資料3 |
1.水質検査の意義
「水質検査」という言葉で表されるものには、原水の取水から浄水処理、配水に至るまでの一連の水質管理の状況を確認するための検査と水質基準に適合しているかどうかを判断するための検査という2種類の検査があると考えられる。その詳細については、水質検査の精度と信頼性保証の中で触れられているので、ここでは省略する。
いずれにしろ、これらが相俟って、水道水質管理の徹底、ひいては、安全な水の供給という水道の使命に寄与するものであるが、ここでは、水質基準の見直しに関連したサンプリング方法等が主たる課題であることことから、後者の場合、すなわち、水質基準への適合を確認するための水質検査について検討することとする。なお、水質管理システムの運転のために行われる水質検査についても、別の観点から検討されるべきものであることを付言しておく。
2.水質検査におけるサンプリング
水質基準は、(1)水道により供給される水(基本的に給水栓を出る水)が満たすべき水質上の要件であり、(2)水道により供給される水すべてについて満たされる必要がある。しかしながら、すべての給水栓で水質検査を行うことは実際上不可能であり、現実的でないことから、合理的な範囲で採水地点を限定し、水質検査を行うことになる。
従って、水質基準の確認のための水質検査に当たっては、どのように採水地点を選定し、また、どのような頻度で検査を行うか(サンプリング)、そして、その検査結果をどのように評価するか、が極めて重要となる。この場合において、水道における汚染物質の挙動に十分留意する必要がある。
例1 | 消毒副生成物については、配水池から給水栓に近くなるほどその濃度が高くなる傾向がある。 |
例2 | 鉛などについては、給配水管からの溶出が主たる汚染源となっている。 |
例3 | 有機塩素系化合物については、基本的に浄水過程以降その濃度が上昇することはない。 |
例4 | 農薬は、その病害虫の発生時期に応じ、散布される時期が限定されており、基本的に散布時期以外に検出されることは希である。 |
例5 | 鉛など給配水管からの溶出が主たる汚染源となる物質については、滞留水を測定する場合と流水を測定する場合でその結果が大きく異なる。 |
本専門委員会においては、上記のような例を踏まえつつ、また、現行のサンプリング方法、WHOや諸外国の例を参照しつつ、上記(1)及び(2)の要件を判断するためのサンプリング及び検査結果の評価はいかにあるべきか、について検討を行った。
水道法施行規則では、採水地点について「水質基準に適合するかどうかを判断することができる場所」と規定しており、これを受けて、「採水場所としては給水栓水を基本とし、水道施設の構造、配管の状態等を考慮して最も効果的な場所を選ぶこと、必要に応じて水源、配水池、浄水池等における水質についても検査することが望ましいこと、1日1回検査(色、濁り、消毒の残留効果)については、これに加えて、配水管の末端等水が停滞しやすい場所も選定するものとすること、送配水システム内で濃度上昇しないことが明らかな事項については、給水栓に代えて浄水場の出口等送配水システムへの流入点において採水場所を選定することができること」との運用通知が出されている。
これらの考え方は、現在の目で見ても基本的に妥当なものであり、今回の見直しに当たっても踏襲すべきものと考えられる。さらに、水質検査の万全を期す意味から、これらに、採水地点は配水系統ごとに1地点以上選定すること等を含めることとすれば、よりよいものとなろう。すなわち、水質検査の採水地点としては、以下のとおりとすることが適当である。
1) | 水地点は、給水栓を基本とし、水道施設の構造、配管の状態等を考慮して最も効果的な場所を選ぶこと。なお、送配水システム内で濃度上昇しないことが明らかな項目については、給水栓に代えて浄水場の出口等送配水システムへの流入点を採水地点として選定することができること。 |
2) | 採水地点は、配水系統ごとに1地点以上選定すること。この場合において、配水池も採水地点に含めることが望ましいこと。 |
3) | 採水地点たる給水栓の選定に当たっては、配水管の末端等水が停滞しやすい場所も選定するものとすること。 |
4) | 採水地点たる給水栓の選定に当たっては、検査項目ごとに異なった給水栓が選定されることのないようにすること。 |
5) | 水道用水供給事業者においては、採水地点として受水団体への受け渡し地点を含めること。 |
