと いう感じがいたします。 ○堺部会長  許容範囲、あるいは定量化について医療機関、あるいは法律のどちらの立場の方でも 結構ですがご意見はございますか。 ○川端委員  弁護士についても、良い弁護士の基準、勝訴率だというような単純な話がすぐ出てき て、そんなことはないというのはよくわかるのです。実際問題として、何らかベースに なるものが出ないと、結局は噂話のレベルでいってしまうことになります。この合理的 な指標が開発できるのかと言われると、難しいだろうなという気がいたします。その基 礎となるデータが、もっと率直にどんどん公開されていく中で、そういう意味で単なる 噂話や印象ではないレベルの安全性の指標が育っていくのではないか。  最近は心臓病で年間300例以上手術している所、それ以外を差別する、というような ことが行われていますけれども、それは一つの合理性のあるやり方だったのではない か。同じようなことが、いろいろな病気について言えるのだとすれば、数字だけですぐ 判断されるというのは、非常に非合理な結果を生むと言われるのはそのとおりで、それ は私も弁護士の評価制度を考えた場合に、どうしようかということを考えれば難しいと いうことはわかります。  ベースになるデータがなければ、いつまで経っても印象や噂話でいくしかないという ことになってしまうわけです。そういうものの広い情報公開が必要なのではないかと思 います。 ○前田起草委員長  基本的に非常に難しい問題で、情報提供をしていく方向では一致していても、時間を かけて具体的な指標を作っていかなければいけないというのはよくわかりました。この 議論の出発点には、数のレベルにいく前に、「あの医者はあれだけ同じ事故を繰り返し ている、という情報が入っていれば、私の娘があそこにかかって死ぬことはなかったの だ」みたいな議論があるわけです。これは非科学的で、まさに噂話のレベルであるとい えばそうなのですが、いま国民が求めている医療機関に関しての情報の中の、少なくと もプリミティブなと言ってしまうと、またちょっと僭越なのですがあると思うのです。  そういうものに対して、真摯に答えていくという意思を持った上で、合理的な基準を 考えていくということでないと、基準を作るのは難しいというのはそのとおりなのです が、国民のために情報を出していく、という方向で考えていくことがお願いしたい、と いうのが法律家の考え方です。全体として患者の側からいろいろな文書などが出てくる 背景には、そういうレベルのものもあるので、それにはどう答えるのがリーズナブルで 合理的なのか。  おそらく今回の案の中で、具体的にこういう基準を作る、というようなものは出てこ ないのだと思います。ただ、新しくできていく第三者機関の大きな仕事の一つとして、 情報を出していく基準を作っていく作業みたいなものも入り込んでくるのではないかと いうことも期待されていくのではないかと感じています。 ○樋口(正)委員  黒田委員がおっしゃったことは、私も安全学会などを注目してデータを集めていま す。先ほども申し上げましたが、昨日もインフルエンザで死亡という記事がありまし た。あの中に、何本インフルエンザの予防注射をやったか、ということが書いてないの です。私は、そういうことを申し上げたいのです。それがないから、いかにもインフル エンザの予防接種が非常に危険みたいに、一般社会は受け取るわけです。  ところが、それを何百万とやっていると、黒田委員がおっしゃったように、例えば 100万分の1の現象ならば、これは安全というよりしようがない、という認識が出てく ると思うのです。ただ一つの事例をピックアップしてPRすると、いかにもインフルエ ンザの予防接種は危険だと、多分昨日の新聞で社会一般に広まったと思います。そうい うことがあるので、いま前田委員がおっしゃったように、事故事例の情報と共に、医療 行為対発生率みたいなものも一緒に集めていけば、インシデントやアクシデントが。こ の機能評価にもあるかもしれませんが、事故がなくても例えばこの病院では、心臓の手 術を何例やったとか、予防接種を何本やったというデータをすべて出していただけれ ば、ある行為に対して事故がどのくらい発生するかということのサブデータにできると 思います。  先ほど黒田委員がおっしゃったように、例えばある行為が10万分の1の事象で、社会 一般に認められるならば、それは安全としていいのではないかというようなことも認識 されれば、1個の事例が発生したから、これは危険だという社会的な認識は、支援がで きてくると思うのです。ですから事故事例だけでなく、ある医療行為をどのくらいやっ ているかということも、併せて報告すると。それは結構簡単に集まるのではないかと思 いますので、それを提案したいと思います。 ○井上委員  基本的に事故情報の開示については、異存はありません。ただ、いま前田委員が言わ れた情報の出し方のところは、かなり考えなければいけないだろうと思います。そうい うものを出していくときに、社会がどう受け入れていくのか、医療関係者がどう受け入 れていくのかというものの出し方は、大変重要なところになってくるのではないでしょ うか。そうでなければ、単なる噂話で終わってしまいます。いま樋口委員が言われたよ うに、インフルエンザの予防接種をすることによって、インフルエンザにかかって高齢 者やお子さんが死なない社会的利益というのもあるわけですから、その両方をちゃんと 併記しないと。医療というのは、そこら辺が他産業の事故などと違って、難しいところ なのだろうと思います。基本的に出していくというのは、いまの世の中の流れだし、公 開はしていかなければいけないものだと私は思っております。 ○堺部会長  ご議論は、ほぼ1つの流れになってきているように考えます。それでは個別医療機関 レベルで指標の開発、あるいはデータの収集ということですが、厚生科学研究の中で指 標の開発をすべきだと。研究開発というのは、常に行わなければいけないだろうと思い ますが、もう一つ、ここに財団法人日本医療機能評価機構という名前が挙がっておりま す。おそらくこのほかにも現在の日本においては、情報収集に資するデータをお持ちで ある可能性のあるところはあろうと思われます。必ずしも具体的な名称はお挙げいただ かなくてもよろしいのですが、このようなところからもデータは集められるのではない かというご提言がありましたら、またご議論いただくことにいたします。  では先に進ませていただきます。次は、3の「個々の事故事例への対応」についてで す。