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第13回 社会保障審議会年金資金運用分科会

議事録及び議事要旨(案)



平成15年1月23日


第13回 社会保障審議会 年金資金運用分科会議事録及び議事要旨(案)
(議事を公開した議題(1)に係る部分については議事録を掲載。議事を非公開とした議題(2)以降については議事要旨を掲載。)

日時: 平成15年1月23日(木) 16:00〜18:20
場所: 厚生労働省 5階 共用第7会議室
出席委員: 若杉分科会長、内海委員、大和委員、小島委員、高梨委員
竹内委員、福井委員、吉冨委員、吉原委員、米澤委員
議事  
 
(1) 年金積立金の運用の在り方についての検討
(2) 年金資金運用基金平成14年度第2四半期運用状況について
(3) 平成15年度の財投債の引受について
(4) その他

○ 泉運用指導課長
 それでは、ただいまより第13回社会保障審議会年金資金運用分科会を開会いたします。
 まず、資料の確認をさせていただきます。座席図、議事次第のほか、次のとおりでございます。
 資料1「第12回社会保障審議会年金資金運用分科会議事録(案)」、資料2「小林氏提出資料」でございます。以上、議題1に関する資料でございます。よろしゅうございましょうか。
 なお、前回までの配付資料をファイルにまとめて机の上に置かせていただいておりますので、適宜御参照いただきたいと思います。
 委員の出欠の状況でございますが、本日は、杉田委員につきましては、御都合により御欠席との御連絡をいただいております。また、竹内委員、福井委員、吉原委員は若干遅れるということでございます。御出席いただいております委員の皆様方が3分の1を超えておりますので、会議は成立しておりますことを御報告申し上げます。
 なお、本日は、年金積立金の運用の在り方についての検討の議題の終了をもちまして、当分科会は非公開とさせていただきますので、ご協力のほどよろしくお願いをいたします。
 それでは、以後の進行につきましては、若杉分科会長にお願いをいたします。

○ 若杉分科会長
 皆さん、こんにちは。本日は、御多忙の折、お集まりいただきまして大変ありがとうございます。
 いつの間にか年も変わりまして、今日は新年というにはちょっと日にちがたち過ぎたかもしれませんが、新しい年の第1回でございます。本年もどうかよろしくお願いいたします。
 議事に先立ちまして、今、運用指導課長から話がありました第12回社会保障審議会年金資金運用分科会議事録については、この場で確定させたいと考えておりますので、御意見がありましたらよろしくお願いいたします。いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
 では、そういうことで、議事録についてはこの案のとおり決定したいと思います。

(1)年金積立金の運用の在り方についての検討

○ 若杉分科会長
 本日は、初めに「年金積立金の運用の在り方について」、検討を行います。「年金積立金の運用の在り方について」は、当分科会において、10月初めより4回にわたる検討を行ってきており、前回は「高成長期、中成長期、低成長期それぞれにおける株式投資、債券投資のリスクとリターンについてどう考えるか」、「デフレ下における株式投資と債券投資のリスクとリターンについてどう考えるか」などの、より具体的な論点についての議論を行いました。本日は、これらの論点について、さらに議論を深めたいと思います。
 本日は、ゲストスピーカーにお越し頂いております。最初に、ゲストスピーカーについて、事務局より紹介をお願いいたします。

○ 泉運用指導課長
 本日は、みずほ総合研究所の小林弘明様にお越しを頂いております。小林様は、みずほ総合研究所年金コンサルティング部年金コンサルティング第2グループ長をなさっておられます。

○ 若杉分科会長
 どうもありがとうございました。
 では、まず小林さんのほうから、これらの論点に関する御説明をいただき、その後、質疑応答を含めて、デフレ下における株式投資の在り方などについて幅広い議論を行いたいと思います。では、小林さん、よろしくお願いいたします。

