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資料1

看護基礎教育・技術教育のあり方(法的側面)

平成15年2月24日
立大法学部 木村光江

1.技術教育実施に関する実質的違法阻却の考え方

 (1) 法的整備の要否
i) 保健師助産師看護師法上に、一般的な違法阻却規定を設けることは困難ではないか。
ii) ただし、技術教育に関するできる限り詳細なカリキュラム、実施基準を作成し、これに基づく実施を確保することにより、違法阻却されると解される。

 (2) 違法阻却の考え方
i) 一般的基準
 法的には、(1)患者の同意の下に、(2)正当な目的のための(3)相当な手段でなされれば、無資格者の行為であっても、無資格行為、民事の不法行為、刑事の犯罪行為についての違法性が阻却されると解されている。
 ただし、正当目的・相当手段であれば、いかなる行為も許されるというわけではなく、(4)法益侵害性が当該目的からみて相対的に小さいこと(法益の権衡)(5)当該目的から見て、そのような行為の必要性が高いこと(必要性)が認められなければならない。

ii) 看護教育の場合
(5) 必要性→正しい看護教育目的でなさたものであれば、必要性が充足される
(4) 法益の権衡→実質的には(3)手段の相当性が確保されることにより充足される

目的の正当性、手段の相当性が確保されることが重要
実施基準の明確化適正な実施のための条件整備が重要


2.実習実施基準作成の考え方

 (1)患者の同意
必須の要件→同意がなければおよそ違法阻却の余地はない
 * 書面による「同意書」の実施例なし
「同意の確認書」は1件
(1) 説明書・依頼書を示し、それを了承した旨の署名をもらう(インフォームドコンセント)
 → 患者と、病院側・教育機関側の文書とする必要があるか
 * 医師の臨床実習同意書の例:患者(+家族)と教員
(2)同意書の内容: どの程度詳細に記載する必要があるか
*医師の例: 期間明記、ただし、学生が実習すること一般の同意
署名後も、随時、実習を中止する権利があることを明記
(3) ケーススタディーでのデータ利用については、別途書面が必要か
(4) 病院内に、実習実施施設であることを明示する

    問題点
同意書を要求した場合、患者の確保が困難となるおそれがあり、これをいかに克服するか
同意書の内容
どの程度詳細に記載する必要があるか
個々の学生ごとに必要か
 (2) 目的の正当性
i) 看護臨地実習が看護教育としての正当目的を有すること
 (1) 看護師に必要な知識・技能・態度を身につけさせ、資質の向上を図る目的
 (2) 患者の看護を目的とするもので、患者自身にとって有益な行為であること

ii) 看護教育実習が看護学生教育としての必要性を有すること
 (1) 看護師に必要な知識・技能・態度を身につけさせ、資質の向上を図る目的の達成のためには、見学のみでは不十分であること
 (2) 看護師試験(技能に関する問題を含む)の準備としての必要性があること
 (3) 医師、歯科医師に予定される卒後研修制度がなく、卒前で一定水準の技術習得が必須であること

 (3) 手段の相当性
i) 侵襲性が相対的に小さいこと
ii) 資格者の監督の下に実施されていること
iii) 学生の技術水準の確保(一定の技術を習得した学生に限る:資格要件)
iv) 教育計画の下に実施されていること(教育評価方法の整備)
v) 医療過誤対応の体制確立

i)〜v)はすべて、医療機関、教育機関の協議の下に検討すべき事項
ただし、 i),ii),v)→主として医療機関側が検討すべき事項
iii),iv)→主として教育機関側が検討すべき事項

i)侵襲性が相対的に小さいこと
 i)-1  「看護技術の水準」を基準とすること
侵襲性の「絶対的」な大小と必ずしも一致しない
教育的観点を考慮した上で、水準を決定したと解される
水準1  助言・指導の下で学生が単独実施
水準2  指導・監視の下で学生が実施
水準3  見学にとどめる

i)-2  患者の安全確保のための方策が採られていること
対象患者選定の基準、方法の確立
指導体制の確立(→後述ii)の問題に関連)
学生の技術水準の確保、資格要件の厳格化(→後述iii)の問題に関連)

ii)資格者の監督の下に実施されていること
 ii)-1)  実習実施計画の策定
個々の学生の実習計画 →教育機関側の責任者選定
受入病棟ごとの実習計画 →医療機関側(各病棟ごと)の責任者選定
個々の学生の実習実施状況を把握し、適切な患者選定・確保の体制を確立

 ii)-2)  医療機関側指導者及び教育機関側指導者の資格
・医療機関側= 実習指導者
(「看護師等養成所の運営に関する指導要領」・平成13年健政発第5号、第7)
・教育機関側= 専任教員(同上第4)

問題点
医療側、教員側共に、指導者の指導体制、研修は、充実している
訪問看護ステーション等の機関につき、実習指導者該当者を確保できるか?

 ii)-3)  指導担当者、指導教員の指導体制の確立
実習実施時の指導体制
基本的に、「看護師等養成所の運営に関する手引」(平成13年看第1号)に準拠していること、ないし同程度の水準を維持していること
(ア) 人的側面
実習指導者、指導教員ごとの学生数(看護単位ごと10名)
(「看護師等養成所の運営に関する手引」・平成13年看第1号、第7)
(イ) 物的側面
受入れ医療機関における実習体制(同上第7)
特に、学生が直接実施する場合(水準1)、緊急時に直ちに指導者が処置できる体制、設備を確保すること

問題点
・全国的な統一基準への追加 特に緊急時の体制整備等

iii) 学生の技術水準の確保
各水準・技術ごとに、臨地実習可能な条件を明確にすること
→必要科目、単位数、学内実習

問題点
学内における学生の技術到達レベルの確認の実施
学生相互の学内実習における学生の安全の確保
 (1) 基本的には対患者と同じで、同意を得て実施することが必要
ただし、自ら患者役となることが教育的には重要
「同意書」の必要性につき、患者と全く同一には解されない

 (2) 実施に当たっての医師の指示は必要としない(診療ではないため)
処方箋をもらえないので注射はしないという学校もある
診療ではないので、医師の指示は必要ではない

 (3) 結果的に事故が起こった場合の体制を整備しておくことが重要(含・保険)
原則として教員が責任を問われる可能性が高い
その場合には、対患者と同様の違法阻却の考え方があてはまる
 ・目的の正当性→ 教育目的としての正当性
 ・手段の相当性→ 侵襲性が小さいこと
指導体制の確保
学生の技術水準の確保
教育カリキュラムの整備

iv) 教育計画の下に実施されていること(教育評価方法の整備)
 → この点は、カリキュラムが整備されていれば問題ない

v) 医療過誤対応の体制確立
v)-1) 緊急時の体制確立(医療機関側)
医療機関における安全管理マニュアル(事故防止対策マニュアル)等の徹底
安全管理委員会設置(平成14年10月医療法改正)
v)-2) 医療過誤防止の講義の実施(教育機関側)
基本的には、各病院の安全管理体制と重なるが、学校側としても安全教育を徹底することが必要

問題点
医療事故発生時の責任の所在
「実習に関する覚書」、「実習委託契約書」
文面にかかわらず、事故の形態により責任の所在は変わり得る


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