これには(1)と(2)がありますので、分けて議論していただきたいと思いま す。まずは(1)について前田委員、ご説明をお願いします。 ○前田起草委員長  前回のご議論でも、はっきり分けておきました。やはり再発予防、発生予防という観 点を中心に、情報を集めることを前提にするわけですが、1つのシステムの中にこれを 全部組み込むという趣旨では、必ずしもありません。ここで議論していく中で、患者・ 家族からの苦情等の円満・迅速な解決という視点は、必要であろうというご意見自体、 おそらく否定的なご意見はなかったと思います。しかし、これも全部一緒くたにした1 つの機関でやることに関しては、強いご批判があったかと思います。1番目はそのこと です。「個々の事故事例への対応」として、「患者・家族からの苦情等の円満・迅速な 解決を図る必要があるのではないか」ということ自体、好ましいことであろうと思いま す。個々の事例については、直接的な患者・家族等からの情報に基づいて対応する必要 があろうと。  またより具体的な議論として1つ出されているのは、この問題の解決のためには、平 成15年度から創設される医療安全相談センターの機能の充実で対応することが、現実的 ではないかというご指摘がありました。こういうことも含めて、患者・家族のご不満を 言っていただき、それを聞くことの上に、さらに新たなセンターなり何になるかは別と して、情報提供を行っているあり方として、どのようなものが考えられるかという問題 提起もあったかと思います。以上が(1)の部分の説明です。 ○星委員  先ほど川端委員もたまたまおっしゃっていたのですが、もし事故が発生しているの に、それが泣き寝入りになっていて裁判にならない、あるいは紛争にならない、そのこ と自体がけしからんことだという発想から始まるのであれば、私はまた違う展開がある のだろうと思います。しかし私は、必ずしもそうではないだろうと思っています。事故 事例があった場合、もちろんそれには故意がないことが前提なのでしょうけれど、それ らが紛争、あるいは訴訟に致らずとも、すべての事故に対し、解決のために何らかの措 置が取られるべきだという考え方なのでしょうか。先ほど、どこまで容認できるかとい うレベルのお話がありましたが、容認できるレベルのものについて、患者さんも納得さ れ、ご家族も納得され、確かに事故だけれど、紛争には発展しない、あるいは問題には ならないということもあってよろしいと。つまりそういうものも1つの解決方法だと考 えて、これからの議論を進めていくのでしょうか。  私は、いま私が申し上げた後者のほうだと思いますが、そうではなく、一般の意識 が、事故が起こったものはすべからく補償の対象にすべきだ、それはよく裁判で言うと ころの、有責無責を問わないのだという発想の物事の進め方なのか、あるいは単にお互 いにいろいろな情報がうまく交換できなかったことを支援するために、個々の事例につ いての「円満な解決」というのは、そういうものを指すのだというように意識するの か、一体どっちなのでしょうか。 ○堺部会長  ここでもう一度申し上げておきたいと思います。この検討部会の主たる目的は何だろ うかということを、前回議論いたしました。この事故事例情報の活用というのは、事故 の再発防止、発生予防を主目的とするということで、皆様の合意がありました。ですか ら、これを踏まえてご議論を頂戴したいと思います。 ○川端委員  いまの御意見を聞いていて、私の先ほどの発言が誤解を招いたような感じがいたしま した。私は何も泣き寝入りになっているものを、全部掘り起こせと言っているわけでは ないのです。おそらく医師の側に過失があったという事例が、医師と患者の関係の中で お互いに納得し合って、患者としてそれを受容するという関係が成立していれば、何の 問題もないわけです。それは当たり前のことです。ただ、そのようになっていれば、今 のように国民の間に医療不信が広まるような結果になったでしょうか。「泣き寝入り」 という表現を選択せざるを得ない何らかの制度的障害があることを、意味しているので はないかと思います。  もちろん実際には事故は全然少なくて、本当は医療不信をそんなに持つ必要もないと いうことになるのかもしれませんが、それは調査してみなければわからないでしょう。 したがってサンプル調査は要るのではないですか、ということを申し上げたのです。逆 に言うと、個々の患者さんが当該医療機関内におけるケアによって十分納得し、満足す るという状況であればいいのですが、そうでない場合にどうするのかという問題が、ま さにいま議論しようとしている問題ではないかと思います。我々が医療事故を扱って、 いろいろな人と話すという関係から言うと、そのアクセスのルートをできるだけ広く開 けておく必要があるのではないかと、私は思います。 ○樋口(正)委員  私も実際に現場で紛争解決に当たりますと、事故がなくても紛争はありますし、あっ ても紛争にならないのもあります。要するにメディエーション、アビトレーション、リ ティゲーションというレベルで解決されていると思います。事故事例情報を医療者側か らだけ出しても、こちらが事故と思わなくても患者さんが事故と思っているものもあり ますから、患者さん側からの事故事例情報も集めて、いわゆるメディエーションレベル で解決できれば、それで良いわけです。アビトレーションになって、リティゲーション まで上がってしまえば、紛争になって裁判になりますが、Mの段階で解決される事例も 結構あります。  そういう意味で、解決には両方から集めていくと。医業者側が事故事例と思っても、 紛争にならない場合もありますし、逆の場合もあるわけで、事故事例情報というものは 意味があるのではないかと思います。いま星委員がおっしゃったように、必ずしも裁判 目的ではなくで、事故はもちろんないほうがいいわけですが、私の立場からいけば、紛 争がないのがいちばんいいと思いますので、紛争解決に役立つのではないかと思いま す。 ○前田起草委員長  この案を起草した側から、若干補足的にご説明申し上げたいと思います。これは星先 生がおっしゃったことと、必ずしも矛盾と言いますか、ぶつかるものとは考えなかった のです。要するに患者・家族の方が、まずこういう機関に不満を受けとめてもらえると いうことが、むしろ和解的なものに資すると思うのです。私などは七・三でそちらのほ うが大きいシステムだろうと思っています。