○ 小林氏(みずほ総合研究所)
 みずほ総合研究所の小林でございます。本日は、こういった機会を頂戴いたしまして、まことにありがとうございます。
 私の本日のお話でございますが、株式の評価モデルを使いまして、現在の日本の株式市場の期待リターンがどのぐらいなのか、それを推計してみようというものでございます。表題ははなはだオーバーでちょっと偉そうですが、要は、ズバリ当てようとしているというのではございません。こういったモデルを使いまして、幾つかの仮定、シナリオを置いてみた場合に、モデルがどのぐらいのリターンをアウトプットするのか。言ってみれば、市場の実力をチェックしてみようという趣旨でございます。
 早速でございますが、3ページ目をお開けいただけますでしょうか。株式の評価モデルといいましても、随分いろいろなものがございまして、最近、新聞等でよく目につくのが、ディスカウンド・キャッシュフローではないかと思います。あるいは一頃は、スタンスチュワート社の登録商標ではございますが、EVA(経済付加価値)といったものもよく各企業が使っているなどというニュースがございました。こういったものも株の評価モデルの一種でございます。
 最近は、今後、非常に不確実な事業の評価を行うという意味で、リアルオプションのアプローチ、こんなものも登場しておりますが、本日御紹介しますのは極めて古典的な、オーソドックスな方法でございます。
 1つは、配当割引モデル、いわゆるDDM(ディビデンド・ディスカウント・モデル)でございまして、もう1つは、それを実務応用バージョンに変えたといったらいいでしょうか、EBO評価法、こういったものを使いまして、足元の東証一部のデータを使ってリターンを推計してみようという趣旨でございます。
 こちらのほうに簡単に両モデルの紹介をさせていただいておりますが、配当割引モデルは非常に一般的なものでございまして、このように株価は将来の予想配当の現在価値である、こういうふうに考えるものでございます。本来は、非常に安定期、成熟期の企業評価に適用されるものでありまして、資金調達が非常に活発で成長しているような企業の場合は、将来の収益のかなりの部分は新しい資本提供者にいってしまいますので、本来はフィットしない。そういう意味では、東証一部に分散投資をするという点では許されるのかなと思う次第です。問題は将来の配当の推計で、これは非常に困難なわけでございます。あるいは無配企業の評価も困難である、こういう問題があるわけです。
 もう1つのEBO評価法でございますが、この名前のいわれは、ここに書いてございますとおり、Edwards-Bell-Ohlson 評価法といいまして、こういった3人の方による合作だということです。これは、言ってみれば会計ベースの評価モデルと言われておりまして、あるいは割引残余利益アプローチなどとも言われております。いろいろな種類がございますが、この中のOhlsonさんはさらに発展バージョンを発表されたりしております。ここでは、まずクリーンサープラスといった仮定を置くわけでして、企業の将来の自己資本、これは純利益の内部留保分だけ毎期増加いたします。式(2)にございますように、次期の純資産というのは今期の純資産に純利益を足しまして、そこから配当を引く。配当性向とか、ROEを使いますと、このような式になります。これをD=に変形いたしまして、その前のDDMの式に放り込みますと、実は式(3)が得られます。これがまさにEBO評価法の式でございまして、簡単に言いますと、株式の価値というのは、期初の自己資本+毎期の資本コストに対する利益超過額の現在価値の合計ですという趣旨でございます。ちょっとややこしい式で申しわけございません。
 次のページにいっていただけますでしょうか。どうしてもこういったモデルを使います場合に幾つかの仮定を置かなければいけないのですが、まず1つは期間の設定でございます。未来永劫のROEの予測は困難ですから、普通は一定の期間を設けまして、最初は事業成長期と称しましてROEが上昇していく。以後低下して、T年の後には資本コストに収斂する、こういった仮定を置くことが多うございます。従いまして、T年のときのターミナルバリューというのが計算されるわけでして、これは、いわゆる等比級数の和になりますので、こういった項が最後に立つわけですが、もしROEが資本コストとイコールであると置きますと、各項がその後ずっとゼロになりますので非常に計算が容易になる、こういう都合のいい仮定を置くわけでございます。
 こういったモデルが登場した背景ですが、90年代の初めの頃、いわゆるPBR、純資産の株価に対する説明力が非常に高いということがわかりまして出てきたということでございます。あるいは、配当割引モデルはなかなか将来の予測が困難なわけですから、これを非常に実務的なものに仕上げたということです。そういう意味で言えば、企業ごとに会計処理が違うわけですが、それよりも実務を重んじまして、PBRとアナリストの将来収益予測を使って、うまくその関係を確立したというふうに言えようかと思います。
 必要なデータですが、まず株主資本コスト、それから将来のROEの流列、それから現在の純資産、配当性向、これを用意する必要がございます。この式の意味をちょっと考えてみますと、各項の超過利益、これがもしゼロだといたしますと、つまりROEが資本コストを超えていないといたしますと、株式の価値は純資産に一致するか、それ以下になってしまうということでございます。一部の分析家によりますと、日本の上場企業の多くは、例えばEVAがマイナスであるというようなものが示されておりまして、そういう意味では、今現在を静態的に見ますと非常に厳しい状況、多くの企業でここで言う超過利益がマイナスというような現象が表れているわけでございます。
 それから、期待ROE。この期待が重要でして、これが資本コストより毎期高いか低いかによって企業価値の算定額が増減するということです。それから、これは当たり前でございますが、ROEが資本コストを下回る企業は配当をより払ったほうがいい。それから、反対の企業は内部留保を厚くするほうが得策であることをサジェストしております。モデルの問題点としてしばしば言われますのが前期の純資産です。これが企業の価値のかなりの部分、それこそ7〜8割を占めしてしまうということが言われます。もっとも、ディスカウント・キャッシュフローですと、最後のターミナルバリューの項によく永久成長率などを仮定するわけですが、最後の項が大きくなり過ぎる、これが問題だと言われておりまして、より足元のほうに重きを置くのであれば現実的かなと、こういうふうにも言われております。もう1つの問題点、日本の多くの企業の場合、純資産は現在、実態を過大評価しているのではないかという意見も一部ございます。
 こういった株の評価モデルについての一般的なコメントを申し述べますと、まず個別企業の企業価値、あるいは理論株価を表すものであります。言ってみれば、現実の株価との乖離が期待リターンだと認識できるわけです。それから、各企業を合計すれば、当然、市場全体のフェアバリューの算出が可能だということでございます。それから、逆算の形をとれば、現在の株価が要求している成長率、あるいは株主資本コストを算定することも可能でございます。いろいろな株式評価モデルがあると最初に申し上げましたが、どの評価方法を使いましても、仮定に統一性があり、推計プロセスが正しければ、同じ企業価値が算出されます。
 但し、こういったモデルがどれだけ現実の市場に当てはまるのか。あるいは、乖離がどれだけの時間で収斂するのかとか、その間に理論株価そのものも変わってしまうのではないか。こういったことについては、残念ながらモデルは言及しておりません。それから、未来永劫の予測が困難なので、先ほど言いましたように、一定の仮定を置く必要がございますし、成長率、割引率といったインプットデータを変えるだけで大分答えが変わってしまう、こういう限界がございます。
 この辺を踏まえまして実際に推計を試みてみたいと思いますが、5ページ目にいきまして、ここでは定率成長配当割引モデルを使ってみたということでございます。さっきの配当割引モデル、(1)の式ですが、ここで配当の成長率を一定にいたしますと、この式(4)が得られます。これをまた変形しますと、式(5)、r=D/P+g。このrというのは、割引率ではありますが、株主資本コストであり、あるいは株主の要求リターンでありまして、株式の期待リターンそのものであります。つまり、株式の期待リターンというのは、D/P(配当利回り)+成長率でして、よくこの成長率にはここで言うサステイナブル・グロース・モデル、ROE×(1−配当性向)、こういったものを使うわけでございます。今回、これを使って現実の値を入れるとどのぐらいになるか算定してみたいと思います。
 その前に、データ間の関係を整理してみたいと思いますが、当然、インカムゲイン、キャピタルゲイン、これはトレードオフの関係にございますので、配当利回りを高めようとすれば、どうしても配当性向のところにしわ寄せがいってしまう。その逆は逆であるということでございます。それから、PERは全く一人歩きして上にいったり下にいったりはしませんで、配当性向÷配当利回りによって算定されます。一応ここでは今後のPEレシオの変化期待、これはモデルに織り込まれ、ここで言うROE、あるいは配当の将来流列、ここに反映されていると考えることができます。
 何といいましても、ROEの上昇が期待リターンとかPEレシオを上昇させるキーポイントでありまして、例えば式(4)の両辺を1株当たり利益で割りますと、左辺はPEレシオになりますし、右辺の式というのは配当性向/(r−g)になります。これをズラズラ変形しますと式(6)が得られまして、結論が先程と全く同じでして、ROEが資本コストよりも高ければ、配当性向を小さくすればPEレシオは上昇する。その逆は逆です。もしそれらがイコールですと、PEレシオというのは、1/資本コストとなりますということが答えになっているわけでございます。
 6ページ目にいきたいと思います。いよいよ生々しい数字になっていきますが、その前に日本の配当利回り、ROE、配当性向の過去の推移をちょっとご覧いただきたいと思いますので、ちょっと飛びますが、11ページ目をご覧い頂きたいと思います。11ページ目は、日本の配当利回りの加重平均の推移でございまして、非常に長いチャートになっております。過去はこのように5%を超えていた時分もございましたが、どんどん低下してしまいまして、1980年以降で言いますと、0.5 〜1.9 の非常に狭いゾーンで比較的安定推移してきた。足元は約1%でございます。
 次にROEをチェックしてみたいと思うのですが、その次の12ページでございます。ROEがどんどん下がっていることは皆さんよくご覧いただいていると思います。過去は日本の上場企業10%をはるかに超えていたわけでございまして、80年代になってじりじり下がってきた。平成になって、このように急落してしまっているわけでございます。一方、ここでは株主資本配当率(DOE)のチャートというものも併せて表示してございます。言ってみれば、ROEとDOEの差、この幅がまさに内部留保といいますか、キャピタルゲインといいますか、株のリターンとして期待できる部分でございます。これが、ご覧になって分かるとおり、平成も真ん中辺ぐらいから両者の数字が一致といいますか、交差といいますか、もう余裕がなくなってきておりまして、言ってみれば、タコ配というのでしょうか、ROEのほうがDOEよりも低い、このような状況になってしまっているということでございます。ROEは、80年以降の平均値で見ますと約5%でございます。
 次に、配当性向、13ページ目をお開けいただきたいと思います。配当性向も、長らく大体30〜40%ぐらいで推移してきたわけでございますが、どうしても一定の配当利回りをキープしようと、利益のほとんどを配当に回すような時期が最近目立つようになりまして、このように配当性向が急上昇しまして、年によりましては算出不可能と。これは東京証券取引所さんのデータでございますが、まさにタコ配をあらわしているということでございます。最近は、ROEが2%ぐらいのときには配当性向は80%前後、3%程度のときには約60%、こういう実績でございます。
 それでは、その次に配当利回りを1%とした上で前提を3つ与えまして、配当割引モデルで算出した株の期待リターンがどのぐらいになるかということですが、過去1〜2年のようなこういった非常に厳しい状況が続くというようなことになりますと、ROE2%、配当性向80%という仮定を置きますと、期待リターンは 1.4%になります。80年以降の平均レベル、5%ぐらいまでROEが回復しまして、配当性向も大体長期的な平均値3〜4割でしたから、ここでは40%を使いますと期待リターンは4%になります。ただし、先ほど言いましたPEレシオの制約がございまして、このように配当性向40%というのは、PEレシオ40倍を意味しますので、やや高い。せめてPEレシオ20倍ぐらいにならないかということが(3)でございまして、ROE5%、配当性向20%と置きますと、期待リターンは5%ということになるわけでございます。
 次に、今年お正月明けのデータです。1月6日の東証一部の市場データを使いまして、今、市場がどのぐらいの期待リターンを織り込んでいるのかを算定したものでございます。新聞の数字で(1)から(4)が得られます。これを変形することによりまして、(5)、(6)といった数字が算出されます。さらに配当性向40%と仮定いたしますと、このように2003年3月期の予想純資産、あるいは、その予想PBレシオ、あるいは、その予想ROEが算出されまして、予想ROEは今回4.84%まで回復しているというようなデータでございます。これが今、株式市場が織り込んでいる数字でございまして、これを使いまして、期待リターン、あるいはインプライドな株主資本コストと言ったらいいでしょうか、これを算出いたしますと、やはり配当利回り+ROE× (1−配当性向) によりまして、アバウト4%、こういった資本コストを市場が織り込んでいるということが結果として出てきたわけでございます。
 7ページ目にいきまして、では、その時点の国債の利回り、これがリスクフリーレートと考えられるわけですが、それをチェックしますと、このように10年債から30年債にかけて 0.9〜 1.7%でございます。そういう意味では、今の4%からこれを引きますと、株のリスクプレミアムは現在 2.3〜 3.1%、このデータを市場は織り込んでいるということでございます。
 その次は、配当利回りを1%と仮定しまして、ROEと配当性向をいろいろ変えていった場合の期待リターンのマトリックスでございます。非常にライクリーなシナリオは、このようにROEが4〜6%、配当性向が20〜40%でございますので、その間の期待リターンは、ここで言う低いところで 3.4、高いところで 5.8、こんなふうになっております。
 一方で、右上のほうは非常にハードなシナリオでございまして、ROEが2〜3%低迷、その場合、配当性向は70〜80%になってしまいますので、その場合、こんなものは期待したくございませんが、1%台の期待リターンだということでございます。こちらは非常に高いPEレシオを許容した、バランスを欠いた状況であるかと思います。
 それでは、その次、8ページ目にいきまして、今度はEBO評価法によります日本株式市場の期待リターンの推計でございます。考え方でございますが、今回は先ほどと同じように1月6日現在の株価を使いますので、この市場時価総額が正しい、フェアバリューであるとまず仮定いたしました。その上で、ROEとか配当性向に関する前提条件を与えまして、株主資本コスト、期待リターンをEBOモデルから逆算するわけでございます。前提条件は先ほどのとおりで、時価総額、純資産が与えられ、ROEは今期末4.84%になっておりました。
 ここで2つのシナリオを与えてみました。楽観シナリオですが、まさにこうなってくれればいいのですが、来期は5%。以降、毎期1%ずつROEが改善していき、だんだんよくなるホッケの太鼓ということで、2013年3月期は14%のROEまでいきますということです。片や悲観シナリオですが、2007年3月期にかけROEはダラダラと下がって3%までいき、以後、そこでステイしてしまうということでございます。算定上、どうしても2014年3月期以降、これはROEが株主資本コストに収斂するということにしてしまいました。どうしてもここで段差が発生してしまいます。将来はスムージング化を試みたいと思っておりますが、本日は単純に処理した結果でございます。配当性向は、楽観シナリオで30%、悲観シナリオで60%といたしました。
 次のページにいきまして、算出方法ですが、まずは順繰りに来期以降の純資産を計算いたします。これは向こう10期までで大丈夫です。11期以降はどうせゼロになりますので。それから、改めて掲載してございますEBOの評価式、ここにVとBとROEの値を入力いたしまして、株主資本コストrを繰り返し計算法で算出するわけでございます。結果が下に掲載されておりまして、あくまで試算ではございますが、楽観シナリオですと左のほうになりまして6.63%、悲観シナリオですと0.82%という厳しい値になった次第でございます。
 ちなみに、1期から10期までのROEの平均は、楽観シナリオですと 9.5%、悲観シナリオは 3.3%でございます。
 その次のページは、こういった株式評価モデルのインプリケーションをまとめてみました。まずは市場の実力といいますか、ファンダメンタルズの実態のチェックであろうかと思います。株価はいずれこういった理論値、ファンダメンタルバリューに収斂すると考えまして、その上でどのぐらいのリターンが期待できるのかということでございます。それから、事業からの収益、何よりもこれが株のリターンの源泉でございますので、ROEが何よりも重要だということでございます。それから、現在の市場価値が評価モデルの示す企業価値に一致しているとしたら、将来のROEの上昇期待が改善すれば株価は上昇するということでございます。よって、各企業はROEが株主資本コストを超える事業の発見・開拓に努め、株主資本コスト以下の事業の縮小・撤廃を行うことで株価の上昇が期待できるということでございます。あるいは、現実の株価から投資家の要求収益率を算定しまして経営指標とする、こんなことが考えられようかと思います。
 最後に、PEレシオとの関係と書きましたけれども、過去、日本では市場のPEレシオが数10倍とか 100倍という時代がございまして、こういう情勢ですと、なかなかこういう評価モデルはワークしないと思います。片や、今の日本の市場PEレシオというのは80年代初頭と同じぐらいで20倍台になっておりまして、そういう意味では、ある意味で合理的で、こういったモデルがワークする世界かなと思っております。
 いずれにせよ、期待が膨張したり収縮することで、PEレシオはある程度合理的に上下動するわけですが、しばしばバブルと言ってもいい領域までいってしまうわけでございます。PEレシオが期待の関数だとしますと、期待が膨張しますと、アナリストや投資家の将来ROE等の予測も楽観的になるわけです。逆は逆でございます。ただし、その期待度と予測の値に整合性があるとは限らないわけでございます。そういう意味では、評価モデルの入力項目として特に株主資本コストが厄介でして、これを投資家が誤って低く見積もってしまうと、企業価値の算定値は上昇しますので、高いPEレシオを許容するのと同じになるわけでございまして、一時の日本はこういった情勢にあったのではないかと思うわけでございます。
 参考として、14ページをちょっとご覧いただきますと、今日お示しした株式評価モデルの算定値以外に、ごく一般的な市場の期待リターンの推計例を最後にお示ししてございます。(1)は、配当回り+企業収益伸び率+PEレシオ変化率というものでございまして、配当利回り1%、企業収益の伸び率は向こう10年のコンセンサス、大体2〜3%としまして、PEレシオは変わらないということにしますと、期待リターン3〜4%になるわけでございます。
 その次は、CAPMによる株主資本コストの推計でして、これは無修正のビルディング・ブロック法と同じでございます。リスクフリーレートの置き方が困難ではございますが、ここでは現在の20年国債利回りに近似させた1.5 %を仮定してございます。
 (1)のほうは、リスクフリーの過去の平均値といたしまして、71年1月以降の10年国債最終利回りの平均を使ったものでして、期待リターンは結果として3.34%でございました。(2)はリスクフリー、今度は有担コールレート平均値を使ったものでして、このように結果、期待リターンは4.18%でございました。
 今お示しした結果をまとめますと、大体期待リターン、もろもろのいろいろなモデルであるとか、一般的な方法が示しておりますのは、ノーマルな意味では現在3〜4%ぐらいかなと。楽観シナリオをとると5〜7%、悲観シナリオをもしとると2%未満、このような結論かなと思う次第でございます。
 私のお話はこれで終わらせて頂きます。ありがとうございました。