採水地点数については、現行では、「水道の規模に応じて、水源種別、浄水場・配水システムごとに、合理的に採水箇所数の設定が行われるよう留意」とされているのみで、具体的な数値目標は設定されていない。
このため、上記(2)の要件(水道により供給される水すべてについて満たされる)を満足するためには、水道の規模に応じ、どの程度の採水地点数が必要か、数値目標を示すべく検討を行った。その結果は次のとおりである。
水道は常に水を供給し続けているという特質を有することから、上記(2)の要件(水道により供給される水すべてについて満たされる)を満たすためには、どの程度の検査頻度が必要かについての統計的取扱は難しい。しかしながら、水道法が制定されてから約50年の実績から、毎月1回の検査を行えば大きな問題は生じないという経験則を有している。このため、ここではこの経験則をもとに、どのような検査頻度であれば、毎月1回の検査と同等の検査結果が得られるか、という観点から検討を行った。
ところで、今回の水質基準等の見直しに当たっては、「(1)全国的にみれば検出率は低い物質(項目)であっても、地域、原水の種類、又は浄水方法により、人の健康の保護又は生活上の支障を生ずるおそれのあるものについては、すべて第4条の水質基準項目として設定する。(2)一方で、すべての水道事業者に水質検査を義務付ける項目は基本的なものに限り、その他の項目については、各水道事業体の状況に応じて省略することができることとする。」との新たなシステムを導入することとしたところである。
従って、まず、それぞれの水質基準項目について、水質検査の省略の可否を検討する必要があるが、この点については、表1に示すところであり、ここでは、水質検査を省略しないこととされた、という前提で話を進めることとする。
現行で毎月1回の検査が必要とされている項目は、「一般細菌、大腸菌群、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素、塩素イオン、有機物等(過マンガン酸カリウム消費量)、pH、味、臭気、色度、濁度」の10項目であるが、これらの項目は病原微生物の混入を疑わせる指標と考えられている項目である。
いうまでなく病原微生物については、長期的な暴露よりも短期的な高濃度暴露が問題となる。従って、年平均値のような長期暴露指標を得ることよりも、なるべく頻度の高い検査が求められることとなる。このような観点に立てば、これらの項目については、基本的に現行の考え方を踏襲すべきであると考えられる。
ただし、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素については、これまでの原水及び浄水の検査データからみれば、その変動はあまり大きくなく(データ整理中)、病原微生物汚染の指標的性格は薄いものと考えられ、他の健康に関する項目と同等の扱いをしてよいものと考えられる。
また、塩素イオン以下の7項目については、浄水場等の運転管理の必要上、自動監視装置あるいは日常点検により監視されていることも多いと考えられることから、そのような場合には、季節変動を考慮して年4回程度まで検査頻度を下げてもよいと考えられる。
上記の項目以外の項目については、これまでも一定の要件を満たす場合には年4回以上又は年1回以上まで検査頻度を下げることができるとされているが、今回行った原水及び浄水の検査データの結果を見れば、季節変動を考慮して年4回以上の検査を行えば、毎月1回の検査と同等の成績が得られることが明らかとなった(データ整理中)。
このことから、本専門委員会としては、上記の項目以外の項目に関する検査頻度として、以下のとおり提案する。
1) | 原則として検査頻度を年4回以上とすること | ||||||||
2) | 過去3年間における検査結果がいずれも基準値の2/10以下の場合であって、原水等の変動による汚染のおそれがないときは年1回以上に検査頻度を下げることができること | ||||||||
3) | 過去3年間における検査結果がいずれも基準値の1/10以下の場合であって、原水等の変動による汚染のおそれがないときは3年に1回以上に検査頻度を下げることができることと | ||||||||
4) | 次の場合には、上記2)及び3)は適用しないこと。
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なお、鉛、亜鉛、鉄など水道用資機材・薬品に含まれている項目、消毒剤及び消毒副生成物である項目については、水質管理上の重要性から上記2)以下の例外は適用しないこととする。また、ジェオスミン及び2-メチルイソボルネオールについては、藻類等の産生する異臭物質であり、短期的に影響を及ぼす物質であることから、水源にこれらの物質を産生する藻類等が発生する時期を選んで月1回以上の頻度で検査を行うこととする。