制度設計をする中で、いろいろな考え方が ありますが、私はやはり日本的というか、アメリカ型の紛争社会より、日本的な和解の 世界のほうが合理的だという考え方をしている人間ですから、個人的な意見はそうで す。ただ起草した側としては、どちらにも傾きません。  ただ決して紛争しやすくする、訴訟をしやすくするための手助け組織という意識で は、全くなかったと思います。まずは患者・家族からの苦情を受けとめる場があるとい うことは、むしろそこでかなりの紛争解決機能を持てるのではないかということです。 私はこの部会に出させていただいて、辻本先生のご発言などを聞いて、勉強させていた だいたのですが、そういうものとしても可能なので、こういうものをつくってはどうか ということで出させていただいたということを、補足させていただきます。 ○辻本委員  この患者・家族からの苦情の受付機関の役割が何であるか、解決するのか、それとも 患者自身が成熟の道をたどって、自立できるような支援をする機関なのか、それによっ て随分違ってくると思います。いま私たち患者は、医療事故や医療ミスがこれだけ多く 発生する中で、医療が完璧でないことを学習し始めました。ところが新聞の社会面など の報道では、不安だけを高めている。なぜそうなるのか、そこが知りたいのです。そこ を知って、なお自分がその状況に置かれたときに、不安であり疑問である部分を、医療 者とどう解決していくかという主人公になれるか、そのためには何の情報が必要なのか といったことをアドバイスする、そういう支援活動のほうが、私は実際的ではないのか と思っています。解決してあげるということは、私はこの機関では無理だと考えていま す。 ○岸委員  「解決」という言葉の使い方ですが、おそらく認識は、前田先生もおっしゃっている ように、いわゆるストレートに一般的な意味での解決ではないだろうと思います。実際 問題、医事紛争を解決すると言えば、どちらかにジャッジメントするというように受け とめられると思うのです。少なくとも司法の場ではないはずですから、ジャッジメント を下すということでないとすれば、私は「解決」という言葉は、あまり適切ではないと 思います。先ほどおっしゃったように受けとめる、あるいは情報収集の場である、情報 収集の窓口であるという認識です。そのときに患者さんの訴えを少し整理立てて考えて あげる。どこがいちばん問題だと思っていらっしゃるのか、どこで医療機関との齟齬が 生じたのかということを整理してあげること、そしてそれをそのまま1つのデータとし て蓄積していくことが、私は患者にとっても医療機関側にとっても、非常にメリットが あると思います。  ちょっと付言させていただきますと、これまで私たちは単純に「医療事故」という言 葉を使ってきました。しかし、「医療事故とは何ですか」と問われた場合、さらにもう 1回別の委員会が必要になるのではないかというぐらい、なかなか難しいものなので す。私はこの際、「医療事故」と言うのではなく、広く「医事紛争」と言ったほうが、 逆にいいのではないかと思います。つまり医事紛争そのものが、いま私たちが問題にし ている医療事故なのだと。それは解決するものではなく、医事紛争というものは一体ど こから生じるのかというように、もっと広義で私たちもとらえれば、自ずから何となく システムが見えてくるのかなという気がしております。 ○堺部会長  ここは岸委員にお尋ねしたいのです。この部会の目的は事故の再発防止、発生予防で すが、ただいまのご意見は、事故の再発防止ではなく、紛争の再発防止というようにお 考えですか。 ○岸委員  いや、そうではありません。実際問題として医療事故をなくしたいというのは、もち ろんそうですが、これまでずっと議論を重ねてきておりますと、事故とは何なのかとい う点では先に進まない。これは事故だと明々白々に医療機関側も認める事故は、当然あ ります。患者側も当然医療事故の被害者であるという認識を持っているケースと、非常 に曖昧で、線引きの難しいケースが、現場には大きく横たわっているのではないでしょ うか。多分、その問題を抜きにして、これは語れないのだろうと思います。そうである なら医療事故というのは医事紛争に近いような、もっと広い概念でとらえて、それも併 せて情報収集していく中で、いろいろな問題が見えてくるのではないだろうかというこ とを申し上げたのです。おそらくそういうことを包括的にやっていかないと、限定をか けようとすると、非常に無理があるのではないかと申し上げたのです。 ○岡谷委員  ちょっと分からないので、お聞きしたいことがあります。「個々の事故事例への対応 」として、「苦情等の円満・迅速な解決を図る」ということですね。例えば医療安全相 談センターは、参考資料5の図でいきますと、相談センターと医療機関や地域医師会等 についての情報提供と、連絡調整ということですが、例えば患者さんや家族からいろい ろな苦情などが上がってきて、その苦情や患者さんの訴えの中に事故の再発予防とか、 患者側から見て非常に具体的な解決策がヒントとして出てきたときに、それを受けてセ ンターは医療機関に対し、そういう情報を提供するだけなのか、あるいは強制的に何か 言ったりしたりすることができるのか。いわゆる先ほどの解決です。ただ話を聞くだけ で終わるのか、解決というところにどう持っていくのかというところが、はっきりしな い以上、患者さんはそこに訴えてもただ話を聞いてもらったというだけで、本当に満足 できるのかどうかというのがあるのではないかと思います。 ○堺部会長  参考資料5の医療安全相談センターは、来年度以降、国全体の仕組みとして立ち上が ってくるというように聞いております。まだこれから始まるわけですから、一気に完全 なものが出来るわけはないのですが、この参考資料5の仕組みが、これからどのような 形で立ち上がっていくのかというご説明を、事務局からお願いします。 ○新木室長  この相談体制は平成15年度から始めるべく、現在詳細かつ具体的な仕組みを検討して いるところですので、これでという詳細なところまで、具体的に詰まっている状況では ありません。ただ、いまの岡谷委員のご質問の点に関しては、このように考えておりま す。この医療相談窓口の目的そのものが、患者の苦情や相談に迅速に対応して、医療機 関へ情報を提供したり、必要な助言指導等を実施したりするということです。また医療 機関に患者の苦情の情報を提供することを通じて、医療機関の患者サービスを向上させ るということを目的としておりますので、患者から来た苦情の情報を、その事例として 解決すると共に、それを活かして再発を防止していく。