○ 若杉分科会長
 小林さん、どうもありがとうございました。
 それでは、ただいまの御説明への御意見や御質問、また、デフレ下における株式投資の在り方についての御意見等がございましたらお願いいたします。いかがでしょうか。
 これからの株式投資の期待リターンは、具体的な数字で言いますと、小林さんのDDMに基づく推定では。

○ 小林氏
 あくまで試算ではございますが、6ページ目の真ん中辺に前提ごとの期待リターンとして、非常に厳しい状況では 1.4、ある程度の回復を期待したケースで4〜5%というのが出ております。それから、EBOですと、今度は9ページになりましょうか、いささか楽観的過ぎるかもしれませんが、楽観シナリオ6.63、悲観シナリオが右側の0.82、こういったものがモデルのアウトプット結果として出ております。

○ 若杉分科会長
 これは、株式の期待リターンと考えたらいいのですか。先ほど要求リターンにも等しくなるというようなことがどこか御説明の中であったと思うのですが。

○ 小林氏
 本来、こういったモデルは個別の企業、個別の株価を算定するものでございますが、ちょっとはしょった御説明で申しわけございませんでしたが、ここでは市場全体のリターンを意味しておりますので、言ってみれば、TOPIXのような市場全体の期待リターンをあらわしているというふうにお考えいただければと思います。

○ 若杉分科会長
 期待リターンを要求リターンと考えますと、現在、市場全体で投資家が日本の株式に何%のリターンを期待しているかということになるわけですね。要求リターンは、リスクフリーの金利+リスクプレミアムに分解されるわけですが、この予想に基づくと、シナリオによってリスクプレミアムが異なると考えるのですか。

○ 小林氏
 ええ。そういう考え方もできましょうし、1つは、6ページ目の(4)、下にお示ししたような形で算出いたしますと、現在の市場が織り込んでいる株式の期待リターン、要求リターンが約4%だと、こういう試算もお示しした次第でございます。これをまたリスクフリーから逆算すると、リスクプレミアムが 2.3〜 3.1というのもお示しいたしました。

○ 若杉分科会長
 米澤委員、どうぞ。

○ 米澤委員
 全体的に非常にいい方法で分析されているという印象を持っております。というのは、もう1つは、全く過去のヒストリカルなデータから平均の株式のリターンを計算するといった時には、いつから取るかという問題もあるのに対して、もう1つは、それは大体お分かりになると思いますけれども、過去を捨てれば低くなりますし、直近だけだと下手すればマイナスになってしまう。非常に問題点があって、上手くいかなかったのではないかと思います。それに対して、こちらのほうはいろいろデータはうまく適当に外から入れるにしろ、モデルによってマーケットのプライスを使って、将来どのようなものを予想しているかということを知るためには、1つ、今後はこういうようなことで少し参考にしていく必要があるのではないか。そういう意味では、非常に説得力があると思っています。
 もう1つ、せっかくここまでやられたのであれば、株式のリターンないしはプレミアム、さっき若杉先生が言いましたように、何のレートを引くか、小林さんのは国債を引いていますけれども、もしかしたら、本当は安全利子率のコールか何かを引いて、コールを引くということはほとんどゼロを引くということになりますが、その問題はあるとしましても、ここ10年ぐらい、リスクプレミアム、ないしは同じことですけれども、株式の期待リターンをこれで計算していくと面白いのではないか。面白いということは、非常に興味深いのではないかと思っていますし、恐らく3〜4年ぐらいまでは、日本はリスクプレミアムはマイナスになってしまうのではないかという印象を持ちます。それは、海外の論文などでもほぼ同じような格好で推計しますと、ようやくここ3〜4年、4〜5年、プラスのリスクプレミアムがこういうモデルからでも説明できるということで、言い方をかえますと、ようやく理論が教えるようなところに株価水準が戻ってきたといいますか、低くなってきたといいますか、ちゃんとリスクプレミアムもプラスのものが出てきて、今日の小林さんの数字でも、大体われわれが印象を持っていたリスクプレミアムで3%。今、安全利子率はほとんどゼロ近傍ですから余り差はないのですが、3%ぐらいのリスクプレミアムがあるということ、大体その辺が中心かなということで、1つ重要な情報を与えてくれているのではないかと思っています。
 繰り返しますけれども、3%のリスクプレミアムが出てきたというのは、恐らく近年稀だと思いますし、ようやく理論ベースで株式が買えるということの答えが出てきた。では、今まではどうだったのかというと、いろいろ説明がつかない面があるのですが、そういう印象を持っております。
 1点だけ、やはりプライスアーニングスレシオなどで合わせにいくところがございますし、それから、ROEでグロスレートを出すところがあるのですけれども、アーニングスになると、日本は株式の持合いがあって、昔、プライスアーニングスレシオみたいなものを調節しなくてはいけないよという話があったと思うので、日本の場合はそれをちょっとやられておく必要があるのかなという点が1つあるかと思います。
 まとめますと、いろいろなシナリオがあるのかもしれませんが、1つ、3〜4%ぐらいのリスクプレミアムというのは頭の中に置いていいのではないか。少なくとも、私はそのようにこの結果を読まさせていただきました。以上です。

○ 若杉分科会長
 ありがとうございます。何か小林さんからレスポンスがありますか。

○ 小林氏
 大変ありがとうございます。

○ 若杉分科会長
 では、ほかに。大和委員、どうぞ。

○ 大和委員
 私も、こういう評価モデルでしたほうが現時点から出発する株式の収益率の推定方法としてはいいと思いますが、1つ、この会議での議論で、デフレ期にどうかということが度々あったものでございますから、その観点で、14ページの(1)の推計の仕方で、つまり配当利回り+企業収益伸び率+PER変化率の式でお伺いしたいのですが、多分このデータであると、過去のデフレ期であった1880年代とか、90年代とか、あるいは1930年代というときのデータが、アメリカではあってどうだったのかという気がするものですから。そして、(1)の(2)の説明で企業収益の伸び率は実質GDP成長率+インフレ率に近似となっていますので、ここでデフレの時の率を入れた場合には、期待リターン2〜3%という値がどうなるのかということがちょっと知りたいのですけれども、それをお伺いしたのは日本では過去にそういう実績データがないものですから、前に(1)の推定式でアメリカの株式の収益率の推計を年金総合研究センターのフォーラムで報告をしておられましたから、アメリカのデータをお持ちで、この辺の昔のデフレ期との関係で、何か言えるのかどうか、それをお教えていただけたらと思います。

○ 小林氏
 今、手元にデータがございませんで、あの時は、たしか1926年以降のイボットソンのデータを使っておりますので、一部、確かにグレートディプレッションの時期のが入っておりますが、ちょっと今、正確なデータがございませんで申しわけございません。