各水道事業者等における検討の結果、水質検査を省略するとされた項目についても、水道水質の状況の変化がないことを定期的に確認するため、少なくとも3年に1回程度の頻度で水質検査を行う必要があるものと考えられる。
以上をまとめると、表2のとおりである。
給水開始前の水質検査は、配水施設以外の水道施設又は配水池の新設、増設又は改造した場合に、給水開始前に行う検査であり、現行の規定では、水質基準全項目及び残留塩素の検査を行うべきこととされている。
また、臨時の水質検査は、以下のような場合に行われる水質検査であり、現行の規定では、水質基準全項目について検査を行うこととされている。(ただし、定期検査と同様の省略可能規定がある。)
1) | 水源の水質が著しく悪化したとき。 |
2) | 水源に異常があつたとき。 |
3) | 水源付近、給水区域及びその周辺等において消化器系伝染病が流行しているとき。 |
4) | 浄水過程に異常があつたとき。 |
5) | 配水管の大規模な工事その他水道施設が著しく汚染されたおそれがあるとき。 |
6) | その他特に必要があると認められるとき。 |
これらについては、現在の目からみても変更を加える理由は認められず、この考え方を踏襲することが適当である。
なお、この場合において、採水地点及び地点数等については、定期の検査に準じて選定されるべきであること、さらに、必要に応じて水源、配水池、浄水池等における水質についても検査することが望ましいことに留意すべきである。
3.水質検査の結果の評価・対応
水質基準は、(1)水道により供給される水(基本的に給水栓を出る水)が満たすべき水質上の要件であり、(2)水道により供給される水すべてについて満たされる必要がある。従って、いかなる項目についても、その検査の結果、基準を超えている場合には、直ちに原因究明を行い、基準を満たす水質を確保するために必要な対策を講じなければならない。
なお、水質検査の結果に異常が認められた場合には、確認のため、直ちに再検査を行うこととし、そのための予備試料を保存しておくべきである。
一般細菌及び大腸菌群については、その水道水中の存在状況は病原微生物による汚染の可能性を直接的に示すものであるので、それらの評価は、検査ごとの結果を基準値と照らし合わせて行うべきであり、基準を超えている場合には、水質異常時(参考資料参照)とみて直ちに所要の措置を講ずる必要がある。
また、塩素イオンなど病原微生物の存在を疑わせる指標としての性格も有する項目(上記2.3.1参照)についても、その性格からみて、その値が大きな変動を示した場合には、上記に準じて対応する必要がある。
シアン及び水銀については、生涯にわたる連続的な摂取をしても、人の健康に影響が生じない水準を基とし安全性を十分考慮して基準値が設定されているが、従前からの扱いを考慮して、上記3.2に準じて対応をとることが適当である。
健康に関する項目については、長期的な影響を考慮して基準設定がなされているが、検査ごとの結果の値が基準値を超えていることが明らかになった場合には、直ちに原因究明を行い所要の低減化対策を実施することにより、基準を満たす水質を確保すべきであり、基準値超過が継続すると見込まれる場合には、水質異常時とみて所要の対応を図るべきである。
また、性状に関する項目については、その基準値を超えることにより利用上、機能上の障害を生じるおそれがあることから、検査ごとの結果の値を基準値と照らし合わせることにより評価を行い、基準値を超えていることが明らかになった場合には、水質異常時とみて所要の対応を図るべきである。
(参考)水質異常時における対応(平成5年12月1日付け衛水第227号) 2 水質異常時の対応
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4.終わりに
これまで水質基準の適合を確認するための水質検査について検討してきたが、水道水質の管理上、原水の監視はそれにも増して重要である。従って、定期、臨時及び給水開始前の水質検査に当たっては、これらに準じて原水の水質検査を行うべきであり、水道事業者等に対し、これを積極的に求めていくべきである。
表1 水質検査項目の省略指針(試案)