そのために必要な対応をしてい くことは、当然当初から考えられているところです。  その具体的な方法をどういうようにしていくのか、言葉として情報提供ということな のか、「助言」などという言葉を含んでくるのかというところは、いろいろあろうかと 思います。いずれにしてもその事例を、当事者となった医療機関は当然ですが、そのほ かの医療機関にも共有できるようにしていきます。そういう意味では情報をそこで解決 すると同時に、共有する窓口となる機能も当然のことながら、この相談センターは期待 されております。また各都道府県で行われる相談の事例を、都道府県を越えて共有して いくことにより、全国の医療機関で、または行政で共有していくという体制にすべきで あると思っております。 ○岡谷委員  どのくらいの権限が、こういうセンターにあるのかということは、議論していかなけ ればいけないと思います。私は精神科の看護師ですが、精神科は医師の数が非常に少な いわけです。日常の診療の中でも、なかなか医師がいない。それによって患者さんがう まく治療されないことがあるわけです。医療監査で指摘されても、そこはなかなか改善 されないままという現実があります。 ○星委員  私は岡谷委員のご意見に、反対と言えば反対の立場です。この絵にもあるように、現 実に医療機関にも相談の窓口が既にあって、十分ではないかもしれないけれど、機能し ていると私は思います。地区医師会での相談窓口のそもそもは、診療に関する相談の窓 口ではなく、診療情報の開示、提供に関する相談窓口ということで開設したのですが、 現実には医療相談、あるいは苦情受付けをやりました。  たまたまここに樋口先生に持ってきていただきましたが、全国で集められた事例を、 すべての会員が共有できるように配布するという努力もしています。それは先ほどのお 話にあった、紛争の解決云々ということは、やはり相談に乗る側のキャパシティの問題 もありますから、なかなか難しい。しかしこういう苦情があったのですということを、 医療者が知らないまま過ぎてしまうことは悪だろうと思います。こういう苦情があるの ですよということを知らされて、自分は気が付かなかったけれど、こういうところが不 満だったのか、こういうところを事故だとか、問題だとされたのかということに気付 く。そしてお互いに歩み寄ってその解決を目指す。それが駄目なら、もちろん訴訟とい うこともあるのかもしれません。  ですから、そういうことを支援する事業の延長線上に、行政という窓口もあったらい いのではないか。つまりその医療機関で起こったことを、医療機関に相談するのはなか なか気が引けます。あるいは医師会というのもお医者さんの集まりだから、仲間同士で はないかと。では同じような枠組みの中で、行政なら聞いてくれるかもしれないと。し かし結果として大切なのは、やはり私は当事者同士の議論だろう、あるいは歩み寄りだ ろうと思います。それで解決しない問題は、個別に出る所に出るというのが、私は必要 だろうと思っています。ですから何かの権限をこういう相談窓口に与えるというのは、 むしろ非常に問題が多いのではないかと、私自身思います。  行政機関がそういう窓口を開いて、医師会や病院の窓口とお互いのいろいろな情報交 換ができるようになって、自分のところにはなかったけれど、隣の病院ではこういう問 題がある、あるいは知らない所の地区では、こういう問題が患者さんの苦情として寄せ られているのだということを、医療者が知ることは、大変重要なことです。そのために この窓口が機能することは、私も期待しております。 ○梅田委員  歯科医師会も郡市区を通して、相談窓口を設けました。お聞きになった方もあろうと 思いますが、かつて「歯の110番」というのがありまして、それが相談窓口、あるい は医療安全の受付口となっております。これは郡市区で上がったものが、今度は都道府 県に。都道府県でどうしても解決しなかったものが日本歯科医師会に上がってくるとい う仕組みになっております。ですから全く医師会と同じようなことでやっているわけで す。例えば今度の医療安全相談センターとどうリンクしていくのかということも、お聞 きしたいのです。  1つの例でいいますと、ある患者さんが警察に行ったところ、警察署と連絡が取れて いるかどうかは分かりませんが、「それは歯科医師会に行け」ということで、地区の歯 科医師会に上がってきた。地区歯科医師会ではその患者さんの苦情を十分聞き、また、 会員の先生方の意見も十分聴取し、会が第三者として中に入り解決したという例があり ます。いまは東京都歯科医師会でも、そういう事例集を作っております。ただ全国的に そういう事例集があるかどうかは、私のほうではまだ把握しておりませんが、やはり全 国的にもそういうものを作ると。こういう苦情があるのだから、こういう苦情のないよ うにインフォームドコンセントをしっかりやれというのが、会員を指導していく上にも 必要ではないかと思います。  医療安全相談センターができたときに、各郡市区、医師会、あるいは歯科医師会にあ る相談窓口とどうリンクするのかということも、お考えいただきたいと思います。それ で今まで解決している例がたくさんありますが、どうしても解決しない例は、弁護士さ んにお願いするケースもあります。 ○新木室長  たくさんのいろいろな相談が医療安全相談センターにも、またここに書いてあります ように、医療機関や地域のさまざまな団体にも来るのではないかと思います。その際、 ものによると思いますが、地域医師会等と連携を取ったほうがいいものについては、当 然そこに取ります。すなわち会員全体でその問題に当たっていただくことが必要なもの については、当然そこで情報提供と言いますか、連絡・連携を調整して果たしていくべ きと考えております。したがってこういう仕組みを点でなく、面で地域で対応するとい うことで、みんなが取り組むような体制になるのではないかと思っております。 ○井上委員  この話がいちばん最初に出たときは、東京都の消費生活センターを想定されていたよ うですし、この部会でも、そういうものを想定されていたと思います。ここに書いてあ る「解決」という言葉は、前田先生は判決に対して、何かやんわりと地域のネットワー クで解決していくという意味で書かれたのだろうと思うのです。ですから、そこら辺に ちょっと誤解があったのかと思います。事務局のお考えはどうですか。 ○新木室長  起草委員会でお作りいただいた原案ですので、事務局があまり差し出がましいことを 申し上げるのもと思いますが、そもそもこの窓口について言いますと、東京都で平成13 年度から行っている、「患者の声相談窓口」を参考にして進めたいと考えております。 ですから裁判所のようにスパッと結論を出すようなものではないということで、この窓 口を運営していきます。また誤解を与えるような言葉でしたら、そういうものを引いた 表題としてどういうものが良いのか、これはまた引き続き起草委員会、検討部会でご議 論いただき、何か良い言葉に変えていく必要があるのではないかと、事務局としては 思っております。 ○前田起草委員長  全くそのとおりです。私のニュアンスでは、解決というのは判決とは全然違うので す。解決はやんわり終わることのほうが、むしろ意味があるのです。お互いに納得し合 ったということでもいいのですが、解決するというのは、終わったということだけを意 味したつもりなのです。ただ言葉がそういうように取られてしまったのは申し訳ござい ません。ただ趣旨は、いろいろな可能性を含んで、1つの方向に固めてということでは 絶対にありません。 ○辻本委員  「解決」という言葉のこだわりについて、議論を深めていただいて、大変うれしいの ですが、ある意味では今おっしゃった、納得だと思います。その納得の基準というの が、また1人ひとりみんな違うので、その人がどう納得できるか、そこをどうサポート するかです。私どもが13年間電話相談をしてきて、相談者の納得にならない部分という のが、「直接COMLが病院と交渉してくれるわけではないのですか」という部分と、 「お宅はお医者さんではないのですか」というこの2点なのです。 例えば私どもへの 相談で「医療事故なんです」「医療ミスなんです」といきなりおっしゃる人がいます。 それでいろいろ聞いていくと、要はインフォームドコンセント不足ということが浮かん できます。ところが専門的なレベルの高い情報だと、いくら医療現場が説明していて も、理解できていません。そこをどうサポートするかです。また今度は精一杯説明して くださっても、対立意識の中では言い訳としか聞けないということで、冷静さを欠いて しまっています。  それが相談機関という第三者機関の中で冷静に話し合える中で、本来のご自分という ものを、かなり取り戻していく作業があるのですが、そのときにやはり第三の専門の意 見、教科書レベルの情報でもいいから、この問題については何が問題だというような専 門家の意見が聞きたいと。これはニーズとしては、かなり高くなってきていると思いま す。そして、もう一つの連絡調整ということでお話があった部分が、まさしく私どもが いま出来ていない部分、ではそのことを病院にお伝えしますという作業の部分だと思う のです。これをもっともっと具体的にシステム化していく。あるいは権限と限界という ことを明らかにしていくことで、ここでの役割はかなり浮かんでくると、私は思ってお ります。 ○堺部会長  3.個々の事故事例への対応についての(1)の4番目の○印に、「患者・家族への 情報提供のあり方について、どのように考えるか」というのがあります。医療機関、医 療関係者、あるいは行政に対する情報提供というのは、いろいろあるわけですが、患者 ・家族への情報提供というのは、もしかすると国民全員という意味なのかもしれません が、これらについて、もしご意見がありましたら、今日承っておきたいと思います。ど なたか、いかがでしょうか。 ○岡谷委員  これは1つの例です。話をしていてインフォームドコンセント不足だったことが、か なり分かってきたという話が先ほどありましたが、やはり専門的な用語を使っていろい ろ説明されても、患者さんには十分伝わらないことはたくさんあるのです。私の友人は 患者さんと医者との間の調整をケアサービスとしてやっております。患者や家族の了解 を得て、診察のときに一緒に付き添って行って、そこで医師が説明することを患者さん が本当にきちんと理解できるかどうかを判断し、医師の説明をわかりやすく話したり患 者のいいたいことを伝えたりします。それは医師からも患者からも非常に有効で、お互 いに専門的なものを非常にわかりやすい一般の言葉で、患者さんにわかってもらうよう なことをやっている看護師がおります。そういった役割が取れるような人を配置してい くということも、1つの有効な手段ではないかと思います。 ○前田起草委員長  私はそこの形容の仕方を知らなかったのですが、先ほどのご説明の中に、消費相談セ ンターとの関連性があるというようなご指摘がありましたね。私は法律の人間として消 費者保護というか、我々はどうしても詐欺の問題の側からアプローチするのですが、そ のときに都の消費相談センターから相談された最大のポイントは、都民にどういう情報 を出すかなのです。先ほどの議論にも繋がりますが、この店でこういうものが出たとい う実名を出すのは、店がつぶれることを意味するので、実名公表というのはものすごく 慎重なのです。ですから先ほどの医療情報について、あの病院では何が出たということ も、本当に難しい問題を含んでいるのですが、そういう中でいろいろなレベルで、国民 に情報を流していかなければいけません。  こういう商品がこういう問題を起こしていますという、商品危険情報を出していくの も、やはりいろいろな基準を作って、こういうものがこの程度あったら、こういう情報 を出そうと。何も消費者センターが常にモデルになるわけではないと思いますが、そう いう形で国民にデータを与えていく、基準を作っていくと。しかも医療安全センターと いうのは、これから出来るものですから、いまの段階で形をきちんと決めるのはどうか と思います。  また、この上に国民生活センターというのがありますよね。私などのイメージだと、 今度できる第三者機関というのは、国民医療安全センターみたいなもので、それと地方 にできる医療安全センターとの非常にいい関係、緊張関係と協力関係とを踏まえたもの ですね。医療の安全というのは、ある意味で消費者保護以上に大事な問題ですので、そ このところでお互いのメリットをうまく活かしながら作っていただければと思います。 危険情報とか、いろいろな情報の流し方はあるけれど、非常に慎重にやっているという ことだけは申し上げたいと思います。 ○黒田委員  ほかの産業の例を引いて申し訳ありませんが、この問題に関しては、もうリスクコ ミュニケーションという学問があるのです。