○ 大和委員
 それでは、そのデータはないとして、(2)のデフレのときには企業収益率は低いというふうに考えるべきなのでしょうか。

○ 小林氏
 考えるべきだと思いますが、一方でリスクフリーのほうも、いわゆるゲタの部分が相当下がりますので、そういう意味では、デフレ期であっても株式というのはそれなりのリスクプレミアムを得る可能性はあるというふうに考えております。

○ 大和委員
 わかりました。

○ 竹内委員
 計算方式などはわかりやすくできていて、結果的にもリーズナブルですが、先ほどおっしゃったように、これはある企業に対して適用する場合と、それを平均的企業とか、市場全体に代表させた場合ということがちょっとパラレルに使っているということですけれども、個別の株であれば、個別企業のもう少し質的な評価を加えて、業種であるとか、経営であるとか、技術であるとか、資産の内容であるとか、かなりブレークダウンした形で、そのブレを計算することができると思うのですが、これは「平均」という言葉を使ってしまったために、逆にそれが捨象されてしまうために、上ブレした場合、下ブレした場合の原因が非常にわかりにくいということについてが1点目。
 それから2点目は、12ページの平成に入ってからのROEの動きがちょっとガタガタしていまして、恐らく平成8年のところはクリティカルな要因というか、若干例外的に上がったと考えると、非常に低かったというふうに考えて、直近で最後のところがちょっと上がりますね。平成10年から上がるのですけれども、例えばこのような上がり方というのは、何か1つの大きな要因があったのか。あるいは、1つのトレンドに影響を与えるような要因が含まれているのかどうか。あるいは、平成の同じようなトレンドの中の比較的例外的なものであるのか。このガタガタというところの評価、トレンドとしてどういうふうに上がり下がりの激しいところをならして考えればいいか。その2点についてお願いします。

○ 小林氏
 最初の御指摘は全くごもっともでございまして、非常に勉強になったところでございます。業種によりまして、皆さん、御承知のとおり、ものすごい特損を出しているようなものがあるわけでして、それを全部合算して、プラスもマイナスもごちゃ混ぜにして出したデータでございます。言ってみれば、TOPIXというのは時価総額加重のインデックスでございますので、そういう意味では、ちょっと冒険ではありますが、こういったデータを使ってTOPIXのリターンを推計するというのは全く間違いではないだろうということでやったわけでございますが、御指摘のとおり、業種間の跛行性については何も分析していないというのが正直なところでございます。
 2点目のROEの上にいったり下にきたり、私は余り細かくチェックしておりませんし、専門外でございますので、ちょっとコメントは控えさせていただきます。申しわけございません。

○ 若杉分科会長
 竹内委員、そういうことでよろしいですか。
 では、寺田委員。

○ 寺田投資専門委員
 配当利回りの現在の水準ですが、11ページには東証の加重平均利回りが出て、12ページには株主資本配当率両者の間に、40ベーシスか、そこら前後の違いがあるのですけれども、どちらが経済的な意味がある数字で、こういう株価水準の判断とか、将来のリターンの期待値の評価の場合、どちらが適切であるかということと、それとも絡むのですけれども、将来の配当の成長を予測する場合、最近は日本でも自己株式の取得という、いわゆるリパーチェスイールドというのが相当高くなってきて、現在、アメリカでは現金配当利回りよりもリパーチェスイールドのほうがかなり高い水準になっていますね。これは、将来の配当の成長率を、過去のいわゆるトレンドとかなり違う動きをそこから示唆しているわけですけれども、そういうのを予想に取り入れる必要がないかどうかということ。
 それからもう1つは、これは将来のディビデント・ディスカウント・モデルで予測する場合は、アメリカの幾つか出ているこの手の論文というのは、みんな無限の配当のストリームを予測しないで、現在の配当回りにEPSの成長、それから10年とか15年先のPERのレベルを推定して、それの3つの和として期待リターンを出すというのが普通のやり方ですけれども、そういうやり方はここではとられていないけれども、それはそれでいいと思うのです。ただ、そういう考え方をとると、将来の株価水準(PER)がやはり将来の期待リターンに相当大きな影響を及ぼすということが考慮されないことになりますね。
 さっきのお話の中に、やはり将来のPERがさらにそれから将来の利益の期待というか、これがPERの水準に影響を及ぼすということはもちろんですが、それ以前に、理論的に言えば、市場での取引コストが高くなるか下がるか。最近、株については国際的に非常に低くなってきているんです。日本も下がってきていますが、こういう環境で、投資家というのはコストを引いたネットでバリエーションをすると思うのです。そうすると、将来のPERというのは、そういう取引コストの大幅な引き下げを考慮して、PERがその分だけ高くなるということが理論的に考えられるのですが、それ以外に、最近の市場の近代化によって分散投資の機会がいろいろな形で提供されるようになっている。機関投資家のウエートが高くなってきたということも分散投資が普及したということ。それから、個人投資家といえども、ETFとか、投資信託とか、そういった分散投資の機会が増えてきたというようなことで、やはりCAPMの世界にだんだん近づいてきている。要するに、アンシステマティックリスク、ないしはダイバシファイアブルリスクというのは価格形成に影響を及ぼさないというCAPMの世界がだんだんと現実に近づいてきている。そういうことは、やはりPERを高める要因になるだろう。
 それからまた、会計基準のグローバルな統一化、最近、アメリカで一部の不祥事がありましたけれども、こういう株式市場に対する投資家のコンフィデンスの高まり、こういったものもやはりPERを上げる方向にいくだろうというふうに理論的に考えられるだろうと思うのですけれども、そういうような効果が、日本の場合はPERがどんどん下がってきたから、その過程で余りそういう議論はされませんでしたけれども、アメリカでは、PERが10倍から20倍の間を行ったり来たりしていたのが、1995年ぐらいから2000年にかけて30倍になったものですから、これはただのバブルではなくて、そういうような市場構造の変化が背景にあるのではないかという議論がかなりなされて、今もなされているわけですけれども、そういう要素というのがやはり将来の株価水準を想定する場合に必要になるだろうと思うのですが、そういった点についての御意見をお聞かせいただきたいと思います。

○ 小林氏
 まず配当利回りですが、私は東証さんのデータを確認しておりませんが、新聞等で約1%と出ておりますが、あれは株式の時価総額が基準になっていると思います。それで約1%だと思います。東証さんのデータが 1.6ぐらいになっておりますのは、簿価になっているのではないかというふうに私は想像しております。ただ、これは正確なコメントではございません。
 それから、リパーチェスイールド、これは全くそのとおりでございまして、ただ、言えますのは、米国ほど日本はそこの部分の修正幅は大きくないのではないか。バイバックが米国企業ほどダイナミックに行われていないのではないかというふうに思います。米国ほどリパーチェスイールドの効果は日本の場合は大きくないのではないかというふうに私は思います。
 PEレシオ、これも私、非常に興味ある領域でございまして、将来のPEレシオが上がるのか下がるのか、これは極めて重要だと思います。1つ言えますことは、アメリカの市場ですと、非常に古い頃からのデータがちゃんとそろっておりまして、10年タームで見てPEレシオが上がったり下がったり、超長期の平均がどのぐらいかというのがわかっておりまして、言ってみれば、これはコンベンショナル・ウィズダムだと私は思っております。約15〜16倍というのが長期の平均だというのをみんな意識して30倍まで買い上げた。それで、ニューエコノミーとか言ったけれども、やはりだめだったと。それはそれでいいわけですが、日本の場合はなかなかそういう長期的なコンセンサスがないものですから、一旦走り出すと過去のように 100倍までいってしまった、こういう悲劇を生んだのではないかと思います。
 PEレシオの算定というのは極めて難しいわけでございまして、理論的には確かに先ほどの分母がr−gでして、分子は配当性向になるわけでございます。成長期待が上がればPEレシオは上がるわけです。これはgが上がるわけですね。問題は、先ほどの株主資本コスト、これが非常に厄介でして、寺田先生が御指摘のとおり、まさに取引コストが下がるというのは、広い意味で株主の要求利回りの部分が結局下がるんですよね。広い意味で下がる。つまり、同じリターンであっても、取引コストが安くなれば、投資家のネットのリターンが上昇しますので、そういう意味ではPEレシオを押し上げる効果が確かにあるのではないかと私も思います。
 会計基準の問題、これも幾つか非常に難しい問題が転がっておりまして、よりコンフィデンスが上がればPEレシオが上がる、私もそう思います。ただ一方で、会計基準を厳しくすることによりまして、目先かもしれませんが、企業収益、一株利益は下方プレッシャーが働くという意味で、ここ何年かは相殺されてしまうのではないか、このように私は考えております。この辺で答えになっていますでしょうか。

○ 若杉分科会長
 とりあえずよろしいですか。では、吉冨委員、どうぞ。

○ 吉冨委員
 14ページなどが一番議論しやすい1つの材料を提供していると思います。われわれが知りたいのは、ここにある仮定そのものをどう置いたかということだと思います。算術式は大体わかるとして。そうしますと、まず企業収益率の伸びと名目GNP、NDPの成長率が一致しているというのは、どういう根拠に基づいて、本当にそうだったのか。それから、今後も本当にそうなのか。
 それから、名目GNPの成長率そのものはどうやって推計されたのだろうかとか、簡単に置いただけなのだろうか。それから、同じ名目成長率でも、インフレと実質の差があれば、コンポジションが違えばどう違うのだろうとか、それがデフレとの関係にもなってくると思うので、そういうところがまず普通の読者としては知りたいところではないかと思います。
 その他たくさんありますけれども、先ほどのPERにしても、これは80年代の株価の日本の通常の30倍が60倍になったということで、レベルそのものがなぜアメリカより倍あるかという議論は、われわれエコノミストでも相当やられました。基本的には、Pの算出の仕方があるんですね。例えば減価償却法が非常に加速的になっているとPは大きく出るとか、退職金の積み方とか、非常に細かいのが随分ありまして、それで説明すると、相当程度倍のレベルにあるというのは分かる。ただ問題は、先ほどのアメリカのバブルと同じように、15倍が30倍になった。日本は30倍が60倍になった。その限りではバブルという性質は似ているけれども、それ自体は何処からきたかというと、やはり基本的には、先ほどの割引率と成長率に帰着するわけで、これは両方とも基本的な期待値なんですね。では、その期待値というのはどうやって動いていったのというようなことが分かりたい。デフレの時は、恐らくその期待値は反対になっている可能性もあるわけでしょうから、バブルの裏返しとして教訓になるのかどうかとか、そういうところが恐らく皆さんは知りたいのではないかと思っているのですけれども、どうでしょうか。

