2003,2,10
看護師等によるALS患者の在宅療養支援に関する分科会
関係団体ヒヤリング
財団法人 日本訪問看護振興財団
担当者:常務理事 佐藤美穂子
ALS患者の方から「吸引をホームヘルパーにさせて欲しい」という要望が上がっていることについて、現行制度では私どもが十分対応できてないと思われることに大変心を痛めています。ALS患者の吸引は、一人ひとり個別で、その時々に状況判断が求められる難易度の高い看護です。ALS患者の方が安心して家庭で療養が続けられるように、また、24時間365日付き添っていらっしゃるご家族のご負担を軽減するためにはどうすればよいか、訪問看護体制や制度について検討され、改善が図られるように切に望んでいます。
1 訪問看護の現状
○ | 訪問看護ステーションは全国で約5,000ヶ所、30万人の方が利用されるまでになり、この10年間の伸びは著しいものがあります。 | |
○ | しかし、日本の在宅医療はやむを得ずご家族が医療処置を行うことを前提としてなりたっており、在宅医療体制の整備が十分されてこなかったことを残念に思います。訪問看護サービスは、訪問看護ステーションの2ヵ所併用が平成14年4月からできるように拡充されましたが、サービス量として不十分と思います。必要なだけ訪問看護をご利用できるようにサービスを早急に充実させたいと考えます。 | |
○ | 訪問看護ステーションは4〜5人の看護師等が運営している小規模事業所であり、要介護4,5の方を多くケアしています。毎日訪問するALS患者の方には、24時間体制でボランティアとなることも多く、体力的に厳しい状況になり、開設母体から「赤字になるから」と止められることもあると聞いています。訪問看護ステーションの規模拡大や病院の訪問看護との協働が望まれます。 |
2 連携
○ | 在宅ALS患者の支援は医療依存度が高いため、介護保険のケアマネジャーより保健師か看護師がケアのマネジメントを行う方が適しているのではないかと考えます。介護保険制度が始まってから、ケアマネジャーがいるため、難病にかかわる保健師の役割が後退しているとの声が聞かれます。ALS患者のケアは介護ではなくて医療保険がベースになる在宅医療であり、地域の支援ネットワークづくりやチームケア体制を強化するために、もっと積極的に保健所の保健師が行政の立場からかかわり、潜在看護師を含めて訪問看護等看護職の活用を図る必要があると考えます。 | |
○ | 医療ニーズがある患者でも訪問看護がケアプランに入らないことがあります。訪問看護と訪問介護の協働を強化して、それぞれの専門性を発揮し、ALS患者のQOLを高める必要があります。ホームヘルパーは医療行為行わない職種であるため、より頻回に訪問するホームヘルパーと訪問看護師の情報交換を密にしてチームケアを充実させる必要があります。 |
3 吸引の危険性
○ | ALS患者の方は、様々な病状の変化があり一人ひとり状態が異なる特徴があります。吸引により引き起こされる合併症やリスクも多く、医学・看護学の知識・技術に基づいた個別の判断力が必要です。現状でホームヘルパーの養成課程から考えて、命にかかわる行為をホームヘルパー一般の業務として拡大することは難しいと考えます。患者自身の要望や、その方にあった吸引の仕方があるので、家族のように特別のなじみの関係で長く付き添える方が必要となってきます。ホームヘルパーが誰でも「業」として行うケアではないと考えます。 |
4 対応案
○ | 訪問看護師が専門的な呼吸ケアと吸引を行うことで、吸引回数が減ったり、感染症を起こすことが少なくなったなどのデータがあります。訪問看護師がフットワークよく動けるように活動や判断の幅をもたせてください。ご家族の休める時間を確保するために訪問看護体制の工夫も不可欠と考えます。さらに、人工呼吸器を装着された方に質の高い、納得されるケアが提供できるように研修等で技術を強化したいと考えています。また、唾液の自動吸引機のような機器も補完的に使うことで、ご本人の精神的負担が軽減されるのではないでしょうか。今後、機器の開発も積極的に進めていただきたいと希望します。 | |
○ | 訪問看護師もホームヘルパーも自分の仕事にプロとしての誇りを持って専門性が発揮できることが利用者の利益につながると考えます。サービスの質の向上が課題となっている現在、訪問看護サービスが足りないからと、その改善のために汗をかくことなく、結論を出されることのないように慎重に取り扱っていただきたいと考えます。 |
参考資料 1
訪問看護業務の難易度
介護保険の導入を展望した訪問看護業務分析に関する研究
(平成10年度厚生省老人保健健康増進等事業)
|
* | 全国で訪問看護を実施している5年以上のエキスパート看護師104人に対し、訪問看護のケア内容130項目の難易度を調査した結果である。 |
ケアの小分類 | 難度得点 | ケアの小分類 | 難度得点 | |
1 在宅人工呼吸療法 | 2.51 | 66 社会資源利用 | 1.44 | |
2 酸素供給器、人工呼吸器等の管理 | 2.5 | 67 食事療法 | 1.43 | |
3 連続携帯式腹膜透析(CAPD) | 2.45 | 68 出血 | 1.43 | |
4 在宅中心静脈栄養法 | 2.27 | 69 生活意欲 | 1.42 | |
5 呼吸リハビリ・肺理学療法 | 2.22 | 70 褥瘡処置 | 1.42 | |
6 疼痛コントロール | 2.21 | 71 呼吸(音) | 1.42 | |