それでいま一生懸命やっているのが、例え ば原子力や化学プラントなどで、既に有害物を持っているわけです。そういうものが一 般の社会の方々との間に、どうコミュニケートしていくかという1つのルールがありま す。それはまた前の話に戻りますが、一体リスクとはどのぐらいのところに線を引くか ということを手掛かりに、一般の方々との間でリスクを語り合う方法論があるわけで す。こういうことは日本ではあまり注目されておりませんが、大変大事なことだと思い ますので、是非とも患者さん方とのお話のところに、そういうルールを勉強されて適用 されると、大変いいなという感じがいたします。 ○堺部会長  それでは1つ前の前田委員のご発言と関連いたしますが、最後の項目に移らせていた だきます。「事故を起こした医療機関、医療従事者に対する対応」について、前田委 員、ご報告をお願いします。 ○前田起草委員長  この制度の基本は再発予防ですが、その実現のためには、新しくできるシステムが医 療機関に対して、医療安全対策の徹底ないし指導等ができなければいけないというの は、やはり当然と言えば当然のことだと思います。それとはちょっと違う意味かもしれ ませんが、今後も医療機関に対し、安全対策を徹底指導していかなければいけません。 この指摘はほぼ異論のないところではないかと思います。もちろん指導の仕方によって は、あまりにも強権的なものになれば、それはそれなりの問題が出てきますので、どう いう形での指導かという、手続きやあり方の問題は出てくると思います。  ただもっと議論があるのは、事故を起こした医療従事者に対しての対応の問題です。 これに関しては全体の制度設計の中でも、この問題がどうしても情報収集の問題と結び 付いて議論され、情報を出すことによって処分に繋がるのではないかというご懸念が、 かなりあったところです。また全く新しい制度になっても、なくなるかどうかという問 題が残らないわけでもないと思いますが、一応ここで議論している何らかの対応という のは、情報を収集したり分析したりした機関が、必ずしも直接何らかの対応をするとい う必要は必ずしもないということをお含みいただきたいと思います。ただ広い意味で事 故を起こした医療従事者に対しては、何らかの対応が必要ではないかと。これは、むし ろこの会の外になるのかもしれませんが、医道審の問題などに繋がってくるのかもしれ ないと思います。  それとある意味では同じレベルなのかもしれませんが、医師会、その他医療関係団体 の自淨作用に期待すべきであろうという強いご指摘がありました。そろそろ具体的にど ういう作用なのか、どういうシステムで何をやっていただくかというのが、もう一歩具 体的な話になっていく段階なのかなという気がします。 ○堺部会長  では、医療機関の方々からのご意見を頂戴したいと思いますが、それに先立ち、全体 の総括的なご意見を、できれば法律のお立場から伺いたいと思います。児玉委員、いか がでしょうか。 ○児玉委員  医療機関側で、事故を起こした医療機関や医療従事者は、直ちに処罰の対象だという 意見に同意するのは、おそらく非常に難しいのではないかと思います。昨今から再三ご 指摘のある、例えばリピーターの問題等。もちろん対応しなくてはいけないというの は、間違いないところだろうと思います。ただ問題は、どこで誰がどういう対応をする かです。またこの部会の中で医療の安全対策を行うために、情報を収集し、発信してい こうとする新しい機関を作るに当たって、その機関が同時に医療従事者、あるいは医療 機関に対する処罰を行うのかというと、なかなか難しい問題が出てくるわけです。  先般、私もこの部会でお話させていただく中で、少なくとも情報を出すことを強制 し、かつその情報を使って処罰をすることは、憲法違反になりかねない制度設計ですの で、問題があるだろうと思います。さらに、これはむしろ黒田委員のご専門かと思いま すが、その外側で処罰に連動した報告制度が、安全対策の情報収集のために合目的かと いう観点もまた検討される必要があるのではないかと思います。そういうわけで大きな 課題として存在しているという点を、当然指摘しなくてはいけません。一方でこの部会 として1つの制度設計の中に、どこまで何を盛り込むかということは、また別途の検討 を要することだと思います。 ○川端委員  今回、全部を通じて言うと、3種類の制度を作るという大枠が、私は非常に適切な考 えではないかと思います。1つ目は、任意のベースできちんと高度化された医療事故情 報を広く集め、それについて原因を分析し、安全対策を講じるということです。2つ目 に、サンプル調査をして、日本では本当に一体どれぐらいの事故が起こっているのかを 推定します。それを裏返せば、1番目の任意に集める情報がどれぐらいちゃんと集まっ ているかという裏付けにもなると思います。そういう意味でも、これは重要かなと思い ます。  しかし、それでは現に被害を受けて不満を持っていらっしゃる患者の方々について、 何も言わないのかという当然の疑問が出てきます。それが3番目の医療安全相談センタ ーの機能充実だと思います。ただ患者の事故について持っている情報というのは、3番 目のルートに限る必要は全くありません。私は、そういうものも1番目の任意ベースで 事故情報を集め、分析する機関にも患者が情報を提供できる形にしておいたほうが、い いのではないかと思います。そういうルートがあることによって、逆に任意ベースであ りながら、きちんとした情報が集まる担保にもなるのではないかと思いますので、それ はやったほうが良いと思います。  それと3番目のルートである迅速な解決ということが、先ほど問題になっておりまし たが、確かに出だしから紛争解決機関として立ち上げようとしたら、おそらく立ち上が らないでしょう。そういう意味ではここで相談を聞き、それについて専門家が情報を与 えることによって納得するという機能を期待するというのを、主眼にすることでいいと 思います。ただ、もっと将来的なことを考えると、いまの医事紛争が医療過誤訴訟にル ートが限られているというのは、解決の方法としては、実はあまり適当でないという気 が、私もしております。  もちろんそういう形で解決するしかないコアの紛争もあると思いますが、その外側に いま「ADR(裁判外紛争処理制度)」というのがあるわけです。つまり裁判所ではな い第三者機関が、いわば調停的な、あるいは仲裁的な機能を果たすことによって、白か 黒かではない、その事例に適した解決をしていくことによって、患者の満足を得る道が 開けることが、将来はいちばん適切ではないかという気がします。