○ 小林氏
 最初の御質問につきましては、実は今日の私のテーマが株の評価モデルによる期待リターンの算出事例でございまして、この最後のページは、参考までに前回までの資料を拝見させていただいたものですから、それを使って一般的なコンセンサスはこのぐらいではないでしょうかということをちょっと提示しただけでして、私はマクロの専門家でも何でもございませんで、今、明快に実質GDPがなぜ2なのか、1なのかというのをお答えすることはちょっと難しいので、御勘弁いただければと思います。

○ 吉冨委員
 そうしますと、出てきたいろいろな期待リターンの3とか4とかありましたね。そういうものは、今の成長率等の影響は余り受けていないと見てよろしいのですか。

○ 小林氏
 実は、今日はその前にモデルに特にインプットしたデータはROEでございまして、これを例えばこのぐらいにしたら、どのぐらいの期待リターンになるかとか、今後のROEの見込みが非常に楽観的になった場合、悲観的になった場合でどのぐらいの期待リターンがモデルからアウトプットされるのか。この辺のお話をした上で、最後のページですが、大体一般的な手法による、わりとコンセンサスではないかと私は思いまして、こういう数字を置いてしまったのですが、その数字を合わせてみたところ、比較的近い数字になったと、こういう御説明用の資料でございます。

○ 吉冨委員
 その場合、ROEとこういうマクロ的な成長率との関係は分断されて理解できるという意味ですか。

○ 小林氏
 ええ。あえてそこをリンクするような分析データはここには載っておりません。申しわけございません。
 2番目の御質問は、ちょっと私忘れてしまったのですが。

○ 吉冨委員
 今のが基本的な質問でして、次に、基本的な決定要因は、結局は利益の流列で、利益の流列というのは、名目GDPとそんなにコンシステントなものかというのは、私はそうではないような気がして仕方がないのですけれども、例えば80年代だったら利益の伸び率ははるかに名目GDPよりも高いわけですね。この場合、こういうふうに置かれるのは、恐らくnがかなり無限大に近いからそうなっているのかもしれませんけれども、実際には10年ぐらいに興味がありますから、nイコール無限大とnイコール10年とはずいぶん水準も違います。置き方によっては3倍違いますので、これは景気循環が死んだというときにはnイコール無限大。だから、現在価値は3倍になるわけですから、私はこのnの長さというのは非常に重要だと思います。それが1つの問題点だったなと。
 それから、PERについては、Pの中身というのは大体コンセンサスがあって、少なくとも今から10年前のいろいろな議論では、そういう算出方法の違いから倍あると。バブルというのは、それが倍になったことをどう説明するかということで、倍になった時には、基本的にはまた利潤とか配当の成長率、グロスレートになって、それが名目GDPになって、当時はせいぜい4%ぐらいの実質成長率と言われたのが、エレクトロニクス革命とかいろいろ言われて、6%ぐらいあるのではないかとした途端に、割引率の置き方によりますけれども、PERは倍ぐらいすぐ簡単に説明できるわけです。それはnイコール無限大のときです。
 そういったようなことがありましたものですから、PERの決定要因というのも、結局はそういう成長率、割引率、それの更に期待ですね。予想になりますので、そこがデフレのときにどう変わるかということを恐らく多くの人は知りたがっているのではないと思って聞いているということです。だから、今日は算術例だということであれば、ちょっと問題の意識がズレますけれども、もともとの大前提とこういう算術式との関係が、より明確になれば、いわば算術式の限界と、どこまで準備していたらいいかというメッセージもわかりやすいかと思ったわけです。

○ 小林氏
 ありがとうございます。確かに、企業収益の伸びをGDP+インフレ率と置いておりますのは、非常に長いタームで表したらこんなふうになるのではないかという見解でございまして、5年、10年タームですと、かなり両者に乖離が生じるということはそのとおりではないかと思います。
 それと、PEレシオの議論につきまして、確かにバブル期には、日本の会計基準の問題、持合いの問題などで利益を修正する。では、60倍のPEレシオがどこまで低く修正されるのか。多くの分析者が試みた論文等を読んだことがあるのですが、どんなにいろいろ修正を試みて努力しても、なかなか30〜40倍より下にいかずに、国際基準よりはどうしても高いのではないか、こんな結論になっていたのを記憶しております。蛇足でございますが、ちょっとコメントでございます。

○ 若杉分科会長
 では、高梨委員。

○ 高梨委員
 適切な質問かどうか分かりませんが、14ページで、日本株式の期待リターンとして3〜4%というふうになっているのですけれども、株式が3〜4%だとすれば、日本の債券はどれぐらいになると見ればいいのでしょうか。

○ 小林氏
 日本債券の期待リターン、これも非常にいろいろな方法が見受けられるのですけれども、例えば今から10年間投資期間がある、あるいは20年間投資期間がある。その場合は、これは前者のケースですと、今の10年債のイールド・トゥ・マチュリティ(最終利回り)、20年であれば20年債の利回り、これでもうほぼ決まりでございます。その間、例えば10年間を4年債と6年債でつないでも、10年債持ち切りでも、ほとんど結果は変わりません。そういう意味では、今の債券の利回りは、10年債であれば 0.8%ですし、20年債であれば 1.5ぐらい、30年債が 1.7でございます。
 ところが、いわゆる伝統的なビルディング・ブロック法を使いますと、現在のリスクフリーレートに過去のリスクプレミアムをオンするという手法をとることが多うございまして、こうしますと、しばしば現在の債券の期待リターンが2〜3%、こういうような数字が世の中では結構まかり通っております。つまり、これはタイムホライズンの問題でして、超長期という言葉で、この先何10年かわかりませんが、若干無責任にタイムホライズンをとりますとビルディング・ブロック法は正当化されるのですが、現実には、この先10年、この先20年で得られるリターンというのは今の最終利回りだと思います。そういう観点からしますと、先ほどちょっと申しましたが、今、株の期待リターンが3〜4%だといたしましても、債券の期待リターン、これはリスクフリーと読みかえていいと思うのですが、これが 0.8〜 1.5でございまして、リスクプレミアムはそれなりにある。米澤先生から御指摘がございましたように、90年代の一時、それが消えたように言われましたが、そういう意味では、ある程度理論と整合的な世界になってきているというふうに考えられるわけです。

○ 若杉分科会長
 よろしいでしょうか。それでは、内海委員、どうぞ。

○ 内海委員
 大変興味あるお話を伺ったわけですが、例えば同じようなメソッドで、アメリカについて計算してみたような例がございますでしょうか。それから、例えばヨーロッパではドイツ。ドイツは、日本もそうですけれども、こういったものとまた別の要因で、金融機関による株式保有の現象、日本における持合いの解消みたいな形での需給要因というのがドイツにはあるわけですが、同じような計算をヨーロッパではドイツ、あるいは日本、アメリカについて、もしおやりになっていたようなものがあれば教えていただきたい。と申しますのは、基本ポートフォリオの中には外国株も入っていますので。よろしくお願いいたします。

○ 小林氏
 パッとお見せできるものがないのですが、1つ、御参考になるかどうか、例えば14ページ目の一番最後の行のところです。Frankel & Leeの論文で、CAPMで計算した向こうの資本コストの算定式、業種ごとに計算した例がありまして、米国ではこのようにモデルによって違うわけですが、CAPMを使うと9.64から 13.79。ほかのファーマ&フレンチの3ファクターモデルという別のアプローチを使うと8.23〜 16.49、こんなふうになっております。
 あるいは、これも御参考になるか、6ページ目の一番下に、昨年末のMSCIワールドの予想ROEは 8.8だったというのが記載してございまして、予想PEレシオは24.9倍だったということですので、予想PEレシオは日本はほぼ同じぐらい。ROEは、残念ながら、世界標準のまだ半分レベルということでございます。ズバリの答えがないのですが、ROEの数字を入れますと、日本よりははるかに高い株の期待リターンがまだあるというふうに言えようかと思いますが、その間、為替をどう考えるかというのは別問題でございます。

○ 内海委員
 それはまた別の問題ですね。

○ 若杉分科会長
 米澤委員、どうぞ。

○ 米澤委員
 今、内海委員の御質問に対して、出典は正確ではないですけれども、「ジャーナル・オブ・ファイナンス」が2001年の何号かの巻頭で、日本を含めた3〜4か国、ほぼ今日御紹介いただいたような方法で国際比較をした水準があったと思います。先ほど言ったように、そこで日本の数字はようやくプラスに出てきて、今は2〜3%。今日報告されたのとほぼ同じようになっていて、ただ、そこの論文の問題意識は、アメリカでも、今まではどうだったのでしょうか、各ヒストリカルベースでリスクプレミアムは、どこにオンするかは別として、5〜6%ではなかったのでしょうか。ただ、こういうモデルでインプライスされたらそんなに高くないよというのがモチベーションで、多分、それはアメリカの株も下がってきているということの問題意識から出てきているのではないかと思います。
 ですから、その意味では、実はこのリスクプレミアムの水準がどうかというのは、日本でなくて、アメリカからずいぶん話題になってきて、では日本でも同じようなことをやったらということで、むしろ日本ですと、最近はリスクプレミアムは理論からいくと結構高いのが出てきている。アメリカだと、今まで言っていたほど高くないということがいろいろ分かってきたということ。そういう数字があります。必要があれば、ちゃんとどの論文ということは御案内できると思います。