7 ヘパリンロック | 2.19 | 72 日常生活動作 | 1.41 | |
8 死の準備教育 | 2.19 | 73 皮膚感覚・知覚状態 | 1.41 | |
9 心肺蘇生・応急処置 | 2.18 | 74 脱水状態 | 1.4 | |
10 悲嘆 | 2.13 | 75 浮腫 | 1.4 | |
11 特異(問題)行動 | 2.06 | 76 経済・金銭管理状態 | 1.39 | |
12 肺ガス交換・換気状態の評価 | 2.01 | 77 歩行 | 1.38 | |
13 虐待 | 2.01 | 78 味覚状態 | 1.38 | |
14 発語 | 1.99 | 79 尿失禁 | 1.38 | |
15 精神的苦痛緩和 | 1.99 | 80 注射(皮下・皮内・筋肉内・静脈内) | 1.38 | |
16 在宅酸素療法 | 1.97 | 81 栄養補助品 | 1.37 | |
17 痴呆の状態 | 1.95 | 82 喫煙習慣 | 1.37 | |
18 人工肛門 | 1.92 | 83 服薬後の症状 | 1.36 | |
19 住宅改造 | 1.9 | 84 睡眠障害 | 1.35 | |
20 認知能力 | 1.88 | 85 栄養状態 | 1.35 | |
21 気管切開部ケア | 1.88 | 86 移乗(ベットー車椅子、車椅子ー) | 1.34 | |
22 せん妄の状態 | 1.86 | 87 ベット上可能性(起居・座位等) | 1.32 | |
23 終末期兆候・危篤 | 1.85 | 88 脈拍 | 1.32 | |
24 持続皮下注入 | 1.81 | 89 家族の健康状態 | 1.31 | |
25 褥瘡(レベルII以上)の処置 | 1.8 | 90 嘔吐・嘔気 | 1.28 | |
26 気管内吸引 | 1.8 | 91 尿量 | 1.27 | |
27 身体的苦痛緩和 | 1.78 | 92 汚染処置 | 1.27 | |
28 憂うつ | 1.77 | 93 介護者の健康状態 | 1.25 | |
29 情緒 | 1.77 | 94 排尿状態 | 1.25 | |
30 家族関係 | 1.74 | 95 皮膚保護 | 1.25 | |
31 運動療法 | 1.73 | 96 水分補給 | 1.23 | |
32 飲酒習慣 | 1.73 | 97 循環促進のマッサージ | 1.22 | |
33 心音 | 1.72 | 98 食事摂取(朝・昼・タ・間食) | 1.21 | |
34 見当識の状態 | 1.7 | 99 便失禁 | 1.21 | |
35 意識障害 | 1.7 | 100 採血 | 1.21 | |
36 孤立感 | 1.68 | 101 居室内環境 | 1.2 | |
37 嚥下状態 | 1.67 | 102 下痢 | 1.2 | |
38 聴力・補聴器具 | 1.64 | 103 興味・楽しみ | 1.19 | |
39 不安感 | 1.62 | 104 血圧 | 1.18 | |
40 コミュニケーション状態・意欲 | 1.61 | 105 寝床・周囲環境 | 1.17 | |
41 対人関係 | 1.59 | 106 バイタルサインズ測定器具 | 1.16 | |
42 膀胱留置カテーテル | 1.59 | 107 薬剤使用状況 | 1.16 | |
43 創傷処置 | 1.58 | 108 摘便 | 1.15 | |
44 介護者の精神状態 | 1.58 | 109 体温 | 1.15 | |
45 チアノーゼ | 1.57 | 110 排便状態 | 1.14 | |
46 経管栄養(胃瘻・腸ろう含む) | 1.56 | 111 グリセリン浣腸 | 1.14 | |
47 感染部位のケア | 1.56 | 112 入浴 | 1.13 | |
48 緊急連絡 | 1.56 | 113 採痰 | 1.12 | |
49 視力・視覚補助器 | 1.55 | 114 おむつ交換 | 1.11 | |
50 気分の落ち込む | 1.55 | 115 各IADL動作 | 1.1 | |
51 感染予防(MRSA・疥癬・肝炎) | 1.55 | 116 歯磨き・口腔ケア | 1.1 | |
52 介護力 | 1.54 | 117 採尿 | 1.1 | |
53 役割遂行維持 | 1.52 | 118 採便 | 1.09 | |
54 排痰の促進 | 1.51 | 119 家事援助 | 1.09 | |
55 点滴注射(静脈内) | 1.51 | 120 罨法 | 1.08 | |
56 導尿 | 1.48 | 121 陰部浴・陰部洗浄 | 1.07 | |
57 膀胱注射 | 1.48 | 122 洗髪 | 1.06 | |
58 自己注射 | 1.48 | 123 計測(身長・体重・腹囲など) | 1.06 | |
59 副介護者 | 1.47 | 124 全身清拭 | 1.05 | |
60 転倒予防 | 1.46 | 125 更衣 | 1.04 | |
61 吸引 | 1.46 | 126 部分清拭 | 1.03 | |
62 介護知識 | 1.46 | 127 手指浴・足浴 | 1.03 | |
63 サービス導入意思 | 1.46 | 128 洗面介助 | 1.02 | |
64 安楽な呼吸 | 1.45 | 129 寝具・リネン | 1.02 | |
65 血糖測定 | 1.45 | 130 整容 | 1.01 |