この第3のルート が、そういうものに育っていけば良いのではないかと思います。もちろんそのさらに外 側に、広く相談を受ける機能は残るべきだと思いますが、それは期待したいと思ってお ります。しかし、それは将来の課題だろうと思います。  いちばん最後の、医療過誤を行った医者について、一体どうすべきかという問題は、 やはり医道審議会というルートがあるので、そちらの機能の充実を期待するのがいちば ん適切だと思います。やはりあそこが極めて限られた処分しかしていないことが問題な のであって、非常に重大な医療過誤を犯した医者に対して、ここが何らかの処分をきち んと行っていれば、それと医療安全のための情報収集とが混同されないで済む、余計な 負担を背負わない制度に設計していくことができる、と思います。本当のことを言う と、医道審議会の運用のあり方を考えていただくというのが、いちばん適切なのではな いかと思います。  また、これは弁護士もそうですが、専門職が一旦資格を得たら、一生資格が続くとい う制度は、多分適切でなくなっているのではないかという気が私はいたします。その意 味で、これは全く将来の問題ですが、継続的な教育の問題もありますが、これからの日 本ではあらゆる専門職で、何らかの定期的なチェックが要求されていくのではないかと いうことも考え、これからの新しい制度を立ち上げていくのが良いのではないかと思い ます。 ○岸委員  いわゆるリピーターの排除とか、何らかの処分といった問題は、そもそもこの検討会 を立ち上げるときから、二律背反的と言いますか、難しいテーマであったと思います。 先ほど児玉先生がおっしゃったように、基本的に処分とか処罰という問題と、我々が検 討してきた、多くの情報を吸い上げて分析し、フィードバックしていくというシステム とは、やはり別枠のものであろうと考えざるを得ないと思います。医療機関が真摯に、 医療安全の問題に取り組んだとしても、自ら処罰を受ける、あるいは処分されるという リスクを犯してまで、本当に正直に報告を出してくれるとは、到底思えません。基本的 には処分とか処罰とかは全く別の次元のものとして、医療従事者としてこういう問題が 起きた、こういうトラブルを生じているという問題を、正直に挙げてもらいたい。やは り別枠の制度にせざるを得ないだろうと考えます。  ただし最初の○印の中にありますように、医療機関に対する医療安全対策の徹底指導 というのは、当然フィードバックの中で出てくるわけです。それは密接不可分の問題だ ろうと思います。ただこの際一言申し上げたいのは、やはりリピーターの存在というの は、おそらく皆様医療従事者の方は、大体承知されていると思います。つまり何度でも 間違いを起こす人というのは、どの社会にもおります。あるいはその職に対して、もと もと不適合であるような人材が、そのような資格を持っていることも、多々あるわけで す。おそらくそういう人たちは医療機関内、あるいは医師会の中でも、当然噂になって いると思うのです。それはやはりその中での自淨作用として、何らかの対応をしていた だきたい。そのことは、この場を借りて申し上げたいと思います。ただし今回のシステ ムとは、いささか次元を異にするものだと思います。 ○三宅委員  基本的にはいま皆様がおっしゃったことに、私も賛成です。やはり原則は、事故の再 発にこの情報を使うというのが、原則だと思うのです。ただ現実にはいま岸委員がおっ しゃったような、リピーターなどの問題があります。そういうことについては、私が冒 頭にお話したように、病院側からの情報でそれを集めることは不可能だと思います。む しろ、それは患者さん側から出てきた情報をきちんと検討し、それに該当するようなも のについては、医道審議会などへ繋ぐような何らかのルートが、必要ではないかという 気がします。そういうことが、そういう人たちに対して、ある種の抑制にもかかると思 います。  もう一つは、この前の議論に繋がることです。今後どれだけ後ろ向きのカルテの検 索、PRレビューなどが行われるかどうかは分かりませんが、やはり診療情報は、ある 程度患者・家族に公開していかざるを得ないと思っております。そうしたときにカルテ が十分書かれていないとか、それに十分役立つような記載がされていないという現実 も、一方にあるわけです。やはりカルテをきちんと書くことは、それを医療従事者とし て責務とするというか、義務化することは必要なことだろうと思います。そうすること がきちんとした情報を集められる基礎になるわけです。そういう気がいたします。  私は今日のお話をずっと伺っていて、いわゆる医療安全相談センターというものは、 私は非常に広範囲な機能を発揮できるし、そういう機能を発揮することが求められてい るのではないかという気がしました。ですから、あまり機能を限定しないで、患者さん をサポートするような機能も持つし、非常に問題のある情報は、それなりの所に情報を 提供するとか、場合によってはいろいろな勧告もできるような、そういうかなり広い機 能を持てば、十分機能を発揮するのではないかという気がいたしました。 ○堺部会長  これは事務局に確認しておきたいと思います。医療安全相談センター、あるいは地区 医師会等の既存組織と、いま三宅委員がおっしゃったものとは、もちろん重なるところ もありますが、少し性質が広がっているようにも思ったのですが、いかがでしょうか。 ○新木室長  医療安全相談センターについては昨年、医療安全検討会議でまとめていただいた報告 書に基づいて設置すべく、予算要求していったところですが、ここで書いておりますの は、その機能をさらに少し充実させることによって、こういうことに対応していけるの ではないかということで、去年当初の段階の機能充実という側面が、現在加わっている というのが1つです。また、この会議でもいろいろなご意見が出てまいりましたので、 医療安全相談センターのみの話でなく、前のほうで予防のための第三者的な機関の話も 出てまいりましたので、その辺との区分と言いますか、役割分担をした上での連携調整 の体制ということで、考えていくべき問題ではないかと、事務的に感じたところです。 ○星委員  ひとつ皆様の頭の中を整理するというか、私自身も整理しなければいけないのかもし れませんが。ここで我々が「医療事故」と言って思い浮かべるのは、何々大学病院など の有名な医療事故がありますよね。あるいは手術のミスによって、大きな病院でこうい う方が亡くなったということがあります。