○ 寺田投資専門委員
 「フィナンシャル・アナリスト・ジャーナル」というアメリカのアナリストの自主規制機関で出している雑誌ですけれども、これはまだ発行されていませんけれども、2003年の1月、2月号が間もなく発刊されると思いますが、そこにイボットソン、チェンという2人が書いた論文、これはイエール大学のワーキングペーパーで、最初のバージョンは2年ぐらい前から出ていまして、それがいろいろなコメントなどがあるものですから、リバイスして、最終版がやっとパブリックな雑誌に出るのですけれども、そこにいろいろな過去の研究のレビューも載っています。イボットソンは一番楽観的な論者だと言われていたのですけれども、彼は1926年以来の主なアメリカのキャピタル・マーケットのリターンの統計を持って、彼自身の会社を通じて、そういうのを売っているのですけれども、それによりますと、過去のリスクプレミアムは、1926年以降のデータで計算すると5.25%という数字になりますが、彼が今度新しく出す論文では、彼の理論モデル、これはサプライサイドモデルで、それを使って推計しますと4%という推定値を出しています。この株のリスクプレミアムというのは、10年国債の利回りにオンすること4%ということで、過去のデータですと、それが5.25%だったんです。
 ただ、これは、どちらかというと、アメリカの平均よりはやや高い数字だろうと思います。一番多いのは、例えばBGIなどが最近出したレポートですと 3.5%ということになっていまして、中には、アーノッド、バーンスタインとかが発表しているような、ほとんどゼロであるというような数字もあります。多くの学者や年金関係者のいろいろなペーパーをレビューしますと、平均は大体 3.5ぐらいという感じではなかろうかと思います。

○ 若杉分科会長
 ここで、今日、小林さんは2つの面から推定してくださったのですが、DDMに基づく推定の部分を要約してみます。6ページを見ますと、DDMの観点からの予想があります。6ページの(3)には、前提ごとの期待リターンということで(1)、(2)、(3)とあります。
 (1)は、ROEがこれから2%の水準で続いていくとの前提のもとです。そして配当性向が80%との想定ですから、内部留保が20%ということになりまして、このモデルから言うと、 0.4%の成長を含意しています。その場合には、資本コストすなわち市場が全体として期待しているリターンは 1.4%と推定できるということです。(2)は、ROEが5%でずっと続く場合。配当性向は40%ですから、残りの60%が内部留保されて、このROEで運用されていく。そうすると、3%の成長が続きます。その時には資本コストは4%と考えられる。
 同じように、(3)はROEがかなり高くて5%のケース。そしてPERは20倍で、配当性向が 20%。ですから、これは4%ぐらいの成長が意味されています。そうだとすると、資本コストとして5%を織り込んでいると見ることができる。そういうことで、(4)の平成15年の1月のデータをあてはめて(1)、(2)、(3)のどれに一番近いかをみてみると、ROEが約5%で、資本コストが4%ということですから、(2)に一番近いということになります。現在の株式市場の期待リターンは4%という推定とのご主張だと理解しますが、それでよろしいでしょうか。

○ 小林氏
 はい。

○ 若杉分科会長
 他方、EBOによる推定は、かなり前提が違います。8ページに前提条件とありますけれども、楽観シナリオと悲観シナリオとがありますが、楽観は、ROEが今は5%ですが、ずっと上昇し続けるということですね。それに対して先ほどのDDMのモデルでは、ROEはずっと一定です。しかし、ここではROEが上がり続けるか、あるいは悲観シナリオでは下がって、最後は3%で落ちつくということです。前提が違うのですが、マーケットが考えている要求リターンすなわち期待リターンは、9ページにあるように楽観、悲観でそれぞれ6.63%、0.82%ということになる。楽観シナリオでは非常に高い成長率を見込んでおりますから、それで現在の株価水準を説明しようとすると、市場は6.63%という非常に高いリターン、すなわち大きなリスクプレミアムを考えているということです。他方、右側の悲観シナリオですと、ROEでみた日本の企業の収益性が下がり続けるという想定ですが、それでもって今の株価を説明しようとすると、株主の要求収益率は0.82ということで非常に低い、そういうふうに理解してよろしいでしょうか。

○ 小林氏
 はい。

○ 若杉分科会長
 ここでEBOとDDMとの二つのアプローチが示されていますけれども、実は違う前提のもとでの推定だということですね。

○ 小林氏
 はい。

○ 若杉分科会長
 換言すれば、もし同じ前提なら、どちらの方法によっても同じ推定になるはずだということをおっしゃっているわけですね。

○ 小林氏
 理論的にはそういうふうになります。

○ 若杉分科会長
 いろいろなケースを考えている中で、一番リアルな推計ということでROEがずっと一定という状況を考えます。小林さんは10年ぐらいROEの水準が一定、そして、最近跳ね上がっている配当性向を比較的低めに抑えて40%とすると、3%ぐらいの成長を見込んでいるということになり、4%の資本コスト、つまりマーケット全体として4%ぐらいのリターンを期待しているという試算を小林さんからいただきました。みなさん、いかがでしょうか。具体的な数字について御意見をいただければと思います。

○ 吉冨委員
 今おっしゃったのは、14ページの先ほど私が申し上げた、ここら辺のとは違うお話でしょうか。

○ 若杉分科会長
 14ページは、ほかのところでやられているものを紹介したということですね。

○ 小林氏
 あくまでも参考として添付したものです。

○ 吉冨委員
 でも、そのアサンプションは非常に近いものですから。これは名目GNPが2〜3%でしょう。それから、PERは今後低下しないとか。

○ 若杉分科会長
 そうですね。

○ 吉冨委員
 従って、期待リターンは3〜4%ですから。

○ 若杉分科会長
 ですから、さっきの(1)と似ていますよね。

○ 吉冨委員
 事実上は同じだと思います。

○ 若杉分科会長
 6ページの(1)、これも配当モデルに近いわけですから、それが似ているのだと思います。

○ 吉冨委員
 ええ、同じメッセージだと思いました。

○ 若杉分科会長
 そういう意味では、2番のCAPMのほうも3.34ですから、そんなにひどく違わない。

○ 吉冨委員
 同じですよね。

○ 若杉分科会長
 他にいかがですか。米澤委員、どうぞ。

○ 米澤委員
 私も、今の若杉さんの整理の仕方でよろしいのではないかと思います。ただ、最初言いたかったのは、過去のヒストリカルのベースでいきますと、リスクプレミアムはどんどん下がってきて、直近ですとマイナスになっている。過去のデータからというのは、実現した株式のリターンがマイナスですから、マイナスからさらに国債の金利を引いたらもっとマイナスになりますので、リスクプレミアムは下がっているのですが、それは正しい理解ではなくて、恐らく日本の今の株式市場は、戦後まれにみるというか、リスクプレミアムは高い。要するに、企業の業績は悪いけれども、それに比して、こんなに株価が低くなったというのは、恐らく余り経験が無いぐらいだと思います。
 それは何かというと、大体どこでもそうですが、景気が悪くなって非常にクラッシュすると、それまではリスクアセットを持っていたものが、みんなリスクレスアセット、要するに日本で言うと国債。ひどいときには貨幣になってしまって、そちらのほうにみんな逃げてきている。その分、株式が安く置かれて、これがどこまで続くかというのは非常に重要なポイントだと思いますけれども、その意味では、株価は高いか低いかといった場合に、企業の業績から比べると、こんなに低いことは無かったぐらい低くなっているということで、このDDMのモデルでも何とかうまく説明できるぐらい低くなったというか、まっとうになったという言い方は正しいかどうかわからないと思うのですが、そういう状況が正しい認識ではないかと思います。戦後まれにみるリスクプレミアムがついているというのが正しい状況ではないかと思います。
 それからもう一つは、今いろいろ御発言がありましたし、前回のモチベーションもあったかと思いますが、デフレの下でどうなるかというのは、その下である程度理論に従って仕分けすることはそんなに難しいことではないと思うのですが、簡単に言うと、やはりデフレになると債券のほうが強いと私は思います。クーポンが変化しない限り、名目の割引率が下がれば、それだけ上がる。株式は、負債を持っていない場合には余り関係ないでしょうけれども、インフレが株価に影響を与えなかったという理論と同時に、デフレも全く反対のほうに影響を与えないと言いたいのですが、やはり企業が負債を持っていると、負債のほうに関してはデフレの率で下がっていってくれないという重要な問題がありますので、利払い後の利益というのはデフレ率以上に下がっていくという可能性があるとすると、やはり株式はデフレの面で弱いのかなと思いますが、言いたいのはそういうことではなくて、恐らくこれから国としての政策は、何とかしてデフレを脱却して、多少のインフレは許容しようといった時に、やはりデフレを想定したようなアセットアロケーションをとるというのはどうなのかなと。デフレとインフレというのは、逆に、インフレになりますと今度は債券が弱くて株式が強くなるということもございますので、現状はデフレで間違いないのですけれども、これからフォワードルッキングでいろいろアセットアロケーションをやっていくときに、まだデフレがずっと続くという下で組んでいくのが正しいのかどうか。私は、むしろインフレのことに関しては、少なくともゼロぐらいにしておいて考えていく方が適当だとしますと、そんなにデフレ、デフレということで苦労する必要は無いのではないかということが2点目です。
 以上です。

○ 小林氏
 私も同感でございまして、こういう時期に静態分析を行って、現状を直視して余りにも悲観的な結論を出すべきではないというふうに思います。現在の株価がフェアバリューでしたら、今回のモデル等が示しておりますのは、今後はROEの改善シナリオですね。例えば、今、EVAが赤字だとしましても、その赤字の額が少なくなるようなシナリオがあれば、評価モデルが示唆しておりますのは株が上がるということでございますので、デフレの時期だからといって、先を余りにも悲観して極端なアロケーションを考えるというのは私もどうかというふうに考える次第です。