本指針(試案)は、水質基準の柔軟な運用との方針を踏まえ、各水道事業者等が水質検査の省略を検討するに当たっての指針を示したものである。
1.水質検査を省略することのできない項目
病原微生物に関連する項目、水道水の基本的要素に関する項目、消毒剤及び消毒副生成物である項目については、検査を省略することはできない(臭素酸については、オゾン処理を行っている場合又は次亜塩素酸による消毒を行っている場合に限る。)。
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2.水道用資機材・薬品からの溶出・付加を考慮すべき項目
以下の項目については、水道用資機材・薬品からの溶出・付加について十分な検討が行われた上でなければ検査を省略してはならない。
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3.地下水を水源とする場合に考慮すべき項目
地下水を水源とする場合においては、以下の項目について十分な検討が行われた上でなければ検査を省略してはならない。
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4.停滞水を水源とする場合に考慮すべき項目
湖沼その他停滞水を水源とする場合においては、以下の項目について十分な検討が行われた上でなければ検査を省略してはならない。
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5.海水淡水化を行う場合に考慮すべき項目
海水の淡水化を行う場合には、ほう素に係る水質検査を省略してはならない。 |
6.その他原水の状況等を考慮すべき項目
上記以外の項目については、検査の省略に当たっては、原水の状況等を十分考慮しなければならない。
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7.留意事項
上記2〜6に掲げる場合に該当しない場合であっても、現に過去に基準値の5/10を超えて検出されたことがある項目については水質検査を省略してはならない。 |
区分 | 水質基準項目 | 採水地点 | 採水地点数 | 検査頻度 | 備考 | |
健康に関する項目 | 病原微生物 | 一般細菌、大腸菌 | 月1回 | |||
金属類 | カドミウム、水銀、セレン、ひ素 | (1) | 年4回(2) | |||
鉛、六価クロム | 年4回 | 滞留水(鉛) | ||||
無機物 | シアン、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素、ふっ素、ほう素 | (1) | 年4回(2) | |||
有機物 | 四塩化炭素、1,4-ジオキサン、1,1-ジクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、ジクロロメタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ベンゼン | (1) | 年4回(2) | |||
消毒剤・消毒副生成物 | 塩化シアン、臭素酸、クロロホルム、ジブロモクロロメタン、ブロモジクロロメタン、ブロモホルム、総トリハロメタン、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、ホルムアルデヒド | 年4回 | ||||
性状に関する項目 | 金属類 | 亜鉛、アルミニウム、鉄、銅、マンガン | 年4回 | |||
無機物 | ナトリウム、硬度、蒸発残留物 | (1) | 年4回(2) | |||
有機物 | 陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、フェノール類 | (1) | 年4回 | |||
ジェオスミン、2-メチルイソボルネオール | (3) | |||||
その他 | 塩素イオン、有機物(TOC)、pH、味、臭気、色度、濁度 | 月1回(4) |
注1) | 送配水システム内で濃度が上昇しないことが確認される場合には、給水栓に代えて、浄水場の出口等送配水システムの流入点において採水することが可能。 |
注2) | 一定の要件を満たす場合には、年1回以上又は3年に1回以上に検査頻度を減らすことが可能。 |
注3) | これらの物質を産生する藻類等の発生時期に併せて月1回以上測定。 |
注4) | 一定の要件を満たす場合には、年4回以上に検査頻度を減らすことが可能。 |