このような病院でのいろいろな問題点の解決 と、私ども医師会が制度として既に持っている医師賠償責任保険制度を使っての問題の 解決についてのさまざまな方策とが、若干違っています。我々自身もこの先どうするの かということを考えているところです。  先ほどおっしゃった、ある意味で事実認定をしたり、これをどう納得いくような形で 解決するかというのは、もちろんお金がかかわっているわけですが、そういう意味で言 えばこの制度のもとで樋口先生などは、東京都医師会の中で相当ご苦労されて、毎日ま さに紛争の解決に当たっていらっしゃると、私も聞いておりますし、実際にやっている ということです。そういう機能も一方で既に存在するのだということは、やはり認知し ていただかなくてはいけないのではないかと思います。  病院のことに関して言いますと、紛争の解決の手段が、どうも我々が持っている仕組 みとは若干違っていて、その辺でうまくいっていないところがあるということは、理解 していただきたいと思います。これはいずれまたお話しなければいけないでしょうし、 ここで単純に紛争の解決だけの話をするのは、あまり適切ではないと思いますので、そ れ以上の説明はここでは控えます。ただ、いまは医師会の中でもそうですし、もちろん 世の中でもそうですが、やはりリピーターの問題、実際に事故を起こしてしまった人た ちに対し、我々はどういうようにかかわっていくべきかと。  先ほど医道審に任せればいいというお話がありました。確かに医道審議会のほうで も、もう少し前広にいろいろなものを検討していこうという話が出ております。ただ川 端委員もおっしゃったように、やはり自分たちの組織の中で、弁護士会も毎月何人とい う方を除名されたり、戒告されたり、訓告されたりして、それがみんなに知れ渡るよう な方法を取っていらっしゃいますから、ああいった形が、やはり医療の世界にも必要で はないかという議論が、外からももちろん、内側からも起こっています。  現実に、これは私どもの会内の委員会ですが、自淨作用活性化委員会ということで、 外部の方も入れて、どうすれば我々の医師としての自淨作用が保っていけるのか、医師 会全体としての自淨作用を保っていけるのか、あるいは国民のニーズ、患者さんのニー ズに応えられるのかという議論を、既に始めているところです。そういったものの動き も是非ともご理解いただき、医療界全体のムーブメントと言いますか、動きについては 十分ご理解いただいて、その上での議論ということにしていただけると、大変ありがた いと思います。 ○樋口(正)委員  私が最初にこの検討部会で申し上げたのですが、安全というのは、いくら情報を出し ても、患者さんにはわかりにくいと思います。要するに100%の安全というものは、も ちろんないと思いますが、患者さんが求めているのは何かというと、安心や納得だと思 うのです。ですから我々としては医療事故情報を安全のために集めて、患者さんの納 得、安心感を得るための作業だと思うのです。先ほどのいろいろな発生率なども、三宅 委員がおっしゃったように、すごく医療活動の活発な所ほど起こりやすいという面もあ るということも、常に併記すると言いますか、一般社会で納得するような形で出してお いていただくと良いと思います。ただ発生率などを出したとしても、患者さんはどうや って医療を受けるかというと、結局インフォームドコンセントがそうであるように、安 全に対する納得と安心感というものがないと受けないと思います。 ○三宅委員  いまの自淨作用については、私もこの会の冒頭に、そういう話をしました。いまの星 委員からのお話で、私がいちばん残念に思うのは、日本には医師集団としてのまとまり がないと思うのです。ですから日本医師会と言えども、正確ではないかもしれません が、日本中のお医者さんの約半分ぐらいしか掌握しておりません。また、病院に勤めて いるお医者さんがかなりいるわけですが、そういう人たちも含めて、やはり医師として の1つのきちんとした集団として、何らかの機能が発揮できるような組織ができること が、いちばん望ましいと私は思っているのですが、現実にはなかなかそこが難しくて、 こういう議論になるのではないかと、私はひとつそう思っているのです。 ○辻本委員  「医療従事者への対応」という項目で、そもそも議論の最初に出てきたのは、インシ デントレポートをナースが一生懸命お書きになるけれど、ドクターからはなかなか出て こない、ではドクターから出てくるシステムをどう作っていったら良いかという話で、 暗礁に乗り上げていたという状況もあったと思うのです。出てこないことの中で、患者 の目に映るものとしては、組織の意識の文化の問題が非常に大きいと思います。周りの ナースたちは分かっているのに、ドクターが出さないことに対して、何も言えないとい う組織の意識文化というのが、問題として非常に浮かび上がってきます。そういう問題 をどうするか。  やはり基本的には、倫理観の教育に戻っていくのだと思います。とても遠回りのよう ですが、基本という問題を例えば医学教育の中で。そしてお医者さんの組織というもの が、そんなに曖昧なものなのかと、患者としてはびっくりいたしますが、学会とかお医 者さん同士の勉強会の中で、もう一度このことを常に常に見つめ直す作業を繰り返して いただきたい。そして患者さんの声を聞くという、医療者との対話という社会的なシス テムも、将来的な問題として私は、是非作っていっていただきたいと思っております。 ○堺部会長  ありがとうございました。まだまだ議論は尽きないかと思いますが、そろそろ予定の 時刻がまいりましたので、本日の議論はここまでにしたいと存じます。  次回の予定ですが、前回と今回のこの部会での議論を踏まえ、起草委員会で報告案の 骨子を作成いただきます。次回はそれを踏まえて、また議論していただきたいと思いま す。 ○新木室長  次回の日程については、2月27日の木曜日、17時から19時の間、開催させていただく こととしました。会場は、厚生労働省5階共用第7会議室です。詳細については、また 事務局からご連絡させていただきます。なお、委員の皆様におかれましては、もし議論 の参考となるような資料がありましたら、前もっていただければと思っております。 ○堺部会長  それでは本日の部会は、これで終了させていただきます。どうもありがとうございま した。 (照会先) 医政局総務課医療安全推進室企画指導係長 電話 03-5253-1111(内線2579)