○ 若杉分科会長
 問題提起として、先ほどの整理に続いてちょっと申し上げたいのですけれども、先程の6ページというのは、もう一度言いますと、東証のデータの一番下を見ますとROEが4.84%ですね。先程も言いましたように、δ、つまり配当率が40%ということで、内部留保が6割。内部留保で再投資をして成長していくということですが、まず12ページを見ていただきますと、たしか先ほど竹内委員からも質問があったと思いますが、実際のROEはこの7〜8年急速に下がって、ガタガタしているのですが、直近上がっています。これは、分子の利益が上がっているのか、それとも分母の自己資本が減っているのか、いずれなのでしょうか。後者では、先ほど寺田委員が言われた自己株取得ということもあるかもしれませんし、あるいは、そのほかの形で自己資本が 減ってしまっているということもあり得るわけですね。いずれにせよ、6ページに示されている 4.84%というROEがずっと続くと考えるのが適切かということです。13ページを見てみますと、当期利益は平成元年をピークに傾向的に減っているわけです。最近は、マイナスの年も3回ほどあります。それにも関わらず、同じ図にあるように、企業はずっと配当しているわけです。こういうのは、ファイナンス理論の観点からは、とうてい合理的なこととは思えないわけです。そういう合理的でないことをやっている企業が、4.84%というROEを今後10年間続けられるのでしょうか。そして、このモデルで含意されている3%の成長は可能なのでしょうか。小林さんの推定は現実のデータからかけはなれているのではないかというのが私の疑問です。

○ 小林氏
 厳しい御指摘だと思います。 4.8という数字は、あくまでお正月明けの新聞の数字から、いろいろと電卓をはじきまして、市場がインプライしているROEという意味でございまして、私がゲスしているわけではございません。

○ 若杉分科会長
 いろいろな人々の予想の平均ということですか。

○ 小林氏
 ええ。まさに6ページの(4)の(1)から(4)は新聞のデータで、それを電卓ではじくと結果として予想ROEが4.84ということで出てきたということで、市場が織り込んでいる予想値として4.84だということでございます。では、今後、来期以降はどうなるかというのは、私、専門外でございますので御勘弁頂きたいと思います。

○ 若杉分科会長
 ただ、今後、4.84%がとても無理だと考えるならば、今の株価は高過ぎるということになる。

○ 小林氏
 程度にもよりますけれども、そういうシナリオもないことはないと思います。

○ 若杉分科会長
 米澤委員は今の株価水準でいいんだということですけれども。

○ 米澤委員
 確かに、今、若杉さんも竹内さんも、12ページの右の方のガタガタは、もちろん、多少景気が持ち直したとかございますけれども、基本的に、ROEの持っているのは、ROAが非常に下がって、普通ですとROAは金利より高いでしょうと。だから、レバレッジが働くから高くなりますよというのですけれども、今、ROAがある時ストンと下がって、金利よりも低くなってしまっているといった時は、そこでROEはマイナスになってしまうし、レバレッジは非常に不安定になってしまいます。
 今、企業がやっていることは、もちろん全体のリターンの回復と同時に、負債の圧縮をやっているわけですので、私は、ROAがちょっと高くなって金利の上に出ると、いいか悪いかわかりませんが、またレバレッジが回復して、不安定になりますけれども、こんな低い数字が長く続くとは思えないし、ですから、今、企業は負債の返済と、それから賃金ベースにして、それを圧縮することによって分配値をどんどん下げている。その2つのことをやっていますので、ROEはそう大きな技術革新がなくても、ほどほどには上がってくる。ただ、前のように、10%はどうかという点はちょっと難しいと思いますけれども、先程、小林さんが置いたような数字というのはそんなに難しい数字ではないというふうに考えております。

○ 若杉分科会長
 ほかに、そういうことについて何か御意見ありますか。小島さん、どうぞ。

○ 小島委員
 私もこの辺はよく分かりませんけれども、今、若杉分科会長のお話にもありましたが、まさにROEをこれからどう見込むかということによって、期待値が変わってくるという話です。それと、今後10年間の成長率をどう見込むか。6ページでは3%ぐらいを見込んでいるということですが、それが本当にここ10年のところで見込めるかどうか。それが1%程度ならどうなるかといったようなところで、大きく変わってくるのだろうと思います。だから、今のデフレ下、さらに今後5年、10年のところで株式運用に公的年金を回していいかどうかという判断も大きく変わってくるだろうと思います。このROEや成長率をどう見込むか、これはなかなか予想できないところがある。当然、成長率というのは政策的なことに関わってくると思いますので、そこがポイントだなという感想であります。

○ 若杉分科会長
 ありがとうございました。竹内委員、どうぞ。

○ 竹内委員
 先ほど米澤委員もデフレとインフレの影響というものは余り大きくないと言ったのか、直接的ではないというようなお話もなさったのですけれども、デフレが進行したのは98年からですね。つまり平成10年からいわゆるCPIという物価の下落が始まっていて、非常におかしな話ですけれども、その頃からROEは上がっているんですね。確かに、その議論が非常に分かりにくいですね。つまり、デフレが始まってからROEが回復するというのはどういうことなのか。あるいは、全く関係ないことでデフレは起こり、ROEは全く違った要因で上がったり下がったりするのかというのがちょっと分かりにくい。
 あとは、成長率3%という数字は計算上出てくる数字でしょうけれども、今おっしゃったように、そもそも株式市場というのは将来価値を織り込んだというふうに考えると、予測ができない株式市場というのは何なのかというのは非常に不思議な感じで、つまり現在の状態のレートでただ判断しているだけで、将来を全く見通さないというのは非常に分かりにくい論理だてである。そこのところがちょっと分かりにくいので、そもそも株式市場というのは何を読み取るものなのかという点、そもそも論で申しわけないですが。過去の実績に投資する人はいないわけで、何らかの形で将来に対して株価が説明価値を持っていると考えれば、何を頼りに株を持っているか。多くのアナリストは将来予測は難しいとおっしゃるけれども、では、なぜ買っているのかというのがそもそも分かりにくい。株式市場の存在根拠というか、そこがよく分からない。

○ 若杉分科会長
 座長が発言しすぎのようですが、米澤委員の主張を説明いたします。企業が生き生きと活動して、付加価値を創造していけば、資本に対するリターンが生まれ金利を払う力もできるし、株主に対する利益も上げられる。利益の一部はさらに成長するために内部留保し再投資することができる。そうすると、利益が増えるという予想によって株価が上がる。企業が元気であれば、従業員に十分な賃金を払うだけではなくて、資本の利益も大きいので、だから高い株価がつくんだということです。米澤委員は、今成り立っている株価は、日本の企業はそれなりの利益を上げる力があるというふうに見ているということですね。
 先ほどの13ページを見ていただきますと、日本の企業は、ここには昭和44年からデータがありますけれども、ずっと利益プラスだったんです。利益額は平成元年まで成長しつづけてきたわけです。その後、90年代に入って、バブルが破裂したとか、いろいろ言われていますけれども、利益が急に下がってきているわけです。歴史的に例を見なかったマイナス利益が、この10年の間に3回もあるということです。ですから、現在は過去と大変違った環境にいることは事実だろうと思います。
 そういう中で、この13ページで見ますと、平成10年はマイナスですけれども、11年、12年と利益が回復してきています。平成12年の利益は、平成5年ぐらい、もっと昔で言えば、1980年頃の利益の水準になっています。恐らくそういうようなものを期待して今、株価がついているのだろうと見ることもできます。ですから、現在の株価に全然根拠が無いわけではなく、この図で言えば、青い線を元にして株価がついていると考えるわけです。米澤委員、それでよろしいですか。

○ 米澤委員
 ええ。基本的にはいいと思いますけれども、もう一つ言いたいのは、理論はそうですが、今まで過去は、理論というのは、さっき御紹介になったDDMをベースとしますと、今までは企業の将来の見込み以上にずっと株価が高くついていた。それは、株式のデータがちゃんとられた昭和28、29年から、恐らく1990年の前半ぐらいまでは常に高く高く続いていた。ここ2〜3年は初めてそれよりも低くつけたというところが、さっき言った急速なリスクプレミアムの増大になっているというふうに私は思っています。
 かつ、今までは楽観してつけたいたけれども、結構そのとおりのリターンが出ていて、そのうち幾つかはバブルがあったのかもしれませんが。ですから、人々は、企業のファンダメンタルズが何となく悪いなりに頭に描けるのですけれども、それよりもさらに低い株価しかつけていない株式に買いにいっていないというのが今の状況だと思います。どちらが正しいか分かりません。ようやくこれでまっとうになったのか、昔がいいとすれば、今は株式のリスクに関して過度にセンシティブになって、みんな安全資産の方に流れているのだというふうに思っています。

○ 若杉分科会長
 ほかに。内海委員、どうぞ。

○ 内海委員
 そもそもデフレ下における株式投資という時のデフレというのは、それはアプローチとして若干理解しがたいと思います。例えばアメリカが、1990年代、株価が下がる前、本当に成長していた時に物価が上がらないのは、やはり生産性が上がって、物価が上がらないで成長ができたわけです。逆の例はあるわけでして、日本の1973年のオイルショックから74年にかけての2けた以上のインフレは、その前に、例の列島改造による過剰需要によってインフレの芽が出ていたところに、原油価格が一挙に3倍になって、それこそハイパワーインフレになったわけです。ですから、例えば今、原油が上がって、あるいは円安待望論がありますが、円安でインフレになったとしたら、それで企業利潤が上がるか。今、デフレだ、デフレだと言っているのは、アメリカもある程度そうですが、企業が、外からの競争も含めて、競争が激甚だから値段が決められないわけです。そこに円安になって、日本は原材料から油から、全て輸入しているため、それはコストプッシュがあっても転嫁できなければ企業利潤を圧縮するわけで、インフレになったら株価が上がるということには全くならないわけです。だから、そもそもデフレ下の株式投資、インフレ下の株式投資という問題提起自身にちょっと問題があるのではないかということを私は申し上げたいのです。

○ 若杉分科会長
 どうもありがとうございました。
 それでは、予定の時間もきましたので締めくくりたいと思います。小林さんから、これからの株式投資を考えるに当たってのいろいろな試算をいただきました。また、最後に、内海委員から、株式投資をデフレとかインフレと結びつけて考えるのが正しいのかどうかという御意見を頂きました。この議論は引き続き行っていきたいと思いますので、小林さんの報告、あるいは皆さんからい頂いた議論、そして最後に内海委員からいただいたご意見を参考にして、これから更に年金積立金の運用のあり方について検討して、結果をまとめたいと思います。よろしいでしょうか。
 では、小林さん、本日はありがとうございました。
 この後の進行について、事務局に一旦お預けしたいと思います。

○ 泉運用指導課長
 では、これにて議題(1)の審議を終了させていただきます。
 しばし休憩とさせて頂きまして、以後の審議は非公開になりますので、傍聴の方におかれましては、御退室頂きますよう、御協力のほどよろしくお願いをいたします。
(傍聴者・小林氏退室)
(休憩)

 これ以降の議事は非公開とした。以下、議事要旨を掲載。
(○は委員、●は事務局、△は年金資金運用基金の発言)

(2)年金資金運用基金平成14年度第2四半期運用状況について
   年金資金運用基金平成14年度第2四半期の運用状況について年金資金運用基金より説明。

(質疑応答)
 基金では、パッシブとアクティブの比率、それから、アクティブの中のマネジャー・ストラクチャーの管理を行っているわけだから、その管理の結果の分析を行うことが望ましい。これは、年度ごとのディスクローズも同様。

 これらの分析は、短い期間で行うのは非常に難しい。また、比較対象を何とするかも難しいが、いろいろ勉強し、改善が図れるものがあれば、対応を考えたい。

 ぜひ検討して欲しい。

 只今のご質問だが、昨年度のディスクローズの中でも触れているが、今、電気がオーバーウエートで、金融がアンダーウエートというビヘイビアは、日本株のマネジャー・ストラクチャーが、現状でグロースにティルトしているというのが背景にある。
 これは、基金がグロースにティルトしたマネジャー・ストラクチュアを意識的に構築したのではなく、この数年の間にマネジャーのスタイルが少しずつ変わってきて、特にグロースにティルトするマネジャーが増えてきたということ。
 そういったグロースにティルトしたマネジャー・ストラクチュアを見直すべきだというはっきりした認識のもとに、目下、株のアクティブ・マネジャーのストラクチュアを変えるべく、従来のマネジャーの評価と同時に、新規の採用も含めて検討中であり、ほぼ最終段階にある。そこでの最大の狙いは、全体としてニュートラルなストラクチュアを構築することである。

 ファンドマネジャーやスタイルの違いの評価について、どういうタイミング、期間で行うというルールはあるのか。

 再構築を行うに当たっての考え方は、まず、各運用機関が、バリュー、グロースないしはマーケット全体を指向したアクティブのどれであるかを、ヒアリングすると共に、基金側でもデータを用いて独自に分析する。その上で、バリュー、グロース、市場中立型、これをそれぞれ複数集めて、合計した段階で市場と比較してスタイルとの乖離が生じないようにうまくバランスした構成をとるということを考えている。
 その場合、評価の際に、バリューとか、グロースに合った評価の仕方を考え、その評価が行える体制を構築しなくてはいけない。
 また、マネジャーというのは、時間がたつと、スタイルを変更させることがありがちであり、そうすると管理が結果的にできなくなるので、スタイル変更をさせないように契約ではっきり確認し、その後もチェックする必要がある。

 アクティブ運用については、委員から御意見も出ているので、アクティブ・マネジャーのマネジメントのことについて一度お話しいただきたい。

 今、外国株式のうち米国株式の比率はどのぐらいか。また、外国株式の米国、EU諸国などの比率は運用受託機関に任せているのか。

 米国株は大体6割。イギリスが1割強、ユーロ全体で1割5分ぐらい。全体としては20か国余り。パッシブの場合は、それぞれインデックスで運用しているが、アクティブの場合は、運用受託機関が基準に合った銘柄の中から比較的割安というものを選んで投資をしており、日次、月次報告などで把握し、分析している。

(3)平成15年度の財投債の引受について
   平成15年度の財投債の引受について事務局より説明。

(質疑応答)
 財投債の市中発行分の年限構成はどのようになっているのか。年金で引受けている財投債の年限構成と異なるのか、異なるのであれば何故か。また、財投債は満期保有としているが、誰が決めているのか。期間構成別の利回りはいくらか。
 財投債は、法律で書いてあるから引き受けるのかもしれないが、本来、年金の積立金の運用は、専ら被保険者の利益のために、長期的な観点から安全かつ効率的にということでなければならないはずであり、そういう観点から、財投債の引受は、被保険者のための純粋な運用の効率の追求というのを歪めているおそれがある。今は経過措置期間だが、経過措置期間が終了した段階では、基本的には財投債は引受けるべきではない。7年の経過期間が経過すれば満期前の売却というのもあってもいい。

 14年度の国債及び財投債の市中発行分の年限構成は、2年債、短期債が25.8%。3年割引債と5年債を合わせた中期債が31.3%。10年、15年の変動利付き債、20年債、30年債を合わせた長期債が42.9%。全体の平均年限は7.45年。
 そもそも、財投債の引受けは、財投制度の改革に伴う激変緩和という趣旨。市中発行が基本であるが、いきなり全額を市中発行できないので、経過的に一定部分、協力している。年金の財投債の引受年限については、当面短い年限で引き受けること、また、例えば30年債のような年限の長いものは引き受けなこと、という観点から、財務省と協議している。
 満期保有については、基本方針において、「財投債は、国債として発行される債券であり、金融市場において運用を行っていくことが基本である。ただし、財投改革に伴い、相当量の国債が市場に流入する可能性があり、その市場売買が債券市場を混乱させぬよう留意する必要がある。したがって、基金は財投債の管理・運用に当たって、経済全般の状況や金利水準、市場の状況等を考慮して、売買の時期や量等について慎重に判断する」とに書いてある。従って、御指摘のとおり、満期保有すべきとは書いていないが、市場を混乱させないように留意するという趣旨を踏まえ、当面、満期保有すべきであろうということで、厚生労働省から基金のほうに満期保有を指示している。
 利回りについては、基本的に、その時々の市場利回りに合ったものとなっている。
 経過措置期間終了後については、財投債引受は経過措置、例外的な措置と思うので、そういう観点で考えていくということになる。
 被保険者の利益のために運用しなければならないのは、全くそのとおりであり、積立金全体については、そういう観点に立って運用しているが、財投債の一部引き受けは、自主運用を行うに当たって、財投改革と年金積立金の自主運用を全体として整合的に運営していくため、制度として一定期間協力することとなったもの。被保険者利益と財投の円滑な改革というのを両立させるため、毎年、予算編成の中で、引受額などあるべき姿を具体的に決めている。

 市中発行分の年限構成についてさらに詳しい内訳、10年がどれぐらいで、15年がどれぐらいで、30年がというようなデータ、を提供して欲しい。

 長期債42.9%の内訳は、10年債が29.1%、15年変動債が 7.3%、20年債が 5.7%、30年債が 0.8%。

 基本方針は、基金が売買することを前提に、いろいろな状況を考慮して慎重に判断するということを言っている。今、厚生労働省から満期保有の指示をしているのは、基本方針が想定していたのとは違うのではないか。

 基本方針を策定したときの含意は、当面財投債は満期保有を原則とするということであった。ただ、未来永劫満期保有しかしないわけではないので基本方針のなかに満期保有ということは書かなかった。

 背景として、年金積立金の自主運用は、国債の金利水準が非常に下がり、キャピタルゲインがとりにくい状態で始まっている。この場合に財投債を時価評価するか、簿価評価するかという問題があり、当面、金利水準が低い間は、満期保有を宣言して簿価評価するという厚生労働省の判断があり、財投債を購入するたびに基金に指示している。
 また、財投債の引受の趣旨は、基本的な自主運用法の考え方と違う部分があるが、法律的な根拠を明示して行っており、財投制度が移行していくことに伴う経過措置と考えている。7年満期で財政融資資金から預託金が償還されるわけであるが、財政融資資金は、例えば25年とか、30年という期間で貸付をしており、そこに時間差がある。また、実際の財投機能は縮小しているものの、新規事業の資金利用について市場で調達をする必要がある。この両方の側面があるが、主に期間の違いに着目して、資金運用部資金法の改正のときに、明示的にこの関係の規定を入れ、その規定に基づいて、今のような協力を経過的に行っているものである。

 財投債を含めた国債の引受に関しては、情報がオープンになっていないという認識があるのではないか。
 今後、デュレーション管理や、インフレ連動債や利付き変動債等に関して、こちらのニーズを言っていく準備をしておく必要があるのではないか。従って、財投債引受の交渉の場で、どのようなことを言っていくのかなどを詰めていく必要があるのではないか。

 市中発行の規模と財投債として年金が引き受ける規模との関係は、その時点その時点でどういうふうになっているのかも知りたい。もう少し財投債の運用について、詳細な説明をこういう場でしてもらえればありがたい。

 郵貯、年金の引受けの比率はどのように決めているのか。

 基本的には預託の償還額の比率で決めている。預託した額が毎年同じではないので毎年若干ぶれる。

 財投債引受のルールについては、一度伺う機会をつくっていただきたい。


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